『 わあ〜〜〜い ! ― (2) ― 』
ポッポウ ・・・
リビングでは鳩時計が ひとつだけぽつん、と鳴くと すぐに引っ込んだ。
「 あら ・・・ もう三時半なの ・・・・
え? チビ達 まだ帰ってない ・・・わよ? 」
フランソワーズはアイロンをかけていたが その手を止めた。
ジョーのYシャツが 何枚も気持ちよくぴん・・・っと仕上がっている。
「 どうしたのかしら・・・ すぴかにお使い、頼んだけど
でも 郵便局は帰り道にあるし すぐすむはずよね
今日は ・・・ そう 5時間授業だからもう帰って来ていい時間 」
アイロンを切ると 彼女はテラスに出た。
ふわ〜〜ん ・・・
爽やかな風が午後のお日様の匂いを運んでくる。
「 ああ いい気持ち・・・ ちょっとお散歩したいなあ〜
って それどころじゃないのよね !
」
テラスの端まで進み、彼女は目を凝らせた。
「 う〜〜ん ・・・と? ・・・ あら 門の辺りにもいないわ 」
この能力 キライ ・・・!
彼女はずっと 003の能力 を忌み嫌っていた。
ミッション中は 仲間を護るためという理由だけで その能力( ちから )
を駆使してはいた。
しかし 普通のヒト として生きる日々において 彼女は
003であることを 極力避けた。
わたし、 わたし達 人間でしょう?
フランソワーズは < 眼と耳 > とは 無縁の生活をしていた。
しかし。 天使たちがやってきてからは ―
「 わたし。 わたしの天使たちを護るためだったら なんだってやるわ!
ええ この便利な 眼と耳で しっかり護るの! 」
彼女は四六時中 能力を on にするようになった。
しかし それは日常生活においてかなり煩わしことでもある。
・・・ はあ ・・・ 疲れた ・・・
こっそりため息を漏らす。 こっそり・・・
「 フラン。 疲れてる? 」
すぐにジョーが 気付いた。
「 ・・・え? ええ そりゃあ・・・ すぴかもすばるも
本当に元気だから 」
「 そうだけど・・・ それだけじゃないよ ね? 」
「 え・・・? 」
「 もしかして ― on にしていない? 」
ジョーは 自分自身の耳を指した。
「 ・・・ え ええ あの ・・・
だって 赤ちゃん達を護らなくちゃならないでしょう??
わたし、そのためなら ― なんだってやるわ! 」
「 ねえ フラン。 それは ぼくがやる。
ぼくにやらせてくれ。 チビたちは ぼくときみの天使だよ? 」
「 ・・・ ジョー ・・・ ! 」
「 ね だから きみはゆっくり休んで。 そして ぼくが off に
している間、あの子達をたのむ。 」
「 ん。 わかったわ。 」
きゅ。 彼女は彼女の夫を抱きしめた。
「 お? わっは〜〜〜 」
「 うふ・・・ よろしく、わたしの戦友さん。 」
「 うん! 二人でがっちりタグ組んで行こうぜ。
− なにせテキは てごわ〜〜い二人組だからね〜〜 」
「 うふふ・・・ そうねえ、最強の二人、ですもんね 」
「 そういうこと。 」
ちゅ。 温かいキスが落ちてきた。
― そんなことがあり 今ではフランソワ―ズは必要に応じて
< 眼と耳 > を 大いに活用するのだ。
テラスの端に陣取って 彼女はじ・・・っと見つめる。
家の門の周辺を そして その下に続く坂道の方向も。
「 え〜〜〜・・・っと? あら 門の側にはいないわねえ・・・
あ ポストに郵便 来てるわね とってこよっと。 え〜と? 」
ズゥ 〜〜〜〜 ン と 視力のレンジを広げる。
「 ・・・ あら 坂道にもいないわねえ ってことは
まだどこかで遊んでるってこと??
