『 ショコラ ショコラ ― (2) ―
』
あははは ・・・・ がちゃ〜ん! だからァ〜〜 きゃ〜うそぉ〜〜〜
昼食時はもう過ぎていたけれど、 その場所は相変わらず賑わっている。
ほぼ同じ年齢層のワカモノたちが のんびり談笑しのんびり遅い昼飯をし
のんびりスマホを弄っている ― ここは 某大学の学食。
なんとも賑やかな環境で ジョーは一人 ― 熱心にメモを取っていた。
「 え・・・っと・・・ こっちのは ・・・っと。 上級者向け かあ ・・・
ウ〜ン ちょこっと無理っぽいかなあ ・・・ う〜ん ・・・ 」
なにやらぶつぶつつぶやいたり、長めの前髪をがしがし引っ掻き回したりしている。
彼の前には ― 色彩も豊かな雑誌が広げられ美味しそうな写真がこれでもか! と
並べられているのが見てとれる。
「 う〜〜ん ・・・ やっぱ コレかなあ・・・ これなら なんとか・・・ 」
雑誌を見ては カリカリ・・ノートに書き写している。
そんなジョーの周囲では ― 実に微妙な包囲網が形成されつつあった。
しかし。 009ともあろう者がまったく気づいていない・・・のであるが。
「 ・・・ ねえ? ・・・ 彼 でしょう? 」
「 そ♪ 理工の機械科の一年〜〜 」
「 ふうん ・・・ カワイイね〜 」
「 でしょ? ねえ ねえ? 」
「 うふふ うふふ〜〜 タイプ〜〜 」
「 うっほ ☆ ・・・ マジ ヤローかよ〜? 」
「 ああ。 機械科の一年だと。 オンナ共が騒いでるぜ〜 」
「 へ ・・・! けど顔のわりに服とか地味じゃん? 」
「 ・・・ ってか オッサンくさくね? 」
「 ばっか! よく見ろよ〜 アレ、海外ブランドもんだぜ〜 」
「 え。 」
「 ちょいオッサン向けだけど ・・・ たっけ〜〜んだぜ〜〜 」
「 ・・・ おぼっちゃま か?? 」
「 え。 俺らのクラスに ・・・ いないぜ? 32−bじゃね? 」
「 ちゃう ちゃう。 アイツ、聴講生さ。 後期も途中から来た ・・・ 」
「 は! ど〜りで必修でもお目にかからんわけヨ。 けど ・・・ 聴講??
講義聴きたいなら来年もいっかい受験すりゃい〜じゃんか〜 」
「 意味不明〜〜な ヤツ ・・・ 」
ヒソヒソ コソコソ うふふ うふ・・・ しー〜〜 きゃ! あ バカ! ごめん ・・・
皆 遠目からさり気な〜く ・・・ じわじわと < ターゲット > に接近し始めていた。
「 ねえねえ・・・ 声、かけてみようよ〜 」
「 ・・・ でもさあ まったく知らないんだよ? 」
「 あ! アタシさあ、前に一般教養の哲学でグループ討論したことある! 」
「 て 哲学ぅ〜〜?? アンタがあ? 」
「 だってレポートだけで OK〜って聞いたから。 」
「 え!? それ、誰の哲学?? 」
「 ・・・ 確かにレポートだけ だったけど。 10枚以上、だったんだ。 10枚 〜〜 」
「 ・・・ やめよ。 」
「 その哲学でさあ ず〜っと一番前で聞いてて 熱心にノートとってたのが 〜〜
しまむらくん だったわけ。 」
「 へえ〜〜 す ごォ〜〜〜イ・・・」
「 真面目なんだね〜 討論とかしたわけ? 」
「 ・・・っていうか。 なんか ・・・ ちょっと変わってた・・・ ず〜っとニコニコ・・・皆の発言、
聞いてるだけだった〜 」
「 ふうん でも! 変わっててもいい! イケメンならば。 ― いくわよ〜〜 ! 」
「 ・・・!!! 」
コツ ・・・! 大柄な黒髪が微速前進を開始した。
ターゲットは ・・・ 茶髪ボーイ。 距離 2メートル!!
「 え〜〜と ・・ 次にこれを小鍋にいれて・・・ いれて・・・っと。 えっと ・・・
次 次 〜〜 でェ ・・・ 湯煎にし。 ゆせん??? なんだ コレ?? 」
ジョーは思わず声を上げていた ・・・ らしい。
「 あら ゆせん? それはね、鍋ごとお湯で煮るとよ。 」
( ・・・ ちょいニュアンスが 〜〜★ )
突然 にこやか〜な声が降ってきた。
「 ああ そうか〜 煮るのかあ。 ― へ!? 」
ふむふむ・・・とノートに書き止めてから ジョーははっと気が付いて顔を上げた。
「 あ あのぅ〜〜〜 どちら様で・・・ 」
「 あ ・・・ ごめんなさ〜〜い♪ ワタシねえ 英文科の一年でェ シマムラ君とぉ 」
「 英文科?? 知り合いはいないです。 すいません。 あ 先ほどは解説ありがとうでした。 」
ぺこり、とアタマを下げると 彼はまた雑誌に没頭してしまった。
「 え〜 あのぉ〜〜〜 もしも〜し?? 」
「 ・・・・ ふうん、そっか〜〜 鍋ごと鍋で煮る、のかあ〜 ふんふん ・・・
そんでもって 型に流し込んで ・・・ うう これは超ハイテクかも・・・ 」
「 もしも〜し。 シマムラっく〜ん? 」
「 ・・・ ぼくにできるかな。 ・・・ いや 出来るか、じゃなくて。 やるんだ!
