『 鳥のように ― (2) ― 』
「 じゃ。 いってきます 」
「 うん。 行ってらっしゃい。 ベストを! 」
「 メルシ ジョー。 キスして 」
早朝の玄関で フランソワーズはじ・・・っとジョーを見上げている。
う は。 こんな熱い瞳って 久々に見るよ〜〜
・・・ うん 今日は彼女の チャレンジの日 なんだもんな
「 えへ それじゃ きみの踊りに ・・・ 」
ジョーは 身体を屈めて彼女の唇にさ・・っと触れようとして ―
「 ・・・ ん〜〜〜〜〜〜 」
がし。 彼女の腕に抱えこまれ結果として あつ〜〜〜いキス をすることになった。
「 ・・・ ん は 」
「 〜〜〜 メルシ ジョー。 あなたのパワーをもらったわ 」
「 駅まで送らなくていいのかい 」
「 始発のバスでちゃんと間に合うから大丈夫。 それよりも 」
「 あ うん 安心して。 チビ達は泣かせたりしないよ。 」
「 ありがとう ジョー 」
「 任せて。 さあ 行ってらっしゃい。 」
「 はい。 イッテキマス。 」
「 ほ〜〜い フランソワ―ズ〜〜 頑張ってこい! 」
博士が ばたばた・・・玄関に出てきた。
「 博士。 すみません、早朝から 」
「 なに これがワシの起床時間さ。 さあ 行っておいで。
帰りはワシがちゃ〜〜んと迎えにゆくからな。 」
「 ありがとうございます。 ― いってきます。 」
フランソワ―ズは ぺこり、とアタマをさげると玄関を出ていった。
ジョーと博士は 玄関で彼女を見送った。
・・・・・ !
彼女は 一種微笑にも見える風に唇を引き結び 家の前の急坂を降りていった。
コンサート本番が近づいてきたある日のこと ―
「 この日は一日 朝から留守にしなければならないの。
シッターさんをお願いしようかしら。 」
フランソワーズは 少し眉を寄せている。
「 あ。 その必要 ないよ。 」
「 え ・・・ 」
「 ぼく チビ達みてるから ずっと。 」
「
え …
」
「 ホントは すご〜くきみの舞台 観たいんだけど …
まだ チビ達はホールにつれてゆけないだろ 」
「 え ええ
…
それは 」
「 だったらここは ぼくの出番さ。 泣かさず
ちゃ〜んと御飯食べて
遊んで 夜は一緒にオフロはいって〜
ネンネさ♪ 」
「 … ジョー
ひょっとして 楽しんでる?
」
「 えへへ〜 バレたか〜 」
ジョーは ちょっとおどけてみせた。
「 ありがとう ・・・ ジョー ! 」
「 ワシがしっかり鑑賞して 名プリマを 迎えにゆくぞ。 」
博士も会話に加わった。
「 え〜 博士が
ですか
」
「 荷物も多くて大変じゃろうし ・・・
ふふ 実はな〜
全自動運転 の プログラム走行実証実験も 兼ねて、とな 」
「 わあ すごい〜
全自動運転 ですか! 」
「 ふふふ・・・ イワンとワシで組んだプログラムなんじゃが。
まあ 帰りは安心して ゆっくりしておくれ 寝ていいぞ
」
「 わ♪ ありがとうございます〜
」
「 そんなワケで ジョー。 ウチのプリマの迎えは任せておくれ。 」
「 お願いします。 じゃ フラン、 きみは ベストを。 」
「 ん。 頑張ります。 」
そんなやりとりの結果 フランソワーズは本日の本番に臨んだのだった。
ぱちぱちぱち〜〜〜〜
あまり広くないホールは満杯、 熱心な拍手でいっぱいになった。
舞台では 若いダンサー達が精一杯の踊りを披露してゆく。
今 金髪のダンサーが 深くレヴェランスをしている。
彼女は 脚捌きも見事に『 チャイコフスキー・パ・ド・ドウ 』
の女性ヴァリエーションを踊った。
「 お〜〜〜〜〜 やった〜〜〜 フランソワーズちゃあ〜〜ん 」
客席でタクヤは盛んに拍手を送った。
彼 ― 山内タクヤ君 ― は < 運命の女性 > と 勝手に思いこんでいる
彼女の踊りの出来栄えに もう最高ににまにま〜している。
「 うっは〜〜〜〜 やた〜〜 アレグロ、ちゃんとモノにしたじゃんか
短期間ですっげ〜な〜〜 うん 素直ないいコだもんなあ
」
も〜〜 すっかり < おれのカノジョ > 気分に浸っていた。
カノジョ ― フランソワーズはテンポの速い踊りに 苦戦していたのだが
タクヤの助言で コツをつかんだ、という展開だったのだ。
「 うん やっぱさ〜〜〜 あ〜〜いう素直なコが一番だよなあ
こう〜〜 心が真っ新だからさ、アドバイスとかするり、と受け入れられるんだぜ?
