『 雨の降る日は ― (1) ― 』
しとしと ・・・ そめそめと静かに しかし 留まることなく
空から降りてくる ― 雨 が。
朝から いや 昨日から空はずっと灰色に 重苦しい。
重苦しいだけじゃなく、大気は水分をもう限界近くまで含んでいて
屋根の下にいても べたべたと纏わりつく。
「 ・・・ふうん ・・・ 雨ってこんな風にも降るのねえ 」
窓際に椅子を引っ張ってゆき、フランソワーズはずっと空を眺めている。
滅茶苦茶な逃避行の後 この島国に辿りついた。
その後もいろいろ・・・あったけれど 取りあえず、
今 ― 落ち着いた日々が流れる。
仲間達は それぞれ故郷に戻ったり この国で仕事を始めたり
自分の生きる道を歩きだした。
フランソワーズは ・・・ この邸に いる。
わたしは ― どうしよう ・・・
パリに 戻る ・・・?
でも。 あの街に わたしの居場所はなかったわ
踊りたい。 本当は 今 すぐにでも・・・
でも。 どこで? どうやって生きてゆく?
目的が決まらずに 呆然としていたら 救いの手が差し伸べられた。
「 この邸に一緒に暮らしてくれんかね 」
「 ・・ 博士 ? 」
「 あ 無理に、とは言わんが・・・ 君さえよければ・・・
なにせ ジョーとイワンとワシの全くのオトコ所帯でのう 」
「 フラン〜〜 ぼく、ちゃんと家事やるよ!
あの ・・・ もしよかったら ここにいてくれると
・・・ めっちゃ嬉しいんだけど 」
一番最後にやってきた < 仲間 > は にこにこしている。
あら。 こんな笑顔、してくれたこと、 ある?
へえ ・・・ なんか弟みたい ・・・
あ ひとつ、年下っていってたっけ。
009って カワイイのね ・・・
彼女は ふ・・・っと頬が緩む気がした。
あ は ・・・
こんな気分 久し振り ね?
・・・ なんか いいかも・・・
「 わたし ・・・ 行くところ、ないんです。
こちらで暮らさせて頂ければ ・・・ すごく嬉しいです! 」
「 おお そうかい。 ありがとうよ 」
「 うわあ〜〜〜い♪ ねえ ヨコハマとか案内するよ!
ショウナンもいいよ〜〜 うわあ 嬉しいなあ 」
「 あの・・・ いいんですか ・・・
わたし ここに住んでも 」
「 勿論、いや この家も華やかになる ワシも嬉しいよ。
のんびり 楽しくくらして行こう 」
「 わ〜〜〜 わ〜〜〜〜 最高〜〜〜
ねえ 買い物、行こうよ! 駅の向うに大きなショッピング・モールが
あるんだ〜 一緒に さ! 」
彼は完全に < 舞いあがって > いた。
・・・ あ ら。
なんか あっけなく決まっちゃった ・・・
うん。 決めたわ。
わたし ここで ― 生きて行く。
ここで 頑張るわ。
足元を決められない不安は たちまち消えて行った。
― そして。 この広い邸で春を過ごし そろそろ季節は
次のステージへ移ろうとしている。
青臭いまでの緑の繁茂に 驚いているうちに
紺碧の空が すこしづつ曇る日が増えてきた。
・・・ 気がつけば
「 あら・・・ また 雨? 昨日も雨 降ったわよねえ・・・
細かい雨だけど しっかり濡れてしまいそうだわ 」
「 フランソワーズ? コズミ君に処に行ってくるよ 」
博士は 案外気楽にあちこち出歩く。
「 はい。 あ 傘! 博士、降ってますよ? 」
「 んん? あ〜 この位なら 」
「 いえ。 傘、どうぞ。 この国の雨は しっかり降るみたいですから 」
「 そうかい ・・ では 傘を差して行こうかな 」
「 ええ。 あ タオルもお持ちになって ・・・
コズミ先生のお宅まで バスをお使いなのでしょう? 」
「 う〜〜ん 歩こうと思っていたのだが ・・・ 」
「 雨ですから。 どうぞ バスで 」