学校からは なんのお知らせも受けとってないし・・・
え 寄り道は厳禁よ! もう〜〜〜 」
フランソワーズは ぷんすかしつつレンジをもっと拡張してゆく。
この周辺は 温和な気候で穏やかな人々のすむのんびりした町 ・・・
ほとんどが顔見知りなのだ。
国道を通って JRの駅周辺に出れば 最近マンションなんかも建ち始め
駅の向うには 大型ショッピング・モールもあり結構人出がある。
しかし この海岸通り商店街近辺は 昔ながらの田舎町 っぽく
< 犯罪 > なんて ほとんど ない。
それでも 近年は車で入ってくる人もいたりするが
町の交番のお巡りさん達が がっちり睨みを効かせていてくれるのだ。
「 おはよ〜〜 ございま〜〜す〜〜〜 」
すぴかは 交番の前でも大きな声で挨拶をする。
「 お おはよう すぴかちゃん。 気をつけて行ってらっしゃい
」
「 はあ〜〜い 」
ぶんぶん手を振って すぴかは駆け抜けてゆく。
「 元気モノちゃん、登校したか ? 」
「 はい 部長。 ちゃんと右側を走ってゆきました 」
「 あはは ・・・ お? 坊主も来たぞ? 」
「 え? ああ すばる君・・・ 」
たっ たっ たっ ・・・。
「 おはよ〜〜ございます〜〜 」
交番の前で すばるはきっちり立ち止まり ご挨拶。
「 おはよう すばるクン 急げ 遅刻するぞ 」
「 はあ〜い イッテキマス
」
ぺこり、とお辞儀すると またゆっくりマイペースで登校してゆく。
「 は ・・・ あの姉貴と双子なんだよなあ? 」
「 そう言ってます。 」
「 ふふふ 元気に大きくなって欲しいな 」
「 ですね〜〜 」
お巡りさん達も 双子の密かなファンとなっている。
「 まあな〜 妙なヨソモノにゃ 俺たちも眼ぇ光らせてるし 」
「 そうだよな〜 子供や年寄達になにかあっちゃ 大変だ 」
町の消防団のオジサンも 協力している。
「 それにさ〜〜 ほら 岬の、あの若旦那が加わってくれて以来
結構 若い親父さんたちも 来てくれるし 」
「 そうそう! あの若旦那、 大したもんだよ 〜 」
「 まった あそこのチビ達が 」
「 そ〜〜〜〜 !!! 可愛いのなんの ! 」
「 あのチビ達が商店街にきてくれるとさ 皆がにこにこしちまう 」
「 だよな〜〜 」
近い将来は 限界集落 だの 過疎地 だの・・・ の言葉も囁かれていたが
最近は すこしづつ変わってきつつある。
ゆっくりだけれど 人々が都会からこの地へ移り住んでくるようになってきた。
― 地元の事情は ともあれ。
・・・ あ いた !
もう〜〜〜〜〜 !!!
母は 怒っていた。 めちゃくちゃ 怒ってた。
心配していた分 怒りが燃え上がったのかもしれない。
彼女は ぷんすかしつつ だ〜〜〜〜〜っと
< 003の眼 > のレンジを広げ ― とんでもない光景を見つけた。
・・・すぴか すばる !
あら オトナのヒトと一緒だわ。
交通指導員さん かしら
え ?? 警察官 ・・?? あ あれは交番の方ね?
うそ ・・・
あのコたち 〜〜〜〜 なにやったの?
お巡りさん と一緒に帰ってきてる ・・・??
ダダダ −−−−−−−−− !!!
