『  ちびくろ  ― (1) ―  』  

 

 

 

 

 

 

 

 バタバタバタ  ドタドタドタ ・・・・  

 

先ほどから かなり賑やかな足音がギルモア邸中に響きわたっている。

「 ・・・ あれ〜〜〜 ??  キーは・・・っと?? 車のキー、どこに置いたっけ? 

独り言なのか ぶつぶつ言いつつ、ジョーが家中を駆けまわっているのだ。

自分の部屋に飛び込んで がさごそやっていたかと思えば だだだだ〜〜と階段を駆け下り、

玄関の納戸に入り込み − 果ては地下のロフトまで降りて ・・・ また駆けあがってきた。

「 えっと  ・・・ これで準備はおっけ〜 かな・・・

あとは〜〜 っと 駅前の花屋に注文しておいた薔薇の花束をもらって ・・・ っと。

 あ! そうだ、新しいYシャツ、出しておかなくちゃ!  」

やっと静かになった ・・・ と思ったらすぐにまた ドタバタと階段を駆け上がっていった。

 

「 ・・・ アレはなにをしておるのですかな? 」

グレートが 新聞の陰から顔を覗かせた。

「 朝からバタバタ ・・・ 家中を駆け回っているじゃないですか。 」

くい、とメガネをずり上げ、彼は渋面をつくってみせた。

「 ・・・ んん ?   ああ ジョーのことかい 」

こちらも読書に没頭していた博士が ようやっと顔を上げた。

「 そうです。 当家の青少年は なにを騒いでおるのですかな。 」

「 − あ ・・・・?  」

博士は はて? と首をひねっている。

  ・・・ あれだけドタバタやられているのに 全くの無関心、というのも

凄いというか困りもの といところなのだが。

博士の < 習性 > は グレートも十分承知しているので 気にしてはいない。

しかし ― ジョーの騒ぎ は気になるのだ。

 

 ドドドド ・・・ !  博士の答えの前に 二階への階段が < 鳴った >

 

「 ほ ・・・ ま〜た降りてきよったぞ? 今度はなんだ。 」 

グレートは にやり、と笑うと新聞紙を取り上げ その陰に隠れた。

   ことん。   ドアがほんの少し 開いた。

「 ・・・ あの〜〜〜 博士、 グレート・・・? 」

ジョーが戸口からこそ・・・っと声をかけてきた。

「 ・・・  ふん?  あ ああ〜〜〜 ジョーかい。 」

博士がのんび〜〜り応えた。

「 はい!  あの ぼく ・・・ 今から大急ぎで買い物、いってきます〜〜 」

一陣の風を共に現れた茶髪は いまにも飛び出しそうだ。

「 おいおい 買い物・・・ってなにが必要なんだね。 」

やっとグレートが 新聞紙のすみっこから発言をし、焦る青少年を抑制する。

「 なに・・・って。  あの! ぼく ・・・ ちゃんとしたネクタイって 

 もってなくて。 今 気がついて。 だから駅前のスーパーで買ってきます! 」

「 ネクタイ???  お主に必要なのかな? 」

「 グレート!! 忘れたのかい?? せっかくそのためにこっちに来たのでしょ? 」

「 ネクタイ のために か?? 」

「 ち が〜〜〜う!!   博士もグレートも! とっとと支度してくださいよ!

 新人公演ったって 主役は主役ですら ね♪ ちゃんと正装して行かなければ。 」

「 ・・・ ああ  マドモアゼルの舞台 かい。 」

「 そうだよ〜〜 ほらほら〜〜 博士、ちゃんとスーツ着てください!

 グレートも イギリス紳士の正装だからね! 」

ジョーはもう滅茶苦茶に張り切っていて半分逆上せている ・・・ のかもしれない。

「 しかし 開演はたしか ・・・ 6時じゃっただろう? まだまだ十分時間があるぞ。」

博士は壁の鳩時計を見上げ グレートはポケットから懐中時計をだし針を読んだ。

「 だって! フランは ほら 朝一番に出掛けてたじゃないですか〜〜〜

 きっとなにかの都合で開演時間、早まったのかもしれいない。 

 うん きっと そうなんだ! 」

「 そんなことはないだろう? だいたい舞台というものは だな 〜 」

グレートの説明は まるっきりジョーの耳には届いていない。

「 せっかくフランが主役を踊る日なのだよ? ぼく達だって急がないと〜〜 

ジョーは ― どちらかというとおっとりタイプの彼が 足踏みまでしている。

 

   はあ ・・・?  コイツ ・・・ 観劇とかの経験がないのかね?

