『 秋 来ぬと ― (1) ― 』
サワサワ サワ −−−−−−
裏庭の大きな樫の木が葉を揺らしている。
ついこの間まで ここを吹き抜ける風は熱を帯びていたのに
今朝は ぴやぴや・・・・肌に心地よい。
島村すぴか は ちらっとその樹に視線を飛ばしたが すぐに
もっと手前の 細っこい柿の木を眺めた。
「 う〜〜ん ・・・ 来年は実がなるかなあ ・・・ 」
その木はつやつやした大きな葉っぱを何枚も広げてはいるが
まだまだ幹は細く 木登りには頼りない。
なにせすぴかが3歳の時、食べた柿の実の種を蒔いたものなのだ。
肥料や水をやり せっせと世話をしているが この春もまだ花は咲いていない。
「 むりかなあ〜 木にさあ のぼって柿 食べる、が夢なんだけどぉ〜〜
あ 裏山の栗さんは まだ落ちてないかなあ ・・・
そだ! 野ぶどう は そろそろおいしいかも〜〜〜
今からとってこよっかな この前見たとき いっぱい生ってたもんね〜
・・・ いっけね 畑でとってきて〜 って言われたんだった・・・」
すぴかは たたたっと野菜畑へと駆けていった。
いつも元気で お日様の友達 のすぴか。
そんな彼女にとって 秋は ― 当然 食欲の秋 でしか ない。
ざっと 彼女のテリトリーの裏庭を眺めると とっとと野菜畑に向かった。
ギルモア邸の広い裏庭には 洗濯モノ干し場、温室、
そして 張伯父さんのハーブ園があり その隣に 野菜畑が拡がり
季節の野菜があれこれ・・・・わしゃわしゃ育っている。
夏場の水やり は 当然子供たちの仕事で すぴかもすばるも
嬉々として ( びたくたになり! ) やっていた。
「 えっとぉ〜〜〜 なす なす〜〜 っと・・・
うわ でっか〜〜〜 あ こっちも〜〜〜 ぱっちん ぱっちん と 」
茄子畑では ザルいっぱいの収穫となる。
「 こ〜れでいっかな〜〜 ばんごはんは なすのにくづめ だって♪
あ きゅうり!!! すっげ〜〜〜 でっか 」
隣の畝の採り忘れられていた大物も取りこみすぴかはご機嫌ちゃんだ。
「 ふっふっふ〜〜〜 これ かじりたいなあ〜〜〜
あは・・・ アタシ 秋ってだいすき〜〜〜〜
美味しいモノがい〜〜〜〜っぱい だもんね〜〜〜
そだ! あとで裏山 いって野ぶどう とってくるんだった! 」
うんしょ うんしょ・・・ 山盛りのカゴをもって
すぴかは 勝手口までまたまた駆けていった。
「 おか〜さ〜〜〜ん とったよ〜〜〜〜 」
バタンッ ! ドアと一緒に飛びこんで大声で報告する。
キッチンにいるお母さんが 笑顔で受け取ってくれる ・・・はず?
「 ?? おか〜さん? やさい〜〜〜 」
「 ・・・ え ・・・? 」
「 ね〜〜 やさい! ほらあ〜〜 」
「 ・・・ あ そうだったわねえ ・・・ ごめん ごめん 」
お母さんは キッチンのスツールにすわって ぼう〜〜〜〜っと
窓から外を眺めていたのだ。
「 やっだあ〜〜 ねえ ほらあ とりたて だよお
あさづけ にするんでしょう? おいしいよね〜〜 おつけもの! 」
和食党の彼女は 浅漬けやら糠漬け カラシ漬け など大好物で
サンドイッチにも挟んで〜〜とリクエストをする。
「 あ ・・・ そうそう・・・おつけもの ね・・・
まあ たくさんね〜〜 ぜんぶお漬物にできるかしら 」
「 おか〜さん! 今晩は なすの肉づめ っていってたじゃん!
