『  秋 来ぬと  ― (2) ―  』

 

 

 

 

  カチンカチン  ずずず〜〜〜  ぱりぱりばりばり〜〜

 

キッチンは なにやら賑やかな音でいっぱいだ。

ついでに 甘いのとしょっぱいの の匂いも漂っている。

 

「 ・・・ おいし〜〜〜〜!!  おか〜さん 

 僕 これ だいすき〜〜  じゃむ〜〜〜 だいすき! 」

「 むぐむぐ〜〜  こっれさあ〜〜〜 めっちゃかたくてえ〜〜

 おっいし〜〜〜〜  ばりばりばり〜〜〜 」

「 すぴか すばる  おいしい? 」

「「 うん!!!! 」」

「 そう よかったわあ  あ お代わりほしい? 」

「 うん!!!   」」

「 はいはい ・・・ じゃ すぴかさん おせんべい もう一枚。 」

「 わい〜〜〜〜〜〜  これ ・・・ くさした・せんべい? 

すぴかは 袋のデザインに目を留めている。

「 ? ああ それはねえ  音読みしてみたら? 」

「 う〜〜ん ?  」

「 あのね ○○○せんべい って読むの。 」

「 ふうん  ・・・ お店のなまえ? 」

「 あら いいえ。 それはね 地名でもあるし そのお煎餅の名前でも

 あるのよ。  すぴかさん 好きかしら 」

「 うん! アタシ すき〜〜〜〜  このお煎餅(^^

 かたくてさ〜〜 しょっぱくて〜 ねえ もう一枚〜〜〜 いい? 」

「 晩ご飯 食べられますか? 」

「 もっちろ〜〜〜ん 」

「 じゃあ どうぞ。 」

「 うわい♪   ばりばりばり〜〜  」

「 んんん〜〜〜  ぺちぺちぺち〜〜〜 」

「 あ こら すばる〜 お皿 舐めない! わんちゃんじゃないでしょ 」

「 ・・・ う ・・・ 僕ぅ わんちゃん でいいかも・・・ 」

「 えええ? なんですって 」

「 だってえ〜〜〜 ぎうにう・ぜり〜 おいし〜んだも〜〜ん 

 下に じゃむ 入っててさ〜〜 」

「 お皿 なめないで〜〜  お代わり ありますよ 」

「 わ〜〜〜〜  おかわり ちょうだい おか〜さん 」

「 はいはい ・・・ 」

「 ね ね じゃむ いっぱい〜〜〜 」

「 はいはい 

 

すぴかもすばるも オヤツに夢中になっている。

健康で元気な小学生としては ― 当然の姿 かもしれない。

 

「 ばりばりばり〜〜〜  ふんふん おいし〜〜〜〜

 ねえ おか〜さん このおせんべい からいの、ある? 」

「 え ・・・ たぶんあると思うけど 

 すぴかさん 辛いの、好き? 」

「 だいすき〜〜〜〜〜〜 

「 そうなの? じゃあ こんど買っておくわね 」

「 うん!  あ これにさあ カラシ ぬってもいい? 」

「 だめ〜〜〜  コドモはあんまり辛いものは だめです。 」

「 う〜〜〜ん  じゃ こんどぜったい辛いおせんべい 買っておいて 

「 いいわ。 ・・・ すばるくん? 」

「 〜〜〜 ん おいし〜〜〜〜 」

「 すばる。 お母さん、 お皿 舐めないでっていいました。

 お行儀 わるいですよ。 」

「 ・・・ おいし〜〜んだも〜ん 」

「 お代わりもしたでしょう?  ほら お皿 もう空よ 」

「 でもね でもね ちょっとじゃむの味 のこってるんだ〜 」

「 もうお終い。  また 作るから 」

「 ・・・ う〜ん ・・・ 

 あ ねえ おか〜さんは? それ・・・ 」

すばるは お母さんのお皿をじ〜〜〜っと見てる。

「 ? あれ おか〜さん。 おやつ 食べてない? 

