『 雨降り ― (2) ― 』
「 さあ〜〜〜 ここで遊ぼう!
すぴか〜〜〜 縄跳び できるよ? すばる〜〜 お父さんとボール鬼しよっか? 」
片付いたガレージのシャッターを上げ ジョーは大声で子供たちを誘った。
「 ここなら濡れないからね〜〜 走りまわってもいいぞ。
あ 咽喉 乾いたらすぐに言うんだぞ〜 冷えた水 持ってきてるからね 」
とんとん・・・とクーラーボックスを叩いてみせた。
「 さ 遊ぼう! 」
「 ・・・・・ 」
「 ・・・・・ 」
すぴかとすばるは ガレージの入口でじ〜〜っと立ちんぼだ。
「 どうした? ああ いつもは車に当たるからって ダメだけど
今日は トクベツ ボール投げ、していいよ 」
ほら とジョーはカラー・ボールをぽ〜んと投げてみせた。
「 ・・・ 」
「 ・・・ 」
チビたちは え ・・・・ な顔でじろじろ〜〜 周りを見ているだけだ。
「 え〜と? お父さんは なにをしようかな〜〜
すぴか〜〜 大縄 やろうか。 すばる〜〜 キャッチ・ボール しよう! 」
お父さんはおおいに張り切って 遊ぼう姿勢 なのだが。
「 ・・・ ここ あつい 」
「 ねっちゅうしょう になりそう 」
子供たちがやっと発した言葉に ジョーはびっくりだ。
「 え?? 」
「 あつい〜〜 おと〜さん クーラー入れて 」
「 僕 お外にでてもいい? お部屋に帰ってじこくひょう、見たいんだ 」
二人は あまりこの場所が気に入ってない雰囲気だ。
「 あ〜〜 ・・・ ここにはクーラーはないな。
体育館のちっこいとこ、だと思って 汗 かいてあそぼう!
すばる 時刻表は晩御飯の後で 一緒に見ようよ。
ここは わ〜〜〜〜って遊ぼう。 あ 今度、わたなべくんも
一緒に誘おうよ ? 」
「 わたなべクン ・・・ 好きくないと思う ・・・ ここ。 」
「 お父さん。 体育館ってさ〜 涼しいだよ〜〜 」
「 ― え ? 学校の体育館 窓が大きいのかい 」
「 んん〜〜ん。 体育館 いつもクーラー ぎんぎん だもん ね〜〜? 」
「 そ。 体育館 いっぱい走らないと寒い〜〜 」
「 ・・・ た 体育館にも クーラー あるのかい ・・?? 」
「 うん。 ね〜〜 すばる? 」
「 うん。 ね〜〜 すぴか。 教室も クーラーだよん 」
へ ・・・・ え 〜〜〜〜〜〜〜
すぴかもすばるも ― 平成生まれ、 令和育ち のコドモ なのだ !
へええ〜〜〜〜
昔 夏の体育館って 汗と埃の匂い の
あつ〜〜〜〜い 空間 だったよなあ ・・・
体育の授業だって 汗だらだら〜〜〜 だったけど
なんか あの熱さと汗のにおい って懐かしいよなあ
うん ・・・ 夏休みの匂い っていうのかな
― そう、 子供にとって 夏 は 永遠のお楽しみの季節 なのだ。
・・・のはずなのだが。
「 おと〜さん お部屋にもどっていい 」
「 僕 〜〜 今月のじこくひょう 読みたいんだ 」
子供たちは 両側からジョ―にせがむ。
「 ・・・ あ〜〜 ここで遊ぶ って言うのは どう?
