『 ちびくろ ― (3) ― 』
その日は早朝からからり、と晴れた空が広がった。
ここ2〜3日、ぐずぐずと雨模様だったので誰もがさっぱりとした心持で上機嫌だった。
岬の崖っぷちの家でも同様で まずは家政を担当する当家の女主人がご機嫌になった。
「 う〜〜〜ん・・・! ああ いい気持ちね〜〜〜 ふ〜〜〜 」
窓を大きく開くと ― ふぁ〜〜 ・・・ 精一杯伸びをしてから深呼吸をした。
「 ・・・ふふふ ・・・ あ〜〜〜 空気が美味しいわあ〜〜〜 ♪
今日はね〜 いっぱいお洗濯しても、あっという間に乾くわね。
あとで裏庭に乾しにゆきましょ、 お日様を浴びたいわ。 」
ようし・・・! と彼女は大きく腕まくりをした。
「 さあ〜 お洗濯 開始〜〜! 」
「 みにゃあ〜〜〜 」
いつの間にか ちびくろ が 彼女に足元に座っていて、大きく鳴いた。
「 ふふふ ・・・ ちびくろも手伝ってくれるのかしら 」
「 みゃ! 」
短く返事をすると、 黒猫はぴた!っと前足をそろえた。
「 あ〜ら ・・・ 白手袋さん、可愛いわねえ〜〜
じゃ お洗濯しましょうか。 ふふふ ・・・ でもね、ほとんどは洗濯機がやって
くれるから・・・ わたし達の仕事は乾すだけなのよ。 」
「 みゃあ〜ん? 」
「 ほらね ・・・ こうして洗濯ものを入れて〜 このスイッチとこっちを押して〜
・・・ はい! ほ〜〜ら? 」
「 みゃ ・・・・ 」
ちびくろはバス・ルームまでちょこちょこ着いてきて ずっとフランソワ―ズの作業を
眺めていたが ― ドラム式の洗濯機が稼働しはじめるととととと・・・っと接近してきた。
「 ・・・ みゃ〜〜〜 」
くるくる動く洗濯ものから 目が離せない・・・らしい。
「 ふふふ ・・・ そんなに見ていると目が回ってしまうわよ? 」
「 ・・・ みゃ。 」
くるり、とアタマをなでてもらい彼は洗濯機の真ん前に陣取り それはそれは熱心に眺めていた。
「 じゃ そこで遊んでいらっしゃい。 わたしはリビングのお掃除、してしまうわ。
猫さんって掃除機、嫌いなんでしょう? ちょうどよかったわ。 」
仔猫を置いて バス・ルームのドアを半開きにしたまま フランソワーズは掃除にとりかかった。
ふうう・・・ 博士特製の掃除機だけど ・・・ やっぱり大変だわあ〜
ヴュィ 〜〜〜〜〜〜 ン ・・・ ! 特別製の掃除機が軽快に動いている。
ギルモア邸のリビングは広い。 メンバー全員が集まった時、心地よく過ごせるように、と
広々としたスペースを取り、フローリングの床にソファなどをゆったりと配置してある。
家具類は極力少なく、必要なものは全て壁に収納する方式になっていた。
わいわいと大勢で過ごすには 実に居心地のよい部屋になっている。 けれど ・・・
こんなに広かった? ・・・ なんだか広すぎて淋しいわ。
仲間たちがそれぞれの故郷に戻り 4人暮らし になった時、フランソワ―ズは
こそっとため息まで吐いていた。
そころが。 すぐにリビングは <広すぎる> ことはなくなった。
たった4人!( しかも内1名は赤ん坊 ) しかいないはずなのに ・・・
リビングはいつの間にか ごた ごた ごた ごた ・・・ それぞれの私物が
持ち込まれ放置され ― いつの間にかこの部屋備え付け になってしまっていた。
その結果 広いはずのリビングには常にいろいろなものが我が物顔で居座っているのだ。
「 あ! も〜〜〜 博士ったら〜〜 またメガネをお忘れね。 あら! この本も!
・・・ ジョー〜〜〜〜 雑誌はちゃんと片づけてね! もう〜〜
あら? これは ・・・ ちびくろのおもちゃじゃない?
昨夜 ジョーと遊んでいたものねえ。 ちびくろ〜〜〜 ? 」
フランソワーズは バス・ルームに向かって声を張りあげた。
「 ちびくろ〜〜 あなたのおもちゃが出しっぱなしよ〜〜 」
「 みゅう ! 」
意外な近さから 仔猫とは思えない大きな声が聞こえた。
「 あ? ちびくろ〜〜 どこにいるの?? 」
「 みゃ みゃ〜〜〜 みゃ! 」
フランソワーズが右を探せば 左側から 左を向くと右から声が聞こえる。
「 やだ〜〜 どこにいるの〜〜 あなたのおもちゃ、片して〜〜 」
「 みゃお〜〜ん 」
ぽとん。 真っ黒な仔猫が ぽ〜ん ・・と掃除機から飛び降りた。
「 わ!? やだ〜〜〜 ちびくろったら。 上に乗っていたの? 」
「 みゃみゃ〜〜〜 」
くる くるり。 ちびくろは長いしっぽを右に左に回す。
「 まあ〜〜 にゃんこって普通 掃除機が大嫌いなんですってよ?
