『 しあわせ色 ― (2) ― 』
もう随分前に太陽は地平線に没したはずなのに、辺りはまだ十分に明るかった。
それがこの星の特性なのだろう、 夜の帳が下りてくるまでにはまだかなり時間がありそうだ。
地球でいうならば 黄昏時 なのだろうか。
辺りの空気全体が うすむらさき色を帯びてきていた。
― カツン ・・・!
フランソワーズのブーツが 小石を蹴飛ばした。
「 ・・・ う〜ん・・・白夜ともちがうわね・・・ 不思議な空の色ね ・・・ 」
初めて眺める光景に きょろきょろしつつ彼女は小高い丘を前にやってきた。
「 ジョー・・・・どこまで行ったのかしら。
う〜ん・・・・キレイな夕方の空ねえ。 一緒に散歩くらいしたかったのに・・・ 」
その丘は古い神殿の遺跡のようにも見えた。 ギリシアかローマに似ていないこともない。
ゆっくりと崩れかけた石段を登ると ― 視界が開けた。
丘の下には市街地が広がっていた。
「 わあ ・・・・ きれいね・・・・ あら? 」
前方に見慣れた人影が あった。
「 ・・・ ジョー。 こんなところに居たのね。 ジョー・・・・・ !? 」
手を振り、声上げようとして 足がとまった。
彼は 一人ではなかった。 ぴたりと寄り添う人影があった。
夕風にキレイな薄紫のドレスの長い裾が揺れている ・・・
「 ・・・ 誰? 」
フランソワーズは 自然に柱の陰に身を寄せた。
二人は ゆっくりこちらにやってくる。
恋人同士hがお喋りを楽しみつつ散歩している、といった風情だ。
・・・ あんな仲良く寄り添って・・・
ジョー ・・・ そんなヒトが ・・・ いるの??
なぜか足がまったく動かない。 彼女は柱の影で息を詰めて見つめている。
唇を噛んでいたのは ― 泣き声を漏らさないため・・・
「 ・・・ ふふふ ・・・ お上手ねえ ・・・ 」
「 いやぁ 本心ですよ。 ぼくは貴女のようにしっとり女らしいヒトが好きなんです。 」
「 またまた・・・ 将来を誓った方がいらっしゃるのでしょう? 」
「 ・・・ 誓いなど ・・・ 貴女の前には色褪せて 」
「 誓いをお破りになるの? 」
「 ― ああ。 貴女のためなら・・・地獄に堕ちてもいい・・・! 」
「 本当に・・・? この星の王として、そしてわたくしたちの・・・子供たちの親として・・・
誓ってくださいますか ・・・ 」
「 君の微笑みのためなら ― 」
「 やめて やめて〜〜〜 ! 」
≪ 次は 〜〜 〇〇一丁目 〜〜 ≫
「 ・・・!? 」
は・・っと気がつけば。 ― メトロの中だった。
「 あ ・・・ え?? あ ああ お 下りなくちゃ・・・! す すみません〜〜 ! 」
フランソワーズは 慌てて大きなバッグを網棚から降ろすとドアに突進した。
「 ・・・ はあ 〜〜 ・・・ 」
階段を駆け上がり地上に出て ― フランソワーズは大きく溜息を吐いた。
「 ・・・ もう〜〜〜 わたしったら〜〜〜 ・・・・ はぁ・・・ 」
乗換えたメトロが案外空いていて 珍しく座ることができた。
ほっとして つい・・・居眠りをしてしまったらしい。
「 やだわ・・・ あんな夢 見て・・・! なんだってあんな ・・・ 」
よいしょ・・・っとバッグを肩に歩き出し、 あまり楽しくないがさきほどの夢を思い出してみた。
「 知らない場所 だったわ。 大気がちょっと薄紫で・・・地球じゃないみたい、だった・・・
あんなトコ、行ったこと・・・ ないわよねえ・・・ 」
朝の風が 嫌な汗をすこしづつ飛ばしてくれている。
いつもの道を歩きつつ フランソワーズはまだ上の空だった。
「 あのヒト ・・・ 誰だろ。 キレイなヒトだったわ・・・ シックな口紅が似会う・・・
ジョーって ・・・ ああいうヒトが好みなの?? 」
「 おっはよ〜〜〜 フランソワーズ! 」
ぽん・・・っと背中を叩かれた。
「 あ ? ― みちよ〜〜 おはよう〜〜 」
「 あれ? どしたの〜〜 なんか声、ヘンだよぉ? 」
「 ・・・え そ そう? えへ・・・ちょっとメトロで居眠りしちゃってね〜
あぶなく降り損ねるトコ だったの。 」
「 あは・・・ フランソワーズも案外ドジなんだね〜 」
「 うふふふ・・・ わたしあわてん坊よ〜〜 コドモの頃もよくワスレモノしたし。 」
「 へえ〜〜〜 うふふ・・・なんだかますますフランソワーズ、好きになったよ〜 」
「 え・・・えへへへ・・・ そう? 」
「 ウン。 優等生のイイコじゃないってわかったから〜〜 」
「 あはは ・・・わたし、落ちこぼれよ〜ぅ♪ だから がんばるの〜 」
「 そだね〜〜 あ 急ごうよ〜 」
「 うん♪ 」
亜麻色の髪と黒髪は 笑い声を響かせ駆け出していった。
そうよ ―! あれは ・・・ 夢。
電車の中で居眠りしちゃって ・・・ 見たイヤな夢 よ・・!