すぴかも お煎餅を齧るのを止めた。

お母さんの前には  ミルク・ジェリーのお皿。

ガラスの器の中には   ぷるるん〜〜〜   白いジェリーが

まだ揺れている ・・・ 端っこの方が ちこっと崩れてるけど。

「 お母さんは もうミルク・ジェリー 食べました 」

「「 のこってるよ〜〜〜〜 」」

「 それは ・・・ 全部食べてないだけです。 」

「 え〜〜〜〜 おか〜さん もうたべない??? 

「 ・・・たぶん。 あ でもねえ レモンのハチミツ漬け は

 先に食べちゃったから  ジェリーだけよ  」

「 いい いい! ねえ 僕 もらっても いい? 」

「 アタシも〜〜 たべたい〜〜〜 お煎餅に漬ける〜〜 」

「 ・・・・  どうぞ。 」

母は 白旗を掲げ ず・・・っとジェリーの器を

コドモ達の方におしやった。

「 わい 〜〜〜〜〜 」」

「 ・・・・ 」

母は こっそりため息を呑みこむ。

 

      ミスったわぁ・・・・・

      ・・・レモンはとても美味しかったけど。

      ミルク・ジュレを食べたい気分じゃなかったのよね・・・

 

      ま 捨てずにすんでよかった かな

 

お皿はたちまち 空っぽになった。

「「 ごちそ〜さま〜〜〜〜 !!! 」」

コドモ達は お腹がいっぱいになると 

とっととキッチンから飛び出していった。

すぴかは お外へ すばるは リビングのソファへ。

「 二人とも! 宿題はっ!? 」

お母さんの声が すぐに追い掛ける。

「 アタシ〜 なわとび〜〜 してから やる! 」

「 僕ね てつどう・じゃ〜なる よむんだ〜  そしたら やる 」

「 きっとですよ !! 」

「「 はあい 」」

「 もう ・・・ ま 二人を信用しておきましょ。

 後から泣き付いてきても 知りません〜〜っと 」

 

   とぽとぽとぽ ・・・・

 

もう一度 熱いお茶を淹れた。 

「 ふう〜〜ん ・・・ ああ 美味しい・・・

 あ そうだ!  うめぼし茶ってオイシイってきいたわ。

 やってみよう〜〜  ジョーのお弁当用のがあるから・・・ 」

果肉の厚い梅干しを ぽとん、湯呑み茶碗に落とし

上から 熱々のお茶を注ぐ。

「 ・・・ ん〜〜〜〜 なんかこれ・・・最高〜〜に

美味しそう〜〜〜   ・・・どうやって食べるのかしら 」

おそるおそる 湯呑みに口を付ければ 爽やかに酸っぱい〜〜

 刺激的なホットが咽喉から身体中を駆け巡る。

「 ・・・ お いし〜〜〜〜〜 ♪

 きゃ〜〜 身体の底からふわ〜〜んと温まるぅ〜〜 

 これ いいわあ〜〜〜  お腹の中もぽっかぽか よね 

 

  ずずずず〜〜〜 っと飲み干した。

 

「 あ 〜〜 ・・・ おいし♪

 このぐっちゃになった梅干しさんも ・・・ ちょっと試食 」

 

     んん!  これ いいわあ〜〜〜

 

「 ん〜〜〜  ああ さっぱり。

 あら キッチンの窓 全部開けるわ〜〜 そしてねえ

 秋の風を 招待しようかしら ・・・ 」

レースのカーテンを片寄せ がらり とキッチンの窓を開けた。

 

    ふわあぁ 〜〜〜〜〜〜 ・・・・

 

優しい風が ゆっくりと遠慮がちに入ってきた。

「 ・・・ はあ〜 ・・・ ああ いい風 ねえ 」

フランソワーズは 思わず ほう〜〜〜っと 溜息をつく。

「 ― いい季節だわ ・・・ 秋が一番好きかも ・・・ 

 

    秋 ・・・ か ・・・

    この国の秋は 色鮮やかでとてもキレイだわ

    それは  とても好きだけど。

 

    わたしの生まれた街の秋はねえ

    マロニエの黄色。 

    そして 皆のファッションも濃い色になるの

 

    冷たい風が吹きはじめると・・・

    栗よ。 焼き栗。 焦げ茶色の栗。

 

    ・・・ 食べたいなあ ・・・

    <甘栗> っていうのとは ちょっと違うのよね

 

    ・・・ 帰りたい ・・・ かも ・・・

    ― 秋だから ・・・

 

 ふう ・・・  ため息ばかりが立ち上り部屋に満ちてゆく。

 

「 ・・・ 博士は 今晩お留守なのよね   チビ達だけかあ・・・

 つまらない な・・・ ああ なんか気分が沈むわ。

 ・・・ 秋だから ・・・?

