『 夏休みの思い出 島村すぴか・島村すばる その@ 』
― 夏休み ・・・!!
真っ青な空が ぐう〜〜〜んと広がって深呼吸すると体中が青くなりそうだ。
海の色もどんどん明るくなってきて、ず〜っと沖まで見つめてゆくと空につながっているみたい。
ちょこっと見えてきた入道雲は ― まるでソフト・クリームだ!
「 うわ〜〜〜いィィィィィ〜〜〜!
島村すぴかは ぐわん、と両腕をお空に突き上げてお腹の底から歓声をあげた。
「 明日っから〜〜 夏休みだもんね〜 やっほ〜〜〜♪ 」
亜麻色のオサゲを振り振り、海に向かって思いっきり吠えてみる。
「 うわ〜〜お・・・ アタマから爪先まで夏休み♪ ふんふんふ〜ん 」
すぴかの家は海沿いに崖の上にある。 国道から折れた道からまたしばらくえっちらおっちら
急な坂を登った天辺にあるのだ。
生まれたときからここに住んでいるので 坂道なんかへっちゃらだ。
彼女は毎日 ご機嫌ちゃんで坂を駆け下り学校へゆき 下校後はランドセルを鳴らして
駆け登ってくる。
今日は上履きだの体操服だのお道具箱だの・・・わんさと持って帰ってきた。
「 ふんふんふ〜〜ん♪ あ オヤツはアイスがいいなあ・・・ ソフト・クリームじゃなくてもいいや。
来週からお出掛けだもんね〜〜〜♪ いるかのいる海〜〜〜♪ ざぶ〜ん・・・!
おか〜さ〜ん ただいまア〜〜 オヤツは〜〜〜 」
すぴかは両手に持った荷物をぶんぶん振り回しつつ ご門を抜けて玄関に駆けていった。
カッチャ ・・・ カッチャ ・・・・
その同じ頃 ― 岬への曲がり角にやっぱり両手に荷物をいっぱい持った小学生が二人いた。
「 じゃあな〜〜 わたなべ。 」
「 うん。 あ 明日、あそべる? すばる。 」
「 うん♪ 来週からお出掛けだけど〜 明日は遊べるよ〜 」
「 わい♪ じゃ〜 10時に〜 JRのふみきり。 」
「 わかった〜 ばいば〜い だいち〜 」
「 うん。 ばいばい〜〜 すばる〜〜 」
男の子たちはひらひら手を振り合うとそれぞれ荷物をぶらぶらさせつつ帰っていった。
「 〜〜〜〜♪ 今日のオヤツはなにかなあ〜 」
茶色のクセッ毛をゆらしつつ、男の子はのんびり・ぽこぽこ坂道を登りはじめた。
― 島村すばる。 ついさっきこの坂を駆け上っていったオンナノコの双子の片割れだ。
父親とよく似た横顔はいつもにこにこ・・・・ 今日ものんびりとマイペースで我が家めざしていた。
「 たっだいまァ〜〜〜 おか〜〜さ〜〜ん おやつ〜〜〜 」
「 お帰りなさい。 すぴかさん。 ・・・ まず手を洗って。 」
「 はア〜い 」
どたどたどた ・・・ ランドセルと大荷物を放り出し、すぴかはバス・ルームに駆けていった。
「 ・・・ やれやれ ・・・ もう ・・・ 」
母親はエプロンで手を拭くと 娘の荷物をえいや!と取り上げた。
「 今日は道草を喰ってこなかったようだけど・・・・ あら 相棒はどうしたのかしらねえ。 」
よいしょ、と荷物をリビングのソファに置くと母はキッチンに戻った。
どたどたどた・・・ すぴかはたちまち戻ってきた。
「 洗ったよ〜 オヤツ なに? 」
「 はい どうぞ ウチのアイス・クリームよ。 」
「 わい〜〜〜♪ あ ・・・ お母さん お砂糖 さあ? 」
「 ちゃんと <甘さ控えめ> になってるわよ。 アーモンドとか上に散らす? 」
「 ・・・ う ・・・うん いい ・・・ むぐ・・・ 」
しばらくの間 すぴかのお口の中はアイス・クリームで一杯になっていた。
「 ・・・・ お〜〜いし〜〜〜♪ さいこ〜〜♪ 」
「 よかったわ。 うふふふ・・・ これで夏休みの始まり、ね。 」
「 うん! あ ねえねえ〜〜 お母さん! 本当にイルカがいっぱいいるの? 」
「 イルカ? 」
「 うん・・・ ほら おでかけする島! 」
すぴかの瞳がくるりん、と回り、同じ色の瞳で母が笑みを返す。
「 ええ 本当よ。 群れを成して泳いでいたの。 船のすぐ側まで来たわ。 」
「 すご〜〜〜い〜〜〜 ねえねえ 一緒に泳げるかな? 乗っかれる? 」
「 う〜〜ん ・・・ それはどうかしらね?