そうよ ― ほら オデットの気持ち とか考えてたから・・・・
ジョーがわたしを裏切るなんて ― ジョーは王子とはちがうわ。
ええ わたし達はハッピー・エンド なの〜〜♪
ひゅるるん 〜〜〜 気の早い秋風が まだ青い街路樹の葉をゆすった。
「 えっと・・・・? ジャガイモはこの前美味しいのを届けてもらったし。 お肉、買って〜〜♪ 」
フランソワーズは 頬を紅潮させ稽古場から飛び出してきた。
レッスンを終え 昂揚した気持ちで足取りも軽く、昼過ぎの街を通り過ぎてゆく。
「 今夜は肉じゃが・・・って約束したものね♪ ふんふんふ〜〜ん♪
えっとあとは〜〜 ・・・ あ 美味しいバゲットが欲しいわ。
そうだ ちょっと時間あるから・・・青山のあのパン屋さん、よってこ。 」
ふんふんふ〜〜ん♪ ハナウタ交じりに亜麻色の髪の乙女は幸せ一杯・・・らしい。
「 オデットさんだって〜〜 結局はハッピー・エンドだものね♪ 」
目的のパン屋で こんがり狐いろのバゲットを買い、ついでに焼きたてクロワッサンも買った。
「 う〜〜ん ・・・ いい香り。 ・・・ふふふ・・・ パリのあの店、まだあるのかな・・・ 」
懐かしい風景が浮かび ハナの奥がつん・・・としてしまった。
「 ・・・ だ 大丈夫よ お兄ちゃん ・・・ わたし、幸せだもの。 ねえ ジョー ・・・ 」
自然と足取りも緩やかになってウィンドウ・ショッピングをしていた。
午後の大通り、 ショッピングを楽しむ人々はゆったりと歩いている。
「 ・・・ キレイなお店ばっかり・・・ 見ているだけでも楽しいわね。
あら あのキラキラしているのは ― スワロ〇スキー・・・! わあ〜・・・ 」
フランソワーズはショーウィンドウに張り付き、しげしげと見つめている。
「 ステキ ・・・! こんなの、ひとつ、欲しいなあ〜・・・ あ 白鳥がある〜〜
か 買えるかしら・・! う うわ〜〜 この値段 ・・・・とっても無理ねえ・・・でも キレイ・・・! 」
ほう〜っと溜息をつきつつ 彼女はキラキラを眺めていた。
― シュ ・・・!
「 ― ありがとうございました・・・! 」
自動ドアが開き 店内から男性が一人バカ丁寧なお辞儀に送られて出てきた。
「 ? ・・・・ え ・・・ ジョー ・・・?? 」
ショーウィンドウのすみっこに張り付いている彼女に気がつくはずもなく、彼はパーキングに
向かって歩いていった。 大事そうに小さな包みを抱いたまま・・・
「 ジョー・・・! もしかして ・・・ 買ってくれたの? え〜〜 ウソォ〜〜♪ 」
そっと近づいて 驚かせようと彼女は足音を潜め彼を追った。
「 ・・・ ジョー・・・ うふふふ・・・ ちょっとまって〜〜 」
ジョーはすたすたと愛車に近づき ドアを開け ―
・・・ フランソワーズはまたも凍り付いてしまった。
「 ジョー・・・ え・・・! だれ、あのオンナのヒト? 」
― 後部座席に 若い女性が いた・・・!
