『 りんごの唄 ― (1) ― 』
― なんて ・・・ 青いのかしら ・・・・
フランソワーズはキッチンの窓から 溜息と一緒に空を見上げた。
つーんと澄んだ大気の中、太陽が惜しみなく光を撒き散らせている。
そしてそのうしろには ― どこまでもどこまでも青い空が広がる。
・・・ きれい ねえ ・・・ !
彼女は飽くことなく 冬の空を見つめていた。
あ。 りんご。 りんごが食べたいな・・・
ふっと、なんの脈絡もなくそんな言葉が口から零れた。
くす・・・。 自分自身が可笑しくて・・・ 彼女は小さく笑って また 空を見上げた。
ここは海に突き出た崖、 そのまた突端にひろがる小台地に建つ洋館。
つい この前の秋の終わりに移り住んだ。
引越しのゴタゴタも何とか終わり、ようやく静かな日々が流れ始めている。
季節は 気がつけばいつの間にか冬になっていた。
フランソワーズは初めての異国の冬がもの珍しく、毎日目を見張りっぱなしである。
その場所にはもともとある画家の別荘が旧い廃屋となり残っていた。
ギルモア博士はその廃屋ごと 岬一帯の土地を購入した。
「 ・・・ え。 そんな広い土地を ですか。 この国は大層土地が高いと聞いていますが。 」
アルベルトが かなり真剣な顔で博士に訊ねた。
ゼロゼロ・メンバーの中で最後に帰国する手筈となり、彼もやっと重い腰を上げた。
EUのパスポートをイワンに調えてもらえばすぐにでも帰国は可能なのだが・・・・
彼は彼なりに まったく変ってしまった祖国への複雑な想いがあるのだろう。
もっともアルベルト自身に言わせれば・・・
「 老人とオンナ子供だけになるんだぞ? いろいろと ― ちゃんと見届けんとな。 」
博士達の日本での暮らしが軌道に乗るまでとても心配で帰国なぞできない・・・ が彼の言い分だった。
「 あ〜ら。 オンナ子供 だけで悪うございましたわね。 わたしだってゼロゼロ・ナンバーの一員よ!
それにイワンがいれば 大丈夫。 」
「 そやそや。 それになァ ワテらがいまっせ。
ココはヨコハマから近いよってナンかあったらすぐに駆けつけますがな。 」
「 左様 さよう〜〜 アルベルト、お主 意外と心配性なのだな。 」
在日組の 大人とグレートがまぜっかえす。
「 その <何か> が起きたらこまるんだ! なにせ 今度の邸にはオンナ子供 ― 」
「 ・・・ あのう・・・ アルベルト・・・?
ぼ ぼくも一応・・・ 一緒に住まわせてもらうことになっているんだけど。 」
ソファの隅で 大人しくコーヒーを飲んでいたジョーがおずおずと口を挟んだ。
「 んん? ああ ジョーか。 おお ちゃんと判っているさぞ。
だから言っただろ、 オンナ・子供 ってな。 ボウヤ。 」
「 ・・・あ ・・・は・・・ ( がびん・・・ ) 」
正真正銘の 18歳 はいかに最強のサイボーグ・・・とはいえ、人生経験からいえば諸先輩には
到底太刀打ちはできない。
ジョーはすみっこで < オトナたち > の話し合いを拝聴していた。
博士は相変わらず悠然とパイプを燻らせている。
「 なに・・・ あそこら辺りはな、辺鄙な場所じゃで、二束三文じゃったよ。
ま、 コズミ君のお口添えもあったからのう・・・ 」
「 ほっほ・・・・ 地元の不動産屋もな、 あの岬の土地は持て余しておったようでの。
買い手がついて願ったり叶ったりらしい。
地元の自治体も ヒトが住んでくれれば防犯上も御の字らしいですぞ。 」
「 いやあ〜 それにしてもコズミ君が間に入ってくれての、万事巧くいったよ。
ほんに 世話になりましたなあ。 」
「 なんのなんの・・・ギルモア君。
ワシとしては 諸君らが近所に住んでくれれば楽しくていいですなあ。
のう、アルベルト君? どうかね 一局 ・・・」
コズミ博士は ぱちり、と碁石を打つ手振りをした。
「 そりゃ・・・ 俺もこっちに来た時には コズミ先生、いつでもお相手しますぜ。 」
「 ここにはずいぶん以前に 画家のアトリエ兼用の別荘があったと聞いておる。
ま ・・・ 風光明媚な土地で周囲に民家がない・・・となれば わしらには最適じゃよ。 」
「 まあ それはそうですがね。 」
「 邸の建築は信頼のおける業者に頼んだよ。 内部のことはおいおい・・・ワシらで手がけよう。
いずれは地下にドルフィン号の格納庫も必要じゃしな。 」
「 へえ ・・・ すごいですね・・・! 」
ジョーが遠慮がちに口を挟む。
「 ああ。 ジョー、お前にもいろいろ手伝ってもらうぞ? ここはお前の 家 なんだからな。 」
「 あ ・・・ はい! 」
嬉しそうな彼の返事に 皆 なにかほっとした面持ちだった。
「 ・・・ キッチンとかも ・・・ あります? 」
ずっと聞き役に徹していたフランソワーズが 初めて口を挟んだ。
「 普通に生活するのなら・・・ 必要ですよね。 」
「 ああ 勿論。 ごく普通の ― ワシらの 家 じゃよ。
キッチンやランドリー・ルームは フランソワーズ、お前が好きに注文したらいい。 内装は任せるよ。 」
「 ・・・ はい! 嬉しいわ・・・ 」
「 諸君らがいつ帰ってきてもいいように ・・・ みんなの私室も準備するぞ。
ここをワシらの本拠地にしよう。 」
「 はい! ・・・ なんだか・・・嬉しいな。 」
「 本当ね! あの・・・ジョー? いろいろ・・・教えてね。 お買い物のこととか・・・
この辺りでは どこでどんなモノを売っているのか全然わからなくて。 」
「 オッケー。 えへへ・・・ ぼくがきみに教えられるのはそんなことくらいだけど・・・ 」
「 いやいや・・・ ジョー君? この家では君が皆の指南役だぞ?
