『  鳥のように ― (1) ―  』 

 

 

 

 

 

     ふんふんふ〜〜〜ん ♪

 

山内タクヤ は ハナウタ混じり、ご機嫌ちゃんで道をゆく。

「 ふ〜〜ん ・・・ この辺 すぐ変わるんだな〜〜

 あそこの角、 すたばだったっけか??  ふ〜〜〜ん 

通い慣れたはずの地なのだが 彼はきょろきょろ・・・ 楽し気に

周囲を見回している。

「 ほえ〜〜 あ れ。 ここってふつ〜の家だったよなあ?

 へえ〜〜〜 雑貨屋にしたのかあ ・・・ ふ〜〜ん へ〜〜 」

でっかいバッグを背中に スニーカーのカカトをちょいと踏みつぶしつつ

ぶらぶら〜〜〜 歩いている。

 

ここは都心にほど近い昔ながらの住宅地。

表の大通りからは二筋 三筋 裏に入っているので一般の住宅が多い。

高層マンションは見当たらず、小ぶりなマンションや普通のアパートやら

せいぜいが二階家が並ぶ。

 世間様のふつ〜〜の社会は もう活動を開始している時間なので

ヒトの流れは あまり多くはない。

表通りを行き交う車の音も 少しは緩和されている。

 

「 ふ〜〜ん ・・・ あ〜〜 この雰囲気は変わってね〜な〜〜〜 」

 

   たたたた たたたた ・・・ !  はっはっは ・・・

 

後ろから 軽い足音と 息づかいが聞こえてきた。

 

   はん?  あ ・・・ 誰か遅刻かあ?

 

必死な音を背中に聞いて タクヤはすこし道の端によった。

「 あ すみません〜〜〜〜 」

 

   たたたた たたたた !!!!

 

明るい声を残し さ〜〜〜〜〜〜 っと 女性が通り過ぎていった。

タクヤの目に きらり、と輝く金髪と すんなりした手脚が映った。

 

「 お?? おおお?? 」

 

彼女は彼を追いこしても スピードをおとさず ・・・ 二つ先の角をまがり

その中に駆けこんでいった。

 

「 お?? おおおおおおお〜〜〜〜 ?? 」

彼は棒立ちになり 彼女を見送ったが ―

「 お おいおいおい〜〜〜〜 ちょっと待てよぉ〜〜〜〜 

 じょ〜だんじゃね〜よ  ダンサーなのかい??  うっそだろ〜〜 やべ〜〜 」

なにがなんだか自分自身でもよくわからないコトバを発しつつ

タクヤは急いで彼女の後を追い そして 彼自身の目的地へと駆けこんでいった。

 

 

「 あ  あ〜〜〜? 」

タクヤが飛び込んだとき、 スタジオの玄関ホールは閑散としていた。

「 ? はい〜 なにか ・・・ あれ 山内クン? 

彼の足音に 事務所のヒトが顔をだした。

「 あ はへ?  あ〜〜 サトウさん 」

「 山内くん〜〜〜〜 そっか 帰国したんですね〜〜

 マダム〜〜〜 山内クンが〜〜 

サトウさんは 奥に向かって声を張り上げる。

「 あ・・・ あ〜〜〜 」

 

「 あらあ〜〜〜〜 タクヤ お帰り〜〜〜  

「 あ  は  マダム ・・・ へへへ ただいまっす〜〜〜 」

初老の女性が飛び出してくると がっちり〜〜タクヤをハグしてくれた。

このバレエ団を主宰する女性で 皆に マダム と呼ばれている御仁である。

 

   うっひゃ〜〜〜〜  マダム ぜんぜん変わんね〜な〜〜

 

こんなに情熱的に女性にハグされることってあるだろうか・・・

彼はとて〜も びみょ〜な気分で < 抱かれて > いた。

 

「 お帰り。 どう NY は楽しかった? 