イルカさんってね とってもお利口さんなの。 いやだよ〜〜って逃げちゃうかも。 」
「 え〜〜〜 ・・・ そうなんだ〜〜 」
「 お船の上からながめるとかなら大丈夫だと思うわ。 」
「 ふうん ・・・ でもすぐ近くでみれるんでしょ? 」
「 ええ そうよ。 地元の子供なんかお友達になっていたりしてたわ。 」
「 うわ〜〜 すご〜〜いィ〜〜 」
すぴかはアイスクリームをほおばったりしゃべったり、途中で麦茶を飲んだり大忙しだ。
「 ほらほら・・・こぼしますよ。 ねえ すばるは? 一緒じゃなかったの。 」
「 むぐむぐむぐ・・・ 校門出たときは一緒だったよォ あ〜〜 美味しかったぁ〜
ねえねえ お母さん、もうちょっと アイス、食べてもいい? 」
「 だぁめ。 沢山食べたでしょう、すぴかさん。 あとはすばるとお父さんのぶん。 」
「 ちぇ〜〜〜 じゃ おせんべ ちょうだい。 ある? 」
「 ・・・ はいはい ・・・ ああ 向こうでもちゃんと夏休みの宿題やるのよ?
お出掛けの時も宿題は持ってゆくこと。 いいわね。 」
母はお煎餅のカンをあけつつ、娘にクギをさす。
「 ふぇ〜〜い・・・・ お母さん、アタシの今年の夏休みの目標はねえ〜〜 当ててみて? 」
「 ほら お煎餅。 え すぴかさんの目標? う〜〜ん ・・なにかなあ・・・ 」
「 へへへ ・・・ 海でェ お父さんと えんえい するの! 」
「 えんえい? ・・・ ああ 遠泳 ね? あら凄いわねえ〜〜 頑張って! 」
「 うん♪ うわ〜〜 はやく行きたいなあ〜〜〜 」
「 もうすぐ、でしょ。 来週ですもの。 」
「 うん♪ りょこうき も宿題なんだけど〜 イルカの島のこと、書くんだ〜 」
「 あら そうなの? それじゃ お父さんにいっぱい写真、撮って頂くといいわね。 」
「 うわ〜〜〜 そだね〜〜〜 」
すぴかは目をきらきら輝かせ大はしゃぎだ。
楽しい空気はたちまちフランソワーズにも伝染し、自然ににこにこ顔になっている。
「 ― ただいま 〜〜〜 」
「 あ〜〜 すばるだあ。 すばる〜〜〜遅いよォ〜〜
アンタのアイス、食べちゃうよ〜〜 」
のんびり息子がやっと帰ってきたようだ。
チロロ ・・・・ グラスの中で氷片が涼しい音をたてた。
「 はい・・・麦茶よ 」
「 お♪ ありがとう〜〜 夏はこれが一番だなあ・・・ 」
ジョーは遅い食事を 冷たい麦茶で締め括った。
「 ・・・ う〜〜〜ん ・・・ 美味い・・・! ウチの麦茶は最高だよ ・・・ 」
「 ふふふ・・・ ご希望どおり、ちゃんとヤカンで煮出していますからね〜
すぴかもすばるもね、 これだけはジュースよりもお気に入りなのよ。 」
「 当たり前さ これは我が家の味だもの。 そうだ、アイツら明日から 」
「 ええ 夏休みよ。 ― もうね〜 二人してた〜いへん
早く来週にならないかなあ〜〜〜って。 」
「 ? あ〜 < お出掛け > かい? 」
「 ぴんぽ〜ん 大当たり。 」
「 ふん ・・・ って へへへ ・・・実はぼくもかなり 」
「 うふふ・・・わたしもよ、ジョー。 わたしもかなり、 ううん とっても楽しみなの。 」
「 遠出するって もしかしてアイツらが生まれてから初めてかも な。 」
「 そうよ。 ジョーと一緒に泊りがけで出かけるのも ・・・ 」
「 あ〜〜 もしかして。 ハネムーン以来 か? 」
「 ・・・・・・・・ 」
にっこり笑って頷く細君があんまり可愛くて。 ジョーは彼女を引き寄せ熱くキスをする。
「 ・・・ ま どうしたの? 」
「 ふふふ・・・ 夏 だから さ。 」
「 まあ・・・ じゃ わたしも。 夏 だから ・・・ 」
今度はフランソワーズが伸び上がり白い腕を彼の首に絡めると唇を求めてきた。
「 ・・・ んんん ・・・・ お熱いですね 奥様♪ ・・・・点火しそうなんですけど。 」
「 ・・・ んんん ・・・ お待ちしておりました♪ 」
ジョーは細君を抱き上げるとそのまま寝室へと運んでいった。
― なにしろ夏の夜は 恋する二人には短すぎるのだから・・・
その年の夏 ジョーとフランソワーズは双子の子供たちを連れて
イルカのいる島 に旅行する約束をしていた。
― イルカの住む島 ・・・
そう かつて博士やイワンと一緒に骨休めに行き、民宿に泊まったあの島だ。
イルカ騒動に巻き込まれたりもしたけれど、楽しい滞在だった。
あの民宿に泊まるわけには行かないので ジョーは反対の浜近くに宿を予約した。
「 ・・・ う ・・・ん ・・・・ ぼくもさ・・・きみとゆっくり過したいしさ・・・ 」
