『  雨降り ― (1) ― 』

 

 

 

 

 

 

   シトシトシト   サ ― ― ― ・・・・

 

細かい雨が降り続いている。

 

「  ・・・  う ・・・ ん ・・・? 

 

島村ジョーは その朝、雨のひそやかな音で目覚めた。

「 ・・ あ れ ・・・?  何時 ・・・? 」

寝ぼけマナコで 枕元の目覚ましを手繰りよせれば ―

「 ・・・ あ は  アラーム2分前 かあ ・・・ ちぇ。 」

なんだか 2分損をしたような気もしなくは ない。

まあ いっか ・・・ と 彼はベッドの中で大きく伸び〜〜をした。

 

   ・・ う〜〜〜ん ・・・ !

   ??  あれ?  

 

家の中からは  ―  なんの音も聞こえてこない。

 

「 ・・・ 静か過ぎる ・・・ あ だから 雨の音が聞こえたのか 

 ふ〜〜ん ・・・  」

 

いつもの朝ならば ―

 

「 ほらほら すばる〜〜〜 はやくしなさいっ 」

「 ・・ あ う〜ん ちょっとまってぇ 」

「 すばる〜〜〜 アタシ 先にゆくね〜 」

「 すぴかさんっ もうちょっと待ってて〜〜 」

「 え〜〜 アタシ ゆみちゃん達と縄跳びするんだもん 行くね! 」

「 あ・・・ すばる ほらほら早く食べて 

「 まだ ぎゅうにゅう のこってる〜 」

「 とっておくから! 帰ってきてから飲みなさいっ 」

   ガタガタ ゴトゴト  バタンっ

 

「 きゃ〜〜 もうこんな時間〜〜  洗濯モノが 」

「 ああ ああ ワシが乾しておくから。 30分のバスだろう? 」

「 ええ ・・・ 」

「 ほら 行きなさい  」

「 すみません〜〜  あ お昼のサンドイッチは冷蔵庫に・・  

「 ありがとうよ ほら ほら  ああ 転ばんようにな 

「 はい いってきます〜〜〜 」

   バタンッ ・・・! 

 

「 ジョー〜〜 出かけくるからなあ〜〜

 戸締り しっかりな 

「 おい 出掛ける前に 洗濯モノ、取り込んでおいてくれよ

 わかったな〜 」

   バタン ・・・

 

そんな音に満ち溢れていて ― 彼のウチの朝は かな〜〜り騒がしいのだ。

 

   それが −−−−

 

「 ?  あ〜〜  そっかあ〜〜

 皆 もう出ちゃったんだあ  ・・・ こんな時間だもんな 」

 

    ふぁ〜〜〜〜〜〜  う〜〜〜ん ・・・!

 

ジョーは 改めて時計を見、でっかい欠伸をしもう一度伸びをすると 

もそもそ・・・ ベッドから這い出した。

「 ふぇ ・・・  ああ シャワー 浴びよ ・・・ 」

パジャマのまま 彼はよろよろ・・・ バス・ルームに向かった。

 

 

「 ふ 〜〜〜〜 」

少しはさっぱりした顔で ジョーはリビングに入ってきた。

 

    カツン。   入るなり なにかを蹴飛ばした。

 

「 ・・・ お〜〜っとぉ〜〜 あぶね〜〜  ん?

 あ〜〜 すばるの はやぶさ の模型かあ  やれやれ 」

手作り模型を拾いあげ 壊れてないことを確認し、ソファの上に置いた。

「 おっと・・・・ 」

リビングには 洗濯ロープが張られ 子供たちのTシャツやら ジーンズやらが

ぶら下がっている。  

ジョーの身長だと 丁度アタマに当たる。

 

「 いっぱいあるなあ  う〜〜ん 梅雨だもんなあ

 チビたち 汚し盛りだし ・・・ 仕方ないよね  」

 

フランソワーズは レッスンと仕事 子供たちは勿論 学校。 

博士はコズミ博士と会合へ  ―  家にいるのは ジョー 一人。

 

編集部勤務の身だが、校了明けなので 

今日はいつもより遅い出勤でよいのだけれど・・・

いつもは賑やかな家の中も しーんとしている。

 