「 はい。 さいこ〜 っす 」

「 よかった!  ねえ どうするの? 来季の契約はとってきたの? 」

「 え? あ〜〜〜 俺 また ココで踊りたくてぇ 」

「 え? なに、休暇に戻ってきたんじゃないお? 」

「 え〜〜 ま〜〜 いちお〜 二年の留学期間 +研修一年 クリアしたんで ぇ 

「 ま〜〜〜 勿体ない。 ま いいわ。

 またオーディション受ければいいんだから。 しばらくシゴクからね 」

「 だはは〜〜〜〜 」

「 あ 早く着替えて! 朝のクラス 始めるわよ 」

「 ・・・ へへ あ〜〜 今日は ちょいと見学ってことで ・・・ 」

「 あら。 なに時差ボケ? 」

「 すんません、今朝はやく付いて 家に荷物、置いてきただけなんで 

「 クラスすれば時差ボケもとんでゆくわよ 

「 かんべん〜〜〜 」

「 もう〜〜  あ 今 行きますよ〜〜 じゃあちゃんと見学して

 明日からは 遅刻ナシ よっ  

つん! と彼の胸を押すと 初老の女性は靴音たかくスタジオに入っていった。

 

「 ひゃは・・・ ち〜〜ともかわってね〜な〜〜〜 」

「 山内く〜〜ん 明日からまた ウチにきます? 」

事務所のサトウさんが声をかける。

「 あ はい。 お願いシマス〜〜〜 」

「 ありがと〜〜 それじゃちょっと ・・・ これ 

「 はへ? 」

「 ごめんなさいね  一応、ウチもバレエ団なんでね。 」

「 あ そですね〜〜 オレ 当分 研究生 でいっす 」

「 あら だめよ。 マダムからも言われてます。

 団員として登録させていただきますよ〜〜

 若いコたちを引っ張っていってね 」

「 だはは ・・・ 」

簡単な手続きを終えると 事務所を出た。

彼はバッグを背負い直すと ぶらぶら・・・ 廊下を歩いてゆく。

メインの広いスタジオでは 朝のプロフェッショナル・クラスが始まっている。

 

  〜〜〜♪♪  ♪♪♪

 

「 あっは〜〜 今朝のピアニスト ・・・ 小泉さんかあ 」

懐かしいピアノの音を聞きつつ、廊下側の窓からスタジオを覗いた。

バー・レッスンが終わり、 センターに移り ― アダージオが始まっていた。

 

  ふん ・・・?

 

  お? 

  あ  あの! さっきのオンナノコ ・・・・?

 

最初は知っている顔を捜すつもりだったのだが すぐに金髪の彼女に目が吸いよせられた。

 

「 ・・・ かっわいい〜〜〜〜〜♪  前にはいなかったよなあ〜

 びっじ〜〜〜ん♪  ヨーロッパ系かな〜〜

 あは 失敗した〜〜 ぉ〜〜〜 悔しそうな顔もい〜な〜〜 」

 

 

       きんこんかんこん〜〜〜 ♪♪♪

 

 

突然 アタマの上で天使が鐘を鳴らした ―  とタクヤは直感した。

 

     ! お 俺。  出会っちまったんだ〜〜〜

     俺の、この山内タクヤさまの 運命の女性 ( ひと ) に!

 

     金髪の天使!  君こそ 俺の運命の相手♪♪

 

彼の目は完全に < はあと♪ > になっていた。

 

 

ある意味、彼の直感は正しかった。

タクヤはここで彼の運命のパートナー と出会ったのだ。

かつて イギリスの名プリマ・バレリーナ、 M.フォンテ―ン が

若き R.ヌレエフ と出会ったように ―  

彼は 彼のバレエ人生で最高のパートナーとなる相手と ここで巡り会ったのだった。

 

 ・・・ と これは後に思ったことだけど。

 

その時 タクヤは完全に舞い上がっていた♪

目の前は ピンクのハートでいっぱいなのだ。

 

「 うっは〜〜〜 ああ はやくクラス 終わんね〜かな〜〜〜

 帰りのお茶にさそおっかな 〜〜 

 表参道のあのカフェ まだあるよな? 

『 ねえ きみ。 NYのスタジオとか 行ってみたいと思わない? 』

 とか〜〜〜 うっは〜〜〜 

「 きっとさ〜〜 『 あら NY にいたんですか? 』 とか〜〜

 目を丸くして聞いてくるんだよ〜〜〜  可愛いよなあ〜

 『 そうさ、 留学してたんだ 』

 『 すっご〜い〜〜〜 

 『 いやあ〜〜  やっぱココで踊りたいな〜 って帰ってきたんだ 

 『 すご〜い〜〜〜  』

 『 きみはパリからきたの? 』

 『 はい。 家族で・・・ 父の仕事の関係で・・・

 ホントはパリに残りたかったんですけど ・・・ でも 

 このバレエ団でレッスンできて よかった〜〜って 』

 『 明日からは 一緒だね 』

 〜〜〜〜 なんてな〜〜 二人で あつ〜〜く見つめ合うんだぁ〜〜 

 ひゃっは〜〜〜 うっは〜〜〜 」

 

「 ?  なんか窓の外にヘンなヒトがいるみたいだけど?