あなたは恐くないの? 」
「 みゃ〜あ みゃ! 」
「 そう? それなら・・・ いいけど。 もうすぐお掃除終わるからちょっと待っていてね。」
「 みゃ〜〜 ! 」
とん。 ちびくろはまた掃除機の上に軽く飛び上がった。
「 あら 一緒に掃除する? それじゃ〜〜ね・・・ ♪♪ 〜〜〜 ♪ 」
「 みゃ みゃ〜〜〜〜みゃみゃあ〜〜お〜〜〜 」
フランソワーズのハナウタに ちびくろの鳴き声がぴたり、と合って
< 二人 > は すいすいと掃除機を操り 広い・はず、 でも 障害物がいろいろと
点在するリビングを 掃除していった。
「 ふんふん〜〜 ・・・あ ここが終わったらお庭の畑を見てこなくちゃ・・・
この頃 きゅうりやナスがねえ ネズミに齧られてしまうのよ〜〜〜
あとね、お庭のコンポストを荒らすの。 しっかりフタしているのにやっぱり齧ったり
して。 こんな辺鄙な土地だから他にえさがないのかしらねえ。
でも 本当に困るのね。 」
「 みゃ? 」
「 博士の大切な盆栽も この前ひっくり返されて枝が折れてしまったし・・・
ねえ ちびくろ? ネズミ退治、 お願いできるかしら。 」
「 みゃあ〜ん! 」
「 ああ でもまだ仔猫さんのちびくろには無理かしらねえ・・・
大人になって アナタが強い雄猫さんになったら ネズミなんかイチコロよねえ
期待して待ってるわ。 」
「 みゃ みゃ!!! 」
仔猫は実に絶妙のタイミングで < 返事 > をするみたいに鳴く。
「 そうそう! ゴキブリはねえ、アナタが来てからすっかり見なくなったわ。
追い払ってくれたの? 」
「 みゃ〜〜 みゃみゃ。 」
「 そうなの? あ ・・・ でも まさか ・・・ 齧って遊んだりしてないわよね? 」
「 み〜〜〜〜にゃ!! 」
「 あは ごめん ごめん ・・・ ちびくろはそんなこと、しないわ、 わかってますよ。」
「 みゃあ〜 」
時々 振り向いては くるりん、と丸いアタマをなでてやる。
その度に ちびくろは目を細めてくるりくるりと長いしっぽを揺らすのだった。
「 ・・・っと お終い〜〜っと。 ふふふ ・・・ ちびくろ〜 お疲れさま〜 」
「 みゃ〜〜〜 」
フランソワーズは 掃除機を片づけつつ相棒をねぎらった。
「 ふふふ ・・・ さあ そろそろお茶のたいむにしましょうか?
ねえ ジョーを呼んできてくださいな? 」
「 みゃあああ〜〜〜 」
たっ! と 仔猫は黒い弾丸になり 外へと飛び出していった。
― ガタン ・・・ リビングのフレンチ・ドアが開いた。
ジョーがアタマだけ突っ込んで 声をかけた。
「 フランソワーズ〜〜〜 ごめん、 タオル、もってきてくれるかな。 」
「 は〜〜い? あら ジョー どうしたの? 」
「 うん ・・・ 悪い、タオルある? 雑巾でもいいや。 」
「 雑巾でいいの? 」
「 うん ・・・ ちょっとね〜〜 スコップとか洗ったから・・・・ 」
「 スコップを洗ったの??? そんなに汚れていた? 」
「 いや ・・・ ちょっとね〜〜 」
「 待ってて、 すぐにもってくるわ。 」
「 ありがとう! 」
― やがて ジョーはごしごし手を拭きつつ、リビングに現れた。
「 ジョー・・・ お疲れさま。 掃除ははかどった? 」
「 う〜〜〜 まあまあかなあ〜〜 ほうぼうから落ち葉が飛んでくるからさあ
延々 キリがないよ。 裏庭は落ち葉の吹き溜まりみたいだ・・・! 」
「 そうねえ ・・・ 風向きの関係かしらねえ。 あっちの裏山からの落ち葉も溜まるのね。 」
「 うん なんかやってもやっても飛んできて・・・ あんまり掃除にはならなかったよ。 」
「 この季節は仕方ないわよね。 でも放っても置けないし・・・
あら そういえば表庭でなにをしていたの? 」
「 あ ・・・ うん ・・・ 落ち葉掃きをしようかって思ってたらね、
チビがなにかちょこまか走っていて さ。 」
「 ふうん? 虫でも追い掛けていたのかしら。 あら? ついさっきまでは
わたしと一緒に掃除してたのよ〜 ふふふ 掃除機に乗っかってね。 」
「 へええ・・・ 面白いヤツだねえ 」
「 そうなのよ〜 くるくる回っても平気なのね、 上手バランスを取っていたわ。
最近はねえ ・・・ 洗濯機に夢中なの。」