「 うふ・・・ そうよねえ・・・ ありがとう、ジョー・・・
子供達、今まで旅行とか連れていったことないから・・・ 」
「 ごめんな、ホントに。 これじゃ父親失格だよ ・・・ 」
「 そんなことないわ! ジョーはステキなおとうさん よ。
お仕事が忙しいのは結構なことだわ。 わたしも教えや助手がどんどん忙しくなって・・・ 」
「 うん ・・・ ま 今年の夏休みはゆっくりしようよ。 」
ジョーは 腕の中の細君の唇に軽くキスを落とす。
「 ・・・ んん ・・・ そう ね・・・ うふふ・・・ヴァカンスって子供の頃以来よ。 」
「 博士にもさ、のんびりして頂こうよ。 あの島は朝晩は結構涼しかったしね。 」
「 そうね・・・ この夏に元気になって頂けるといいのだけれど・・・ 」
ギルモア博士は 相変わらず研究に没頭する日々なのだが、やはり寄る年波には勝てず、
最近は体調を崩しがちなのだ。 ご本人はいたって意気軒昂なのだが・・・
この夏の < おでかけ >は 博士の骨休め が一番の目的だった。
「 ねえねえ お父さん〜〜 カメラ 持っていってね!! 」
「 うん? カメラは毎日一緒だぞ。 」
次の朝、 出勤前の父親にすぴかはおねだりすると飛びついた。
お父さんが出かける前にお願いしなくちゃ!と、夏休みのラジオ体操 から走って帰ってきたのだ。
「 ち ・ が〜〜う! イルカの島 に行くとき! そんでもっていっぱい写真 撮って〜〜
アタシ りょこうき にいっぱい写真 載せるの! 」
「 旅行記? 夏休みの宿題か? 」
「 うん。 アタシ、イルカの島のこと 書くの〜 」
「 そうか〜 それじゃ お父さん、張り切って撮るぞ〜〜 」
わい♪ とすぴかは父の手にもう一回飛びついた。
いつも帰りが遅いお父さん ・・・ 昨夜もとっくに眠っていてお帰りなさい、も言ってない・・
やっと今朝、 ちょびっとお喋りできた。
夏休みにはた〜くさん お父さんと一緒にいるもんね〜〜 ・・・ すぴかは決心していた。
「 うわい♪ 」
「 あ〜〜 あのね あのね お父さん! 」
すばるがやっとこさ姉に追いついて帰ってきた。
「 おう お早うすばる。 ラジオ体操はちゃんとやってきたか? 」
「 うん、 ほら ハンコ・・・ あ あのね〜〜〜お父さん 僕ね・・! 」
すばるが父のもう一方の腕にぶらさがった。
「 僕ね ! 海のJR 見るんだ〜〜 それで写真 いっぱい撮る〜 」
「 海のJR ? 」
「 うん! 地図で見たの。 あの島まで乗るJRの写真〜〜
わたなべ君はね〜 山の方に行くだって。だから僕、海のJR撮ってみせっこしよって〜 」
「 そうか〜 すごいな〜 すばる。 」
「 お父さん! アタシと えんえい する約束でしょ! 」
「 ああ そうだったったね。 すぴか、どのくらい泳げるんだ? 」
「 アタシね! 学校のプールなら25メートルは よゆう! 」
「 そうか〜 すごいな〜 すぴか。 すばるはどうだ? 」
「 ・・・ 僕は ・・・ えんえい はいい・・・ 」
「 ジョー? あらら・・・ はやく用意しないと。 いつものバスに遅れるわよ。 」
フランソワーズがお弁当の包みを持ってきて 少しばかり呆れ顔だ。
「 もう とっくに仕度してると思ったわよ? 」
「 え? ・・・ うわ〜〜こんな時間か!? ヤバ・・・! ごめん、すぴか すばる〜〜
お父さん 遅刻しちまう〜〜 」
「「 お父さ〜〜ん がんばってねえ〜〜 」」
双子の姉弟はささ・・・っと父から離れ ひらひら手を振った。
― 皆 夏休みのお出かけが楽しみで楽しみで。 島村さんちは大にこにこだった・・・
も〜ういくつ寝ると〜〜〜♪
すぴかやすばるだけじゃなく お父さんもお母さんも皆がハナウタしていた。
楽しい楽しい夏休み 〜 皆でお出掛け イルカの島へ♪ ・・・・ だったはずなんだけど。
「 ・・・・ ただいま ・・・ 」
「 お帰り。 ご苦労さん・・・ で どうだって? 」
ジョーは帰宅したフランソワーズを抱きかかえんばかりに玄関で迎えた。
すぐに彼女の手から大きな紙袋を受け取った。
「 ええ ・・・ ともかく今は大丈夫です、って先生が ・・・。 」
「 そうか! よかった・・・!! 」
「 博士も落ち着いて ・・・ 眠られたのを確認してから帰ってきたの。 」
「 ・・・ ありがとう・・・! きみがいてくれて本当に助かったよ・・・ 」
「 ううん ・・・ あ ・・・ 子供たちは。 」