 皆 〜〜 気にしないように。 」

スタジオの中では マダムのコトバに どっと笑い声があがった。

もう全員が 廊下でにまにま〜 じたばたしているタクヤに気づいていたのだ。

「 よい子はこっちを向いて。 はい アレグロはね〜〜 」

全員が さっと集中した。

 

 

  はい お疲れさま〜〜  ありがとうございました〜〜〜

 

レヴェランス と 拍手で朝のクラスが終わった。

マダムが 靴音たかく出てゆくと あとはわらわら〜〜〜〜 ダンサーたちが

スタジオから出てくる。

 

「 お〜〜 終わったぁ〜〜 あのコ〜〜〜  金髪ちゃん〜 

 どこだあ?? 」

タクヤはヒトの流れの中で きょろきょろ〜〜 していると。

 

「 お〜〜〜 タクヤ! お帰り〜〜 」

「 あ トオル先輩〜〜 ども  帰ってきたっす 」

「 タクヤっ!!  」

「 わお マサルぅ〜〜 元気か? 」

 

先輩やら同僚に取り囲まれ わいわい・・・ やっているうちに

件の金髪乙女の姿は どこにも見当たらなくなってしまった。

 

「 ・・・あ???  あのコ ・・・・?

 あ  みちよお姉さま〜〜ん ・・・ 」

彼は小柄で目のまん丸な女性を呼び止めた。

「 なに〜〜〜  タクヤ君! おっかえり 」

「 あは まん丸お目々のみちよ姉さ〜ん、相変わらず元気ですね 〜 あのさ〜 」

「 元気なのはあったりまえよ  なに? 」

「 ウン ・・・ あのさ ・・・ 今朝のクラスにさ〜

 あの〜〜〜 ガイジンさん いたろ?   あの金髪の 

「 ??  あ〜〜  フランソワーズ? 」

「 そ! そ!  その子。 今 着替え中かな〜〜 」

「 もうとっくに帰っちゃったよ 」

「 え?  あ バイトとかあるのかな 」

「 彼女 家、遠いから。 」

「 そ なんだ〜〜 ・・・・ ふ〜〜ん  ふらんそわ〜ずちゃん かあ 

 フランスから留学 とか? 」

「 こっちに家族で住んでるよ 」

「 ふ〜〜ん ・・・ 団員? 」

「 いや ウチのこととか忙しいから 今は 準団になってるんだ 」

「 ふ〜〜ん  もったいね〜な〜〜 」

「 ま いろいろあるから さ 」

 

みちよは フランソワーズの仲良しさん、彼女はちゃんと正しい情報を伝えている。

  ― ただ 受け取る方 が問題なのだが・・・

 

「 ま〜な〜 」

「 それよか タクヤ。 またここにくるの? 」

「 おう まぜてくださ〜い〜〜  みちよ姉さん〜 」

「 おう いいぜ(^^♪ ね〜〜 夏にさ〜〜 ワークショップとか行きたいんだ〜

 NYの事情、いろいろ教えて 」

「 まっかせっとけって。 あ 俺 ちょこっとストレッチでも

 してくワ。  ひこ〜きで座りっぱなしで ど〜もな〜 脚が 」

「 ああ そだね〜 じゃ 明日から また! 」

「 おう! 」

 

 

   カツン。  使ってないスタジオは 妙に広く感じる。

 

「 ふ〜〜〜ん ・・・  あ〜〜〜  俺 帰ってきたんだア 

タクヤはスタジオの真ん中にひっくり返り しみじみ〜〜 周囲を見回した。

「 明日っからバリバリやるぞ〜〜  」

反動をつけて よ・・っと立ち上がり そのままバーに脚を預けた。

「 あのコ ・・・ えっと ふらんそわ〜ずちゃん  ・・・

 幾つくらいかな 俺と同じくらいに見えたけど ・・・ 

 あのコとなら パ・ド・ドウ やりて〜な〜〜〜  ホントはソロで

 バリバリ踊りたいけど −・・ 」

ゆっくりプリエをし 脚慣らし。

彼だってプロのダンサーの端くれ、 バーもせずにいきなりグラン・ジュッテを

したり ぶんぶん回転したりは しない。 

 