「 え! 洗濯しているのかい?? ちびくろが? 」
「 あ ううん そうじゃなくてね。 洗濯ものがくるり くるりってなるのが
楽しいらしいのよ。 夢中になって眺めているわ。 」
「 あは ・・・ 可愛いねえ〜〜〜 」
「 あの後ろ姿、もう〜〜 胸きゅん♪ よ〜 」
「 あはは ・・・ アイツ、女子の視線、集めるタイプだな〜 」
「 うふふ〜 誰かさんと一緒 かしらね〜〜
・・・ あ ねえ? 落ち葉掃きにスコップ、使ったの? 洗うからって言ってたでしょ。 」
「 あ あれ ・・・ うん ・・・ あのさ、きみ 最近 庭でたき火とか した? 」
「 焚火??? いいえ。 なぜ? 」
「 うん ・・・ そうだよなあ ・・・・ 焚火の跡はなかったものなあ 」
「 ジョー。 なにがあったの。 」
フランソワーズの声が すっと固くなった。
「 え あ うん ・・・ 庭の隅にね ゴキブリとかドブネズミの死骸が転がってて・・・
それが全部焼け焦げてるんだ。 ほとんど炭化してる。 」
「 え。 ゴキブリやら・・・ドブネズミ?? ・・・ 焼け焦げ ・・・? 」
「 そうなんだ。 こう・・・ 点々と落ちてた。
始めは石ころかな〜と思ったけど。 なんだか焦げ臭いんでよく見たら・・・ 」
「 だってどうして? 死骸を焼くの? 」
「 わからない。 ただ ・・・ 自然発火なんてありえないだろ? 」
「 そうね。 でもこの辺りには ― わたし達しか出入りしないわ。
坂の下からは 配達の車くらいしか入ってこないでしょう? 」
「 うん。 庭は完全にウチの私有地だし ・・・ 門からは簡単には入れないからね。
ともかく 死骸は深く穴を掘って埋めてきた。 カラスなんかに突かれたくないし。
しばらく監視カメラを増やすことにするよ。 」
「 お願いします。 ・・・ ああ イヤねえ ・・・ 誰かの悪戯かしら。」
「 うむ ・・・ 少しのんびりし過ぎたかもな。 気を引き締めよう。 」
「 そうね。 」
「 ・・・ みゃあ・・・? 」
二人の足元 には いつの間にかちびくろがちょこん、と座っていた。
「 わ おどろいた〜〜 なんだ、お前、いつの間に来たんだ〜〜 」
「 みゃ〜〜〜〜 」
ジョーはひょい、と仔猫を抱き上げると自分の肩に乗せた。
「 さ それじゃ、洗濯機の様子を見にいってこようか? 洗い終わっていたら〜
一緒に乾しにゆこうな〜〜 」
「 みゃあ〜ん♪ 」
肩に黒猫を止まらせて ジョーは悠々とバスルームへ向かった。
― その後 ・・・ ギルモア邸の庭に焼け焦げた死骸が散らばることはなくなった。
そして ネズミの被害はぷつり、と途絶えたのだった。
季節はどんどん廻ってゆく。 幸いにも岬の一軒家の住人達の上には穏やかで平凡な日々が
流れていた。 時々、 客人があるようだったが静かな暮らしぶりに変わりはなかった。
「 ・・・ ちび〜〜〜 ご飯よ〜〜〜 ちびくろ? どこなの〜〜〜 」
キッチンのドアを開けて フランソワーズは声を張り上げた。
「 もう〜〜 どこ行っちゃったのかしら〜〜 最近 遠出するのよね・・・
やっぱりオトナになったからかしら・・・ それにしも〜〜 どこまで行ったのかしら。
ちび〜〜くろ〜〜〜 ご飯! 来ないと食べられないわよ〜〜〜 」
裏のテラスに出てあっち向き こっち向き ・・・ ご飯よ〜〜 と呼んだ。
「 ・・・ 来ないの!? それじゃ晩御飯、 ナシよ〜 ちびの好きな鯵なんだけど。
タタキにした残りをご馳走しましょうって思ったのに〜〜 残念ね〜〜 」
大きく独り言を叫び くるり、と振り向いた途端 ―
シュ ・・・ ! 加速装置的速さで 黒い姿が彼女の足元をすり抜けた。
「 きゃ ? な なあに??? 」
足の周囲で一瞬、旋風が吹き脛になにか柔らかくてすべすべしたものがするり、と触れて ―
「 にゃあ 〜〜〜〜 ! 」
目の前に 艶々光る真っ黒な毛並の猫が すた!っと前足をそろえて座っている。
「 あ ・・・ ああ ・・・ ちびくろ〜〜 ああ びっくりした〜
あんまり脅かさないで〜〜 」
「 にゃ〜 ・・・ 」
くるり。 尻尾を回すと、黒猫 ― ちびくろ は首を傾げてフランソワーズをみた。
ごめんなさい ・・・ 大丈夫でしたか?
