『 選んだ道 ― (1) ― 』
カタン −− 玄関のドアをゆっくりと開ける。
「 あ〜〜 つっかれたなあ〜〜 」
ジョーは ぶつくさ独り言をいいつつ中に入ると
再びゆっくりとちょいと古びてみえる木製のドアを閉めた。
「 ・・・ あ〜〜〜〜 ・・・ 腹 へったぁ〜〜 」
どこにでもいるワカモノが ありふれた呟きを吐いていた。
この 一見木製の旧式ドア は実は鉄壁のセキュリティ対策が施されており
ミサイル攻撃にも耐える構造だ。
どんなハッカーでも天才コソ泥でも このドアの鍵は突破不可能。
怪盗ルパンでも その孫でも だ。
しかし < 選ばれた > 人物たちは ドアに向かって
チラ・・・っと顔を向ければ ― 普通に開けられる。
その < 選ばれた人々 > とは ・・・
この屋敷の住人たち そして 家族同然の仲間達 は 当然。
さらに この地域を担当している郵便配達のヒト、宅配業者さん
新聞配達のヒト そして 海岸通り商店街の配達のヒト などなど
お馴染み・顔なじみ の面々も 顔パスである。
本人たちは 全くごく普通にチャイムを鳴らしドアを開けてもらうだけだ。
のんびりした穏やかな地域なので 気のいい人々がほとんどだ。
「 岬の家? ・・・ ああ 白鬚のご隠居さんと若い二人が住んでるよ
あれは娘さんと婿さんかねえ 」
「 岬の研究所ね ほら コズミ先生のご友人の家ですよ。
医学者とか ・・・ 気持ちのいいヒトたちですよ〜 」
その屋敷の住人達は日本人とは違った容貌だが 彼らは日本語堪能で
地域の人々ともごく普通に交流している。
茶髪の青年は 地域防犯パトロール なんかにもちゃんと参加、
消防団にも入りたい、と申請して長老たちを喜ばせている。
「 ただいまあ〜〜〜 」
ジョーは 奥に向かって大きく声をかけの〜んびりスニーカーを脱ぐ。
「 あ〜〜 ・・・ 腹 へったぁ〜〜 あ? 」
♪♪ 〜〜〜 ♪♪♪ 〜〜〜
耳を済ませれば 低く音楽が聞こえてくる。
屋敷の中、というか 地下から流れてきている。
「 ・・・ あ フラン、レッスンしてるのかあ・・・
毎日やってるよね ・・・ すごいなあ 」
しばらく耳をかたむけていたが 彼はそのままリビングに入った。
「 ただいまで〜〜す 」
奥に向かってもう一度 声を張り上げる。
これは 書斎にいるこの家の主の耳に届けるため、でもある。
「 う〜〜 腹ぺこだあ なんか作るかあ・・・
カップ麺・・・ うん? あ フランスパン あるよね〜〜
よおし。 皆にランチつくって 宅配だ♪ 」
ジョーはトレーナーをまくり上げると キッチンに飛び込んだ。
じゃ〜〜〜〜〜〜 シンクで盛大に水を飛ばし手を洗う。
ふんふんふ〜〜〜ん♪
ハナウタ混じりに パントリーからフランスパンを取りだす。
「 これこれ・・・ えっとあとは〜〜〜 」
彼は 冷蔵庫に顔を突っ込むと ハムやらチーズ、レタス トマト
などを取りだした。
野菜類は 裏庭の温室から取ってきたものだ。
「 へへへ ぼくが唯一作れるサンドイッチ〜〜〜 」
ザクザク ザク フランスパンを少し厚目に切る。
「 えっと・・・ 辛子バター 塗って・・・
あ こっちはワサビ・マヨネーズ ・・・っと。 そんでもって 」
わりと手際よく 彼はハムにチーズ レタスとトマト を
パンに挟み 上から軽く大皿をのせ重石にした。
「 さて ・・・ と。 あ 荷物おいて着替えてこよ 」
軽い足取りで 二階の自室へと階段を上って行った。
― 数分後
とんとん とん。 一階奥のドアをノックする。
「 博士〜〜〜 昼メシ・デリバリー でえす 」
ごそごそ ガタン。 騒音がきこえしばら〜〜く待って。
ギ −−− ドア ( これは普通のドア ) が開く。
「 サンドイッチでえす☆ 」
「 お ありがとうよ ・・ おや ジョー、 お前も作れるんだ? 」
「 これだけ ですけど 」
「 いやいや 美味しそうだぞ ・・・ ん〜〜 いい香だ 」
「 あ コーヒー こっちに置きますね 」