この国で なめらかに生活できるよう、いろいろ助言をたのみますぞ。 」
「 は ・・・はい、コズミ先生。 ぼくで役に立つことがあるならなんでも! 」
ジョーは とっても嬉しそうだった。
こうして ― 華麗に色づいた裏山の紅葉たちが散り果てる頃、
少し古びた感じに屋敷はできあがり、 ギルモア博士とイワン、そしてジョーとフランソワーズは
ひっそりと暮らしはじめた。
「 あ ・・・ 買い物ならぼくが行ってくるよ! 」
「 ・・・ ジョー。 」
フランソワーズが 玄関で靴を履いていると ジョーがどたどた・・・階段を降りてきた。
ジャンパーに腕を通しつつ、引き摺っているマフラーを巻きつけたり ― どうやらあわてて部屋から飛び出してきたらしい。
「 今日はなに? リストをくれたら全部買ってくるよ〜
昨日、博士が改良自転車を完成してくださったから・・・・ 試運転も兼ねてひとっ走りしてくる♪ 」
「 あ あの。 今日はね・・・ 」
「 うん なに? ジャガイモでもミカンでも・・・箱で買ってこようか〜 今、美味しいよね!
嵩張るものもオッケーだよ。 荷台がね、こう・・・拡大するんだ。 」
「 あ ・・・ あのね。 今日は わたし ・・・! 」
「 ・・?? きみ・・・・??? 」
「 そうよ。 あの ね。 今日はわたしもお買い物に行きたいの。
ジョー・・・ 一緒に連れていってくれる・・・? 」
大きな碧い眼を 精一杯見開き、 彼女はじ・・・っとジョーを見つめている。
うわ・・・! か ・・・ かっわいい・・・・!
フランソワーズって・・・ こんなに可愛いかったっけ・・・??
いつでもしっかりした端正な美人 ― 彼女についてはジョーはそんな第一印象がまだ抜けきってはいない。
きりっと顔をあげ、かっきりと前を見つめている ・・・つよい女性 ( ひと ) ・・・ そんな彼女をずっと
憧憬の目で見てはいたけど ・・・ 少しばかり恐かった。
だってさ・・・ なんだか・・・近寄り難い・・・って気もして・・・
でも ・・・でも すごく気になるんだ・・・
ジョーは 気がつけば彼女を追っている自分に ようやく <気付き> はじめていた。
それに ― 前の冬 ・・・
イブのパリで垣間見た、活き活きした彼女の表情、そして ・・・ 涙 ・・・
それは深くジョーの心に沁み入り 以来 彼はぐんぐんこの碧い瞳の乙女に魅かれてゆく。
しかし サイボーグ戦士の先輩として彼女から教わらねばならないコトは山積みで、
彼女と <個人的なハナシ> を交わすヒマなどほとんどなかった。
それが 今 ― こうしてひつと屋根の下に暮らし、ゆったりとした時間が流れる日々となり
彼はますます彼女への想いを募らせていた。
で でも・・・ ぼくなんて 相手になんかならないんだろうなあ・・・
年下・・・なんてシュミじゃないっぽいし・・・
そっと溜息をちらばし隠す日々 でもあった。
「 ・・・ あ あの。 邪魔だったら・・・遠慮するわ。 ごめんなさい ・・・ 」
「 あ ・・・え ううん ううん!! ジャマだなんてそんなこと!
うん 一緒に行こうよ! ・・・ そうだ、ね・・・後ろに座ってくれる? 」
「 ・・・ 後ろ・・・って。 その自転車の、うしろ? 」
「 そう。 あ! アレじゃ・・・痛いよなあ〜・・・ちょっと待っててくれる? 」
「 え・・? 」
ジョーは彼女の返事を聞かずに 再びどたどた・・・階段の駆け上がっていった。
「 ・・・?? なんだか よく・・・わからないヒトね・・・? 」
「 オッケー〜〜 それじゃ ・・・ 出発〜〜♪ しっかり捕まってなよ〜 」
「 はいっ ! 」
チリリリ −−−−ン ・・・!