「 ああ ちゃんと御飯食べさせて風呂にも入れて。 ベッドの中 だ。 」
「 ありがとう〜〜 ジョー ・・・ 」
「 ・・・・・・・・・ 」
二人は疲れた顔で微笑みあいそっとキスを交わした。
<お出掛け> を 二日後に控えギルモア博士が体調を崩した。
数日前から風邪気味らしく 食欲がなかった。
大丈夫、なともない、と言い張る博士にジョーは心配しつつ出勤したのだが。
― 朝食後、 博士はリビングで動けなくなってしまった。
「 ― !? 博士 ッ !! 」
母の叫び声に子供達は顔を強張らせ 固まってしまった。
「 ・・・ すぴか! コズミ先生のお家に電話してちょうだい。 できるでしょ? 」
「 う ・・・ うん・・・・ あの な なんていうの。 」
「 おじいちゃまの具合が悪いからって ・・・
ああ 博士 ? ・・・ 落ち着いて・・・ すぐに救急車、呼びますから 」
「 お母さん ・・・ お水 もってきた。 」
「 ああ すばる ありがとう! 博士 ・・・ お水です・・・ 」
「 お母さん コズミ先生だよ〜〜 」
すぴかが受話器を持って母を呼んでいる。
「 あ ありがとう、すぴか! お話している間、 おじいちゃまの側にいてあげて。 」
「 うん! 」
「 僕も〜 ! 」
双子の姉弟は博士の側に寄り添った。
「 ・・・ あ ・・・コズミ先生? お早うございます フランソワーズです
朝早くから申し訳ございません、 ギルモア博士が 」
結局 ギルモア博士はコズミ博士の計らいで市立病院に入院となった。
フランソワーズは付き添ってゆき、双子はお家でお留守番をしていた。
お父さんが慌しく帰宅したのは お昼すぎだった。
やれやれ・・・と夫婦はダイニングで遅いお茶を前に顔を見合わせた。
状況はメールで知らせてもらっていたが、ジョーは改めて細君から報告を聞いた。
「 ・・・ そうか。 ・・・ありがとう、フラン ・・・!
ぼくがすぐに駆けつけられればよかったんだが・・・全部きみに押し付けてしまったね。 」
「 取材中だったのですもの、仕方ないわ ジョー。 子供たちもちょっとは役にたったし 」
「 うん ・・・ ま しばらく入院して養生して頂こうよ。
ぼくはちょうど休暇とってるから・・・ あとは引き受ける。 」
「 ありがとう、ジョー。 完全看護でもやっぱり・・・いろいろと ね・・・ 」
「 ああ。 ともかく大事に至らなくてよかったよ・・・ 」
「 そうねえ ・・・ 本当に・・・ ああ・・・ほっとしたら気が抜けてきちゃった・・・ 」
フランソワーズはぱた・・・っとテーブルに突っ伏してしまった。
「 ごめん・・・本当にごめん。 後はぼくに任せろ。 きみはチビたちの面倒、たのむ。
あと 病院にもってゆくものとか・・・・ あ。 ・・・ 旅行 さ・・・ 」
「 ・・・! ああ ・・・ そう だわ。 やっぱりちょっと ・・・ 」
「 うん ・・・ むり だなあ。 」
夫婦は溜息と苦笑いと ― ちょっぴり本心からも残念! な気分で見つめあっていた。
「 えええええ〜〜〜〜〜〜〜 どうしてェ〜〜〜 」
「 ・・・・・ ・・・・・・・・・ 」
案の定 子供たちは半ベソ状態になった。
派手に喚いた姉 と きゅ・・・っとお口を噤み涙目で父をみた弟 だったけれど・・・
ちゃんとわかってる。 もう四年生だもの、ちゃんと理解できる。
二人ともおじいちゃまは大好きだし 早く元気になって欲しい・・・
お父さんとお母さんが毎日交代で病院に行くのもよ〜〜〜くわかる。
・・・だから ・・・ だから ・・・ お出掛けは 無理・・・ってのもよくよ〜〜くわかってる。
わかってる。 わかってる ・・・けど。 けど〜〜〜
初めて家族でお泊り旅行 ・・・ だったのに ・・・・
「 ごめんな 二人とも。 冬休みにはきっと お泊り旅行に行こう。 」
「 ごめんなさいね・・・あなた達 とっても楽しみにしていたのに・・・
おじいちゃまがお元気になったら また計画しましょ。 ね? 」
お父さんとお母さんは きゅう〜〜〜っと二人を抱き締めてくれた。
「 ・・・ う ・・・ うん ・・・ 」
「 ・・・・ ( こくん ) 」
二人は泣き声を一生懸命飲み込んで ― でも涙はぽとぽと落っこちてきたけど
お父さんとお母さんに < わかった > って言った。
ミーーーン ミンミンミン ・・・・ ミーーン ミンミン ・・・
朝からセミが鳴きっ放しだ。 一時も黙らない。
この前までは 別に気にも止めてなかったけれど ・・・
ああ ・・・ 煩いわね・・・!