「 おう ありがとう どれ・・・ ん〜〜 んま 」
「 なんの図面です ? 」
ジョーは サブ机の上にあるモニターを覗いた。
「 ああ? うん 地下のロフトをなあ ちょいと改造しようと 」
「 ・・・ 研究室にするのですか 」
「 いやいや。 レッスン室に な。 フランソワーズの 」
「 あ! そうですね そうですよね 」
「 ずっとロフトでレッスンしておるのだが ・・・ 冷えるじゃろうし
ちゃんとな 鏡も張って床材も脚にいいものを使って でな 」
「 うわあ〜 喜びますよぉ 」
「 あ まだヒミツだぞ? サプライズしたいのさ 」
「 あはは 博士って〜〜〜案外おちゃめなんですねえ〜
了解〜〜 」
「 近々な 改造するぞ。 ああ ジョーもなあ 使いたい部屋があったら
言っておくれ 」
「 ああ ぼくは今の部屋で大満足です〜〜〜
それに 一応アウト・ドア派なんで ・・・
この先の砂浜 走ってトレーニング してます 」
「 ほう それはいいなあ ・・・ ま 頑張れや 」
「 はい あ 買い物とかありますか 」
「 いいや 急ぐものはないよ。 ありがとうよ 」
ジョーは 習慣でぺこん、とお辞儀をして書斎のドアを閉めた。
「 え〜と 次は 地下ロフト へでりばり〜 でえす 」
トントン トン 大皿を手に 地下ロフトへの降りていった。
♪♪♪ 〜〜〜 ♪♪
カツン カツン コツ コッ!
音楽が大きくなるにつれ 別の固い音も聞こえてきた。
「 ・・・ あ〜〜 フラン? 邪魔してごめん〜〜
あの 昼メシ 持ってきたんだけどぉ 」
ロフトのドアをちょっとだけ開け 声を掛ける。
「 ・・・っとぉ ・・・ あ はい〜〜 」
カタン。 音が止まりドアが開いた。
「 ジョー まあ ありがとう〜〜 」
「 えへ ・・・ あ 練習のジャマしてごめん〜〜 」
「 ううん ううん まあ サンドイッチ? 」
彼女は髪をひっつめ 首にタオルを巻き、ジャージーの上下を着ていた。
あ ・・・れ ・・・
ばれり〜な ってこういう恰好だっけ?
・・・練習とかだから ??
ちょいと期待?していたので ジョー ちょっとがっかり気分だ。
「 あ うん ・・・ 唯一 ぼくが作れるモノなんだ 」
「 うわあ〜〜 美味しそう〜〜 上手ね ジョー
買ってきたのかと思ったわ 」
「 いやあ ウチにあるものばっかさ。
あのぉ・・・ フラン そういう服で練習 するの? 」
ジョーは ちょいともじもじしつつ、聞いた。
「 え? ああ ここは冷えるから ・・・
あのね わたし達って とてもとても寒がりなのよ 」
「 あ そうなの ・・・? 」
「 ふふふ あのね 皆が期待してるひらひら〜〜 したのはね
舞台で着る衣装なの。 」
「 え ・・・ああ そうなんだ? 」
「 そうなのです。 ねえ ここで食べていい? 」
「 勿論〜 あ カフェ・オ・レ も。 はい。 」
彼は ポットごと渡した。
「 きゃ〜〜〜 メルシ〜〜〜 うわあ すっごい贅沢ランチね! 」
「 ぜいたく? ううん あは パン以外は全部冷蔵庫とウチの庭から
だよ〜〜〜 」
「 え それがすごい贅沢だわ お家で採れた野菜に
ジョーの手作りランチ〜〜 こんなの、憧れだったのよ
うふふ ねえ このトマトとサラダ菜がウチの? 」
「 そ。 あ そうだ イチゴも赤くなってるから 晩ご飯のあとで
食べようよ 」
「 きゃあ〜〜 シアワセ♪ ・・・ こんなに食べていいかしら 」
「 え?? だって少なくないかなあって思ってるんだけど 」
「 太ったらこまるのよ う〜ん いいわ
この後 張り切ってレッスンするから! 」
サンドイッチをぱくぱく頬張りつつ 彼女はとても幸せそうに微笑む。
「 ・・・あ いい笑顔 ・・ 」
「 え なあに 」
「 いや あ あ〜〜〜 う〜んと 」
「 ?? なんなの? 可笑しなジョーねえ 」
「 え あの ・・・ あ! あのさ
一度 聞いてみたかったんだけど ・・・ 」
「 はい? 」
「 あの! フランソワーズは そのう どうして踊りたいの?
