『 カ−ニバル・ナイト − (1) − 』
「 は〜い ・・・ ご苦労様でした〜 」
玄関から明るい声が響く。
ドアが開いて ・・・ すぐに閉まった。
− ・・・ ああ。 郵便屋さんか。
ジョ−は車を洗う手を休め、ガレ−ジの陰から玄関の方に振り返った。
( ど〜も〜・・・ )
お馴染みの配達員さんがかるく会釈をしてギルモア邸の門を出て行った。
ジョ−も ぴょこん、と頭を下げる。
ひゅるり、と小さな音をたて、木枯らしが前庭を吹きぬけていった。
− わあ・・・ 今日もいい天気だな。 風は強いけど ・・・ 冬晴れだ。
空を見上げて ジョ−はう・・・んと伸びをした。
空気は冷たいけれど穏やかに晴れた12月も半ばの一日だった。
この邸は最新式を一歩も二歩もリ−ドするセキュリティ・システムで固められている。
普通の邸宅からみれば ちょっとした要塞に近い装備かもしれない。
いつ、なにが起こるか。 どこから攻撃を受けるか。
ハリネズミみたいに緊張していた日々は、もう随分と過去の話になってしまったが、
現在でもまったく無防備でいられるわけではない。
ただ 一目でわかる防衛装置はかえって猜疑心を呼ぶだけであるから、
普通の目には なんてこともない、すこし古びた洋館・・・を装っているのだ。
じつはギルモア邸への急坂の入り口に精巧なオ−ト・セキュリテイ・システムがあり、
そこを通った段階で 門や玄関への指令が流れていた。
・・・ それで、お馴染みサンの郵便屋さんやら宅配便のお兄さんは
ほぼ、普通の家なみのフリ−パス、なのである。
「 え〜と・・・ 領収書、請求書 ・・・ あら、これって未払いだったかしら??
博士の学会の会報に ジョ−の雑誌ね。 ああ、来た来た♪ わたし、まってたのよね・・・ 」
フランソワ−ズは両手に受け取った郵便物をより分けている。
「 ・・・あら。 まあ・・・ ジョ−! 手紙よ〜〜 」
澄んだ声が冬の晴れ上がった空に響く。
「 ちょっと ・・・ 来て? アルベルトからなの〜〜 」
明るい声音にはなんの陰も感じられなかったから ジョ−はのんびりと手を上げて応えた。
「 今 ・・・ 行くよ。 」
「 ・・・へえ・・・ スキ−か! 」
「 ね? ちょっと素敵でしょう。 ・・・ 行ってみない? 」
「 きみ、滑れるの。 」
「 まあ! 失礼ね〜 これでも子供の頃は兄といいセン行っていたのよ。 」
「 そうなんだ? ・・・ うん、きみさえよければ行こうか。 」
「 わあ、嬉しいわ! 早速お返事を書くわね。 」
フランソワ−ズは手にしたレタ−ペ−パ−をひらひらさせている。
きっちりとした書体で。 しかも簡潔明瞭に、アルベルトはスキ−旅行へ誘ってきた。
欧州、特に北独逸地方は今年、降雪量が多くどのスキ−場も賑わっているという。
< 少々辺鄙な場所だが、穴場を見つけた。
都合がつけばフランソワ−ズと一緒に滑りにこないか。 >
珍しい招待に 二人は喜んで応じることにした。
「 北独逸か。 寒いだろうね。 」
「 そうね、 ここの暖かい冬に慣れてしまったから・・・ 覚悟が必要かもしれないわ。 」
「 きみは特にね。 」
「 あら。 わたしだって ・・・ クッシュン・・! 」
フランソワ−ズが小さなクシャミをした。
