『 しあわせ色 ― (1) ― 』
昨夜の一雨が すっきりと次の季節を招きいれる役目をしたとみえる。
その朝 雨上がりの空はぐん、と高みを増し、空気は洗い立てのリネン類みたいにまっさらだった。
「 ・・・・ うわ ・・・! いいお天気・・・!! 」
フランソワーズは寝室の窓を開け う〜ん・・・と伸びをした。
― ぴちょん ・・・! 雫が一滴 亜麻色の髪に落ちる
「 きゃ・・・ うふふ・・・ 昨夜の雨の残りね。 う〜〜ん ・・・ いい気持ち・・・
空気の色がちがうわね ・・・ ふうう〜〜〜 」
思いっきり深呼吸をして彼女は お日さまに大きく手を振った。
「 お日さま〜〜 おはようございま〜す♪ 今日も頑張りまァ〜す♪ 」
「 ・・・う 〜ん ・・・・? 」
寝室の奥から ぼわ〜・・・んとして声が漏れてきた。
「 あ ・・・ いっけない・・・ ふふふ ・・・ウチの寝坊大王を起こしてしまったかしら・・・・ 」
首をすくめてチョロっと舌を出し、フランソワーズは足音を忍ばせて部屋にもどった。
まだずいぶんと早い時間なのだが そう・・・っとレースのカーテンだけを引いた。
明るすぎるはわかっているけれど、この爽やかな朝の空気を遮りたくなかったのだ。
「 うふふん ・・・ ジョーォ? 」
彼女はベッドに近づいて そっと愛しい人の名を呼んでみる。
上掛けの端っこから セピアの髪がちょびっとだけ見えた。
「 ジョー? ・・・ あ あら ・・・ ヤダ・・・」
なんの脈絡もなく昨夜の彼の手に感触が肌に蘇り彼女はひとり、耳まで赤くなった。
モゾモゾ ・・・・ リネンの海が揺れた。
「 ・・・ う〜 ん ・・・ フラン〜〜 ・・・? 」
「 はいはい・・・ まだ寝いて大丈夫よ、ジョー。 」
「 う〜 〜 ん ? ・・・ごちそうさま 〜 ・・・ 大丈夫さ ・・・ むにゃ ・・・ 」
― ぱたん ・・・
なんだか意味不明なことを呟くと ジョーは寝返りをうって再びく〜く〜寝てしまった。
「 ・・・ あ〜あ ・・・ 一緒に朝陽を眺めるとか 夜明けの散歩・・・なんて
夢のまた夢ねえ ・・・ ふうう・・・ 」
フランソワーズは ジョーが蹴飛ばしたタオルケットを掛けなおし溜息をひとつ。
「 まあったく ・・・ こんなに朝が苦手だなんて知らなかったわよ〜・・・
ま ・・・ そのうち早起きに慣れていただきますから・・・・ふふふ ・・・
じゃ、今日はとりあえずどうぞあと少しお休みください。 」
彼の上に身を屈め 額にこそ・・・っとキスをひとつ ― 彼女はそっと寝室を出ていった。
恋人時代は長かったけれどいざ結婚してみればお互いに < 知らない顔 > をそこここに見つけた。
へえ ・・・? こんなオンナだったんだ?
ふうん ・・・ こいういうヒトなのかぁ・・・
しかし今はそんな発見も楽しい ― らぶらぶな二人だった。
「 さあて ・・・と。 皆が起きてくる前に一仕事〜〜っと♪ 」
ふんふんふん♪ なにやらハナウタを口ずさみつつ彼女はキッチンへ下りていった。
「 ― うそ ・・・! 」
「 ウソじゃないよ〜〜 フランソワーズ〜〜 やったネ! 」
「「 きゃわ〜〜い♪ 」」
亜麻色の髪と黒髪のオンナノコが 歓声を上げている。
「 あ ・・・ す すいません ・・・ 」
「 ・・・ 大丈夫だよ、皆 わいわい言ってるし ・・・ 」
首を竦めつつも 小柄な黒髪はちろ・・・っと周りを見ていた。
ここは 都心ちかくにある中規模なバレエ団。
丁度朝のレッスンが終った後らしく 稽古着姿のダンサー達がうろうろしている。
そして 廊下の掲示板の前には人だかりがしていた。
それぞれ わ〜 だの うへえ〜〜 だの やった! だの・・・
ともかく賑わっているので 二人の歓声など目立つことはなかった。
この騒ぎのモトは ― 配役表。
次の公演のキャストが発表になっていた。
『 白鳥の湖 』
キャスト : オデット ( 第二幕 ) サトウ リエ
( 第四幕 ) フランソワーズ・アルヌール
王子 ・・・・
「 みちよ ・・・ ゆ 夢みたい〜〜 ・・・! 」
「 よかったね〜 頑張んなよ〜〜 」
「 うん! あ みちよは? 」
「 アタシは 『 パキータ 』 ソロ、もらったヨ♪ 」
「 うわ〜 凄いわねえ〜〜 みちよはテクニシャンだものね 」
「 ふふん オデット貰ったヒトがな〜に言うのさ。 」
「 ・・・わたし! うれしい〜〜〜 滅茶苦茶にうれしい〜〜
発表会でも 四幕だけのオデットでも ・・・ わたし、本当にうれしいわ〜 」
「 フランソワーズ、頑張ってるもんねえ〜 ・・・ カレシ、喜んで見に来るよ、きっと。 」