 ああ そうね 裏山の木もまたキレイな色になるんだわねえ 」

金色の髪が ふわり と風をはらむ。

「 あらあ  ずいぶん伸びたわねえ  邪魔になるから切ってこようかな。

 あ それともいっそもっと伸ばしてしっかり編んでもいいわねえ 

 あらら このレースのカーテン ずいぶん汚れたわえねえ ・・・

 ちょうどいいわ 今のうちに洗っておこうかな。 

 大きいもの 洗うのって大変だからね〜〜」

 

    ふわん ・・・・ ふわふわ〜〜〜   

 

カーテンを外した窓に 風たちが集まってきたのかもしれない。

流れてくる空気は ほんの少しだけど 甘味を含んでいた。

「 ・・・ うん?  あ これって もしかして金木犀??

 ほんのちょこっとだけど・・・ あ きっと裏山ね! 

 今からでもちょっと探しに行こうかしら  まだ明るいし・・・

 ―  あら? 」

出掛ける気分になっていたら メッセージが入ってきた。

「 だあれ ・・・  あら やだ ジョー。

 またなにか忘れたの?  ああ でもこの時間なら違うわねえ  

彼女は しぶしぶ窓辺から離れ スマホを眺めた。

「 ・・・ なあにぃ  ・・・  え。 

 

      今から帰る チビ達と晩御飯だあ(^^♪ 

 

「 !  < (^^♪ > じゃあないわよぉ〜〜  もう・・・・

 急に〜〜 ・・・ チビ達は 茄子とひき肉でささっとすませ

 大人は マーボー茄子 って思ってたのにぃ〜〜〜

 いいわ 今晩は カレー。 中辛 と 甘口よ。

 チキンが冷凍してあるし あとは 冷蔵庫に残ってる野菜たちよ!

 あ・・・ 茄子・・・ うん 茄子もいれちゃう ! 

 

< お母さん > は エプロンを手にキリキリ動き始めた。

 

 

 ― 晩ご飯は カレー。 チキンと夏野菜いり。

 

コドモたちとジョーには 大層評判がよく・・・

その日の晩御飯は < 大盛況 >。

もちろん 久々にお父さんが早く帰ってきた、というサプライズ? も

あるけれど・・・

 

「 おっいし〜〜〜〜〜〜 !