・・・ それに朝から本当に暑いこと・・・・
フランソワーズはキッチンの窓から裏庭をチラリ、と眺めた。
眉間に寄せているシワに気づくこともなく、額に纏わる髪を彼女は神経質に何回も掻き揚げる。
「 ええと・・・・ 林檎のシロップ煮と、お茶でしょ・・・あと・・・牛肉のしぐれ煮・・・
それからっと ・・・・ シフォン・ケーキを忘れずに ・・・ 」
フランソワーズはキッチンで大忙しだ。
入院後、数日して博士の容態は落ち着き、今は静養中といったところだ。
ジョーとフランソワーズは毎日交代で博士の好物を持って病院に通っている。
「 よし・・・と。 あとはウチの晩御飯を ― 」
ガチャ −−−−−ン !!! うわ〜〜〜ああああ〜〜ん
リビングのテラスから派手な音が これまた派手な泣き声と一緒に響いてきた。
「 アタシ、し〜〜〜らないっと〜〜 い〜けないんだ いけないんだ〜 」
「 ・・・ わざとじゃ ない も ん ・・・ うっく うっく 〜 」
「 あ〜あ こわしちゃった〜 こ〜わした こ〜わした! す〜ばるがこ〜わした〜 」
「 ・・・ わざとじゃない〜〜〜 すぴかのいじわる〜〜 」
「 いじわるじゃないも〜ん じじつだも〜〜ん 」
「 ・・・ またやってるのね・・・ もう〜〜〜 朝から何回目なの?? 」
はあ〜〜〜・・・・っと双子の母はうんざりした溜息を吐いた。
エプロンをしたまま むう〜・・・っと腕組みをするとリビングへ行く。
「 あなたたち! そんなにケンカばっかりするのなら一緒に居なければいいでしょう?
すぴか、お外に遊びに行けば? すばる、図書館はどう? 」
「 遊ぶ予約、してないもん。 」
「 図書館、混んでる ・・・ 」
「 ええ? なんですって? 」
「「 だからあ〜〜〜〜 あ ずる〜〜い〜〜〜 」」
双子は同時にしゃべりだし同時に涙声になり ―
うえ ・・・・えええ・・・・・ えええ〜〜ん ・・・・
「 ああ ああ わかりました! わかったから一々泣かないで頂戴! 」
フランソワーズは両手を耳にあて 本気でしかめっ面をした。
もう〜〜〜〜〜 毎日 毎日 朝から晩まで〜〜〜
・・・・うるさい〜〜〜〜!!
「 だって だって だってェ〜〜 」
「 うっく ・・・ うっく うっく ・・・ 」
「 お願い、二人して同時に泣くのはやめてちょうだい〜〜 お母さん 頭がガンガン・・・ 」
「 ・・・ おや。 ウチはにぎやか だねえ? 」
「「 お父さん〜〜〜 !! 」」
「 ジョー ・・・! 」
穏やかな声が 明るい光を湛えた瞳と一緒にゆっくりとリビングに入ってきた。
子供たちが泣き顔のまま 父親に飛びついていった。
「 おかえりなさい。 お買い物 ご苦労様 ・・・ 」
「 ただいま、フラン。 商店街の朝市でな、美味しそうなカマスがあったから買ってきた。 」
「 あらあ〜〜 嬉しいわ。 さっそく今晩のオカズしましょう。
わたし、カマスの一塩の干物って大好きなの〜〜 」
「 ― ヘンなフランス人だな。 」
「 美味しいものは美味しいのデス。 ジョーだって好きでしょう? 」
「 ウン 頼む。 え〜と・・・ 病院に持ってゆく荷物はこれと これと・・? 」
「 ええ あのね、この中に林檎のシロップ煮が入っています。 こっちは牛肉の 」
「 ・・・ アタシ ・・・ ひもの ・・・ キライだ・・・ 」
「 僕ぅ〜〜 はんばーぐ がいい・・ 」
子供達は 鼻を鳴らして父親に纏わりつく。
「 うん? なんだ お前たち・・・ オカズに文句なんか言ったことないだろう? 」
「 だってぇ 〜〜〜〜 」
「 ・・・ はんばーぐ がいいんだもん 」
ほっぺを膨らませていた子供たちが また涙目になってきた。
「 もう〜〜 あなた達! いい加減でわあわあ言うの、やめてちょうだい。
え・・・・ あ んんん ・・・・ 」
ジョーはすい・・・っと彼の細君を抱き寄せると 唇を奪った。
熱いキス ― リビングはほんのしばらくの間 静寂につつまれた。
「 ・・・ ジョ ・・・ もう・・・ あなたってば・・・・ 」
「 ふふ・・・ 今朝は お早うのキス まだだったろ? 」
「 あ ・・・え ええ・・・ 」
両親の熱〜〜いキスには慣れっこな子供たち、今日はさすがに神妙な顔をしている。
ジョーはゆっくりと彼女の背をなでた。
「 ・・・ フランソワーズ。 きみがいちばん大きな声だ ・・・ 」
「 あ ・・・・ ご ごめんなさい ・・・ なんかわたし・・・イライラしてしまって・・・ 」
「 疲れているんだよ。 すこし昼寝でもしたらいい。 」
「 え・・・ わたしは大丈夫よ。 ジョーこそ・・・ ずっと ・・・ 」
