『 空が 青い ― (2) ― 』
カタン。 キッチンのドアをそっと開けた。
細めにあけた隙間から 中を窺ってみたけれど ― いつもの通りだった。
この時間だもの、 < いつもの通り > 誰もいない。
「 おはようございます〜〜〜 ん?
・・・ まあ ジョー ・・・ 」
シンクの籠には 洗いあげたカップとガラスのお皿がきっちりと
ならんでいた。
布巾も キレイに洗って乾してある。
昨夜 彼女が用意しておいたものが きちんと片づけてあるのだ。
「 ・・・ いいのに ・・ ありがとう ジョー ・・・
あら ・・・? 」
キッチン・テーブルの上に メモとなにかが置いてある。
おはよう フランソワーズ☆
足の具合はどう?
これ ↑ 使ってみてくれって。
博士制作の < とう ぱっど > だって。
博士はしっかり寝てもらっています。
ぼくは 今日は早出なので先にゆくね。
あ コーヒーとオレンジ、おいしかった〜〜
れっすん がんばれ〜〜
ジョー
「 ジョー ・・・・ 早出だったの・・・ それなら昨夜言ってくれれば
よかったのに〜〜〜 お昼、どうするの? 」
毎朝 彼女はジョーのお弁当を作っているのだ。
「 ・・ もう〜〜 遠慮なんかしないでよぉ〜〜
いいわ! 今晩はジョーの好きなモノ攻めよ!
・・・ あ これ ・・・博士が ・・・ 」
メモの上に置いてあったモノを手にとった。
「 ・・・ サイボーグ用 トウ・パッド ということ?
ふうん ・・・ 」
クシュ ― 掌で簡単に曲がった。
シューズと 足のカタチに合うよう、作ったのだろうか・・・
「 見た目は ・・・ 今まで使ってたのと同じ ねえ ・・・ 」
手触りは 案外柔らかかったが < 普通 > のものよりもほんの少し
重い感じがした。
「 これなら ・・・ きっとわたしの足も 大丈夫 かもね。
あ 足 ・・・ そういえば 痛くないわ 」
目が覚めた時から 足は元気でもう昨夜の堪らない疼痛は消えていた。
「 ・・・ 足 ・・・ 見た目はぜんぜんいつもと同じだし ・・・
すご〜〜い さすが博士ねえ。
徹夜なさったのかしら ・・・ ずいぶん張り切っていらしたけど・・・
あ ちゃんと朝ご飯とランチ、 作っておこうっと。 」
フランソワーズは 朝のキッチンで軽快に動き始めた。
タタタタ タタタタ ・・・ !
汗を飛ばして舗道を駆け抜け ― アイアン・レースの門を通る。
「 お おはよ〜〜ございます〜〜 」
フランソワーズは バレエ団の玄関に駆けこんだ。
「 おはようございます フランソワーズさん 」
事務所のヒトが ひょい、と顔を出し笑っている。
「 おはよ〜〜 です〜 はあ〜〜 間に合った ・・ 」
「 うふふ あと10分ですよ 」
「 はい〜〜〜 」
更衣室にダッシュだ。
「 ・・・ おはよ〜 ございます〜〜 」
「 おはよ〜 フランソワーズ 」
「 あは ・・・ 」
中には もうあまりヒトはいなかった。 仲間たちはすでにスタジオで
しっかりストレッチをしている時間なのだ。
う〜〜〜 焦る 〜〜〜
あ 今日はこのトウ・パッドで 頑張れるかも♪
そそくさ〜〜と着替え 大急ぎでスタジオへ。
「 あ フランソワーズ おはよ〜〜 」
いつものすみっこのバーで みちよが髪を結っていた。
となりのバーに 滑り込む。
「 みちよ ・・ おはようございます〜〜 」
「 足 大丈夫? 」
「 え ええ ・・・ なんとか。 ひゃ〜〜 急がなくちゃ 」
「 まだ 平気だよ、 ピアニストさん 来てないし 」
「 そっか ・・・ え〜と ・・・ 」
がさ ごそ。 博士特製のパッドをいれてポアントを履いた。
「 ・・・ ん〜〜 ぎゅ ぎゅ〜〜っと ほら 入れ〜〜 えいっ 」
「 あれ ポアント、新しいの? 」
「 え ううん ・・・ トウ・パッドをね、換えてみたの。 」
「 ふうん ・・・ どこの? 」
「 あ あのう ・・・ ち 父が作ってくれたの 」
「 え〜〜〜 お父さんがあ〜〜 すっご〜〜い〜〜〜〜〜 」
「 う〜〜ん 初めてなのよ 試運転。 」
「 へえ〜〜 感想、教えてね 」
「 ウン ( どうか 剥けたりしませんように〜〜 )
う〜〜ん 大丈夫かなあ 〜〜 」
ごん ごん ごん 〜〜 床に押し付け急いで靴をならす。
「 ・・・ ちょっち キツイかも〜〜 あ 」
はい おはよう。 始めますよ
マダムの一声と共に 床にころがったりバーに足を上げていたりの
ダンサーたちは ぱっと立ち上がった。
〜〜〜♪ ピアノの音ともに全員でレヴェランスをして
― 朝のレッスンが始まった。
バー・レッスンをしつつ、 靴とパッドの具合を確かめる。
ちょいと 嵩張る ・・・ かな と感じた。
「 う〜〜〜〜 ・・・・ 靴の中で膨張した・・?