   日本は結構コンサートなどは頻繁にあると聞くが ・・・

   いや 〜〜 それだけマドモアゼルに首ったけ♪ ってことか?

 

グレートは はは〜〜ん・・と思ったがオクビにも出さない。

「 あのなあ My boy ?  本番の日、ダンサーも役者も だな・・・

 楽屋入りは大抵朝いちばんなんだぞ。 特にダンサーは当日のレッスンもあるし、

 ゲネがあったりもうするからなあ〜〜 朝は早いのさ。 」

「 れっすん???  げね???  本番の日に ? 」

「 ああ。 ほれ 野球やバスケの試合でも ちゃんとウォーミングアップするだろ。 」

「 あ ああ・・・ そうだけど ・・・ 」

「 それと同じさ。 ダンサーも役者も 肉体労働なんだからな。 

「 ジョー まあ 焦らずに我々はゆっくり時間通りに劇場へ行けばよいのじゃよ。

 ま 途中で花束でも買うために ほんの少し早くでかけるとしよう 」 

「 あ それならば注文してあります! 駅前の花屋で受け取ればいいだけですよ。」

ジョーは胸を張って報告した。

「 ほう〜〜 そりゃまた手回しがいいなあ。 で なんの花を注文したのかな。」

「 え ・・・ 花 ? 」

「 左様。 どんな花の花束を頼んだのかい。 」

「 ・・・ え あの  ・・・ 値段、言って 花束をお願いしますって・・・ 」

「 なんと〜〜〜 おい、駅前のあの花屋だな? ロータリーの外れにあって

 あの魅惑的な黒目の美女が 売り子をしている店だな? 」

「 ウン ・・・・ ってか グレート・・・ よく知ってるね〜〜〜 

 ふ〜〜〜ん どこでも美人はチェック済みってこと? 」

「 ば〜か言え、ジョー、お前さんじゃあるまいし。

 ふふん 吾輩は 何回かマドモアゼルに花束を贈っておるからな。

 あの店は懇意なんだ。  おい ・・・  一足先に出掛けよう。

 博士〜〜〜 ちょいとジョーを借ります。 なに、ちゃんと迎えに帰らせますから・・・

 ぼちぼち支度しててください。 」

グレートは博士に声をかけると ジョーの腕を引っぱり立ち上がった。

「 ?? グレート ・・? 」

「 ほら 行くぞ!  そして 花束の注文のし直しだ。 」

「 え ・・・ で でも ・・・ 」

「 ふふん 我らがマドモアゼルには  真紅の薔薇 に決まっているじゃないか。 

 プリマに贈るにふさわしい。 ちゃんと覚えておけ、青少年よ! 」

「 は はい ・・・ 」

「 おらおら〜〜 大至急、車だしてくれ。 」

「 アイアイサー 」

ジョーはガレージに駆けてゆき、間もなく彼の愛車はグレートを乗せて邸前の急坂を

 ― 転がり降りていった。

 

 

 

 ・・・ カッ カッ カッ   コツ コツ コツ ・・・

 

公園の石畳の道に 二人の足音が思いのほか大きく響く。

昼間は人が多く喧騒に溢れているこの地も 夜になると人影は少なくなってきていた。

古い公園なので沢山ある樹木はみな大きく鬱蒼と枝を伸ばし葉を茂らせている。

その一角に美術館やらホールがある造りなのだ。

 とっぷり暮れた闇に街灯がぼやけた光を振り撒いている。

 

  ― その間を ジョーとフランソワーズが肩を寄せて歩いてゆく。

 