ね〜〜〜 アタシ 和カラシでたべたい〜〜〜 」
「 ・・・・ ああ そうだったかしら ・・・
「 も〜〜〜 ね シンクにおいとくからね〜〜 」
「 はいはい ありがとう すぴかさん 」
「 ふんふんふ〜〜〜ん♪ 」
すぴかは 冷えた麦茶を大コップになみなみ注ぐと
リビングに行った。
「 おっは〜〜〜 あれ?? 」
リビングでは 博士がソファでなにやら糸針と格闘していた。
「 ?? おじ〜ちゃま〜 おはよ〜〜〜 なにしてるの 」
「 ・・っと ・・・ ん? おお おはよう すぴか
野菜の収穫はどうじゃったかい 」
「 ウン い〜〜〜っぱいとれたよ〜〜〜
・・・ ねえ おじいちゃま〜 なにやってるのぉ 」
「 ああ これかい? 」
博士は 手元の布を広げてみせた。
「 あれ すばるのたいそう服じゃん 」
「 そうじゃよ。 これがなあ 取れてしまったから
縫い付けてくれ とすばるが 」
ひら ひら ・・・ 細長い布が揺れる。
3-2 しまむら すばる と書かれている。
「 あ〜〜〜 すばるってば ・・・
??? あれ 昨夜 おか〜さんに頼んでたよ ね? 」
「 らしいが。 どうやら お母さんは忘れてしまったらしい。
さっきすばるが泣き付いてきた 」
「 あ〜〜れれ ・・・ あ でもさ〜〜
今日は始業式だけだから たいそう服 いらないよね? 」
「 もって行きたいだろ すばるは 」
「 ふ〜〜ん ・・・ あ でも おか〜さんってば どうしたんだろ? 」
「 お母さんも いろいろ・・・忙しいんじゃろ。
・・・っと・・・ ここで玉結び 二回・・・・っと。
さあ できた! すばる〜〜〜 できたぞぉ〜〜〜 」
バタバタバタ ・・・ すばるが駆けこんできた。
「 おじいちゃま! うわ〜〜〜〜 ありがと〜〜〜 」
「 すばる〜〜 かみの毛 びしょびしょだよ〜 」
「 えへ あは〜〜 ちょうど顔 洗ってたんだも〜〜ん
うわ ちゃんとくっついてる〜〜〜 わあい
おじいちゃま ありがとうございました〜 」
すばるは ぺこん、とお辞儀して渡された体操服を 大事そう〜〜に畳んだ。
「 わすれないように もってく。 」
「 だって今日 体育 ないじゃん。 しぎょう式 だよ 」
「 あした つかうじゃんか。 」
「 じゃああした もってけばいいじゃん 」
「 僕はあ〜 わすれたくない 」
「 はあ?? 明日 わすれないようにすればいいじゃん 」
「 でも! 」
これこれ・・・と 博士がこの <不毛な> 言い合いに介入してくれた。
「 さあさ すばる バッグにいれておきなさい 」
「 はあい 」
「 すぴかは 明日 体操服を忘れんようにな 」
「 はあい〜 」
「 ときに お父さんはどうしたね? 」
「「 まだ 寝てるよ〜〜〜 」」
子供たちは 当たり前って顔でハモった。
「 そうじゃなあ ああ そろそろ朝ご飯ではないかな 」
「 うん! おか〜さ〜〜〜ん ごはんは〜〜 」
すぴかは キッチンに駆けていった。
「 僕 これ しまってくるね おじいちゃま。
えっと ・・・ ありがと〜〜ございました 」
「 いやいや ちょいと見栄えはわるいかもしれんが
