『 雨の降る日は  ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

 トタトタトタ ・・・  タタタタタ ---- !

 

朝から晩まで 今 ウチの中は この二つの音ではち切れそうなのだ。

そう ― 本当に まさに! 朝から晩まで。

広いはずの邸の中には 二つの足音が充満している。

そして その合い間に 甲高い声がみっちりと詰まっている。

 

「 おか~~~しゃん  おか~~しゃん~~~~ 」

「 おと~しゃんっ! おと~しゃ~~ん 」

「 これ おと~しゃん☆  こっち おか~しゃん☆ 」

「 あ ・・・ボクもぉ~~~ 」

「 や!  これ すぴかの~~~~ 」

「 う・・・うっく ・・・ ボクもぉ~~~~ 」

「 あ~~~ ないたァ~~ すばるのなきむし~~ 」

「 うっく うっく・・ な なきむし じゃないもん ! 」

「 ないてるじゃ~~ん なきむし~~ 」

「 な な ないてないもん・・・! 」

「 あ ぶった~~ すばる ぶった~~ 」

「 ぶ ぶって ないもん・・・ ! 」

「 ぶったもん! 」

 

  がしゃん。 ごろごろ  ばっこん。

 

何かが床に落ち 誰かが一緒に転げ落ちた らしい。

「 う~~~  」

「 すぴか・・・? 

「 うっく。 へいき だもん。 これ アタシのだもん! 」

「 おか~しゃん ~~ すぴかが かしてくれない~~ 」

「 や! だって これ アタシの! 」

「 ・・・ おか~しゃん ・・!  

「 あ すばる ずる~~~  いいもん アタシ・・・

 おと~しゃ~~~ん  すばるってばね~~~ 」

「 あ すぴか ずる~~~ おと~しゃん おと~しゃん

 すぴかってば ずる~~ 」

 

二つのきんきん声が耳元近くで炸裂すると さすがの母も

顔を顰め 耳に両手を当てる。

 

 

  あの冬の朝  甲高い産声とともにジョーとフランソワーズの腕の中に

やってきた 二人の天使たち。

新米の父も母も歓喜と感涙でいっぱい シアワセいっぱい♪ 

 ・・・・だったのであるが。

 

天使たち は < 天使 > じゃなくて。

元気いっぱいな・ ニンゲンの子 で 台風の目 となってきた!

 

 

「 あ~~~  もういい もういい 二人とも!

 そんなケンカしないのぉ ! 」

「 ・・・ だって すぴか が 」

「 すばるがア~ なきむし~~ 」

「 いいから。  ちょっと離れて遊びなさい。

 すばる は こっち。  すぴかは あっち。  いい? 」

「「 ・・・・  」」

母は 姉弟をソファの端と端に分けて座らせた。

「 別々に遊べばケンカしないでしょ? 

 仲良くできないなら 一人で遊んでください 」

「「 ・・・・ 」」

同じ日に生まれた姉と弟は お互いにじ~~~~っと見合っている。

「 別々に座って 別の遊びをすればいいでしょう?

 ケンカになるってわかってて どうして同じことをするの?  

「「 ・・・・ 」」

金色のアタマと茶髪アタマ は ふ~らふらし始めた。

「 ・・・ おか~しゃん  アタシ おそと いく。 」

「 ! ぼ ボクも~~~ 」

「 アタシ!  すばる ってば いっつもまねっこ~~  

「 ちがうもん がう~~~ 

「 いった~~~ かみ ひっぱったあ~~ いった~~ 」

「 ひっぱってないもん! もん!  」

離れていたはずの二人は たちまち団子になっている。

「 もう~~~ 離れてなさいって言ったでしょう???