「 うふふ そんな顔、しないで〜 ・・・ いいのよ。でももうちょっと早く帰って
いらっしゃいな? そうねえ・・・時計は読めないから・・・
ほら お日様が沈む前までには もどってね。 ほら 晩御飯よ〜〜〜 いらっしゃい。 」
「 にゃにゃ にゃあ〜〜〜〜〜ん ♪ 」
勝手口を開けてもらうと、黒猫はするり、と入っていった。
「 やあ ・・・ 遠征から帰ってきたかい? 」
ジョーがキッチンで笑っている。
「 そうみたいよ。 でもねえ いったいどこまで行っているのかしら。
国道を渡ったりしてたら・・・ 危ないわよねえ。 」
「 あは まあ交通量も少ないし ・・・ちびくろは素早いから大丈夫だろ? 」
「 そうお? それにしてもものすご〜〜〜く広いテリトリーなのねえ ? 」
「 この辺りにはあまり野良猫も見ないし ライバルはいないのかな。
おい 凄いなア 大領主さまなのかい。 」
「 ふふふ ・・・ あ でもねえ ほら。 虐待する人とか、いるでしょう?
だからとても心配なの。 」
艶やかな毛並を アタマから背中へ ・・・ フランソワーズは緩やかになでてやる。
少し離れた地域だが、小動物が虐待死される事件が続いていた。
「 酷いことをするよな。 許せないよ! 弱いものを虐めるって最低さ! 」
「 そうよねえ 人として最低だわ。 ちびくろ〜〜 本当に気をつけてね。 」
「 うん うん お前は賢いけど・・・ おい あまり遠征するなよ?
ふふふ ・・・ あっという間に大きくなったね。 もう ちびくろ じゃあないかなあ〜
おい ウマいかい? 」
ジョーも屈みこんでちびくろを撫でる。 くるり。 尻尾を回し 黒猫はジョーを見つめた。
「 ・・・・ にゃあ〜〜! 」
「 あらら・・・ お食事中にごめんなさいね〜〜 お邪魔しました〜 」
「 あは そうだね、ごめん ごめん。 あ ぼく、コイツの水を換えてくるね。
ついでにトイレもキレイにするよ。 」
「 まあ ありがとう ジョー。 それじゃ わたしは晩御飯の仕上げをするわ。
ジョー、お掃除が済んだら博士をお呼びしてくださる? 」
「 おっけ〜〜。 あれ うん? もう食べおわったのかい? 」
「 にゃ。 」
「 それじゃ〜 一緒に掃除するかい? お前さんのトイレをさ〜 」
「 にゃあ〜あ 」
ちびくろ は相変わらずするする・・ ジョーの足元に絡んでいる。
「 こらあ〜〜 危ないよ〜〜 あれ? お前〜〜 髭の先っちょが焦げてるぞ? 」
「 え ・・・ どこ? 」
「 うん ほら・・・ここと ここ。 」
ジョーは ひょい、と黒猫を抱き上げた。
なるほど左右にぴん!と張った立派な髭の数本が その先っぽが焦げている。
「 あらあ ・・・ どこかで焚火とかに近寄ったのかしら。 」
「 いや ・・・ 最近はね、焚火をする人はほとんどいないんだ。
BBQとかキャンプ・ファイヤーくらい かな。 でもこの近辺ではやらないよ。」
「 そうねえ ・・・ あ 火事の現場 とか ? 」
「 う〜〜ん 基本、動物は火を恐がるから近寄ったりはしないはずなんだけど ね。」
「 そうよねえ ・・・ ねえ どうしたの? 」
「 ・・・ にゃ ・・・・ 」
「 お話、できそうねえ〜 あなたは本当にお利口さんですもの。 」
「 ・・・・・・ 」
色違いの瞳が じっとフランソワ―ズを見つめている。
「 ね? そのお利口さんにお願いします。 危ないことはやめてね。
あなたのお家はここなの、あんまり遠くまで行かないで ・・・ 心配なの。 」
「 あ 可愛いガール・フレンドでもいるのかなあ? それならまあ許せるけど 」
「 ジョーォ ? 」
「 あは お〜〜 恐〜〜〜 さ 掃除しようぜ〜 」
「 にゃにゃにゃ〜〜〜 」
< 二人 > は 仲良くリビングの方に出ていった。
その日。 動物虐待の常習犯が火災で死んだ。
煙草の不始末が原因、と断定され類焼もなかったのですぐに忘れられた。
くるくる舞っていた落ち葉も もうほとんど風にもって行かれてしまった。
ギルモア邸周辺の豊かな紅葉も終わり 少し色彩に乏しくなってきている。
ひゅるるるる ・・・・ 吹き抜ける風が どんどん冷たくなってきた。
「 うわ ・・・ 寒〜〜〜〜い ・・・! 」