    ・・・ 雨の音 なんて久しぶりに気が付いたなあ 

 

ふらり とキッチンに入りコーヒーを淹れる。

なんとなく面倒くさくて インスタント・コーヒーにじゃばじゃば

湯を注いだ。

 

「 ・・・ ふ ・・・ん ・・・ 」

 

熱いだけの奥行きの浅い味に 少し懐かしいと感じた。

し〜〜んとした家の中には しめった空気が淀んでいる。

 

「 ふう ・・・  こんな時間って  久し振りだな ・・・

 ふふ ・・・ 雨の音ってのもなかなかいいもんだ 」

 

キッチンの窓からは 雨で白くけむった緑が見える。

裏山の木々は ぐん! と 伸びをしているみたいだ。

 

「 ふぁ〜〜〜〜 ・・・ なんだかまた眠くなってきた かも 

 ・・・ 雨 かあ 〜〜〜  ふうん ・・・ 

 

 ことん。  マグ・カップをテ―ブルに置きなんとなく部屋を見回す。

 

「 ふふ ・・・ いつだったか ・・・

 続く雨に妙〜にイライラして さ。 なんでかなあ ・・・

 突然 街中に飛び出していったこと、 あったよなあ 

 げでげでになって 帰って。 

 あ フランに怒られる〜〜〜って思ったんだけど  」

 

彼女は 玄関に立つびしょくたな彼を見ると ― 

「 ! ちょっと待って! そこにいてよっ 」

奥に 引っ込むを すぐにバスタオルと古新聞を抱えて戻ってきた。

「 あ あの ・・・ 」

「 ほら これでアタマ拭いて!  スニーカーは新聞紙の上において。

 あ 濡れた服もここに置いてね。  お風呂 すぐ入れるわ 」

「 ・・・ あ  あのぉ ・・・ 」

「 濡れると寒いわ 風邪 引かないようにね 

 熱いカフェ・オ・レ 淹れておくわね 」

「 あ ・・・ ありがと ・・・ 

「 じゃ ゆっくり温まってきてね 」

「 あ ・・・ うん ・・・  あ あの フラン? 」

「 ? はい? 」

振り返ったフランソワーズは いつもの笑顔だ。

「 あの ・・・ ごめん ・・・ その 勝手に飛び出しって 」

「 ?  なぜ? 」

「 なぜ ・・・って  そのう〜  」

「 可笑しなジョー  あ 晩ご飯のリクエスト ある? 」

「 ・・・ きみの料理なら なんでも食べたい 

「 うふ ありがと。 

彼女は 笑顔のままひらひら・・・手を振ってキッチンに消えた。

「 ・・・  ・・・ 」

びしょくたのまま ジョーは しばらく立ち尽くしていた。

 

         !    ぼくって!  ほっんと!  ガキだよ  まったく!

 

 

「 ふ ふふ ・・・ あの後 自己嫌悪でぺしゃんこだったよなあ

 まあ 実際ガキんちょだったよ うん ・・・ 」

 

誰にでもある 若い日の苦い思い出 というヤツかもしれない。

マグ・カップに残る液体は もうただの冷えた苦い水になっていた。

 

「 ま 若い頃ってのはそんなモン か ・・・ 

 若いってば ― チビたち 元気いっぱいだけど 」

ふっと 彼の宝モノな子供達の顔が浮かぶ。

小学生の二人は この家の太陽であり台風でもあり ―

ジョー達は 彼らに振り回されている日々だ。

「 ふふ ・・・  アイツらがいてくれるから 頑張れるんだもんなあ〜

 仕事だって ここまで出来るって思ってもみなかったし ・・・ 」

彼は 今 編集人 として猛烈に忙しいが最高に充実した日々を

過ごしている。

サイボーグ という特殊な事情も 時としてすっかり忘れていることも

多い。

それは 彼の伴侶であり 彼の愛しい子供たちの母親であるフランソワーズも

同じ らしい。

彼女は 妻 母 そして バレエ・ダンサー として これまた

超〜〜〜 忙しい日々を送っている。

 

「 皆 ! いくわよっ 」

 