( これ 当然。 脚や足、腕 は 彼らの大切な商売道具なのだから )

 

「 あ は・・・。 この床の具合・・・なっつかし〜〜〜

 やらかいな〜〜  つかい込んだ木の床・・って ホントいいよな〜 」

 

   トン。  ちいさくジャンプする。

 

「 ふ ・・・ ん。  そ〜だな〜〜〜

 あのコと  『 ドンキ 』 とか  『 海賊 』 いいな〜〜 」

ふんふんふん〜〜〜  男性ヴァリエーションを口ずさんだりする。

「 俺の夢 は さ。 たか〜〜くたかく飛べたらなあ 〜〜 ってチビの頃から

 思ってるんだけど。

 あんなコと一緒なら 飛べるかもなあ  ・・・ 鳥みたく。 」

俺なら やれる。  タクヤはもう期待と妄想でぱんぱんになっていた。

 

 

 

  さて その頃。  件の金髪乙女? は すでに車中のヒトだった。

 

いつも帰路は座れることが多い。

今日も大きなバッグを抱え 彼女は車輛の隅に腰かけていた。

「 ふう ・・・ らっき〜〜〜♪  えっと ・・・

 今晩のオカズ ね。 ああ ついでにすぴかとすばるのパンツとシャツ

 買って帰らなくちゃ・・・ すぐに小さくなっちゃうんだもの・・・

 え〜と 商店街で チキンとセロリ・・・ トマトに ・・・  ふぁ〜〜〜 

 あ  マダムが言ってたコンサートのことも  ・・・  う〜〜ん

 踊りたいけど ・・・ そんなヒマ あるかしら ・・ ふぁ〜〜 」

 

 かっくん  かっくん ・・・  

 

多忙なお母さんは 気持ちよさそ〜〜に船を漕ぎはじめていた・・・

 

「 はっ はっ  はっ ・・・ ! 」

岬の洋館の若奥さん、 いや 地元では すぴかちゃんとすばる君のおか〜さん 

と言えば 誰もが分かる その女性は 両手に買い物袋をさげ

背中に大きなバッグをまわし 走ってゆく。

彼女の家は かなり急な坂を登った天辺に建っているのだ。

 

「 わ〜〜〜 遅くなっちゃったぁ〜〜  商店街でいろいろ・・・

 おしゃべりしちゃったからなあ・・ いろいろオマケももらったけど 

 すぴか〜〜〜 すばる〜〜〜 オヤツ、まってて〜〜〜 」

 

 だだだだ ・・・・ !  坂を登り門を開け我が家に駆けこむ。

 

「 ただいま〜〜〜 帰りましたっ 」

 

「 お〜〜 お帰り。 ? 走ってきたのかね? 」

玄関には 博士がすぐに顔をだした。

「 は はい。 遅くなって・・・ すみません〜〜

 チビたち、大騒ぎしてるんじゃ・・・ 」

フランソワーズは靴を脱ぎ買い物袋をもってキッチンにダッシュだ。

「 いや? 居間で楽しく遊んでいたぞ 

「 え〜〜〜?? 」

 

島村さんち は 共働き ― ジョーは出版社の編集部勤め 

フランソワーズは 所属しているバレエ団でベビークラスを教えている。

「 チビ達は保育園に預けるわ 

「 あ〜 朝はぼくが送ってゆくよ 」

「 ありがとう! お迎えはまかせて 

「 よし。 」

二人はそんな子育て計画を立てていたのだが ―

「 お前たち〜〜 ワシがおるよ。 チビさん達の相手くらい できるぞ! 」

博士が 猛然と主張したのだ。

「 え ・・・ あの〜〜 大変ですよ〜〜 」

「 もうね あのコ達、台風ですから 

「 しかしだな ― ワシにも子育てに少しは参加させておくれ  」

「 あ〜〜 でも博士もお忙しいですよね 」

「 お家でのお仕事だっておありでしょう? 」

「 それは ― そうだが 〜〜 」

「 あ それじゃ 

「 うん? 」

 ― 相談の結果 週に二日は博士が子守りを担当 となった。

 

「 ふふふ・・・ ソファを片寄せてな〜〜 ゴルフ・ボールを

 転がして遊んだら  もう夢中だぞ 」

「 へ え・・・ すご〜〜い 

「 うむ 子供の想像力は素晴らしいなあ 」

「 いえいえ 博士の発想ですわ。 ありがとうございます〜〜 」

「 礼などいらんよ  チビさん達の笑顔も泣き顔も怒り顔も

 ああ もう なんと心を清々しくしてくれることよ・・

 疲れなんぞふっとぶ ・・・ 新しい発想も浮かぶ。 」

「 まあ ・・・ 

「 ワシには大切なエネルギー源なのさ。 」

「 そうなんですか ・・・  あ それじゃ晩御飯、お楽しみになさって?