勝手口から一歩外に出た時、 フランソワーズは思わず首を竦めた。
「 ああ もう冬ですものねえ ・・・ こんなにお日様が照っているのに〜〜〜 」
襟を立ててから よいしょ・・・・と洗濯モノの籠を運び出した。
「 寒いけど! これだけはね〜〜〜 外に乾したいの。
こうやってお日様のニオイを取り込みたいのよね。 よいしょ・・・ 」
裏庭には洗濯もの干場があり 日々翩翻と衣類が翻っている。
「 え〜と ・・・ あら? ちびくろはお庭に出ていったと思ったのだけど・・・
あらあら また遠征に行ったのかしらねえ ・・・ うわ〜 冷たい ・・・ 」
寒風に指先を凍えさせつつ、彼女は要領よく洗濯ものを乾してゆく。
にゃ〜〜〜 にゃ にゃ〜〜〜
北風に乗って 鳴き声が聞こえてきた。
「 ふんふん〜〜♪ ・・・ え? ・・・ ちびくろ??? 」
乾す手を止め、フランソワーズはきょろきょろ〜 辺りを見回した。
「 ちびくろ? ちびくろでしょ。 どこにいるの〜〜〜 」
にゃ〜〜〜 にゃ にゃ〜〜〜
ちょっと切ない声の返事が返ってくるが ― 本人の姿はどこにも見えない。
「 おかしいわねえ・・・ この声は確かにちびくろなんだけど ・・・
ちびくろ〜〜? どうしたの、どこにいるのお〜〜 返事して〜〜〜 」
にゃお ・・・ にゃあ〜〜〜
「 ・・・え? こっち、よねえ。 でも どこにも ・・・ 」
洗濯もの干場から少し離れたところに 大きな樫の木が根を張っている。
この大木はもともとこの地に生えていて、博士が大いに気に入りこの樹を避けて家を建てたほどだ。
ちびくろはよくこの樹で爪を磨いでいた。
「 おかしいわねえ・・・この辺りから聞こえるんだけど。 ちびくろ〜〜〜〜〜! 」
にゃあ お〜〜〜 「 あ!? 」
フランソワーズは咄嗟に 目 のスイッチをオンにした。
「 ・・・ 見つけた! ちびくろ! どうしてそんなところまで登ったの? 」
「 にゃ にゃ〜〜〜〜 ・・・ 」
大木の天辺に近い場所、かなり細い枝と枝の間に < 彼 > がいた。
「 ・・・・ にゃぉ にゃぉ 〜〜 」
「 危ないわ! そこの枝は細いのよ! ほら〜〜 降りておいで! 」
「 ・・・ にゃ・・・ きゅう〜〜〜 」
日頃のすばしこさと優雅な身のこなしはどこへやら・・・ ちびくろは枝の間に
へばりつき 切ない声をあげている。
「 やだ・・・ 降りてこられらなくなっちゃったの?? まあ 困ったわねえ・・・ 」
「 にゃぉ ・・・・
」
「 わかったわ。 今 助けるから! ちょっと待ってね。 」
フランソワ―ズは 大急ぎで残っていた洗濯ものを乾し終えると 再び樫の木の下に来た。
「 今 行くからね! 」
ぽ〜〜〜ん・・・! 一番低い枝に軽くジャンプして掴まった。
そこからえいや! と枝に上がると ― 彼女は慎重に登りはじめた。
にゃあ ・・・お? はい、今 行くわよ〜〜〜
冬の日差しをいっぱいに浴びつつ ・・・ フランソワーズは悠々と大木を登って行った。
ひゅるるる ・・・・ 樫の木のてっぺんを北風が揺らしてゆく。
「 さむ ・・・ 」
「 にゃあ〜〜〜 」
「 ああ ありがとう・・・ ちび ・・ あったかいわねえ・・・ 」
「 にゃ♪ 」
「 ・・・ さあて どうやって降りたらいいのかしら ねえ? 」
樫の木の上で 一人と一匹が途方に暮れていた。
大木のかなり上の梢に 亜麻色の髪の乙女が黒猫を抱いて座っている。
「 調子に乗って登りすぎちゃった・・ ねえ、ここから 飛び降りたらどうなるかしら? 」
「 にゃ! 」
かりり。 ちびくろが 前足でフランソワーズの手を軽く叩いた。
「 そうねえ ・・・ いくら 003 でも 足を傷めてしまうわねえ・・・ 」
「 にゃ〜〜〜あ。 」
「 そうよねえ ・・・ ダンサーとしてそれはとっても困るわ。
でもいつまでもここにいるワケには行かないし くっしゅん! 」
「 にゃにゃ〜〜〜 」
「 うふふ ちびくろは本当に暖かいわねえ〜 ねえ お利口さんのアナタが
どうしてこんなところまで登ってしまったの? 」
「 ・・・ にゃあ〜〜〜 ・・・ 」
「 あら いいのよ、面白くてついつい登ってしまったのでしょ?