「 わかったよ。 夕方までには戻るよ 」
「 はい 行ってらっしゃい。 あ コズミ先生にヨロシク 」
「 うむ じゃあ な。 」
ちょいと手を上げると 博士はずんずん・・・ 坂道を降りていった。
ぴっちょん ぴっちょん ・・・
テラスに撥ねる雨粒は 案外大きな音を立てる。
庭に降る雨は いつまでも見飽きることがない。
「 ふうん ・・・ どの木も花壇の花も 雨、平気なのねえ
ううん それどころか ぐん・・・っと伸びたみたい 」
目をもっと遠くに凝らせば ほんの少しだけれど
紺色の海原を望むこともできる。
海に降る 雨 ・・・ か ・・・
・・・ なんか 音も聞こえそうね
003の < 耳 > を使う必要なぞ まったくない。
この地からは 海面にそめそめと降り注ぐ雨の その微かな音すら
聞こえてきそうなのだ。
・・・ こんなに静かで 穏やかな場所って
初めて かもしれないわ。
秘境や 廃墟とかとは違うのに。
ほら あの向こうには ちゃんと人々が
生活しているのに ね・・・
目を凝らせば 海岸の反対側にちらばる民家が見て取れる。
「 自然の音 って ・・・ 本当はどれも賑やかなのね。
文明の音が無神経に大きすぎるのよ きっと 」
ほう・・・ と 吐く息は でも やはりどことなくアンニュイだ。
ヒトは やはりヒトの中に混じることへと関心を向ける。
それが 性 ( さが ) なのかもしれない。
「 ・・・トウキョウって どんなトコなのかしらね ・・・
ここは本当に静かで 穏やかな土地だけど
ジョーが案内してくれた ヨコハマも結構賑やかだったけど
・・・ きっともっと ヒトも車も多いのね。
パリの街と似てるのかなあ ・・・ 」
ガタン。 玄関のドアが開いて 閉まった。
「 ただいまあ〜〜 」
あら ― ジョー ・・・
・・・もっと遅くなると 思ってたけど
「 もう・・・ また降ってきたよぉ
ったく〜〜 濡れちゃったしィ〜 」
あまり機嫌のよい声ではない。 彼にしては珍しい。
え? 傘を持っていったはずなのに・・・
リビングのソファで フランソワーズはごく普通に耳を澄ませた。
「 うへえ・・・ もう〜〜 Gパンの裾がびしょびしょだよ
そんなに降ってないと思ったんだけどなあ 」
ジョ―は ぶつぶつ言っている。
・・・ やだ〜〜〜 レイン・ブーツ とか
履いてゆかなかったのかしら・・・
もしかして いつものスニーカー・・・?
ってことは 靴下、悲惨・・・
これは冗談じゃない、 と 彼女も声を張り上げた。
「 ジョー? お帰りなさい ・・・
上がる前に! 隅に置いてある雑巾で足、ちゃんと拭いてね! 」
「 ただいま〜〜 フラン ・・・ え? ぞうきん?
・・ ああ これかあ ・・・ へいへい・・ 」
ガサゴソ ゴシゴシ 音が聞こえてくる。
「 ・・・ うへ きったね〜〜〜 あ〜 門の前で
水溜りに突っ込んじまったからなあ ・・・ 」
・・・ やだ〜〜〜〜
玄関、 汚さないで ・・・!
テラスから上がってって言えばよかったかしら・・・
「 ジョー! 靴下、脱いで! ねえ ジーンズも濡れたの? 」
< 見る > ことは しない。 それは普通の生活には不要だから。
別に 特殊な能力を使わなくても 彼の様子は声からで 十分に推測できる。
「 へ〜〜い 靴下 脱いだよ だ〜〜 Gパンも悲惨だ ・・・
え ココで脱ぐの?? それは〜〜 ちょっとぉ 」
「 ・・・ 裾 めくって! そのまま バス・ルームに行って
洗濯機に入れてちょうだい! 」
「 ・・・ あとで自分でやるから ・・・ あ〜あ
」
どたん どたん どたん ・・・ 湿った足音が階段を上っていった。
「 ちぇ〜〜 ・・・ 裾だけ手洗い するかあ?
