『 鳥のように ― (1) ― 』
ふんふんふ〜〜〜ん ♪
山内タクヤ は ハナウタ混じり、ご機嫌ちゃんで道をゆく。
「 ふ〜〜ん ・・・ この辺 すぐ変わるんだな〜〜
あそこの角、 すたばだったっけか?? ふ〜〜〜ん 」
通い慣れたはずの地なのだが 彼はきょろきょろ・・・ 楽し気に
周囲を見回している。
「 ほえ〜〜 あ れ。 ここってふつ〜の家だったよなあ?
へえ〜〜〜 雑貨屋にしたのかあ ・・・ ふ〜〜ん へ〜〜 」
でっかいバッグを背中に スニーカーのカカトをちょいと踏みつぶしつつ
ぶらぶら〜〜〜 歩いている。
ここは都心にほど近い昔ながらの住宅地。
表の大通りからは二筋 三筋 裏に入っているので一般の住宅が多い。
高層マンションは見当たらず、小ぶりなマンションや普通のアパートやら
せいぜいが二階家が並ぶ。
世間様のふつ〜〜の社会は もう活動を開始している時間なので
ヒトの流れは あまり多くはない。
表通りを行き交う車の音も 少しは緩和されている。
「 ふ〜〜ん ・・・ あ〜〜 この雰囲気は変わってね〜な〜〜〜 」
たたたた たたたた ・・・ ! はっはっは ・・・
後ろから 軽い足音と 息づかいが聞こえてきた。
はん? あ ・・・ 誰か遅刻かあ?
必死な音を背中に聞いて タクヤはすこし道の端によった。
「 あ すみません〜〜〜〜 」
たたたた たたたた !!!!
明るい声を残し さ〜〜〜〜〜〜 っと 女性が通り過ぎていった。
タクヤの目に きらり、と輝く金髪と すんなりした手脚が映った。
「 お?? おおお?? 」
彼女は彼を追いこしても スピードをおとさず ・・・ 二つ先の角をまがり
その中に駆けこんでいった。
「 お?? おおおおおおお〜〜〜〜 ?? 」
彼は棒立ちになり 彼女を見送ったが ―
「 お おいおいおい〜〜〜〜 ちょっと待てよぉ〜〜〜〜
じょ〜だんじゃね〜よ ダンサーなのかい?? うっそだろ〜〜 やべ〜〜 」
なにがなんだか自分自身でもよくわからないコトバを発しつつ
タクヤは急いで彼女の後を追い そして 彼自身の目的地へと駆けこんでいった。
「 あ あ〜〜〜? 」
タクヤが飛び込んだとき、 スタジオの玄関ホールは閑散としていた。
「 ? はい〜 なにか ・・・ あれ 山内クン? 」
彼の足音に 事務所のヒトが顔をだした。
「 あ はへ? あ〜〜 サトウさん 」
「 山内くん〜〜〜〜 そっか 帰国したんですね〜〜
マダム〜〜〜 山内クンが〜〜 」
サトウさんは 奥に向かって声を張り上げる。
「 あ・・・ あ〜〜〜 」
「 あらあ〜〜〜〜 タクヤ お帰り〜〜〜
」
「 あ は マダム ・・・ へへへ ただいまっす〜〜〜 」
初老の女性が飛び出してくると がっちり〜〜タクヤをハグしてくれた。
このバレエ団を主宰する女性で 皆に マダム と呼ばれている御仁である。
うっひゃ〜〜〜〜 マダム ぜんぜん変わんね〜な〜〜
こんなに情熱的に女性にハグされることってあるだろうか・・・
彼はとて〜も びみょ〜な気分で < 抱かれて > いた。
「 お帰り。 どう NY は楽しかった? 」
「 はい。 さいこ〜 っす 」
「 よかった! ねえ どうするの? 来季の契約はとってきたの? 」
「 え? あ〜〜〜 俺 また ココで踊りたくてぇ 」
「 え? なに、休暇に戻ってきたんじゃないお? 」
「 え〜〜 ま〜〜 いちお〜 二年の留学期間 +研修一年 クリアしたんで ぇ 」
「 ま〜〜〜 勿体ない。 ま いいわ。
またオーディション受ければいいんだから。 しばらくシゴクからね 」
「 だはは〜〜〜〜 」
「 あ 早く着替えて! 朝のクラス 始めるわよ 」