「 え・・・ う〜ん・・・ どうかなあ・・・ ジョーってねえ ・・・ バレエってその・・・
応援はしてくれるんだけど、 彼自身興味はない、っぽいのよ。 」
「 あ〜 どうだよねえ ・・・ この国の男子はたいてい そうだよ。 」
「 何回か有名なカンパニーの公演に誘ったのだけど ・・・ もうやめました。 」
「 あはは・・・寝ちゃうんでしょ? でもフランソワーズの舞台なら
ぎんぎんになって見に来るのじゃないかなあ〜 」
「 う〜ん ・・・?? どうかなああ ・・・
ま それよりも ・・・・ うわ〜〜 今になって不安になってきたわ。 」
「 な〜に言ってるのよぉ〜〜 」
「 だ だって・・・ 発表会でも こんな大きな役って初めてなのよ、わたし。
でも面白い企画ね、 幕ごとに配役が違うって。 」
「 ふふふ ・・・ できるだけ多くの若手にチャンスをってことよ。 」
「 あ そうなのね。 二幕のオデットは ・・・ ああ やっぱりリエさんね。
優等生だもの 当然よねえ。 グラン・アダージョもあるし ・・・
ああ 三幕のオディールは蘭ちゃん か。 これも当然ね。
・・・ うわ〜〜 四幕のわたしがいっちばん <問題あり> かも・・・ 」
「 ふうん ・・・ まあ ともかくお互いに頑張ろうでないの。 」
「 ええ! ・・・ ああ! 今更だけど急にドキドキしてきた・・・ 」
「 それじゃ♪ 帰りにちょいと甘いモノでエネルギー補給してゆく? 」
「 うわお♪ さんせ〜〜い♪ 」
一層明るい笑い声をあげ 亜麻色の髪と黒髪は更衣室に駆けていった。
フランソワーズが 岬の突端の家に住むようになり数年が経っていた。
博士とイワンと ― そして ジョーと。
4人はごく平凡だが穏やかな日々をおくり静かな月日が流れていた。
その前の年、ジョーとフランソワーズは長い春にやっとピリオドを打った。
ささやかな式を挙げ、邸の一部の部屋を広く改築してもらい新居とし二人の結婚生活はスタートした。
ジョーは以前からの出版社勤めに精をだし はりきって通勤している。
バレエ界の門を再び叩いたフランソワーズも 自身のレッスンと教えのアシスタントに忙しい。
そんな二人を 博士はさり気無く見守っていた。
「 ふむふむ ・・・ 二人とも 普通の日々 を精一杯楽しんでおくれ ・・・ 」
新婚さんのオーラをまだまだ纏いつつ 二人は幸せに埋もれた日々・・・なのだ♪
「 ねえねえ 聞いて、 ジョー。 それでね・・・ 」
「 うん、聞いてるよ。 よかったねえ フランソワーズ。 」
ジョーは頬を紅潮させ話し続ける妻を にこにこ顔で眺めている。
「 ええ♪ オデットが回ってくるなんて・・・ 夢みたい・・・ 」
「 そうか〜 それで その公演はいつなんだい。 」
「 ええ あのね。 公演といっても一応は発表会なのね。 若手を中心にしてもらっているから。 」
「 ふうん ・・・ 新人発掘、というわけか。 なるほどなあ・・・ 」
「 それでね、 それでね〜〜〜 オデットなのよ。
ただね、全幕じゃないの。 あ 全幕やるけど オデットは幕ごとにちがうのね。
わたしは四幕 ・・・ 最後のところなの。 」
「 ・・・?? よ ・・・よくわからないけど ・・・ ともかくいい役が回ってきたんだろ?
そのう・・・ おでっと? 」
「 そうよ。 『 白鳥の湖 』 ・・・ タイトルくらいジョーも知っているでしょ。 」
「 あ〜・・・ うん ・・・ 聞いたことはあるよ。 そっか〜〜白鳥のくる湖の話なんだ? 」
「 ・・・ というか ・・・ 」
「 なんでも協力するよ、 遅くなれば帰りも迎に行くし晩御飯の仕度とか 任せろ。 」
「 ありがと〜〜 ジョー! 」
フランソワーズは 彼女の旦那様に飛びつくと熱いキスの雨を送った。
「 あ ・・・ へへへ ・・・・ いや なに ・・・うわあ〜♪ 」
「 ジョー〜〜〜 愛してるぅ〜〜 」
「 ・・・え へへへ・・・ ぼくもさ、フラン〜〜 湖の話、頑張れよォ〜 」
― そう、 シマムラジョー氏は 細君の仕事に理解はあるがそのものに関心はなかった。
『 白鳥の湖 』 は 普通四幕から構成されている。
主な踊りは 二幕のオデット姫のヴァリエーション、 王子とオデットのグラン・アダージョ。
三幕の王子と黒鳥の グラン・パ・ド・ドゥ などがある。
四幕はロットバルトと王子の対決、そして大団円を迎えるのだが・・・
オデットの踊りは感情表現がかなり重要になる。
・・・ フランソワーズ・アルヌール嬢 ( 現・島村夫人 )は その第四幕のオデット姫を踊ることになった・・・!