「 そ ・・・ そんな。 ジョーが ・・?? 」
フランソワーズの足はぴたり、と止まり―よく知っている車が通りすぎてゆくのを呆然と見送っていた。
ジョーはその包みをそっと差し出した。
「 ほら これ。 君にって思って。 」
「 まあ なにかしら。 」
「 開けてごらん。 これは君のために生まれたようなものですよ。 」
後部座席にいた少女は 今や助手席に移り頬を染めて包みを開く。
「 ・・・・ まあ スワ〇フスキー の これは花・・・ 薔薇ね? 」
「 ご名答。 王女様、今日の冒険の記念です。 」
「 記念 ・・・? 」
「 そうです。 さあ これをプレゼントしますから、どうぞもう宮殿にお戻りください。 」
「 ・・・え ・・・ 」
「 お転婆お姫さま。 今日は楽しい一時をお過ごしになれましたか。 」
「 ミスター・シマムラ ・・・ 」
「 ジョー ですよ。 」
「 ごめんなさい、 ジョー。 あとひとつ・・・ お願いがあるの。 」
「 え ・・・ まだ遊びたいのですか? 」
「 遊び・・って。 あの ・・・ 踊りに行きたいの。 」
「 踊り!? ・・・ いやあ〜 ごめん・・・ ぼく、踊りはダメなんだ・・・
とても君をリードできないよ。 」
「 あら リード・・・って・・・ ふふふ、ソシアル・ダンスじゃありません。
あのね、一回 ディスコって行ってみたかったの! 」
「 デ ディスコォ〜〜〜 そりゃまああれもダンスだけど
きみは踊れるのですか ? 」
「 ううん 全然。 でも大丈夫よ、きっと。 皆とおなじように動いていれば・・・ 」
ねえ だめ? と見上げる瞳に ジョーなど勝てるわけはない。
「 仕方のないお姫さまだなあ・・・ 」
ジョーは苦笑しつつ、カーナビを操作している。
「 え〜と ・・・? あ ここなんかいいかもなあ・・・ うんうん ・・・ 」
「 あら! いいお店がみつかったの? さすがね、ミスター・シマムラ 」
「 ああ もう・・・・ お姫サマには敵わないなあ〜 それじゃ行きましょうか。
それで本当にこれで お終いですよ? いいですね。 」
「 はい ・・・ その代わり・・・ 」
「 ? その代わり? 」
「 ・・・ こいびと になって ・・・ ね キス して 」
「 キャシ − ・・・・ 」
「 ― だめよ! そんなこと だめよっ ! 」
「 ・・・・?? 」
「 ・・・ あの ・・・? 」
「 あ。 ご ごめんなさいっ ・・・! 」
はっと気がつけば ・・・ 通りすがりの人がじろじろと見ていた。
「 やだ・・・! わたしったら・・・! 」
フランソワーズはあわててそのキラキラなショーウィンドウの前を離れた。
どうも ぼーーーっと眺めつつ白昼夢の世界に遊んでいたらしい。
「 ・・・もう・・・どうかしてるわ、わたしってば。 ああ イヤね、なんてこと・・・・
でも。 でも ・・・ ジョーの車に乗っていたあのヒトは・・・ 」
ぽつん ・・・ 足下に水玉が落ちた。
「 ・・・ やだ・・・ こんなトコで泣いてたってどうしようもないじゃない・・・ 」
ハンカチで涙を押し込め、フランソワーズは大きなバッグを持ち直した。
「 ・・・ 帰ろ。 フランソワーズ・・・あんたにはちゃんと帰るお家があるのよ・・・ 」
ついさっきまでの明るいのんびりした午後が ・・・ 別世界にみえる。
カツン カツン カツン ・・・
「 ・・・ やっぱりここは知らない国の しらない街 なのよ。
友達も 近所のおばちゃんやタバコ屋のおじさん ・・・ 誰も いない ・・・ 」
足下の舗道が 乾いた音をたてる。
「 この道 ・・・ きらい。 でこぼこしてても石畳がいいのに ・・・
外にカフェがないわ ・・・ こんなによいお天気なのに どうして皆屋内に閉じ篭っているの
カップルばっかり ・・・ 皆 仲良しね あら ハトさん・・・ ハトさん達もカップルなのね・・・
わたし ・・・ わたし ・・・ 」
「 ― 危ないですよ、前をみてあるかないと。 お嬢さん ・・・いえ 若奥さん 」
目の前に バレエ団の若手プリンシパルの青年が立っていた。
「 !? ・・・ あ ・・・ タケシ君 ・・・じゃなくて加藤さん ・・・ 」
「 タケシでいいよ、若奥さん 」
王子役の青年は 気さくな笑顔をみせてくれた。
「 ・・・若奥さん はやめて。 スタジオと一緒で フランソワーズ よ。 」
「 これは失礼。 ・・・ さ こっちおいで。 泣きながら歩くってあんまし感心しないよ? 」
「 え・・・ あ ・・・ やだ・・・ 」
フランソワーズはハンカチをひっぱりだすと慌てて涙をぬぐいそそそ・・・っと髪を撫でた。
「 さあ 送ってゆくよ。 君の家はどこだっけ? 」
青年はそっとフランソワーズの背に手を回した。
「 ・・・ ごめんなさい・・・ みっともないですよね、わたし ・・・ 」
「 別にみっともなくないさ。 誰だって泣きたい時ってあるもんな。 オトコだってもさ。 」
「 あら タケシさんでも? 若手のプリンシパルさんが ・・・ 」
「 よせって。 プレッシャーもやっかみも山ほどって な。 ま 気にしちゃいないけど。 」
「 まあ すごいのねえ・・・ 」
「 ふふん 俺って鈍感なの。 お蔭で何回振られたことか・・・
あ そんなことより ・・・ 送ってゆくよ? 車、向こうのパーキングなんだ。 」
「 ありがとう。 でもね 私の家、 とっても遠いのよ。 だからメトロの駅まででいいわ。 」
「 遠いって・・・どこさ。 まさかパリの実家、なんて言うなよ? 」
「 まあ・・・ うふふふ・・・ パリの家までご一緒してくださる?