だるまさんがころんだ とか けんぱ とか さ。 」
「 アタシ いい。 」
「 僕も いい。 」
「 おと〜さんは やりたいんだけどぉ 」
「 おと〜さん。 ここ 暑いもん。 」
「 暑いもん、 ねっちゅうしょう に気をつけましょう って
学校の先生も言ってるよ 」
「 ・・・ そっか〜〜 ここ 暑い かあ 」
「「 うん 暑い。 」」
「 クーラー ないの、お父さん。 」
「 うちわ ないの お父さん 」
「 ・・・ ない。 それじゃ ・・・ 部屋に戻るかい 」
「「 うん ! 」」
「 おと〜さん ごほん 読んで 」
「 あ 僕も〜〜〜 」
「 ・・・ わかったよ。 あ〜あ せっかく作ったのになあ 」
「 なに つくったの おと〜さん 」
「 あ おと〜さん。 ここ カエルさんのあそび場 にしてもいい 」
「 なんでもなあいっと。 あ カエルさんは 庭が好きだって。
さ ・・・ 二人ともちゃんと傘 さしてな 」
「「 うん〜〜 」」
チビ達は ジョー苦心の < 雨天遊び場 > に
ほとんど興味を示さなかったのだ。
う〜〜〜ん ・・・??
今の子供って みんなこうなのかなあ
ジョーは 張り切っていた分、ど・・・っと疲れてしまった。
― リビングに戻れば
子供たちは結構楽しそうに室内で遊んでいる。
ふうん ・・・?
「 あら もう戻ってきたの? 」
フランソワ―ズが キッチンから顔を出した。
「 あ うん ・・・ どもうね〜〜 お気に召さないらしかった。 」
「 え ええ?? 子供たちが? 」
「 そ。 暑いから ってさ。 」
「 へええ ・・・ まあね ガレージにはクーラー、ないし
窓もないから 暑いかもね 」
「 らしいね。 最近は体育館でもクーラーなんだって? 」
「 ええ そうみたい。 教室は完全に冷暖房完備だしね。 」
「 ふ〜〜〜〜〜ん ・・・ 」
「 わたしの国ではそんなことなかったし ・・・
だいたい 暑くなる頃はず〜〜〜っとバカンスだったから
学校でクーラー なんて考えてもみなかったわよ。 」
「 ・・・ ふ〜〜〜ん 」
「 ジョーは? ジョーが小さい頃は どうだったの? 」
「 ぼくらの頃は 勿論クーラーなんか入ってなかったさ〜〜
・・・まあねえ 暑さが今とはちょっと違ってたからね 」
「 そうなの ・・・ 今はね、体育の授業もちょっとでも暑いと
クーラーの効く体育館で、なんですって。 」
「 ふ〜〜〜〜〜ん ・・・ 今はそんなモンなのかなあ ・・・
グラウンドでの部活とかも 暑い時は中止なのかもしれないね
あ フランたちのスタジオはどうなんだい? 」
「 え? ・・・ ああ 稽古場にも一応 クーラーはあるわ。
でも わたし達 あまり好きではないの。 汗 でないと調子悪いわ。
だから 鏡が曇るくらいになると ドライを少し掛けるって感じ 」
「 だよなあ〜〜 」
「 でも ダンサーは普通の人たちとは ちょっと感覚が違うから・・・
ジュニア・クラスでは ちゃんと冷房 いれるわよ 」
「 へえ 〜〜 」
「 最近のコたちは すぐに あつい〜〜〜っていうしね。
その分 わたし達は ごろごろ着こむけど 」
「 ふ〜〜〜〜〜ん ・・・・
あれ ウチってそんなにクーラー 入れないよなあ? 真夏でも・・・
アイツら あつい〜〜って言わないぜ? 」
「 ジョー。 このお家は涼しいもの。
窓も大きいし 風が吹き抜けるようにとても上手に設計してあるわ。
だから ウチはそんなにクーラーを使う必要がないのよ。
まあねえ ガレージみたく 閉めきった所はやっぱり暑いでしょうね 」
「 う〜〜〜ん ・・・ そっか〜〜〜 」