う〜〜〜 めんど〜〜〜 洗濯機に放り込む か・・・
これ 気に入りなんだけどなあ〜 」
ぶつぶつボヤキが足音と一緒に 二階へ消えた。
「 やだ・・・ そのまま上がっちゃったのぉ??
・・・後で階段と廊下、拭いてもらわないと・・・
オトコノコって どうしてああ無頓着なのかしら ! 」
やれやれ ・・・ なんだってこんな天気なのに出かけたのか
彼女には さっぱり理解ができない。
「 洗うっていうけど あ〜 ・・・ このお天気にジーンズ、乾くかしらね?
あ 乾燥機、使えばいいのね
・・・ でも わたし、 出来ればお日様に乾したいなあ
乾燥機も便利だけど ・・・ あまり好きじゃないのよ
やっぱりお日様の香り には勝てません。 」
ほう ・・・
小さなため息を吐き フランソワーズは首筋に纏わりつく髪を払った。
雨の音は 雨の降る光景は 素敵だけど
この湿気は やはりあまり歓迎できない、と思う。
「 ドライ を掛けようかしら ・・・
でも この湿気がニホンジンのきめ細やかな肌をつくる・・・って
聞いたこと あるけど ・・・本当かしら。 」
思わず、むき出しの二の腕を眺めてしまう。
「 日焼け・・・したくないのよねえ・・・
日焼け止め 塗らなくちゃ。 あ・・・美白系の化粧品って
本当に効くのかなあ 」
バサ ・・・
最近 ハマっている化粧品のカタログに手が伸びる。
「 ふうん ・・・ パリに居た頃はあんまり気にしなかったけど・・・
そうよねえ 夏のバカンスにはわざわざお日様に当たってたし 」
パパ〜〜 ママン〜〜〜 お兄ちゃあ〜〜ん
声を限りに叫びつつ 畑の間を駆けまわった。
夏になれば 一家で田舎のコテージで暮らした。
特別裕福な家庭ではなかったけれど
休暇をとり 誰もが夏には都会から脱出していた。
とまと いっぱい〜〜 もてない〜〜
ははは フラン、帽子に入れろよ
兄と一緒に トマトやらズッキーニやらバジルを収穫した。
まあ ファン、たくさんねえ〜
ランチのパスタに使いましょうね
おう いいな。
パパがパスタを茹でよう。
わあ〜〜〜い♪
「 ・・・ そんな夏が ・・・ あったんだわ ・・・ 」
ついこの間のこと のはずなのに ― もう何十年も前の出来事なのだ。
「 ・・・ 思い出があるから ・・・ 平気 ・・・
雨の多いこの国でも ・・ 生きてゆける わ ・・・ 」
サア −−−−−−−−−
小さな雨粒は 次第に集まって細い雨になってきた。
「 あらら ・・・本格的な 雨降りの日 になっちゃった ・・ 」
彼女は窓辺から離れることができない。
窓辺に寄せた椅子に靠れ ずっと雨に目を奪われている。
ふうん・・・ キレイねえ 雨粒って
ようく眺めてると 雨って不思議・・・
故郷の街で 雨は冬によく降った。
雪混じりのことも多く いつも震えていた。
春や夏にも もちろん雨は降ったけれど 傘ナシでもなんとかなった。
ジャケットをかぶり 走ってカフェに逃げ込めば
あとは晴れるまで のんびり、オ・レを啜っていたものだ。
― だから
軽快な服装の時期にしっかりと傘を差すのは なにか不思議な気分だ。
この家に住み始めた頃は 面倒な気分もあってあまり傘を使わなかった。
・・・ めっちゃめちゃに濡れるのね。
しっかり 滲みとおっちゃう。
傘ナシで ぱ〜〜っと走ってカフェに入って
さささ・・っと払えばおっけ〜〜
・・・ なんて雨 じゃあないのよ。
おっきな雨粒がしっかり落ちてくるのね
・・・ この国で暮らすには
しっかりした傘 必須だわ
探してみれば 傘はもう・・・ 数知れないほどの色 模様 大きさ
そして タイプがあり それに合わせて 雨の日グッズは
本当に山ほどあった。
「 ふうん ・・・ レイン・ブーツを履いて ちょっと
散歩してこようかしら。
うふふ〜〜 この前 買ったおにゅ〜のレイン・ぶ〜つ、
デビュウしよっかな〜〜〜
うっふっふ☆ 雨の日っていつもと違う世界みたい 」
最初は驚いていたけれど 彼女は 雨の日の楽しみ方 を
見つけ始めた。
「 ふんふ〜〜ん♪ 雨のカーテンの中で景色まで
ちがって見えるわ。 」
雨の匂いのする街 ・・・ そんな言葉が浮かんだ。
「 あら そういうタイトルの本、あったかも ・・・・
あれはなんだったかしら ね ? 」
そめそめ落ちる水滴を眺めつつ 本棚の背表紙を思い巡らせてみた。
「 う〜〜ん・・・? 漫画だったかしら ・・・
タイトルしか覚えていないわ ・・・
そうだ、 駅の向うの大型ショッピング・モールにある本屋さん!