フランソワーズは 全てを放りだし玄関から飛び出していった。
たったった〜〜〜 たたたた ぎゅ ぎゅ ぎゅ
すぴか と すばる は お巡りさんの手を両側から引っ張っている。
「 ・・・ ふ〜〜〜 すごい坂だねえ ・・・ 」
「 そっかな〜〜〜 アタシ 毎日 走っておりてはしってのぼる よ? 」
「 僕も あるいておりてあるいてのぼるよ 」
「 走って?? すごいなあ〜〜 すぴかちゃん ・・・
ふう〜〜〜 ほっんと 急な坂だ 」
「 あ お巡りさん、くたびれちゃった? 」
「 え! そ そんなこと ないよ。 ・・・ けど
ここを毎日降りて登るのかあ・・・ すごいなあ 」
「 え〜〜 そう? 」
「 そっかな〜〜 」
「 すごいよ うん ・・・ 」
「 ふ〜〜ん えへへ お巡りさんといっしょ〜〜 なんて
あした、みんなにじまんするよ〜〜 」
「 うん! えへへ〜〜 はじめてだあ〜い 」
すぴかとすばるは きゅう〜っとお巡りさんの手を握った。
「 二人に 僕のおばあちゃんを案内してもらったんだもの。
本当にありがとう。 だけど・・・
帰りの時間、 いつもより遅くなっただろ 」
「 え ぁ ・・・う うん 」
「 うん ・・・ 」
「 ちゃんとお母さんに説明して 御礼を言いたいんだ。 」
「 えへ〜〜〜 お巡りさんといっしょだあ〜〜〜 」
「 いっしょだあ〜〜 」
「「 あ おか〜〜さん 」」
ダダダダ −−−−!
坂の上から 女性がものすごい勢いで駆け下りてきた。
「 す すぴか すばる〜〜〜〜〜〜っ 」
「「 おか〜さん ただいま〜〜〜 」」
「 島村さん こんにちは 」
お巡りさんは にこにこ・・・ 挨拶をした。
「 こ こんにちは あ あの! このコ達 ・・・・
ご迷惑をかけたんですか すみません〜〜〜 」
女性は 深々〜〜とアタマを下げた。
「 あ いやいや 違いますよ、お母さん。
僕は 御礼を言いたくてすぴかちゃん すばるくんと
ご一緒しました。 」
「 は ?? 」
「 実は ― 」
コトン。
ジョーは 辛うじて湯呑みをテーブルに置けた。
食後のお茶を飲んでいて 彼は盛大に吹きだしてしまった。
「 ぶは・・・っ・・・・ ! それでアイツら・・・
あの若いお巡りさんと 帰ってきたのかあ 」
「 やだあ〜 こぼさないでよお ・・・ 」
フランソワーズは ぶつぶつ言いつつ、テーブルを拭く。
「 ごめん ごめ〜ん ・・・ だって さあ 」
「 わたし 一瞬、なにかあったのか!?って もう 飛び出して
門の外まで走っていっちゃったわよ。 」
「 わははは ・・・ 」
「 気がついたら 裸足。 も〜〜〜 恥ずかしいったら ・・・ 」
「 ぐははは ・・・ ごめ〜〜ん でも ぶはは・・・
アイツらが ねえ ・・・・ 」
「 そうなのよ 二人でね、道に迷っていたおばあちゃまを
交番まで連れていってあげたのですって それでその方が ―
「 あのですね すぴかちゃんとすばるクンは 」
若いお巡りさんは 目をぱちぱちさせつつ事情を説明してくれた。
「 私の祖母が 道を訊ねてうろうろしているところを
すぴかちゃんが声をかけてくれたそうです。
そしてすばるクンと二人で 交番まで連れてきてくれたんです。
本当にありがとうございました。 」
「 まあ・・・ お祖母さまを? 」
「 はい。 故郷から遊びにきてくれたんですけどね ・・・
いやあ この辺も田舎だねえ〜 なんて言ってました。 」
「 ふふふ そうですねえ〜 」
「 いい地域だねえ〜 って感心してました。
こんないい町なんだから しっかり護らないとだめだよってね。」
「 いつもありがとうございます。
この町の人たち み〜〜んな交番を頼りにしていますから。 」
「 や ありがとうございます。
じゃ お母さんにお目にかかれたから 本官はここで失礼します。」
お巡りさんは ぴ・・・っと挨拶をした。
「 あら ・・・あの ちょっとお茶でもいかが?