今 それが彼女の口癖だ。

その声で ジョーも子供たちも ようし・・・! と

エンジンをかけ スタートしているのだ。  

「 うむ あの声を聞くとなあ 背筋がしゃん! とするんじゃ。

 こりゃあ 頑張らなくちゃなあ ってね。 さて ワシも 」

博士も 最近とみに元気なのだ。

 

「 あ〜 ホント ぼくには過ぎたオクサンだよ〜〜

 うへへ〜〜〜 シアワセ♪ 」

ジョーは 一人でびろ〜〜〜〜んと鼻の下を伸ばしていた が。

「 うん チビたち ・・・雨続きで外で遊べなくてつまらないだろうなあ・・・

 そうだ ! ウチのガレージで遊べるかも 」

ばっと立ち上がると 彼はそのままガレージに降りていった。

 

ギルモア邸のガレージは 普通車が三台は止められるほどの広さ。

普段は ジョーの車一台だけなので空間はある。

 

「 よし。 ガラクタを集めて 掃除して―

 そうそう すばるのしんゆう君も一緒に遊べればいいなあ〜

 うん すぴかの縄跳びもできるぞ〜〜 」

 

よいしょ よいしょ ・・・ 車用の工具やら スペアのタイヤやら 

を片側の壁にある棚に押し込む。

それだけでも普通の人間には大騒動だが ― そこはサイボーグ♪

 ふんふん〜〜 と 難なくやってのけた。

ざっと床を掃除し 天井についている蜘蛛の巣を払い 明かり取りの窓を

拭く。

 

「 ひえ〜〜〜 ・・・ こんなに明るかったんだ? 

 ― もしかして初めて拭いたかも なあ 

 お? 天井のライトも掃除すれば  」

 

ジョーは夢中になってガレージを掃除していた。

 

  ― そして 

 

「 う ん まあまあ かな〜〜  いい遊び場になるかも 」

 

ふう〜〜 と一息。 

埃と汗で 今朝、着替えたばかりのTシャツはげでげでになってしまったが

気分は爽快だ。

 

「 ふふふ〜〜ん ♪  こ〜れはチビ達に自慢できるかも〜〜 」

う〜んと伸びをして ふと 壁の時計に視線が行った。

 

   「  あ!  やっべ〜〜〜〜 急がないと〜〜〜 遅刻だっ 」

 

だだだ〜〜〜〜  母屋に駆けだした。

 ― 一瞬 ・・・ このまま加速そ〜ち!して げでげで〜〜の上下を

燃やしてしまおうか・・・とも思ったが

 

「 いや。 そりゃマズイよ。 今は ふつ〜の日 なんだから。

 それに フランになんて言うんだよ?  ぅ〜〜〜  

 

彼はとにかくバス・ルームに跳びこみ げでげで〜を脱ぎ棄て

もう一度シャワーして 再び飛び出していった。

 

「 わ〜〜〜〜  遅刻するぅ 〜〜〜〜 」

 

009 は 血相を変えて家の前の急坂を駆け下りていった。

 

 

 

 ― その日の午後も 遅い時間、といっても空はまだ暗くなっていない頃。

 

「 ただいま〜〜〜  ふう 〜〜  

この邸の女主人が ご帰宅だ。

おおきなバッグを肩からかけ、両手にはスーパーのレジ袋を下げている。

 

「 よ・・・いしょ ・・・っと ・・・  ん? 」

 

 ふ と気づけば。  

 

キレイに掃除された玄関のタタキに土足の跡が 点 点 点 ・・・

 

「 !? うわ なに これ・・・ ど どろぼう? 」

瞬間 彼女は003の視覚と聴覚をonにし、 家中を索敵した。

 

    ・・・・ 地下から屋根裏まで  異常ナシ。

 

「 ふう〜〜  泥棒・不審者 は いないわね。 よかった ・・・

 え? じゃあ これ・・・ なに?? 誰の仕業? 」

フランソワーズの眉がきりきり〜〜〜 と吊り上がる。

荷物を置いて 彼女は入念に観察した。

「 どろどろの靴下の跡 みたい ・・・ すぴか? すばる?