いとも爽やかで ― かなり牧歌的な? 音をひびかせ、銀色の自転車は勢いよく 急坂を降りていった。
セピアの髪をなびかせ、満面の笑顔の少年と
彼の背中にしっかりしがみついている亜麻色の髪の美人を乗せて・・・・!
美人のオシリの下には ジョーが持ってきた座布団が荷台に括り付けられている。
「 さあ〜〜〜 行くぞ〜〜〜〜 ♪ ひゃっほ〜〜〜 !! ( やったあ〜〜♪ ) 」
「 ・・・・・・・・・ !! 」
最強最新のサイボーグは 歓声をあげつつ町へと出かけていった。
― なんて・・・ なんて明るいの・・・! もう真冬なのに・・・
自転車の後ろで 海からの風をいっぱいに受けフランソワーズの目をはず〜っとまん丸だった。
家でもずっと この国の <明るい冬> に驚いていたのだが・・・
今 左にゆるやかにたゆたう海を眺め きらきらした日の光を全身に浴び、彼女は歓喜に浸った。
・・・ 素敵・・・! お日様がこんなに・・・いっぱい!
しっかりつかまっていた片手をはなし 眩しい日光を遮ってみる。
「 ・・・? どうか したかい。 」
ジョーが声をかけてきた。 背後で動く気配を感じたのだろう。
「 ううん・・・どうもしないわ。 ただ ・・・ 明るいなあ〜って思っただけ。 」
「 ? 今日は天気いいからね〜 この季節はさ、乾燥して困るよね〜 」
「 ・・・ 乾燥? ああ ・・・ そうね、でも いい気持ち! 」
「 関東地方の冬ってね、だいたいこんなカンジの日が多いのさ。
ぼくとしては 雪でも降ってくれたほうが冬らしくていいなあ〜と思うだけど。 」
「 ・・・ 雪なんてないほうがいいわ。
わたしは ・・・ こんなお日様いっぱいな冬が・・・好き! 」
「 ま ・・・ 晴れてれば洗濯ものも乾くしね〜 え〜と・・・ついでだから
駅前のショッピング・モールまで行こうか・・・ 」
「 ジョーに任せるわ。 ・・・ ああ いい気持ち ・・・! 」
「 よ〜し・・・ イッキに駅前まで突っ走るよ〜〜 」
「 ・・・ きゃ・・・ 素敵♪ 」
チリリリ・・・ン!
ちょっとばかり古風なベルの音とともに 二人乗りの自転車は軽快に海岸通りを走り抜けて行った。
― 故郷の冬は いつでも暗かった。
秋は 陰鬱な空と霙の訪れと共に退場し長く暗い冬が始まる。
夜はいつまでも明けず、お日様はやっと顔をだしてもぼんやりと弱々しい光を投げかけるだけだ。
午後にはもう・・・灰色の雲に隠れ 街には早々に外灯がともる。
雪は昼過ぎになっても路肩に残り、ガチガチに固まりやがて根雪となってゆく・・・
「 ・・・ Bonjour ・・・ 寒いですね ・・・ 」
「 Bonjour ・・・ 本当に・・・ お気をつけて・・・ 」
人々は分厚いオーバーに包まりマフラーや毛皮に頤を埋め足早に街を行過ぎる。
公園はたちまちまっ白な帳に覆われ、都市の人々もメトロに逃げ込み家に篭った。
マロン ショー 〜〜 ! マロン・ショー!
人通りの減った街角には 焼き栗売りの声だけが響いていた。
フランソワーズはそんな故郷の・・・冬がキライではなかった。
お気に入りのベージュのオーバーに身を包み、雪の朝でもレッスンに通った。
足取りも軽く 石畳に道を雪を踏んでゆく。
そんな彼女は舞い落ちる白い粉と踊る冬の妖精 ― にも見えた。
厳しい季節だったけれど、春を待つ楽しみもそれだけ大きかった。
それが ― 今、 燦々と輝く陽光を受け緑濃い町を自転車で走りぬけている。
これが ・・・ 同じ 冬 ??? 信じられないわ・・・!
この国の秋は 故郷の季節と結構似ていた。
美しい紅葉に歓声をあげ、いつまでも温かな陽射しに感激した。
そして・・・ きっと直に霙や雪が降り始め 冬がやってくる と思っていたのだが。
ここの 冬 は。 光で一杯だった。
「 え〜と ・・・ あ あそこだ! あのショッピング・モールに行くね〜 」
「 ・・・え ええ。 」
「 パーキングの横に駐輪場があるな〜 ちょっと揺れるよ、しっかりつかまっててくれ。 」
「 了解! 」
ジョーは巧みにハンドルを切り駐輪場へ入っていった。
カラカラカラ・・・・・
低い音をたて ジョーは買い物カートを押してゆく。
「 えっと・・・ 一階は食料品なんだけど。 なにから見る? 」
「 ・・・・・・・・・・ 」
「 フランソワーズ? 」
「 ・・・ ! あ ああ ごめんなさい、ジョー。 なんだか ・・・ 目がチカチカして・・・ 」
「 え。 ・・・ あのう・・・どこか・・・不具合でも・・・あるの? 」
「 え? ・・・ ヤダ 違うわよ。
あの ね。 こういう・・・マルシェ ( 市場 ) とか お店・・・って。 久し振りなの。
パリではお使いによく行ったけど。 もうずっと昔のこと でしょ・・・ 」
「 フランソワーズ ・・・ 」
ひっそりと微笑む彼女に ジョーはいつも トン・・・!と胸を突かれる思いなのだ。
そ そんな淋しい笑顔 ・・・ しないでくれよ!