― 哀惜に富んだメロディーがゆっくりと消えてゆく。
・・・ ハァ ハァ ハァ ・・・・
音の消えたスタジオには 荒い息だけが聞こえていたが。
― はあ 〜〜〜
深い溜息が聞こえ ― 汗まみれのダンサーはびく・・・っと顔をあげた。
鏡の前からじっと見つめていた女性が アタマを振っている。
やだ・・・ マダム ・・・!
わ ・・ わたし 振り、間違えた・・・? ううん そんなはず・・・
ちゃんと音、外さなかった・・・わよねえ・・・
「 あ ・・・ あの ・・・ 」
「 ― あのねえ ・・・ フランソワーズ? 」
「 は はい・・・ 」
「 ・・・ お腹が痛いのとちがうわよ? 」
「 ・・・え はあ ・・ ?? 」
いきなりの発言に フランソワーズは目をまん丸にして棒立ちである。
「 あのね。 オデット姫は別にお腹が痛かったわけじゃあないの。 わかってる? 」
「 ・・・ は はい そのぅ〜〜 」
「 あなたのオデットは ・・・ お腹いたぁ〜い・・・! ってカンジがしたわよ。 」
「 え。 あ あの・・・ 」
「 哀しみの表現 って 眉間に縦ジワを寄せることじゃないのよ?
目を伏せてみせることともちがうの。 ・・・ ようく考えてみて。 」
「 ・・・ は はい・・・ 」
「 まあねえ ・・・幸せな奥様には無理かしら? 」
「 ・・・・・・・・・ 」
「 ここはどんな場面なのか よ〜〜〜く考えていらっしゃい。
それがわかってから王子との絡みをやりましょう。 じゃあ お疲れさま。 」
「 ・・・あ ・・・! ぁ・・・ ありがとう ございました・・・・ 」
ぺこん、とアタマを下げて 上げたら。 もうマダムはさっさと出ていった後だった。
「 ― あのう〜〜 」
「 お疲れ様。 MD、事務所に返しておいてね、フランソワーズ。 」
「 は はい・・・ あのう・・・ タカコさん・・? 」
フランソワーズは呆然としたまま、音出しを手伝ってくれた先輩を呼び止めた。
「 はい? 」
「 あのう ・・・ わ わたし、 どこか間違えてました? 振り ・・・
あの・・・指定されたDVDの通りに踊ったと思うのですけど ・・・ 」
「 ええ 振りはちゃんと合っていたと思うわ。 」
「 ・・・ じゃ ・・・ 音取りとか・・・ちがってました・・・? 」
「 ううん、 あれでいいと思うけど ・・・ 」
「 なら ・・・ どうして・・・? 」
「 ・・・ ふふふ ・・・ フランソワーズは 幸せすぎるんじゃない? 」
「 ・・・ は い ・・・・? 」
「 オデットさんの気持ちになってみなさいよ、ってことじゃないのかなあ〜〜
マダムが言いたかったこと。 」
「 え ・・・ 」
「 あは ・・・ ちがってたらゴメンね。
四幕ってさ。 派手なテクはないから余計に難しいのよねえ・・・・ 」
「 ー え ・・・ 」
「 フランソワーズならできる、って思ったのじゃない? 先生方は ・・・ 」
じゃあね〜〜 ・・・・と先輩はひらひら手を振って出ていってしまった。
「 あ ・・・! ぁ ・・・・ アリガトウ ゴザイマシタ ・・・」
え ・・・!?? な なんなのよぉ 〜〜〜 ・・・・
ぼたぼたぼた ・・・・ 彼女がタオルで拭ったのは汗だけじゃなかった。
― カタン ・・・・
「 − ただいま ぁ 〜 ・・・・・ 」
玄関のドアを開けて どさ・・・っと重いバッグを足元に放り出した。
「 ・・・・ あ〜 ・・・・つっかれたぁ〜〜 」
フランソワーズは靴をぬぐと 玄関の上り框にそのままぺたん、と座り込んでしまった。
「 ・・・ だ〜れもいません、 と ・・・・ 」
真昼間、家の中からは なんの物音も聞こえてこない。
それもそのはず、彼女は予定の時間よりもかなり早く帰宅したのだ。
博士はコズミ博士の研究室へ出かけており、ジョーは当然 仕事 ・・・
フランソワーズ自身も夕方に帰宅するはず だった。
「 ・・・ ふ〜ん ・・・・ どうせわたしにはお姫サマはおどれませんよ・・・ 」
ふは −−−−− っと特大の溜息を吐くと、 そのまま後ろへ、ぱたん、と倒れた。
「 オデットさんの気持ち、 か ・・・・ だって悲しいのでしょう?