 ううん これはオトナの足跡だわ〜〜  チビ達のじゃない。 」

 

  ってことは。  う〜〜〜む。

 

主婦の眉はますます吊り上がる。

「 ジョー〜〜〜〜〜〜   今日は遅出だったはず。

 いったいなにをやっていたの〜〜〜 」

念のため どろどろの跡をたどれば  ― お約束の通りバス・ルームへと

続く。

「 ・・・ いや〜〜な予感。 ドア 開けたくないわ ・・・ 」

 

  えいっ   目をつぶってバス・ルームのドアを開けた。

 

「 ・・・ !!!  」

洗濯機の脇、洗濯モノの籠の側に  げでげでの上下 の山 が。

「 〜〜〜〜〜 な に  こ  れ 〜〜〜 

摘み上げるのもためらわれる。

ソレは確かに彼女の夫の、愛する彼の 脱ぎ捨てたシャツとジーンズ。

「 ・・・ なんだってこんな風になるわけ???

 雨の庭を転げまわったりしたの?  ・・・ まさか ね。

 クビクロだってそんなこと、しなかったわよ?  」

まあ 他の洗濯モノと一緒くたにしなかったことは 唯一の救いかもしれない。

 「 う〜〜〜〜 」

彼女は 指先で摘みあげ バス・ルームの排水口近くに投げた。

「 まずは このどろどろ、落とさないと〜〜 」

ホースでじゃ〜じゃ〜 ・・・ 水をぶっかけ 

なんとか どろどろ を流した。

「 ・・・ もう〜〜〜 ただでさえ洗濯モノが乾かないのに〜〜 」

自分自身も少し濡れてしまい 彼女の機嫌はますます悪くなってゆく。

「 いっけない ・・・ チビたちのオヤツ、準備しなくちゃ。

 あ〜あ 今日は少し早く帰れるから 一休みしよう〜〜って

 思ってたのになあ〜〜 」

バレエ団で 朝のプロフェッショナル・クラスに出て その後は公演のリハーサル

そして ジュニア・クラスの教え ・・・

コドモたちが帰宅するまえに〜 と 大急ぎで帰宅する。

 ― それが フランソワーズの日々のスケジュールだ。

 

「 えっと 〜  オヤツは ミルク・プディング ・・・・ 冷えてるわね♪

 あと こういう時には温かい飲み物がいいのよね〜 ミルクティ ね

 今晩のオカズは〜〜 」

 

キッチンで忙しく動いていれば ・・・

 

「 ただいま  今 戻ったよ 」

「 あ 博士!  お帰りなさ〜〜い 」

玄関に飛んでゆく。

「 お帰りなさい。 お疲れ様でした 」

「 おお ただいま。  ・・・ どうしたね これは 」

博士も 玄関の上がり框の  げでげでの跡 に驚いている。

「 あ!  いっけない〜〜 掃除するの、忘れてました〜〜

 今 拭きますね 」

「 ああ ワシがやるよ。 しかし なんだい この汚れは 」

「 ・・・ ジョー だと ・・・ 多分 

「 へえ??  この泥が? チビさん達・・・ではないな。

 二人ともワシより早く出かけたし 朝 玄関は掃除したよ。 」

「 ですよねえ ・・・ なんだってこんなに・・・

 あ バス・ルームには どろどろの上下が脱ぎ棄ててありましたわ 」

「 ?? 一人で 雨の中でなにかやったのかね? 

 ワン公だとて 雨の日は小屋の中だっただろう? 」

「 ええ。 」

「 ま ここはワシが拭いておくから。 

 お前はチビさん達のオヤツの準備でもしておやり。 」

「 はい ありがとうございます。  あ 温かいお茶、淹れますね 」

「 おお ありがとうよ 」

博士は 足取りも軽く書斎に鞄を置きにいった。

 

 

「 た〜〜だいまあ〜〜〜〜 す ぴ か よ〜〜ん 」

「 ・・・ ただいま すばるぅ〜 

元気な声と供に 玄関ドアが開いた。

「 ほい お帰りだな 」

「 ええ 台風到着 です 」

フランソワーズは 博士と美味しいお茶を楽しんでいたが

肩を竦め 立ち上がった。

「 ふふふ ・・・ 元気で何より じゃよ。

 ああ お茶も プディングも 美味しかったよ ・・・ うん 

 雨の日も なかなかいいなあ 」

「 ええ プディング、美味しく冷えてましたね。

 お帰りなさい  すぴか すばる〜〜 」

フランソワーズは 声を張り上げ玄関に向かった。

 