ちょっとやそっと引っ張っても取れんからな 安心しろ 」
「 うん! しまってくるね〜〜〜 おじいちゃま 」
すばるは の〜〜んびり・・・子供部屋に戻っていった。
「 ・・・ やれやれ。 双子なのにまあ見事に正反対じゃなあ
ま ・・・ そこが楽しいのじゃがな 」
博士はにこにこしつつ 糸針を片づけた。
「 おか〜さん! ごはん ! 」
「 はい もうできてますよ。 」
すぴかが駆けこんだキッチンでは 熱々の朝ごはんが並んでいた。
「 今朝は ごはんとお味噌汁よ 」
「 わああ〜〜〜〜い ♪ うっきゃ 」
つやつやしたご飯がお茶碗の中で湯気をあげ お味噌汁の中からは
玉ねぎとジャガイモがよく煮えて顔を覗かせている。
「 アタシ これだいすき〜〜〜 」
「 はい 卵焼き。 すぴかとすばるは オムレツ風 」
「 わあい わあい あ おつけものは? 」
「 ちゃんとありますよ 浅漬けがちょうどいいかんじ 」
「 あ なすもある♪ アタシ みんなすき♪
ん〜〜〜〜〜 このお味噌汁 おいし〜〜〜♪ 」
「 おか〜さ〜〜ん ごはん〜〜〜 」
やっとすばるが現れた。
「 おはよう すばる。 はい 座って〜 」
「 うん わあい たまごやき だあ〜〜〜 ・・・ あまい? 」
「 すばるのはお砂糖いり です。
あ 博士〜〜 おはようございます。 」
「 おはよう。 おや これは美味しそうじゃなあ 」
「 ええ お好きな だしまき もつくりました。 」
「 おお ありがとう。 どれ・・・ チビさんたち
いっしょに頂こうか。 」
「「 はあい 」」
「 あ おか〜さんも〜〜 」
「 はい。 じゃあ 一緒に ― 」
皆で いただきます をして 楽しくて美味しい朝ご飯たいむ になった。
むぐむぐむぐ〜〜 ぱくぱくぱく ずずず〜〜〜〜
おいし〜〜〜 アタシ これ すき! わあい おいし〜〜あまい(^^♪
うむ うむ 浅漬けの具合、最高じゃなあ
「 ふふふ・・・ よかったわぁ 浅漬け 美味しくてよかったわ
みんなの笑顔でもっと美味しくなっているわ 」
お母さん も にっこにこだ。
「 ・・・ おいし〜〜〜〜 」
「 おいし〜〜〜 」
あ おか〜さん 〜〜
よかったあ < いつものお母さん > だ!
えへへへ〜〜 よかった・・・・
あ〜〜〜 おいし〜〜〜
すぴかは 美味しい朝ごはんを食べつつ ちら・・・っと
お母さんの様子をみて と〜〜っても安心した。
だ け ど。
あんまりご飯がオイシイので お母さんはお茶しか飲んでいないということに
全然気がつかなかった。
すばるは 甘いオムレツにずっぽりと填まりこみ
最高に幸せ気分に浸っていた。
むぐぐぐ〜〜〜〜
あ〜〜〜 おいし〜〜〜〜
あさづけ ってさあ おさとう、かけたら
もっとおいしいと思うんだけどなあ・・・
すぴかはなんで おしょうゆ かけるんだろ?
むぐぐぐ〜〜〜 おいし〜〜
― あれ? おか〜さん ・・・?
「 おか〜さん 」
唐突にすばるが声をあげた。
「 ? なあに すばる君。 あ お代わり? 」
「 あ〜〜〜 ううん ・・・・
あの〜さ〜〜 おか〜さんの おちゃ あまい?