猫さんは木登り、大好きですものねえ。 この樹はね、ウチが建つず〜〜〜っと前から
ここに生えているのですって。 」
「 にゃ〜〜 」
「 本当に大きな樹よねえ ・・・ あら ず〜〜〜っと海の方まで見えるのねえ。
ねえ ちびくろ? わたし ね ・・・ こんな身体になってしまったけど それでも
ジョーに会えたからシアワセって思うの。 うふふ・・・ 」
フランソワーズはちびくろの艶やかな毛並を丁寧に撫でる。
「 にゃあ〜〜〜ん 」
「 あら 賛成してくれるの? あの ね それじゃ ちびくろにだけナイショで教えちゃう〜
わたし ジョーが好き。 仲間として、は当然だけど それだけじゃないわ。 」
「 にゃお〜〜〜〜ぅ ♪ 」
「 うふ ナイショにしてね? だってジョーってば ・・・ わたしのこと ・・・
そのう ・・・ 好き になってくれるかしら ・・・ 」
「 にゃ にゃ〜〜〜!!!! 」
くるくるくるりん〜〜 ちびくろは長いしっぽが盛んに振り回す。
「 え ・・・ そう? ちびがそう言ってくれると 勇気が出てきた かも〜〜
ああ でも! いつまでもここには居られないし・・・ くっしゅん!
ねえ どうしよう・・・ ジョーに助けて〜〜って言ってもいい? 」
「 にゃ♪ 」
「 あら 一緒に行ってくれるの? それじゃ す〜〜〜〜 は〜〜〜〜 す〜〜は 〜〜
みにゃにゃにゃあ〜〜〜〜
ジョ ――― ―― 〜〜〜〜!
た〜すけ〜〜〜て〜〜〜〜〜 ・・・
大きな樫の木のてっぺんで 黒猫と乙女が < 喚いた >
勿論 フランソワーズは脳波通信を使ったのだけれど・・・
「 ・・・ う〜〜ん 聞こえる範囲にいなかった ・・・か。
よ〜し それじゃ! ちびくろ! 飛び下りるわよっ 」
「 !? みにゃ みにゃ みにゃあ〜〜〜 ! 」
「 止めても無駄よ。 安心して、あなたのことはきっちり守るから
えっと ・・・ ここからなら ・・・ 下には石ころとかなさそうね。
そ〜〜れじゃあ〜〜〜〜〜 !! 」
「 みゅ う ・・・ 」
「 いい? しっかり掴っているのよ〜〜〜 ・・・ 行きますっ! 」
ぽ〜〜〜〜ん ・・・ 金の髪と艶やかな黒が 宙に跳んだ。
うわあ〜〜〜 ・・・ やっぱり恐い〜〜 っと思わず目を閉じてしまった時 ―
シュ ッ。 あの・特殊な音がしてやはり特徴的なニオイが漂った。
「 ・・・あ ・・・ ジョー ・・・? 」
目をつぶったままで落下してゆく最中に きゅ。 誰かの頼もしい腕がしっかりと
彼女を抱えるのを感じた。
「 うふふ ・・・わかっていてよ? ジョー ・・・ ありがとう〜 」
「 みにゃああ〜〜〜〜ん♪ 」
ほっんとうにお転婆娘なんだから〜〜〜〜
お〜い 着地 するよ 〜〜〜
とん。 軽い足音が聞こえ ― 次の瞬間には。 二人と一匹は無事に地面に立っていた。
「 も〜〜〜 二人してほっんとうに悪戯っこなんだからなあ 〜〜〜 」
「 ・・・ みゅ ? 」
「 あ ・・・ ジョー・・・ えへ・・・メルシ〜〜〜 」
「 あ〜あ ・・・ このシャツ〜〜 お気に入りだったのに〜〜〜 」
「 あ 焦げちゃったわね ・・・ ごめんなさ〜〜い でも メルシ〜〜 」
「 ホントに〜〜 お転婆姫が〜〜 」
「 うふふ ・・・ ステキな王子様が来てくれました♪ 」
「 にゃあ あ〜〜〜ん♪ 」
「 ジョー ・・・ 大好き ・・・ 」
「 フラン〜〜 ぼく も さ! 」
ちゅ。 ちゅ ・・・・
ジョーとフランソワーズは どちらからというワケもなくごく自然に 唇を重ねた。
にゃ にゃあお〜ぅ 〜〜〜〜 ♪ 一際高く 黒猫の声が響いた。
― この日を境に ちびくろは崖っぷちの洋館から その姿を消した。
からん ・・・・ 北風が小さなお皿を揺らして通りすぎてゆく。
「 なんの音 ? ・・・ あ これ ・・・ 」
ジョーはテラスへのフレンチ・ドアを少しだけ開けた。
「 うひゃ・・・ 今日は風が強いなあ。 ねえ これ、ちびくろの皿だろう? 」
彼はカリカリが少しだけ入っているお皿を持ち上げた。
「 ええ ・・・ あの ・・・ もしか帰ってきたときにって思って。
夜とかに帰ってきて ・・・ お腹が空いていたらいつでも食べられるようにって ・・・ 」
「 ずっと毎日置いてやってたのか ・・・ 」
「 ・・・・・ 」
フランソワーズは黙ってうなずいた。
「 ・・・ そうだよなあ ・・・最初はどこかに大遠征したのか
彼女でも探しに行ったのか・・・って思ってたけど ― もう一月か・・・ 」
「 ええ もうひと月も 」
そう ― あの日から。 二人の熱々・キスの間で自慢気に髭をまわしていた ちびくろ。
あの日、晩御飯を食べた後、ふらりと出かけ ― いまだに帰ってこないのだ。
「 ・・・ 淋しいなあ〜 」
「 ええ ・・・ いっつもちびくろが一緒って当たり前みたいになってたから ・・・
ご飯〜〜〜って 足元ですりすりしてるのが毎日だったから ・・・ 」