 

「 ただいま〜〜〜  おか〜〜さん アタシ、 上がっていい? 」

すぴかが玄関で 飛び跳ねている。

「 ちょっとまって。  足は? 濡れてる? 」

「 う〜〜〜 ううん  長靴だもん。 」

「 そうね。  あらあ〜〜 ハネが首まで・・・ ここでTシャツ 脱いで 」

「 ウン・・・  はい。 おか〜さん。 」

すぴかは すぽん、とTシャツを脱ぐと母に渡した。

「 はいはい。  さ お部屋に行って着替えてきてね。 オヤツよ 」

「 わあ〜〜〜い♪  」

すぴかは ランドセルを背負いなおし 階段を駆け上がっていった。

「 ふう ・・・ すばるは? 」

「 おか〜さん ただいま〜〜  ねえ おみやげ。 

いつもにこにこ〜〜 すばる君は 笑顔でなにかを差し出した。

「 ・・・ なに。 」

「 あのねえ かえるさん。 ちっちゃくて かわいいんだ〜〜〜

 オトモダチになったの 

「 ! ・・・ カエルさんは。 お庭にいてもらって。 」

「 え・・・ お部屋でいっしょに 

「 カエルさんは  ―  お水が好きなの。 お庭がいいって 」

「 じゃ 僕もお庭にいる〜〜 」

「 すばる君? オヤツあるわよ〜〜〜 すばる君の好きなプディングよ?

 ランドセル 置いて 手を洗っていらっしゃい? 」

「 ・・・ かえるさんも オヤツ ・・・ 」

「 カエルさんのオヤツは ・・・ 虫さん でしょ?  お庭。 」

「 ・・・ わかった ・・・ じゃあ お庭に行こうね 」

 すばるは手の中の カエルさん に話かけつつ 庭に周っていった。

 

     よかった〜〜〜〜〜 ・・・・

     ウチの中に カエル 持ち込まれちゃ ね

 

「 おか〜さん〜〜〜 オヤツぅ〜〜〜 」

「 はいはい 今 行きますよ 

すぴかの声に 母はまたまたキッチンに駆けこんでいった。

 

   ・・・ バス・ルームには またまた洗濯モノが増えていった。

 

 

「 むぐむぐ 〜〜〜〜 

「 〜〜〜 おいし〜〜〜 」

チビ達は オヤツに夢中だ。

「 二人とも  今日はなにをして遊んだの? 」

「 アタシ〜〜 なわとび!  にじゅうとび 10回できるんだ〜〜 」

「 まあ すごいわねえ  え 校庭にでたの? 」

「 雨だよ〜〜 おか〜さん。 たいいくかん 」

「 あ そうよねえ ・・・  すばるは? 」

「 僕ね〜〜 だいち君とぉ じゃんけんとり。 」

「 じゃんけんとり?  陣取りのこと? 

 すばるも体育館で走り回っていたのね?  」

「 ん〜んん ・・・ こやってね〜〜 点々をつないでね〜 

 じゆうちょう にさあ〜  」

すばるは テーブルの上に指で書いてみせた。

「 ・・ ああ 三角取り ね 

「 さんかくとり? 

「 そうよ  三角形がいっぱい書けるでしょう? 」

「 あ〜〜 そうだね〜〜  さんかくとり !

 あ こんど しかくとり やってみようかなあ 

「 それもいいけど・・・ すばるは体育館で ドッジボールとか

 しないの? 」

「 しない。  たいいくかん こみこみだし〜〜

 雨の日は  きょうしつ でしずかにあそびましょう〜〜 って 」

「 う〜〜ん ・・・ そうなんだけど ・・・ 

「 ん〜〜〜  ミルクテイ おさとう もういっこ いれていい? 」

「 もうふたつ 入ってますよ。 ちゃんと甘いでしょ 」

「 もっとあまくして いい? 」

「 それで十分よ。  二人とも 食べ終わったら宿題してね。 」

「 ウン ・・・ あ おか〜さん おんどく、きいて〜 」

「 はい すぴかさん。 すばるくんもでしょ 

「 僕 おと〜さんにきいてもらう〜〜 」

「 あ〜 今晩 お父さん 遅いと思うわよ? 