「 ・・・ へへ あ〜〜 今日は ちょいと見学ってことで ・・・ 」
「 あら。 なに時差ボケ? 」
「 すんません、今朝はやく付いて 家に荷物、置いてきただけなんで 」
「 クラスすれば時差ボケもとんでゆくわよ 」
「 かんべん〜〜〜 」
「 もう〜〜 あ 今 行きますよ〜〜 じゃあちゃんと見学して
明日からは 遅刻ナシ よっ
」
つん! と彼の胸を押すと 初老の女性は靴音たかくスタジオに入っていった。
「 ひゃは・・・ ち〜〜ともかわってね〜な〜〜〜 」
「 山内く〜〜ん 明日からまた ウチにきます? 」
事務所のサトウさんが声をかける。
「 あ はい。 お願いシマス〜〜〜 」
「 ありがと〜〜 それじゃちょっと ・・・ これ 」
「 はへ? 」
「 ごめんなさいね 一応、ウチもバレエ団なんでね。 」
「 あ そですね〜〜 オレ 当分 研究生 でいっす 」
「 あら だめよ。 マダムからも言われてます。
団員として登録させていただきますよ〜〜
若いコたちを引っ張っていってね 」
「 だはは ・・・ 」
簡単な手続きを終えると 事務所を出た。
彼はバッグを背負い直すと ぶらぶら・・・ 廊下を歩いてゆく。
メインの広いスタジオでは 朝のプロフェッショナル・クラスが始まっている。
〜〜〜♪♪ ♪♪♪
「 あっは〜〜 今朝のピアニスト ・・・ 小泉さんかあ 」
懐かしいピアノの音を聞きつつ、廊下側の窓からスタジオを覗いた。
バー・レッスンが終わり、 センターに移り ― アダージオが始まっていた。
ふん ・・・?
お?
あ あの! さっきのオンナノコ ・・・・?
最初は知っている顔を捜すつもりだったのだが すぐに金髪の彼女に目が吸いよせられた。
「 ・・・ かっわいい〜〜〜〜〜♪ 前にはいなかったよなあ〜
びっじ〜〜〜ん♪ ヨーロッパ系かな〜〜
あは 失敗した〜〜 ぉ〜〜〜 悔しそうな顔もい〜な〜〜 」
きんこんかんこん〜〜〜 ♪♪♪
突然 アタマの上で天使が鐘を鳴らした ― とタクヤは直感した。
! お 俺。 出会っちまったんだ〜〜〜
俺の、この山内タクヤさまの 運命の女性 ( ひと ) に!
金髪の天使! 君こそ 俺の運命の相手♪♪
彼の目は完全に < はあと♪ > になっていた。
ある意味、彼の直感は正しかった。
タクヤはここで彼の運命のパートナー と出会ったのだ。
かつて イギリスの名プリマ・バレリーナ、 M.フォンテ―ン が
若き R.ヌレエフ と出会ったように ―
彼は 彼のバレエ人生で最高のパートナーとなる相手と ここで巡り会ったのだった。
・・・ と これは後に思ったことだけど。
その時 タクヤは完全に舞い上がっていた♪
目の前は ピンクのハートでいっぱいなのだ。
「 うっは〜〜〜 ああ はやくクラス 終わんね〜かな〜〜〜
帰りのお茶にさそおっかな 〜〜
表参道のあのカフェ まだあるよな?
『 ねえ きみ。 NYのスタジオとか 行ってみたいと思わない? 』
とか〜〜〜 うっは〜〜〜 」
「 きっとさ〜〜 『 あら NY にいたんですか? 』 とか〜〜
目を丸くして聞いてくるんだよ〜〜〜 可愛いよなあ〜
『 そうさ、 留学してたんだ 』
『 すっご〜い〜〜〜 』
『 いやあ〜〜 やっぱココで踊りたいな〜 って帰ってきたんだ 』
『 すご〜い〜〜〜 』
『 きみはパリからきたの? 』
『 はい。 家族で・・・ 父の仕事の関係で・・・
ホントはパリに残りたかったんですけど ・・・ でも
このバレエ団でレッスンできて よかった〜〜って 』
『 明日からは 一緒だね 』
〜〜〜〜 なんてな〜〜 二人で あつ〜〜く見つめ合うんだぁ〜〜
ひゃっは〜〜〜 うっは〜〜〜 」
「 ? なんか窓の外にヘンなヒトがいるみたいだけど?