行ってこようかなあ ・・・ 」
どた どた どた。 ばたん。
リビングのドアが開いた。
「 ふぇ〜〜〜 ああ さっぱりしたあ〜〜〜 」
ジョーが タオルを首にひっかけて入ってきた。
ふんわり と 石鹸の匂い も一緒だ。
「 ・・・ あら。 シャワー浴びてきたの? 」
「 あ うん。 なんかさ〜〜〜 濡れてクサクサして ね
うん、 復活〜〜〜〜♪ 」
「 まあ・・・ 」
「 ふふふ〜〜ん♪ あ ねえ フラン?
ぼく 腹ペコなんですけど〜〜〜〜 もうお昼だよね? 」
「 ・・・ え あら もうそんな時間 ? 」
彼女は ゆっくりとリビングの鳩時計を振り仰ぐ。
「 そんな時間 です! ねえ ねえ 昼なんだけど
あれ つくろうよ あれ! 」
「 ? あれ じゃわかりません。 」
「 あ〜〜〜 アレだよぉ〜〜 えっと ・・・
くろっく・むっしゅう〜〜 ! 」
「 ・・・ クロック・ムッシュウ? いいけど・・・・
ベーコン、ないわ。 ハムでいい 」
「 いい いい! ねえ 一緒に作らない? 」
「 作るって・・・ すぐに出来ちゃうわよ? 」
「 あ〜〜 ・・・ あ そだ!
ねえ ねえ ほっと・ぷれーと あったよねえ 」
「 あるけど ・・・ 」
「 あれでさあ 作ろうよ、 くろっく・むっしゅう!
あの上で じゅわ〜〜〜〜っと さ 」
「 あら 楽しそうね! それじゃ ホット・プレートを 」
「 あ ぼく、出すよ。 フラン、 材料、だしてくれる? 」
「 ええ いいわ。 パンに卵、ミルクにお砂糖。
後は ハムとチーズ ・・・ 」
「 トマトとか ある? 」
「 あるわよ。 パプリカもあるから入れましょうか 」
「 ・・・ ピーマン じゃないよね? 」
「 赤いパプリカ よ 」
「 なら 歓迎〜〜〜 あれなら好きさ。 」
「 あら ピーマン 好きじゃないの? 」
「 ・・・ 苦手デス。 」
「 やだあ〜〜 コドモみたいよ? 」
「 苦手なものは苦手デスってば。 でもね パプリカは好きだよ 」
「 はいはい わかりました。
じゃ いろいろプラス、で クロック・ムッシュウ、作りましょ 」
「 うわ〜〜〜ぃ ♪ 」
ふふふ ご機嫌、治ったわね?
彼って ・・・ コドモみたいなとこ あるけど
・・・ 可愛いわ
よいしょ よいしょ・・・ ジョーが ホット・プレートを
運んできた。
「 キッチンでやる〜〜?