「 小型のクーラー つける? 」
「 いや。 そりゃ贅沢だよ。
なんか他の過ごし方を考えてみる 雨の日でも楽しく! ってさ
」
「 ありがと。 できれば あまりゲデゲデ〜〜にならない過ごし方を
考えてね〜〜 洗濯モノ、乾かないのよ〜〜〜 」
「 ワカリマシタ。 」
「 お願いします。 博士は大型乾燥機 を作ろうか って
おっしゃるのだけど ・・・ 」
「 いや。 普通 で行こう。
ぼく達は どこにでもいる普通の家族なんだから。 な? 」
「 ええ。 そうね 普通の家族 ですものね 」
「 それじゃぼくは チビ達の仲間に入れてもらうか 〜 」
「 うふふ ・・・ い〜れて って言わなくちゃダメよ? 」
「 ハイ。 お母さん 」
「 仲良しできたら おいしいオヤツを用意しておきますよ〜 」
「 わあい♪ 」
ジョーは どきどき・・・? チビたちの方に寄っていった。
「 すぴか〜〜 すばる。 なにして遊んでるのかな〜〜 」
「 え ・・・ べつに なんにもしてない〜〜 」
「 僕 じこくひょう 読んでるんだ 」
すぴかは 窓の方を向き すばるは 厚手の冊子をかかえくるり、と
背を向けてしまった。
「 あ ふ〜〜ん あの さあ
一緒にあそばないかなあ〜 おとうさんと 」
「 ・・・ あたし いい。 」
「 僕も いい。 」
「 え〜〜 お父さん 遊びたいなあ 」
「 お父さん 一人で遊んだら? 」
「 ・・・・・ 」
ページに集中しているすばるは もはや返事もしない。
「 すぴか〜〜〜 なにしてるのかなあ 」
「 ・・・ アタシ ゆみちゃん達と ぐるぐる話 やってるの。
アタシの番なんだから じゃましないで 」
「 ぐるぐる話? 」
「 そ。 じゆうちょう にね お話をつづけてゆくんだ〜
絵でもいいんだよ 」
「 へえ 〜〜 面白そうだね すぴかは お話かくんだ? 」
「 ん。 ゆみちゃんが 絵 つけてくれるよ 」
「 すご〜〜いなあ ・・・ 見せてくれる? 」
「 だ〜め。 ひ み つ☆ おんなのこだけ〜 」
「 ちょっとだけ〜〜 」
「 だめ。 みんなのやくそくだから。
あ お父さん、 お母さんと遊んだら? なかよし でしょ〜 」
「 ・・・ そりゃ なかよし だけどぉ 」
「 ・・・・ 」
すぴかは じゆうちょう に なにか熱心に書き始め ・・・
もう父親の方を振り向いてもくれない。
・・・ ううう ・・・ 父親は孤独だ ・・・
「 あら ジョー どうしたの 」
フランソワーズが タオルで手を拭き拭き リビングに入ってきた。
「 すぴか〜 すばる オヤツよ〜〜 」
「 わい〜〜♪ 」
「 わお 」
ダダダダダ −−−−
二人はジョーの脇をすり抜け キッチンに飛んでいった。
「 う〜〜 フラン〜〜〜 チビ達が遊んでくれないよ〜う 」
「 あらま 」
「 おかあさんと遊べば だって 」
「 残念でした。 お母さんは忙しくて遊んであげるヒマ ありません。 」
「 ちぇ 〜〜〜 ・・・ 」
「 ふふふ ・・・ チビたちと一緒にオヤツ たべる? 」
「 ― なんか また仲間はずれにされそう ・・・ 」
「 あのコたちには あのコ達の世界があるみたいよ? 」
「 そっか〜〜〜 ・・・ い〜れて って言ったんだけどなあ 」
「 うふふ・・・ ま 残念でしたね。
ねえ 島村ジョー君 は 雨の日はどうしていたの? 」
「 ・・・ え あ ほら・・・ いつかは街に飛び出したり・・・ 」
「 あ〜 ・・・ そんなこともあったわねえ
そうね もっと小さな頃よ、 あのコたちくらいのころ 」
「 チビ達の年頃? う〜〜ん ・・・? 」
ジョーはかなり真剣に考え込んでいた。