永遠の愛を誓ってくれたヒトが 裏切ったんだもの。 ねえ・・?
それ以外になにがあるのよ〜〜 」
高い玄関の天井をしげしげと見つめ、彼女はぶつぶつ・・・呟いていた。
哀しみの表現 か。
稽古場でも 更衣室でも ずっと考えていた。
帰りの電車の中でも 晩御飯の買い物中も 駅からのバスの中でも ず〜〜っと考えていた。
「 ・・・ でも! わかんないのよね ・・! あ〜あ・・・!! 」
こんなところで寝転がっていても仕方ないのはようく判っている。
― でも いつまで〜もここでぐずぐずしていたかった
・・・どうしていいのか わかんらない、のだから。
ガチャリ ・・・!
「 ただい ・・・ うわ!? ど どうしたんじゃ!? 」
「 ― は ・・・ 博士! お お帰りなさ〜い ・・・ 」
玄関のドアが突然開き ― 博士がたちんぼになっていた。
「 ふ フランソワーズ! どうした?! ・・・ む?! どこかに敵が?! 」
「 あ あ!! な なんでもないんです、博士〜〜〜 」
フランソワーズはあわてて起き上がると 博士の腕を引いた。
「 お・・・・ おわ?? ふ フランソワーズ〜〜 」
「 博士 ・・・ びっくりさせてごめんなさい ・・・ はい 全然元気ですから・・・ 」
「 おお ・・・ よかったのう・・・・ 脅かさんでくれよ ・・・
あれ お前 今日は夕方にかえってくるのじゃなかったのかね?
リハーサル だったのだろ? 」
「 え ええ ・・・・ それが・・・ 博士 〜〜 」
「 なんじゃ どうしたね? え・・・? 」
突然 抱きついてきた娘に博士はまたまたびっくり仰天していた。
リビングは明るい午後の光と お茶のいい香りでいっぱいになっている。
温かいお茶で 心もしかめっ面もほぐれフランソワーズはやっと落ち着いたらしい。
今日のリハーサルの顛末を 話はじめた。
「 ・・・・ふむ? ・・・ ほほう〜 『 白鳥〜 』 の四幕か。
確か ・・・ 王子と悪魔の決闘がある幕じゃな。 」
博士は 意外にもバレエに詳しかった。
「 まあ ご存知なんですか? 」
「 ははは ・・・ これでもオペラやバレエは好きでな。 学生時代は天井桟敷でよく観たものさ。
それにしても オデットを踊るのかい、 そりゃよかった よかったのう 」
「 うふふ・・・ありがとうございます。 ― で 苦戦中なんです〜〜 」
「 苦戦? 踊りの ・・・ その、技術のことかい。 」
「 ええ・・・ 白鳥のアームス ( 腕のうごき ) は本当に難しいのですけど・・・
もっと難関があったんです ・・・ 」
フランソワーズは < 苦戦 > についてぽつぽつ話しはじめた。
博士はパイプを咥え、愛娘がおしゃべりをする様子に目を細めていた。
ああ ・・・ この娘の こんな表情をみることができるとはなあ・・・
なんとしても応援してやるからな
「 ・・・ それで どうしたらいいのかわからなくて・・・
帰り道もず〜〜っと考えていたのですけど ・・・ 」
「 それで玄関に寝っ転がってみたのかい。 」
「 え ・・・ あ ・・・いえ・・・ 疲れちゃって・・・ 」
「 ははは ・・・ そりゃあなあ・・・苦心の表現が腹痛にみられたのはショックだな 」
「 ・・・ はい。 そんなつもりじゃなかったのですけど・・・ 」
― ふうう 〜〜 ・・・・ 大きな吐息が天井に上ってゆく。
「 ふうむ? ・・・ 自分のことと置き換えて考えてみたら どうかな。 」
「 自分の? 」
「 そうじゃよ。 お前がオデット姫と同じ立場になったら どうするね。 」
「 同じ ・・・立場? 」
「 そうじゃよ。 王子とオデットの状況をよく考えてごらん。 」
「 ・・・魔法にかけられて 白鳥にされて? 」
「 あはは・・・そうじゃなくて、な。
昔からお伽噺は時として 現実の揶揄になっている場合が多いからの。
背景は変わっても コトの本質はいつの時代も変わらん、ということさ。 」
「 ・・・ 本質? 王子が ・・・ 黒鳥に騙されて? 」
「 表面上はそうだが。 つまりはオトコが心変わりした、ということかな。 」
「 ― あ ・・・ そうですよねえ・・・ 」
「 その状況の時に 自分自身はどう感じるか ― それを表現してみたらどうかな。
少なくとも ・・・ 腹痛の顰めっ面 よりマシだろうよ。 」
「 ええ ! ありがとうございます! そっか〜〜
なんかちょっとだけ気が楽になってきました。 」
「 ほう ほう それはよかったな。 」
「 さあ 〜〜 それじゃ 張り切って晩御飯 つくりますね♪
帰り道、商店街の魚屋さんで新鮮なアジがあったんです。