すぐに用意しますから 」
「 いやいや 勤務中ですから。 これで。 」
「 まあ ・・・ 」
「 お巡りさん さよ〜なら! 」
「 さよならあ〜 」
「 ははは さよなら すぴかちゃん すばるクン 」
爽やかな笑顔で お巡りさんは坂道を降りていった。
「 ふ〜〜〜ん それでわざわざ送ってきてくれたのかあ 」
「 帰宅がいつもより遅くなったから・・・って。
ありがたいけど も〜〜 びっくりしちゃって・・ 」
「 だよなあ〜〜 事故?? って思っちゃうもんな 」
「 で しょ? あ ねえ ちゅうざいさん って
どいう意味? 」
「 ちゅうざいさん? ・・・ ああ 駐在さん かあ 」
「 名前じゃないんでしょ? 」
「 うん。 お巡りさん の昔の言い方だよ。
交番のことをさ、 駐在所 って言ってたからね。
今でも年配の人はそういう風に言うひと、 結構いるよ 」
「 そうなの・・・ すぴかってば
あのお巡りさんは ちゅうざい・さだきちさん っていうんだよ〜〜
って ・・・ 」
「 ははは・・・ < さだきち > は名前だろうけど
ちゅうざい は 苗字じゃないよ 」
「 ふ〜〜〜ん そうなの〜〜
そうだわ すぴかに聞いたのだけど、 あのお巡りさんの
おじ〜ちゃんが 巡査だったんですって。
それで小さい頃から憧れてて 」
「 あ それで警察官になったのかあ〜〜〜
ああ きっとその人のお祖母さんの 自慢の孫息子なんだろうね 」
「 そうね。 若いけどしっかりした方だったわ。 」
「 ウン。 ああ 本当に親切なお巡りさんだよねえ
この町も安心だよ。 」
「 そうよね。 ここは本当に安心して暮らせるいい町よねえ 」
「 うん ・・・ いい土地だよ 」
「 ねえ ・・・ あの子たちは どんな道に進むのかしらね …
なにをやりたいのかしら 」
「 さあ ・・・ まだそんなことは考えてないだろ? 」
「 そうかしら 」
「 きみはどうだった? 」
「 わたし? わたしはず〜〜っと バレリーナ になりたかったから・・・
他のことは考える余裕、なかったわねえ 」
「 ふうん そうなんだ?
じゃ すぴかもバレリーナかなあ 」
「 あ あのコは無理ね。 今は跳んだりはねてたりするのが楽しいから
レッスンに通ってるだけだもの。 あのコには 別の道があるんじゃないかな
すばるはどう? 」
「 う〜〜ん・・・? アイツは こつこつ・・・気長に努力するのが
好きみたいだけど・・・ 」
「 あ そうね。 そうよ〜〜 赤ちゃんのころから 頑固モノだったもの 」
「 あははは 根気強い って言ってやってくれ 」
「 うふふふ どんなヒトになるのかしらね 」
「 ウン ・・・ ゆっくり見守ってやろう 」
「 そうね ・・・ 」
二人はほっこり、笑顔を交わした。
ガヤガヤ ガヤ ・・・・ ワイワイ ワイ ・・・
夕方の商店街は相変わらず賑やかだ。
オバチャン だの おばあちゃん だの ベビーカーを押したおか〜さん だの
が わやわや〜〜〜 行き来している。
― その中を ・・・
「 え〜〜と ジャガイモはあるから タマネギに人参だな 」
ランドセルを背負った小学生が 八百屋さんの前に立っている。
「 らっしゃ〜〜い お? すばるクン ?? 今日はお使いかい 」
八百屋のオジサンが すぐに声をかけてきた。
「 あ コンニチハ たまねぎ に にんじん、ください。
あと ニンニクも! 」
「 はいよっ あとは? お母さんの注文は 何かな?