 ほら 手、離す、どっちも! 」

母は うんざりした顔で < ニンゲン団子 > を ほぐした。

「 ・・・っとに・・・

 お外に出られないのは 皆 同じです。 梅雨なんだから・・・

 お家の中で 静かに遊ぶの。

 絵本、あるでしょう?  積み木ぶろっく もあるでしょう? 」

「「 ・・・・ 」」

「 すぴか。  積み木ぶろっく です、 はい。

 すばる。 と~ます の絵本です はい。 」

「 ・・・・ 」

「 ・・・・ 」

オモチャと本を 押し付けられ 双子はぶすっと黙ったままだ。

母は 二人を代わる代わるしっかりと見つめて 言う。

「 はい それで遊んでいてください。

 お母さんは ご飯の準備をしてきますから。

 いいですか?  リビングで おとなしく! 遊んでいなさい。 」

「「 ・・・・ 」」

「 すぴかさん すばるくん。 お返事は? 」

「 はあい  」 「 ・・・ はあい 」

「 よろしい。  すぴかさん すばるくん  質問します 」

「「 ・・・・ 」」

「 すぴかさん と すばるクン は 今 お母さんとやくそくをしました。

 ・・・ しましたね? 」

「「 ・・・ 」

こくこく・・・。 色違いのアタマは素直に頷く。

「 はい。 では。 しつもん します。

 すぴかさん すばるくん。 やくそく は 破ってもいいですか? 」

「 だめで~す 

「 そうですね。 やくそくは破っては いけません。

 では 二人とも おとなしく ケンカしないで 遊んでいなさい。 

「 おか~しゃん すぴか おそと~~ 」

「 お外は 雨です。 出られません 」

「 ・・・ てらす ・・・ 」

「 テラスも濡れます。 それに ほら 鍵 掛かってるでしょ?

 すぴかさんとすばるクンは リビングで遊びます。

 お母さんは 御飯を作ってきます。 いいですね? 」

「「  はあい  」」

 

大人しく? 二人がソファの上に収まるの見届け

母は キッチンへ入った。 

 

 

      サア -------

 

窓の外は このところずっと 朝から晩までこんな音と共に

細い雨の糸が 落ち続けている。

 

 ああ~~~ また 雨! 洗濯モノが溜りに溜まっているのに!

 

 ・・・ああ 困ったわ! 買い物があるのに・・・

 お野菜やらトイレットペーパーやら 買ってこなくちゃ

 

 もう~~ 雨なんて 梅雨なんて ほっんとうに イヤ!

 

フランソワーズはこの頃 頓に機嫌が悪い。

「 フラン ・・・ あのう ぼく、買い物してくるから ・・・ 」

「 ジョー ・・・ ありがと。 じゃあ 買い物リスト、渡すわ 

「 了解~~ ちゃちゃっと車で行ってくるから。

 重いモノとか嵩張るもの、 担当するよ 」

「 ありがとぅ~~ 助かるわぁ~~ 」

 

彼女の夫は とてもとても家事に協力的な人物なのである が。

 

「 ・・・ 買ってはきてくれるけど。 トイレットペーパーは

 メーカーが違うし。 ジャガイモと玉ねぎ ・・・ こんなに

 たくさんは ・・・ 芽が出てしまうし・・・ 

 はあ~~~ ・・・ 嬉しいんだけどもぉ・・・ 

 

上機嫌で買い物してきた夫には 笑顔を向けるけど

荷物を開けてみて こそっとため息 だ。

 

「 ・・・ 雨の日は 本当に憂うつ・・ 

 

雨の音 素敵、なんて悠長に耳を傾けているヒマは 吹っ飛んだ。

そめそめ落ちてくる雨を のんびり眺めている余裕なんか ない。

 

 だって。 洗濯モノの山は その日のうちに乾かさないと翌日悲惨だし。

雨だって 嵐だって チビたちはきっちり三食食べてオヤツも食べるのだ!

そして 一分だって大人しくはしていない ― 眠っている間以外は。

庭で遊ばせるのは 最高の妙薬なのだが それを封じられてしまうと

・・・ 家の中が < 庭 > に変わってしまう。

岬のギルモア邸は 決して狭くはないけれど

リビングで チビっこ達に駆け周られ叫ばれたら ― たまらない。

 

ちょっと不思議 で 魅惑的な雨の日 は

鬱陶しくて 不便な日 に変わってしまった。

 

「 ふう ・・・ ああ さっさとお昼、作って食べさせちゃお。

 そうすれば お昼寝してくれるだろうし・・・ 

 少しだけでも静かな時間が とれるわ 」

 

フランソワーズは ちょっとばかり気を緩めていた のかもしれない。

 

 ― 母がキッチンに引っ込んだ後。 リビングでは・・・

 

すぴかとすばるは 窓際にへばりついている。

「 おそと ゆきたい~~ 」

「 ん ・・・てらす ・・・ 」

「 うん。 」

すぴかはじ~~~っとサッシの鍵を見つめている。

チビ達の手には届かないところだ。

「 すばる。  おうまさん やって 」

「 へ?? 」

「 ここで おうまさん やって。 」

「 ここで? 」

「 そ。 はやくぅ 

「 ・・・ ん 」

すばるは姉の前で <おうまさん> になった。

「 すばる いい?  ・・・ うん しょ 」

「 ・・・ すぴかあ~~  おも ・・・ 」

「 おうまさん やってて!  かぎ あける~~ 」

「 う  ん ・・・ 」

「 う~~~~っ しょお~~~~ 」

「 ・・・う ・・・ 」

「 ~~ えいっ! 」

 

   カチャン。  

 

「 かぎ あいた ! 