皆 〜〜 気にしないように。 」
スタジオの中では マダムのコトバに どっと笑い声があがった。
もう全員が 廊下でにまにま〜 じたばたしているタクヤに気づいていたのだ。
「 よい子はこっちを向いて。 はい アレグロはね〜〜 」
全員が さっと集中した。
はい お疲れさま〜〜 ありがとうございました〜〜〜
レヴェランス と 拍手で朝のクラスが終わった。
マダムが 靴音たかく出てゆくと あとはわらわら〜〜〜〜 ダンサーたちが
スタジオから出てくる。
「 お〜〜 終わったぁ〜〜 あのコ〜〜〜 金髪ちゃん〜
どこだあ?? 」
タクヤはヒトの流れの中で きょろきょろ〜〜 していると。
「 お〜〜〜 タクヤ! お帰り〜〜 」
「 あ トオル先輩〜〜 ども 帰ってきたっす 」
「 タクヤっ!! 」
「 わお マサルぅ〜〜 元気か? 」
先輩やら同僚に取り囲まれ わいわい・・・ やっているうちに
件の金髪乙女の姿は どこにも見当たらなくなってしまった。
「 ・・・あ??? あのコ ・・・・?
あ みちよお姉さま〜〜ん ・・・ 」
彼は小柄で目のまん丸な女性を呼び止めた。
「 なに〜〜〜 タクヤ君! おっかえり 」
「 あは まん丸お目々のみちよ姉さ〜ん、相変わらず元気ですね 〜 あのさ〜 」
「 元気なのはあったりまえよ なに? 」
「 ウン ・・・ あのさ ・・・ 今朝のクラスにさ〜
あの〜〜〜 ガイジンさん いたろ? あの金髪の 」
「 ?? あ〜〜 フランソワーズ? 」
「 そ! そ! その子。 今 着替え中かな〜〜 」
「 もうとっくに帰っちゃったよ 」
「 え? あ バイトとかあるのかな 」
「 彼女 家、遠いから。 」
「 そ なんだ〜〜 ・・・・ ふ〜〜ん ふらんそわ〜ずちゃん かあ
フランスから留学 とか? 」
「 こっちに家族で住んでるよ 」
「 ふ〜〜ん ・・・ 団員? 」
「 いや ウチのこととか忙しいから 今は 準団になってるんだ 」
「 ふ〜〜ん もったいね〜な〜〜 」
「 ま いろいろあるから さ 」
みちよは フランソワーズの仲良しさん、彼女はちゃんと正しい情報を伝えている。
― ただ 受け取る方 が問題なのだが・・・
「 ま〜な〜 」
「 それよか タクヤ。 またここにくるの? 」
「 おう まぜてくださ〜い〜〜 みちよ姉さん〜 」
「 おう いいぜ(^^♪ ね〜〜 夏にさ〜〜 ワークショップとか行きたいんだ〜
NYの事情、いろいろ教えて 」
「 まっかせっとけって。 あ 俺 ちょこっとストレッチでも
してくワ。 ひこ〜きで座りっぱなしで ど〜もな〜 脚が 」
「 ああ そだね〜 じゃ 明日から また! 」
「 おう! 」
カツン。 使ってないスタジオは 妙に広く感じる。
「 ふ〜〜〜ん ・・・ あ〜〜〜 俺 帰ってきたんだア 」
タクヤはスタジオの真ん中にひっくり返り しみじみ〜〜 周囲を見回した。
「 明日っからバリバリやるぞ〜〜 」
反動をつけて よ・・っと立ち上がり そのままバーに脚を預けた。
「 あのコ ・・・ えっと ふらんそわ〜ずちゃん ・・・
幾つくらいかな 俺と同じくらいに見えたけど ・・・
あのコとなら パ・ド・ドウ やりて〜な〜〜〜 ホントはソロで
バリバリ踊りたいけど −・・ 」
ゆっくりプリエをし 脚慣らし。
彼だってプロのダンサーの端くれ、 バーもせずにいきなりグラン・ジュッテを
したり ぶんぶん回転したりは しない。
( これ 当然。 脚や足、腕 は 彼らの大切な商売道具なのだから )
「 あ は・・・。 この床の具合・・・なっつかし〜〜〜
やらかいな〜〜 つかい込んだ木の床・・って ホントいいよな〜 」
トン。 ちいさくジャンプする。