きみのせいじゃないだろ!
・・・ やめてくれってば。 きみは ・・・ ぼくよかいっこ年上なだけさ!
そんな風に言って彼女の肩でも抱いて上げられれば・・・・ どんなにカッコイイことだろう!
そして 彼女もきっと晴れやかな笑顔を見せてくれる・・・だろう。
― でも。 ジョーにはそんなコト ・・・逆立ちしてもできないのだ。
すこしモジモジしたあげく ―
「 日本のスーパーなんてさ、無国籍もいいトコだから。 いい加減なのさ〜 」
ジョーはわざと陽気な口調で言った。
「 けっこういろいろある・・・と思うからさ。 一緒に見ようよ〜 ぼくも久し振りだよ。
え〜と・・・ こっちのコーナーは野菜とか果物だね〜 」
「 ・・・ ジョー ・・・ ありがとう・・・ 」
細い指が す・・・っとカートを押すジョーの腕に絡む。
そんな様子は 端からみれば新婚のお熱いカップル ・・・ に見えなくもない。
う ・ ひゃあ〜〜〜〜♪ らっき〜〜〜
い いや・・・! フランはぼくの大切なヒトなんだ!
よ ・・・ よし! 護るよ! ぼくは・・・
きみのこと・・・ うん、命に代えても 護る・・・!
ショッピング・モールの中を 買いものカーとを押しつつ ジョーはひとりで意気込んでいた。
「 ・・・ ジョー? ジョーってば。 」
「 ・・・よし! まかせろ・・・って ・・・え??? な、なん なんだい? 」
「 どうしたの? ぼ〜〜っとして。 あ・・・疲れている? ごめんなさい お買い物に引っ張り出して 」
「 い いや! そそそそ そんなコトは・・・
おっほん・・・! それでフランソワーズ、なんだい? なにか買いたいものがある? 」
ジョーは どぎまぎしつつフランソワーズを顧みる。
・・・ ジョーって。 可愛い・・・
いちいちびっくりして セピアの目がまん丸になるのね・・・
・・・ うふふふ・・・・ 仔犬みたい・・・
笑いをそっと収め、フランソワーズは何気なく訊ねる。
「 ううん ・・・というか ・・・この辺りはお野菜? vegetable って書いてあるわね。 」
「 そうだね〜 このへんが 葉っぱ類 あっちがキノコかなあ・・・・ 人参やらジャガイモ・タマネギは
ああ この向こう側だね。 まず・・・どこへ行く? 」
「 え〜と・・・まず、欲しいのはね、レタスにセロリ。 チコリとキャベツも!
あとは・・・トマトでしょう、マッシュルーム・・・レモンもいるわ。
えっと・・・? あら アーティチョーク・・・ないわねえ? ほうれんそう? こまつな?
ジョー・・・ これ なあに。 」
覚えたての ひらがな や カタカナを 彼女はゆっくりと拾い読みしてゆく。
「 え ・・・・ これって。 え〜〜 ホウレン草と小松菜・・・・ 」
「 だからどうやって食べるの? レタスとは違うわね? 」
「 うん レタス・・・とは違うなあ。 う・・・ん・・・ あ! 茹でて食べる! 」
「 ふうん・・・? し め じ。 しいたけ・・・ これは日本のマッシュルームね? 形が似てるもの。 」
「 うん、そう! 椎茸は・・・美味しいよ! ぼく、好きだなあ 」
「 ふうん・・・・ どうやって食べるの? 」
「 え ・・・? あ ・・・あ〜〜〜 野菜炒めとか煮物とか・・・う〜ん??? 」
「 ニモノ・・・?? ( なんだかちっとも要領を得ないわねえ・・・ )
な が ね ぎ。 ??? たまねぎ の親類かしら。 でも形が全然ちがうし・・・・
なす ピーマン ニンニク ・・・ ああ これは同じね。
も や し。 ・・・これは なにかしら。 あら・・・ 皆買って行くわね・・・安いし。
でも・・・ これって・・・なんかの根っこ? 日本人って・・・こんなモノ、食べるの?? 」
フランソワーズは 野菜コーナーで立ち往生を繰り返している。
「 お〜い フラン? ・・・あ モヤシも買う? 」
ジョーが そっと脇から覗き込む。
「 ・・・え! あ・・・ ううん ・・・いいわ。 ( なんだかちょっと気持ち悪いし・・・ )