それっきゃない! そうさ ― いつだって あとは勇気だけ! 」
どん! シマムラ君は拳骨でテーブルを叩いた。
「 !? ねえ シマムラ君ってば! 」
「 ― ・・・・? はい? あの〜〜〜 どちら様で ・・・? 」
数十秒後、 英文科女史は肩を竦めて仲間たちのところにもどって来た。
「 わ〜〜〜 ねえ どうだった?? 彼、 なんだって?? 」
「 ・・・ チョコ作り に没頭 なんだって。 」
「 は??? チョコ ・・・? 」
「 そ。 それも ヴァレンタインの! だって。 」
「 は? 」
「 つ〜まり。 ・・・ カレシ持ち、だったのよ〜〜〜 」
「 ・・・ う う〜〜〜ん ・・・・ 」
遠巻きの輪がゆらり、と動き絶望と希望と羨望?がごちゃごちゃに渦巻き始めた。
― そして。 ウワサはイッキに拡散した ・・・!
「 ・・・ ね! きいた〜〜? シマムラ君のこと。 」
「 あ しってる! チョコの作り方 とか ケーキの作り方 とかの本、借りてる・・・ 」
「 そ! 手伝いましょうか? とか 言っても これはどうしても自分でやらないとね
とかいうでしょう? 」
「 そうよ〜〜〜 ・・・ もしかして。 801なの? 」
「 わかんな〜〜い でも。 彼って可愛いよ〜う・・・ 睫毛とかびしばし〜で長いし〜
好かれそうだわよ、 ― オトコに! 」
「 うわっは〜〜〜 そうだ ね! 」
「 きゃは♪ ちょっといいじゃな〜〜い♪ 観察してれば < カレシ > を見れるかも〜 」
「 いやァ ・・・ アレは年上のちゃんと大人のムッシュウがいるタイプよ〜 」
「 あ♪ そうかも〜〜〜 わがままな美少年 って? 」
「 というか・・・ 可愛い天使 かも〜〜 」
「 きゃわわ〜〜〜ん♪ 」
「 ねえねえ 聞いた? ・・・ 車で迎えにきてたんだって! ・・・ ムッシュウが! 」
「 え〜〜〜 ウソ〜〜〜 」
「 ホント。 ちらっとしか見えてなかったけど ・・・ なんか金髪っぽいヒトが運転してた。 」
「 あ アタシも見たよ〜 金髪は運転手みたい。 クルマから降りなかったからよくわかんないけど ・・・
バック・シートにバリバリスキン・ヘッドの オジサマ みたわよ! 」
「 うわ〜〜〜 金髪のお抱え運転手に スキン・ヘッドのムッシュウ??
すごい〜〜〜 シマムラ君って お坊ちゃまなのかも〜〜〜 」
・・・ ウワサというものは得てして本人丸無視で 超〜盛り上がるものだ ・・・
理工・機械科の シマムラ君 は年上ムッシュウに熱愛され中のお坊ちゃま♪
そんな<定説> が女子学生の間で根を下ろすまで一週間もかからなかった。
そしてこのテのウワサは決して本人の耳には入らず、ナントカ桟敷、なのだった。
そうこうしているうちにも <チョコレート祭り> の日はどんどん近づいてくる。
今日も茶髪ボーイは学食の喧騒の中で 雑誌に首をつっこみ没頭していた。
「 う〜〜ん ・・・ どんなの、好きかなあ・・・ う〜〜ん 迷うなあ〜〜 」
「 あ シマムラ君?? どうしたの。 」
「 ・・・ え ? 」
丁度 沈思黙考しあぐねて彼がぶつぶつ始めた時に ― 一人の女子がたまたま通りかかった。
ごく普通の、 いや 今時の女子学生よりはかな〜りカジュアル路線の黒髪・・・な 美女!
彼女は理工・機械科の ごく少ない・貴重な・みんなのマドンナ、と目されている存在なのだ。
「 ・・・ は?? 」
ジョーは はとが豆鉄砲くらった顔で声を掛けてきた女性をしみじみ眺めた。
「 なにかご用ですか? ・・・ えっと ・・・ 機械科2年の ハヤサカさん。 」
「 あら。 ワタシのこと、知ってるの? 」
「 ハヤサカさん、有名ですから。 優秀だし。 」
「 ・・・ そりゃど〜も。 あの ・・・ なにか困ってる雰囲気だったし。
あの ・・・ 同じ科でしょ? 学年、違うけど。
あの ・・・ なにかアタシも役にたてるかな〜〜なんて思って。 」
セピアの瞳にドギマギしつつも、彼女は渾身のチカラを籠めて! ・・・ 微笑した。
く ・・・! たかが微笑に〜〜 こんなにチカラがいるなんて・・・!
・・・ この坊や タダモノじゃあないわね!
「 そうですか。 それはどうもありがとう。 あ ぼく。 聴講生なんです。 」
「 あら そうなの? でも同じ学科なんだし〜〜 」
「 ぼく、全然わかってないので基礎からやってます。 」
「 そ そう? ・・・ ねえ なにを困っているの? 」
「 え・・・? あ あの〜〜〜・・・ ホワイトとブラックと。 どっちがいいかな〜 と思って
ず〜っと、迷っているんです。 」
「 まあああああ〜〜〜 それなら是非是非このお姉さんにまかせて!