・・・その ばれえ を さ。 」
「 ・・・ 」
返事がない。 彼女は宙に目をすえ あらぬ方向を見つめている。
や やば〜〜〜〜
な なんか超シツレイなこと、
聞いちゃったかな ぼく ・・・
「 ・・ あ あの ・・・ ごめん ・・・ 」
「 ?? え なんで謝るの? 」
「 え ・・・だってそのう ・・・ ぼくってば
シツレイなこと、聞いちゃった ・・・? 」
「 ?? シツレイなこと?? どうして?? 」
「 ・・・ だって きみ ・・・ ムスっとして 」
「 え〜〜 真剣に考えていただけよ?
わたし どうして踊りたいのかなあ〜 って 」
「 ・・・ そ ・・・ それで・・・ ? 」
「 う〜ん ・・・ どうしてって・・・ ねえ
どうしてなんだろう ・・・ う〜〜ん・・・ 」
彼女は またとても真剣な表情で考えこんでいる。
わ ・・・ やっぱ そのう
ヤバいよなあ
わ〜〜 ぼくってばかばかばか〜〜
ジョーが密かに自己嫌悪にハマっていると・・・
救いの女神? の声が聞こえた。
「 ― あ。 わかったわ 」
「 ! な なに? 」
「 踊りたい理由 よ。 わたしがどうしても どうしても
どんな時でもずっと願っていたワケ。 」
「 ・・・ どうして ・・・ 踊りたい の ・・・? 」
ジョーはもう おそるおそる呟いた。
「 それは ね。 赤い靴 を履いてしまったから。 」
「 ?? あ あかい くつ ・・・? 」
ジョーは思わず彼女の足元を見てしまった。
赤い くつ? 靴?
え〜〜 足は ・・・
・・・ もこもこソックス 履いてるよね?
あ その下に 赤い靴 なのかなあ
「 そうなの。 赤い靴。
すべてのダンサーは 赤い靴を履いているの。 」
「 え ?? 」
「 靴を脱ぐ時は − 死ぬ時なの。 ダンサーとして ね 」
「 ?? ・・・あ 踊りをやめる ってこと? 」
「 そうね 踊らなくなる っていうことよ。 」
「 ・・・ でもさ なんで 赤い靴 なの?