次は お肉、選ばなくちゃ! 」
「 オッケー。 わあ・・・いっぱい買ったね。 今晩はなにかな〜〜 楽しみだな♪ 」
カラカラカラ ・・・・
ジョーはごっそり積んだカートを軽々と押してゆく。
フランソワーズは慌てて彼の後を追い ― またしっかりと腕と絡めた。
結局、 食品だけで買い物は山盛りになってしまった。
「 う〜ん ・・・ 今日はこのぐらいにするかなあ ・・・ よいしょ・・・
あ フランソワーズ、もっと必要なもの、ある? 」
「 ・・・ ジョー。 あの ・・・ りんご ・・・食べたいわ。 」
「 りんご? あ〜 フルーツ・コーナーで買い忘れたっけ? ミカンとバナナは買ったよなあ・・・ 」
「 あ それならいいの。 ごめんなさい。 」
「 ね、フラン。 ここで待っててくれる? すぐに林檎、もってくるからさ。 」
「 ジョー・・・わざわざ行かなくていいわ 」
「 ううん〜 ぼくが食べたいのさ り ん ご。 ちょっと待っててくれよ。 」
ジョーはぱっと駆け出し 果物売り場へ戻っていった。
あ ・・・ なんだか・・・悪かったわね・・・
でも ・・・ ありがとう・・・ ジョー・・・・
りんご ・・・ 食べたいな・・・
ふうう〜〜・・・と大きく息を吐き フランソワーズは山盛りなカートを通路の脇に引き寄せる。
「 よい・・・しょっと。 こんなに大きなマルシェがあるのねえ・・・ 」
目の前を 沢山の買い物カートが通ってゆく。
ちら・・・っとフランソワーズに視線を飛ばすヒトもいるが それだけだ。
特に 奇異な視線を向けられてもいないらしいので ひとまず彼女はほっとしていた。
「 ・・・ 面白い国・・・ お野菜とかいっぱい・・・見たことないものがあったけど。
お肉はなんだかヘンだわね。 み〜んな薄く切った端っこをパックしたものばっかり。
あれで美味しいのかしら。 もっと固まりでほしかったのになあ。
調味料とかも ・・・ 知らないものの方が多かったわ。 み りん ってなにかしら。 」
改めて見直すと 上下に置いたカゴいっぱいの荷物だった。
「 キッチンの洗剤とかも買ったし。 ・・・ 衣類はまたの機会にしたほうがいいわね。
できたら リネン類とか・・・冬になるから厚手の下着とか準備しなくちゃ。 」
「 ・・・ただいま! ごめ〜ん 待たせて・・・ 」
ジョーが息せき切って 戻ってきた。
「 あ ありがとう! ジョー.。 わざわざごめんなさい。 」
「 ううん〜 ぼくも食べたかったんだ ・・・ りんご。 ほら! 」
「 ・・・・ ??? 」
「 いろんなのがあって、迷ってたんだ。 そしたら店員さんが これが美味しいですよって。
えっと ・・・ ふじ とか つがる とか言うんだって。 」
「 ・・・ りんご ・・・じゃないの? 」
フランソワーズは 不思議そうな顔でジョーが差し出したカゴの中を見つめている。
そこには。 黄色っぽいのや 赤っぽい実・・・
彼女がよくしっている りんご と、と〜〜ってもよく似た果物が顔を並べていた。
ふじ・・・? つがる・・・って でもこれ ・・・りんごよね?
それとも日本の、りんごによく似た果物なのかしら・・・
なにやら甘い香りもほんのり漂い 見た目にも美味しそうであるが。
「 え? りんごだよ〜〜 あ、日本の果物にはねえ、 種類によって名前が付いてるんだ。
その名前が ふじ とか つがる とか言うのさ。
ね? 美味しそうだよねえ〜〜 今日のデザートはりんご♪ 」
「 そう ・・・ね・・・ 」
「 さ ・・・ これで全部かな〜 フラン、まだなにか買いたいもの、あるかい。 」
「 ううん ・・・ これで十分よ。 あ ・・・ それ、 持つわ。 」
フランソワーズは りんごを入れたカゴをうけとった。
「 あ・・ありがとう。 それじゃ・・・精算して帰ろうか。 」
「 ええ そうね・・・ 」
ジョーはごっとん・・・とカートを押しレジへと フランソワーズと肩を並べて歩きだした。
パンパン ・・・