「 ・・・ 夜は  静かねえ ・・・ 」

絡めた腕に身を寄せて 彼女は独り言みたいに呟いた。

「 え ・・・?  あ  ああ そうだねえ  昼間とは別の場所みたいだ 」

「 そう?  わたし、 朝通っただけだから 気が付かなかったわ ・・・ 」

「 夜の方がぼくは好きだな。  ― きみは昼も夜も ・・・ す すてき だけど 」

きゅ。 彼の大きな手が白くて細い手を握った。

「 まあ〜〜 お世辞でもうれしいわあ〜〜〜♪ 」

「 ! お世辞なんかじゃないよ〜〜 」

「 いいの。 そんなこと、言ってくれた人ってジョーが初めてですもん。

 あ り が と う ジョー♪  このお花もとっても素敵〜〜〜 」

抱えている紅薔薇は ほんのり甘い香を夜気に漂わせている。

「 え あ は ・・・ 気に入ってくれた?? 」

「 ええ とっても♪  ふふふ・・・ 博士やグレートと一緒に楽屋まで来てくださって 

 ものすごく嬉しかったわ。  うふふ・・・ 皆から お父さんと伯父さんと・・・

 茶髪の人は カレシでしょう〜〜〜 ってからかわれちゃった・・・ 」

「 ご ごめん!  ああいったところには行ってはいけなかったの? 」

「 ううん。 一応今夜だけでも あ〜 わたし、主役を踊ったんだ〜〜 って。

 ものすごくシアワセ気分いっぱ〜いだったわ 本当にありがとう 」

「 え えへへへ ・・・・ ぼく、初めてのことばっかりで ・・・

 ああ なんだか感動でお腹がいっぱいになっちゃったよ。 」

「 まあ ・・・ 普通 < 感動でいっぱいになる  > のは胸じゃないの? 」

フランソワーズはとうとうクスクス笑いだしてしまった。

「 む 胸はね!  もうとっくにいっぱいになっていたから さ。 」

「 うふふふ ・・・ ジョーって本当に楽しいわ 」

「 え  そ そう?? 」

 < きみの踊りは最高だった >  とか < あんなに回るってすごいなあ > とか

舞台の感想を述べるのが普通だろう。 

しかし 彼は 観劇に行けたこと そして 意中のヒトの可憐な姿をみられたこと に

猛烈に感動している。

「 それで ― わたしの踊りは如何?  あ  眠っちゃってた? 」

「 !  なんで眠れるのさ??  もう〜〜〜 夢中になっちゃったよ! 」

「 まあ それは嬉しいわあ〜〜 」

「 えへへへ ・・・ ( ホントは目が回りそうだったんだけど」〜〜 ) 

「 わたし ね。 王子はジョーなんだって思って踊っていたの。 

 王子が ロットバルトと闘っている時なんか  ジョー〜〜〜!! って

 心の中で応援していたの。 」

「 ろっとばると? 」

「 ほら あの悪魔よ、 わたし達に魔法をかけて白鳥に変えてしまった悪魔。 」

「 あ〜〜 最後のあの決戦かあ〜 うん あそこ 面白かった! 」

「 ふふふ  今度はちゃんとわたしの踊りもみてね。 」

「 う うん  ホント言うとさ・・・ なんか きみをず〜〜〜っと追っていたら目、回っちゃった・・・ 

でもね! ほっんと〜〜に すご〜〜〜〜く ステキだった! 」

「 ありがと♪ 

  きゅ。  白い手がジョーの腕に絡みつく。 

 

    うわ〜〜〜 ・・・ 

    えへへ ・・・ ぼくのカノジョ に見える かな〜〜

 

ジョーはいい匂いのする細い身体をそ〜〜〜っと抱き寄せ 一人顔を赤くしている。

どう見ても立派に 恋人同士 の二人は 暗い木立の茂る道をゆっくり通り抜けてゆく。

 

 

   みゅう ・・・ 

 

「 !?  え ・・?!? 」

「 で それでね〜〜  ??  フラン 〜〜 どうしたのかい? 」

いきなり小声を上げた彼女に さすがのジョーも驚いた。

「 なんか いるわ ・・・  あ !  仔猫 ・・? 」

「 え!? な なんだってぇ〜〜〜 」

 

  み〜〜〜    花壇の陰から またしても哀し気な声が聞こえる。

 

「 ・・・ いたわ!  ジョー そっちの花壇の後ろだわ〜〜 

「 了解〜〜 ・・・って   あ! いたいた〜〜〜 ほらおいで 」

「 うふふ・・・ さあおいで。 

みゅうう〜〜〜  ジョーが抱き上げると 真っ黒な仔猫は安心したみたいな声をあげた。

「 やあ なんだ〜〜お前かあ?  父さんは母さんはどうした? 兄弟もいたよね? 