「 あは こんなことは何でもないよ。 ・・・一番がっくり来てるのはチビ達だ。 」
「 それは・・・ でも仕方ないわ。 」
「 うん、そうなんだけど。 博士もね、すごく気にしていらして・・・
チビ達に可哀想なことをした、今からでも旅行に行って来い・・・って。 」
「 そんなこと ・・・ 無理に決まっているし。 出来るわけないわ。 」
「 ・・・ お前たち? おじいちゃまがな、ゴメン・・・って。
イルカの島に行けなくなっちゃって悪かったね、ごめんなさい、って。 」
すぴかとすばるは まん丸な目をしたまま、ぶんぶん首を横に振っている。
「 おじいちゃまの盆栽に そ〜〜っとお水、上げてくれてるんだって? 」
双子は黙って今度は首を縦に振っている。
フランソワーズは 思わず屈んで二人を抱き寄せた。
「 ・・・ すぴか すばる ・・・! 」
「 そうか。 それじゃどうかな、お父さんからひとつ、提案があるんだ。 」
「 ていあん? 」
「 そう。 折角の夏休みだから キャンプに行こう。 」
「「 ・・・・ きゃんぷ? 」」
色違いの瞳がまたまたまん丸になって父親をじ〜〜〜っと見つめている。
「 うん。 これはね、おじいちゃまからの提案でもあるんだ。 」
「 ジョー ・・・! そんな・・・ 本気? 」
彼の細君は彼の腕をくい・・・ッと引いた。
「 ああ 本気だ。 キャンプ場はね ― 」
「 うわあ〜〜〜いぃぃぃぃ 〜〜〜〜 ! 到着!! 」
「 うんしょ ・・・ うんしょ ・・・ すぴか〜〜 持って〜 」
「 あ うん・・・ごめん、すばる。 うお・・・ 重い〜〜 」
すぴかとすばるは大騒ぎで荷物を運んでいる。 背中にはおっきなリュックだ。
「 すぴか〜 すばる〜 どうだ、全部運んだか〜 」
「 うん! お父さん! 」
「 うんしょ ・・・ うんしょ ・・・ すぴか〜〜 ちゃんとテントに入れないと だめだぁ 」
「 あ ・・・ うん 今 運ぶよ〜〜う 」
「 運んだら こっちこい。 飯盒炊飯の準備 するぞ。 」
「「 は〜〜い 」」
子供たちは テントから飛び出してきた。
「 よ〜〜し。 それじゃここで御飯を炊くからな。 ・・・ 本当なら焚き火をしたいけど・・・・ 」
ジョーは少し地面をほって携帯用のコンロを設置した。
「 お父さん ・・・ それが ガス? 」
「 ガスじゃないよ。 この中に固形燃料が入っていてね、それを燃やすのさ。
え〜と ・・・ それじゃ お前たちは水を汲んできてくれ。 」
「 お水? ・・・水道から? 」
「 水道じゃなくて。 ここはキャンプ場だぞ? 裏に泉があるだろ、そこから汲んでこい。 」
「 ・・・ ペット・ボトルちょうだい・・・ 」
「 このヤカンでいいから。 ひとつづつ持って・・・ 零すなよ〜〜
水がなかったら御飯は炊けないんだからな。 」
「 う うん ・・・ すばる、 いこ。 」
「 ・・・ うん 泉って・・・オタマジャクシとかいるよねえ・・・ 」
「 ・・・ うん カエルも いる・・・ 」
「 お〜い 早く水、汲んできてくれよ〜〜 二人とも〜〜 」
「「 はあ〜〜い!! 」」
双子の姉弟は ヤカンをぶらぶわ下げて走っていった。
「 ああ やれやれ・・・ いつになったらメシが食えるかなあ・・・ 」
ジョーは 大袈裟でなく本気で心配になってきた。
「 とりあえず ・・・ メシは出来る、と。 あとはオカズか 」
ジョーは食料品用の袋をごそごそかき回している。
「 ・・・ え〜と・・・ オカズはレトルトのパックでいいか。 やっぱ定番はカレーとサラダかな〜
あ。 しまった〜〜〜 マヨネーズ、忘れた!! 」
「 あら じゃ ここにおくわね 」 とん。 白い手が使いかけのマヨネーズを置いた。
「 お すまん・・・ って! だ だめだよ〜〜 フラン〜〜
ここは人里離れたキャンプ場 ( のつもり ) なだからな〜〜〜 」
「 ま・・・ ごめんなさ〜い でも・・・マヨネーズがないとすばるはお野菜苦手で・・・ 」
「 ふ ふん・・・ キャンプではスキキライは なし、なんだ。 」
「 ・・・ そう? ねえ お水って・・・ あの泉の水なの? 」
「 ああ。 今 汲みにいってるぞ。」
「 ちょっと〜〜〜 あそこにはカエルやらイモリがいるのよ〜? お腹壊すわ! 」
「 ちゃんと煮沸してから使うから大丈夫だよ。
それよりも、もしもし? キャンプ場にはだしでスリッパのままで来ないでください。 」
「 あらあ ・・・ これは失礼しました。 」
フランソワーズは苦笑すると マヨネーズを持ったままテラスに戻った。
そう ― ここはキャンプ場 ・・・・ だけども お家の裏庭。
ジョーは裏庭に 邸に背を向ける恰好でテントを張り ― キャンプ場にした!