ジョーは手を叩いて 自転車の荷台をぐるっと見回した。
「 ― よ〜し・・・! うん、全部積み込んだな! 」
「 すごいわ・・・ この荷台がちゃんと広がっているのね〜 」
「 うん、 さすが博士だよなあ。 これなら帰りも軽々さ。 さ ・・・フラン、 乗って 」
「 え ・・・・ 」
「 うん? ― あ。 」
二人は自転車の前で 絶句してしまった。
「 ・・・ 乗れ ・・・ ないよねえ・・・ 」
「 ええ ・・・ 後ろは荷物の席、みたいね。 」
― そう・・・ フランソワーズが座ってきた荷台には。
たった今、 ショッピング・モールで買い込んだ食料品その他モロモロが鎮座していた。
「 ・・・ あ ・・・ そ そうだよねえ・・・ 」
「 うふ・・・ いいのよ、ジョー。 わたしはバスで帰るわ。 <岬下> で降りればいいのよね。 」
「 あ・・・ そんな。 ぼくがバスで ・・・ 」
「 ジョー。 わたしにその荷物を積んで自転車に乗る自信は・・・ないわ。 」
「 え ・・・あ。 そ、そうだよね。 かなりの重量だもんなあ・・・ 」
「 ね? だから そっちはジョーにお願いするわ。 ・・・ これはわたしが引き受けるわね。 」
フランソワーズは一番上に乗っかっていたりんごの袋を手に取った。
「 あ うん、頼む。 あの ・・・ ごめん ・・・ 」
「 いやだ、なんで謝るの? 久し振りのお買い物、楽しかったわ。
この国のいろんなお野菜とか・・・見られたし。 ・・・ ありがとう、 ジョー。 」
「 え ・・・う うん ・・・ よかった ・・・フラン・・・ 」
フランソワーズの笑顔に ジョーはお腹の底から滅茶苦茶に嬉しくなってきた。
「 それじゃ・・・な。 あ・・・ 一個、いい? 」
「 え?? 」
ジョーは りんごを一個 ひょい・・・と彼女の手元の袋から取り出した。
「 齧ってくよ〜 あ きみも帰りに試食してみろよ〜 じゃあな〜 」
「 ・・・・・・・ 」
チリリリ −−−− ンン ・・・!
かなりレトロな音をたて、その実スーパー自転車は駐輪場から出ていった。
フランソワーズは りんごの袋をぶら提げ見送った。
これからバスで帰るのに。 花の乙女にりんごを齧りながらバスに乗ってゆけ、と言うのだろうか・・・
くふ ・・・・ なんだか。 楽しいヒトね、ジョーって・・・
フランソワーズもお腹の底から楽しい気分になってきた。
「 さ。 それじゃ・・・ あら、そうだわ。 バスで帰るのなら スウィーツも買ってゆけるわね。 」
彼女はショッピング・モール入り口付近にもう一回戻っていった。
「 あ・・・ 美味しかった〜〜〜 ・・・ ! お腹いっぱい!」
「 ははは・・・・ そうだなあ、美味かったぞ、フランソワーズ。 」
夕食後、ジョーは満足の溜息を吐き、博士もおおいに出来栄えを褒めてくれた。
「 嬉しいわ・・・! お野菜とか初めての材料、使ったから・・・ちょっと心配だったの・・・ 」
「 え〜〜 サラダも煮物も物凄く美味しかったよ〜 」
「 うむ、この国は野菜や果物が豊富じゃからなあ。 」
「 このりんご、美味しいですよね! うわあ・・・蜜入りだあ♪ 」
大皿に盛った林檎にジョーはまたまた大感激である。
「 ふふふ ・・・ はい、どうぞ。 本当に甘くていい匂い・・・・ 」
フランソワーズは林檎の皮をまとめつつ 目をつぶって匂いを楽しんでいる。
「 ほらほら・・・ お前も食べなさい。 今日は疲れただろう・・・ 」
「 あ! ぼく。 片付け、やるからね! ・・・えへへ・・・皿洗いはこれでも自信アリ 」
「 まあ ありがとう・・・ 」
皆 ゆったりした気分で晩御飯タイムを 過していた。
「 ・・・と。 これで終了。 」
キュ・・・! ジョーは布巾を絞るとシンクから振り向いた。
夕食後の後片付けは <宣言>どおりジョーが引き受けてくれた。
彼はシンクの前に立つと積み上げた皿・小鉢を 実に手際よく洗ってゆく。
・・・へえ・・・? すごく・・・上手ねえ?