うふふ・・・ ウチはね、メトロからJRに乗換えて・・・ F市なのよ。 」
「 F市ぃ?? うへえ・・・めっちゃ遠くね? 」
「 もう慣れちゃった。 だから駅まででいいわ。 ありがとう〜〜 タケシ君 」
「 ほんとうに それでいいのかい。 」
「 ええ。 ・・・ あの ・・・ ありがとう! 声、かけてくださって・・・ 」
「 いや〜〜 僕の白鳥姫が その・・・泣いてるのは見過ごせないからね。
誰かにいじめられたのかい。 」
「 ・・・ ううん ・・・ なんでもないの。 ちょっと・・・センチメンタルになってただけ・・・
もう・・・ 平気! ね ほら? 」
フランソワーズは にっこり微笑んでいる。
青年は かの顔をほれぼれと眺め ― きゅ・・・っと手を握った。
「 ああ やっぱり ・・・ 君ってなんてステキなヒトなんだ・・・!
君と グラン・アダージョが踊りたかったな〜〜 」
「 だめよ〜〜 わたし、リエさんみたく上手じゃないの。
四幕でご一緒できるだけで 光栄です、 王子様。 」
フランソワーズは気取って ― 軽くレヴェランスをしてみせた。
「 そうそう そうやって笑っている方がず〜〜〜っと可愛いよ? 」
「 え ・・・ あ あら・・・ 」
「 な? もし 時間、オッケーなら ちょっとだけでもお茶してかないか。
その ・・・ あ〜〜 化粧とか 直したら? 」
タケシは つんつん・・・と自分の眼の周りをつついた。
「 ・・・え !? 」
フランソワーズはあわててバッグから小さな鏡を出した。
「 ・・・ やだ・・・! ぱ ・・・ パンダになってる〜〜〜 」
「 ごめん・・・ 余計なこと、言って・・・ 」
「 ううん〜〜 ありがとう、タケシ君。 じゃ あの ・・・ちょっとだけ・・・ 」
「 うわお♪ じゃ ・・・ 近いトコでそこの スタ〇 でどう? 」
「 ええ もちろん〜〜 いや〜ん この顔で歩いてたの〜〜 わたし・・・ 」
フランソワーズはタケシの背に隠れる恰好でカフェに入っていった。
「 ― あれは ・・・ フランソワーズ だよな? 」
ジョーは信じられない面持ちだった。
仕事を終らせ もう一度、あの店に戻ってきたところだった。
スワ〇フスキーの煌きは さすがにジョーの心も捉えたらしい。
フランにも ・・・ 買ってやりたいな ・・・・
ちょっと高いけど ・・・
うん、でも結婚のプレゼント、なんにもしてないもんな
さっき見たあの白鳥! あれを ・・・
「 ふんふんふ〜〜ん♪ あれをプレゼントした時のフラン・・・どんな顔するかなあ
ようし 決めた! あれ・・・買うぞ! 」
パーキングに車を止め、ジョーは勇んで店の前までもどってきた。
「 ― うん? 」
少し先の舗道を亜麻色の髪を揺らした女性が歩いてゆく。
彼女は側をゆく背の高い、すらりとした青年にぴたり、と寄り添っている。
「 へえ・・・ フランとよく似た髪の色だよなあ〜〜
― え。 あのTシャツ ・・・・ 今朝彼女が着てたヤツだよね?