気のせい かなあ ・・・ 」
足のことが気になって かなり〜〜気の散るクラスになってしまった。
「 ・・・ う〜〜 間違えたァ ・・・ 」
「 どしたの? 」
みちよサンが こそ・・・っと囁いた。
「 え・・・ 」
「 今日さ フランソワーズ なんかヘンだよぉ?
バーでもけっこう間違えてたしぃ 」
「 ・・・ あは わたし ヘタだから 」
「 え フランソワーズ、 いつも順番 間違えないじゃん 」
「 あ そ そう ・・? あの ちょっと 靴、気になって 」
「 新しい? 」
「 靴じゃなくて パッド・・・ 」
「 あ〜〜 」
どこ みてるの っ !
マダムの声が飛んできた。
うひゃ・・・ 二人は 子供みたいに首をちぢめ ぱっと前を向いた。
「 集中するって 基本! 」
「 ・・・ ・・・ 」
二人は ますますこそ〜〜〜っと後ろにひっこんだ。
「 いいわね? はい 続き。 セカンド・グループ?
よく 音、聞いて 」
数名のダンサーたちが さささ・・・っとセンターに並んだ。
いっけな〜〜い ・・・ チビの頃みたいに叱られたわ
「 みちよ ・・・ ごめん ・・・ 」
「 アタシも ごめん 」
二人は 口を動かさないように こそこそ・・・っと言い合った。
「 ・・・ う〜〜〜 終わった ぁ ・・・ 」
フランソワーズは スタジオの後ろで ぺたん、と座り込んだ。
クラスが終わり レヴェランスをすると スタジオはイッキに賑やかになる。
ダンサーたちは おしゃべりしたり自習したり、クール・ダウンしたり・・・
雑多な動きを始める。
その中で ・・・
「 う ・・・ わ〜 」
フランソワーズは そう〜〜っとポアントを脱いだ。
博士作の トウパッドは ぽろり、と落ちた。
タイツをめくり 足の指をこわごわ・・・出してみた。
剥けた・・・ってことはない と思うけど ・・・
「 あ〜 どした? 流血の惨事? バンドエイド あるよ? 」
「 ・・・ なんとか 大丈夫みたい・・・ ありがと、みちよ 」
「 お父さんの作品 どうだった? 」
「 う〜〜ん ・・・ やっぱりちょっと 合わない かも 」
フランソワーズは つくづくと自分の足を眺めている。
鬱血 もしてないし 損傷も なし。
・・・ ふん さすが サイボーグね
けど ― いった〜〜〜〜い・・・
「 すごいね〜〜 」
「 え なにが 」
「 フランソワーズのお父さん。 だってさ バレエ関係の方じゃないのでしょ? 」
「 うん 全然。 トウ・パッドの存在すら知らなかったわよ 」
「 だろ〜ね〜 普通。それなのにさ〜〜〜 トウ・パッド なんてさ
一生、無縁のヒトの方が多いじゃん 」
「 ・・・ そう ねえ 」
「 それなのに ムスメのために作っちゃう、なんてさ。
夏休みの宿題を おと〜さんがやってくれたってのとは ちがうよ? 」
「 ・・・ それは そうだけど 」
「 ここが当たる〜〜 とか いろいろ言ってあげれば? 」
もっと改良してくださるかも 」
「 あ そっか ・・・ そうねえ 」
「 ね〜〜 いいのができたらさ アタシもお願いしたい〜〜〜 」
「 いいけど ・・・ でも 今のパッドはだめ? 」
「 アタシの足のクセかなあ すぐにねじれちゃうんだ 〜 ほら 」
みちよサンは 自分のトウ・パッドをみせた。
「 あら ホント ・・・ うん 頼んでみるわ。
久々に燃えてきた〜〜〜 とか言ってたから喜ぶかも 」
「 すっご〜〜い〜〜 あ 帰り、 大丈夫? 」
「 ・・・ 裸足で帰りたいかも ・・・ 」
「 あは わかる〜〜〜〜 そういう時ってあるよね〜 」