「 てらす でれる? 」

「 どあ あけるの! すばるもやって! 」

「 う うん 」

「 いっせ~~の ! 」 「 せ~~のっ ! 」

 

    カラリ。  サッシはいとも簡単に開いた。

 

すぴかは四つん這いになったすばるの背中に乗って

器用にテラスへの鍵を開けてしまった ・・・。

 

 ・・・ そんな事情をキッチンの母は まるで気付いてはいない。

 

 

      がった~~~ん ・・・・ !

 

 

「 !? な なに?? 」

突然の大きな音に驚いて 母がリビングに飛んでいってみれば ―

 

  さあああああ ----  テラスから細かい雨が降り込んでいる。

 

「 ?? なんで?? サッシは閉めておいたのに・・

 あ~~~~  すぴか すばる ~~~  ! 」

 

雨に濡れたテラスで 二人が デッキ・チェアを倒していた。

「 ! すぴか すばる! 大丈夫?? 怪我はない?? 」

「 え・・・へ  へ~き~~ あたし ! 

「 ぼ  ボクも ・・・  」

「 ああ よかった・・・・ 」

フランソワーズは 寄ってきた二人を抱きしめた。

「 ・・・ ! うわ ・・・ びちゃびちゃ・・・

 さあ 早く中に入って ・・・ 」

母は びたくたな二人をとにかく家の中に連れ込んだ。

「 ちょっとここにじっとしてて!

 バスタオル 持ってくるから ! 

「「 ・・・・ 」」

双子は 神妙な面持ちである。

「 ~~ さあ これで拭くわよ~~  

 ほ~~ら  わしゃわしゃわしゃ~~~~ 」

二人いっぺんに、 特大バスタオルでもみくちゃにした。

「 わひゃあ~~~~  うひゃひゃ~~~ 」

「 ・・・ うっわ ・・・・ 

 

  バサバサ  ・・・ 

 

タオルを外し けたけた笑っている二人をしっかり立たせた。

「 さあ。 二人とも。 

 さっき ・・・ お母さんは なんといいましたか 

 ほら すぴかさん 

「 えへへへへ~~~~  あ ・・・っとぉ・・・・  」

「 笑うのはお終い。  すぴかさん お答できますか 」

「 えっとぉ~~~ 」

「 じゃあ すばるクン。 お母さんはさっきなんて言いましたか 

「 ・・・ う ・・・・ と・・・

 なかよし してなさい  って 」

「 そ! なかよくあそんでなさい って いった!

 アタシたち いっしょにあそんでた~~~ よ? 」

「 ね~~ すばる? 」

「 ね~~~ すぴか! 

同じ日に生まれた姉と弟は にっこにこ顔を見合わせる。

 

    ・・・ そう来たのね! 

    っとに~~~~

    この悪ガキども ~~!

 

母はカリカリ来たけれど そんな様子はオクビにださない。

チビっ子連合軍と対峙するには 常に冷静でいなければ

とても勝ち目はないしそれなりの作戦が必須なのだ。

 

「 まあ そうなの? 仲良しで遊んでいいコちゃんねえ 

 二人とも 」

「「 うん ! 」」

「 でもねえ?  お母さんは もうひとつ、言いましたね?

 お外は雨だからダメです って。 テラスも濡れますって。 」

「 ・・・ う ん 」

「 ・・・ 」

びみょう~~~な顔で すぴかが曖昧に頷く。 すばるはだんまりだ。

「 それに テラスへはカギが掛かっているから

 でられません、って言いました。 」

「 ・・・・・ 」

今度はすぴかが口を < への字 > にした。

「 ・・・ かぎ ・・・ あいた 」

すばるが 蚊の鳴くよ~な声で言う。

「 え?  ― 開いた? 