そ〜ゆ〜トコがないと、 ニンゲン、成長しないよなあ うん。 」
タクヤは自分の事みたいに すっかり有頂天になっていた。
ざわざわざわ −−−−
小さなコンサートが終わり 観客達も三々五々ホールから帰ってゆく。
「 ふ〜〜ん ・・・ ああ 面白かったな〜〜
自分が踊るよか ず〜〜っとドキドキしたけどさ。
あ・・・ ちょい、 彼女にはっぴ〜 言ってこよっと 」
タクヤは 楽屋口に回った。
しばらくすると 楽屋口からは出演したダンサーたちも出てきた。
「 えっと〜〜〜〜 あ 」
タクヤの待ち人、金色のアタマが見えた ― が。
「 〜〜〜 う? 」
彼が声をかけよう・・・・としたその時
「 フランソワーズ ・・・ 」
楽屋口の少し先から 老紳士が低い声で呼んだ。
「 !
」
金髪さん は ぱっと顔を輝かせ紳士の方に駆け寄った。
あ ・・・ ああ 親父さんかな〜
タクヤはなんとな〜〜く柱の影に引っ込み 紳士と金髪ちゃんを見つめている。
「 お疲れさん。 よかったぞ。 」
「 まあ ありがとうございます 」
「 ああいう踊りが得意 とは思ってなかったのでなあ
驚いたが またひとつ、魅力を発見したぞ 」
「 きゃ 嬉しいです〜〜 うふふ・・・ ホントはね
とっても苦戦しちゃったんです。 速いテンポの踊りって苦手で ・・・ 」
「 ほう? 」
「 ここのマダムは アレグロがお得意なのでいつも大変です。 」
「 うむ 東洋人は腰が強いからなあ。 しかし 本当にとてもよかったよ。 」
「 うふふ ・・・ 嬉しい〜〜〜 」
「 さあ 帰ろう。 帰りはゆっくり寝ててよいよ。 」
「 あら ちゃんとナビゲートを 」
「 いやいや 往復の道程をインプットしてあるから 半ばオートドライブじゃ
ああ チビさんたちは おと〜さんと機嫌よく遊んでおるよ
」
「 よかった …
ジョー 苦戦してるんじゃないかな〜〜って
ちょっと気になってたんですけど
」
「 あはは ・・・ 三人で一緒くたになって遊んでおった・・
ははは 丁度良い遊び相手なんじゃないかい 」
「 うふふ ・・・ そうかも ・・・ 」
「 ああ あの大先生がな
お嬢さんはよくがんばっていますよ と誉めておったよ 」
「 え わあ 嬉しい
… コブ付き お嬢さん ですけど
うふふ
あ
お疲れさま〜
ありがとうございました 」
金髪ちゃん は タクヤに気が付いたらしく 笑顔を向けてくれた。
お。 さ〜すが〜〜〜 気配りも最高じゃん
タクヤは たった今、出てきた風な様子で 彼らに向かってかるく手を上げ
合図をした。
「 やあ お疲れ様〜〜 」
「 お疲れ様です。 あ こちら 山内タクヤさん。 バレエ団の先輩です。」
金髪ちゃんは 老紳士に紹介してくれた。
「 お〜〜 フランソワーズがお世話になってます 」
紳士は 穏やかに微笑み会釈をしてくれた。
「 あ いや〜 こちらこそ。 あ よかったよ〜 アレグロ 頑張ったじゃん 」
「 山内さんに 教えていただいたおかげです〜 自分でも信じられない・・・
本当にありがとうございました。 」
「 キミの努力の結果さ 」
「 うふ ・・・ あ それじゃ ・・・ 」
ぺこり、 とお辞儀をすると 彼女は老紳士と連れ立って駐車場の方に歩いていった。
「 ほえ〜〜 優しそう〜な 親父さんだな〜 ・・・
あ そ〜いや さっきマダムとフランス語で 談笑してたな〜
すげ〜〜 」
ヴァ −−−− 外車が 彼の目の前を通りすぎてゆく。
ちらり、と 金髪が目に入った。
「 ! ―
おわ。 アウディ
かよ〜
すっげ〜 い〜ウチのお嬢なんだな〜 」
へえ〜〜〜 ・・・ と見送ったが ―
「 ふふふ〜〜ん 次は! 俺様と さいこ〜のブルーバード 踊ろうぜ
あの親父さんも俺を認めてくれるぞ
娘をよろしく なんちっち〜
♪
わはは〜〜〜 喜んで交際を許可してくれるよなあ〜〜 うっはっは〜〜 」
彼は 誰もいない空間に向かって誠実そのもの・・・みたいな笑顔で