「 ああ ・・・ ねえ 神様はさ〜 ニンゲンを
爪先で立って回ったりするよ〜には 作らなかったってことよね 」
「 え〜〜 ?? あははは・・・ そうかも 」
二人は 笑いつつ荷物を抱え更衣室に向かった。
「 ただいま もどりました〜〜〜 」
はあ ・・・ ウチまでこんなに遠かったっけ・・・
我が家の玄関で フランソワーズは思わず大きくため息をついた。
「 おお お帰り・・・ 足はどうじゃったかの 」
博士が すぐに飛んできた。
「 はい ・・・ あのう ・・・ 」
「 率直に教えておくれ。 どんどん改良してゆくから・・・
ん? ・・・ ああ やはり合わなかったか 」
博士は すぐに彼女の歩き方に気づいたらしい。
「 痛むか? あの湿布はもっていっただろう? 」
「 え ええ・・・ あのう〜〜 もう少し薄くなります? 」
「 ふうむ ・・・ ちょいと休憩したら 足をみせておくれ。
ああ 疲れているじゃろうが ・・・
」
「 いえ ・・・ ちょっと荷物おいて 着換えて・・・
あ 晩ご飯の用意 ・・・ 」
「 ワシがやる。 なんなら ジョーに頼もう。
それよりも先に きみの足の問題じゃ。 」
「 でも あの・・・・ 」
「 < あの > は しまっておけ。 さあ そこに座って足を
みせなさい。 ああ それと今日履いたポアントもな 」
「 はい ・・・ 」
フランソワーズは 観念して? ぽすん、とリビングのソファに座った。
「 へえ〜〜 それで 博士はすぐに改良を? 」
「 そうなのよぉ〜〜 」
ジョーは 食卓でとてもとても美味しそう〜〜に 箸をすすめている。
彼の帰りが遅かったので 結局はフランソワーズが食事の用意をした。
足は 特製湿布ですぐに腫れた感じは引き 痛みも遠のいていた。
「 それでね〜〜 博士はもう 即 研究室に閉じこもったの 」
「 ああ らしいねえ ・・ 開発者魂 ってやつ。 」
「 そうねえ 根っからの技術者なのね 」
「 うん すごいよね〜〜
でもさ〜〜 フランってすごいね 」
「 なにが。 」
「 だってさ〜〜 あの靴・・・ 布でできてるっぽいじゃん? 」
「 ? ・・・ あ〜〜 ポアントのこと? 」
「 そ。 ピンク色でカワイイ靴はいて 爪先で立って踊ってるじゃん
すっげ〜〜〜ってか 足になにか装置があるのか??って思っちゃう。 」
「 別になにもくっついてないわよ 」
「 だろ? 普通のただの足がさ 信じらんない すごいよ・・・ 」
「 そう? ・・・ そうかも ・・・? 」
「 そう! だからさ フラン。 もっともっと踊れよ。 ずっと! 」
「 ジョー ありがと ・・・ な なんか嬉しい ・・・ 」
フランソワーズは 食卓で俯いてしまった。
ごしごし ・・・ エプロンの裾で目の端を拭っている。
「 あ ご ごめ ・・・ ヘンなこと、言った? ぼく・・・ 」
「 ううん ううん ごめん・・・ これ、嬉しい涙 ・・・ 」
「 あ は ・・・ ね ひとつ、リクエストがあるんだけど 」
「 あ 卵焼き もっと甘い方がいい? 」
「 ! ち が〜〜うよ。
あの さ。 こんど きみが動いているとこ、写真撮っていい? 」
「 動くって ・・・ 踊ってるとこってこと? 」
「 う〜ん 特に拘らないな ストレッチでもいいし
なんて言うんだっけ・・・ あの〜 ばーれっすん してるとこでもいいんだ。
ごく自然〜〜に 動いてるとこ、撮ってみたいんだ 」
「 ね ・・・ ジョー イイコト、みつけた? 」
「 え? いいこと・・・? 」
「 そ。 これ やりたい ってこと。 見つけたんじゃない?