「 ・・・ ん ・・・ 

「 カギがひとりでに開いたの? 」

「 ・・・ ん~~ん ん ・・・ 」

「 ・・・ ん~~~ 」

二人はもにゃもにゃ言っていて その後 どんなに

母が聞いても 話してはくれなかった。

 

    ・・・ 口を割らないってことか。

    う~む チビのくせに手強いわね!

 

    ・・・ さすが ジョーの子達だわ。

 

「 ― わかりました。 

 約束、守れなかったんだから ― オヤツはナシよ 」

 

    え~~~~~  やだ~~~~~~

 

お母さんだって やだ~~ です。 」

「「 なんで  」」

「 二人が約束を守ってくれないから よ。 

 

   ぶ~~~  う~~~~

 

「 さあ もう髪も乾いたでしょう?  お部屋で遊んでいなさい。 

「「 ・・・・  」」

膨れっ面で二人は 床に座り込んでいた。

 

 

 

 ― さて その日の夜 ・・・ 遅く。

 

「 で ― オヤツはなし だったわけかい? 」

「 当然でしょ。 だって約束、破ったんだもの 」

「 はあ~~ 厳しいですね、お母さん。 」

「 当たり前です。 約束は約束。 ルール違反に

 罰則はつきものです。 」

「 しっかしなあ~~ アイツら ・・・ 」

 

ジョーは くすくす笑いを止めることができない。

遅い晩御飯の後 夫婦はゆったりとお茶を楽しんでいる。

 

   サ ------   雨は まだ止まない。

 

「 ・・・ ああ  もう ~~~~

 二人でタグを組んで < 攻めて > 来るのですものねえ・・・

 ああ お母さんはくたくただわ 」

「 うっぷぷぷぷぷ ・・・ しっかしやるなあ~~ アイツら~~

 すばるを踏み台にして すぴかが  ・・ ねえ 」

ジョーはもう お腹を抱えて笑っている。

「 ・・・ ジョー~~~! 」

「 いやあ ごめん ごめん 

「 それでね どうやってカギを開けたか ・・・さんざん聞いて 

 やっと教えてくれたのよ それもね 晩ご飯の頃に 」

「 白状したってことか 」

「 そ。 」 

「 完全な連携プレーですな 」

「 はい。 ジョー ・・・ あの子達のチームワークは

 完璧よ !  口の固さも 完璧よ !

 ええ 確かに 009のムスコとムスメだわ 」

 

  わっはっは ~~~~~  

 

ジョーの笑いはついに爆発してしまった。

「 ・・・ ジョー ・・・ わたし 真剣に話しているんですけど 」

「 あっはっは・・ いやあ~~~ ごめん ごめん・・・

 もうなんかアイツらってば ・・・うぷぷぷ・・・

 いや。  お母さん、 ご苦労様です 」

「 ・・・ そりゃね 晴れてれば庭に出して遊ばせて ・・・

 ケンカしたり仲直りしたり けっこうそれなりに平和に遊んでいるのよ。

 い~っぱい遊んで オヤツ食べて 昼寝して ・・・

 なんとか一日過ごすんだけど ・・・ 雨だと ねえ・・・  

「 そっか~~  屋内ではあんまし遊べない か 」

「 絵本みたり ブロック遊びしたり あとね~ 動画とかも

 見せたんだけど ・・・ 」

「 あれ 動画、見ない? 」

「 見るわよ。 でもね 見終わると まねっこしたがるの。

 特に すぴか!  跳んだり 走ったり・・・・ 」

「 う~~む アイツは徹底的にアウト・ドア派なんだなあ 」

「 でもね 雨だし 」

「 う~ん ・・・ 週末はさ ぼくが引き受けるから。

 洗濯もチビ達の相手も さ。 」

「 ・・・ ありがと ジョー ・・・・

 わたし ゆっくり買い物がして来たいんだけど 」

「 おう 行ってこいよ。 なんならヨコハマまで行ってくれば?