・・・ う ふ フラン ??? 」
フランソワーズだって友人とカフェに入ったりするだろう。
仕事の打ち合わせもあるだろうし、同じカンパニーの友人同士、お茶を飲むこともあるだろう。
「 ・・・ そ そうさ。 結婚したからって他のオトコとしゃべるな、なんて言わないぞ ぼくは。 」
ジョーは きゅ・・・っと拳を握った。
「 そ うさ・・・・ けど。 けど ― 」
― だけど。
さっきの二人はぴたりと寄り添っていた。 おまけに ちらっと見えたが
彼女はハンカチで顔を半分隠して ・・・ 泣いた目をしていた。
「 ・・・ フランソワーズ ・・・・! な なんで なんでなんだ・・・?! 」
ジョーの脚はぴたり、と止まりしばらく呆然と二人の後を見送っていたが ひっそりと踵をかえした。
「 ・・・ きっと なにか ・・・ し 仕事のことなんだ。 そうだよ 絶対に。
ぼ ・・・ぼくは 信じてる! フランのこと ― そうさ、疑ったことなんか ないからな! 」
懸命に言い聞かせているのは 彼自身にたいして、だった。
「 ・・・ フラン ・・・ このごろすごくキレイだから なあ・・・
なんだってあんなにキレイになったのかな。 ・・・ こ 恋 ・・・とか?? 」
ジョーのアタマの中は どんどんマイナーな方へ転がってゆく。
「 ・・・ あのカフェで ・・・ 二人は さ ・・・ それでウチに帰ってくるのも遅くて・・・ 」
ジョーは車の中で一人、自分自身の墓穴を掘り始めた。
「 ― ただいま〜〜〜 あら ジョー。 もう帰っていたの、早いわね。 」
「 おかえり フラン。 あの ・・・ うん、いつも通りの時間だけど・・・ 」
「 ふうん ・・・・ ああ もうこんな時間だったの〜 あ〜あ 疲れちゃったぁ〜 」
「 大変だね、リハーサル? 」
「 ええ ・・・ あ〜 そうだ。 わたし、来週 引っ越すわ。 」
「 ・・・え?? ひっこす・・・? だ だれが。 」
「 わたしが。 だってねえ〜〜 ここまで帰ってくるの、時間がもったいないわ。
稽古場の近くにね、 お友達がマンションを借りているの。
そこで一緒に・・・シェアしようか・・・ってことになったのよ。 」
「 ・・・ そんなに忙しいのかい。 」
「 う〜ん いろいろあるし。 ねえ いいでしょう? ふふふ もう決めて着ちゃったけど。 」
「 ・・・ フランソワーズ ・・・ きみが そう したいのなら・・・ 」
「 メルシ、 ジョー。 ふぁ〜〜 ああ もう眠くって・・・
わたし、お風呂入って寝るわね〜〜 」
「 フラン。 晩御飯、できているよ。 その・・・ぼくのじゃ不味いだろうけど・・・ 」
「 え? ・・・ う〜ん ・・・ いいわ、今日は。
お友達と食べてきたし ・・・ じゃ お休みなさ〜〜い 」
「 ・・・ あ ああ ・・・ お休み ・・・・ 」
なんて 言ってさ! 彼女は ・・・ 公演が終ってもそのまま・・・だったりして。
う ウチに帰ってこなくて ・・・さ。
ある日 ・・・ ぼくが住所を頼りに訪ねると
都心にある瀟洒なマンションの三階で ジョーはチャイムを何回も押していた。
「 ・・・ フラン〜〜? あれ? 留守なのかなあ・・・ この部屋だよなあ・・・
公演終ったからそんなに忙しくないはずなんだけど ・・・ 管理人に聞いてみよ 」
一階の入り口にいた管理人は 胡散臭そうにジョーを眺めた。
「 303号室? ・・・ 綺麗なお嬢さんだけど。 アンタ なんだね? 」
「 え・・・ あの ぼく! か 彼女と同じ家 ・・・ 」
「 あ〜 弟さんかい? そんなこと、聞いてたよ。
いや〜 アンタの姉さん、仕事も忙しいし おデートも忙しいみたいだね。 」
「 え・・・! で で〜と?? 」
「 ありゃ近々ゴールイン ・・・ じゃないかね。 まあなかなかカンジのいいお相手さ。
アンタもいい兄さんができるよ〜 」
「 ・・・に 兄さん ・・・ 」
「 ま 姉さんの幸せを祝ってやりな。 ・・・今晩は帰ってこないかもな。 」
「 ・・・・ そ ・・・? 」
ジョーは管理人が一人でしゃべりまくって部屋に戻ってゆくのを 呆然と眺めていた。
そ ・・・ そんなこと・・・! そんなこと ウソだあ〜〜〜〜
パパパパァ −−−−−−!!!
後ろから猛烈なクラクションが飛んできた。
「 ・・・? あ〜〜 いっけね・・・ ヤバ〜〜 」
前方はとっくに青信号 ジョーはあわてて車を発進させた。
「 ・・・ ひぇ〜〜・・・・ ったく何やってんだ〜〜 ・・・ ふう・・・ 」
こんな所で事故ってはたまらない、ジョーはやっと運転に集中し始めた。
「 ― ただいま ・・・ 」
そ・・・っと玄関のドアを開け ― ジョーは恐々 ・・・ 玄関のタタキを見回した。
「 ・・・・ あ あった ・・・ 〜〜〜 」
よかった・・・ ジョーはほっとして思わずへなへな〜と座り込みそうになった。
上がり框に フランソワーズの靴がきちんと揃えてあった。
「 ・・・フラン〜〜 帰ってるんだ・・・ ああ よかった・・・・
ふ ふん、当たり前だよな、彼女はこのぼくの、島村ジョーの妻! だぞ。
それでもって 彼女の家はここなんだ! 」
ちょっと前のマイナー気分はどこへやら、 ジョーはひとり、えっへん・・・と胸を張った。
「 ・・・あれ? フラン・・・ ? 」
日頃 ジョーが帰宅すればすぐに玄関に飛び出してくる 姿が ない。
「 聞こえなかったのかな・・・ あ きっと料理の最中とかなんだよ うん! 」
自分で自分を納得させ ジョーはリビングのドアを開けた。
「 うわ!? ふ フラン〜〜 あ ああ た ただいま・・・ 」
ドアを開けた目の前に ジョーの細君が立っていた。
「 あ あの。 お お帰りなさい・・・ ジョー・・・ 」
「 う うん ・・・ た ただいま ・・・ 」
「 あの ・・・ 晩御飯 ・・・ できてます。 」
「 そ そうかい。 それじゃ ・・・ 手、洗ってくる。 」
「 ハイ・・・ 」
二人は至近距離で顔を合わせながら 視線が行き違いになっている。
「「 ・・・ あの! 」」
「 え・・・? 」
「 ・・・ なに? 」
「「 なんでも ・・・ ない(わ) 」」
妙な合唱をしつつも二人は全然気がつかず、ひたすらこっそりと相手を窺う。
あの口紅は ・・・ どうして??