そんな雰囲気 するわ? 」
「 あ うん ・・・ 実はさ、 出版社のカメラマンの人に
いろいろ・・ 教えてもらってるんだ。
・・・ ぼく 写真、興味あるんだ。 」
「 写真? わあ〜〜 報道カメラマンとかになりたいの? 」
「 あ そういうのとはちょっとちがって・・・
なんか こう〜〜 見る人の元気になるよ〜なの、撮りたいな〜って 」
「 ふうん ・・・ あ それで動いてるトコを ? 」
「 ウン。 舞台写真もいいんだけど、なんかこう〜〜〜
普通に近いとこ、撮ってみたいんだ。 」
「 ジョーの作品 ・・・ 見てみたいわあ〜〜
わたしでいいの? もっと綺麗で上手な人 いっぱいいるわよ 」
「 ぼく。 フランが動くとこ、撮りたいんだ。
お願いできますか 」
「 はい。 喜んで ・・・ ね 地下室のロフトってね〜〜
空いてるのよ。 スペースがあるの、知ってた? 」
「 ― 知ってた。 ってか きみがこっそりレッスンしてるの、
知ってるもん。 」
「 え やだ・・・ 音、出してないのに ・・・ 」
「 足音とか するもん。 ぼくだって 」
ジョーは つんつん・・・自分自身の耳を突いた。
「 あ ・・・ そうね。 ジョーの耳なら聞こえちゃうわねえ・・・
だから あそこで撮ってみる? 」
「 い いいかな〜〜 そのう 困るなら 顔とか写さないように
するけど 」
「 う〜ん ・・・ ジョーにお任せします。 」
「 ・・・ ありがとうございます。 」
ジョーは ぺこり、とアタマを下げた。
「 じゃ 御飯終わったら 」
「 あ きみ、足、また痛いんだろ? いいよ しっかり治して。
ぼくも いろいろ勉強すること、あるから。
焦ってもイイコト、ないだろ? 」
「 ありがと ・・・ ジョー 」
「 お互いさま ってことだよね〜〜
あ〜〜 美味しかったなあ〜〜 ね お願いがあるんだ 」
ジョーは満足気に箸を置いた。
「 ああ 衣装とか指定があるかしら 」
「 い〜え。 ・・・ 卵焼 もうちょびっとお砂糖 足してください。 」
「 あは? は〜〜い 了解。 」
うふふ あはは ・・・
食卓はほんわかした空気でいっぱいだ。
― 翌朝 キッチンのテーブルには
トウ・パッド改良版 が 鎮座していた。
「 ・・・ わあ ・・・ 博士 ・・・ すご・・・ 」
手にとれば 少し軽い感じがした。
「 薄くなった? 強さは 変わってないってかんじだけど ・・・
うん。 これで今日のレッスンもがんばるもんね〜〜
さ ジョーのお弁当ね。 そうそう お砂糖多めの卵焼き ね♪ 」
ふんふんふ〜〜ん ♪
フランソワーズは ハナウタ混じりに朝ご飯の準備を始めた。
♪♪ ♪♪♪ ♪ 〜〜〜
軽快な曲が 流れている。
センターでは ダンサーたちが細かく速い脚捌きで アレグロを
踊っている。
「 くぅ〜〜〜 落ちた ・・ 」
フランソワーズは 途中で脱落していた。
「 ・・・ 靴 潰れた? 」
「 う ううん 無事だ けど ・・・ アレグロ 苦手〜〜 」
マダムは テクニック上の注意を幾つか伝えた。 そして ―
「 それよりも。 音 ちゃんと聞く! 先に行っちゃだめ。
遅れてもダメ。 いい? 音と踊るのよ 音を踊るのよ。 」
それから ― と マダムは言葉を切ってから
全員を ぐる〜〜〜っと見回した。
「 もっとアタックしなさい なに遠慮してるの?