「 あれ・・・ 風邪かい。 」
「 ・・・ううん。 きっとね、この手紙についてきた雪の匂いに
ハナがムズムズしたのよ。 懐かしいな、ってね。 」
「 ふふふ・・・ でも、今時エア・レタ−なんて・・・ アルベルトらしいね。 」
「 わたし、やっぱり手紙って好きよ。 こうやって・・・ 遠くの国からの
香りとか雰囲気をちょっとだけでも運んできてくれるから。 」
「 そうだね。 今年はこの手紙が 冬の使者、だ。 」
「 冬の、雪の使者ね。 ・・・ そうだわ、博士のご都合も伺っておかなくちゃ。 」
「 うん、 あ、それにイワン・・・ ああ、今月はもうずっと夜か。 」
「 ええ、多分。 大晦日かお正月くらいに起きるはずよ。 」
「 じゃあ ・・・ 行こう! 」
「 きゃ♪ 嬉しいわ。 ・・・ ジョ−と二人の海外旅行って・・・ 初めてかしら・・・
うふふ・・・ 雪のハネム−ン・・・なんて♪ 」
「 え? なに。 」
「 ・・・ な〜んでもな〜い♪ 」
「 ? なんなんだ・・・? ま、楽しそうなら・・・いいか。 」
頬を染め、ぱたぱたと廊下を駆けていった彼女を見送って ジョ−も笑顔になっていた。
・・・ ゾクリ・・・
背中を這い上がる悪寒に フランソワ−ズは思わずマフラ−に顎を埋めた。
列車を降りた時から どうにも不愉快な寒気が纏わりついている。
雪が降りしきっていた。
空港から二回乗換えた列車は暖房が効いていて快適だった。
ずっと車窓からの景色は白一色の世界でその眺めは幻想的ですらあった。
「 わあ・・・ 凄いわね。 白いカ−テンに閉じ込められているみたい。 」
「 うん。 ぼくはこんな雪、初めてみるな。 世界中が埋もれそうだ。 」
「 そうね。 日本の雪って ・・・ こう、なんか優しいのよね。
ふんわり包み込んで・・・ かえって暖めてくれるみたいだもの。 」
「 ああ・・・ ウチの辺りではほとんど降らないしね。 日本でも北国の雪は凄いらしいけど。 」
「 ふうん ・・・・ クシュン ! 」
「 寒い? こっちと代わろうか? あれ・・・顔色、よくないね。」
窓際にへばり付いているフランソワ−ズの頬は蒼白く沈んで見えた。
「 大丈夫。 きっと雪の照り返しでそんな風に見えるだけよ。 」
「 そうかい。 無理するなよ。 」
「 あら・・・ わたし、張り切っているのよ? スキ−じゃ、ジョ−には負けないわ。 」
「 言ったな? ようし、じゃあゲレンデに出たらすぐに勝負だぞ〜 」
「 喜んで受けてたつわ。 」
軽口を交わしつつ、フランソワ−ズは無意識にセ−タ−の襟元を掻き合わせていた。
− 寒いのかしら、わたし。 風邪・・・? ううん、きっとちょっと疲れているだけよ。
急な出発でばたばたしてたし。 今晩ゆっくり眠れば ・・・ きっと大丈夫!
日本の諺にもあるじゃない? 病は気から・・・って。
それに、久し振りの<故郷の空気>ですもの。
身体が思い出すまでちょっと時間がかかっているだけだわ・・・
ふふふ ・・・ パリには少し遠いけど同じ大陸だもの。 <実家>みたいなものよ。
空港でも同じことを感じたじゃない?
フランソワ−ズは ほう・・・・っと満足の吐息をはいた。
飛行機の搭乗口から出た途端、きん・・・と冷たい空気に包まれた。
− ・・・ ただいま!