朝 浜にあがったばかり、ですって。 」
「 ほ〜う それは美味そうじゃな。 ここは海の幸がほんに美味しい土地じゃ。 」
「 はい。 え〜っと ・・・ ジョーにはフライがいいかなあ〜〜♪
博士〜〜 新鮮なところをムニエルにしましょうか? 」
フランソワーズは やっと笑顔になってお茶道具をトレイに乗せている。
ああ ・・・ いい笑顔だな
裏切られた哀しみ ― は う〜ん ・・・難しいかもしれんな
― まあ 頑張れ ・・・
博士は取り上げた本の陰で 彼女の表情にほっとしていた。
「 ・・・ うま〜〜〜〜い♪ これ めっちゃくちゃにウマイね!! 」
ジョーは 感動の叫びをあげた。
彼の前には、まだジュウジュウ音をたてているアジのフライの皿がある。
「 うふふふ・・・・ 美味しいでしょう? ちょっと自信作なの。 」
「 うん うん きみの料理の腕は最高だよ〜〜 ぼくの奥さん♪
うは・・・幸せだなあ〜〜〜 」
「 うふ・・・ ホントはね、新鮮なお魚に助けられた・・・ってカンジだけど。 」
「 いやあ〜〜 このパリっとしたフライの食感もさあ〜〜
むぐ むぐ むぐ ・・・・ あ そういえば フラン、リハーサルはどうだった? 」
「 え。 ・・・ う〜ん ・・・ そうねえ ・・・ 50点 ってとこかな。
ぼちぼちってとこ。 まだ苦戦中です。 」
「 まあ 始めっから満点、ってのは無理だものな。 あ このサラダもうま〜〜〜 ♪ 」
「 ふふふ ・・・ 沢山召し上がれ。 」
フランソワーズはにこにこ顔で 次々と皿を空にしてゆく夫を眺めていた。
うふふふ ・・・ 気持ちがいいくらいな食べっぷりね、 ジョー
幸せ♪ こんな幸せがスキよ・・・
― あ。 オデットはこんな幸せ、知らないのよねえ
そうよ、もし ― もし。 ジ ジョーが ・・・・ 裏切ったり・・・ したら。
― どきん ・・・!
いきなり心臓は跳ね返った。
そんなコト・・・ ないわ。 そうよ、有り得ないわ・・・!!
「 あ〜 ・・・・ 美味かったぁ〜〜 アジのフライってこんなに美味いなんて
知らなかったよなあ・・・ 昔は苦手だったんだけど。 」
「 あら ジョーって アジのフライ、キライだったの? 」
「 ・・・ う〜ん ・・・ だってこんなに美味いのなんか食べたことなかったもの。
沢山作るから、いっつももう冷えて油っぽくってさ・・・
― そうそう 今日ね ちょっと懐かしいヒトに逢ったんだ。 」
「 なつかしいひと? 昔のお友達? 」
「 うん、 友達、というほどでも無いな。 知り合い、かなあ・・・ 」
「 そうなの? ウチにお招きしたらいかが? 」
「 あ いや・・・。 もう会うこともないから。 それより お味噌汁、もう一杯ある? 」
「 ・・・あ は はいはい ・・・ ちょっと待ってね。 」
「 う〜〜ん ・・・ 料理の上手い奥さんを持つって 幸せだなあ〜〜〜♪ 」
ジョーはふんふん・・・・ハナウタを歌いつつ 残りのサラダをなんぞを平らげている。
「 な? デザートは さぁ・・・ 」
「 ああ ジョーの好きなブラマンジェが冷えてるわ。 」
「 うん ・・・ でも ・・・ 」
「 あら、他のもののほうがよかった? えっと・・・ リンゴがあるけど・・・ 」
「 う〜ううん・・・ ぼくはコレがいい〜〜♪ 」
ジョーは箸をもったまま・・・ すっと伸び上がると食卓越しに彼の細君の唇にキスをした。
「 ・・・あ ・・・ら うふふふ・・・ ジョーったら〜♪ 」
「 ふんふんふ〜〜ん♪ 幸せって美味しいモンだね〜〜 」
ふふふ ・・・・わたしも し ・ あ ・ わ ・ せ ♪
〜〜〜〜♪♪ 〜〜♪♪
着信音が 微かに聞こえた。
「 ? あら。 ジョー? 携帯が鳴っているわよ? 」
「 うん? ああ ・・・・。 ・・・ ちょっとごめん・・・ 」
「 ・・・ あら 」
ジョーはポケットから携帯をひっぱりだし、ちら・・・っと眺めるとそのまま席を立った。
「 ごめん ・・・・ ちょっと 」
「 え ええ ・・・ 」
ジョーはそのままテラスへと出ていった。
「 ― あら。 ヘンなジョー・・・ いつもはここで電話に出たりするのに ・・・」
フランソワーズは 首をかしげて夫の後姿を見送った。
「 ・・・ お味噌汁、 せっかく温めなおしたのに ・・・ 」
ジョーが戻ってきたとき、 お代わりの味噌汁はすっかり冷めていた。
「 いやあ〜〜 ごめんごめん ・・・ 急に仕事の話でさ・・・ 」
「 いいのよ、 こんな時間まで大変ねえ。 」
「 え! ・・・あ ああ そ そうだね。 明日の打ち合わせで さ。 」