 あ・・・遊び過ぎて迷子かい、相変わらずドジなんだな 」

「 みぃ 〜〜〜 」

「 まあ ・・・ ジョー〜〜 このコと知り合いなの?? 」

猫と話しているジョーに フランソワーズは目をまん丸にしている。

「 あ 実はムカシの友達 〜〜 じゃなくて。  昼間にね〜 会ったんだ。 」

「 ええ?? 昼間に って ここで ? 」

「 うん。  ぼく、さ 張り切りすぎてさ・・・ その〜〜 駅にずいぶん早く着いてちゃって ・・・ 

博士とグレートは美術館に行っちゃって ・・・ 」

彼はちょっと照れくさそうな顔で ぽつぽつ話始めた。

 

 

 ・・・ その日の夕方、といってもまだ昼間の光が十分残っている頃のこと。

 

「 あ〜〜 まだこんな時間かあ〜〜 やっぱ早すぎたですね〜〜 」

ジョーは時計を見て ぺろっと舌を出した。

「 お主がやたらと急かせるからだぞ。 いやはやなんとも中途半端な時間に来てしまったなあ 」

ジョーは博士とグレートを愛車に乗せて かなりのスピードで飛ばしてきたのだ。

そして ― フランソワ―ズが踊る舞台が上演される劇場に 早々に着いた。

付近のパーキングに車を置いて、 ― さて。  三人は手持無沙汰になってしまった。

「 あ・・・どこかでお茶でもしましょうか? 」

「 う〜〜ん それもなあ ・・・ まだ時間がありすぎるぞ。 」

「 えへ ・・・ すいません ・・・ 」

「 まあ よいよ。  ・・・ この公園の中には劇場だけではなくて確か ・・・

 美術館やら動物園もある、と聞いたことがあるが ・・・ 知っておるかな。 」

「 え ・・・ さあ〜〜 ぼく・・・この辺に来たことって全然なくて ・・・ 」

地元国民のはずなのだが こと芸術方面にはジョーはまったくアテにならない。

慌ててスマホなんぞを弄っている。

「 うぉっほん。 博士、ご明察の通り立派な美術館がありますぞ。

 今 ・・・ 確か水墨画展を開催しているはず。 

 どうですかな、ちょいと脚を伸ばして ・・・ 別世界を覗いてきませんか。 」

さすがグレートは芸術方面の事情に詳しい。

「 おお それはいい ・・・ ワシもなあ、あの侘び寂びの世界には関心を

 寄せておったのじゃよ。 」

「 そりゃよかった。 ご一緒しましょう。 」

「 あ〜〜〜 ・・・ ぼくは〜〜  」

「 お主は動物園でも覗いてこいよ〜 お〜〜っと・・・ コレは吾輩が

 預かっておく。 お主に持たせたら振り回しかねんからな〜〜 」

グレートは ひょうい、とジョーの手から大きな花束を取り上げた。

「 あ〜〜〜 ひど〜〜〜 」

「 ひどくないさ。 ぶらぶらするには邪魔だろう? 

 そうさな ・・・ 開場の10分前に劇場前に集合、 それでいいな。 」

「 あ う  うん ・・・ 」

「 ほい、 では博士・・・ 参りますかな。」

「 うむ うむ ・・・ ここはいい森じゃのう・・・ 」

年配者の二人はさっさと行ってしまった。

「 ・・・ な〜〜んだよ〜〜〜 ・・・ まあ < すいぼくが > はちょっとなあ・・・

 ま いっか ・・・ どっかに漫喫でもあるかもしれないし〜〜 」

正真正銘? 手持無沙汰になってしまったので ジョーはぷらぷら・・・ 公園の中を

歩き始めた。

その公園はかなり大規模に広がっていて 劇場やら美術館、動物園の他にも

大きな池があったりして、 休日には多くの人々が遊びに来ていた。

 

「 動物園・・・ってもなあ・・・ 一人で行ってもつまんないしなあ〜〜

 あ 今度、フランソワーズ誘ってみよっかな ・・・ 女の子は動物園とかキライかなあ・・

 でも ペンギンとかカワイイ〜〜〜 って喜ぶかもなあ・・・ 」

( ジョー君。 その動物園には ぺんぎん はいませんヨ  もっと有名なアレがいるでしょ! )