「 ふ ・・・ ん。 そ〜だな〜〜〜
あのコと 『 ドンキ 』 とか 『 海賊 』 いいな〜〜 」
ふんふんふん〜〜〜 男性ヴァリエーションを口ずさんだりする。
「 俺の夢 は さ。 たか〜〜くたかく飛べたらなあ 〜〜 ってチビの頃から
思ってるんだけど。
あんなコと一緒なら 飛べるかもなあ ・・・ 鳥みたく。 」
俺なら やれる。 タクヤはもう期待と妄想でぱんぱんになっていた。
さて その頃。 件の金髪乙女? は すでに車中のヒトだった。
いつも帰路は座れることが多い。
今日も大きなバッグを抱え 彼女は車輛の隅に腰かけていた。
「 ふう ・・・ らっき〜〜〜♪ えっと ・・・
今晩のオカズ ね。 ああ ついでにすぴかとすばるのパンツとシャツ
買って帰らなくちゃ・・・ すぐに小さくなっちゃうんだもの・・・
え〜と 商店街で チキンとセロリ・・・ トマトに ・・・ ふぁ〜〜〜
あ マダムが言ってたコンサートのことも ・・・ う〜〜ん
踊りたいけど ・・・ そんなヒマ あるかしら ・・ ふぁ〜〜 」
かっくん かっくん ・・・
多忙なお母さんは 気持ちよさそ〜〜に船を漕ぎはじめていた・・・
「 はっ はっ はっ ・・・ ! 」
岬の洋館の若奥さん、 いや 地元では すぴかちゃんとすばる君のおか〜さん
と言えば 誰もが分かる その女性は 両手に買い物袋をさげ
背中に大きなバッグをまわし 走ってゆく。
彼女の家は かなり急な坂を登った天辺に建っているのだ。
「 わ〜〜〜 遅くなっちゃったぁ〜〜 商店街でいろいろ・・・
おしゃべりしちゃったからなあ・・ いろいろオマケももらったけど
すぴか〜〜〜 すばる〜〜〜 オヤツ、まってて〜〜〜 」
だだだだ ・・・・ ! 坂を登り門を開け我が家に駆けこむ。
「 ただいま〜〜〜 帰りましたっ 」
「 お〜〜 お帰り。 ? 走ってきたのかね? 」
玄関には 博士がすぐに顔をだした。
「 は はい。 遅くなって・・・ すみません〜〜
チビたち、大騒ぎしてるんじゃ・・・ 」
フランソワーズは靴を脱ぎ買い物袋をもってキッチンにダッシュだ。
「 いや? 居間で楽しく遊んでいたぞ 」
「 え〜〜〜?? 」
島村さんち は 共働き ― ジョーは出版社の編集部勤め
フランソワーズは 所属しているバレエ団でベビークラスを教えている。
「 チビ達は保育園に預けるわ 」
「 あ〜 朝はぼくが送ってゆくよ 」
「 ありがとう! お迎えはまかせて 」
「 よし。 」
二人はそんな子育て計画を立てていたのだが ―
「 お前たち〜〜 ワシがおるよ。 チビさん達の相手くらい できるぞ! 」
博士が 猛然と主張したのだ。
「 え ・・・ あの〜〜 大変ですよ〜〜 」
「 もうね あのコ達、台風ですから 」
「 しかしだな ― ワシにも子育てに少しは参加させておくれ 」
「 あ〜〜 でも博士もお忙しいですよね 」
「 お家でのお仕事だっておありでしょう? 」
「 それは ― そうだが 〜〜 」
「 あ それじゃ 」
「 うん? 」
― 相談の結果 週に二日は博士が子守りを担当 となった。
「 ふふふ・・・ ソファを片寄せてな〜〜 ゴルフ・ボールを
転がして遊んだら もう夢中だぞ 」
「 へ え・・・ すご〜〜い 」
「 うむ 子供の想像力は素晴らしいなあ 」
「 いえいえ 博士の発想ですわ。 ありがとうございます〜〜 」
「 礼などいらんよ チビさん達の笑顔も泣き顔も怒り顔も
ああ もう なんと心を清々しくしてくれることよ・・
疲れなんぞふっとぶ ・・・ 新しい発想も浮かぶ。 」
「 まあ ・・・ 」
「 ワシには大切なエネルギー源なのさ。 」
「 そうなんですか ・・・ あ それじゃ晩御飯、お楽しみになさって?