黒とかじゃなくて さ 」
「 あ ・・・ アンデルセンの童話で 『 赤い靴 』 って
しってるかしら 」
「 ― ごめん 知らないんだ 」
「 あのね 踊りが大好きで踊ってばかりいる女の子がいたの。
彼女は仕事もお祈りも放り出して踊ってばかりいたので
悪魔が差し出した魔法の赤い靴を履いてしまうのね。
その靴を履くと誰よりも素晴らしく上手に踊れたんだけど ― 」
「 けど・・・? 」
なんだか ジョーはごくり、と唾を呑んで聞き入ってしまう。
「 悪魔の靴でしょ 脱ぐことが出来なくなってしまって
その子は 死ぬまで踊って踊って踊らなければならなくて。
その魔法の赤い靴に 踊らされていたのでした ・・・ というハナシ 」
「 ・・・ へえ 〜〜〜 なんか ホラー気味だなあ 」
「 う〜ん そう? だから ―
赤い靴 を履いてしまったわたし達は死ぬまで踊り続けるの。 」
「 え ・・・ 悪魔の靴を? 」
「 あ それはお話でしょ。 そうねえ わたし達 ダンサーは
この靴を履いてずっと踊り続ける勇気はあるけど 自分から脱ぐのは
とてもとても勇気がいるの 」
「 ・・・ ふうん ・・・
それで フランは踊りたい! って思っていたんだ・・・ずっと 」
「 そう かもしれないわ
ふふふ 他のヒトから見たら バカみたいでしょう? 」
「! そんなこと ないよ!
そんなに熱中できることがあるって ― 羨ましいよ ぼく 」
「 ・・・ そう思ってくれて ありがとう 嬉しいわ。 」
「 すごいよなあ ・・・ アタマの上まで ふ・・・って
脚 上がっちゃうだもん ・・・ 」
「 そんなに特別なことじゃないのよ 」
「 ふ〜ん 」
シツレイかと思うのだが ジョーの視線は彼女の脚にくぎ付けだ。
キレイな脚だな〜〜〜 っていつも思ってて。
あ。 そうだよ! あの時・・
あの時も 目がテンになってて
護らなくちゃ と思うんだけど
身体が動かなくて ・・・
ぼくは アホみたく ぼ〜〜っと
見てたんだった・・・
< あの時 > とは ―
赤い服を纏って 闘っていた日々 ・・・
どこの戦場だったか ― 戦闘中、襲ってきたBG兵を
彼女はその脚で楽々とそして高々と
シュ −−− グギャッ!!!
いとも簡単に蹴り上げ蹴り飛ばしていたのだ ・・・
当然 BG兵は地面に叩きつけられ ひしゃげて動かなくなった。
すっげ〜〜〜 って。
心底 感心したんだ
― だってさ オンナノコが だよ?
脚 一本のヒト蹴りで だよ?
目がテン って ホントに。
うん ・・・
ああ このヒトが敵じゃなくてよかった〜 って
本気でしみじみ思ったもんなあ
「 すごい よ ・・・ ホント 」
「 あら そんな特別なことじゃないわ 」
「 え トクベツだよお〜 特殊能力だよ 」
「 バレエを習ってれば 脚はすぐ上がるようなるわ?
あ そうだわ〜〜
ふふふ ジョーもちょっとやってみる? 」
「 え〜〜〜 むりむりむり〜〜〜〜〜 」
「 あら 大丈夫 簡単よ。 ほら ここの座って・・・
脚を伸ばしてみて? 」
コトン。 ジョーは手を引っぱられ床に座り込んだ。
「 うわわ 」
「 そのまま こう・・・ 脚を前後に伸ばしてみて? 」
「 ・・・ こ こう ? 」
「 そうそう え〜と もうちょっと・・・
膝の裏をねえ 床につけるつもりで 」
「 ・・・ そんなこと できな ・・・ う〜〜 ぐわああ〜 」
ぐにゃり。 フランソワーズの手が彼の脚を押さえる。
「 あら 伸びるじゃない? ほうら〜〜 もっと伸びる〜〜 」
「 ? うぎゃあ〜〜〜〜 」
フランソワーズは もこもこソックスのまま、ジョーの脚を抑えて踏んだ。
「 ほらほら チカラ抜いて〜〜 もうちょっとで床に着くわよぉ 」
「 う〜〜〜 あ 脚が 折れるぅ〜〜〜〜 折れる〜〜 」
オンナノコの細い脚に踏まれ 009は本気の悲鳴を上げた ・・・ !
「 ほうらね 誰だって脚は開くし アタマの上まであがるの。 」
「 ふ ふ フラン〜〜 足 足 足! 退けて〜〜
折れる 折れるぅ いたたたた 」
「 大丈夫。 009でしょ? さいぼーぐでしょ 」
「 だけど だけど ・・ ミシミシいってるぅ〜〜 」
「 ふふふ 少しは筋肉が伸びたのじゃない?