「 どこ 行っちゃったのかなあ・・・ 保健所とかシェルターにも行ってきたけど
ちびくろはいなかったし。 」
「 ちびくろはすばしこいしお利口さんだから 捕まったりはしないわ。 でも ・・・ 」
フランソワーズは大きくため息をつく。
「 もう ・・・ お皿、片づけましょうか ・・・ 」
「 そう だねえ ・・・・ 」
ジョーも歯切れわるく、やはりため息・吐息で小さなお皿を眺めている。
「 お!! ジョー〜 ちょっとおいで 」
珍しく博士が声を上げてジョーを呼んだ。
「 はい? ・・・ なんだろう? 」
彼はそそくさとリビングに引っ込んだ。
からん。 また 空っぽのお皿が鳴った。
「 ・・・ もう帰ってこないのかしら ・・・ 」
フランソワーズは 重いため息をつきつつ、その小さな皿を片づけた。
その日。 半年ほど前、老人とちびくろの両親兄弟を ひき逃げした犯人 が逮捕された。
しかし犯人は ドライバーとして指示されただけだ、闇サイトで知った<仕事>だった、と供述していた。
カツカツカツ コツコツコツ ・・・ 一組の足音が夜の道を通ってゆく。
「 ・・・ ああ いい演奏会だったわあ〜〜 」
「 ウン。 あ 気に入ってくれた? フラン・・・ 」
「 ええ とっても! ありがとう ジョー すごく楽しかったわ。
ね・・・本当のこと、言って? ジョー ・・・ クラシック好きなの? 」
「 え ・・・ あ〜〜 」
二人は 【 ショパン・セレクション・コンサート 】 を聴き終え劇場から出てきたところだ。
珍しくも ジョーが彼女を誘ったのだ。
「 あの さ。 実は ・・・ アルベルトに相談したんだ。 彼のお勧めなんだ。 ごめん・・・ 」
「 あら どうして謝るの? わたし すごく嬉しいのよ〜〜 」
「 フラン ・・・ 」
「 ね? 今度はジョーが好きなジャンルのコンサートに連れていって? 」
「 ウン! ぼく さ J−POP とか好きなんだ。 今度・・付き合ってくれる? 」
「 勿論よ〜〜 きゃ〜〜 楽しみだわあ〜 」
「 ぼく も さ。 ・・・ あは 博士も一緒だったらよかったのになあ。」
「 そうねえ。 博士もね ショパンとかお好きなのよ。 残念ね ・・・ 」
気晴らしに と ジョーは今晩のコンサートに博士も誘ったのだ。
「 おお ありがとうよ、ジョー。 しかし 残念じゃが ・・・ ちょいと緊急の用件があってのう〜
二人で行っておいで。 」
「 え でも〜 せっかくジョーがチケット取ってくれましたのに ・・・ 」
「 そうですよ〜〜 博士〜〜 あのホール、お好きですよね。 」
「 うむ しかし ちょいとなあ ・・・ 気になるんじゃ。 」
「 ??? なにが ですか。 」
「 例の火災じゃよ。 始めは ゴキブリやらドブネズミ・・・害獣の焼死体じゃった。 」
「 あ ・・・ ウチの庭の ・・・ 」
「 そうじゃ。 それから火災が頻繁に起きたが放火ではない、と断定された。 」
「 新聞に出てましたね。 この辺りの地域だからちょっと心配しましたけど。
」
「 うむ。 その火災がどうも気になってなあ。 先日の猫田博士と協議したくてな。 」
「 あの ・・・ 超能力関係の博士ですよね? 」
「 え それじゃ ・・・ 火災は超能力者と関係があるのですか。 」
「 まだわからん。 しかし な ・・・ 精神というものは 時にとんでもないことも
可能にするからなあ。 特に 怒りや悲しみの負の感情はな。
さ、 お前たちは楽しんでおいで。 ・・・ ジョー がんばれよ! 」
そんなやり取りのあと、二人は都心まで出かけてきたのだ。
コツコツコツ カツカツカツ ・・・ 二人はいつの間にが手を繋いで歩いていた。
「 あ ・・・ ここって ちびくろ に出会った場所ね。 」
フランソワーズが 首をめぐらせて周囲を眺めている。
「 そうだね ・・・ こんなちっちゃな仔猫だったんだ ・・・ 」
「 ・・・ ええ どこでどうしているのかしら ・・・ ちびくろ ・・・
― あら? ねえ ・・・ なにか起きたのかしら。 」
「 え? 」
「 ほら ・・・ 警察の車よ? 」
「 うん? あ 護送車だよ あれ。 」
「 そう ・・・ あ! ジョー ・・・ ちびくろ よ! 」
「 え!? どこだ?! 」
「 あそこ! 車の陰に ・・・ ほら 真っ黒だからよく見えないけど 白い手先が見えるわ! 」
「 ・・・ ほんとだ! アイツ こんなトコまでどうやって・・・いや なにをしてるんだ? 」
二人は足音を消して近づいてゆく。
「 あ・・・ 車の後部ドアが開いたわ。 犯人かしら 拘束された人物が降りて来たわ。 」
「 ここはあの事件が起きた場所だからなあ。 あ?! 」
「 え? ああ!! 火 ・・・ 火 よ!? 」
それは 本当に突然だった。 火の気が全くない場所であるのに 突然 ・・・
容疑者の身体に火がついた。 当然周囲は騒然となった。
うわあ〜〜〜〜 にゃあぉぅ 〜〜〜〜〜〜 !!!