 えっと・・・ なんとか・セール やってるはずだし 」

「 そう?  ありがとう~~~ 

 ああ・・・ ジョーがわたしの旦那サンでよかったわあ~~~ 」

「 ふふ~~ん♪ まあ まかせてよ 」

ジョーは なんだか自信あり気~に 笑っていた。

 

 

 

  ― さて その週末・・・

 

やっぱり 朝から細かい雨が落ち続けていた。  が。

ジョーは ランチを引き受け 朝御飯の片づけのあと、

キッチンでごそごそやっていた。

 

「 さあ~~ お昼だよ  すぴか~~ すばる~~~ 」

「「 はああ~~~い 」」

 

 タタタタ  トタトタトタ -----

 

軽い足音がキッチンに飛んできた。

「 おと~さん ごはん~~~ 」

「 ごはん~~~ 」

「 うん。 あれ お母さんは? 」

「 おかあさん?  おせんたく してた~~ 」

「 おか~さ~~~ん ごはん~~~~~ 」

「 すぴか すばる。 お母さんを呼んできてくれるかい 」

「「 うん 」」

 

    タトタトタト ----   賑やかに駆けてゆく。

 

「 ・・・ この天気じゃ 乾燥機、使う方がいいなあ 

 ウチの洗濯モノの量、ハンパじゃないし 」

 

   ことん ことん  ことん。

 

ジョーは テーブルにお皿を並べた。

真ん中には ど~~んと ほっと・プレートが鎮座している。

 

「 おと~さ~~ん  おかあさん もってきた 」

「 おか~さん いっしょ~~ 」

左右から纏わりつかれつつ フランソワーズが入ってきた。

「 お~ 昼ごはんだよ~ 」

「 ジョー。 ありがと。 」

「 洗濯? 」

「 ええ ・・・ 洗いは終わってるから 部屋干ししてたのよ 」

「 う~ん ・・ この天気じゃ乾くかなあ 

「 窓 開けておけば、少しは乾くかも 」

「 なあ 乾燥機、使おうよ。 今の時期はしょうがないさ 」

「 そう ねえ~~ 」

ため息まじりに 彼女は窓の外をちらり、と見ている。

「 おと~~さん ごはん~~~ 」

「 ごはん~~~ 」

チビ達は もうテーブルの前についてわくわくしている。

「 おっと~~ そうだね。

 えっと 飲み物だな~ 二人はミルクだろ~ フランは 」

「 わたし カフェ・オ・レ 」

「 おっけ~  それじゃ 今日にランチは~~~ 

  じゃ~~ん♪  クロック・ムッシュウ です♪ 」

「「 わあ ・・・・ 」

 

ジョーは こんがり焼いたトーストを 小さめに切り分け

中央に窪みを作った。

彼のお得意、パン・ケースのクロック・ムッシュウだ。

 

「 さあ ここに美味しいモノをいれるよ~ 」

「 なに なに?? 」

「 なに ~~ 」

「 まず ハム。 ピーマン。 ゆで卵。 あ トマトもいいなあ

 それから 蕩けるチーズ~~~ じゃん! 」

「 う わ~~ アタシ とまと~~ 」

「 ボク たまごさん♪ 」

「 たべる~~~  」」

「 あはは ちょっと待ってくれよ~~ こう~~っと蓋をして・・・ 

 ちょっと待っててね 」

「「 ウン ♪ 」」

「 お母さんも一緒に待つわ  おいしいそうね~ 」

「「 ね~~~ 」」

「 ふふ  久し振りだよね、これ作るの 」

「 ええ そうね。 ああ 早く食べたいわ。 

 ジョーの すぺしゃる・クロック・ムッシュウ 

「 くろ・・・? 」

すぴかが 不思議そうな顔で父と母を見ている。

「 あのね これは クロック・ムッシュウ というお料理なのよ 」

「 くろく むしゅう~? 

「 ウン。 お母さんの国のお料理さ 

「 ふうん ・・・ 」

すぴかは神妙な顔で すばるはヨダレが垂れそうな顔で

ホット・プレートを見つめる。 

「 そろそろ いっかな~~~ 」

「「 わい♪ 」」」

 

    ― お父さん・ランチは 大成功。

みんな お腹いっぱい 笑顔いっぱい な 土曜日になった。

 

 

  コトコトコト ・・・  じゅ~~~

 

ジョーは 食後、まだキッチンでなにかやっていた。

「 ・・・ あっさりお昼寝したわ~~  

フランソワーズが にこにこ・・ 戻ってきた。

「 もう寝ちゃったんだ? 」

「 ええ 他愛ないものよ。 ソファで二人で丸くなってるわ 」

「 あは・・・ いいなあ~ あ お茶 飲むかい 」

「 うん 飲みたい! 」

「 はい・・・どうぞ 」

彼はすぐに熱々の日本茶を淹れた。

「 ・・・ ん~~~ ・・・・ おいし♪ 

 あら なにを作っているの? 」

「 あ これ? へへへ 今日のオヤツさ 

 ランチで使ったパンのミミを使ってね 」

 