 ねえ ねえ 今日のカレー からくておいし〜〜〜 」

すぴかは 大人向け・カレーを ぺろり、と平らげる。

「 すぴか 辛くないのかい?  これ 美味しいけどさ 」

「 へ〜〜き♪ ね おか〜さん なす ってカレーにいれると

 さっいこ〜〜においしいね!   お代わり していい? 」

「 どうぞ すぴかさん。 茄子やチキン たくさん食べてね 

「 わい〜〜〜♪ 」

「 ふふふ すぴか よかったなあ〜

 いやあ ホント 今日のカレー 美味いよう 

 あ すばる!  食べられるかい?? 」

ジョーは 慌てて息子を省みる。

「 ん〜〜〜〜  むぐむぐむぐ〜〜〜〜   

 なに〜〜 おと〜さん 」

すばるはスプーンを半分舐め舐め返事をした。

「 あの さ。 すばる ・・・ カレー 食べられるかな  

 ・・・ 辛くないかい 」

「 え〜〜〜? ぜえんぜん〜〜 僕 これ 好き〜〜♪

 あ〜〜〜 おいし〜〜〜〜 

すばるはいとも幸せそう〜〜に スプーンを舐める。

「 そ そうかい?? 」

「 あのね ジョー。 すばるのはね  ば〜もんと・かれ〜 なの! 」

「 え! ・・・ ああ あの りんごとはちみつ♪ ってヤツ? 」

「 そ。 オプションでヒトさじ はちみつ追加してるし。 」

「 どわ! そ それって ・・・ それでもカレーかい?? 」

「 ・・・ すばるにとっては、ね。

 でも そのお蔭で苦手なお野菜 きれい〜〜に食べてくれたわ 」

「 あ  まあ そりゃよかった ・・・

 いや ホント ・・・ 美味かったなあ〜〜 

「 あら お代わりは? ジョー。  

「 え ・・ いいかい 

「 勿論。 まだカレーはあるわ 」

「 じゃ もう一杯。 あ 自分でやるよ 」

「 おと〜さん 僕も! 」

珍しく すばるがお代わりをした。

彼は普段 のんびり食べるので お代わり まで行き付かないのだ。

「 お いいぞ。 こっち来い、お父さんがよそってやる。 」

「 わあ〜〜い 」

 

・・・ ってな具合で フランソワーズが自分の分を食べ終わらないうちに

家族は皆 お代わりをしていった。

 

「 あ〜〜 うま〜〜〜  あれ フラン? 食べないのかい 」

「 食べてるわ。  ねえ これ・・・ めっちゃオイシイんですけど 

彼女は 薬味としてテーブルに並べたそのお皿を空にしていた。

「 これ って  ああ ラッキョウ?  好きだったっけ? 」

「 ん〜〜 わからないわ。 今まで食べたことなかったから。 

「 え ラッキョウ 食べてなかったんだ? 

「 コルニッションのピクルスでしょう?   

 味の予想はついてたし そんなに食べたいとは思わなかったのよ。

 だけど〜〜  今日食べたら ・・・ も〜〜 最高ね これ♪ 」

    

      コリコリ シャキシャキ〜〜

 

彼女はとてもとてもとて〜〜〜〜も美味しそうに ラッキョウを

平らげた。

「 へ え ・・・ ぼくもキライじゃないけど・・・

 あのう さ。 普通はカレーと一緒に食べる よ? 

「 そうなの?  このままがオイシイわ♪ ん〜〜〜 」

「 あのねえ あんまり食べると ― そのぅ 匂いが さ 」

「 あら 気になる? じゃあ今晩は別の部屋で寝るわね わたし。 」

「 え  あ   そ そういう意味じゃ ・・・ 」

「 ど〜いう意味なのぉ おと〜さん 」

「 え? 」

突然 すぴかが口を挟んだ。 

「 そういう意味じゃない って ど〜いう意味? 」

「 あ えっとぉ〜〜 そのう〜〜〜 」

「 おしえて〜 」

まん丸な そして ジョーの愛妻とそっくりな瞳が

じ〜〜〜っと彼に注がれている。

「 あ  あの そのう〜〜〜〜  なんだ ほら 」

「 うん? 」

「 えっと  あ! そうだ あのね ラッキョウは美味しいけど

 カレーと食べるともっと美味しいよ って意味! 」

「 あ そっか〜〜 そうだよね〜〜〜 

 アタシもさあ カレーといっしょにたべるよ?

 ねえ ねえ おか〜さん らっきょう と えっと・・・

 この赤いの、なんだっけ 」

「 あ それ? 福神漬け だろ 」

「 あ〜 その ふく〜〜づけ。 アタシ それも好き!

 ラッキョウと ふく〜づけ カレーといっしょ がオイシイよ おか〜さん 」

「 ・・・だって。 すぴかの意見でした、おか〜さん 」

「 まあ そうなの? ありがとう ジョ―  ありがとう すぴか 」

お母さんは 相変わらずにこにこ・・・・

今度は 福神漬けをサラダのレタスに包んで ぱくぱく食べた。

「 ・・・ ん〜〜〜 おいしい♪ 」

「 ねえ おか〜さん 今日のかれ〜 さっいこ〜〜〜〜♪ 」

すばるは もうず〜〜っとにっこにこ・・・ 飴ちゃんに集っているアリさん

みたく 甘ぁ〜〜い・カレーに集中している。

「 あ そう? よかったね〜〜 全部食べろよ〜 

「 うん! ・・ おいし〜〜 」

 

     ・・・ こんなに甘党だったんだ??

     すばる。 お前ってマチガイなく!