こうやって持てば 耳の横に ね 」
きゅ。
彼女は自身のカカトを持つと ひょい、と片脚を耳の横まで持ち上げた。
「 ― ひ えええ〜〜〜〜〜 」
「 これは 普通。 別に無理してるわけじゃないの 」
「 あの ・・・ さ さいぼーぐ だから? 」
「 え?? ノンノン。 バレエを始めたばかりのちっちゃいこでも
できるのよ 」
「 ・・・ 人体の神秘 ・・・ 」
「 あはは 神秘 だなんて〜〜 ちょっと練習すればできるわ。
もっともねえ もうさすがに靴は食べられないけど 」
「 く 靴を たべる??? 」
「 そ。 小さな子ほど 楽にできちゃうの。
こう〜 腹這いになってから反って 脚を曲げてあげるの。
で ちっちゃな子は その足がアタマにつくのね。
背中 柔らかいから・・・ で 顔に靴がつくのよ 」
「 ・・・ うそ ・・・ 軟体動物 じゃないだぜ 」
「 赤ちゃんや 4〜5歳までなら ほとんどの子ができるわ。
わたしも かつては簡単にできたけど もう 無理ね 」
ぱたっと腹這いになると す・・・っと反って。
フランソワーズの足先は 彼女のアタマに届いていた。
「 ひえええええ〜〜〜〜 ・・・ 」
「 あら ジョーだって赤ちゃんに近い頃には出来たのよ。 」
「 ・・・ し 信じられない ・・・ 」
「 ふふふ だからね 特殊能力 じゃないのよ 」
「 う〜ん ・・・ 」
「 う〜ん? 」
「 こればっかりは賛成できないよぉ
ぼくから見れば立派な 特殊能力 さ。
すごいよ ホントに。
それに さ。 ニンゲンの身体ってすごいなあ〜って思うな。 」
「 すごいけど。 だけどね〜〜 靴を履くことを休んでいると
身体ってすぐに鈍ってしまうの 」
「 ・・・ え 」
「 それが辛くて 悲しくて ― 頑張ってきたのかも ・・・ 」
「 そっかあ うん ・・・なんか少しだけど分かる気がするな
あ ごめん! ランチ配達に来て ず〜〜っと長居しちゃった
練習してたのに ・・・ ごめん! 」
「 あ ううん ううん ・・・ わたしこそ・・・
なんかいっぱい喋ってしまって・・・
聞いてくれてありがとう! あ すご〜く美味しいサンドイッチも!
― ジョーがいてくれて よかった ・・・ 」
「 えへ ・・・ そっかな ・・・
あ そうだ。 博士がね〜 ここをちゃんとレッスン室にするって。
張り切っているよ あ ナイショって言われたんだ・・・ 」
「 え 〜〜 そ そうなの??
ここを使わせてもらえるだけで 十分なのに 」
「 博士って こう〜〜 いつもなにか < 開発 > していたいんだよ。
楽しみに待ってたら? 」
「 ええ ― ねえ やっぱりわたし ・・・・
赤い靴 は脱げないわ 」
「 いいじゃん。 ずっと履いていろよ ずっと踊っていろよ
・・・ ぼくは それを見てるのが楽しい 」
「 ・・・ そ そう ? 」
「 うん! 」
「 ジョーは ・・・ 優しいのね 本当に。 」
「 優しくなんかないけど ― ぼくには 一途に追う夢がないから
― その分 うん その代わりにね きみを護りたいんだ 」
「 え 」
「 なんてさ・・・ 戦闘中でもきみの方がずっと上手いのにね
だらしないけど ぼく 」
「 そんな だらしない なんて・・・
ジョー。 ああいうことは 慣れ なのよ。
わたしは貴方よか場数を多く踏んできた というだけ。
それに ― ジョーに 闘いに慣れてなんてほしくないわ 」
「 フランソワーズ ・・・ 」
「 ― もう殺し合いは たくさん。 」
彼女は 唇をかみしめ俯く。
「 そんな顔 やめ。 きみは天に向かって踊るんだ!
