『 極光 - Aurora - - (1)- 』
「 そうだわ! わたしが替わるわ。 ・・・ どう? 」
フランソワ-ズはぱっとその少女の隣に立った。
「 替わるって簡単に言うけど そんなこと・・・ 第一、ヤツらは彼女のことを 」
「 ええ、教授のお嬢さんってことは知ってるでしょ、でもそれだけよ。
容貌とかまでは詳しく知らないはずよ。 」
「 ・・・ それは そうだけど。 でも・・・ 」
「 ねえ、アルベルト。 グレ-トもどう思う? いいアイディアでしょう。
博士、いかがですか。 」
ジョ-が自分の提案によい顔をしないので、フランソワ-ズは応援を求め、
仲間達をふりかえった。
「 うむ・・・ まあ、それも有効な手だな。 」
「 アルベルト! 」
「 まあまあ、ジョ-。 マドモアゼル? ちとヒネた女学生だが
そこは演技力でカバ-するんですな。 」
「 まあ! グレ-ト! わたし達、そんなに変らないはずよ? 」
ねえ? 、とフランソワ-ズは少女に笑いかけた。
「 え・・・ ええ。 そうです・・・ね。 」
「 ほら・・・ こんなカンジにポニ-テ-ルにすれば。
わたしの方がちょっと背が高いけど・・・ わかりゃしないわ。 」
「 あの。 ・・・私、何が何だか・・・全然・・・
ギルモアのおじ様から連絡を頂いて びっくりして大急ぎで帰ってきたんです。
パパが ・・・ 拉致されたらしい・・・って 」
少女は ただ一人見知っている顔のギルモア博士をじっと見つめた。
「 おお、おお。 シンシアさん。 わしにも何が何だかよくわからんのだ。
あなたのパパを久し振りに訪ねて 研究の事などを話こんでいたら・・・
いきなり妙な男どもが乱入して来ての。
わしの頭を銃の台尻で殴りおった! アチチチ・・・・ 」
ギルモア博士は包帯だらけの頭を押さえて呻いた。
「 博士! 大丈夫ですか。 ああ・・・早く病院へ行ったほうがいいかしら。
これですこし冷やしてください。 」
フランソワ-ズは博士にきつく絞ったタオルを渡した。
「 おお・・・ ありがとうよ。 なに、大丈夫。
それより シンシアさん、あなたはパパの研究について何かご存知か? 」
「 いいえ・・・・ なにも。 パパは私を研究室には入れてくれませんでした。
ギルモアのおじ様・・・! 私、パパさえ無事だったら それで・・・ 」
シンシアと呼ばれた少女は わ・・・っと泣き出してしまった。
「 おちついて・・・・ この者たちがすぐにパパを助けだしてくれるから。 」
博士は少女の肩にそっと手を置いた
「 ミス・シンシア。 どうぞご安心ください。 」
グレ-トが慇懃に述べ、アルベルトとジョ-は並んで力強く頷いた。
「 ・・・ あの。 この方達は・・・? 」
「 なに。 わしの助手達ですよ。
そうそう、このお嬢さんもわしらの仲間でしてね、頼もしい女性です。 」
「 ミス・シンシア。 わたしはフランソワ-ズといいます。 よろしくお願いしますね。 」
「 ・・・ どうぞ、私こそ・・・ 宜しく・・・ 」
「 さあ、それじゃ。 お洋服を取り替えましょう。 わたしがミス・シンシアになりますわ。 」
「 それはいい。 そうして一刻も早くドルフィン教授を助けだすのじゃ。 」
「 では! 失礼してレディ組は着替えてまいります。
シンシアさん? このお家にはあなたのお部屋もあるのでしょう? 」
「 ええ。 私は普段、学校の寮に居るのですが・・・ 家にもいくらか服は置いてあります。
そうぞ ・・・ えっと ・・・ フランソワ-ズさん。 」
二人の娘達は肩を並べて出て行った。
「 なんだか・・・ 気軽に行ってしまったけど。 大丈夫かなあ。 」
ジョ-は女性達の後姿を溜息まじりで見送った。
「 ジョ-? お主はマドモアゼルの事になると やたらと心配性になるんだなあ。 」
「 ・・・ え! いや ・・・ そんな ・・・ 別にぼく達は ・・・ 」
「 ふん。 ジョ-、お前それはもう一種のノロケだぞ? 」
「 ア・アルベルト!! そそそそ そんな ・・・・! ノロケだなんて・・・・! 」
お~お。 毎度飽きもせずに赤くなってるわ!
ったく。 コイツはどういう精神構造をしているんだ!