そうねえ〜〜 勿論純白! ってキャラだけど。
アンバランスで好印象うp!を狙ってもいいから ・・・ 黒もいいわねえ 〜〜 」
「 ・・・?? はひ? 」
「 憂愁の美少年を 迎えに来るのは ― 彼のオジサマ、いや ムッシュウかしら ・・・・
学生諸君、許しくれたまえ ・・・ 彼はワタシのものなんだから ね なあ〜〜んて! 」
「 ・・・ は はあ ・・・ あの〜 演劇部かなにかなのですか? 」
「 は?? 」
「 だってセリフとか暗記してるのでしょ? 学生諸君〜・・・って。 」
「 え。 あ ま まあそんなトコよ。 独り言よ、 独り言。 気にしないで 〜 」
「 そうですか。 ハイ、気にしません。 」
「 えっと あの〜〜 その前髪 ・・・ うふふ、シマムラ君ってステキね♪ 」
「 ・・・ は はあ ・・・ ぼく、ぼくねんじん なんていわれてて ・・・
ごめんなさい、なにかシツレイなこと、言ってるかもしれません。 」
「 ぼくねんじん??? まあ そうなの? ( なに それ? ・・・まあいいや ) 」
彼女は理系なので文学的な表現や微妙〜なニュアンスやら比喩は苦手らしかった。
「 あの その ・・・ ホワイトとブラック。 ふつうはどちらが好みなんですか? 」
「 あら それならさっきも言ったけど。 シマムラ君ならどっちでも似会うと思うわァ〜 」
「 あ ・・・ その。 ぼくの、じゃなくて。 プレゼント なんですけど・・・ 」
「 ― プレゼント!? ・・・ これは本格的ねえ〜〜 」
「 これ ・・・! 」 少年は前髪に顔をかくし、包みを押し付けた。
「 なんだね? 」 ギドはわかっていたがわざわざ聞き返した。
― 彼の声をもっと聞いていたいから。
彼の唇が動くのをもっと見ていたいから ・・・
「 だから さ。 ギドに ・・・って。 14日だろ〜 」
「 おお ありがとう。 開けてもいいかな。 」
「 ・・・ ん ・・・ 」
少年は拗ねた風にぷい、と反対側を向いてしまった。
「 きゃ〜〜〜〜 なあんてェ〜〜〜 うふふ うふふ ・・・ どんなムッシュウなのかなあ〜 」
どうやらソチラの趣味があるらしき彼女 ・・・ 遠い目をしつつにんま〜りしている。
「 あの? ぼく ・・・ なにか可笑しなコト、言いました? 」
「 え!? ああ ううん ううん〜〜 ねえ ・・・ 聞いていいかしら。
お相手 は ・・・ どんな方? 」
「 え ・・・ ウン・・・ あの ・・・と 年上 なんデス。 」
「 ― 年上!? やっぱりねえ・・・ 」
「 え!? そ そんな風に見えますか ・・・ ぼく ・・・ 」
「 え〜え♪ 年上のいいヒトがいる・・・そんなタイプだわァ〜〜〜
ね! ね! ナイショで教えて〜〜 そのヒトは・・・ どんなヒト?? 日本人 ? 」
「 あ いえ そのぅ〜〜 フランス人で ・・・ 」
「 ふ ふ ふ 仏蘭西人〜〜〜〜!?!? きゃい〜〜 最高じゃない? 」
「 え あ そ そうですよねえ ・・・ 」
「 うふうふうふ〜〜〜♪ ねえねえ 是非! きみの恋の行く末をお姉さんに教えて〜〜♪ 」
「 え ・・・で でも・・・ まだ ・・・ そのぅ〜〜 ぼく、コクハクしてないんで ・・・ 」
「 まあ!? まだ告ってないのぉ?? ・・・ あ それでヴァレンタインね?!
うん うん そりゃいいわ〜〜 それで ホワイトかブラックか って悩んでいるのか〜
うふふ うふふ ・・・ そりゃタイプとしては 大人の黒♪ だと思うけど。
でも君の純真さを示して 無垢なる白♪ もいいわよぉ〜〜 」
「 ・・・ は はあ ・・・ で どっちが ・・・ 」
「 そ〜れはアナタの愛で感知することね〜 」
「 愛、ですか・・・ あ! あのあの 一つだけ教えてください! 」
「 まああああ〜〜 なにかしら♪ 」
「 ・・・ あの。 オンナのヒトって。 年齢 ( とし ) の差って気になるものですか? 」
「 ― へ ? 」
「 ぼくは ― 気にしてません。 でも 彼女 ・・・ なんかとても気にしてるみたいで ・・・
ぼくは全然いいのに。 1歳年上でも40上でも ・・・ 」
「 ・・・ は ひ ・・・? ( よ よんじゅう?? このコ、ツバメなの??
恋人は年上のムッシュウ じゃなくて 有閑マダム?? ) 」
「 ・・ ジョー。 どこに行っていたの。 」 大きな宝石が煌く指が彼の前髪を梳く。
「 あの ・・・ これ。 貴女にって思って ・・・ 」
彼ははにかみつつ ・・・ 白薔薇の花束を差し出した。
「 まあ ・・・ 可愛いコね ワタクシのジョー ・・・ 」
脂粉の香りが濃く漂い ― 彼の首筋に熱く唇が押し付けられた。
「 ・・・ なあ〜〜んて♪ ふひひひひひ・・・ 」
「 あ あの?? ハヤサカさん? その〜〜 やっぱり愛があれば 気になりませんよね!? 」
「 ・・・ え? あ ああ そ そうね ・・・ ( う〜む〜〜 ・・・ コイツはあ〜〜 )
ま、頑張ってね!!! 機械科の先輩として応援しているわ!!