「 ! ちびくろ! ちびくろの声だわ! 」
阿鼻叫喚の中 フランソワーズは確かにちびくろの勝ち誇った声を聞いた。
「 だめだ! ちびくろ〜〜〜〜 ! 」
「 あ ジョー !!! 」
ジョーは ぱっと駆けだした。
「 いけない!
ちびくろ〜 殺してはだめだ! だめだよ〜〜 」
彼は 炎と一緒にちびくろを抱き止めた。
「 にゃ にゃあ〜〜〜〜 ・・・・ ! 」
「 き 君! こ この猫が ・・・??? 」
ばたばたと警官たちが駆け寄って来て ジョーの衣服を叩き火を消してくれた。
「 あ ・・・ ありがとうございます ・・・ 」
「 まさか この猫が ・・・ 火を? 」
「 さあ ・・・ あ〜 あの時のお巡りさんですね!?
このコ あの子猫ですよ 」
ジョーは 毛皮が焼け焦げぐったりしているちびくろを見せた。
「 ? ああ 君はあの時の! え それじゃ ・・・・ この猫は … 親兄弟の敵討ちを したのか … ? 」
「 かもしれません。 わからないけど ・・・ あの 連れて帰っていいですか。
もうこんなことに巻き込まれないようにしっかりウチで保護しますから。 」
「 いや ・・・ 猫が火を点ける、なんて考えられんよ。 しかしどうして??? 」
警官たちは首をひねっているばかりだ。
フランソワーズは自分のマフラーをふわり、とジョーの肩にかけた。
「 ― 大丈夫 ? ジョー ・・・ 」
「 ありがとう ・・・ ちびくろ? ほら・・・フランだよ〜 」
フランソワーズはそうっとジョーの腕の包みを覗き込む。
「 ねえ! もうこんな ・・・ 哀しいことは やめて ・・・ !
アナタは もう怒らなくていいの。 ちびくろ はいつも笑っていればいいわ。 」
「 そうだよ ちびくろ。 お前は悪戯していれば いいんだよ。 」
「 ・・・ みゅう ・・・ 」
「 さあ 帰りましょう? ちびくろ、あなたのお家へ ね。 」
「 うん。 あ どうもお騒がせしました。 」
ジョーは 中年の警官に挨拶をすると ちびくろを包んだコートをしっかりと抱いた。
「 ジョー ・・・ 」
「 うん、 フラン。 」
二人は肩を寄せ合い、 ちびくろを抱いて家路を辿った。
ひらり ひら ひら ・・・・
雪が 舞い落ちはじめた。 怒りの炎の跡を 消し去るがごとくに ・・・
ちびくろ は命を取り止めた。 そしてギルモア博士が
猫田博士との共同研究開発した
制御チップを埋め込んで
ごく普通の、 でもりりしい黒猫となった。
そして その後 ― コズミ博士の邸に住むこととなった。
彼はコズミ家の縁側が大層気に入った様子で ご当主が囲碁を打つのを並んで眺めるのも日課だった。
「 よお ちびくろ〜 また一局 打ちにきたぞ〜 」
時折 ・・・ 銀髪のドイツ人が勝負にやってくる。
「 ふふん〜〜 初心者に負けるワシではないぞ、アルベルト君。 」
「 さあなあ〜 < オネガイシマス > 」
「 おう、 お手合わせ願おう。 」
やがて白熱の勝負が展開し ―
かちり。 長いしっぽの先っぽが 碁石を起用に動かした。
「 あ! おめ〜〜〜 ずるいぞ! 」
「 おお! その手があったか! ありがとう! ちびくろクン! 」
「 にゃあ〜〜〜〜 ん ・・・・ 」
くるくるくるり。 ちびくろは自慢の尻尾を回すと ― に ・・・っと笑った。
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Fin.
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Last updated : 01,07,2014.
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************** ひと言 *************
やっと終わりました ・・・・
ともかく! にゃんこが不幸になるなんて耐えられないですから!
こちらは はっぴ〜えんど♪ であります (^◇^)