真っ赤になっている茶髪の青年を もう誰も相手にはしなかった。
「 諸君、女性軍だけに任せておいて・・・本当に大丈夫かね。 」
博士も心配気な様子である。
「 大丈夫ですよ。 ・・・ この脅迫状によればヤツらの目的はドルフィン教授の研究です。
素人には難しい研究を利用するにはドルフィン教授の力が必要ですからな。 」
アルベルトはピン、と手にしていたくしゃくしゃの紙を弾いた。
ドルフィン教授が捨てたらしい用紙の裏に なにやら手書きの文字がのたくっている。
「 警察に通報したら教授の命は保障しない、か。
まったく コレは一種の決まり文句だな。 マニュアル通りってヤツだ。 」
「 しかし・・・そのイルカ先生はどんな研究をしなすっているのです?
・・・ やはり ・・・ サイボ-グ・・・・? 」
グレ-トが博士に低く問いかける。
「 いや。 ドルフィン君は機械工学が専門なのじゃ。 」
「 機械工学、ですか。 それで、その研究とやらは軍事向きの? 」
「 そのへんははっきり教えてはくれんかった。 ただ・・・ 」
「 ただ? 」
「 彼 ー ドルフィン君は戦闘を極端に嫌っておってな。
なんでも昔 ・・・ あのお嬢さんが生まれる前に奥方がテロの巻き添えを喰って
大怪我をしたそうだ。 そしてシンシア嬢が生まれてまもなく亡くなってしまったらしい。 」
「 ・・・ ほう。 それは・・・気の毒ですな。 」
「 うむ。 彼はそんなことを忘れたくていっそう研究に没頭しているようじゃった。
一人娘も学校の寮に預けっ放しだと言っていたよ。 」
「 ・・・ 可哀想に ・・・ 」
それまで黙って話を聞いていたジョ-が ぽつり、と言った。
「 それにしても、あのお嬢さんを一人にはして置けませんな。
ヤツらの手が伸びることも大いに考えられますよ。 」
「 博士。 ぼく達と一緒に ・・・ コズミ博士の家にごやっかいになりましょう。
彼女にはちょっと・・・気の毒だけど。 」
「 うむ。 コズミ君にもちと申し訳ないが・・・ この際それしか手はあるまい。 」
「 そうですな。 多分、次にヤツらは<シンシア嬢>を狙って来ますよ。 」
「 マドモアゼルもそこのトコを見越して 入れ替わりを提案したのだろうな。 」
「 え・・・! そ、そんなコト危ないじゃないか!
フランソワ-ズまで誘拐されたら 大変だよ。 すぐに止めさせなくちゃ!
・・・ わ!? 」
「 みなさん、 いかが? 」
ジョ-が慌ててドアに突進した途端に フランソワ-ズとシンシアが入ってきた。
「 わ・・・ わわわ ! あ・・・フランソワ-ズ! 」
「 どうしたの、ジョ-。 そんなに慌てて・・・ ねえ、どうかしら。 わたしリセエンヌに見える? 」
ポニ-・テイルに髪を結い上げ、ふわりと裾の開いたスカ-トで フランソワ-ズはくるりと回ってみせた。
シンシアは逆に髪を下ろし、フランソワ-ズのベ-ジュのコ-トを羽織っていた。
「 フランソワ-ズさん、とってもお似合いですわ。 わたしが着るよりもずっと ・・・ 」
「 ほほう・・・ マドモアゼル、なかなか見事な着こなしですな。
あとは きみの演技力がモノを言いますぞ。 」
「 脳波通信が不可能な場合には コレを持ってゆけ。 ポイント指示機になっている。 」
アルベルトは自分の時計を外し、フランソワ-ズに渡した。
「 ありがとう、アルベルト。 」
「 ・・・ フランソワ-ズ ・・・ 」
「 あら、なあに、 ジョ-? 」
「 きみ ・・・ 」
「 え? だから なんなの。 」
「 うん ・・・ あの ・・・ きみ、ちゃんと高校生に見えるよ! 」
盛大な吐息とともに ジョ-はしげしげと彼女を眺めている。
「 ちゃんとって。 どういう意味ですか? 島村ジョ-さん! 」
「 あ・・・ いや、その。 あのぅ ・・・・ だからつまり、その~ 」
「 マドモアゼル、じゃなかった、ミス・シンシア?