・・・ で。 成就のアカツキには〜〜 レポートよろしく♪ じゃあ ねえ 〜〜 」
にんまり笑顔で彼女は行ってしまった。
「 あ ・・・ あ〜あ ・・・結局どっちがいいか、の意見はナシかあ〜〜
けど。 ここの女子学生って面白いヒトが多いんだなあ・・・ 」
ジョーはテーブルの上の雑誌を片付け始めた。
「 それにしても う〜〜ん ・・・ ホワイト・チョコ と ビター・ブラックと。
どっちがいいのかなあ〜〜 う〜〜〜 迷う〜〜〜 ・・・ 」
もう作り方の手順はすっかり覚えてしまった。 毎日 レシピを見ていたから・・
ゆせん の正しい意味もわかった。 ネットで調べたから・・
材料もスーパーやらホーム・センターを歩き回って格安でそろえた。
今は経済的に不自由はないが贅沢には慣れてないから・・
「 ・・・ あとは作るだけ・・・! なんだけどなあ・・・ う〜〜ん ・・・ 」
― 島村ジョーは 悩んでいる。 ホワイト・チョコにすべきか ビター・チョコを使うか。
周囲の誰もが 具体的に示唆してはくれなかった。
「 え〜〜〜い・・・! 両方入れちゃえ〜〜! 」
運命の日を明日に控え ― 学食の喧騒の中でジョーは半ばヤケッパチで宣言した。
― ガラリ。 引き戸のドアを ゆっくりと開ける。
・・・中には ほ・・・っとする小さな静寂があった。
「 よ・・・いしょ・・・っと。 」
フランソワーズはきっちりとドアを引き、閉めた。 表通りを吹きぬける寒風を入れたくなかった。
「 これで ・・・ いいわね、 ホコリが大変よねえ ・・・ このお天気だと・・・ 」
ぶつぶつ独り言を言いつつ、彼女はゆっくりと店内を見回した。
客はいない。 この店は時計屋だが <売る> よりも <修理> の方に重きを置いている
のかもしれない。
「 え・・・と ・・? ごめんください ! ・・・でいいのよね? 」
彼女は躊躇いつつ 奥に向かって声をかけた。
「 ・・・ あ ・・・ すいません〜 」
やっと声がして あの店主が慌てて出てきた。
「 いらっしゃいませ〜 どうもすいません ・・・ やあ 貴女でしたか。 」
店主の顔がいっぺんに明るくなった。
「 こんにちは。 あの ・・・ ? 」
「 はい、 修理完了ですよ。 ちょっとお待ちくださいね〜 」
「 はい。 」
店主は一旦引っ込むと、すぐに白い箱を手に戻ってきた。
「 ― どうぞ? 」
蓋を取り除いたその中には ― 燦然と輝く懐中時計があった。
「 ・・・ まあ ・・・ こんなに キレイだったかしら ・・・ 」
フランソワーズは箱の中身に見惚れてしまい、すぐには手を出せなかった。
「 ちょっとクリーニングしましたが。 元が素晴しいものですからね。
失礼ですがこの時計はいつお求めになったのですか。 」
「 あ あの ・・・ 誕生日プレゼントに貰ったのです。 」
「 ああ 〜〜 そうですか。 ご家族のどなたかのものだったのですね?
このようなお品は 現代ではなかなか手に入らないのですよ。
きっと代々ご家族の中で受け継がれていらしたのでしょう。 」
「 あ ・・・ は はあ ・・・・ 」
「 ちゃんと動きますよ。 どうぞ ― 大事に使ってあげてください。 」
「 ありがとうございます! ・・・ ああ うれしい・・・! 」
「 そしてね、 調子が悪くなったらいつでもお持ちください。 喜んで修理させていただきます。」
店主は営業用の愛想ではない、心からの笑みを浮かべていた。
「 はい! ヨロシクおねがいします。 」
チ チ チ チ チ ・・・・・
ずっと ・・・ 家に帰りつくまでずっと時計を手に握っていた。
手袋をしていると、滑って落としそうなので素手でしっかり持っていた。
チ チ チ チ チ ・・・・・
掌でソレは規則正しくほんの微かに揺れる ― 気がする。 そんなはずはないけれど ・・・
「 ・・・ 生き返ってくれたのね。 また ・・・一緒ね、ずっと一緒よね ・・・
ねえ 聞いて? わたし、とても遠くに来てしまったの ・・・ あの街から あの頃から 」
フランソワーズは心の内で 時計に話しかけ続ける。
時計店の主人が 一回蓋を開けてみせてくれたけれど、 自分ではまだやっていない。
「 ・・・ なんだか 怖いの。 蓋を開けたら ・・・ 40年の歳月が降りかかってきそう ・・・ 」
玉手箱じゃないけれど、 時間 ( とき ) を超えてきたオヒメサマは 臆病になっていた。