王子さまのよ〜〜に優雅に 会釈をしていた ・・・
「 ・・・ あらあ あのコ・・・ また やってる ・・・
ふ〜〜ん あの妙な性癖さえなければ ホント 王子さま なんだけどねぇ
… 」
丁度 楽屋口から出てきたマダムは 足を止めふか〜〜くため息を吐いた。
「 ま
害はないけど ね。
さあ 次はどんなブルーバード を 見せてくれるかしらね
楽しみだわ〜 」
「 ・・・ マダム 」
「 ああ 今ゆくわ。 ありがとう 」
老婦人は やはり迎えに来てくれた年若い恋人に腕を預け駐車場へと向かった。
― カタン。
夫婦の寝室のドアを そっと開けた。
「 ・・・ あら ・・・うふふ・・・ 」
フランソワーズは 思わず笑い声をあげそうになった。
大きなベッドでは ― ジョー が子供たちと 川の字 になって寝ていた。
「 ふふふ よく寝てる・・・ 」
もぞもぞもぞ〜〜〜
「 ・・・ ! おか〜さ〜〜ん ! 」
まず すぴかが目を覚まし とんできた。
「 すぴか! ごめんね、おっきしちゃった? 」
「 おか〜さ〜〜ん おかえりなしゃ〜〜い〜〜
ね アタシ! ごはん ちゃんとたべた! おふろ はいったよ〜〜 」
きゅう〜〜〜 すぴかが抱き付く。
「 そうなの えらいわねえ すぴかさん。 ごめんね 」
「 おか〜さん ばれえ できた? 」
「 ええ ええ ちゃんと踊ったわよ 」
「 わ〜〜い おか〜さ〜〜ん すご〜い〜〜 」
「 うふふ 甘えんぼさん・・・ あら すばるも・・ 」
もこもこ ・・・ 茶色のアタマも動きだす。
「 おか〜〜さ ・・・ 」
「 すばる いらっしゃい 」
「 ・・・ おか〜さ〜〜〜ん 」
ぴと。 すばるも抱き付いてきた。
「 うふふ ああ あなた達がいてくれるから 頑張れるんだわ 」
「 ふふふ ・・・ そうだよなあ ・・・・
コイツらから パワー もらっちゃうよなあ 」
ジョーはもう蕩けそうな笑顔だ。
「 ええ ええ そして アナタからもね、ジョー 」
「 え そっかな 〜〜 」
「 ありがとう ジョー。 最高なわたしの夫で最高のお父さんだわ 」
「 ふふふ・・・ ぼくこそ最高に楽しい一日だったよ。
舞台の成功 おめでとう そして ぼくからも あ り が と♪ 」
ちゅ。 子供たちを挟んで夫婦は甘ぁ〜〜いキスを交わした。
― さて 週明けの朝
「 え〜〜〜 『 ブルーバード 』 かよ〜〜〜〜 」
バレエ団の廊下、掲示板の前でタクヤはぶ〜たれていた。
「 え なに〜〜 オマエ 次 GP ( グラン・パ・ド・ドウ )なんだろ? 」
「 ・・・ ああ ウン 」
同期の青年が ぽん、と肩をたたく。
「 い〜な〜〜 相手は ・・・お〜 フランソワ―ズさんかあ 」
「 ・・・ ウン 」
「 いいじゃんか〜〜 カノジョ、上手いから楽だぜ? 」
「 ・・・ う〜〜〜 そうなんだけど 」
俺は ! 『 ドンキ 』 とか 『 海賊 』 をやりたいんだっ
「 じゃ い〜じゃん 彼女、この前のコンサ―トでも評価 高かったじゃね? 」
「 ・・・ う〜〜 そうなんだけどぉ 」
「 オマエ なに言ってんの? 」
「 ・・・ 自習 してくる 」
「 ほぇ ・・・ 熱心だね〜〜 」
「 ・・・ じゃ な 」
「 あ〜 今度 飲みにいこ〜ぜ〜 」
「 おう 」
背中で手を振り タクヤは自習用のスタジオに向かった。
「 『 ブルーバード 』って〜〜 俺 ・・・初心者じゃね〜ぞ〜 」
( いらぬ注 : 『 ブルーバード 』 は GP で 入門的作品。
一番最初に踊ることが多い。 それぞれのヴァリエーションはムズカシイが
アダージオもコーダも リフトや組むシーンは少ない )
ぶつぶつ言いつつも マダムの決定は絶対である。
ダンサー達は 割り振られた踊りに全力で取り組まねばならない。
若手中心のコンサートは そういったこのバレエ団での決まり事への練習でもあるのだ。
「 そりゃ〜〜 ヴァリエーションは踊り甲斐があるけど よ。 」
トン ・・・・ !