コーラのペットボトルを振り回しつつ ジョーはのんびり歩いてゆく。

「 ・・・ あれ? なんかやってる ・・・ 大道芸 とかかな〜〜〜 」

前方に人だかりができている。  彼も好奇心に駆られて近づいていった。

「 ・・・ なんだ??  え?? 猫?? 」

人々が見守るなか 一組の黒猫がカードの山を前に座っている。

後ろでイス座っていた老人が つっと立ち上がりぐるりと見回してから口を開いた。

「 皆様 では次に ・・・ムッシュウに掛け算をしてもらいましょう。

 ムッシュウ・ノワール ? 」

「 にゃあ。 」

ひげをぴん! と張った黒猫が すた・・・っと前に出てきてくるり、と長い尻尾を上げた。

金色の瞳に赤い首輪が似合っている。

「 では  6 × 8 はいくつですかな。

すた・・・。 黒猫はカードの山からすっと一枚咥えてもってきた。

「  48!  はい 正解ですね〜〜 」

   おお〜〜〜  すごいね〜〜〜  パチパチパチ・・・

見物の間からは 軽い感歎の声がおきた。

   ・・・ マタタビでも塗ってあるんじゃないのお〜

そんな声も聞こえた。

「 おや それじゃあ 皆さんからご出題ください。 3桁くらいまでオッケーですよ。 」

老人は黒猫のアタマをなでつつにこにこしている。

   それじゃ〜 123 × 345 は!? 

さっそく群衆から声が上がった。

「 ムッシュウ・ノワール 如何です? 」

「 にゃ。」

ちょっと小首を傾げてから 黒猫はすぐに何枚かの数字のカードを咥えだした。

「 え〜と?  42435 だそうです。 さあ〜〜 みなさん、正解でしょうか? 」

    ・・・ わあ〜〜〜 合ってるよ〜〜〜

電卓を叩いた少年が手を叩いて歓声を上げた。

    すげ〜〜〜  ホンモノだね〜〜〜  天才猫かあ〜〜 

今度はおざなりではない拍手も起こった。

「 ありがとうございます。  では ・・・ ムッシュウの奥さんにもお願いしましょう。

 マダム・ニュクス?  今日のお天気はいかに? 」

「 みゅああ〜〜〜ん 」

今度は 碧い瞳の黒猫が静かに進み出てきた。  カードの山からもってきたのは・・

「 はい ありがとう、 おお 晴れ ですね〜〜  マダム・ニュクスは漢字が読めます。」

     え〜〜〜〜 本当かなあ〜〜   ウソだろ〜〜〜

見物人はちょっと疑いの目を向けている。

「 では今回もお題を頂戴しましょう。 どなたか・・・ 熟語を書いていただけますか?

 あ・・・ 楷書できちんとお願いしますよ。 」

     はい!  手をあげた老婦人がさらさらと書いた。 ― 動物園 ―

「 マダム・ニュクス? お願いしますよ。 ニュクス とは 夜の女神 のことです。 」

「 みゅ。 」

碧い瞳の黒猫は カサリ・・・と数枚のカードを咥えだし並べて置いた。

 

   ど  う  ぶ  つ  え  ん ・・・   わあ〜〜〜〜 すごい〜〜〜

 

今度こそ見物人たちはやんやの大拍手〜〜〜 を送った。

「 ありがとうございます〜〜  ではムッシュウとマダムの子供たちがお志を頂戴に

 あがりますので ・・・・ お願いします。 」

   にゃあ〜〜〜  みゅう〜〜〜

仔猫が二匹 軽い籐の籠を引いて現れた。  二匹とも両親と同じ真っ黒で 片方の仔は

金目、少し小さい仔は碧い瞳だ。

 

   かわいい〜〜〜♪  このコ達も賢いんだろうねえ・・・

 