」
「 え??? いいえ これは日本茶だし甘くないわよ 」
「 ふう〜〜ん そっかあ 」
「 あ すばるクンもお茶 飲みたい? 」
「 ううう〜〜ん 」
すばるは ぶんぶん首を振った。
「 僕ぅ むぎ茶、あるもん。 」
「 そう? 」
「 うん。 おか〜さん さ〜〜 おちゃ 好きだね〜 」
「 え? ああ そうねえ 美味しいわね 」
「 そっか♪ 」
ああ だからお母さんは お茶ばっかり飲んでるんだ〜 と
すばるは 一人で納得し またオムレツに没頭していった。
コトン。 お母さんは湯呑み茶碗を置いた。
「 ・・・ ああ ・・・ 湯気が きれい・・・ 」
お母さんは ほう〜〜〜〜 っと 宙を眺めている。
「 んん? なにかな 」
博士が 箸を止めて訊いてきた。
「 え? ・・・ ああ いえ。 お茶 美味しい季節だなあって 」
「 ああ? そうじゃなあ
ワシは朝の熱い日本茶は最高じゃと思っているよ。
心身ともにしゃっきりする。 」
「 あまり熱いのは苦手ですけど ・・・ 」
「 ふむ ふむ 玉露などは少し温めで淹れる、と聞くがな。
― チビさん達の父さんはどうしたね 」
「 ・・・ この時間は まだ目が開かないんですって 」
「 ふん! だらしないやっちゃ。 」
「 まあ 毎日 帰りも遅いですし〜
後片付けとか引き受けてくれますから ― 寝かせておきましょ 」
「 こんど ちょいと意見するよ。
さあ チビさん達〜〜 時計を見ながらご飯を食べよう! 」
博士の掛け声に コドモ達は ぱっと時計を見た。
あ〜〜〜 いっけな〜い アタシ なわとび するんだ〜〜
・・・ おか〜さん じゃむ・・・ オヤツにとっといて!
「 ほらほら こぼさないで。 忘れ物 ない?
水筒持った? 帽子もよ 」
お母さんの的確な指摘に またもチビたちは右往左往して
とにかくランドセルをしょって 玄関まで辿り付いた。
「 用意できましたか。 はい いってらっしゃい 」
「 いってきまあ〜〜〜す おか〜さん !
あ 今日 りは〜さる とかあるの? 」
「 え いいえ。 今日はお母さん お家にいますよ〜 」
「 ホント??? わあ〜〜い♪
あ なわとびするんだったあ〜〜 いってきまあす 」
すぴかは 玄関の外に飛び出した。
バタバタバタ −−−
さき ゆくよ〜〜〜 まってまってまって
やあだあ〜〜 すばる おそいんだもん。
お おそくないやい! まって〜〜〜
ドタバタ カチャカチャ ごんごん ととと・・・
賑やかに コドモ達はランドセルを背負いあれこれ荷物を持ち
門を出、急坂を駆け下りていった。
「「 いってきまあ〜〜〜す 」」
「 はい 行ってらっしゃい 」
キィ −−−− 開けっ放しの門扉が 揺れる。
「 あら ・・・ 風? 」
サワサワサワ ・・・ キィ −−−−
「 うふふ ブランコみたいねえ ・・・ 」
ファサア 〜〜〜 ・・・ フランソワーズの金色の髪が大きくふくらむ。
「 あらら ・・・ でも いい気持ち・・・ 」
吹き抜ける風に暑さはない。
まだ 冷たさは潜んではいないが 朝晩は確実に空気が透明になってきている。
「 ・・・ ああ・・・ 」
彼女は 門の脇の夏ミカンの樹を見上げる。
天辺ちかくの 木護り を残し 実は全部収穫しマーマレードになった。
今は 葉っぱだけが青々と広がっている。
「 この葉っぱも 黄色になるのねえ 実が生ってないと淋しいわ・・・
あ そうだわ! マーマレード 食べよ♪ まだ一ビン あるはずよ
ヨーグルトに入れてもオイシイのよねえ すっぱくて☆ 」
スタスタスタ ・・・ 庭用サンダルを鳴らし裏庭に周った。
「 お野菜さん達〜〜 元気かな〜〜
茄子さんたち ・・・ あ〜らら すぴかってば全部収穫したのね
いいけど ・・・ ベビー茄子さん は残しておいて欲しかったな
なんか 可愛いものねえ・・・ うふふ 」
畑を見回り ついでに温室にも足を延ばした。
キイ −−−− ここのドアはいつも少し軋む。
実は完全密閉のドアなのだが 一見年期モノのガタガタ・ドアだ。
万が一 泥棒が侵入してきても ( 実際それは不可能なのだが )
この中には大したモノはない、とスルーするだろう。
実際は ― ごく普通の野菜やら果物の苗がわしゃわしゃ生息してる。
ただ 完璧な温度管理のお蔭で 旬のモノとは微妙に時期がずれているのだ。
「 あ〜〜 ここはいつでも初夏ねえ ・・・ 好きなのよねえ。
夏への扉 って気がして。 あ み〜〜っけ♪ 」
フランソワーズは もしゃもしゃ生えてる葉っぱの陰に
真っ赤なイチゴを見つけた。
「 いっただっきまあす ・・・・ ん〜〜〜 」
摘みたての完熟果実は きらきら輝いていて
しばらく惚れ惚れ眺めてから 口に放り込んだ。
「 ん 〜〜〜〜 ・・・ちょっとすっぱいけど おいし〜〜〜〜 !!