 商店街でね いいチキンがありましたの。 」

「 おおそれは嬉しいなあ〜〜  」

「 うふふ ・・・ 」

 

家に帰れば < お母さん > として忙しい。

それはそれで大変だけれど 子供たちの笑顔、そして

家族の存在は本当に全てを癒してくれるのだった。

 

 

「 ふう ・・・  」

夜も更けて ―  片づけたキッチンでフランソワーズはそっと

ため息をつく。

ジョーは 遅い晩御飯を終え、今バス・ルームだ。

そのうち彼のハナウタが聞こえてくるだろう。

 

    今日も元気ね ・・・ よかった ・・・

 

日々、忙しい夫に心配の種は尽きないけれど 本人がとても <いい顔> を

しているので ひとまずは安心、というところ。

    

「 やれやれ・・・ 明日のお弁当の準備もできたし わたしも寝るわあ・・・

 あ そうだわ コンサートの件 決めなくちゃ 

エプロンのポケットから 今日渡されたプリントを取りだす。

「 う〜〜ん  コンサート かあ ・・・・

 え   『 チャイコ 』 ・・・??  わたし 踊れるかなあ 」

 

彼女の所属するバレエ団では 大きな定期公演の他に小さなコンサートも

定期的に開催している。 団員や研究生の勉強会でありソリスト以下の若手が

全員参加する。

彼ら・彼女らは 与えられた演目を必死でこなさねばならない。

 

 ( いらぬ注 : チャイコ とは 『 チャイコフスキー・パ・ド・ドウ 』

   の略称。 特にストーリーはない踊りだが 女性ヴァリエーションは

   めちゃくちゃに アレグロ★ )

 

「 ・・・ 踊ったこと、ないのよねえ ・・・できるかな ・・・

 やってみたいけど ・・・ でもリハで遅くなるのは なあ ・・・

 チビ達はまだまだ手がかかるし ・・・ もうちょっと無理かな  」

 

         踊りたい ・・・!  ああ でも。

 

      ふう〜〜〜  ・・・ ちょっとため息。

 

「 やってみなよ 」

後ろから 声が飛んできた。

「 ??  え   ジョー ・・・? 」

濡れ髪にバスタオルを被った彼が 立っていた。

「 お風呂、湯加減よかった? 」

「 ウン も〜 最高〜 やっぱさ〜 ぼくってたっぷり湯船に浸かりたいんだ〜 」

「 うふふ・・・ わたしもね、日本式のお風呂が好きなの。

 しっかり湯船に入れると疲れがすっきりとれるわ。

 チビ達もだ〜〜いすきよ  

「 そ〜そ〜〜 すばる ってばものすごく真面目な顔してさ

 いち に〜 さん ・・・ じゅう ひゃく〜〜 って数えるんだ 

「 博士にね、百まで数えるんだよ〜って 教わったのよ 」

「 そうなんだ?  可愛いよね 

「 ええ ええ 

「 で。 きみ その舞台 やってみなよ 

「 え えええ??? 

「 じ〜〜〜っと見てただろ。 そのプリント。

 チャンスなんだろ?  やってみろよ 」

「 ジョー ・・・・ ありがとう。  でもね ウチはまだ子供たちは

 小さいし これ以上博士にお願いはできないわ。 」

「 ぼくが 引き受ける。 」

「 え??  だってお仕事が 

「 育休、取る。  まとめて、じゃなくて 週二とかで育休を申請するよ。

 PCがあるからウチで出来る仕事もあるしね。 編集長にかけあってみる。

 博士と協力すれば きみはきっちりリハーサルに出られるだろ 」

「 ・・・ ジョー ・・・ だってそんな 」

「 そんな じゃないよ。 きみにばかりチビ達の世話を押し付ける方が

 そもそも問題だ。 っていうか ぼくは好きじゃないんだ 

「 ジョー ・・・ 」

「 協力しようぜ、003。 きみはきみの望む道をゆけ。 」

「 メルシ、009。 ジョーも、よ。 」

「 うん。  負けないから 

「 ふふ それでこそ 009 よ。 」

   がし。  二人はしっかり腕を組み合った。

 

 

 定期コンサートのリハーサルは翌週からすぐに始まった。

 

「 え〜と?  リハのヒト、 Cスタで12時からね〜〜 」

クラスの後、マダムのコトバに数人が返事をした。

「 ・・・お。 あ あのコ・・・ リハなんだ?