翌日 雨はなんとか上がったが 空は相変わらずどんより・・・
灰色の雲がのさばっていた。
「 ただいま ・・・ すぴか すばる? もう帰っているでしょう? 」
フランソワーズは あわてて玄関で靴を脱いだ。
「 ごめんね〜〜 お母さん、遅くなって ・・・
すぴか すばる? いるんでしょう? 」
ぱたぱたぱた ・・・ 彼女は両手にぱんぱんの買い物袋をさげ
リビングのドアを開けた。
「 ただいま戻りました。 ・・・ あら? 」
リビングでは すぴか と すばる がなにやら真剣な顔で
向きあっていた。
「 すぴか すばる ・・・? 」
「 やあ お帰り。 メールをもらったからな、ちゃんと
チビさん達は手を洗ってウガイして オヤツを食べたよ。 」
「 博士〜〜〜 ありがとうございました。
すみませんでした ・・・ リハ―サルが延長してしまって 」
「 大丈夫じゃよ、二人ともちゃんと説明してやって納得しておる。
聞き分けのいいものさ。 お母さんが忙しいことは 子供達、
よ〜くわかっているよ 」
「 ええ ・・・でも 学校から帰ってきた時には
できるだけウチにいて迎えてやりたいんです ・・・ 」
「 うんうん その気持ちもちゃんと伝わっておるさ。
さあさあ 一息いれなさい。 汗びっしょりだぞ 」
「 あ・・・ ホント ・・・
ちょっと顔、洗ってきますね 」
「 うん ああ この袋はキッチンに置いておくから 」
「 ありがとうございます すみません・・・ 」
フランソワーズは 荷物を置き、リビングを見回した。
「 すぴか すばる。 遅くなってごめんなさいね 」
「 おか〜さん おかえり〜〜 いそがしかったんでしょ 」
「 おかえり〜〜 おかあさん 」
子供たちが 左右から飛びついてきた。
「 きゃ・・・♪ ごめんね。 オヤツは頂いたのね 」
「 ウン! りんご・ぜり〜 おいしかった〜〜〜 」
「 えへ 僕さ〜〜〜 みるく・てい におさとう 三個! 」
「 あらら ・・・ お砂糖は二つまで、でしょ。
すぴかさん りんご・ぜり〜 すき? 」
「 すき! アタシ 大好き! 」
「 よかった ・・・ 」
フランソワーズはほっとして 子供たちのほっぺにキスをした。
「 えへへへ〜〜〜 」
「 うへへへ〜〜 」
うふふ わたしの可愛い天使たち♪
愛してるわあ〜〜〜
子供たちはご機嫌ちゃんで遊び始めた。
「 おか〜さん あやとり みて〜〜〜 」
「 あ やとり・・・?? 」
すばるが なにやら一生懸命 ヒモ と格闘している。
「 あ や とり って ・・・ そのヒモのこと? 」
「 そ〜。 あのねえ わたなべクンに教わったんだけどぉ〜
ほら みてて〜〜〜 」
「 え・・? 」
「 ん〜〜〜っと こうやって こうやって〜〜 」
すばるはぷっくりした指を 案外器用に動かし、 ヒモを操ってゆく。
「 〜〜 はい ろくだんはしご〜〜〜 」
「 はしご? いち に・・・ あら ほんと、六段あるわねえ 」
「 で ・・・ こうして こうして〜〜 はい はちだん〜〜 」
「 えええ? いち に さん ・・・ わあ 八段だわあ
す すごい〜〜〜 すばる すごい〜〜 」
「 えへへ・・・ おか〜さん できる? 」
「 えええ お母さん、 初めてみたわあ〜 すごい〜〜 」
「 あ アタシだってできるよ〜 すばる、ヒモ かして 」
「 ちょいまち。 ・・・ いいよ〜 はい。 」
「 さんきゅ おか〜さん みてて ! 」
「 はい。 」
すぴかも さっさかヒモを手繰る。
「 〜〜〜 で きくの花〜〜〜 」
「 きく? ああ 菊ね。 あらあ〜〜〜 ほんと!