雪曇りの空を見上げ、フランソワ−ズは小さく呟いた。
久し振りのヨ−ロッパの空気に 身体中が懐かしがっている、と思ったのだ。
不思議なめぐり合わせで住み着くことになった東の果ての島国・・・。
愛する人の国で愛する人と暮らせる喜びを その穏やかな国は十分彼女に与えてくれた。
わたし。 ・・・ しあわせだわ。
そこはもはや彼女にとって半ば故郷になってはいたけれど、
やはり生まれ育った地の空気は懐かしく慕わしい。
たとえ故郷とは少々離れていてもフランソワ−ズは嬉しかった。
「 ジョ−? こっちこっち! 」
ユ−ロのパスポ−トで一足先に入国審査を終え、フランソワ−ズはきょろきょろしている
ジョ−に大きく手を振った。
「 あのゲ−トからバスがでるわ。 それで駅まで行きましょう。 」
「 ・・・え・・・と。 へえ、きみってドイツに来たことあるんだ? 」
「 ううん、初めてよ。 でも ・・・ ヨ−ロッパはどこでも似たようなものよ。 」
「 凄いな〜〜 全面的に頼っちゃうよ? 」
「 どうぞ。 ようこそ、わたし達の大陸へ♪ 」
「 お邪魔します。 」
手を繋いで、ス−ツケ−スを引っ張って。
楽しげにゆく二人に 行き交う人々も微笑みの視線を投げていた。
「 ・・・ よう。 」
舞い落ちる雪のなか、ホ−ムの端でアルベルトが手を上げていた。
フランソワ−ズはすぐに気がつき 凍て付いたホ−ムを駆けてゆく。
ジョ−は荷物を引いて慌てて後を追った。
「 アルベルト! ・・・ 元気? 」
「 アルベルト。 ご招待、ありがとう。 」
相変わらずのトレンチ・コ−トに黒革の手袋、そんな彼にフランソワ−ズは抱きついて
頬に軽くキスをする。
アルベルトもこの亜麻色の髪の<妹>を 軽く抱き締めて応えた。
「 遠いところをお疲れサン。 」
「 お迎え、ありがとう。 すごい雪ね〜 」
「 ああ。 この辺りはもともと雪深い地方なんだが、今年は格別らしい。
・・・ 寒いのか? 」
「 え? ううん ・・・ あ、そうね、ちょっと・・・寒いかも。 」
「 ふふん、こっちの寒さを忘れちまったか。 ・・・ ほれ。 」
ばさり、とアルベルトは自分のマフラ−を外すとフランソワ−ズの頭に掛けてやった。
一面のモノト−ンの世界、そんな中でも彼女の頬は蒼白く沈んで見えた。
「 やっぱり寒いんだろ? コレを・・・ 」
「 それよりも早く宿へ行こう。 なに、駅からすぐだ。 」
アルベルトは自分のコ−トを脱ぎかけたジョ−の手を押し留めた。
「 うん。 ・・・あれ〜、もうこんなに暗くなってきている・・・ 」
「 ははは・・・ まだ3時過ぎだけどな。 ま、今晩はとりあえずゆっくり休め。 」
駅舎を出れば駅前の広場も雪で埋め尽くされていた。
冬場は特に昼間の短いこの地方、すでに夕闇が濃くなり始めている。
雪明りに ぼんやりと街灯が心細い光を投げかける。
三人は固まって雪の中を進んで行った。
「 ・・・ あら。 火がみえる・・・ ねえ、アルベルト、あれはなあに。 ほら・・・山の方。 」
「 え? ・・・ああ、本当だ。 松明かな? なにかあるのかい。 」
駅前の広場を抜けると街道沿いに集落が拡がっていた。
間近には山が迫り、ぽつぽつと山間にも民家が散らばっている。
その山頂、尾根ぞいに点々と ・・・ 火が見えた。
人工の灯りではなく自然の炎、しかしそれは等間隔に尾根を伝って動いている。
「 きれい・・・ 」
「 うん ・・・ 幻想的だね。 」
ジョ−とフランソワ−ズは思わず歩みを止めて、その炎のチェ−ンに見入っていた。
「 ああ、あれか。 雪のカ−ニバルの予行演習さ。 」
「 雪の ・・・ カ−ニバル? 」
「 ああ。 カ−ニバルは普通 ・・・ 復活祭前後だが。