こんな朴念仁は放っておいて・・・ 我輩がお供しますから、学校の寮まで一旦戻りましょう。 」
「 そうね。 そうして向こうの出方をまちましょう。 きっと どこかで ・・・」
「 左様、左様。 うんと目立つお供になってお送りいたします。 」
グレ-トは大きくウィンクをすると ぽん、と腹を叩いた。
「 あ! ぼくが送ってゆくよ! 運転手兼ボディ・ガ-ドになるし・・・・ 」
ジョ-が慌てて話に割り込んできた。
「 いやいや。 お主はホンモノのシンシア嬢を我らの基地へ、コズミ博士の別邸まで
ご案内してくれたまえ。 これは我輩の役目さ。 」
・・・ 目立つ、ね。 何に変身するつもりだ?
グレ-ト! 酷いよぉ~~~
きゃ♪ 楽しみだわ。 わくわくしてきちゃった。
ジョ-? お留守番、お願いね。 シンシアさんをよろしく御もてなしして頂戴。
・・・ 漫画なんか読んでちゃ ダメよ。
フランソワ-ズまで ・・・ !
「 では <シンシア嬢>しばしお待ちあれ。
ホンモノのシンシア嬢、後ほどまた・・・ お目にかかります。 」
グレ-トはにこやかに会釈をすると、研究室を出ていった。
「 それでは頼むぜ。 きみは シンシア・ドルフィンだからな。
ずっとその方向指示機を追うから、ギリギリまで脳波通信は使うなよ。 」
「 ええ、わかったわ、アルベルト。 」
フランソワ-ズはポニ-・テイルを揺らせて頷いた。
「 危険があったらすぐに通信してくれよ。 加速装置全開で駆けつけるから。 」
「 ジョ-。 わたしのことよりもシンシアさんをお願いするわ。
・・・ あら。 じゃあ、 わたし達、出発するわね。 」
コンコン・・・とドア外側から叩かれた。
フランソワ-ズは軽い足取りで出て行った。
フランソワ-ズ ! 本当に 大丈夫かい?!
ジョ-。 任せてといてよ? あ・・・ ひとつ、お願いしてもいい。
うん! なんだい。
わたしの部屋の枕、 ちゃんと叩いてからお日様に当てておいてくれる?
・・・ あなた、昨夜なぜかしっかり抱えこんで離さないんですもの。
・・・ え ・・・ ? あ・・・ アレ・・・ やわらかくてきみの移り香が・・・ そのぅ ・・・
・・・ もう! 今朝、ぺちゃんこになってたんだから。 お願いね。
う、うん ・・・ 気をつけて。 何かあったらすぐにぼくを呼んで!
わかったわ。 じゃ、ね♪
あら~~~ グレ-ト・・・じゃなかった、えっと・・・ムッシュウ・ホクト?
二人だけの間に開いていた回線を フランソワ-ズはいきなりフル・オ-プンにした。
・・・?? な、なに??
がちゃり、とドアが開いて、フランソワ-ズが美形の青年と一緒に顔をのぞかせた。
「 お友達のホクト・マサナオさんが来てくださったの。 じゃあ・・・ 行って来ます。 」
「 おお・・・ 気をつけてな。 」
「 はい。 じゃ・・・ アルベルト、お願いね。 」
「 了解。 ・・・ふふふ <お友達>のホクトさん、か。 」
アルベルトは博士と顔を見合わせ密かににんまりとしあった。
「 まあ・・・ あの方、フランソワ-ズさんのカレシですか? 素敵 ! 」
「 え・・・! いえ、 あの・・・ そのぅ ・・・ えっとォ・・・ 」
「 フランソワ-ズさん、美人だから・・・・ 美男美女でばっちりですね。 」
「 ・・・ え、ええ・・・ まあ、その・・・ 」
「 ジョ-? お前はシンシア嬢をお連れしろ。 こっちは俺と博士で引き受けた。 」
一人で赤くなりどぎまぎ・うろうろしているジョ-に アルベルトは呆れ顔である。
「 ・・・ そ、それじゃ。 シンシアさん、行きましょうか。 」
「 はい。 ・・・ あの! 」
シンシアは ぱっと博士とアルベルトの前に飛んで行った。
「 パパのこと・・・ どうぞ宜しくお願いします。
・・・ 研究ばっかりのヒトですけど・・・ 私にはたった一人の肉親なんです。 」