今晩のオカズはなんだろうな〜〜 」
「 僕が作るのデス。 」
「 はへ??? 」
「 今日のばんごはんは〜 僕がつくるのデス。
あ せろり もください。 」
「 え??? すばるクンが?? すぴかちゃんじゃなくて? 」
「 家庭科の授業で かれ〜 作ったし。
今晩のごはんは 僕がつくるのデス。 ・・・ かれー じゃないよ 」
「 あ ああ ・・・ そうなんだ? へえ〜〜〜 すごいねえ〜〜
ほい、 たまねぎに人参。 こっちはニンニクにセロリだよ 」
「 ありがとうです〜〜 はい お金。 」
「 持てるかい? 」
「 えこばっぐ、もってます。 ここに入れて〜〜 」
よ・・・いしょっと。 すばるは ぱんぱんのバッグを肩にかけた。
「 すごいねえ〜〜 頼もしいや〜〜 」
「 それじゃ 八百屋のオジサン、 さよ〜なら
あのね ナイショだけど 」
「 うん? 」
すばるは背伸びして オジサンの耳元に囁いた。
「 あの ね。 僕 はんば〜ぐ つくるのデス! 」
「 あ そうなんだ? がんばれよ〜 」
チビの頃みたいに ぺこり、とお辞儀して すばるはよっしょよっしょ〜〜
と 歩いていった。
「 ふうん〜〜〜 すばるクンが 晩ご飯を ねえ・・・ 」
八百屋の親父さんは感心してその後ろ姿を見送っていた。
「 八百屋のオジサン ! どうしたの? 」
「 わ?? ああ すぴかちゃん。 今晩 すばるクンが
御飯つくるんだって? 」
「 あ? あ〜〜 うん。 すばるってばさ〜〜 おりょうり、好きなのね 」
「 へえ〜〜〜 」
「 ちっちゃいころから キッチンでおか〜さんの側にへばりついててさ
まい・ほうちょう とかももってるんだ〜 」
「 へえ〜〜〜〜〜 」
「 おりょうりすきでさ〜 けっこう上手だよ? おいしいもん。 」
「 へえ〜〜〜〜〜〜〜〜 」
「 晩ご飯、つくるんだ〜〜って 朝からはり切ってたよん 」
「 へえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 あ すぴかちゃんは? 」
「 アタシ? アタシはあ〜 あじみ・せんもん。
あ でざーとにねえ いちごを温室からとってくるけど 」
「 ふうん ・・・ 」
「 あ アタシは 明日のお弁当用にね〜 ぷち・とまと と
ぴ〜まん ください。 」
「 はいよっ ・・・ へえ ピーマン、大丈夫なんだ? 」
「 アタシ、 ちっちゃい頃からぴ〜まん すきだよぉ〜〜
あつあつ〜〜に焼いて じゅ・・・っておしょうゆ かけるの。 好き♪ 」
「 ・・・ああ 美味しいよねえ 晩酌の友だよ 」
「 でしょ? あ あとねえ ・・・なんだっけ・・・
あ そうだそうだ しょうが。 しょうが もください。
かくし味 に必要なんだって。 味ってかくれるんだね? 」
「 はいよっ じゃあ これね〜〜 」
「 ありがとうで〜〜す 」
すぴかは トマトとピーマンと生姜の入った紙袋を抱えると
「 さよ〜なら オジサン 」
「 あ ありがとね〜〜 また来ておくれ 」
「 うん♪ じゃね〜〜 」
ぱぴゅっ。 すぴかは一言叫ぶと だ −−−−−っと駆けだした。
「 ひええ〜〜〜 あの坂道を駆け上るんだぁ・・・すげ〜な〜 」
八百屋のオジサンは ひたすら感心していた。
ばた〜〜ん ! 玄関のドアが勢いよく開いた。
「 たっだいま〜〜〜〜 しょうが かってきたよぉ〜〜
・・・ あ? 」
すぴかは 跳びこんできたのだが 思わず立ち止まり耳を欹ててしまった。
う わ 〜〜〜〜〜〜 ん ・・・ !
「 ・・・ 泣いてる・・? すばる ?? 」
玄関にいても 聞こえてくるあの声は ― 確かにすばるの声だ。
「 すばる ・・・ あんな声で泣かないよ?
! なにかあったんだ!!? すばる〜〜〜〜〜 」
スニーカーを蹴り飛ばすと すぴかはランドセルを背負い買い物袋を抱えたまま
だだだだだだ −−−−−−− っと駆けこんでいった。
だって! すばる、 泣かないもん。
あんなふうに 泣かないもん!