赤ちゃんいちご ・・・可愛いわねえ
動物でも植物でも 赤ちゃん はほっんとカワイイわあ 〜〜 」
あ。 いっけなあい ・・・ ジョー !!
「 叩き起こさなくちゃ! 」
カタカタカタ −−−− 庭サンダルが勝手口に 加速 していった。
― 十数分後
ドタドタ ・・・ 玄関に ジョーが早足で出てきた。
「 じゃ いってくるね〜〜 」
「 はい 行ってらっしゃい。 」
「 ん〜〜 あれ きみ レッスンは? 」
「 今日はお休みするの。 ウチにいるわよ 」
「 あ そうなんだ? あ〜〜〜 弁当〜〜 」
「 ― ここにあります はい。 」
フランソワーズは 落ち着き払って小風呂敷の包みを差し出す。
「 あ サンキュ〜〜〜 ・・・あの さ・・・
卵焼・・・ さあ ? 」
「 入ってます ちゃんと。 お箸箱も忘れないでもっていってください。 」
「 あ う うん ・・・ 」
「 あ ほらほら 麦茶ポットも。 」
「 あ いっけね〜〜 ふふ ・・・ ぼくさ ウチの麦茶がさいこ〜〜って。
ペット・ボトルのも飲むことあるけど ウチのよかオイシイのって ないよ 」
「 そう? 普通の麦茶だけど・・・
あ〜 多分 ここのお水がオイシイのよ。 」
「 そっか〜〜 ウチのは 井戸水 だもんねえ 」
「 そうね ほらほら 急がないと〜〜 」
「 あ いっけね〜〜 じゃ イッテキマス 」
がば。 んむむむ〜〜〜 ちう。
彼は相変らず彼の愛妻と あつ〜〜〜いキスをしてから
ダダダダダ −−−− ガレージまで駆けて行った。
「 やれやれ ・・・ いったいいつになったら一人で! ちゃんと!
起きるようになるのかしらねえ・・・
すぴかとすばるだって 目覚まし時計で起きられるのに。
あ〜あ ・・・ ウチには大きな坊やがいるのよねえ・・・ 」
パパパア〜〜〜〜〜 !!
大きくクラクションを鳴らし ジョーの車は坂を転げ落ちるように
下っていった。
「 はいはい 行ってらっしゃい 転ばないようにね〜〜
いいコでお弁当 全部食べて帰ってきてね〜〜〜
やれやれ ・・・ 」
フランソワーズは 大きくため息をはき ― ついでにでっかい伸びをした。
わっはは〜〜〜〜 皆 出掛けたわ〜〜〜
そりゃ ジョーも チビ達も 愛してるし大事な家族だし大切な存在である。
ある・・・ けど。
あはは・・・ この開放感は トクベツよぉ〜〜〜
・・・ うふふふふ〜〜〜ん♪
思わずハナウタなんか出てしまう。
「 ふんふんふ〜〜ん♪ さあて ・・・ と。
あ そうだわ 今日はどうしてもアレをやって おかないと。
チビ達が帰ってくるまでの勝負だわね 」
ふわん ・・・ ほんのり甘い香りが流れてきた。
「 ・・・ あ。 金木犀? ずいぶん早いけど・・・
裏山の樹かしら ね ・・・ いい香り ・・
う〜〜ん やっぱりあのちょっとすっぱいイチゴ、食べたい!