「 ジョー。 温めなおしましょうか? 」
「 ・・・え!? そ そんな 温めて、なんて ・・・ そ それは後で その〜〜 」
「 ― お味噌汁のことよ。 」
「 え!? み 味噌汁? ・・・ あ ああ ・・・ うわ! すっかり冷えてら・・・ 」
ジョーは味噌汁の椀を口にもってゆき 慌てている。
「 だから 温めなおす、って言ったのよ。 かして? 」
「 あ ・・・・ ああ、 う うん ・・・ それじゃ 頼む 」
「 ― はい。 」
カチン ・・・ カチャン ・・・・
「 どうぞ? ・・・熱いから気をつけて。 」
「 あ う うん ・・・ アリガト ・・・ 」
「 いいえ どういたしまして。 」
味噌汁は もう一度温かくなったけれど。 ウキウキしてた食卓の雰囲気は温まらなかった。
「 ・・・ あ ご ごちそうサマ ・・・ 」
「 お粗末でした。 ジョー、お風呂、沸いているわ。 」
「 あ ・・・ そ そうか〜 うん じゃ。 ああ きみ、先に休んでていいからね ・・・
うん ・・・ お お休み〜〜 」
「 ・・・あら ・・・ オヤスミナサイ ・・・ 」
イッキに温めなおした味噌汁を飲み、ジョーはそそくさと席をたった。
ふう〜ん ・・・ ついさっきまで <その気満々> だったじゃないのォ?
この時間に 明日の打ち合わせ電話なんて ・・・ する?
フランソワーズは 食器をキッチンに運び、大きく溜息をついた。
せっかく楽しい晩御飯だったのに〜〜〜 そりゃ お仕事も大変だけど〜
― 仕事? ホントに仕事 かしら ね?
・・・・ え?!
彼女のどこかでほんの小さな声が聞こえて 思わずどき・・・っとした。
「 え ・・・だって。 仕事だって言ったわ、 ジョー自身が。 」
― 信じているんだ?
「 あ 当たり前でしょう!? ジョーがわたしにウソなんて言ったことないもの、今まで・・・ 」
― 今まで は ね。
「 な なによ? ジョーはそんなヒトじゃありません! 」
― ムキになってる・・・ 気にしている証拠だね
「 気になんてしてません! ジョーは ・・・ 忙しいのよ! 編集部って大変なの! 」
― へえ・・? 家庭に仕事は持ち込まないのが主義じゃなかったっけ?
「 そ それは・・・時と場合によるわ。 ・・・いちいち細かく突っ込まないでよッ 」
― あ〜ら 事実を指摘してるだけよ? 気になっているクセに。
「 煩いわ! わたし、忙しいの。 ・・・黙っててくれない? 」
― ふふん 聞きたがったのはアナタでしょう〜?
「 もうッ !! 」
ガタン! フランソワーズはトレイをシンクの横に置いた。
「 さ! 早く片付けなくちゃ。 ジョーがお風呂から出てくる前に ね。 」
・・・ そうよ♪ 今晩は ― ぽ・・・っと身体の奥が熱くなる。
フランソワーズは一人頬を染めつつ 手早く洗い物を片付け始めた。
「 ・・・ ジョー? もう出たの? 」
そっと寝室のドアを開ければ ― カタカタカタ ・・・・ キーボードを叩く音がする。
「 ?? ジョー・・・ ここでお仕事 ・・・してるの? 」
「 ・・・え!? あ ふ フランソワーズ? うん あ あのちょっと だけなんだ。
うん、 もうこれで終わりさ。 」
ジョーはベッドサイドで ノートパソコンを開きなにやら熱心に作業していた。
「 ・・・・ そう? あ 邪魔になるならわたし・・・お風呂に入ってきますけど? 」
「 い いや その 邪魔だなんて〜〜 そんな 」
「 ? なあに。 あら メール? 」
フランソワーズが ちら・・・っと視線と向けるとジョーは慌てて画面を終らせ接続を切ってしまった。
「 終ったの? 」
「 う うん! ・・・ あ〜〜 これでなんとか・・・
あ きみ、これから風呂なのかい? ゆっくり入ってこいよ 〜 」
「 え ・・・ ええ ・・・ 」
「 ちゃんと起きて待ってるから さ♪ オクサン♪ 」
きゅっと抱き寄せられキスをもらえば 自然に笑みも浮かんでくる。
「 うふん ・・・ 急いで入ってきます♪ 」
「 うん ・・・待ってる♪ あのボディ・ソープ、使ってくれる? 」
「 ええ わかったわ♪ 」
あ ん ・・・ この瞳〜 ジョーのこの目・・・たまんな〜い♪
ゾクゾクっと背筋を幸せの昂ぶりが駆け昇った。
「 じゃ・・・ 急いではいってくるわね。 」
「 ああ そんなに急がなくていいよ。 ちゃんと待ってるから さ。 」
「 ・・・ふふふ ありがと♪ 」
染まった頬に手をあてて フランソワーズは寝室をでた。
小走りにバス・ルームまで 来て
・・・ ジョー ・・・ メール・・・打っていた?