すばる!!! アタシが助けるよぉ〜〜〜
すばるは生まれた時から完全に すぴかの指揮監督下に入っている。
すぴかは 弟の支配者だけど暴君ではないのだ。
弟のピンチには テキに敢然と立ち向かい、庇ってやってきた。
彼はすぴかにやりこめられ 泣くことはあっても め〜め〜〜 ベソをかく
程度だ。 大声を上げて泣いたりはしない。
それが。 あの声は尋常じゃない、一大事が起きた??
バンッ !!! すぴかはキッチンに飛び込んだ。
「 すばる!!! どしたの !?? アタシがやっつけるよっ 」
・・・ あ ・・・?
キッチンの中には お父さん と お母さん が いた。
すばるは わんわん泣いていて ・・・
キッチン・テーブルの上には みじん切り最中の玉ねぎが
シンクには 洗いかけのジャガイモがころがっている。
「 ・・・ おと〜さん おか〜さん どしたの? 」
「 あ ああ すぴか お帰り 」
「 お帰りなさい すぴかさん 」
父も母も ちょっとほっとした顔で すぴかを見つめている。
「 ?? おと〜さん おか〜さん ・・・
すばる ・・? 泣いてる・・よね ? 」
「 ええ そうなんだけど ・・・ 」
「 うん ・・・ 」
「 なんで?? どして?? 」
「 ええ それが ねえ 」
「 ・・・ うん 」
「 ?? すばる!? どしたの、 ねえ どして泣いてるの〜〜 」
すぴかは すばるの側に飛んでいった。
― すばるは。 声をあげて泣いていた。
「 うわ〜〜〜〜〜〜〜〜 うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 」
「 すばる。 すばるっ !! どしたの!
ねえ 泣いてたらあ わかんないっ !! すばるっ 」
すぴかは すばるの手をぎゅ・・・っと握った。
そしたら ―
「 うわ〜〜〜。 ・・・ 」
すばるの泣き声が ぴたり、止まった。
「 すばる! せつめいして! 」
「 う ・・ うぐ・・・ ぼ ぼ 僕ぅ〜〜〜 」
「 うん どしたの!? 」
「 ・・・ うん。 僕 一人で ぜんぶ やるんだあ〜〜 」
「 あ? あ ばんごはん のこと? 」
「 うん 僕 僕 ぜんぶひとりでやるう〜〜〜〜 」
「 はあん ・・・ わかったから。 もうなかない! 」
「 う うう うん ・・・ ぐし。 」
すぴかは ぎゅ・・・っとすばるの手を握った。
そして じ〜〜〜っと見つめている父を母に向き合った。
「 おと〜さん おか〜さん。 せつめい して。 」
「 ・・・え? 」
「 あ・・・ ? 」
「 え あ じゃないよ〜う 今日のばんごはん、すばるが
一人でつくるって言ってたよねえ ? 」
「 え ええ それが 」
「 あ ああ それで ね 」
「 なんで すばる、ないてるの? せつめいしてよ アタシに! 」
「 あの ね 」 「 うん それが ね 」
― 時間はちょいと遡る。
「 ただいまあ〜〜〜 おか〜さん〜〜 」
すばるは超〜〜〜上機嫌で 玄関のドアを開けた。
「 あら お帰り すばる。 」
「 ただいま〜〜 ねえ 僕 ごはん作るからね! 」
「 はいはい わかってますよ。 ジャガイモ、 出してあるからね 」
「 ウン! 」
「 ランドセル置いてきて。 手を洗ってらっしゃい。
オヤツ食べて それから 」
「 僕 オヤツ、あとでいい。 ごはん つくる。 」
「 まあ すごい。 お願いします。 」
「 うん!!! 」
たたたた ・・・・ 珍しくすばるは階段を駆け上っていった。
「 うふふ・・・なんだか滅茶苦茶に張り切っているわね〜〜
ちょっと手伝っておこうかな〜〜 ジャガイモ 洗っておくわ 」
ガチャ。 玄関が もう一度開いた。
「 ただいまあ〜 」