     ぼくのムスコだなあ・・・・

 

ジョーは妙な感慨にふけっていた。 が。

ちょんちょん。  小さな手が伸びてきた。

「 ・・ん? なんだ ・・・ すぴか? 

「 おと〜さん おと〜さん   あのね ナイショだけど 」

「 うん? なんだい すぴか 」

「 おか〜さん ってばあ なんかね ぼ〜〜っとしてるよ? 

 そんでねえ れもん とか すっぱいいちご とかばっかたべる 」

「 へ え ・・・? 

「 おか〜さん さあ 今日はれっすん、お休みだったんだよ?

 ず〜〜っとお家にいてさあ ・・・

 あかちゃんのふく、いっぱい出してた 」

「 ・・・ あかちゃんのふく?? 」

「 そ。 使えるモノはまたつかう  って 」

「 ・・・ふうん ・・・ 」

 

 ― 晩ご飯は賑やかに終わり いつもの通りに

ジョーはちゃんと後片付けまで担当した。

これはいつもの彼の習慣であり 島村さんち では 日常の風景、

かなりの家事をこなす。 ( それも 嬉々として )

 

「 ん〜〜っと、ありがとう ジョー。

 あとは明日の準備だから どうぞ 先にお風呂入ってきて? 」

「 え 手伝おうか? 」

「 いいの いいの。 ゆっくりお風呂 どうぞ 」

「 そうかい・・・ じゃあ 」

ああ〜〜〜 美味かったなあ〜 と ジョーは大欠伸・・・

「 さて 風呂 ・・・ 」

 

   ドタドタドタ ・・・ パタパタパタ ・・・

 

「 おと〜さ〜〜〜ん おふろ〜〜〜 も一度 いっしょにはいる〜〜 」

「 僕も 僕もぉ〜〜 」

リビングにいた子供達が 駆け寄ってきた。

「 ねえ ねえ おと〜さん〜〜 

「 あは フラン いいよね? 」

「 ・・・ いいけど ・・・ すばる君! 髪 洗いましょう。

 すぴかさん。 お風呂の中に潜らない! いいですか 」

「「 はあい 」」

「 じゃ 風呂部隊 しゅっぱ〜つ 」

「「 うわお♪ 」」

 

ジョーは チビ達と一緒になってバス・ルームに転がっていった。

賑やかな声が お風呂場に響いていた。

 

「 ・・・ はあ〜〜〜  やれやれ ・・・・

 早く帰ってきてくれたのは嬉しいけど ・・・ 賑やかなこと・・・ 」

ため息ついて でも ちょっとほっとして。

フランソワーズはキッチンを見回す。

「 あら〜〜〜  ゴハンが ・・・

 明日のお弁当の分 もう一回炊かないと ・・・ あ〜あ 」 

 

    め ん ど く さ。   

 

彼女は こそ・・・っとこの言葉を発して  飲みこんだ。

ジョーが なによりもどこよりも家庭を愛し家族を愛し そして

彼女をこよなく大切にしてくれているのは  よ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜く

わかっている から。

 

・・・ だけど さ。  その続きも黙って飲みこんだ。

 

「 さ。 明日のお弁当は カレー ! まだお鍋に残ってるし。

 残りモノが大好きな ヒトはきっと大喜びするわよね。 

 さ もう一回 ゴハン 炊いて ・・・

 カレーはチンできるタッパーに入れて。

 あ。 カレーでもご飯には梅干しがいるのかしら。

 ・・・ 入れちゃえ! 後から 淋しそう〜〜な眼差し されるより

 ずっといいもんね 」

 

ふんふんふ〜〜ん♪  彼女はご機嫌で明日の用意を始めた。

 

     リーリーリー  ・・・ 裏庭からは虫の声 

 

< お風呂部隊 > は そのまま子供部屋へ進軍した様子・・

フランソワーズは そっと覗いてみたのだが。

 

「 ジョー ・・・?  二人ともちゃんと 寝た? 