」
「 そうね いろいろ・・・材料 使いたいから ・・・
キッチンのテーブルで ランチにしましょ 」
「 おっけ〜 あ 飲み物! なににする? 」
「 オ・レ でいいわ。 」
「 おっけ〜〜 じゃあ ぼくも。 あのさ 商店街にある店で
も〜も〜ミルク っての、買ったんだ。 これ ウマイよ〜 」
「 そうなの? クロック・ムッシュウ にも使ってみるわ 」
「 うん! あ 温室から トマトと採ってくる! 」
「 お願いね〜 えっと 卵とハム・・・ チーズに 」
フランソワーズは 冷蔵庫から材料を取りだし始めた。
じゅわわわ〜〜〜〜〜〜〜 食欲をそそる音がした。
ジョーは どでん、と厚切りパンをプレートに乗せた。
「 パン・・・随分厚く切ったのね? 」
「 ふっふっふ〜〜〜 まあ 見ててよ・・・
えっと まずは〜〜〜 パンの両面をキツネ色に焼きまあす 」
「 ?? 上のハムとか乗せないの? 」
「 ん〜〜 ちょっと待ってて ・・・ 焼けたかな〜〜
で〜は こうして切れ目、いれます 」
薄いキツネ色になったパンの表面に 彼はミミの内側にナイフを入れた。
「 で ・・・ 押す。 」
「 ・・・ わ!? 」
くしゃ。 パンは四方のミミが壁になった入れ物 になった。
「 で さ。 ここに〜〜 具材 入れてくれる? 」
「 ! わかったわ♪ すっご〜〜い ジョーってば〜〜 」
「 えへ そう? 」
「 うん! 中身たっぷり な クロック・ムッシュウ だわ〜〜
えっと じゃあ まず 卵をさささ〜〜っと内側にぬって ・・・ 」
「 うひゃあ ウマそう〜〜〜 」
フランソワーズは つぎつぎに具材を置き、最後にとろける・チーズ を
のせた。
「 じゃあ これでね 上に蓋、するわ 」
「 わおう♪ 」
じゅ〜〜〜〜
いい香が いろんな香が 蓋の間から溢れでてきた。
ごっくん。 二人とも咽喉が鳴ってしまった。
「 もういいかしら うふふ・・・ 蓋、取ってみるわね? 」
「 うん! どきどき〜〜 」
「 いい? ・・・ いっせ〜〜の ・・・ 」
「「 せっ!!! 」」
ぱか。
蓋の下からはこんがり焦げたチーズがこぼれ落ちそうな パン が
現れた。
「 うっわ〜〜〜 ウマそう〜〜 」
「 すっごい豪華なクロック・ムッシュウ ができちゃった♪ 」
「 な なんか 食べていいのかな ・・・ 」
「 ふふふ〜〜 ねえ こっち もう焼けたわ ジョー どうぞ? 」
「 え 一緒にさ〜 」
「 熱々 とろ〜〜り が最高なのよ 焼けた方から食べて 」
「 じゃ さ。 これ 半分コしようぜ 」
「 あら いいわね! じゃあ 包丁持ってきて切るわ 」
「 あ このフライ返しで切っちゃう。 ・・・ よいせっ 」
ジョーは 案外器用に熱々のクロック・ムッシュウを半分にした。
「 さ 食べよっ 」
「 ええ きゃ〜〜〜 美味しそう〜〜 」
「 ね! それじゃ 」
いただきま〜〜す。 二人で手を合わせてから かぶり付いた!
「 ・・・ ん ま〜〜〜〜〜〜 !!! 」
「 お いし〜〜〜!!! 」
クロック・ムッシュウ というより、パン・ケース入りピザ みたいだったけど
できたて熱々を 二人はあっと言う間に平らげた。
「 おいし〜〜〜 わたし、こんな美味しいクロック・ムッシュウ
初めて食べたわあ 」
「 ぼくも! んは〜〜 ウマ〜〜 」
ジョーはぱりぱりパンのミミを齧っている。
「 ジョーってば お料理の天才じゃない?