ジョーって・・・ 案外器用なのかしら。
後ろでキッチンを片しつつ フランソワーズはちらちら・・・彼の手元に視線を向けていた。
あっという間に食器類は洗い上げられ、きゅきゅ・・・っと音をたてて拭い磨かれた。
「 お〜わった・・・っと。 あれ、 なんだい? 」
「 ・・・え ・・・ あ、 あの ・・・ 上手ねえ ジョー・・・ 」
「 え? ああ ・・・皿洗い? あは、ぼくさ、皿洗いのバイトとかやってたから。 慣れてるんだ。 」
「 まあ ・・・ そうなの・・・ 」
「 ウン。 あ ねえ? 林檎・・・もう一個 もらってもいいかな〜 」
「 え? ああ どうぞ。 沢山買ってきたから・・・ はい、どうぞ? 」
「 ありがとう〜〜 あ、 きみ、先に風呂に入れよ〜 疲れ、とれるぞ〜 」
「 え ・・・ええ ありがとう・・・ それじゃ・・・ 」
「 うん。 あ・・・ウマい〜〜♪ えっと・・・ コーラ・・・あるかな〜 」
ジョーは林檎をかじりつつ冷蔵庫を開けてまだ ゴソゴソやっていた。
「 ・・・・ りんご ・・・ 食べたいな ・・・ 」
「 ふんふんふん〜♪ ・・・・え? りんご? ならこれ・・・ あれ? 」
小さな呟きに ジョーが振り返ったとき ― キッチンには誰もいなかった。
「 なんだ・・?? フランかと思ったけど・・・ 気のせいかなあ・・・
そうだよね、 りんご、いっぱい食べたもんね。 ああ ・・・でも美味かった♪ 」
コーラのボトルを取り出すと ジョーはハナウタ交じりに二階に引き上げていった。
「 りんご 食べたいな・・・ 」
次の日から ジョーはたびたびこの言葉を聞くことになる・・・・
住居の問題がひと段落し、生活も軌道に乗った。
博士は相変わらず書斎と研究室に閉じ篭り 時にコズミ邸にも足をのばした。
ジョーも岬の近隣を例のスーパー自転車を乗り回し、土地勘を養い近所の商店街も覗いている。
「 ジョー、どうだね。 なにか収穫はあったかね。 」
ある日の夕食時に博士が聞いた。
「 う〜ん ・・・ この辺り本当にごく普通の町ですねえ。 住民たちも適当に無関心だし・・・
住みやすそうですよ? あ そうだ。 あの。 ぼく ・・・ バイト したいんですけど。 」
「 バイト?? お前、働きたいというのかね。 」
「 はい、だって・・・ボンヤリしているのもつまらないし。 」
「 ジョー。 経済的なことなら心配には及ばんよ? なにか勉強してもいいじゃないか。 」
「 え・・・いいのですか。 そんなに その ・・・ 」
ジョーは顔を真っ赤にして口篭っている。
あら。 このヒト ・・・ やりたい事 があるのね・・?
ふうん ・・・ ただのカルい坊や・・・じゃないの・・・か・・・
フランソワーズはお茶を淹れつつ黙って二人の話に耳を傾けていた。
博士はパイプを置くと 真剣な面持ちでジョーに向き直った。
「 これはワシが言えたことでないが。 ジョー。 君は君の人生を望むように生きる権利がある。
・・・ 捻じ曲げられてしまった君の人生 ・・・ 今からでもやり直せるものなら・・・ 」
「 博士 ― ! 」
「 ワシは ・・・ 今のワシに出来ることは、そんな君を応援することだけじゃ。
遠慮せずに言っておくれ。 」
「 ・・・博士。 ・・・ぼく、出来れば ― 勉強したいです。
高校も満足に通っていなかったけど・・・ やっぱり機械工学、学びたいんです。 」
「 ジョー ・・・ 本心か。 」
「 はい。 ぼく達自身のため ・・・だけじゃなくて。 純粋に興味があります。 」
「 ・・・ そうか。 よし。 コズミ博士とも相談してみよう。 大学の聴講生という手もあるからな。 」
「 ・・・ ありがとうございます!! ・・・でもやっぱりバイトもしたい ・・・デス。
時間 あると思うし。 」
「 ははは・・・ま、小遣いもいるからな。 よしよし、出来る限り応援するぞ。 」
「 ありがとうございます! あ ・・・ フランソワーズ ・・・ きみは どうする? 」
「 ・・・え ・・? 」
急に話を振られ フランソワーズはすぐには答えができない。
「 どう・・・って・・・ ? 」
「 きみ さ。 きみも さ ・・・ やりたい事、あるんだろ。 この前、イブの夜 ・・・言ってたもの。 」
「 ・・・え ? え ええ ・・・ 」
「 ね、きみも ― 」
「 わたし ・・・ ? わたしは・・・ まだ いいわ。 わたし このお家で暮らせるだけで十分なの。 」
「 ・・・・・ ・・・・・ 」
「 フランソワーズ ? 」
「 はい 博士? 」
「 遠慮することはないぞ。 きみも ・・・ 望みの人生を生きなさい。
出来る限り応援するよ、それがせめてものワシの罪滅ぼしじゃ。 」
「 ・・・ ・・・・・ 」
「 気持ちが決まったら いつでも相談に乗るからな。 ― 待っているよ。 」
「 フランソワーズ ・・・ 」
「 ・・・ ありがとうございます。 」
フランソワーズはちょっと会釈をすると静かに立ち上がった。
「 後片付け してきますね。 ・・・ お休みなさい。 」
「 りんご ・・・ 食べたいな・・・ 」
「 ・・・え? 」
キッチンに戻る彼女を見送りつつ、ジョーはまたあの言葉が聞こえた・・・と思った。
「 フランソワーズ ・・・・ きみは ― なにが望みなのかい・・・? 」
まもなく ジョーは進学の準備と打ち合わせのためにコズミ邸に足繁く通い始めた。
「 え・・・と、これをコズミ君に届けてもらうか・・・ いや、明日でもいいが。
ジョーがまだいればいいのだがな・・・ 」
博士は半ば独り言を言いつつ キッチンのドアを開け中を見回した。
きれいに片付いたキッチンには 亜麻色の髪の乙女がひとり、座っていた。
北向きの窓を見上げ 遥か遠くの空を見つめている。
白い頬は 冬の光を受けてつやつやと輝き ― 空の青さも映るくらいだ・・・
なんとまあ ・・・ この子は綺麗になったことよ・・・
・・・ 青空が よく似会うな・・・
博士はしばし・・・・彼女の横顔を眺めていた。
「 ゴホン・・・ お? もうジョーは出かけたのか? 」
「 ・・・ はい? 」
振り向いた彼女の瞳の端から ほろり・・・と透明な雫がひとつ、転げ落ちた。
?? 泣いて ・・・ いたのか???