「 シンシアさん、 どうぞご安心ください。 」
「 ・・・ 私 ・・・ あんなに綺麗じゃないから。 」
「 え ・・・? 」
ジョ-の出した車の中で シンシアがぽつりと呟いた。
「 フランソワ-ズさんにみたいに ・・・ 私のママみたいに・・・綺麗だったら・・・
パパももうちょっと 気にかけてくれると思うのですけど・・・ 」
「 シンシアさん・・・ 」
ジョ-は助手席の少女にちらり、と目をやったがすぐに前を向いた。
「 シンシアさん。 あの・・・ ドルフィン教授の、お父さんの研究については
本当になにもご存じないのですか。 お父さんはなにもあなたに・・・・? 」
「 ・・・ 知らないわ。 パパは ・・・ ママにはちっとも似ていないわたしになんか
関心はなかったみたい。 自分の研究にいつでも夢中でした。 」
「 そうなんですか。 」
「 ホリデイやヴァケ-ションに寮から帰ってきても パパは研究室にこもりっきり。
・・・ わたし、パパの研究が大嫌いでした。 」
「 ・・・・・・・ 」
「 パパは昔から研究熱心な科学者だったそうですが でも・・・
美人で有名なママと出逢って・・・ 本当に何もかも忘れてしまうほどの熱烈な恋をしたのですって。 」
シンシアは初めて微笑みを浮かべた。
突然の出来事にずっと固い表情をしていた少女は 初めてにっこりと微笑んだ。
この子・・・ 本当はとても可愛いんだ・・・
ただ いつも暗い表情をしているだけだ。 彼女はきっと自分の美しさに気づいていないんだ。
ジョ-は 少女の微笑みをとても美しいと思った。
「 素敵ですね。 あなたはそんなご両親の大切な一人娘さんなのでしょう? 」
「 ・・・ でも。 ママは以前の怪我が原因で私が小さい頃に亡くなってしまいました。
それから・・・ パパはまた研究の、機械の虜になってしまったの。 」
「 機械? 」
「 ええ。 二年くらい前にちらっとだけ見たことがあるの。
・・・ とても大きなフクザツな形をした機械だったわ。 」
「 それで・・・ 博士はなにかしていらしたのですか? 」
「 さあ・・・。 わたし・・・ 機械は大嫌い! パパを私から奪った機械が憎らしいわ。 」
「 ・・・・・・ 」
「 お誕生日でさえ 私はたった一人でケ-キのロ-ソクを吹き消しました。
だから ・・・ 本当はこの自動車だって嫌い。 」
シンシアは俯いて唇を噛んでいる。
彼女はまた、陰気で固い表情の娘に戻ってしまった。
「 ・・・ シンシアさん。 これからぼくらがお世話になっているお宅へ向かいますが・・・
その前にちょっと回り道しませんか。 この辺りはなかなか景色が綺麗なんです。 」
「 え・・・ いいのですか。 」
「 貴女さえよければ・・・。 今はちょうど紅葉が見事な時期ですから・・・ 」
「 わあ、嬉しい! 私・・・ ドライブなんて初めてです。 それもこんな素敵な方と・・・ 」
「 ・・・ え ・・・ そ、そんな。 ぼくは ・・・ ( ドライブ?? う~ん・・・ ) 」
「 ふふふ。 島村さんって実はとってもいいなあ~~って思ってたんです。
でも フランソワ-ズさんの彼氏なのかな~って・・・ 」
「 え! そそそ、そんな。 ぼく達は・・・べつにそのぅ・・・ そんなんじゃ・・・ 」
「 ええ、お仕事の仲間なんでしょ。 フランソワ-ズさんには あのホクトさんがいらっしゃいますものね。
あの方も ・・・ 素敵! 俳優さんかしら? とってもお似合いな二人ですわね。 」
「 は・・・ はあ ・・・・ ( アイツはデベソの禿頭なんだぞ!) 」
「 パパの事が心配だけど。 素敵なデ-トが出来て、幸せです♪ 」
「 ・・・ あ ・・・ はい・・・ ( デ-ト??? ぼく、フランソワ-ズとだってろくに・・・・・)
時間があまりないですから、少しだけですけど・・・ 」