すご〜い すごい すぴかさんも上手ねえ〜〜 」
「 えっへっへ〜〜〜 」
「 おか〜さん 僕ね はくちょう をれんしゅうしてるんだ〜〜
すっげ むずいの 」
「 白鳥? このヒモで・・・できるの? 」
「 ウン。 わたなべクン 上手だよ〜〜 おか〜さんに教わったんだって 」
「 まあ わたなべクンのお母様に? すご〜〜い〜〜〜
へえ ・・・ このヒモでねえ ・・・ すごい〜〜〜
」
フランソワーズは < あやとり > のヒモ、 毛糸の鎖編みのヒモを
手にとり しげしげと見つめていた。
その夜 ―
「 ねえ ジョー。 あやとり って知ってる? 」
「 はへ?? 」
ジョーは 遅めの晩御飯を食べていたが 目を白黒 ・・・
「 あやとり?? そりゃ知ってるけど ― なんで??? 」
「 あ〜 やっぱり知ってるのね〜〜 日本人は皆知ってるのかしら 」
「 いやあ・・・ 最近の子供とかは知らないだろ?
ぼくは 教会の施設でオモチャなんてあんまりなくて ・・・
寮母さんが教えてくれたのさ。 ヒモ一本あれば遊べるからね 」
「 そうなの ・・・ ねえ わたしに教えてよ 」
「 え・・・ 覚えているかなあ・・・ でもなんで? 」
「 すばるが 今 ハマってるの。 」
「 へ〜〜〜 すばるが?? 」
「 そ。 今日ね 〜〜〜 」
「 へえ ・・・ すばるがねえ ・・・ 」
ジョーは箸を止めて実に熱心に聞いていた が。
「 あら ジョー。 ご飯! 冷めちゃうわよぉ 」
「 あ ああ いいよ、冷めても美味しいから ・・・
そっか〜〜〜 あやとり かあ ・・・ 懐かしいなあ 」
「 面白い遊びね。 すばるったら案外器用にいろいろ・・・
やって見せてくれたの。 」
「 ふ〜〜ん そっか〜〜〜 」
あ。 そうだ! ジョーは再び箸を置いた。
「 !? な なあに??? 」
「 うん、 いいこと 思い付いた〜〜〜 ♪ 雨の日の遊び ♪ 」
「 え ガレージで遊ぶの? 」
「 いやいや 家の中でもできるんだ。 」
「 ああ あの・・・ あやとり? 」
「 あやとり だけじゃないんだ。 え〜〜っと けん玉 とか お手玉とか
そうそう コマ回し もいいなあ〜 」
「 ???? 」
「 ふふふ 皆 日本に昔から伝わる遊びなんだけど ・・・
小さな道具で 家の玄関とかテラスとかで遊べるのさ。 」
「 まあ 雨の日でもいいのね 」
「 そうなんだよ! それにね 結構 夢中になれるんだ。
あ〜〜〜 ウチには ・・・ ないなあ ・・・
商店街で売ってるかなあ 」
「 あそこに オモチャ屋さんはないわよ? 」
「 そうだよねえ ・・・ 雑貨屋のオジサンに聞いてみよう。
あ お手玉はねえ あ これ使えば〜〜 」
ジョーは 食卓に盛ってあったオレンジを二つ、手に取った。
「 ?? 」
「 こう〜〜〜 やってね ・・・ 」
彼は 案外器用にオレンジを ほい ほい ・・・ 宙に放り投げては
受け止め ・・・ を繰り返してみせた。
「 あらあ〜〜〜 すごい〜〜〜 ジャグリング ね 」
「 あ そっか〜〜 大道芸とかであるよね。
うん お手玉ってちょっと似てるかもな〜 ほい 〜〜 」
「 上手ね〜〜 ・・・ でもね ジョーさん。
食べ物で遊ぶのは 今だけです。 」
「 ・・・ すいません。 お手玉はね 本当は布の小さな袋に
なにかなあ?? シャリシャリするものが入っているのさ。
うん お手玉 も探してこよう 」
「 ふうん ・・・ なんか面白そう・・・
布製なら わたしにも作れるかも・・・ 中身はなあに。 」
「 う〜〜ん なんだろ? 米 ・・・ まさか ね ? 」
「 ふうん ちょっとネットで調べてみるわね 」
「 たのむ〜〜 ともかく週末にね、 商店街の会長さんに相談してみるよ 」
「 うふふ なんか楽しみね。 雨の日が楽しくなりそう 」