 

常夜灯のぼんやりした光の中 ― 寝息だけが複数 聞こえる。

「 すぴかもすばるも  ようく寝てるのね〜〜   あらら ? 」

小さな寝息の合い間に でっかい けど 心地よさそう〜〜な寝息も・・

お父さんは チビ達のベッドに間で 沈没 してしまっていた。

「 あらまあ ・・・・  ま いっか。

 ふふふ〜〜〜 今晩は 一人 の〜〜んびり ・・・ 眠れるわ♪ 」

この状態で彼を起こすのは ものすご〜〜〜く大変だし

ここで眠ってくれるなら それにこしたことはない。

009ですからね〜〜 風邪ひくこともないでしょ。

 どうぞ〜〜 ごゆっくり ・・・ 」

子供部屋を ぐるり、眺めてから フランソワーズはそのまま 

そう〜〜っと引き上げた。

「 チビ達は二人ともタオルケット、ちゃんと掛けてたし・・・

  きっと明日の朝は すぴかが張り切ってジョーを起こしてくれるわ。 」

 

     ふぁ〜〜〜〜  思わず 大欠伸。

 

「 さあ 今晩はの〜〜〜んびり 伸び伸び・・・

 一人で眠れるわあ〜〜〜  うふふふ♪ 

 わたしの遅くなった夏休み かしら♪♪ ふんふんふ〜〜ん 」

 

  ― 島村さんち は 平和な夜が更けていった。

 

 

はたして。 案の定 カレー弁当は大好評だった。 

― ただ ・・・

その夜 ジョーは空の弁当箱をおずおずと出した。

( もちろん キレイに洗ってある )

 

「 あの〜 弁当なんだけど 」

「 はい? 」

「 梅干し な 」

「 ええ ちゃんと入れてるでしょ ジョーのリクエストですもの 」

「 ああ ・・・ ありがとう。

 けど 一個でいいから。 ゴハンの真ん中に一個 でいいよ。 」

「 ? そうしてるけど ?  毎日・・・ 今日も入ってたでしょ? 」

「 ウン  その今日の さ。 三個はいらないから。 一個 でいいから 」

「 あら そう? 美味しいし 好きだから って思ったんだけど 」

「 一個でいいから。  頼む 」

「 はいはい ・・・ ふふふ〜 わたしものね〜 この頃 食べてるの。

 美味しいわよねえ 」

「 へえ???  酢っぱすぎる〜って言ってたのに 」

「 ちょっと好みが変わったのです 」

「 ふうん?  ラッキョウも美味しいって言ってたね 」

「 ええ 最高!  ・・・ ちょっと匂いが 難点だけど ・・・ 」

「 あのう  さ。 すっぱいモノ 食べたいわけ? 」

「 え?  ええ 好きよ 」

「 今日って レッスン 休みだったんだって? 」

「 そうなのよ〜〜  ウチでのんびりできたわ 」

「 すぴかやすばるの そのう ・・・ 古着を出してきたって 

 すぴかが言ってたけど 」

「 あら まあ。 ええ そうなのよ。

 赤ちゃん時代のものをね、使えるものだけ選り分けておいたの。

 結構あったわ 」

「 ふ  う〜ん ・・・ 」

「 あ ジョー お風呂 沸いてるわよ〜〜 どうぞ? 」

「 う  うん ・・・ 」

ジョーは なんとな〜く妙な顔でバス・ルームに行った。

「 ??  ま いっか。

 明日は博士もお帰りになるし ・・・ 和食にしようかしらね〜

 ふぁ〜〜〜  秋は眠たいわあ  ・・・ 先に寝ちゃおうっと 」

フランソワーズは ちゃちゃっと片づけると 寝室に上っていった。

 

 

 ― さて 翌日。

 

ジョーは もじもじしつつ博士の書斎をノックした。

「 ?? なんだね〜〜〜 開いておるよ〜〜 」

「 はあ ・・・ 」

「 チビさん達になにかあったのか?  」 

「 いえ あのう 博士。  あのう〜〜〜 ご相談が・・・ 」

「 ? だからなんだね? 」

 

   そのう 〜〜〜〜  

 

ジョーは蚊の鳴くよ〜な声で <相談> した。

 

「 はああ??? 」

「 ですから その・・・ ウチに家族が ・・・ 増えるのか と?

 あのう どう思われます・・・? 」

博士はつくづく 目の前でもじもじしている青年を見つめた。

 

   ― BGは 完全に ヒトを見る目 がないな。

 

天才科学者は ふか〜〜〜くふかく頷いた。

「 思い当たるフシは あるのか? 