ジョ-は情けない顔で - 山道の方へハンドルをきった。
そもそものコトの起こりは一本の電話だった。
当時、サイボ-グ達はB.G.の追っ手を振り切って日本に辿り着いた頃で、
まだコズミ博士の別邸に住まわせてもらっていた。
「 いつまでも居候はできんからな。 海岸沿いに手ごろな土地があったので購入することにした。 」
外出から帰ったギルモア博士の発言に皆、一様に目を見張った。
ちょうど、夕食前でサイボ-グ達はコズミ邸の居間でてんでに寛いでいた。
「 土地、ですか? 」
アルベルトが本から顔をあげて 博士を見つめた。
「 ああ。 いずれそこにワシの邸を建てようと思う。 諸君らのこの国での拠点として欲しい。
勿論、みな祖国へ戻ってよいのだよ。 ただ、ワシはイワンとこの国に住む。 」
「 ・・・ 博士。 まだそれは先の話です。 B.G.を完全に潰してからでないと
俺たちに安住の地はありません。 」
「 そうですな。 まずはヤツらを叩かねば。 いつ寝首を欠かれるかわからんですから。 」
アルベルトの言葉にグレ-トも頷いている。
「 わかっておるよ。 取り合えず、準備だけじゃ。
そろそろココも引き払わんとな。 我々が居ると周囲の無関係な人々に迷惑がかかる。 」
「 まずはモトを叩かないとね。 僕達の完全な解放はのぞめないですよ。」
ピュンマも口を揃える。
「 ワテはな。 いずれはこの国に中華飯店を開いて一旗あげまっせ。
う~~んと儲けますよってに皆はん、楽しみにしたって。
グレ-トはん、よければ一緒に手っ伝うてくれへんか。 」
「 おう。 我輩にできるコトならなんなりと。 」
「 僕は国に帰る。 祖国の安定が僕の第一目標だからね。 」
「 頑張れ。 ワシも ・・・ 祖国の地に戻る。 」
「 俺もな。 死ぬときはドイツでと決めている。 」
「 ・・・ 時にワカモノたちはどうした? 」
「 赤毛は港街をぶらついてくると出ていってが。 ジョ-とフランソワ-ズは家にいるだろう? 」
「 うん、ジョ-はさっき洗濯モノを取り込む手伝いをしていたよ。 」
「 ははは・・・ 奴さん、もう尻に敷かれているのか。 」
「 ふ~ん・・・ やっぱり? 」
ピュンマはくるり、と目を回してグレ-トを見た。
「 ああ。 でもな、ちょいとそのネタでからかうと奴さんはすぐ真っ赤になって ・・・ 」
「 『 ぼくたちはべつに そんな ・・・ 』 だろ? 」
「 当たり! 」
「 なんじゃ、やはりそうじゃったのか。 うむうむ・・・ 」
ギルモア博士の笑顔に 皆も久々に声を上げて笑った。
「 ところで・・ ワシは明日、ちょいと昔の知り合いに会って来る。
ドルフィン教授と言って・・・ ヨコハマに住んでおるでの。 」
「 ジョ-に車で送らせましょうか。 」
「 いやいや・・・ ワシの私用じゃ。 諸君らは自由に過したまえ。 」
博士は上機嫌だった。
「 ジョ-。 もっと引っ張って。 ほら・・・ 反対側がシワシワでしょう? 」
「 う・・・ うん ・・・ 」
「 いい? こっち側を挟んで それから。 」
「 えっと・・・ これでいい? 」
「 ええ。 オッケ-よ。 ね? 綺麗にベッド・メイキングできたわ。 」
「 うん。 すごいね~ フランソワ-ズ、君ってなんでもできるんだね。 」
「 ベッド・メイキングくらい誰でもできるわよ。 」
「 ううん、それだけじゃなくて。 料理も・・・この前ぼくのシャツ、繕ってくれたし。
器用なんだね。 」
「 ・・・ わたしの時代には何でも自分の手でやったもの。 今と違って・・・
ふふふ ・・・ おばあちゃんは何でもできるのよ。 」
「 ・・・ フラン ・・・ 」
「 ・・・ なに。 ( ・・・ あ ・・・ ) 」
顔をあげると、意外な近さにジョ-のセピアの瞳があった。