ちら・・・っと見えたモニターがフランソワーズの脳裏に蘇った。
「 なんであんなに慌ててオフしたのかしら。 お仕事 なの・・・? 」
今、 彼は ― なにをしているのだろう。
ついぞ 思ったことのない感情が彼女を支配した ― 見たい ・ 聞きたい ・・・・
バス・ルームのドアによりかかり 彼女は<能力>のスイッチを
「 ・・・! な なにしてるのよっ フランソワーズ ・・・! 」
― バチ ・・・!
自分自身の行為を恥じ耳の付け根まで赤くなり、フランソワーズはスイッチを切った。
「 やだやだやだ〜〜〜 わたしってこんなオンナだったの??
さっいて 〜〜〜 !!! 」
バス・ルームに飛び込むと フランソワーズはシャワーのコックをひねった。
シャワ −−−−−−−− ・・・・!
「 ! つ つめたッ・・・! ・・・・ でも いいわ。
この水で わたしのイヤな心が流し去ることができるなら・・・! 」
冷水が当たり全身が 痺れてきた・・・
「 ・・・ 最低よ、フランソワーズ! あんた、夫を信じられなくてなにが結婚生活なの?
さあ その貧しい心根を洗い流しなさいよッ 」
シャワ −−−− ・・・・・
水流の音はまだしばらく続いていた。
「 ・・・・ ・・・・ 」
― キシ ・・・!
寝室のドアが ほんの微かな音を立て開いた。
せまい隙間から フランソワーズはすばやく身体を滑り込ませた。
「 ・・・ ? よかった・・・ 起こさないですんだわね。 」
ちらっとベッドの方に視線を向けて、ほっと一息。 足音を忍ばせてドレッサーの前に座った。
鏡の中には 青白く沈んだ肌に濡れた髪を纏わらせたオンナが映る。
「 ― ひどい顔 ・・・ でも これがアンタの正体なのよね、フランソワーズ ・・・ 」
のろのろとタオルを取って髪を拭いはじめた。
ふうう ・・・・ 重い重い溜息が足元に沈んでゆく。
「 もしもし 奥さん? 待ちくたびれちゃったですけど。 」
不意に後ろからふわ・・・っと温かいモノが覆い被さってきた。
「 ジョー ?!?? 起きていたの?? 」
「 ああ、ずっと ね。 きみってばいつまでたっても戻って来ないんだもの。
風呂で居眠りでもしていたのかい? 」
「 え ・・・ あ の ・・・・ 」
「 ?! おい、ちゃんと温まったのか? すごく ・・・冷たいぞ? 」
ジョーは抱き締めた身体の冷たさに驚いている。
「 風邪 ひくぞ? ほら タオル貸して ・・・ 」
「 ・・・あ ・・・ 」
タオルを取り上げ 彼はごしごしと彼女の髪を拭い、身体を擦リ始めた。
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
「 やだなあ〜〜 シャワー、壊れてたのかい。 直してくるよ。 」
「 あ! ジョー! いいの、いいのよ。 そんなことよりも ・・・ 」
フランソワーズは ぱっと立ち上がると彼に抱きついた。
「 待たせてごめんなさい ・・・ タオルよりも ・・・ ジョーが温めて ・・・ 」
「 ・・・ りょ〜〜かい♪ さあ おいで、奥さん ・・・ 」
ジョーは彼の愛妻を抱き上げると 悠々とベッドに連れていった。
― あれはアンタの思い過ごし よ。 オバカなフランソワーズ・・・
ほら ジョーはこんなに優しいじゃないの ・・・
二人して熱い昂みへと揚りつめつつ ― フランソワーズは懸命に自分自身に言い聞かせていた。
熱い夜は 小さな猜疑心などたちまちに熔かし去った ・・・ らしい。
翌朝は 雲の多い空模様だった。
「 ・・・ 雨・・・降るのかしら。 イヤねえ・・・ 」
フランソワーズはすこし浮かない顔で 空を見上げた。
「 うん? 降ってもたいしたことないと思うよ。 」
ふんふんふん ・・・ ジョーはハナウタなんぞを歌いつつ、玄関に現れた。
「 そう? あ ・・・ ジョー、傘を忘れないで ・・・ 」
「 りょ〜〜かい♪ ふんふんふ〜〜ん・・・・っと。 あ〜すっきりいい朝だよなあ〜 」
「 ?? そうォ?? こんなに雲っているのに・・・ 」
「 昨夜の〜〜♪ すっきり爽やか身体が軽い〜〜〜♪
・・・いやなになんでもないよ。 さあ 今日もイッテキマス、奥さん♪ 」
「 あ ・・・ んんん ・・・・ 」
「 きみも! 頑張れよ〜〜 ほら、 白鳥が来る湖のハナシ! 」
「 え ・・・ あ〜〜 そうねえ。 はい、頑張るわ!