 お前は 彼女の夫なんだぞ? わかってるのか? 」

「 ・・・はあ ・・ 」

勿論 < 思い当たるフシ > は 山ほどある。

だから 余計に当惑しているのだけれど・・・

「 だったら お前の配偶者に はっきり聞いて見ろ。

 お前たち夫婦の問題だろうが。 いったい何年一緒におるのじゃ??

 ・・・ったく〜〜〜  

博士は 無情にも? ドアの向こうに消えてしまった。

 

    う ・・・・  あとは勇気だけ  か ・・・

 

 とぼとぼとぼ。  ジョーはゆっくりとキッチンに降りていった。

彼の愛妻は レモン・スライスを作りハチミツ漬けにしていた。

 

「 あら ジョー。  お腹空いたの? 」

「 う  ううん ・・・ あ なにかある 」

「 えっと ・・・・ お握り 作りましょうか? 」

「 あ うん ・・・ あ その前にさあ 」

「 はい?? 」

 

     こくん。    ジョーはぐっと息を呑んだ。 

 

「 ・・・ なあ フラン? 教えてくれよ。

 もしかして ・・・ 家族 増える・・・? 」

「 はあ??? 」

「 だから そのう〜〜〜 ウチに家族が もっと 」

「 は?  コドモ達、わんこもにゃんこも 拾ってきていないけど・・・ 

 あ もしかして にゃんことか誰かから譲ってもらえるの? 

 嬉しいわあ〜〜   どんな猫さんなの? 」

「 えっとぉ  ・・・ そうじゃなくてぇ 」

「 ??? 」

「 そのう ・・・ すぴかとすばるに 弟とか妹とか・・・ 」

「 あ〜  里親っていうのでしょう? 知ってるわ。 

 そうねえ ・・・ とても関心はあるけれど ・・・

 ウチはねえ ・・・ ちょっと無理かなあ 」

「 そ そうだよね?   で でもね 二人に兄弟が増えるってことは 

 ・・・ そのう そのう 嬉しい よ? ぼくは 」

「 はあ???  ウチは二人で十分よ。 というか 手一杯。

 ・・・もっと 手のかかるヒトもいるし〜〜  ここに。 」

「 え   え〜と〜〜〜 」

「 ねえ わたし いっぱい幸せだわ。

 ふふふ〜〜〜 ここに大きなボウヤが いるから。 

「 は  へへへ ・・・  ( なんか ・・・ 気がぬけた・・・ )  」

 

    ひゅるるん〜〜〜  ひゅん ひゅん ・・・

 

夜風も 音のヴォリュームを上げて吹き抜けてゆく。

「 ねえ ・・・ ほら ・・・ 感じて? 」

「 ??? な なにを ・・・? 

「 風の音が 変わってゆくわ  空気の色も ・・・ 」

「 ああ そうだねえ 」 

 

      秋  なのよねえ ・・・・

 

      もう 秋 なのよ

 

お腹 減るのよね〜〜〜  でもね あんまり食べ過ぎると太っちゃうでしょ?

だから さっぱり したくてね〜〜

 

    秋 なのよ〜〜〜   いい気持ちねえ 〜〜〜〜

 

ジョーのオクサンは 上機嫌でレモン・スライスをハチミツに

沈めてから ぱくぱく食べている。

「 あ〜〜〜 おいし〜〜〜  ねえ 秋っていいわね 」

「 あ   うん ・・・ 」

「 いろいろ溜まっていた片付けも 家事もできたし。

 さあ〜〜 また明日から 頑張るわよん 〜〜〜 」

「 あ は  ・・・ そうだねぇ・・・ うん ・・・ 」

 

   ちょびっと   ちょびっとだけ ― ジョーは がっかりしていた。

 

        ・・・ もう一人 ・・・

        いても いいな って思うんだけどなあ

 

      秋です!  だって秋ですもの。

 

 

**************************      Fin.     ************************

Last updated : 09.14.2021.               back     /    index

 

 

****************     ひと言   *****************

皆さまの予想通り ・・・ なんてことない結末というか・・・

島村さんち は いつもなんてことない日々を

皆が わいわいがやがや・・・過ごしているのであります♪