 すばるが おやすみなさい してからお帰りだと思うわ 

「 え〜〜 ・・・ あ じゃあ おじいちゃま におねがいする 」

「 ・・・ おかあさん じゃ だめ? 」

「 う〜〜ん ・・・ だまってきいててくれる? 」

「 え・・・ 」

「 おか〜さんさあ 僕がおんどくすると まあすてき とか

 わあ〜〜 そうなんだ? って いろいろ言うんだもん。 」

「 ・・・ ごめんなさい。 だまって聞きます。 」

「 ん  じゃあ おか〜さん きいて 」

「 はい。  」 

「 これ たべたらきょうかしょ もってくるね〜〜〜 

すばるはとて〜もシアワセそうな顔で ミルク・プディングを

ちびちび食べている。

すぴかはと〜〜っくに食べ終わり 子供部屋に宿題を取りに行った。

「 すばるく〜〜ん  あと一口〜〜 つるん! って食べて

 宿題しましょ? 」

「 ん〜〜〜んん  僕 ミルク・プディング 大好き〜〜

 ゆ〜っくりたべる〜〜〜 

「 でもね プディングは冷たい方が美味しいと思うな〜〜 お母さんは。 」

「 ん〜んん  おか〜さんの ミルク・プディング いつでもおいしいも〜ん

 あ〜〜〜 おいし〜〜〜〜 」

「 ・・・ く ・・・ 」

もうこのコは やっぱり? ジョーの息子なのだ!

こんなチビでもちゃ〜〜んと 女ココロを 捕らえて離さない・・・

「 〜〜〜〜 う  でもねえ 」

「 なに? おか〜さん  あ〜〜 おいし〜〜 」

「 ・・・・ 」

息子の満面の笑顔 に 母はど〜〜しても勝つことはできず

すばるのシアワセたいむ は 永遠に続くのか・・・と思われた  が。

 

  だだだだ 〜〜〜 !   すぴかが子供部屋から駆け下りてきた。

 

「 宿題 もってきた!  すばるも! はやくもってきな 」

「 僕 まだおやつ〜〜〜  

「 おっそ〜〜〜   あ のこしてる〜〜 アタシが食べるっ 」

「 ?  あ〜〜〜〜 」

 

   つるん。  

 

最後の一口 と思しきプディングを すぴかが素早く横っちょから失敬した。

「 ・・・ ぬる・・・  

「 !!  〜〜〜 僕の プディング ぅ〜〜〜〜〜

 すぴか が とったぁ〜〜〜〜 」

「 一口だけじゃん。  さ 宿題しよ! 」

「 う〜〜〜  僕のプディング ぅ ・・・・ 」

「 宿題!  じゃ〜 アタシ、先におんどく、聞いて。 お母さん 

「 はいはい。  あ すぴか?  すばるに ごめんね して?

 すばるのオヤツ、食べちゃったでしょ 」

「 だ〜〜って残してるから〜〜〜  

「 の のこしてたんじゃないもん っ とっといたんだあ〜〜 

「 へ〜〜〜 ず〜っと食べてなかったじゃん〜 

「 さいごに一口 たべるっておもってぇ 」

「 ヘンなの〜〜〜 」

「 さあさあ 二人とも? すぴか 一応 ごめんね して?

 すばるは もうちょっとさっさと食べること。 いい? 」

「 ・・・・ 」

「 ・・・・ 」

 

   ぶす・・・っとしつつ なんとか双子は仲直りした らしい。

 

「 すばる? 宿題 持ってらっしゃい。

 その間に お母さん、お皿やカップを洗ってしまうから 」

「 ・・・ うん 

「 おか〜さん アタシ  じゃ〜〜ってやる! 」

水遊びがしたいすぴかが 嬉々としてお手伝いを申し込む。

「 お願いね。 でも ちょろちょろ〜 でいいの。 ゆっくりね。 」

「 ・・・ う ん 

 