「 そりゃ < 鳥になりたい > っておもってっけど よ 」
シュッ ・・・・ !
「 ず〜〜っと 思ってるけど よっ ! 」
シュパッ ・・・ !
相変わらず高いジャンプが綺麗にきまる。
誰もいないスタジオで タクヤはぶ〜たれつつ自習をしている。
「 ・・・ だから俺は ! 」
「 わあ ・・・ すごい 〜〜 」
「 !? 」
着地をして振り向けば ― 彼の < カノジョ > がにこにこ・・・
入口に立っていた。
「 お わお〜〜〜 フランソワーズさん 」
「 うふ フランソワーズ でいいです。 あの〜〜 自習、まぜて
もらっていいですか? 」
「 あは 勿論だよ〜〜 あ なんなら アダージオとかやってみる? 」
「 え いいんですか 」
「 自習だもの いいさ。 あ〜〜 それともヴァリエーション
練習するつもりだった ? 」
「 はい。 でも アダージオ 自習できるなんてラッキーですもん、
あのぉ よかったらおねがいします 」
金髪ちゃん はぺこり、とアタマを下げた。
「 わっほほ〜〜〜 やろ やろ〜ぜ〜〜
あ 俺の方こそ。 お願いします〜〜〜 」
タクヤもぺこり、とお辞儀をし さ・・・っと手を出した。
「 ちゃんと挨拶 してないよな〜〜 GP ヨロシクお願いします 」
「 うふ こちらこそ 」
ぎゅ。 二人はパートナー同士 しっかり握手をした。
わっははは〜〜〜〜〜ん♪ やた〜〜〜〜〜
タクヤは文字通り有頂天〜〜 で 舞い上がったけど、しっかり真面目な顔の下に
隠している。
「 そんじゃ〜〜 どうする? ざっとおどってみる?
それとも 音だして ・・・ 位置確認するか 」
「 ええ 」
「 おう じゃ ちょい待ちな〜〜 ここの音、リモコン あるから 」
タクヤはCDをセットした。
〜〜〜〜〜♪♪ ♪ 〜〜〜〜〜
高い音が流れだし 二人はセンターにでた。
「 ここでいい? うん そう・・・ 」
「 はい。 こんな感じ? 」
「 うん いいよ〜〜〜 ほんでもって ばさ〜〜 ばさ〜〜って 」
「 うふふ ・・・ 」
「 最後 そっちから入る? 」
「 ・・ はい ・・・って こう? 」
「 ん 〜〜〜 わかった。 ここで抱えるから 」
「 この辺りですね? はい ・・・ 」
二人は軽くステップを踏みつつ お互いの位置を確認する。
「 あは いい感じじゃん ? 」
「 そう ですか? うふ・・・ GP、久しぶりなんで 〜〜
緊張してるんです〜〜 」
「 あ そうなんだ? パリでばんばん踊ってたんだろ? 」
「 ええ ・・・ ちょっとその後、 ブランクがあって ・・・ 」
「 へえ? そんな風には感じないけど〜〜 」
「 え・・・ あ タクヤさん ヴァリエーション、 音だします? 」
「 おう いいかな〜 あ タクヤ でいいってば 」
「 うふふ はい〜〜 それじゃ タクヤ。 音 でます〜〜 」
「 お願いシマス 」
〜〜 ♪♪ ♪ ♪♪ シュバッ パパンッ !!