アイツは誰だ? あの親密さは・・・!
ジョーもフランソワーズも口元まで出掛かっている言葉を ― ぐ・・っと呑み込んだ。
― その晩、 肉じゃが は正当な評価をうけることなく 飲み込まれた ・・・
しずかな晩御飯がおわり 静かなリビングでTVだけが声高に喚いていた。
いつもは二人のおしゃべりと笑い声で いっぱいなのに・・・
「 ・・・ じゃ ・・・ お休み 」
「 オヤスミナサイ ・・・ 」
二人は とてもお行儀よく言葉を交わすと ― ベッドの左右からもぐりこみそのまま眠った。
結婚後初めて ― ジョーは求めず フランソワーズは誘わない夜 だった。
「 ・・・・・・・ 」
「 ・・・ はい、そこでいいわ。 ふうん ・・・・ 」
音楽が消え、 あとに聞こえるのはダンサー達の荒い息の声だけだ。
フランソワーズは俯いていたが おずおずと口を開いた。
「 ・・・・・? あ あの・・ 」
「 そう ね。 いろいろ考えてみた・・・って顔ね。 」
「 ・・・ は い ・・・・ 」
「 オデットさん、お腹痛い、からは卒業したらしいけど ? 」
「 ・・・・・・・ 」
「 ねえ? 裏切られてオデットは落ち込んだかしら。 泣いているだけかな。
フランソワーズ、あなたならどうする? あなたが彼女の立場だったら。 」
「 ・・・ え あの ・・・・ 」
「 それはまああとでよ〜く考えてみて?
王子との絡みのところだけど ― ちょっとタケシ、始めのところだけど・・・ 」
2〜3 テクニック上の注意をして 芸術監督のマダムはにんまり笑いかけた。
「 ふふふ ・・・ もっともっと悩んでごらん? 期待しているわ、フランソワーズ。 」
「 ・・・ はい ・・・ 」
「 あなたのオデットを踊れるわよ、きっと。 じゃ・・・お疲れさま〜 」
「 あ ・・・ ありがとうございました ・・・ 」
― パサ ・・・・
「 ・・・ え? 」
タオルが フランソワーズのアタマに降ってきた。
「 ほら ちょっと休憩。 なかなかイイセン、いってたよ? 」
「 タケシさん ・・・ 」
「 ほらほら そんな顔はもうお終い。 いつもの君はもっと元気だろ? 」
「 ・・・え ええ ・・・・ 」
「 旦那さんのためでもいいからさ、 笑顔だよ 笑顔 ! 」
「 ・・・ そう? ・・・ そうね。 」
「 あは・・・なんか何気にノロケられちゃったな〜〜 」
「 え・・・ ノロケってそんな ・・・ 」
「 ま、いいさ。 新婚さんだもんね。 う〜〜 妬けるぜ、君の旦那さんにさ 」
「 ・・・ そんな こと・・・ 」
「 な〜んだよ、遠慮せずにノロケていいってば。
あ〜 ごめん、今日はちょっと付き合えないんだけど ・・・ 元気だせって。 」
「 タケシさん ・・・ 」
「 うわ〜 そんな眼でみないでくれえ〜〜 」
わざと大袈裟におどけてみせる彼の心使いがすごくうれしい。
「 あ ・・・ ありがとうございました。 」
「 じゃ、お疲れ〜〜 」
「 お疲れさまでした タケシさん・・・ 」
フランソワーズは 心優しいパートナーに一生懸命笑顔を作ってみせた。
「 ・・・ はあ 〜 ・・・・ 」
シャワーを浴びて着替えて ― 稽古場を出れば秋の空が頭上に広がっていた。
「 ・・・ きれい ・・・ 」
ぼ〜っと空をながめれば 少しは気持ちが軽くなってきた。
「 オデットさん って。 どんな気分だったのかな。 大切なヒトに裏切られて ・・・
悲しくて。 そ それで 王子のこと、諦めちゃったのか・・な・・・ 」
カツン ・・・
足下の小石が飛んでいった。
― 新婚さんだもの、ノロケていなよ ・・・
タケシの言葉が蘇る。
「 新婚さん か。 そうよ!オデットさんよりわたしは ジョーの <恋人> をやっている期間、長いわよね。
オデットさん、可哀想だけど ・・・ でも わたしは − このままじゃ イヤだわ。 」
彼女の歩みはだんだんゆっくりになってきた。
「 わ わたし ・・・ 泣きながら帰るのも ・・・ み、湖に身を投げちゃうのも・・・イヤだわ!