くるり、と撫でてくれる人もいて、二つの籠はたちまちコインやらお札が入れられた。

「 あは ・・・ すごいなあ〜〜 

ジョーは後ろの方でひたすら関心して眺めていたが、仔猫たちが回ってきた時には

手を伸ばしてコインをいれ、もふもふと撫でてやった。

「 可愛いなあ〜  ・・・ あれ? もう一匹いるんだ? 」

見物達は三々五々散り始めたが ジョーは座っている老人の足元に別の仔猫をみつけた。

「 あ・・・ 兄弟なのかな?  ・・・ あれ・・・アイツ、右手の先が白いや・・・

 よしよし・・・ 」

彼は無意識の内に近寄って仔猫の前にしゃがみ込んだ。

「 あの ・・・ このコも兄弟ですか? やっぱりアタマがいいのかなあ〜 」

    みゃあああ〜〜ん ・・・・ チビ猫はジョーの手にじゃれつき始めた。

「 え?  ・・・ ああ コイツは末っ子なんですがねえ ・・・・

 同じ両親の仔なんだが真っ黒じゃないし。 悪戯ばっかりしていて・・・困ったコなんですワ」

老人は それでも愛しそうにそのチビを眺めている。

「 へえ ・・・ 末っ子のミソッカスかい? ・・・あ 目の色が左右違うんですねえ 」

「 ええ オッド・アイは白猫には多いんですけどね。 さあ 悪戯はもうお終いだよ。 」

チビ猫はジョーの靴にじゃれつき始め、飼い主になだめられている。

  にゃあ〜〜。  みゅう。  いつの間にか黒猫夫妻が老人の足元に控えている。

「 みゅう 〜〜〜 」

母猫が呼ぶと さきほど籠を引いていた仔猫たちが駆け寄ってきた。  

「 ほらほら・・・ 母さんが呼んでいるぞ? 」

   みゃみゃみゃ・・・  チビはがしがしとジョーのズボンの裾を齧りはじめた。

「 にゃ! 

父猫がぱっと駆け寄ると  あぐ。  末のムスコの首の後ろを咥えて連れ戻した。

   ! ・・・ みゃあああ〜〜〜・・・

「 ほ〜ら父さんにも怒られたじゃないか。 さあ 帰るぞ。 」

「 もう帰る時間だってさ。 名残惜しいけど ・・・ バイバイだよ〜〜 」

ジョーはもういちど、くりくりとチビ猫のアタマやら顎の下をなでてやった。

「 可愛いですねえ〜〜  また会えるといいな・・・ はい どうぞ。 

抱き上げ、顔を見つめてから老人に ぽん、と渡した。

「 ありがとうございます。 どうもねえ・・・・コイツは兄姉のようにはもの覚えは

 よくないし・・・ 末っ子の出来損ないのようです。 」

「 そんな ・・・ まだ仔猫だから・・・ 」

「 いやいや・・・ こっちの仔猫たちは簡単な足し算ならできるようになりましたが

 コイツは全然ダメで ・・・ どこかに里子に出そうかと思っています。

「 え!  あの ・・・ 出来れば親・兄弟と一緒に・・・ あ すいません ・・・ 

 ぼくの猫じゃないのに余計なことを ・・・ 」

「 いやいや 可愛がってくださってありがとうございます。

 さあ お前たち、ウチに帰るぞ ・・・ 」

老人は荷物を小さなカバンに詰めると 黒猫の一家と共に公園の門へと向かって行った。

 

「 あ ・・・ また会えるといいなあ ・・・ あ! いっけね〜〜〜 」

ジョーはぼんやり彼らを見送っていたが  ―  はっと我に返りとびあがった。

「 わわわ 〜〜 大変だあ〜〜〜 開場時間だよ〜〜 ぼくがチケット、持ってるんだった!

 わ〜〜〜〜 博士〜〜 グレート〜〜 ごめん 今行くから〜〜 」

 

   ドタバタ ドタバタ ・・・ よそ行きのスーツ姿で彼は慌てて駆けて行った。

 

 

 

 ―  ・・・ と まあ そんなことがあったのさ。  ジョーはゆるゆると語り終える。

   みゅう〜〜〜〜ん ♪

その間中 当のご本人、いやチビ猫は彼の腕の中でご満悦だ。

「 まあ そんなことがあったの・・・ ふうん ・・・ アナタの飼い主さんや

 父さん・母さん 兄弟たちが心配しているのじゃなくて? 」

フランソワーズも 細い指で仔猫の頬をなでる。

「 みゅうう ・・・ 」

「 ふふふ  可愛い〜〜 アナタ、右手の先が白いのも気にいったわあ〜                   

 ね 友達になって? わたしは フランソワーズ よ。 」

「 みゅ  〜〜〜〜〜♪ 」

「 父さん母さんは天才猫で兄弟たちも賢いコなんだ。 こいつは末っ子のミソッカス・・・

 へへへ なんとな〜く親近感があって さ。 なあ チビ〜〜 」

「 みゅうぅぅぅ〜〜〜〜 」

咽喉の下を優しくなでてもらい、チビ猫は目と閉じてごろごろいってる。

「 親近感? 」

「 ウン ・・・ ほら ぼくって そのう・・・9番目の末っ子だろ?