    はあ〜〜〜 やれやれ やっとオヤツが終わったわ

 

ギルモア邸の午後は 賑やかにすぎてゆく。

 

 

  ― やがて ・・・

 

博士も一緒に 賑やかな晩御飯が終わり ― お風呂を済ませた双子たちは

< おやすみなさい > をしていった。

 

「 ふう ・・・ 」

「 ははは  お母さん、お疲れさん。  」

「 もう 本当に・・・ 」

「 いや 元気でなにより、じゃよ。  ジョーは遅いのか? 」

「 ええ ・・・ 」

「 アイツもいろいろ大変だなあ  」

「 ふふ ・・・ 仕事、すごく楽しいみたいですよ。 」

「 そうか そうか ・・・ アイツも天職をみつけた、ということだな。 」

「 さあ ねえ・・・  そうだといいですけど。 」

「 ・・・ お前たち 皆の幸せがワシの願いだ ・・・ 」

「 ・・・・ 」

フランソワーズは 静かに博士の手を握った。

 

 

  ピンポーーン  ・・・

 

チビ達が もうすっかり夢の国の住人になった頃

玄関のチャイムが鳴った。

 

「 ・・・ お帰りなさい ジョー 」

「 ただいま  」

すぐに迎えにでた彼女は 彼と熱〜〜〜いキスを交わす。

これは結婚当初からの 二人の大切な習慣なのだ。

 

「 お疲れさま ・・・ まだ降っているのね 」

「 ああ ・・・ 一日中降っていたねえ 

「 ええ。  ― ねえ ジョー。  なんで? 」

「 ???  はい?? 」

「 なんで  あんなに汚れたの? げでげで ・・・! 」

フランソワーズは 今はぴかぴかに戻った床を指した。

「 ・・・ あ!  あ  ああ  ごめん!

 すごく急いでたんで 遅刻しそうでさ〜〜  だだ〜〜っと 

「 間に合ったんでしょ? 」

「 うん なんとか。 

「 よかったわ。    でもなんで げでげで なの? 」

「 あ ・・・ うん ・・・

 あのう〜〜 思い立ってさ ガレージの掃除をしたんだ。 」

「 ?? なんで? 」

「 あのさ  チビたちの雨天遊び場 にしようと思ってさ ! 」

「 うてんあそびば?? 」

「 そ!  この雨続きで 外で走り回れなくてつまんないだろうな〜〜

 って思ってさ。  ガレージ、片したら結構広くなってね 

「 まあ ・・・ 」

「 でもさ 今まであんまり掃除してなかったから ・・・ 

 すっげ埃で・・・ もう 真っ黒〜〜 

「 ああ それであんなに げでげでになったのね 」

「 そ・・・ ごめん ・・・玄関汚した? 」

「 博士が掃除してくださったわ。 シャツとジーンズは洗濯機! 」

「 すいません 〜〜  」

「 ふふ ・・・ ありがと、ジョー。 子供達 喜ぶわよ きっと。 」

「 だよな〜〜  すばるのしんゆう君も呼ぼうよ。 」

「 そうね そうね   スペシャル・オヤツ 作ろうかしら。 」

「 お いいねえ〜〜 冷たいモノ、 頼むよ 」

「 オッケ〜〜  うふふ  今度の週末にオープン ってどう? 」

「 そうしましょう、奥さん 」

「 ジョー ・・・ 貴方 本当に素敵なお父さんね♪ 」

「 えへ ・・・ 」

 

     ちゅ♪♪  もう一度 熱いキスが降ってきた

 

 

 ―  その週の土曜日。  ジョーはコドモたちとガレージにやって来た。

 

      ガラガラ −−−−−   ガレージのシャッターが上がる。

 

「 さあ ここでい〜〜っぱい遊んでいいよ 」

 

「 ・・・・ 」

「 ・・・・ 」

 

   すぴか と すばる は  じ〜〜〜っと固まっていた。

 

 

Last updated : 07,02,2019.               index      /     next

 

 

*********** 途中ですが

お馴染み 【 島村さんち 】 シリーズです☆

梅雨にちなみ 季節小話?  

原作のジョーは 雨降りはキライみたいですね