わたし・・・ よ〜くカレシのこと、知ってるもの。
泣いたり笑ったり怒ったり ・・・ 辛いこともあったし。 だ だから・・・ そうよ、だから
わたし! ・・・・ ジョーを ジョーを 信じているもの! 」
立ち止まり、 フランソワーズは改めて空を仰いだ。
「 ― お日さま ! わたし ・・・ オデット姫にはならないわ! 」
さあ ― 帰って美味しい晩御飯、作らなくっちゃ。
それで ちゃんと話をするの。
フランソワーズは元気よく歩き始めた。 ひゅるり・・・ 秋風が彼女を追いかけていった。
ふわ〜〜ん・・・と いい香りがキッチンからリビングまで漂ってゆく。
「 ・・・んん〜〜〜 よォし。 」
味見をして フランソワーズはにっこりした。
「 この味よ、この味。 ジョーが好きな カレー の味・・・ これで煮込んでゆけばいいわね。 」
ガスの火を調節し、 フランソワーズはほっと溜息をついた。
ジョーの大好物は ― カレー なのだ。
「 ねえ なにが食べたい? 」 「 晩御飯はなにがいい? 」 「 好きなものはなあに? 」
恋人同士になる前から何度、彼女が聞いても答えはいつも 同じ。
「 う〜ん ・・・ ぼく カレーがいいな 」
ジョーはにこにこ満面の笑顔で そう応えるのだ。
「 ・・・ わかったわ。 」
フランソワーズはいつも強張った笑みを浮かべ頷くのだった。
ジョーが好きな カレー は。 市販のルーを使った甘口のもの。
どうしてそんなものがお気に入りなのか理解に苦しむのだが、 彼は実際大喜びで食べるのだ。
「 ― ジョーは ほんとうにカレーが好きなのねえ・・・ 」
「 うん! ぼく、毎日カレーでもいいくらいさ。
・・・あ! も 勿論 きみの御飯もだ〜〜い好きだよ! 」
ジョーはいつも慌てて付け加えていた・・・
「 カレー、 オッケー。 ジョーの好きなポテト・サラダ もオッケー。
え・・・っと・・・デザートは ・・・ 梨があるわね。 甘くて美味しいわ・・・ 」
夫の好物で食卓を整え フランソワーズはどきどきしつつ待っていた。
― ガチャ ・・・・
「 お お帰りなさいッ !! 」
「 ― ?! あ ああ た ただいま ・・・ 」
ドアが開くなり 飛んできた細君の声にジョーは目をまん丸にしている。
「 あの! こ 今晩は カレーよ! ジョーの好きなカレーなの。 」
「 あ ・・・ そ それはうれしいな。 」
「 そうなの、カレーなのよ。 」
「 ありがとう ・・・ あの〜〜 フラン? 」
「 はい! ・・・ あ お昼もカレーだった とか?? 」
「 い いや・・・あの・・・ 入れてくれる かな? 」
「 え? ― あ・・! ご ごめんなさい。 」
フランソワーズは玄関口に立ちはだかっていたことに気がつき あわてて道を開けた。
「 ・・・い いや ・・・ その ・・・ただいま ・・・ フランソワーズ 」
「 おかえりなさい。 ・・・ ジョー ・・・ 」
「「 ・・・ あの! 」」
「 あ ・・・ ご ごめん ・・・ なんだい フランソワーズ。 」
「 え・・・ わたしこそ・・・ なにかしら ジョー 」
「「 ― 聞きたいコトがあるんだ ( の ) 」」
あれ ・・・ 二人はあわてて同時に口を閉じ ・・・ 一緒に苦笑いした。
「 あ〜〜 なんかさ、 言いたいこと、あるんだよね、ぼく達。 」
「 そ ・・・ そうみたい・・・ね。 」
「 フラン、先に言ってくれよ。 ぼく、ちゃんと聞くよ。 」
ジョーはすとん、と玄関の上がり框に腰おろした。
「 きみも座りなよ。 」
「 ・・・ ジョー。 こんなトコで・・・ 」
「 いや。 先に済ませちまおうよ。 溜めこむのは止めさ。 」
「 そうね ・・・ 」
フランソワーズも エプロン姿のままジョーの隣にペタン、と腰掛けた。
「 ― どうぞ、フラン。 」
「 え ・・・ ええ ・・・ あの。 」
・・・・ く っ・・・! フランソワーズは舞台に出てゆく前みたいに気合をいれた。
「 わたし ・・・! オデットじゃないですから。 」
「 ??? オデット? 」
「 そ そう! わたし ・・・ 泣いて逃げるのも 湖に飛び込むのも いやなの。 」
「 み 湖に飛び込む ?? お おいフラン ・・・! 」
「 だから。 ― あの口紅は 車に乗せていたヒトは なんなの!? 」
「 なんなの・・って。 きみ どうして帰ってこないんだ!? 」
「 ― わたし、ここにいるじゃない! ジョーより早く帰っているわ。 」
「 あ ・・・そ そうだよ ねえ ・・・ あ! あのオトコは 誰さ。
引っ越して帰ってこなくてさ ・・・! 」
「 ?? ジョー・・・ なに言ってるの??