アグレッシブに ! 」
ひゃ ・・・。 フランソワーズは首を竦めた。
マダムの言葉は まだ続く。
「 やめるのは 簡単。 三秒でできるわ。
でも 今やめたら アナタは今までの全ての努力を 無にしてしまうのよ 」
わかるわね? ― 彼女の笑顔は 全員のこころに沁みた。
もちろん フランソワーズ も思わず胸を抑えていた。
! わ わたし ・・・・
止める なんて ― できない。
そんなこと、 わたしは できない わ
わたし 踊るわ。 踊るの よ !
フランソワーズ、 あんた そのために生き抜いてきたのでしょう??
さあ 踊るの ・・・ !
トウ・パッドさん よろしくね〜〜
彼女の踊りに 気合いが入った。
「 う〜〜〜ん ・・・ これじゃ 撮り損ねと変わりないし〜 」
ジョーは 編集部の片隅で モニターを覗き唸っている。
「 こっちのは静止画だよなあ ・・・
やっぱ デジカメじゃだめかあ ・・ 一眼レフとかじゃないと
いい作品って 撮れないのかなあ 」
「 カメラに責任はないぞ 」
不意に後ろから声がかかった。
「 え?? あ〜〜〜 タナカさん 」
「 ジョー君 まだ残ってたのか 」
編集部付きのベテラン・カメラマン氏が 立っていた。
ゴマ塩頭のオジサンだが 腕はピカ一、編集部の重要人物だ。
・・・ タナカさんの写真で ウチのホンは売れてるんだよ ・・・
編集長氏は 常々公言している。
「 あ はい ・・・ 仕事終わって掃除してて ・・・
あ すいません、勝手にPC使って 」
「 ああ? あ〜 ソレは編集部全員の共有だから 別にかまわんだろ 」
「 ・・・ でも ぼく バイトだし 」
「 関係ない。 ウチはそんなことに拘らんよ。
なにか 撮ってみたのかい 」
タナカさん は なかなか気さくなオジサンで バイトのジョーにも
声をかけ カメラの技術のことなど 教えてくれている。
「 え は はい ・・・ タナカさんの仕事、みてて・・・
ぼく ・・・ 写真っていいなあ〜 って思って。
自分でも やりたいなあ って すいません、ナマイキですよね 」
「 ふうん〜〜 いいじゃないか それでデジカメで撮った? 」
「 デジカメしか持ってないんで・・・・
あの・・・ 今度 フォト・コンテスト ありますよね 」
「 ? あ ああ〜〜 ウチの自然派のヤツだな? 」
「 だな? って。 タナカさんが審査委員長でしょう ?? 」
「 あ そうだったっけか 」
「 う〜〜〜 ・・・ で いろいろ撮ってみたんですけど・・・・
ど〜も うまくゆかなくて 」
「 ふん? それでカメラのせいにしてたのかい 」
「 え やっぱ 一眼レフとかじゃないと ダメですよねえ 」
「 ― カメラの品評会 かい? そのコンテストは 」
「 ・・・ あ ・・・・ 」
「 きみのね こころに ず・・・んと来るモノとか 場面を
狙ってごらん。 」
「 こころに ず・・ん かあ ・・・ あ すいません 」
「 なぜ 謝るのかい? きみは なかなか面白いコだねえ 」
「 ・・・ え へ ・・・ 」
「 あ そうだ そうだ。 再来月号の企画書 あるかな。 」
「 あ はい。 今 プリント・アウトします ・・・
あのう ・・・ 皆さんに配信したはずなんですけど ぼくが 」
「 いや〜〜〜 すまん〜〜 失くしてしまったらしいんだ。
どうも その・・・ 整理整頓 とかは苦手で 」
「 あは ぼくもですよ。 〜〜〜〜ん〜〜と あ これだ これだ。
〜〜〜〜 はい これです、どうぞ 」
ジョーは手早く プリント・アウトした。
「 ん〜〜 ああ これだ ありがとう。 ジョーくん 」
「 よかったデス。 」
「 おう。 ず〜〜ん とくる作品、待ってるぞ。 」
「 ・・・ あ は はい。 ありがとうございます 〜 」
「 うん、じゃあな 」