「 ・・・・ ジョー ・・・ チビさん達に悪かったなあ・・・ 」
「 博士? なんです? 」
入院先で小康状態を得た博士は ベッドで読書もできるようになっていた。
ジョーはフランソワーズが作った博士の好物やら ご指定の書物を運んだりしていた。
「 うん ・・・ 折角の夏休み・・・ あんなに旅行を楽しみにしておったのに・・・ 」
「 家族が病気になれば 誰も旅行には行きませんよ、博士。 」
「 ・・・ ありがとうよ ・・・ 」
「 さあ そんなこと、気にしないでゆっくり養生してください。 あ あとでフランソワーズが
ブラマンジェを持ってきますって・・・ 」
ジョーは博士の枕を直したり、室温を調節したりしつつも明るく話し相手になっている。
「 それで な ・・・ ワシからの提案・・というかお願いがあるんじゃが・・・ 」
「 提案? お願い・・・ってなんです? 」
「 うむ ・・・ チビさん達の夏休みなんじゃが。 」
「 はい? 」
「 ウチお裏庭でキャンプ・・・というのはどうかな? テント張って ・・・ 屋外で寝るのは
子供たちは初めての体験で 楽しいと思うが の ・・・ 」
「 博士 〜〜〜 す すごい発想ですね・・・! 」
「 遠出できないぶん ・・・ 構ってやっておくれ・・・ 」
「 はい! あは ・・・ なんだかぼくがわくわくして来ましたよ!
そうだ・・・ 飯盒炊爨とか やるかな。 たしか固形燃料があったはずだし。 」
「 ・・・不便をなあ 楽しませてやるといい ・・・
そうさな ・・・ ワシも退院したらチビさん達を 宇宙の旅 に誘うとするか ・・・ 」
「 宇宙の旅 ですか?? うわ〜〜〜 いいなあ・・・・
博士 ソノ時はぼくも是非まぜてください! 」
「 ははは ・・・ それでは家族で宇宙の旅 としゃれこむかい。 」
「 ええ ええ 是非。 そのためにも早く元気になってくださいよ。 」
「 ・・・ ありがとうよ ・・・ ジョー ・・・ 」
― そんなわけで フランソワーズも大賛成して サマー・キャンプ@裏庭 となった。
「 ・・・ そろそろ水汲み隊が戻ってくるぞ。 」
「 あら そう? それじゃ・・・ 留守番隊は消えるわね。 マヨネーズは我慢して! 」
「 りょ〜〜〜〜うかい! 」
びっちゃ ぐっちゃ びっちゃ ぐっちゃ ・・・・
ヘンな音と一緒に 子供達が帰ってきた ・・・ ヤカンを手に持って、スニーカーはドロドロで。
どうやら泉から水を汲むことに 大苦戦した模様だ。
ジョーは素知らぬ顔をして 忙しそう〜〜に固形燃料をいじくっていた。
「 おと〜〜さ〜〜ん お水〜〜 」
「 お水〜〜 はい、お父さん 」
双子はてんでにヤカンを父に差し出した。
「 おう お帰り すぴか すばる。 お〜〜 水、 ありがとうな。 これで御飯が炊けるぞ。 」
「 ・・・ これから作るの。 お父さん ・・・ 」
「 すいはんき、 故障? 」
「 炊飯器は使わない。 この鍋にまず水を入れて次に米 ・・・ あ? 」
ジョーはヤカンから鍋に水を入れたところで 固まっている。
「 お父さん ・・・・? 」
・・・ つい −−−− 鍋の中を何かが横切った
「 ・・・ メダカがいる。 」
「 え〜〜〜〜?! あ すばる! あんた、メダカ捕ってきたのォ〜〜 」
「 し 知らないよ〜〜う 僕、 ヤカンを泉にばっちゃん・・・っていれて・・・ 」
「 ああ ああいいよ いいよ。 すばる、紙コップ、取ってくれ。 メダカを入れとこう。 」
「 うん! 僕 ・・・ このメダカさん、飼う! き〜すけの生まれ替わりだよ、きっと。 」
「 へ〜〜んなの〜〜 金魚がどうしてメダカになるのさ〜〜 」
「 い いいんだもん! 」
「 こらこら・・・ケンカするなって。 え〜〜 と 一応沸騰させてからっと・・・ 」
ひええ・・・・ 危なく メダカ・御飯 になるところだったよ・・・
ジョーは内心大いに冷や汗モノだったが 何食わぬ顔で御飯を炊き始めた。
「 ・・・ ここに 寝るの? お父さん・・・ 」
「 僕・・・僕の枕ほしい ・・・ タオルも・・・ 」
テントの入り口から覗き込み すぴかとすばるはなんとな〜〜く引き気味である。
「 そうだよ。 ここが今晩のベッドさ。 この袋がお前たちのベッドだよ。 」
ジョーは子供達用の寝袋を広げて準備に忙しい。
「 ・・・ あれ? お父さんは? 」
「 お父さんのベッドは? 」
「 お父さんは外で寝る。 テントには入りきれないからな。 」
「 「 えええ〜〜〜〜〜 」」
「 別に怖くないだろ? お父さんはテントのすぐ横で寝てるから な。 」
「 ・・・う ・・ うん ・・・・ 」
「 ・・・・ うん ・・・ 」
「 ・・・ これで いいか。 さあ二人とも寝袋に入るんだよ〜〜 」
「 う ・・・ うん ・・・・ なんか お背中、ごちごちするよ? 」