もう一回 温室、寄ってゆこう〜っと 」
カタカタカタ 〜〜
庭用サンダルが賑やかに駆けて行った。
「 ・・・ う〜〜〜ん よ いしょぉ〜〜〜 」
ズルズル 〜〜〜 どん。
でっかいダンボ―ルを リビングの真ん中まで引っ張ってきた。
「 ふう〜〜 やれやれ えっと これでいいのよねえ? 」
フランソワーズは 箱の横に書かれた文字を読む。
「 えっと・・・ すぴか すばる 古着 ( 赤ちゃん )
これこれ・・・ これよぉ 」
ずるずる〜〜〜 さらに箱を引き寄せる。
「 えい・・・ ( ビリビリビリ〜〜〜 ) 」
豪快にガム・テープをはがす。 蓋はすぐに撥ね上がった。
「 あはは ぎっちぎちに詰め込んだわねえ わたしってば。
とりあえず 出してみよっか〜〜〜 こっちにすばる
こっちにすぴか の服ね〜〜 」
ガサガサガサ ポイポイポイ ガサガサガサ〜〜〜〜
彼女の前にはたちまち衣類の山がふたつ出来上がった。
「 あ これ! すぴかのお気に入りだったのよねえ〜〜〜
そうそう 擦り切れても当て布して使ってたんだわあ〜〜
・・・ あ! すばるのシャツ〜〜〜 くまた〜ん って好きだった・・・
汽車ぽっぽ より くまさん や わんわん の柄がよくて。
うふふふ ・・・ 博士が買ってくださったのに すぴかへの
お花模様が欲しくて 泣いてたのよねえ〜〜 」
小さなシャツ一枚にも 思い出が溢れでてきてしまう。
「 あは〜〜 わたしったら こ〜〜んなぼろぼろになったのも
とって置いたんだ?
あ〜 これはもう サヨナラ よねえ・・・
そうだわ まず とっておくモノと 窓拭き用にするものに分けましょ 」
ポイポイポイ ササササ ・・・
段ボール箱( 大 ) に収まっていたとは思えないほどの量の
衣類の山が またまた複数出来上がった。
「 うひゃあ ・・・ すご・・・・
えっと ・・・ 使えるのはこっちね。 オトコノコ用 オンナノコ用 と。
どっちでも大丈夫よね。 あ これ 好きなのね〜〜〜 」
小さなロンパースに歓声をあげ またまた彼女の作業はストップだ。
「 ふふふ ・・・ 使えるモノはちゃんと使ってあげないとね〜
< もったいない > って いい言葉だと思うわあ 」
― 結局 < 使える > 方は かなりの高さの山となってしまった。
「 あ らあ〜〜〜 ・・・ う〜ん なんかちょこっとお腹 空いた
かも〜〜 そんな時期かしらね・・・ちょっとオヤツ・・・
そうそうマーマレード・トースト なんかいいわね〜〜
なんか さっぱりするもの、あるかしら 」
よいしょ・・・ 衣類の山から脱出し キッチンに逃げて行った。
タンタンタン ・・・ まな板で包丁が軽快な音を立てる。
「 ん〜〜〜 いい感じに漬かってるわあ〜〜〜
ちょっと味見〜〜〜 ・・・ んま〜〜〜 ♪ 」
まな板の上には 緑と紺色の薄切りが山になっている。
フランソワーズは ちょいと一摘み、口に入れた。
「 おいし〜〜〜 おいし〜〜〜 最高ね!
さ これを トーストにのせてっと 」
焼き上がったパンの上に キュウリと茄子 の浅漬けの
薄切りを乗せた。
どちらも畑からの直行便? 新鮮野菜は浅漬けになっても
味が全然違うのだ。
「 うふふ〜〜 これにねえ マヨネーズ!