商店街でね いいチキンがありましたの。 」
「 おおそれは嬉しいなあ〜〜 」
「 うふふ ・・・ 」
家に帰れば < お母さん > として忙しい。
それはそれで大変だけれど 子供たちの笑顔、そして
家族の存在は本当に全てを癒してくれるのだった。
「 ふう ・・・ 」
夜も更けて ― 片づけたキッチンでフランソワーズはそっと
ため息をつく。
ジョーは 遅い晩御飯を終え、今バス・ルームだ。
そのうち彼のハナウタが聞こえてくるだろう。
今日も元気ね ・・・ よかった ・・・
日々、忙しい夫に心配の種は尽きないけれど 本人がとても <いい顔> を
しているので ひとまずは安心、というところ。
「 やれやれ・・・ 明日のお弁当の準備もできたし わたしも寝るわあ・・・
あ そうだわ コンサートの件 決めなくちゃ 」
エプロンのポケットから 今日渡されたプリントを取りだす。
「 う〜〜ん コンサート かあ ・・・・
え
『 チャイコ 』 ・・・?? わたし 踊れるかなあ 」
彼女の所属するバレエ団では 大きな定期公演の他に小さなコンサートも
定期的に開催している。 団員や研究生の勉強会でありソリスト以下の若手が
全員参加する。
彼ら・彼女らは 与えられた演目を必死でこなさねばならない。
( いらぬ注 : チャイコ とは 『 チャイコフスキー・パ・ド・ドウ 』
の略称。 特にストーリーはない踊りだが 女性ヴァリエーションは
めちゃくちゃに アレグロ★ )
「 ・・・ 踊ったこと、ないのよねえ ・・・できるかな ・・・
やってみたいけど ・・・ でもリハで遅くなるのは なあ ・・・
チビ達はまだまだ手がかかるし ・・・ もうちょっと無理かな 」
踊りたい ・・・! ああ でも。
ふう〜〜〜 ・・・ ちょっとため息。
「 やってみなよ 」
後ろから 声が飛んできた。
「 ?? え ジョー ・・・? 」
濡れ髪にバスタオルを被った彼が 立っていた。
「 お風呂、湯加減よかった? 」
「 ウン も〜 最高〜 やっぱさ〜 ぼくってたっぷり湯船に浸かりたいんだ〜 」
「 うふふ・・・ わたしもね、日本式のお風呂が好きなの。
しっかり湯船に入れると疲れがすっきりとれるわ。
チビ達もだ〜〜いすきよ 」
「 そ〜そ〜〜 すばる ってばものすごく真面目な顔してさ
いち に〜 さん ・・・ じゅう ひゃく〜〜 って数えるんだ 」
「 博士にね、百まで数えるんだよ〜って 教わったのよ 」
「 そうなんだ? 可愛いよね 」
「 ええ ええ 」
「 で。 きみ その舞台 やってみなよ 」
「 え えええ??? 」
「 じ〜〜〜っと見てただろ。 そのプリント。
チャンスなんだろ? やってみろよ 」
「 ジョー ・・・・ ありがとう。 でもね ウチはまだ子供たちは
小さいし これ以上博士にお願いはできないわ。 」
「 ぼくが 引き受ける。 」
「 え?? だってお仕事が 」
「 育休、取る。 まとめて、じゃなくて 週二とかで育休を申請するよ。
PCがあるからウチで出来る仕事もあるしね。 編集長にかけあってみる。
博士と協力すれば きみはきっちりリハーサルに出られるだろ 」
「 ・・・ ジョー ・・・ だってそんな 」
「 そんな じゃないよ。 きみにばかりチビ達の世話を押し付ける方が
そもそも問題だ。 っていうか ぼくは好きじゃないんだ 」
「 ジョー ・・・ 」
「 協力しようぜ、003。 きみはきみの望む道をゆけ。 」
「 メルシ、009。 ジョーも、よ。 」
「 うん。 負けないから 」
「 ふふ それでこそ 009 よ。 」
がし。 二人はしっかり腕を組み合った。
定期コンサートのリハーサルは翌週からすぐに始まった。
「 え〜と? リハのヒト、 Cスタで12時からね〜〜 」
クラスの後、マダムのコトバに数人が返事をした。
「 ・・・お。 あ あのコ・・・ リハなんだ?