軽快なリズムに乗って タクヤは連続のブリゼ・ボレを決めてゆく。
「 〜〜〜っと ・・・ 」
ぱちぱちぱち〜〜〜 拍手が鳴った。
「 わあ すご〜〜い〜〜 高いですね〜〜 」
「 いや ちょっとマーキングだから ・・・
「 マーキングで?? ブリゼ・ボレ、 すご〜い〜〜 」
「 ありがと。 じゃ 君もヴァリエーション どうぞ 」
「 ありがと〜〜 はい。 」
♪♪ ♪〜〜〜 ♪♪ ♪〜〜〜
金髪の可愛らしい小鳥が 踊りだす。
わっほほ〜〜〜〜 か〜〜わい〜〜〜〜〜 ひゃっは〜〜
タクヤはもう必死で口を引き結んでいる。 だって ・・・
油断したら にまにま〜笑いがこぼれてしまうから。
「 ・・・ っと。 ふう〜・・・ あ ヘンなとこ、言ってください
」
踊り終えたフロリナ王女は 熱心に聞いてくる。
「 あ え〜〜〜 いいんでない? 脚捌き、はっきりしてきたね〜〜 」
「 そうですか? 嬉しい・・・ 『 ブルーバード 』 踊るの、
ほんと久しぶりです 」
「 あ〜 チビの頃、踊っただろ? ヴァリエーション、 よく練習するもんな〜
それじゃ コーダ、行こうか。 タイミング、合わせようよ 」
「 はい。 あ ・・・ あのう ・・・ さっきの、アダージオのリフト・・・
わたしって重いから・・・大変でしょう? 」
「 重い?? どこがあ 〜〜 」
「 だってその・・・いろいろ あって ― 太ってしまったから 」
フランソワーズは本当の事を 言っている。
『 青い鳥 』 を 踊ったのは まだパリで平和に暮らしていた昔のこと。
そして やはり出産後は 以前より太ったけれど それはその後の育児戦争を
闘いぬくために しっかり食べなければならなかったから もあるのだ。
― ただ 今回も 聞き手の方に < 問題アリ > なのだ・・・
かっわい〜〜〜〜 太ったって??
ああ トウキョウに引っ越してきて ・・・
レッスン できない期間があったんだな〜〜 きっと
ジュニアのころ、どこかのコンクールで入賞してるかもな〜〜
タクヤは もうしっかり脳内で説明?を完結している。
「 え ど っこがあ〜〜〜 ぜんぜん〜〜 」
「 あの リフトのタイミング あれでいいですか? 」
「 あ 気になる? それじゃラストのトコだけやってみようか
音ナシだけど ・・・ カウントで 」
「 はい。 〜〜〜〜〜〜 ふんふん で えいっ 」
「 よ ・・・・っと。 あ〜 もうちょいはやく踏み切ってくれる 」
「 はい。 いきますっ 〜〜〜〜 で ! 」
「 ほい。 あ〜 今のがいいな。 かる〜〜いぜ〜〜 」
「 きゃ 嬉しい〜〜 」
「 そんじゃ コーダね〜 」
「 はい。 」
♪〜〜〜♪♪ ♪♪ 〜〜
コーダもステップの確認をしたが 結構息の合うふたりなのだ。
へ へへへ〜〜〜 この俺が カノジョを連れて飛んでゆく〜〜〜
もう役柄と妄想が一緒くたになり・・ 彼は超〜〜〜ご機嫌ちゃんだ。
カタン。 入口のドアが開いた。
「 ? あ マダム 」
「 ふうん 頑張ってるのね〜〜〜 」
「 あ は はい 」
「 リハ 楽しみにしてるからね。 タクヤ。 しっかりね 」
「 へ〜〜〜い 〜〜 」
「 フランソワーズ、 この坊やにいろいろ言っていいのよ? 」
「 え そんな わたしの方がいろいろ教わってます 」
「 ふうん? 」
老婦人は 二人を眺め くく・・・っと咽喉の奥で笑う。
「 タクヤ。 彼女と組むの 初めてでしょ? ほらほら しっかりリードする! 」
「 へ〜〜い 〜〜〜 」
「 練習中、 オジャマさま。 ごめんなさいね〜〜
お邪魔虫は消えるわ〜〜〜 じゃ ね 」
ばっちん☆ 魅惑的なウィンクを残しマダムは出ていった。
「 ・・・ びっくり〜〜 」
「 ふふ ・・・ マダムはいつでもちゃんと見てるってことさ。
な〜〜 頑張ろうぜ 」
「 はい! わたし ・・・ 久し振りのGPなんです、
ヘンなとこ、どんどん言ってくださいね 」
「 了解〜〜 」
わっはは〜〜〜 さいこ〜〜 じゃ〜〜〜ん♪
リハ―サル後、 タクヤはご〜〜く自然に、を意識しつつ
< 俺のカノジョ > を あれこれ誘ってみた。
「 あ あのさ よかったらお茶してかね?