いつも穏やかな表情の彼が ・・・ 今は笑っていなかった。
「 なあに、なんの用? ・・・ ベッドは綺麗になったし。
あ、洗濯モノ、畳むの手伝ってくれてありがとう。
・・・ じゃあ ・・・ おばあちゃんは退散するわね。 」
「 フランソワ-ズ・・・ 」
「 ・・・ だからなにって・・・・ きゃ・・・ 」
ジョ-はじっと彼女の顔を見つめていたが、いきなり彼女を抱き寄せた。
「 ・・・ きみは ・・・ 素敵だ! 」
「 ・・・ ジョ- ! やめ ・・・ て ・・・ 」
「 やめない。 ぼく・・・ きみのこと・・・ 」
「 ・・・ あなた、随分を年上趣味なのね? マザコンじゃないの。
・・・ あら、あなたのママンよりも ・・・ もっと上よねえ? 」
「 フラン・・・! 」
「 あ ・・・ なにを ・・・ ぁ ・・・ 」
ジョ-は自分の唇でフランソワ-ズの唇を封じた。
冷たい唇が 次第に潤び暖まり緩み ・・・ かすかに開いた隙間から
ジョ-は少々強引に侵入した。
・・・ ジョ- ・・・! や ・・・ め・・・て・・・・
やめない。
フランソワ-ズ。 ぼくは 今、ここにいる君が ・・・ 好きだ。
・・・ だから こんなおばあちゃん ・・・ あ ・・・ああ ・・
そんなこと、言わなくていいよ。 ぼくはこの君が好きなんだから。
・・・ ジョ- ・・・
フランソワ-ズの舌がおずおずとジョ-に絡まる。
ジョ-はさっぱりと綺麗になった自分のベッドに 彼女の身体に腕を回してそっと腰を下ろした。
「 ・・・ごめん、急に。 でも。 ウソじゃない 」
「 うん ・・・・ 」
「 ふふふ ・・・ こんな時って ・・・ サイボ-グでよかったなって。 」
脳波通信じゃないと言えないよな~・・・とジョ-はぼそぼそと呟いた。
「 ジョ- ・・・。 ありがとう。 わたし・・・ 」
「 ぼく、ずっと・・・ あの、一緒に来てって言ってくれた時から ・・・ そのぅ・・・ 」
「 ・・・ わたし・・・ 今のわたしを嫌いだったの。 大嫌いだったわ・・・ 」
「 フランソワ-ズ ・・・ 」
「 ・・・ でもね。 」
フランソワ-ズはジョ-の腕の中から彼をじっと見上げた。
そして。
「 たった今、大好きになったの。 ・・・ ジョ-が好きって言ってくれたから。 」
彼女の顔に 微笑みがぱあ・・・っと拡がった。
- ・・・ 花が咲いたよう、って・・・・ こういうコトをなんだ・・・
それは ジョ-が今まで見たどんな花よりもどんな宝石よりも美しく輝いていた。
「 フランソワ-ズ・・・! きみって ・・・ 」
ジョ-は自分が抱き締めているヒトを 誰よりも何よりも愛しいと思った。
ぼくが。 ぼくが護る! この ・・・ きみの笑顔を!
ぼくは 命に代えても護るから・・・!
彼の腕に力がこもる。
ジョ-は彼女の亜麻色の髪に顔を埋め、すこしピンクにそまった耳朶に口付けをした。
そして ・・・ 熱い息をとともに囁いた。
「 ・・・ いい、かな。 」
「 ・・・ え ・・・ ええ・・・。 」
ジョ-はそのまま ― フランソワ-ズを腕に抱いたままそっとベッドに倒れこんだ。
「 ごめん ・・・ 急に ・・・ でも本当にずっと・・・きみのこと・・・ 」
「 ・・・ わたしも。 ジョ- ・・・ わたしもなの ・・・ 」
熱い囁きが 今度は彼女の唇からそっと漏れた。
「 ・・・ ああ! きみは 素敵だ・・! 」
ジョ-は彼女のボウ・タイをそっと引っ張って解いた。
はらり・・・とブラウスの前が開き、白いラジェリ-が顔をのぞかせる。
さわさわさわ ・・・・
秋の夕方の風に 色褪せた葉が舞い落ちる。
あ・・・ カ-テンしめなくちゃ ・・・
ジョ-はちら・・・っとそんなことを思ったが ・・・
「 わっほ~~~い!! みんな ~~~ 晩御飯アルよ~~~ 」
ジャンジャンジャン!!!