「 そうなると いいなあ 」
しとしとしと ・・・ サ −−−−−−−
その夜もずっと 細かい雨が降り続いていた。
― さて その週末。 ジョーは海岸通り商店街に出かけていった。
「 え〜〜〜 けん玉 に コマ? ・・・ う〜〜〜ん ・・・
雑貨屋じゃ 売ってないと思うなあ 」
商店街の会長を務めるオジサンは 腕組みをして唸っている。
「 あ〜〜 そうですか ・・・ じゃあ 東京で探すか ネットかなあ 」
「 なにかに使うのかい 岬の家の若旦那さん 」
「 いや 雨の日にね、子供たちと遊ぼうかな と思ったんですよ
アレなら 室内でも遊べますからね 」
「 そうだねえ ・・・ あ! ウチの物置、探ったらあるかも。
ウチの倅どもがチビの頃、 遊んでたからね 」
「 あ よかったら貸していただけますか 」
「 ああ みつけたら寄付するよ 」
「 え でも 大切な思い出の品を・・・ 」
「 いやいや 子供達に使ってもらえば それでいいよ。
で どこでやるんだい。 」
「 そうですねえ・・・ 子供たちが騒いでもいいとこ・・・って
ウチのガレージ 解放しようかなあ と・・・ 」
「 う〜〜ん そりゃ 悪いよ〜〜〜
・・・ ! あ 町の集会所 はどうかい?
最近全然使ってなくて ・・・ あそこなら商店街の外れだし
ガキどもがわいわい〜〜 やっても誰もなんもいわんよ 」
「 え〜〜 いいんですか 」
「 とりあえず 道具、探すよ。 ちょいと隣近所にも聞いてみる。 」
「 わあ お願いします〜〜
ぼくは チビっこ達 集めますね 」
「 おう 頼む。 すぴかちゃんたち も来るだろ 」
「 勿論です すばるがね 今 あやとり に凝ってるんですよ 」
「 お〜〜 あやとり ! それもあったなあ ・・・
ウチのば〜さんにも聞いてみるわな 」
話はなんだか とんとん拍子に進んでいった。
・・・ もしかして 商店街のオトナたちも雨でうんざりしていたのかも しれない。
― その次の週の土曜日。
やっぱり雨のその日、町の集会所には子供たちが わやわや・・・集まっていた。
すぴか と すばる のトモダチがほとんどだ。
オトナたちも ちらほらやってきてくれた。
「 もうすぐね〜 けん玉 がくるからね 」
ジョーは チビ達に説明する。
「 けん玉って知ってるかなあ? 」
しらない〜〜 なにそれ〜〜〜
ガラガラ −−− 集会所の玄関が開いた。
「 さあ〜〜 これだけ集まったよお〜〜 」
ごとごと ごとん。
商店街の会長さんは 大きな箱からけん玉を山ほど掴みだした。
「 わあ 〜〜 すごいですねえ どこにあったんですか 」
「 へへへ 商店街の親父連中に声、かけたのさ。
皆 ウチの納戸やら物置から掘り出してきたよ。
あ ヒモは確かめたから切れたりはしないよ さあさ 使ってくれ 」
「 わあ お〜〜 皆 おいで〜 」
「 おっと こっちはコマだ。 ふっふっふ〜〜 コマ回し は
オジサンが教えるよ〜〜 」
「 おしえて おしえて〜〜〜 」
オトコノコ達が わいわい寄ってきた。
「 よしよし・・・ まず な。 ヒモをこう〜〜〜 巻いて 」
「 ・・・・ こう? 」
子供達は実に熱心に取り組み始めた。
「 まあ 皆 熱心ね〜〜 冷たい麦茶、もってきたわよ 」
玄関に爽やかな声がして フランソワーズが入ってきた。
「 あ おか〜さん〜〜 」
「 すばる君のおばちゃん こんにちは〜〜 」
「 はい こんにちは わたなべクン。
さあ おばちゃんは こんなモノを持ってきたわよ〜〜 」
ころ ころ ころ・・・
フランソワーズは 大きな袋の中から沢山のちっこい玉を取りだした。
「 ほうら ・・・ お手玉よ
」
わあ〜〜〜 かっわい〜〜 きれい〜〜〜
オンナノコたちがたちまち集まる。
「 すっご〜〜い すぴかちゃんのおばちゃん、作ったの? 」