ローカル駅からの循環バスを降りると 空がぐう〜んと広くなる。
その広い青空の下で フランソワーズは時計を陽に翳してみた。
「 ねえ 時計さん。 今ね、わたし ・・・ こんなところに住んでいるの。 」
― チカリ、と上蓋は華やかな光を撒き散らす。
「 そう? 気に入ってくれた? うれしいわ〜〜 なかなかいい場所なのよ。 」
ずっと握ってきたので 時計は温かくなっていた。
「 ね ・・・ 今ね。 わたし。 笑えるの。 こんな身体になってしまったのに ・・・
また 笑って生きているのよ。 」
つるり、と撫でると時計はますます輝きを増し、微笑んでいる風に思えた。
その夜も お休みなさい、 とにこやかに挨拶を交わし ― 寝室に引き上げた。
「 あ〜ああ ・・・ ついついおしゃべりしてて・・・遅くなっちゃうのよねえ・・・ 」
ドアを閉めれば ・・・ 室内に響くのは低い波の音、 そして 今日からは
チ チ チ チ チ ・・・・・ チ チ チ チ ・・・
微かに懐かしい音がする。
帰宅してからもずっとポケットに入れていたから 音は聞こえていたはずだけれど。
今 夜の静寂 ( しじま ) の中、 懐中時計は急に饒舌になったのかもしれない。
「 ・・・ ふふふ ・・・ あなたって実はおしゃべりさんなのね? 」
指の腹で撫でそっと上蓋を開ければ ― 自分の名前が輝いている。
ああ ・・・ ! あの日からずっと ・・・
わたしの名前 ・・・ ここにいたのね ・・・
003 じゃなくて。 本当に19歳の女の子の 名前 ・・・
「 少し細工させたよ 」
「 誕生日に帰国できなかったからなあ 」
兄の声が時計の音とともに耳の奥にはっきりと蘇る。
― あれは。 ほんの ついこの間 ・・・ そんな風に思いたくなってしまう。
「 ・・・ お兄ちゃん ・・・ お兄ちゃん ・・・・ 」
鼻の奥がツン・・・と熱くなり 涙が盛り上がってきた。
「 ・・・ お兄ちゃん ・・・ わたし ・・・ 生きているわ ・・・
もう ・・・ 人間じゃないの でも また 踊っているのよ ・・・お兄ちゃん ・・・ 」
ぽと ぽと ぽと。 涙がベッド・リネンをぬらす。
「 ねえ ― お兄ちゃん。 それに 時計さん。
わたし ね。 好きなヒト、いるの。 そんな風に想える心も ちゃんと生きていたの。
・・・ ねえ お兄ちゃん ・・・ 笑ってもいいのよ。 」
パフン ― 時計を持ったまま彼女はベッドに倒れこむ。
「 うふふ ・・・ ねえ お兄ちゃん。 一発 殴って ・・・ 許してくれるわよね
あ〜 でもねえ ふふふ あのコを殴るのは ・・・ かなり命がけかもしれなくてよ? 」
ぱちん、ともう一回、時計の蓋を開ければ、すでに針は日付の変わったことを示していた。
「 ・・・ もう 寝るわ。 」
時計を枕もとに置き、フランソワーズはもぞもぞ・・・羽根布団の中に脚を突っ込みかけ ・・・
ふ・・・っと壁のカレンダーに目が行った。
・・・!!! もう 今日って 14日 じゃない!?
― ばふ・・・! 羽根布団が大きく引っ繰り返った。
「 チョコ〜〜〜 チョコ 作らなくちゃ! そんでもって ちゃんと渡さなくちゃ!
わたし ・・・まだ 好き って 言ってないもの! 」
脱兎のごとくベッドを飛び出し、 ガウンじゃ寒いと思ったのでダウン・コートを引っ掴み、
フランソワーズは ― そ〜〜〜っとキッチンへと降りていった。
― カチ。
深夜のキッチンが白々とした灯に照らされている。
「 ・・・ なんか いつものキッチンとは別の場所みたい ・・・
・・・あら ・・・? なんか ・・・ いい匂がする 気のせいかしら? 」
ひんやり冷えた空気に ほんのちょっとだけど、 甘味な香りが残っていた。
「 ??? 昨夜のデザートは ・・・ イチゴよねえ? でもこれ ・・・イチゴの香りじゃないし・・・
あ。 博士かジョーが コーヒーでも淹れたのかしら。
そうね〜 そうよ、きっとジョーだわ。 彼ってコーヒーにも紅茶にもミルクと砂糖た〜っぷり、
ですもんね〜 ・・・ふふふ ・・・コドモみたい・・・ 」
彼女は一人で納得して 冷蔵庫を開けた。
「 ・・・ あら。 なに これ 」
中段に 平たい白い箱が鎮座していた。 夕食後、後片付けをした時には・・・こんな箱は見当たらなかった。
「 ・・・ こんなの・・・昨夜にはなかったわよねえ? 博士? まさか・・・ じゃ ジョー の?