ミミをカリカリに焼いて コンソメの味を付けたもの

さっと砂糖をまぶしたもの が出来上がっていた。

 

「 ・・・っと。 オヤツ 完了~~ 」

「 あらあ~~ 美味しそう 

「 ふふふ・・ お昼寝の後はね オヤツもって 探検隊 だあ 」

「 ― たんけんたい?? 」

「 そ。 雨の日は ウチの中を探検するのさ 」

「 あ~~ それは いいわね 」

「 だろ? 二階 と あと三階のさ、納戸の辺り、

 チビたち連れて遠足してくる 」

「 お願いしま~す。 あ レジャー・シート 持ってゆく?

 三階で オヤツタイム にするとか 」

「 お いいね~~  あ これはきみの分だからね 」

ジョーは パンのミミ・ラスク を 小皿に置いた。

「 あらあ~~ 嬉しい♪ 

 ・・・ ねえ? 静かになったら 雨の音が聞こえるわ 

「 ん? ああ 本当だ 」

 

   シトシトシト ・・・・ サ -----

 

優しい音が この邸を包む。

「 ふふ・・・ こんなの、忘れてたわ ・・・・

 ねえ やっぱり 雨の日は  ちょっと不思議な雰囲気ね  」

「 あはは 女子はいつもロマンチックが好きだなあ 

「 ふふふ ・・・ 男子は 嫌い? 」

「 雨の日はな~ 外で遊べなくて嫌いだったなあ 」

「 ・・・ すぴかみたい 」

「 ああ。 アイツの気持ち、 よ~~くわかるよ 」

「 ふうん ・・・ あ ねえ 覚えてる?

 ずっと前・・・まだ結婚する前 ここで暮らし始めたころ・・・

 ジョー、雨の日によく出かけてたでしょう? 

「 え ・・・?   あ ああ   そうだったな 」

「 ・・・ なにしてたの? 」

「 あ~  あの頃さ 駅の向うに教会があって ・・・

 そこで ボランティアしてたんだ。 コドモ達の遊び相手だけど 」

「 ああ  そうだったの ・・・

 ふふふ やっぱりジョーは コドモ相手の天才ね 」

「 ・・・ そんなコト・・・ ある かな?? 

「 それでは ― チビっこ探検隊 の隊長さん。

 宜しくお願いします。 」

「 了解! 」

「 今晩は エダマメ たっくさん茹でるわ 」

「 わい~~♪ 」

 

 

 ― やがて たんけんたい は賑やかに出発して行った。

 

 

  タタタタタ ・・・

 

一時間くらい後 すぴかがキッチンに駆けこんできた。

 

「 おか~さん おか~~さん!!  あのね あのね 」

「 ? なあに すぴかさん 」

「 ね おか~さん ・・・ ここにいたよね? 」

「 ?? ええ ずっとキッチンでエダマメを切って茹でてましたよ 」

「 ・・・ だよねえ・・・ そだよねえ 」

「 ? 」

「 あの さ。 おにかいのまど、あるでしょ。 

 おか~さんたちのおへや のとこ 」

「 ええ あるわね 」

「 ・・・ あそこに おか~さん たってた・・・ 」

「 え??? 」

「 おか~さん  おそと みてた。 すご・・・くキレイ・・・

 にこにこ して て・・・ 」

 

     わた し ・・・・?

 

     ・・・  ああ ・・・ ああ!

     そうなの・・・!

 

     あの頃 ・・・ 雨の日に聞こえていたのは。

 

 

お母さん、 いや フランソワーズは にっこり笑った。     

「 ・・・ そう?  そのひと 綺麗だったの? 

「 うん! すご~~~く! 」

「 そう それは ・・・ 嬉しいわ 」

「 ??? 」

「 ありがと すぴか 」

「 ・・・ う  ん ・・・? 

 

 

   雨の日は  ― やっぱりちょびっと不思議 なのかもしれない

 

 

************************      Fin.      ***********************

Last updated : 07,28,2020.           back      /     index

   

 

***********   ひと言   *********

年代が違いますが ちゃんと前編の続きです~~ (>_<)

雨の日・・・ そりゃ ずっと家の中にいるのなら

だ~~い好き ですけどね~~ (一一”)