お玉が中華なべの底を賑やかに叩いている。
「 ・・・ あ。 ・・・ まだ そんな時間だったんだ ・・・ 」
「 ま ・・・ あ ・・・・。 」
「 ごめん・・・ ぼく、晩御飯よりもきみの方が・・・ 」
「 ・・・ ジョ- ・・・ 」
ぐ~~う・・・・ きゅるきゅるきゅる・・・・
ジョ-のお腹が派手に悲鳴を上げた。
「 あ・・! ごめん! あの ・・・ そのぅ・・・ 」
「 ふふふ・・・ ジョ-? あなたのお腹の方が正直みたいよ? 」
フランソワ-ズはゆっくりと身を起こした。
「 ・・・ ごめん ・・・ 」
「 いいの。 ・・・ また ・・・ 今度。 ね? 」
「 ・・・ あ ・・・・ 」
すばやく彼の唇にキスを落とすとフランソワ-ズはさっと襟元を調えた。
「 さあ。 お食事よ? 」
「 ・・・ うん。 行こうか! 」
ジョ-はフランソワ-ズに腕を差し出した。
「 ええ。 」
フランソワ-ズはその腕に白い手を絡めた。
二人は微笑みを交わし、腕を組んだまま食堂へと降りていった。
「 ・・・なにか、わたしの顔についていますか、サ-? 」
「 え ・・・おお、これは失礼をば、マドモアゼル。
いや~~ こんなに綺麗なお嬢さんだったかと・・・改めて感服の至りでして・・・ 」
グレ-トは相変わらず大仰な身振りでフランソワ-ズに会釈をした。
「 あら・・・ まあ。 ありがとうございます。 」
フランソワ-ズはほんのりと微笑んだ。
・・・ ほう? どうした、フランソワ-ズはまるで別人みたいにじゃないか。
アルベルト? お主に似合わずカンが悪いな。
え・・・ああ! なるほどね。 愛情に勝る美容師ナシってことだね~
ピュンマ、なかなか鋭いぞ。
・・・ あの坊や、やっと<手を出した>ってワケか。 ふふふ・・・
<<<< ジョ-! やったな♪ >>>
「 ・・・ わ ・・! 」
「 どうしたの、ジョ-? なにか・・・? 」
「 ・・・え ・・・あ! ううん、ううん。 なんでも・・・ちょっと急に・・・そのう、耳鳴りが・・・ 」
「 耳鳴り? あら、良くないわね。 博士に診ていただいたら? 」
「 え、あ、もう大丈夫だから! うん・・・・ もう 全然。 」
「 そう? 本当に大丈夫? 」
「 うん! さ、そんなコトより御飯、御飯! ご~はんだごはん~~だ♪ 」
フランソワ-ズを除く全員からの通信が一度に頭の中で鳴り響き、ジョ-は一瞬眩暈まで覚えた。
・・・ ひどいよ~~~ 皆~~~!
「 おや、島村クン。 どうかしたかね? 」
「 ふ~ん ・・・ なんだか顔が妙に赤いよ? 熱でもあるんじゃないかな。 」
「「「 今夜は 大人しくしていたほうがいいぜ 」」」
「 ・・・・ ご心配、ありがとう・・・! 」
あっはっは・・・! 我らがマドンナを宜しく頼むぞ。 このヤロウ!
「 ・・・え あ・・・ どうも・・・ 」
「 ?? ジョ-・・・ ほんとうに大丈夫? 」
「 ・・・あ? うん ・・・ あの~ うん! 大丈夫!! 」
ひとりで赤くなってどぎまぎしているジョ-を フランソワ-ズは心配顔で眺めていた。
かさかさかさ・・・
風もほとんどないのに、色づいた葉が微かな音をたて舞い落ちる。
緑したたるこの地方の野山も、 華麗な色彩の時を経て次第に岱赦色にかわり始めていた。
翌日は 朝から雲が厚く垂れ込め、大気はひんやりと湿り気を帯びていた。
ピッ・・・・ カツッ!!
コズミ邸の広い庭に、鋭い音が響き ・・・ 時折人影が動く。
よくよく見れば、その人物の行動に 人々は仰天するはずである。
そのオトコは 自分自身の指を飛ばし、降り注ぐ落ち葉を射止めていたのだ。
・・・ ピチ!
飛ばした指を樹から抜き取っては何気なく、また手にはめ込む。
オトコは銀髪を一筋も乱れさせもせずに、淡々と・・・ そう、まるでゲ-ムを楽しむ雰囲気で
落ち葉の相手をしていた。
街外れのこのあたりに人影はなく 見咎めるヒトもいない。
ピッ ・・・ !