え〜〜〜 なんだろ? ・・・ちょっとだけ見たいなあ〜〜 あ 」
箱はぎっちりテープで留めてある。
「 な〜んだ・・・ あ < 眼 > 使っちゃおうかな〜〜 ・・・っと ダメよ、それは反則。
・・・ いいや 明日の朝 聞いてみよ。 さあ 早くチョコ〜〜〜つくらなくちゃ。 」
彼女はこっそり買い集めておいた材料を取り出すと キッチンの机の上に置いた。
「 えっと ・・・ ボウルと泡だて器と ・・・チョコの型と。 ゴムべら と 〜〜 」
なぜか彼女は必要とするモノは 引き出しの上部に<居た>し、 戸棚の手前に置いてあった。
ご機嫌ちゃんな彼女は そんな<偶然> には 気がつきもしなかった。
「 ふんふんふ〜〜ん♪ まずはチョコを削って〜〜 」
しんしん冷え込む真夜中のキッチンで フランソワーズはチョコつくりに熱中していった。
「 え〜と ・・・ あ。 型って ・・・買ってなかったんだわ・・・
う〜〜ん ・・・ この家にクッキー型があるとは思えないし ・・・ 〇にするかなあ・・・
えっと ・・・ 小さなグラス〜 なかったっけ? 」
ぶつぶつ言いつつ食器棚を開けた。
「 ・・・ あれ。 なに これ。 」
ぽろん、星型のクッキー型が転がっていた。
「 え・・・ こんなの買った覚え・・・ないなあ ・・・ ま いいや、使っちゃお♪
さて 仕上げが肝心よね〜 ・・・慎重に〜・・・っと ・・・ 」
溶かしたセミ・スウィートチョコを星型に流し込み 上にアラザンやら粒チョコでトッピングしてみた。
「 あら〜〜 いいカンジ♪ こっちは〜〜 イニシャル〜〜♪ 」
寒さや眠さはどこかへ消えてしった。
「 ・・・ふ〜んふんふん♪ こんなモンかな〜 っと。 あとはしっかり冷せばいいのよね。 」
手作り星型チョコを そう・・・っとお皿に置いた。
「 えっと・・・ 箱につめるのは明日にしようかな。 でも〜〜慌てるのもイヤだし・・・
今 やっちゃお。 箱ごと冷しておけばいいし ・・・ 」
白い箱に詰めたチョコは なかなか見栄えがした。 ちょっと手作りには見えない気もする。
フランソワーズはご機嫌だった。
「 うふふふふ〜〜 我ながら上手くできたわ。
コレ ・・・ 渡したらどんな顔 するかしら。 あ・・・でも ジョーってモテそうよねえ・・・
明日は山ほど貰ってくるかも ・・・ 」
昼間 街で見てきた派手で高価なチョコBOXが目の前に浮かぶ。
「 ・・・ こんな手作り ・・・ イヤかも ・・・ オバサンのチョコなんて え〜と ・・・
なんだっけ? ・・・ あ! そうそう < うざい > って言うかも・・・ 」
うきうきしていた気分が急に しゅん ・・・と凋んでしまった。
「 やっぱり ・・・ なにか買ってきたほうがいいのかしら。
でも ・・・ そんなに高価なものは買えないし ・・・ 」
フランソワーズはギルモア邸の家計の一部のやりくりを任されていた。
特に食費に関することは 彼女が財布を管理していた。
けれど それを個人的なモノに使うことはしたくない。
「 ― ん 〜〜〜〜 ・・・! もう決めた!
なんて思われてもいいわ。 わたし ・・・ このチョコ、 贈るの。
それで ― い 言うわ。 ジョー に。 す ・・・ 好きだって! 」
ウン! と大きく頷いて ― 彼女は大事な箱をそう〜〜〜・・・っと冷蔵庫に仕舞った。
「 ふう・・・ あ! もうこんな時間〜〜 ちょっとでも寝なくちゃ・・・! 」
大慌てでカタカタ片付けると フランソワーズはまた そ〜〜〜っと寝室に戻っていった。
― カタ ・・・!
東の空が白み始めるには まだ少し間があるころ ・・・ ギルモア邸のキッチンには
またまた灯がともった。
「 ・・・ えへ・・・ もう 固まったかな〜〜 」
パジャマの上にしっかりセーターを着込み、ジョーが抜き足・差し足・・・でキッチンに入ってきた。
「 ?? あれ。 なんか ・・・甘い香り?? しっかり換気したつもりだったけど・・・ 」
くんくん・・・と空気を嗅いでみるが 微かな香りなのではっきりとは判然としなかった。
「 さっきの匂い 残っていたのかなあ? ・・・まあいいや。 」
彼は冷蔵庫を開けると 中段に入れておいた平たい箱を取り出した。
「 皆が起きる前に ラッピングとかしておきたいしな・・・ え〜と ・・・ この紙!
いいと思うんだ〜〜 わざわざモトマチまで行って選んだんだもんな〜」
ジョーは金色で星が点々と飛んでいる紙を取り出し、慎重に包んだ。
「 ・・・っと〜〜 ナナメにしたらヤバいよな〜〜
ふ ふ ふ〜〜 苦戦したけど、 結構自信作なんだ。 うん、これを渡して ―
い 言うんだ! うん! 」
力強く自分自身に頷くと ジョーは冷蔵庫を開けた。
「 今度は奥にかくしとこ。 うん ・・・下段の奥 ならわざわざ覗き込むこともないし〜 」
彼は金色の包みを 大事そう〜〜〜に入れた。
「 ・・・これで よし、と。
ちょっと ・・練習しとくかな〜 ・・・ え〜〜 あ〜〜 おっほん ・・・・
え〜〜 あの〜〜コレ。 受け取ってください。 ・・・ でいいかな?
で もって ― あ〜 ・・・ お兄さんの代わり、は無理っぽいけど。
あの ・・・ す す すき デス ・・・ なんちゃってェ〜〜〜〜♪ 」
ジ リリリリリリリリリリ −−−−−−−!
彼の一人芝居は 無情にも目覚まし時計の音で中段されてしまった。
「 ・・・わ!!!! ひ 非常ベル???? ・・・ じゃ ない?