この近くにさ い〜〜雰囲気のカフェ あるんだ 」
「 表参道にな〜 おっされ〜なカフェ あってさ どう? 」
「 メトロで帰る? 途中さ 青一で降りてさ〜〜 」
「 ありがとうございます ごめんなさい、 また誘ってね 」
にっこり笑いながらも カノジョは帰ってゆく。
「 くっそ〜〜〜 ・・・ なんでかなあ・・・
あ あの親父さん 厳しいのかな。 レッスンが終わったら
すぐに帰ってこい とか・・・ う〜〜ん 」
その後も 彼はめげずにリハーサルの度にいろいろ誘っては
― するり、と逃げられていた。
なんでだよぉ〜〜〜〜 もう〜〜〜
そんなある日 ―
「 タクヤ。 山内クン、ちょっと 」
朝のレッスン後 マダムが彼を呼び止めた。
「 ? なんスか〜〜〜 」
「 あのね ドイツのトモダチからの情報なんだけど ・・・ 」
「 ? 」
マダムはメモを渡しつつ 説明をする。
「 オーディション すか? 」
「 そうよ。 これ 逃すのは惜しいわ。 タクヤなら大丈夫。 」
「 あ〜〜 でも 俺 次のコンサートで ・・・ 」
「 それはまたの機会にして ・・・ ね 受けてごらん
そして ドイツでばりばり踊っておいで 」
「 ・・・ う〜〜ん
「 実はね、もう申しこんじゃった。 がんばれ〜〜 」
「 う〜〜〜〜〜 センセ〜〜〜 」
「 期待してるわヨ 」
「 ・・・ わ ははは ・・・ 」
押しだされる形で受けたオーディションだったが ―
タクヤは見事に合格し いきなりばたばた・・・超多忙な日々となった。
当然 コンサートに出ているヒマはない。
「 ごめん フランソワーズ〜〜 俺 コンサートのパートナーなのに 」
「 あら そんなこと・・・ がんばって!
すごいチャンスじゃないですか ドイツのバレエ団なんて♪ 」
「 う ・・・ ん な、一年経ったらかえってくっから。
待っていてくれるかな〜〜 」
「 はい 勿論。 だから タクヤさんもがんばって 」
「 おう! 」
きんこんかんこん〜〜〜 またしても天使が鐘を鳴らす。
わっほほ〜〜〜 もちろん、だってよ♪
きゃほほ〜〜〜
まっています アナタだけ・・・ なんちっち〜〜〜♪
相変わらず 彼はピンクの妄想を抱き ドイツに向かった。
そして ・・・・
次に バレエ団に戻ってきたとき ― あの彼女はちゃんと いた!
彼はドイツのバレエ団で躍進し、契約期間は三年にまで及んでいた。
もう一年、という要請を丁重に辞退しての帰国だった。
だってさ。 だってさ〜〜〜
彼女は 相変わらずの輝く笑顔、 そして 少しオトナになった雰囲気だ。
「 あらあ〜〜 山内さん お帰りなさい 」
「 わお フランソワーズさん〜〜〜 ♪ 」
「 すごい活躍でしたね〜〜 すごいわあ〜 」
「 いやあ〜〜 」
「 ね 次の公演で よろしくお願いします〜〜 」
「 あ 聞いたよ〜 『 眠り 』 の GPだろ?
こっちこそ お願いします。 久し振りだね 」
「 ええ うふふ〜〜〜 光栄です、 わたし、ガンバリます〜 」
「 ・・・ 」
二人は笑い合い握手をした。
わっはは〜〜〜 やった〜〜〜
『 眠り 』 だけど 王子様〜がんばる!
なにせ < 結婚式のパ・ド・ドウ > だからな〜〜
そんでもって! ばっちり踊ったら。
わ〜〜〜 俺。 言うぞ言うぞ〜〜〜 カノジョに!!
― そう 最近 山内タクヤ君 は滅茶苦茶に張り切っているのだ。
鳥のように 空を飛んでゆく気分 ・・・ そう カノジョの元に ・・・
そして。 タクヤ君は 茶髪の少年 と出会うのであります♪
****************************** Fin.
******************************
Last updated : 09,11,2018.
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************ ひと言 ***********
はい そして 『 王子サマの条件 』 に
続くのであります〜〜〜(*^^*)