ジョーこそ・・・ あの星のヒトは誰? どうして踊りにいったのよ。 」
「 星??? 踊りって・・・きみこそ何、言ってるんだ? 」
「 ジョーが ! 」
「 ― フランが ! 」
フランソワーズは 思わずジョーの顔を覗きこみ、ジョーも彼女を見つめ返し ―
・・・ ぷ ・・・・ッ !
二人は同時に なぜか笑い出してしまった。
「 フラン?? きみ ・・・ なんかすご〜く妄想してない? 」
「 え・・・? あ・・・! で でも ジョーも ・・・ ? 」
ああ まいったなあ〜〜 ・・・ とジョーは独り言みたいに呟き大きく息をついた。
「 あの さ。 申告するけど。 口紅は ― きみに、と思ったけど 地味!っていわれて。
あ・・・ 編集長にだよ! お蔵入りです。 」
「 え ・・・ あの色・・・シックでいいなあ〜って思ったけど・・・ 」
「 あは? そ そうなんだ? ・・・ 直接きみに聞けばよかったね・・・ 」
「 ジョー ・・・ 」
「 それから! 車の・・・ってのは、編集長のお友達さん。 スワ〇フスキーの店を是非って。 」
「 あ ・・・ そ そうなの ・・・ ごめんなさい わたしったら・・・
わたし、一緒にいたヒトは今度の <王子サマ>。
あの・・・ わたし、 パンダになっちゃったから・・・ 」
「 ― ぱんだ!?!? 」
「 ええ。 ベソかいて・・・ マスカラが落ちてね、目の周り真っ黒・・・
それで カフェまで隠してもらったの・・・ 」
「 ・・・ あ そ ・・・・っか・・・ 」
ふうううう ・・・・ はああああ ・・・・・
大きな溜息がふたつ、 玄関の高い天井に立ち昇り・・・消えていった。
「 ぼく達ってさ ― なんかかなりの ・・・ 」
「 ええ ・・・ すご〜〜い妄想力 かも・・・ 」
「 いやいや・・・想像力、豊かってことにしようよ?
芸術家には必要だろ? 編集者にだって必須なんだぜ。 」
「 うふふ・・・じゃ そういうコトにする? 未来の編集長さん。 」
「 ああ そうしようよ。 夢見るバレリーナさん 」
見つめ合い くす・・・っ笑えば ついさっきまでの猜疑心はどこかへ消滅していた。
・・・ 妄想しちゃうほど ジョーが ・・・・好き。
あ〜 ぼくってフランについては すごいヤキモチ妬きなんだなア・・・
「 あ そうだ〜 きみ、白鳥がくる湖の話、うまく踊れそうかい。 」
「 ええ。 ― わたしのオデット姫 を踊るわ。 苦悩しても 泣いてるだけじゃないの。 」
「 ふうん ・・・ 頑張れよ〜〜 」
「 うん♪ 」
「 ― あの〜さ。 腹 減ったんだけど・・・ 」
「 あ! いっけな〜〜い・・・ 今晩は カレー です♪ 」
「 うわお〜〜 それじゃ ご一緒に。 マダム・シマムラ 」
「 メルシ ムッシュウ・シマムラ ・・・ 」
フランソワーズはジョーの腕に手をかけて 二人はぴたりと寄り添って ― 我が家に入っていった。
二人のしあわせ色は 今 一緒に塗り始めたばかり・・・
****** オマケ ( で 公演はどうなったか というと・・・ )
『 白鳥の湖 』 は クライマックスに近づいていた。
第四幕 ・・・ 悲嘆に暮れて駆け戻ってきたオデット姫を 白鳥の娘たちが取り囲む。
そこへ 王子が追ってきた。
泣き沈み絶望する ・・・ はずのオデットは。 この、亜麻色の髪のオデット姫は ―
まずは王子を き・・・!っと睨んだ。
「 え。 ・・・な なんて顔・・・! おいおい 〜〜 」
「 うふふふ・・・・ いいわあ〜〜 うん、あの子、本当にいいわあ〜 気に入った! 」
芸術監督のマダムは一人 くすくす笑い続けていた・・・
発表会は・・・ 大変に盛り上がったのである。
************************** Fin. **************************
Last updated
: 09,20,2011. back / index
*********** ひと言 *********
なんてことはない、例によって 犬も食わない・妄想合戦?
後半までお付き合いくださいましてありがとうございました<(_
_)>