またオトコの指が飛んだ。
「 ジョ-? そろそろお茶の時間だから・・・ 準備を手伝ってくださる? 」
「 うん、いいよ。 」
「 今日はね、ジンジャ-・ビスケットを焼いたの。 」
「 わあ・・・ さっきからいい匂いがしてたの、コレだったんだ~~ 」
「 なかなかの出来栄えだと思うんだけど・・・ 皆、いるわよね? 」
「 え~っと。 あ、張大人が買出しからまだ帰ってないな~ 運転手兼荷物もちのジェットも。 」
「 あら、そう。 博士は ・・・ 夕食もいらないと言っていらしたから・・・
いいわ、先にわたし達だけで頂きましょう。 」
「 うん! ・・・ ねえ、フラン・・・ 」
「 なあに・・・ きゃ・・・ 」
「 んん~~んん ・・・ 御馳走様♪ これは お味見~~
・・・ ねえ。 お茶の前に ・・・ きみを食べたいな~~♪♪ 」
「 ジョ-ったら ・・・ 昼間っからダメでしょ。 お行儀よくしてちょうだい。 」
「 ずっとお行儀よくしてます。 ご褒美をくれてもいいだろ? ・・・・ ねえ? 」
「 ・・・ ん ・・・ あ ・・・ん♪ ・・・ <お味見>だけよ。
・・・ 夜まで待って。 」
「 ま ・ て ・ な ・ い ・・・ ! 」
「 きゃ・・・ ねえ、ダメだってば・・・ こんなトコで・・・ キッチンなんていつ、誰が・・・あ ・・・ん 」
「 大丈夫。 アルベルトは庭だし、あとは皆自分の部屋に篭っているもの。 」
「 ・・・ ここじゃ・・・イヤ。 」
「 じゃあ ぼくの部屋は ・・・ ふふふ、昨夜は使ってないから♪
昨日、きみがきちんとベッド・メイキングしてくれたままだよ。 」
「 ・・・ いいわ・・・ でも。 お茶が終ってからにして。 ・・・ね? 」
「 え~~ ・・・ う~ん・・・ じゃあ、もう一口 お味見~~♪♪ 」
「 ・・・ん ・・・ や・・・ ジョ-ったら ・・・だめ・・・ 」
TRRRRRR・・・ ! TRRRR・・・・ !!
「 あ、電話よ? ・・・誰かしら。 」
「 ・・・ ちぇ! ・・・ ねえ、この続きは、ね♪ 」
ジョ-はしぶしぶフランソワ-ズを離し、キッチンに続く居間にとんで行った。
「 ・・・ もう、ジョ-ったら・・・! 」
フランソワ-ズはスカ-トの裾を直し、ブラウスのボタンを填めた。
ほんのり火照った頬が ・・・ 熱い。
やだわ。 わたしったら・・・
ジョ-のこと ・・・ 待ってた・・・の ・・・?
ふう・・・
自分でもよくわからない吐息が キッチンの壁を立ち昇る。
フランソワ-ズは 今まで知らなかった自分自身にまだ驚いている最中なのだ。
わたし ・・・ わたしって こんな女だったのかしら・・・
「 ・・・ 大変だ! フランソワ-ズ! すぐ支度して! 」
ジョ-が居間から大声で呼んだ。
「 ジョ-?! どうしたの? 何の、誰からの電話だったの? 」
「 ギルモア博士から! 急いで来てくれって! 」
「 来てくれって・・・ 博士は確か・・・ ヨコハマのお友達を訪ねて・・・ 」
「 うん、ドルフィン教授の家さ。 なにか、あったらしいんだ。 」
「 まあ。 あ、皆を呼んでくるわ。 」
「 頼むね。 ぼく、車を出しておくから。 」
「 了解! 」
そうして。
ジョ-とフランソワ-ズは ピュンマ達に留守部隊を頼み、アルベルトとグレ-トの
応援を得てヨコハマまで駆けつけたのだった。
「 博士・・・ 本当に大丈夫ですか。 」
フランソワ-ズは<シンシア嬢>となり出かける間際まで ギルモア博士を気遣ったいた。
ギルモア博士は漢に頭を殴られていて、駆けつけたジョ-達を仰天させたが
いたって元気な様子だ。
「 なに。 ちっと派手に血は出たがな。 この石頭は少々の事では参らんよ。
それより・・・フランソワ-ズ、充分に気を付けるんじゃぞ? 」
「 はい、では行って来ます。 」
「 うむ。 」
「 ・・・ あんなに綺麗な娘じゃったか ・・・ のう? 」
博士は相好を崩しつつ、フランソワ-ズを見送った。
緊迫した空気の中で、皆が彼女の輝く笑顔にほっとする思いだった。
居残り部隊がコズミ邸に戻ってまもなく。
・・・ジョ-! 予定通り、ヤツらが現れたッ !!
グレ-トから脳波通信が全員のチャンネルに飛び込んできた。
「 よし。 行動開始だ。 」
アルベルトの言葉に全員が力強く頷いた。
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updated : 05,01,2007.
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***** 途中ですが・・・・
・・・すみません、また終りませんでした~~ (泣)
このお話、旧ゼロでも平ゼロでも取り上げられていますよね。
暗いカンジで終始してしまうのが辛くて・・・
へへへ・・・また捏造してしまったです(^_^;) → そうだったらいいのにな~♪ 編です。
( 勿論! フランちゃん参加型~~ )
お宜しければあと一回お付合いくださいませ。 <(_ _)>
ところで。 原作初期のミッションって 4&7&9 ・・・ ってパタ-ン、多いですよね?