 なんとなくミソッカスって気分の時があるしね〜 」

「 まああ〜〜 最強の009がなにを言ってるのかしらねえ・・・ 」

「 コレは気分の問題です、なあ チビ? そうだよねえ〜 」

「 みゅにゅう〜〜 ・・・・  みゃ? 

いきなり仔猫がぴくん、と身を震わせぱっとアタマを上げた。

大きな耳をぴん、と立てひげもふるふる・・・振りたてている。

「 ? どうした、チビ?  犬でも来たかい? 」

「 ・・・  あ  わんちゃんじゃあないわ。 どうやらお迎えが来たようよ? 」

フランソワーズが暗闇へじっと目を凝らしてから にっこり笑った。

「 え ? 」

 

   「 にゃあああ〜〜〜〜 

 

ほどなくして 猫の強い鳴き声が聞こえてきた。

「 ・・・ あ 探している のかな ・・・? 」

「 ご名答。  このコの母さんが心配しているわ。 」

「 そっか〜〜  じゃあ 残念だけど ― ほら 母さんとこにお帰り。 」

ジョーは身をかがめると ぽん、と仔猫を地面に下ろした。

「 みにゃああ〜〜〜〜 」

仔猫が駆けだすのとほぼ同時に 真っ黒でしなやかな身体の猫が走っりよってきた。

「 にゃああああ〜〜〜〜 ! 」

「 みゅう〜〜〜〜 」

大きな猫 ― 母猫はさかんに仔猫の身体を舐めている。

「 ああ よかった ・・・ 母さんに会えたねえ ・・・ 」

ジョーは母子の側に屈みこんで眺めている。

  

  たったった ・・・ 少し重い足音がゆっくり近づいてきた。

 

「 ・・・ ほい  やっと追いついた ・・・ 

 ニュクスや、 チビは見つかったかい?   ああ これは ・・・ 」

白い髭を蓄えた老人が 猫たちに近寄ってきて、ジョーとフランソワーズに気付いた。

「 あ  あの。  このチビ猫が花壇の陰で迷ってて ・・・ 」

「 どうやらお母さんにお返しできたみたいですね。 

    にゃおう〜〜 !  老人の足元でまた別の力強い鳴き声がきこえた。

「 こらこら・・・ ノワール。 静かにおし。

  ほら ・・・ お前さんの末息子のところにいっておやり・・・ 」

老人は 控えていた黒猫の背を ぽん・・・と軽く叩いた。

「  にゃお。 」  彼はゆっくりとチビ猫たちのところに歩いてゆく。

「 まあ ・・・ 素晴らしく綺麗な猫さんですわね。 艶々した毛並と長いお尻尾・・・

 きりっとした耳がすてき。 」

フランソワーズはほれぼれと見ている。

「 ほっほ・・・あれは ノワールという名で・・・ あのチビ猫の親父ですワ。

 いやあ ありがとうございました。 もう あの末っ子のチビはどうも出来損ないで・・・ 」

「 いえ 可愛いですよ〜〜 なあ? 」

「 ええ ええ とっても。 ふふふ・・・ ママンに甘えていますわね。」

「 もうねえ・・・ しょうもないイタズラっ子で ・・・ 兄や姉は聞き分けもよくて

 両親に習っていろいろ芸を覚えているのですけどねえ・・・ 」

    みゅう〜〜〜♪  チビ猫は相変わらず母猫に甘えている。

すると。 すたすたと母子の側に寄っていった黒猫・ノワールは ―

 

     ぱし。   父さん猫はイタズラ坊主に 猫ぱんち を一発喰らわせた。

 