「 まあ ジョー〜〜 お帰りなさい、早かったのね 」
「 ウン。 取材先から直帰できたから ・・・ 大急ぎで帰ってきたんだ。
だってさあ 今晩はすばるが晩御飯作るって言ってからさ。
助っ人しよう〜 と思って。 」
「 フフフ そうね〜 」
「 すばるシェフは? 」
「 これから準備よ。 」
「 お〜〜 それじゃ ちょこっと手伝うかあ〜〜
アイツの はんば〜ぐ☆ 手 洗って着替えてくる 」
「 ええ ええ ああ 楽しみねえ〜〜 」
で すばるが にこにこ・・・キッチンに入ってきた時。
「 お すばるシェフの登場だ。 」
「 すばる〜 お父さんがね 手伝いたいんですって。 」
「 ・・・・ え ・・・・ 」
ぴきん。 すばるの笑顔が凍り付いた。
キッチンでは ・・・
まな板の上には タマネギが少しだけミジン切りになっていて。
シンクの中では ジャガイモが洗いかけになっていた。
「 ・・・ぼ 僕 が 」
「 すぐにミジン切り 仕上げるからな〜〜〜 」
「 ジャガイモ、 いくつ洗ったらいい? 」
ぼ 僕ぅ〜〜〜 全部 ひとりで やるんだあ〜〜〜〜〜
う わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 すばるは天を仰いで泣き出した のだ。
「 ふ〜〜〜ん。 そりゃ すばる、泣くよ 」
「 え ・・・ ? 」
「 ・・・ あ? 」
「 だからさあ。 すばるはあ ひとりでやる! って言ってるんだよ。
だからあ〜〜 おと〜さん も おか〜さん も やっちゃだめ。 」
「 え あ そう なの? 」
「 ・・・ あ そうなんだ ? 」
「 そ。 さ すばる。 おと〜さんとおか〜さんは
アタシが相手するから。 すばる ごはん 作って! 」
「 う うん ・・・ うん すぴか! 」
すばるの顔が やっと笑顔に戻った。
「 お〜〜し じゃ すばる つくって。
おと〜さん と おか〜さん は アタシがつれてくから 」
「 うん すぴか! 」
「 じゃ ね すばる 」
二人は に・・・っと 笑い合った。
「 さ〜〜 おと〜さん おか〜さん 出て 出て〜〜〜 」
「 あ はいはい 」
「 お すまん すまん 」
すぴかは お父さんとお母さんの手をぐいぐい引っ張って行った。
「 そんでもって おと〜さん アタシとサラダのざいりょう、
あつめに温室 ゆこ! 」
「 おう。 今なら いちごもあるな〜 」
「 ウン♪ おか〜さん てーぶるの用意 して。
お皿だして おはし とか 並べてて。 」
「 はい わかったわ。 飲み物は 麦茶でいいかしら 」
「 いいよ〜〜〜 おねがいね〜〜 」
すぴかは キッチンに向かって声を張り上げた。
「 すばる〜〜〜〜 おと〜さんとおか〜さんは アタシに
まかせて! ばんごはん つくって ! 」
「 おっけ〜〜〜〜♪ 」
ご機嫌ちゃんなすばるの声が すぐに聞こえてきた。
そして その日の晩御飯は 熱々じゅ〜し〜な
すばる特製・はんば〜ぐ を 皆で美味しく頂いたのだった。
泣いたり笑ったり怒ったり。 島村さんち はいつも賑やか☆
でもね 最高の毎日だったわ
うん。 ぼくの人生で最高に幸せな日々だったな
今でも ジョーとフランソワーズが 一番大切にしている思い出の日々である。
*************************** Fin. ************************
Last updated : 10,29,2019.
back / index
************* ひと言 ***********
いつも元気な双子ちゃんに ジョー君もフランちゃんも
ひっぱりまわされていたでしょうね ・・・
忙しくても と〜〜ってもシアワセな時間です (^◇^)