「 そうよ〜 すぴかやすばるのお洋服の布で作ったの! 」
「 すご〜い あ ばらのもよう〜〜 ステキ! 」
「 皆 お手玉 知ってる? ほうら こうやるの 」
フランソワーズは 二つ取り上げると上手に投げ上げた。
「 あれ 若奥さん 上手ねえ〜〜〜 」
「 え そうですか?? 嬉しい〜〜 」
「 三つはどう? ほら こうやって〜〜 」
「 わあ 上手ですねえ〜〜 」
「 うふふふ〜〜 」
八百屋のオバサンは お手玉の名手だった。
フランソワ―ズは 手ほどきしてもらうとたちまち上達し、
片手で三個 上手に投げ上げられるようになった。
「 う わ〜〜〜 おか〜さん すごい〜〜〜 」
すぴかが 目を丸くしている。
「 えへへ そう? よ・・・っと 」
ふうん ・・・ お手玉は 運動神経かあ〜
ジョーは 横目でみつつ感心していた。
ジョーも けん玉 と コマまわし を 子供たちに教えた。
「 あら わたなべクン。 上手ねえ〜〜 」
わたなべクンは あやとり が上手なのだ。
「 えへへ 僕ね お母さんにならったんだ〜 」
「 まあ そうなの?? 今度 わたなべクンのお母様に
教わりたいです 」
「 うん! お母さんにいっとくね〜〜 」
「 ねえ ねえ この後 どうやるの〜〜 」
「 あ それでね〜 こゆびにかかってるのを〜〜 」
すばるは わたなべクンに教わってどんどん上手になってゆく。
すぴか はけん玉が性に合ったらしい。
膝をつかってリズミカルに とん とん とん ・・・と
たちまち 世界一周 ができるようになった。
「 お〜〜〜 嬢ちゃん 上手いなあ〜 そうだよ、その調子 」
「 えへへへ・・・ そう? 」
魚屋のオジサンに褒められ すぴかは大にこにこだ。
「 やあ〜〜 賑やかにやってるな〜 オジサンもまぜてくれ〜 」
・・・ 後からやってきてくれた町内会のオジサンらは
コマまわしの達人たち だった!
「 いやあ〜〜〜 楽しいねえ〜〜 」
「 うふふ お手玉なんて 久し振り。 懐かしい ・・ 」
子供たちだけじゃなく オトナたちも楽しんだ。
「 うふふ ・・・ ジョー よかったわねえ〜〜 」
「 うん♪ なあ お手玉 教えてくれる?? 三個のヤツ 」
「 ええ いいわ。 ねえ わたしにもコマ回し 教えて! 」
「 よおし。 空中手乗せ の ひばり返し を教えてやろう 」
「 きゃあ〜 カッコイイ♪ 」
・・・ 一番楽しんだのは この二人 だったかも ・・・
そして −
さびれていた町の集会所で コマまわしやらの わ〜く・しょっぷ と
大会が計画されてゆくことになった。
「 床の問題? よし それじゃ 万能カーペット を作ろう 」
博士が張り切って コマ回し に耐える敷きモノを開発してくれた。
「 おや こりゃありがたいなあ〜 床が傷つく心配しなくていいや 」
商店街の会長さんは 大喜びだった。
雨の日 ・・ 海岸通りに住む小学生たちは足早に町の集会所にやってくる。
― そこには 町のおじ〜ちゃん やら おば〜ちゃん が
にこにこ・・・ 子供たちを待っていてくれるのだ。
雨の日 ・・・ オトナも子供も 楽しい時間を過ごすのだった。
― そうそう・・ 島村さんち の ガレージは。
除湿器を置きせんたくモノ干し場 になったそうな。
************************* Fin.
*************************
Last updated : 07,09,2019.
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************** ひと言 ***********
例によって 事件は な〜〜〜んも起きません☆
雨の日でも 島村さんち の皆は楽しそう・・・
ジョー君はきっと コマ回しの名人かも☆