この地方は 雪のカ−ニバルでね。 新しい年を待つお祭なのさ。 」
「 まあ・・・そうなの。 それでこの時期に・・・ 」
「 ふうん ・・・ 珍しいね。 普通ならクリスマスに集中するだろ。 」
「 土着の習慣の名残なんだろうな。 村中は今、その雪祭りの準備で
一種の異常な興奮状態にあるんだ。 」
「 異常な? 」
ああ、と頷き、アルベルトは立ち止まっている二人を促した。
「 ともかく・・・ ホテルへ入ろう。 こんな吹きさらしに立ち往生していると
いくら俺たちでも風邪をひくぞ。 ジョ−、こっちの寒さは日本とは質が違う。 」
「 うん、そうだね。 フランソワ−ズ、大丈夫かい。 」
「 ええ。 アルベルトがマフラ−、貸してくれたし。 ・・・でも熱いお茶も飲みたいわ。 」
「 確かに・・・ さあ、ほら。 あのホテルだ。 」
アルベルトの案内で二人はそんなに大きくはないがどっしりと構えた建物に入った。
「 え・・・・ フランソワ−ズとぼくとで・・・一室なのかい。 その〜 ・・・ あ〜 ぼく達はそんな・・・ 」
フロントでジョ−は思わず声を上げた。
カウンタ−ごしにフロント・マンが訝しげな顔をみせたが・・・
幸い、この地方のニンゲンには日本語は通じなかったようだ。
「 あ・・・ 」
フランソワ−ズはさっと頬を紅潮させ・・・潤んだ瞳をアルベルトに向けた。
「 当たり前だろう? ああ・・・ ココでは一応、お前ら俺の妹夫婦ってことになっているから。 」
「 ・・・ 夫婦・・・ 」
「 こんな田舎ではな、夫婦ものってのが普通なのさ。 さ、行くぞ。 」
何を今更・・・といった風情でアルベルトは先にたってずんずんと歩きだした。
「 ・・・ ごめん。 その・・・あ〜 ・・・ 」
「 ジョ− ・・・ 気にしないで。 それとも ・・・ ジョ−は ・・・イヤ? 」
「 な、なにが。 」
「 その・・・あの、わたしと同じ部屋って・・・ 」
「 ううん、ううん! 」
ジョ−はわさわさと両手を振って彼女の呟きを否定した。
「 きみこそ・・・あの、迷惑? そのゥ・・・・ぼくと 夫婦って思われるの・・・? 」
「 ・・・・ ぅぅん ・・・・ 」
蚊の鳴くような・・・でもはっきりした彼女の答えに今度はジョ−が耳の付け根まで赤くなった。
「 ・・・ そっか。 じゃ・・・ 行こうか。 」
「 ・・・ ええ。 」
・・・ったく。 なにやってんだ。 中学生のガキじゃあるまいし・・・
古風なエレベ−タの前で アルベルトはいい加減げんなりして
仲良く手を繋いでやってくる二人を待ちあぐねていた。
「 いちゃいちゃするのは後にしろ。 荷物を置いてコ−トを脱いだら
下のティ−ル−ムへ集合だ。 早くしろ、お茶の時間が過ぎるぞ。 」
「 ・・・いちゃいちゃって ・・・ そんな・・・ 」
「 ジョ−! 早くしましょ。 アルベルト、本気で怒るわよ? 」
「 う・・・うん。 」
エレベ−タ−の中でぼそぼそと言い合っている二人に背を向けて・・・
アルベルトは笑いを噛み殺すのに苦労していた。
「 え? 魔女?? 」
「 伝説ではなくて、本当の魔女なの? 」
古風なホテルのこれまた古風なティ−ル−ム、暖房はしっかりと効いていたが、
三人は暖炉のすぐ側の席を選んだ。
フランソワ−ズが寒そうだ・・・という理由とやはり炎の色は心を和ませ人々を惹き付ける。
何気なく供された食器はマイセンで、その部屋のアンティ−クなインテリアにぴったりだった。
「 ああ。 それもご丁寧に吸血魔女だ。 村に古くからある伝説なんだが・・・
毎年雪のカ−ニバルの前後に魔女の犠牲者がでる。
雪の吸血魔女の犠牲者がな。 」
「 ・・・ それって・・・ 単なる言い伝えでしょう?