ひら・・っと手を振って タナカさんは帰っていった。
ず・・・ んとくるモノ かあ ・・・
ん。 やってみる ぞ。
頼むね〜〜 ぼくのカメラくん。
ジョーは 愛用のデジカメをそっと取り上げた。
― 翌日の夜
「 普通に自習してていいの? 」
フランソワーズは 怪訝な顔をしている。
彼女は地下のロフトの隅で 毎晩自習をしているのだ。
「 ウン。 いつものとおり、でいいんだ。 お願いシマス 」
ジョーは 靴を脱ぎカメラを持ち、一緒にロフトの床に立った。
「 ・・・ 蹴飛ばしたら ごめんなさい 」
「 あは ぼくを〜〜 誰だと思ってるのかな〜〜 」
「 うふふ 失礼しました〜 じゃ 音、出すけど・・・
気にしないでね 」
「 なるべく邪魔しません。 どうぞ自由に動いてください。 」
「 はい。 」
〜〜〜 ♪ タンッ ・・・ !
フランソワーズは 今朝のレッスンの復習から始めた。
撮りたい ・・・ !
躍動するフランの姿を撮りたい !
ジョーは 床に転がり 壁に貼り付き シャッターをきり続ける。
ぼくが 一番 ず・・・っんとくるひと。
ぼくの こころを ず・・っんと惹き付けるひと。
ぼくが 愛する ひと !
ジョーの < 撮影会 > は 三日続いた。
「 ほう・・・? ジョーはカメラか。 」
博士は 地下ロフトでの二人の < 活動 > に ちゃんと気がついていた。
トウ・パッドの開発・改良は 今、最も興味のある事柄となっている。
「 うむ ・・・ 二人とも ― 見つけたのじゃな。
ああ そうじゃよ、 その道を 自分の信じる道を 進んで行くがいい・・・
それが若者の特権じゃなあ 」
ああ 空が 青い ・・・
博士は遠い空を見上げ安堵の吐息を漏らすのだった。
**** ちょいとオマケ
「 ・・・ うっそ ・・・ 」
ばさり。 ジョーの手から新刊の雑誌がすべり落ちた。
「 ? ジョー ・・・ それ ジョーのバイト先の雑誌でしょ? 」
「 え? あ ああ フラン ・・・ 」
ジョーは 落ちた雑誌を拾いもせず じ〜〜〜っと彼女を見つめている。
「 どうしたの・・・ なにか あったの 」
「 ぼ ぼく ・・・ か かさく !!!! 」
「 ・・・ かさく ? な なにが 」
「 あ ああ あの ・・・ しゃ しゃしん 」
「 え? 」
フランソワーズは 雑誌を拾いあげページを広げた。
「 ? 写真コンテスト。 あ〜〜〜 これ え???
わ・・・ 佳作 島村ジョー !!! すご〜〜い〜〜〜
え え〜〜〜〜〜 わ こ これ わたし ・・・? 」
ジョーがさんざんトライして苦心して撮った作品は
ぱ・・・っと動きを止めた瞬間のフランソワーズの姿 だった。
逆光になっているので 顔かたちはあまりよくわからない。
ただ ゆらめく金髪が炎のようにも見える。
「 きゃ・・・ わたし じゃないみたい〜〜 かっこい〜〜 」
「 え えへへ ・・・ う わ ・・ 」
ジョーは いきなり真っ赤になってしまった。
「 ? え なあに どうしたの? ・・・・ え〜〜〜 」
手元の紙面を覗きこんだフランソワーズも 頬を染めた。
審査委員長・タナカ氏 評
この作品には 愛 がある。 心をうつ愛が写されている。
*************************** Fin.
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Last updated : 08,06,2019.
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************** ひと言 ************
ほんわか93 ・・・ そんな二人が好きです♪
博士〜〜〜〜 ワタクシにも特製トウ・パッド、
作ってください〜〜〜 (>_<)