「 お蒲団のにおいがしない・・・ 」
子供達はぶつぶつ言っているが ジョーは一切聞こえない振り だ。
とりあえず子供達を寝袋に <入れた>。
「 さあ〜〜 いいかい。 それじゃ ライトを消すよ。 」
「「 ― え〜〜〜〜 」」
「 だって勿体ないだろ? 電池が切れちゃったら大変だものな。
はい おやすみ〜〜〜 すぴか すばる 〜〜〜 」
カチン ・・・と携帯ライトのスイッチを切ると お父さんはさっさとテントから出ていってしまった。
・・・・・ジジ ジ ・・・・・ ジジジ ・・・・
すばるは ずっとちっちゃな音が聞こえている・・・気がした。
「 ・・・ すぴか。 なんか音がしない? 」
「 ・・・え〜? なんにも聞こえないよ〜 」
「 そ そっかなああ・・・あ カレー 美味しかったね〜〜 」
「 うん ふぁ〜〜〜・・・ ゴハン、ちこっと硬かったけど・・・ 」
「 ぶつぶつぶつ・・ってゴハン、 煮えてたね〜 」
「 ・・・ う ん ・・・・ ふぁ〜〜 ・・・・ 」
「 ねえねえ すぴか。 サラダもさあ〜 カレー付けてさあ〜 」
「 ・・・・ ん ・・・・ くぅ〜〜〜・・・・ ・・・ 」
「 ? すぴか? すぴかってばあ〜〜〜 ・・・ 寝ちゃったのかぁ・・・ 」
隣の寝袋で すぴかはすうすう寝息をたててぐっすり寝入っていた。
「 ・・・ ちぇえ〜〜 ・・・ もういっつもすぐに寝ちゃうんだからあ〜 」
普段からすぴかは寝つきがよく、ベッドに潜り込むと同時くらいに眠ってしまう。
双子なのにすばるは いつもしばらくお蒲団の中でゴソゴソしているのだが・・・
「 ・・・ ふ〜ん ・・・ マヨネーズなくてもお野菜、おいしかった♪
お父さんのゴハン〜〜 こわ こわ・・・って齧って美味しかったな〜〜 」
真っ暗・・・と思っていたテントの中も 目が慣れるといろいろ見えてきた。
「 あ・・・ 天井、やっぱ三角なんだあ〜〜 ふうん ・・・・ あれ? 」
り〜り〜り〜 ・・・・ ジジジィ〜〜〜〜 ジィ〜〜〜
テントの外で ちっちゃな音がする。
「 ・・・・? あ〜〜〜 ムシの声、かなあ? お家の中からだと聞こえないけど・・・ 」
すばるは一生懸命で耳を澄ませてみた。
ガタタ −−−−ン ガタタ ーーーーンン ピィ〜〜〜 !
遠くからう〜んとちっさな音だけど、すばるが大好きな音が聞こえてきた。
「 うわあ〜〜〜 JRの音だあ〜〜 貨物列車 かなあ・・・・
僕の部屋からじゃ 全然聞こえないのに ・・・ 」
すばるは全身を耳にして 長い列車が通りすぎてゆく音を聞いた。
「 ・・・ すげ ・・・ 今度、見たいなァ・・・ 」
ふわぁ〜〜ん ・・・ 煙が一筋 テントの中を流れてゆく。
「 あ ・・・ ? いいにおい ・・・ なんだろ。 」
ジョーはテントの側に蚊取り線香を置いたのだけれど、すばるは初めての香りだった。
「 ・・・ ふ〜ん ・・・・ 」
― もぞもぞ ・・・ こくん ・・・
父譲りのクセッ毛アタマが 枕の上で大人しくなった。
・・・ あ れ ・・・? ここ ・・・ どこ?
すばるはしばらくぼ〜〜〜っと天井を見ていた。
いや、天井、というより布が斜めに合わさっていて・・・ なんかとっても狭いみたいだ。
「 ・・・ う〜〜〜ん ・・・ むにゃむにゃ〜〜 」
どん・・・! 突然 蹴飛ばされた。
「 うわっ?! ・・・・ あ〜 ・・・ すぴか ・・・
あ! そっか。 ここ ・・・テントの中なんだ〜〜 外、出てもいっかな・・・ 」
すばるはもぞもぞ寝袋から半分だけ這い出すと こそ・・・っとテントの入り口を開けた。
すぐ側に お父さんの寝袋がみえた。 すばるとお揃いなセピアの髪が見える。
「 ・・・ お父さんも寝てるなあ・・・ うわああ・・・ 夜だあ・・・ 」
目の前には よ〜〜〜〜く知っている景色が、ほんのチビの頃から遊んでいる裏庭が見える。
でも 今はなんだか ・・・ 知らない土地みたいだった。
すばるが植えたヒマワリも 洗濯モノ干し場も オバケが立っているって思える。
「 ・・・ でも真っ暗、じゃないんだ? あ・・・虫さん達も鳴いてる〜〜 」
ぴちょん ・・・! 紙コップの中でさっきのメダカが水を飛ばした。
「 ・・・夜って。 音もちゃんと ・・・ 聞こえるんだぁ・・・・ 」
― やがて テントの入り口は閉じ、セピアのアタマも大人しく寝袋の中に戻った・・・
その夜も 満天の星空・・・崖っぷちにあるギルモア邸の頭上には星々の河が滔々と流れていた。
Last
updated ; 08,09,2011.
index
/
next
********* 途中ですが
タイトルが全てを表しております <(_ _)>
双子ちゃんは 小4・・・くらいかな。
別名 : 身近なリゾートの方法 ・・・とか???
なにも起こりませんが お宜しければ後半もお付き合いください<(_
_)>