この子は ・・・ なにを考えているのじゃろうか。
「 あ あの・・・ ジョーに託たいことがあってな。 もう出かけたか? 」
「 はい・・・ ついさっき。 お急ぎでしたらわたし、お届けしますけど。 」
「 そうか・・? それじゃ 頼むかな。 なあ ・・・フランソワーズ? 」
「 はい? 」
「 お前は ・・・ お前の望みは何なのかな。 遠慮せずに言っておくれ。 」
「 ・・・ はい。 」
彼女はひっそりと微笑むだけなのだ。
「 フランソワーズ ・・・? 」
「 お届けものは それですか? ・・・ 今から行ってきますね。 」
「 あ ああ ・・・ 頼むよ。 コズミ君に宜しくな。 」
「 はい ・・・ 」
淡い微笑みを滲ませ 彼女はひらり、とキッチンから出ていってしまった。
「 りんごが ・・・食べたいな ・・・ 」
「 うん??? なんじゃな? ― フランソワーズ? ありゃ・・・ 気のせいかの・・・ 」
博士はきょろきょろ・・・リビングも覗いたが 冬の陽射しが溢れているだけだ。
― バタン ・・・
玄関のドアが 閉る音がした。
「 ほい ・・・ ようおいでなさったな、お嬢さん。 ギルモア君からの届け物?
おお おお・・・わざわざ すまんですな。 ささ・・・ お上がりなさい。 」
コズミ博士は 自宅の玄関でフランソワーズの手を引かんばかりの熱心さで彼女を招きいれた。
「 あ・・・ はい ・・・ お邪魔いたします・・・ 」
「 うむ ・・・・ ジョー君ももちろん来てますぞ。
ちょいと こちらでお待ちなされ。 お茶でも淹れてきましょうな・・・ 」
「 あ・・・! わたしが・・・! 」
「 なに、たまにはのんびりしなさいや、お嬢さんや。 」
座敷に彼女を案内すると コズミ博士は奥に引っ込んでしまった。
あ ・・・ 広くて ・・・ 面白いお部屋・・・
イスがないけれど低いテーブルがある。
絨毯ともフローリングともちがう感触の床を そろそろと踏んでみる。
あら お花。 ・・・ ふうん ・・・ 一本だけ?
奥まった場所が少しだけ高くなっていて 真ん中に花瓶が置いてあり白い椿が一輪、挿してあった。
しばらく花を眺めていたが 彼女は部屋の仕切りになっている木と紙のドアにそうっと手を掛けてみた。
「 ・・・うわ・・・! これ ・・・ 引き戸なのね。 わあ・・・・ 」
すらり、と開いたドアの向こうには。
さんさんと陽が集まる板張りの細長い <部屋> があった。
「 ・・・ いい気持ち・・・ サン・ルームかしら。 」
思わず踏み出した足に、柔らかく暖かさが伝わってくる。
突然 後ろから声がかかった。
― にゃぁ〜〜お 〜〜〜・・・・
「 あら?? 猫ちゃん!? ここにいたの? ・・・まあ 暖かいのね、お前 」
足元にするり と三毛猫が寄ってきた。
「 うふ・・・ 可愛い・・・ おいで おいで。 」
フランソワーズはいつのまにか その板張りの細長い部屋 に座りこんでいた。
― にゃあ ・・・ な〜〜お〜〜
「 うふふ・・・ Bonjour? ・・・あら ここからも空がきれい・・・ 」
パタ。 パタパタパタパタ −−−−−
突然。 板張りの上に スカートの上に 水滴が落ちた。
― にゃぁ〜〜???
三毛猫がまん丸な目で見上げてくる。
「 あ ・・・ご ごめんね。 ・・・う ・・・うっく ・・・ふぇ ・・・・う・・っく ・・・ 」
フランソワーズは 冬の空を見上げたまま ― 声を押し殺し 涙を流し続けていた。
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updated : 12,14,2010.
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******** 途中ですが。
平ゼロ設定、まだやっと博士たちが日本に落ち着いたころです。
( 『 幻影の聖夜 』 よりは後・・・かな。 ) 後半もよろしかったらお付き合いください。
え〜〜・・・実は <似た設定・似たヒロイン ・・・でも 相手役の性格がちがうと?> 的な
お話が浮かんでしまったのです〜〜 (^_^;)
別ジャンルですので こちらには掲載しません。
もし ・・・ < 興味アリ!> でしたら。 覗いてみてくださいませ。 <(_
_)>
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