雪崩れとか・・・自然の災害を<魔女>に見立てているのではなくて? 」
ティ−カップを両手で囲み、フランソワ−ズが眉を顰めた。
「 この時代に、まさか。 」
ジョ−の声音も心持ちくぐもっている。
− 魔女。 異質なるものの排除。
魔女伝説に絡まる悲惨な体験がジョ−の脳裏を過ぎった。
そう・・・ あれもこの国だった・・・
母の復讐に手を貸し、古城と共に埋もれていったロ−レライの乙女・・・。
あれは もう随分以前のことになってしまった。
「 数年前までは確かに単なる<思い込み>だったらしい。
それが ここ数年実際に犠牲者がでている、という。 吸血魔女の、 な。 」
信じられん話だが・・・とアルベルトは無造作に凝った茶器を取り上げた。
「 夜中に魔女がやって来て血を吸うそうだ。
そしてその魔女は ・・・ あの万年雪を頂いた山頂に住んでいるってわけさ。 」
「 ふうん・・・ それにしても、なんだって今頃、魔女なんだろう。 」
「 う〜ん ・・・ 伝説に隠れた変質者の犯行か、とも思われたらしいのだが
今もってまったく手がかりがないらしい。 だから・・・ 余計にみな怯え興奮してる。
今年は、次は誰が・・・ってな。 」
「 ・・・ 酷いわね。 」
「 まあな。 それで ― スキ−がてら調べてみるのも一考かなと思うのだが。 」
「 うん。 なにか善からぬ企みだったら放ってはおけないからね。 」
「 まあ・・・ お節介と言ってはナンだが。 勿論、純粋にスキ−も楽しもう。 」
「 ええ。 すごく楽しみにして来たの。 本格的に滑るのって何年ぶりかしら。 」
「 ぼくは山スキ−は初めてだ。 」
「 そうなの? あら〜 じゃあ、わたし達に置いてきぼりにされないように
お気をつけ遊ばせ♪ ・・・魔女に捕まるわよ〜〜 」
「 ははは・・・。 明日にはこの吹雪も止むだろうから。
朝食後、スキ−・ツア−に出発しよう。 フランソワ−ズ、今夜はゆっくり休め。 」
フランソワ−ズは暖炉の火に手を翳していたが、にっこりと微笑んだ。
「 了解 〜 司令官殿。 」
「 ・・・ バカ。 」
「 明日、朝。 間違いなく出頭いたします! 」
「 コイツ! ふん、遅刻厳禁だぞ。 」
笑い声を立てて、三人はお茶の席を立った。
傍目には文字通り、故郷の兄を訪ねてきた妹夫妻に見えたことだろう。
「 ・・・ 大丈夫かい。 寒くない? 」
「 ううん ・・・ あ・・・ちょっとだけ 寒いかも・・・ 」
夕食からもどってフランソワ−ズは すこし気だるい様子だった。
「 無理しないで寝ていれば良かったのに。 ・・・ 目が潤んでいるよ。 」
「 久し振りにアルベルトと会えたんですもの。 三人でお食事したかったのよ。
きっと・・・ あの美味しいワインをちょっと飲み過ぎたんだわ。 」
フランソワ−ズは両手を火照る頬に当てた。
「 それならいいけど。 ・・・ああ、日本ならなあ! あつ〜いお風呂に浸かって
梅干茶でも飲んで寝ればイッパツで元気になるのに・・・・。 」
「 あら・・・ 大丈夫よ。 もう・・・元気♪ 」
くるり、とまわったドレスの裾が綺麗なラインを描いて拡がった。
ほんのりさくら色に染まった頬に しっとりと潤んだ瞳。
ジョ−はしばらく息をつめ、ほれぼれと彼女を見つめていた。
「 ・・・ ちょっと ・・・ 」
「 ・・・なあに 」
「 こっちにおいで。 」
「 ・・・ うん・・・ 」
ジョ−はそっと彼女の白い手を取り・・・ するり、とその細い身体を引き寄せた。
「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・ 暖めてあげるよ。 」
「 ・・・ あ ・・・ ジョ− ・・・ や ・・・ 」
「 ぼくが ・・・ きみの風邪を治してあげる。 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ 」
服のまま、縺れ合って二人は大きなベッドに倒れこんだ。