ジョー 行ってらっしゃ〜い♪ 今晩は ね、 にくじゃが ♪ 」
「 うわ〜〜お♪ 嬉しくてどうかなりそう〜〜 じゃ な♪ 」
「 んん ♪ 」
もう一度 ちゅ・・・・っと軽く唇にキスを落とすと、ジョーは滑らかに車を発進させていった。
「 ・・・ いってらっしゃ〜〜い・・・ ! 」
フランソワーズは門の前で 手を振って夫の車を見送った。
「 さ〜て わたしも出かける準備しなくちゃ。 」
― カツン ・・・!
振り返った足が なにかを蹴飛ばした。
「 うん? あらなにか落ちていたのかしら。 ・・・ ああ これね ・・・
ジョーが落としたのかなあ ・・・ 」
すぐ側の花壇に飛んでいったものを拾い上げてみれば ―
「 なあに これ。 ― 口紅??? 」
彼女の手には小さな長方形の箱が あった。
「 これ ・・・ 〇〇〇のじゃない? なんで?? ジョー・・・仕事で使うの? 」
撮影の小道具にでも使うのか、と思ったが口紅はきちんとラッピングされていた。
どう見ても プレゼント用な仕様だ。
フランソワーズはしげしげと包みのロゴをみた。
「 ・・・ これ ブランド物でかなり高級なのよねえ・・・ オトナ向け、っていうか・・・ 」
でも。 どうして ・・・? ジョー ・・・・
― ぽつん ・・・・!
なにか冷たいモノが 項に当たった。
「 ?! ヤダ 雨・・・・ きゃ! 大変〜〜 急がなくちゃ 遅刻〜〜・・・! 」
いったいどのくらいの時間、 掌の包みを見つめて佇んでいたのだろう。
フランソワーズは 落ちてきた雨粒で我に帰った。
「 ・・・ 大急ぎ〜〜 もう〜〜 わたしったら・・・! 」
その包みを握ったまま 彼女は玄関に飛び込んだ。
「 ・・・ふう ・・・ なんとか間に合いそう・・・ 」
フランソワーズは満員電車のすみっこで こそ・・・っと溜息をついた。
「 ぁ・・・すみません ・・・ 」
大きなバッグをそっと引き寄せ、 混雑の中で身を縮めた。
「 ・・・ 今朝も混んでるなあ・・・ 大分慣れたけど・・・ 」
この国に住むようになり、 そして毎朝電車を乗り継ぎ都心近くまでレッスンに通うようになり ―
フランソワーズは <ラッシュ> に否応なしに巻き込まれた ・・・
周囲の人々は 音楽を聴いたり・携帯を弄ったり。 本やら新聞を読んだり ・・・ 居眠りをしたり。
そのどれにも馴染めない彼女は もっぱら人々を観察 ― マン・ウォッチング に精を出していた。
「 ・・・ へえ 随分大胆な恰好ねえ・・・ あら ステキなムッシュウ・・・
キツイ香水・・・ ちょっとシックじゃないわよ〜 ― あ ・・? 」
すこし先に 秋色のスーツの女性が熱心に文庫本を読んでいた。
控えめなメイクだが 落ち着いた深い色のルージュだ。
「 ・・・・ イイカンジ♪ あら ? あの口紅の色・・・・かも ・・・
オトナな女性ね。 いいなあ・・・わたしって子供っぽいからなあ・・・
― あ ・・・? ジョーって ・・・ あんなヒトが ・・・? 」
「 ― お待ちになりまして? 」
「 あ ・・・いえ ・・・ やあ その口紅、貴女によく似会う・・・大人の女性に ・・・ 」
「 まあ ・・・ふふふ お上手ね、島村さん。 」
「 いや 本当にコトを言っているだけです。 その色はコドモには無理ですから。
ぼくはオトナの女性が好みでね ・・・ 」
「 ・・・ お若い奥様がいらっしゃる方がよくおっしゃいますわね。 」
「 それは言いっこナシ。 さあ 行きましょう・・・ 」
「 〜〜〜〜な〜〜〜んて ・・・!
そうよ ― どこかにわたしなんかよりずっとオトナで洗練されたヒトが ・・・ 」
― ぐちゃ・・・!
ハンカチを握り締め、満員電車の中でフランソワーズは一人、
自分自身の妄想に赤くなったり青くなったりしていた。
Last updated
: 09,13,2011. index / next
*********** 途中ですが
続きます〜〜
平ゼロ設定、 【 もうひとつの ・ 島村さんち 】 バージョンです。
秋の夜長は ・・・ 妄想タイム〜〜〜 ねえ フランちゃん??