「 ! ・・・ みゅうぅぅぅ 〜〜〜〜〜 」

「 にゃおう! ・・・ にゃ? 」

悲鳴を上げた末っ子を、父さん猫はひと舐めすると ・・・ つん、と鼻先でオシリを突いた。

「 あは ・・・ さあ 帰ろう って言ってるみたいですねえ 」

ジョーが感心した面持ちで眺めている。

「 ・・・ いいなあ ・・・ 厳しいけどあったかい父さんと優しい母さん か ・・・ 」

「 ジョー ・・・ 」

「 ほっほ  君もいずれそんな家庭を築きなさるよ。その素敵な彼女さん と・・・

 なあ ノワール? 」

「 にゃあ〜〜ん。 」

老人の足元に戻った黒猫は 金色の目でまっすぐにジョーを見つめると一際大きな声で鳴いた。

「 え・・・? 」

「 なに、このノワールの一族はな、不思議なチカラをもっておりますじゃ。

 人のシアワセが ちゃ〜んとわかるらしいですよ。 」

「 シアワセ が ? 」

「 はいな、外国のお嬢さん。  どうかお幸せに、と言っておりますよ。 」

「 にゃああ〜〜〜〜ん ・・・ 」

くるり。 長い尻尾をゆらし、黒猫は今度はじ〜っとフランソワーズを見つめている。

「 ・・・ Merci, Monsieur Noir ・・・・ 」

フランソワーズは 屈みこむと彼のアタマをそ・・っと撫でた。

  みゅ〜〜〜〜うう!   悪戯坊主の末っ子はまたジョーの靴にじゃれつき始めた。

「 あは 可愛いなあ〜 あの、この子の名前、なんていうのですか? 」

「 ああ 〜 コイツは一家で一人だけ黒猫じゃないので まだ名前が決まっとらんのですよ。

 なんとなく チビ と呼んでますが・・・ 」

「 あら この手・・・ 右手の先だけ白いの、可愛いですわ? ねえ・・・手袋みたい。

 ほら 握手しましょ? 」

「 みゅゅ 〜〜〜〜 みゅ〜 」

仔猫は今度はフランソワーズの指を齧りだしている。

「 ・・・ あの  じゃあ ・・・ ぼくが名前をつけてもいいですか? 」

「 おお どうぞ、お願いします。 コイツの兄は ブラッキー、姉は ショコラ ですが。 」

老人は相変わらずにこにこ・・・ ジョーたちを見ている。

「 わ♪ じゃ じゃあ ・・・ チビクロ。  いいですか? 」

「 ほっほ ・・・ いいですなあ〜〜 おい ちびくろ? そろそろ失礼するぞ。 」

「 にゃああ〜〜お 〜〜 」

老人の声に合わせて ノワールが大きく鳴いた。

   みにゃあ 〜   今度は母猫のニュクスが末っ子咥えた。

「 それでは ・・・ ちびくろ を保護してくださってありがとうございました。 」

「 あ ・・・ いえ! ぼく達こそ〜 楽しかったです。 」

「 可愛い猫さんたちと知りあえましたわ、ありがとうございます。」

ジョーもフランソワーズも名残惜しい気持ちでいっぱいだ。

「 あ あの〜〜 また ここに・・・この公園にいらっしゃいますか?

 ぼく またムッシュ・ノワール や マダム・ニュクス の芸を見たいんですが 」

「 おお それは それは ・・・ ありがたいことですなあ〜

 そうさな・・・少々用事がありましてな〜 そう半月後くらいには ― では ・・・」

老人は穏やかに笑い 軽くアタマを下げて去って行った。

 

  こつ こつ こつ ・・・ 

 

ゆっくりした足音の後を 黒い影がしっかりと着いてゆく。

 

「 なんだか ・・・ 夢みたいだったわね ・・・ 」

「 え ・・・ あ  う うん ・・・ ちびくろ  か。 」

「 うふふふ  また会えるといいわね。 」

「 そうだね・・・ きっと少しはオトナになっている かも・・・ 」

ジョーとフランソワ―ズも ゆっくりと木立の中を抜けて行った。

 

 

    この時 ―  誰もがその後の出来事を知るわけもなかった。

 

 

Last updated : 17,06,2014.                index      /     next

 

 

*********  途中ですが

え〜〜 ご存知 あのお話・・・ 旧ゼロ版 かも。

いやあ〜〜 旧ゼロのアレを見た時 ひっくり返ったですよ!

フランちゃん! あなた 本番の日に!それも芯踊るのに!

開演1時間前くらいなのに! なにやってるのよお〜〜〜!!

・・・ で もって。  赤い薔薇の花束云々〜〜は

新ゼロの < あのシーン > を思い浮かべてくださいませ〜〜

・・・ 続きま〜〜す。