 なに 踊るのかな〜〜〜 見学 いっかな〜〜〜 」

例の 金髪ちゃん を注視していたタクヤは 勿論聞き逃したりはしない。

彼はぶらぶら・・・ Cスタジオを覗きにいった。

「 あ は? 」

 

「 そうねえ ・・・ メグミ、優雅に。 これはお姫さまなだからね? 」

今 踊り終わったとおぼしき女性は うんうん・・・と頷いている。

「 そこんとこ、よ〜〜く考えてみて。 じゃ 次〜〜 フランソワーズ 」

「 はい!  ・・・ お願いします。 」

 

    お。  ばっちしタイミング〜〜〜

 

タクヤは そそ・・・っと戸口に身を寄せた。

 

「 音 出します〜〜〜 」

 テンポの速い音楽と共に 水色のレオタードが踊りだす。

 

「 フランソワーズ 遅い! おそ〜〜い〜〜 ! 

 音、音! 音に追いつく じゃなくて 音と踊ってっ 」

「 カカト! 全然ついてないっ !  速いからって カカトを

 つけないのは ダメっ 」

「 もっと音 聞いて。 いい? 」

「 ・・・・ 」

荒い息をしつつ < 金髪ちゃん > はこくこく・・・頷く。

「 じゃ 次のリハまで研究!  はい 次、しおり! 」

「 はい 」

 

小柄なダンサーが踊りだし、 < 金髪ちゃん > は後ろに下がった。

 

    ふ〜〜ん?  アレグロはあんまし得意じゃないのかあ ・・・

 

タクヤはドアの側にへばり付いていた。

「 あ〜〜〜 ふらんそわ〜ず さん ・・・ 」

「 ? はい?? 」

彼女が出てきたとき、 タクヤは勇気を振り絞り! でも 何気な〜〜い風に

声をかけた。

「 あの・・・? 」

「 あ ごめん。 ちょっと見てたんだけど ・・・ 今のリハ 

「 あ ・・・ ヘタで恥ずかしいです 

「 そんなことないって。

 あの さ。 ぱっと床踏んで その反動でスピードだすんだ 」

「 え ・・・  

「 やってみ? 

「 ・・・  こ う・・・? 」

彼女はステップの一つを踏んでみた。

「 ・・・ あ〜〜〜 ?? 」

「 そ〜そ〜〜 そんなかんじ。 音に遅れないぜ 」

「 う わ〜〜〜 すご〜〜い   ありがとうございます! 」

「 えへ・・・ これって まあ 慣れ なんだ  」

「 慣れ ? 」 

「 ウン。 あは 俺、ジュニアの頃からマダムにしごかれたからさ 

 特にアレグロはさ〜〜 」

「 そうなんですか  ああ 本当にありがとうございます〜〜

 えっと ・・・? 」

「 あ 俺、タクヤ。 山内タクヤ。 」

「 タクヤさん。 わたし フランソワーズ・アルヌール といいます 」

「 フランソワーズさん。  『 チャイコ 』 がんばれ〜〜 」

「 ありがとうございます〜〜 」

 

    にこ ・・・  金髪ちゃん は満面の笑みを浮かべた。

 

      おわ〜〜  かっわいい〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 きんこんかんこん〜〜〜〜♪  再び タクヤの頭上で天使の鐘が鳴った・・・

気がした。

 

ハナウタ混じりで更衣室に向かっていると ― 

マダムが私室のドアから顔をだした。

「 タクヤ。 次のコンサートで GP やってみない?  

「 へ??  あ  はい! 

「 よし。 あのコ、 フランソワーズと組んでごらん。 」

「 ・・・ !!! 」

 

        わお〜〜〜〜〜〜  やた〜〜〜 ♪♪♪

 

タクヤは 心の中でも〜最大限の雄叫びをあげていた。

 

 

Last updated : 09,04,2018.                index      /     next

 

 

************  途中ですが

ず〜っと前の拙作 『王子サマの条件』 の

前日談? です☆☆☆

タクヤ君 いいヒトだよねえ ・・・  続きます☆