・・・ んん? あ 目覚ましアラームか ・・・ 」
ふう〜〜 ・・・ 気が抜けてへなへな キッチンに座り込んだ。
「 ・・・ は ! っけない フランが起きてくるってことだよ ・・・! 」
再び がば!っと跳ね起きるとジョーは ― さすが009というか 足音を消して
さささ! っと自室に戻った。
トントン トントン ・・・・
ジョーがドアを閉めた途端に、軽い足音が彼の部屋の前を通り階下へと降りていった。
「 ふひ〜〜〜 ・・・・ 危機一髪〜〜 」
ほっと胸をなでおろし ― そのままベッドにダイブしてしまった。
「 へ ・・・へへへ ・・・ なんだかすげ〜〜達成感〜〜
あ〜〜〜 やるぞ〜〜〜 〜〜〜 あとはァ〜〜 勇気だけ だあ〜〜 ♪ 」
いつもの起床時間まで あと15分 ―
「 ふぁ・・・ ほんのちょっとだけ ・・・・ふぁ ・・・・ 」
彼はたちまち睡魔に引きずり込まれていった。
「 おはよ〜ございまァす お日様〜〜〜 」
フランソワ−ズは最上のご機嫌で キッチンのドアを開けた。
「 ふんふんふ〜〜ん♪ ああ いいお天気〜〜〜 こんなに明るい冬って初めてよ?
この国の冬は 本当にステキ♪ 」
ハナウタ交じりで足取りも軽く 気分も最高に軽やかだ。
「 ふんふん〜〜♪ さァて〜〜 朝御飯 ・・・の前に ・・・っと♪ 」
冷蔵庫の前までとんでゆき、 そっとドアを開け ― 中を覗き込む。
― ちゃんと 白い箱はあった。
「 ふふふ〜〜♪ ちゃんと冷えているわね〜〜〜 じゃあ こそっとラッピングしておきましょ。
・・・ これもねえ 一生懸命選んだのよね〜〜 ジョーにって♪ 」
ラッピング・ペーパーを取り出すと、 丁寧にていねいに力作チョコを包んだ。
「 こ〜れで おっけ♪ ・・・ 言うわ わたし。 今日こそちゃんと ・・・・
ねえ 時計さん? わたしに勇気を頂戴ね。 お兄ちゃん、応援して! 」
彼女はしばし 手の中の包みを睨んでいたが そっとまた冷蔵庫にもどした。
「 ・・・ふふふ〜〜 きっとびっくり、ね。 喜んでくれるかな〜 な〜♪
さてと。 朝御飯 ・・・ 今日はお弁当がいるのよね。
博士のお昼にもお弁当、作っておきましょ。 」
超〜〜ご機嫌でそして手際よく フランソワーズは朝の支度をはじめた。
「 ・・・っと。 お弁当、完了〜〜。 後は朝のオムレツを焼いて
ん?? あらやだ。 もうこんな時間 ・・・・ あ。 ジョーってば〜〜〜 」
壁の時計をチラっと見て フランソワーズはキッチンを飛び出した。
階段を駆け上がり ― ジョーの部屋の前で す〜〜は〜〜・・・・と深呼吸。 そして
「 ・・・ ジョー −−−−−−− !!!!
時間、過ぎてるわよぉ −−−−−−!! 」
数分後。
― ドタドタドタドタ −−−−!!!
バン ッ! コートだの鞄だのマフラーだのをひっつかみ ジョーがリビングに飛び込んできた。
「 わわわ・・・・! あの今日はね、夕方までに帰るねっ! 」
「 ジョー。 朝御飯は。 」
「 え〜〜〜 う〜〜間に合わないから いいよ〜 今日は一限からなんだ〜〜 」
「 じゃ これ。 ほら、パンにオムレツ、挟んだから。 ちょちょっと芥子マヨも塗ったわ。
途中で食べて。 」
「 うわ〜〜〜〜〜〜 ありがとう! イッテキマス〜〜〜 」
「 ジョー。 お弁当。 」
「 あっ いっけね〜〜〜 ありがとう〜〜 うわ〜〜 いってきます〜〜〜 」
「 はいはい 気をつけて・・・ 」
「 うんっ!!! あ 今日はちゃんと晩御飯、ウチで食べるからねっ! 」
ジョーは一旦、戻って来てキッチンに首を突っ込むと それだけ言って ― ダッシュした。
「 はい 了解・・・さっきもそう言ってたでしょ。 っていつだってウチで食べるじゃないね・・・ 」
ふう ・・・ やれやれ・・・と 彼を見送り、 彼女自身も出かける準備をした。
冷蔵庫の中を覗き込み ― ちょっとボヤいてみる。
「 ふん ・・・ 朝 イチで渡したかったのにぃ〜〜 ま いっか ・・・
わたしのショコラさんたち? 出番は夜 ・・・ ソワレ ( 夜公演 ) ですから〜〜ヨロシク♪
・・・さて あとは〜〜カンパニーの皆に 友ちょこ と 義理ちょこ 配布、だわね。 」
よいしょ・・・と大きなバッグに嵩張る紙袋を持ち、フランソワーズもレッスンに向かった。
そわそわ うろうろ どきどき ― 晩御飯は無事に終った ( ジョーはちゃんと帰宅 )
ごそごそ どぎまぎ あせあせ ― 挙動不審が 約二名 ( 自分自身の行動は見えない )
「 ・・・うん? なにをやっとるんだ、お前たち・・・ 」
博士がすぐに気がついた。
夕食後、いつもならま〜〜ったり・のんびりした空気が流れるリビングなのだが
今晩はなぜだか ぴりぴり・がさがさ・こちこち ― 異様な緊張で一杯なのだ。
「 ・・・え!? あ あああ 〜〜〜 別にその。 ぼく達は いえ! ぼくはそんなんじゃ・・・ 」
「 !? な んでもありま ・・・ す! 」
フランソワーズが 真っ赤な顔で立ち上がった。
「「 は?? 」 」
「 ちょっとだけ 待ってて! 」
オトコ共が 絶句して見詰める中、彼女はぱたぱた・・・部屋をでてすぐに戻ってきた。
手には 金色のラッピングをした平べったい箱を持っている。
「 あの これ! 14日でしょ。 あの ・・・ す 好きです、 しまむら・じょ〜 さん! 」
「 ― へ ?? 」
真っ赤な顔のまま 彼女はその箱をジョーに押し付けた。
「 あ あの! ぼくも・・・! ちょっとだけ、待っててくれますか!」
「「 は?? 」」
今度はジョーが部屋からダッシュで消えてダッシュでもどって来た ― 手に箱を持って。
「 あの これ! 14日だろ。 その・・・ す 好きです、ふらんそわ〜ず・あるぬ〜る さん! 」
「 ・・・ うっそ ・・・ 」
「 え! ウソじゃないよ〜 きみの国ではプレゼント贈り合うんだろ?