そして。
言葉は一切夜の帳の向こう側に消えていった。
音を立て 暖炉で太い薪が燃え上がる。
凍て付く北国の夜、フランソワ−ズはジョ−の腕の中で
青白い肌を薔薇色に染め上げ ・・・ 金色に爆ぜた。
ジョ−はフランソワ−ズの中で 己の命を熱く炸裂させた。
異国の夜は 深々と ・・・ 優しく恋人達をくるみ更けていった。
「 ・・・ まずいな。 」
「 うん、こんなに急に吹雪いてくるなんてね。 」
「 山の天気は変りやすいものだが。 ちょっとこれはいくらなんでも酷すぎる。 」
「 そうだね。 いくらぼくらでも ・・・ 無理だ。 」
「 フランソワ−ズは 大丈夫か。 」
「 ・・・ あまり大丈夫じゃないな。 どこか ・・・雪洞でも掘ってビバ−クしようか。 」
「 そうだな。 このままじゃ・・・ 」
ジョ−とアルベルトは辛うじて頭を出しているブッシュの脇に身を寄せていた。
頭上には びょうびょうと音を立て雪が吹き飛んでゆく。
今朝方、ゲレンデに出発したときの上天気がウソのようだった。
「 フランソワ−ズ・・・ もうちょっと辛抱してくれる? 」
ジョ−はしっかりとフランソワ−ズの身体を抱えなおした。
腕の中の身体は熱く 呼吸は荒く苦しげだった。
「 ・・・ ジョ− ・・・? ごめん・・・なさい・・・ わたし ・・・ 」
「 咽喉が乾く? まだ・・・すこし熱いコ−ヒ−が携帯ポットに残っているはずだよ。 」
「 ううん ・・・・ お水が ほしいの ・・・ 」
「 え・・・ う〜ん ・・・ この雪でもいいかな。 」
「 熱が高いからな。 新雪なら大丈夫だろう。 」
「 うん。 ・・・ ほら ・・・フランソワ−ズ? 水じゃなくて雪だけど・・・ 」
ジョ−は そっと彼女の口元に雪の欠片を持っていった。
朝、フランソワ−ズはジョ−達と共に元気に出発したが
ゲレンデを登り、さらに山頂へと向かう頃からペ−スが落ち始めた。
− ・・・ あれ? どうかしたのかな・・・
ジョ−が気が付いたとき、すでに彼女の頬は熱く足元は頼りなかった。
そして。
急な荒天に見舞われるころには 完全に滑走は無理な状態になっていた。
「 もう少し登ってみるか。 あの・・・岩棚の陰の方が少しはマシだろう。 」
「 そうだね。 これじゃ・・・ 雪洞を掘ってもすぐに埋まってしまうよ。 」
アルベルトはフランソワ−ズを抱えたジョ−を吹き付ける雪から庇いつつ、
ゆっくりと斜面を登ってゆく。
頭上に聳えていた岩棚は 見た目よりもずっと大きく拡がっていた。
二人がその下に辿りついた時、陰になった部分には意外な光景が拡がった。
「 ・・・おい、ジョ−。 見ろ ・・・ 城だ! 」
「 ・・・ え ・・・ ああ、本当だ。 」
雪塗れの三人の前に ぬ・・・っと黒々とした城が姿を現した。
それは城というよりも城砦に近いもののようだ。
「 こんなところに・・・。」
「 伝説の <魔女の家> じゃないだろうね。 」
ジョ−が真面目な顔で冗談ともいえない口調で言う。
「 さあな。 廃墟でもとりあえずこの吹雪はしのげるだろうよ。 」
バウバウバウッ!
頑丈な城壁の中から激しい犬の鳴き声が聞こえてくる。
「 ・・・ 誰か住んでいるらしいね。 」
「 うむ。 ありがたい、ちょっくら休ませてもらおう。 」
吹雪を避けてジョ−達は城壁沿いに辿って行った。
「 ・・・ だれだっ!? 」
急にぽかり、と城門が開き一人の青年がド−ベルマンを連れて
のそり・・・・と現れた。
Last
updated: 12,19,2006.
index / next
****** 途中ですが
今回は原作の中でもちょっと変り種・・・ なにせ <少女漫画誌掲載・009> ですから♪
不思議な雰囲気のお話でしたよね〜 、 あの姉妹・・・
でも〜 ウチは93らぶ・サイトですので (#^.^#) ノーマル・カプ風に多少路線変更させて
頂きました。 あと一回、お付合い下さいませ。