これをねえ ぐる〜〜〜っと掛けて ・・・ 」
ぱく。 さくさくさく ・・・
「 ん〜〜〜 美味しい♪
酸っぱいモノ ってなんか身体が欲してるわあ 〜〜 」
トーストはたちまち無くなってしまった。
「 ああ 美味しかったぁ〜〜〜
・・・ふぁ〜〜〜 ・・・ なんか ちょっと眠いかも ・・・
古着の片づけは ・・・ 後でいっか・・・ 」
さささっとキッチンの後片付けをすると 彼女はまたリビングに戻ってきて ―
「 ちょっとだけ・・・ お昼まで時間あるから 〜〜〜 」
ソファにこてん、とひっくりかえり すうすう寝息を立て始めた。
ポッポウ ポッポウ ポッポウ〜〜〜
鳩時計が 三回 元気に鳴いた。
「 ・・・ あ ・・・? 」
もぞもぞもぞ ・・・ ソファの上に起き上がる。
「 なんでここにいるの・・・・ わたし ?
あ! そうだわ〜 ちょっとだけって横になって ・・・
え いま 三時? うそぉ〜〜〜〜 」
フランソワーズは 慌ててソファからすべり降りた。
「 洗濯モノ! ・・・ は 後でいいわね。
お天気 いいし・・・ 晩ご飯は〜〜 あ 茄子の肉詰め に
するんだったわ 茄子は 今朝 いっぱい採った。
ひき肉は〜〜 あ 解凍しておかなくちゃ〜〜
あ! コドモ達のオヤツ〜〜〜 」
バタバタバタ −−− 彼女は大慌てでキッチンに駆けこんだ。
・・・ 加速そ〜ち! って
博士〜〜〜
わたしにも 搭載してくださ〜〜い
「 とにかく! オヤツ! えっと・・・ あ あれがいいわ
みんな好きだし さっぱり味、だもんね。」
冷蔵庫にアタマを突っ込んで 彼女はいろいろ 取りだし始めた。
― 一時間も経たない頃・・・
「 たっだいまあ〜〜〜〜〜 おか〜さん おやつぅ〜〜 」
玄関から賑やかな声が聞こえてきた。
「 すぴかさん? リビングにいますよ 」
「 たっだいまあ〜〜 たっだいまあ〜〜〜 」
トントントン すぴかがリビングまでスキップで顔を出した。
「 たっだいまあ〜 うわ?? なに〜〜 これ 」
衣類の山に すぴかはびっくり・・・ 急停車した。
「 ああ お帰りなさい すぴかさん。 オヤツね 」
「 うん! ・・・ ねえ おか〜さん これ なに? 」
「 なに・・・って。 あなた達が赤ちゃんの頃のお洋服よ
ほ〜ら かわいいでしょう? 」
「 は ちっちゃ! もう誰も着れないよう〜 」
「 ええ。 まだまだ使えるものも多いのよ 」
「 でも アタシ 着れないよ? 」
「 あなた達はね。 でも 赤ちゃんになら使えるでしょう? 」
「 ふうん ・・・? あ オヤツは〜 」
「 はいはい。 あのね もうちょっと冷やした方がいいかな 」
「 え なになに?? 」
「 ふふふ ミルク・ゼリーよ 」
「 わ♪ あ・・・ 好きだけどぉ 甘いのは さあ〜 」
「 ふふふ すぴかさんのは チーズ・キューブ入りよ 」
「 うわい〜〜〜 」
「 すばるのはジャム入り。 お母さんのはレモン入り。
あら すばるは? 」
「 ま〜だ だよ。 わたなべクンとの〜〜んびり 歩いてるんじゃない? 」
「 じゃ 先に食べちゃおっか〜〜 」
「 きゃ〜〜〜い あ アタシ うがい・手あらい してくる! 」
「 はい お願いね 」
うふふ〜〜 さっぱりしたモノがオイシイ季節ね♪
お母さんは ご機嫌ちゃんの模様・・・ なんだけど。
Last updated : 09.07.2021.
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************ 途中ですが
お江戸は いきなり秋になりましたが ・・・・
【島村さんち】 は 相変わらず賑やかです (>_<)
おか〜さん ・・・ どうしたの???