その ・・・ こ 恋人同士 で さ・・・ 」
「 ・・・ え。 こ こいびと ・・・ 」
今度は2人そろって首の付け根まで赤くなっている。
ほっほ ・・・ これはなんと。 めでたし・めでたし・・・かの?
それでは お邪魔虫は消えるとするか♪
「 うおっほん♪ あ〜〜〜 ・・・ 」
「「 は 博士!! 」」
「 まあ ・・・ 仲良く楽しい時間を過したまえ。 若いモノはいいのう〜〜 」
よっこらしょ・・・と博士はソファから立ち上がる。
「 ― 報告は後からでよいよ? どうこうなっても合意の上ならワシは一向にかまわんよ〜
ジョー? ・・・ しっかりしろよ?
フランソワーズ? ・・・ この坊主を頼むぞ。 じゃあ オヤスミ〜〜 」
「「 ・・・ 博士 〜〜〜〜〜 」」
ばちん! とウィンクを残して ギルモア博士はさっさと寝室に引き上げてしまった。
ぽつん ・・・ と2人はソファの両端に座っている ― 平べったい箱を持ったまま・・・
「 あ ・・・ あの! これ〜〜 開けてもいいかな〜〜 」
「 え ええ ・・・ あの! これ、開けて・・・いい? 」
「 う うん! わ〜〜楽しみ だ ・・・・ な?? 」
「 いい香り ・・・ ね ?? え。 」
こ これ! ぼくが作ったチョコ ・・・だよね??
これ ・・・ わたしが作ったチョコ ・・・ よね??
「 あ 〜〜 ( え〜〜い なんだっていいや。 好き♪って告ってくれたんだもの! )
ありがとう!!! フランソワーズ! 」
ジョーが満面の笑みで言った。
「 ・・・ ( なんだかよくわかんないけど ・・・ 好きって言ってくれたわ! )
メルシ〜〜 ジョー ! 」
フランソワーズが零れる笑みで応えた。
「「 ・・・ 好き です ・・・・! 」」
勿論その後で 二人はチョコよりも甘ァ〜〜〜〜いキスを交わしたのである。
― そして それから。
「 ・・・ 美味しい〜〜♪ ジョーってばチョコつくりの天才じゃない? 」
「 あ これウマ〜〜〜 フランもすごく上手だねえ〜〜 」
ソファでぴったり寄り添って。 2人でチョコの賞味大会となった。
「 ・・・ ねえ? 学校で貰った? ・・・その ・・・ チョコレート・・・ 」
「 ぼく? ううん〜〜 朝は遅刻ぎりぎりだったし。 昼は図書館に篭ったし。
講義の後は 即行〜〜 帰ってきたもんな〜〜 だから全然。 」
「 まあ ・・・ ( う〜〜ん ・・・ なんかフクザツ ・・・) 」
「 フラン、バレエ・カンパニーの皆に上げたたんだろ? 」
「 アレは友チョコよ。 でも ・・・ 本当はね・・・ お兄ちゃんに 上げたかったの。 」
「 え。 お兄さんに・・・? 」
「 ・・・ ごめんなさい。 わたし、お兄ちゃんのこと、忘れること、できない ・・・
でも ね。 でも ・・・ わたし ジョー・・・ ジョーが好き。 」
「 フランソワーズ ぼくもきみが好きさ。
ねえ ― ちょっとづつ ・・・もっといろんなこと、話してゆこうよ? これから ・・・ さ。 」
「 ウン ・・・ ちょっとづつ ― ずぅ〜〜っと ね♪ 」
「 うん! 」
ぽい、と自作のチョコをひとつ。 ぱくん、とお手製チョコをひとつ。
― 甘ァい関係 が今やっと始まった ・・・
********************************* Fin. *********************************
Last
updated : 02,19,2012.
back / index
************ ひと言 **********
ず〜〜っと後、 <島村さんち> になって
すぴかちゃんが 本気でチョコ作りをする頃・・・
2人は あの時のチョコの真相 を語り合う・・・かも??