なに 踊るのかな〜〜〜 見学 いっかな〜〜〜 」
例の 金髪ちゃん を注視していたタクヤは 勿論聞き逃したりはしない。
彼はぶらぶら・・・ Cスタジオを覗きにいった。
「 あ は? 」
「 そうねえ ・・・ メグミ、優雅に。 これはお姫さまなだからね? 」
今 踊り終わったとおぼしき女性は うんうん・・・と頷いている。
「 そこんとこ、よ〜〜く考えてみて。 じゃ 次〜〜 フランソワーズ 」
「 はい! ・・・ お願いします。 」
お。 ばっちしタイミング〜〜〜
タクヤは そそ・・・っと戸口に身を寄せた。
「 音 出します〜〜〜 」
テンポの速い音楽と共に 水色のレオタードが踊りだす。
「 フランソワーズ 遅い! おそ〜〜い〜〜 !
音、音! 音に追いつく じゃなくて 音と踊ってっ 」
「 カカト! 全然ついてないっ ! 速いからって カカトを
つけないのは ダメっ 」
「 もっと音 聞いて。 いい? 」
「 ・・・・ 」
荒い息をしつつ < 金髪ちゃん > はこくこく・・・頷く。
「 じゃ 次のリハまで研究! はい 次、しおり! 」
「 はい 」
小柄なダンサーが踊りだし、 < 金髪ちゃん > は後ろに下がった。
ふ〜〜ん? アレグロはあんまし得意じゃないのかあ ・・・
タクヤはドアの側にへばり付いていた。
「 あ〜〜〜 ふらんそわ〜ず さん ・・・ 」
「 ? はい?? 」
彼女が出てきたとき、 タクヤは勇気を振り絞り! でも 何気な〜〜い風に
声をかけた。
「 あの・・・? 」
「 あ ごめん。 ちょっと見てたんだけど ・・・ 今のリハ 」
「 あ ・・・ ヘタで恥ずかしいです 」
「 そんなことないって。
あの さ。 ぱっと床踏んで その反動でスピードだすんだ 」
「 え ・・・
」
「 やってみ? 」
「 ・・・ こ う・・・? 」
彼女はステップの一つを踏んでみた。
「 ・・・ あ〜〜〜 ?? 」
「 そ〜そ〜〜 そんなかんじ。 音に遅れないぜ 」
「 う わ〜〜〜 すご〜〜い ありがとうございます! 」
「 えへ・・・ これって まあ 慣れ なんだ 」
「 慣れ ? 」
「 ウン。 あは 俺、ジュニアの頃からマダムにしごかれたからさ
特にアレグロはさ〜〜 」
「 そうなんですか ああ 本当にありがとうございます〜〜
えっと ・・・? 」
「 あ 俺、タクヤ。 山内タクヤ。 」
「 タクヤさん。 わたし フランソワーズ・アルヌール といいます 」
「 フランソワーズさん。 『 チャイコ 』 がんばれ〜〜 」
「 ありがとうございます〜〜 」
にこ ・・・ 金髪ちゃん は満面の笑みを浮かべた。
おわ〜〜 かっわいい〜〜〜〜〜〜〜〜
きんこんかんこん〜〜〜〜♪ 再び タクヤの頭上で天使の鐘が鳴った・・・
気がした。
ハナウタ混じりで更衣室に向かっていると ―
マダムが私室のドアから顔をだした。
「 タクヤ。 次のコンサートで GP やってみない?
」
「 へ?? あ はい! 」
「 よし。 あのコ、 フランソワーズと組んでごらん。 」
「 ・・・ !!! 」
わお〜〜〜〜〜〜 やた〜〜〜 ♪♪♪
タクヤは 心の中でも〜最大限の雄叫びをあげていた。
Last updated : 09,04,2018.
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************ 途中ですが
ず〜っと前の拙作 『王子サマの条件』 の
前日談? です☆☆☆
タクヤ君 いいヒトだよねえ ・・・ 続きます☆