いつもこんな風にして 食べてたの? 」
「 あ ・・・ 実はさ、ぼくも初めてなんだ 」
「 え?? 」
「 あの ・・・ 普通のピザ・トーストとか食べてて
もっと具がいっぱい乗ってたらなあ〜〜 って思うじゃん? 」
「 そうねえ 」
「 上に乗っけるのは限界あるし ・・・ じゃあ 厚切りパンを
入れ物にすればなあ〜 って思ってたんだ 」
「 あら やってみなかったの? 」
「 うん。 施設で暮らしてたし あんまし勝手なこと、出来なかったんだ。
ああやったら こうしたらな〜 って思ってただけで 」
「 ふうん ・・・ で やってみたら。
ほら こ〜〜〜んなに 美味しかったわ? 」
「 ふふふ そだね〜〜 」
「 メルシ、ジョー。 レパートリーが広がったわ。
ねえ これからこのウチの クロック・ムッシュウ は これ! 」
「 わっはは〜〜 やた〜〜 」
「 ねえ ・・・ このパン・ケースにシチュウとか入れても
美味しいかも ・・・ 」
「 うん。 あ! リクエスト〜〜。 今度 カレー いれてみて 」
「 あ いいかも♪ カレー・トースト ね 」
「 ひゃあ〜〜〜 楽しみ! あ ・・・ いっけね、飲み物!
カフェ・オ・レ だったよね 」
「 ああ わたしも忘れてたわ。 今 淹れるわ 」
「 ぼくがやるってば。 」
「 わたし お砂糖 いらないから。 ジョーは 三杯 でしょ 」
「 えへへへ・・・ 」
カチン カチン ・・・・
今度は コーヒーの香がキッチンを占有した。
「 ん〜〜〜〜 美味しい・・・
ジョー、 淹れ方、上手ねえ 」
「 あ は ・・・ 実はさ。 コズミ先生に特訓された 」
「 え〜〜 そうなの?? 」
「 そ。 島村クン。 珈琲を上手に淹れるのは助手の義務じゃよ ってさ 」
ジョーは コズミ邸のハウス・キーパー 兼 助手 をやっている。
一週間の半分くらい、 コズミ邸に通う日々だ。
「 美味しいわ ・・・ 丁度いいミルクの量よ 」
「 めるし〜〜〜♪ フランスのヒトに褒められちゃったよ〜〜ん 」
「 ふふふ ・・・ 」
ほわ〜〜〜ん ・・・ 二人ともお腹も気持ちも温まってきた。
「 雨の日なのに いい気持ち ・・・
あ ねえ ジョー。 トウキョウはどうだった? 」
「 ? 行ってないけど ・・・? 」
「 え そうなの?? 出掛けて来る っていうから・・・
ヨコハマかトウキョウに出てきたのかと思ってたわ。 」
「 あは 駅の向こうにね ちょっと行ってみたんだ。 」
「 へえ ・・・? 」
雨の中を・・・? 駅の向うって なにかあったかしら?
フランソワーズは 少し不思議に思ったが あまり根問いするのは
憚られた。
一つ屋根の下に暮らす < 仲間 > だけれど
お互いの行動をあれこれ詮索したくは なかった。
・・・ 何もなければ それでいいんじゃない?
彼女は さり気なく話題を変えた。
「 このお家って 不思議ね 」
「 え?? なにが 」
「 よくわからないけど・・・ 広いけど 誰もいないトコが多いでしょう?
昼間でも し〜〜〜んとしている場所がたくさん。 」
「 あ ああ まあ ね 普段は・・・ 」
「 別に怖いとかじゃないんだけど ちょっと不思議だわ 」
「 なにが。 」
「 誰もいない でしょ。 静かなの、当たり前よね?
・・・でもね 雨の日って。 ちょっと不思議な音が聞こえるの 」
「 ・・・ 音? ・・・ オバケ・・・?
」
「 わからないわ 雨の音が聞こえる日って
時々なんだけど 賑やかな音がするの。 」
「 ??? 賑やかな ・・・ 音? 」
「 そうなの。 誰もいないウチの中をね
トテトテトテ ・・・ タタタタって ・・・
駆けまわる小さな足音が聞こえことがあるの。 それも ふたつ。 」
「 え ・・・ それって ?? 」
「 だから このお家は不思議だなあ〜 って思うのよ 」
Last updated : 07,21,2020.
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********** 途中ですが
なんだか いつまでも 梅雨が明けないので
こんなハナシになりました。
こちらのジョー君は 梅雨だからって
イライラしたり 街でケンカしたりは しませんです。