そうさ 赤い靴で踊りまくれよ 笑顔で踊ってゆけよ 」
「 ジョー ・・・ うん ! 」
「 そのために ― ぼく なんでもやるから。 どんどん言ってよ 」
「 ・・・ ジョー
」
「 博士もさ 応援してくれるし ― がんばれ 」
「 ありがとう! バレエ団のオーディション うけるつもり 」
「 それって 入試 とか 就職テスト ってかんじ? 」
「 そうよ。 ・・・ ずっと踊れな いえ 踊っていなかったから
すごく不安だけど 」
「 ここで う〜〜んと練習してさ ! 」
「 ええ ええ ・・・ でも いいのかしら 」
「 ? なんで? 」
「 だって ・・・ ここは皆の ウチ でしょう?
そこにレッスン室を作っていただいて ・・・ 」
「 いい! 博士がノリノリだもの。
それにね 防音完璧だから アルベルトのピアノ室にも使えるし
グレートの稽古場にもなる。」
「 そう ・・・? 」
「 うん! だからさ 練習 頑張りなよ 」
「 ありがとう! でも あの ・・・ 」
「 なに? まだ気になること、あるの ? 」
「 気になる というか ― ジョーは? 」
「 − え ? 」
「 ジョーは なにをするの。 なにがやりたいの。 」
「 ・・・ え ぼく? 」
「 そうよ。 こんな状況になる前 ― なにがやりたかったの?
将来の夢 とかあったでしょ 」
「 あ ・・・ う〜ん 」
「 ? ― あの。 聞いたらいけないこと、言ったかしら 」
ジョーが 珍しく暗い表情を見せた。
あら ・・・
こういうコト 聞かれるの、イヤなのかな
日本人にはプライベートなこと、
聞いたらシツレイなのかしら
「 ごめんなさい。 気に障ったら忘れてね 」
「 あ ううん そんなこと、ないんだ ・・・ 」
「 でも・・・ 」
「 全然そんなことないって。 ただ さ・・・
ぼくは ― ああしたい こうなりたいっていう夢、なかったんだ。
っていうより そんなコトは無縁だったから。 」
「 ― え ・・・? 」
「 まあ 漠然と生きてたってことかなあ ・・・
だからさ、それだから 思うんだ。
はっきり自分の夢とか目標があるってスゴイなあ って。 」
「 ・・・・ 」
「 今 ― きみの夢をサポートすることが ぼくの夢 さ。
さあ なんでもやるよ! 改築技術だって なにせサイボーグだからね〜〜
だいたいのことは できるんだ。 」
「 ジョー。 ありがとう! 」
「 えへへ なんか照れくさいけど ・・・ 」
「 あのね ジョー。 見つけて。 」
「 ??? 」
「 今から 見つけて。 ジョーの夢、やりたいコト、見つけて。
ジョーの 進んでゆきたい道 見つけて 」
「 フランソワーズ 」
「 わたし。 わたし なんでも協力するから。
ね ね!!! 」
キュッ !
細いけれどしなやかに強い指が ジョーの手を握り絞めた。
「 あ ・・・ あは うわあ ・・・ 」
ジョーはもう ― 耳の付け根まで真っ赤になって固まっている。
「 ね ― 考えてみれば これからなんでもできるわ?
それに ・・・ 時間もいっぱいあるわよね
その・・・普通のヒトよりも 長く ・・・ 」
「 え あ うん ・・・ 」
「 わたし 頑張るわ。 だから ジョーも。 ね? 」
「 − う うん ・・・ そうだね 」
「 いろいろ考える時間は たっぷりあると思うの 」
「 うん ・・・ 具体的なことは 全然決められないけど・・・
そうだなあ まずは ― 進学するよ。 大学いって ・・・
やりたいこと 探す。 ・・・遅いかなあ 」
「 そんなこと ない! 早い遅いは関係ないわ。
道を選ぶのは ― ジョー自身だもの。 」
「 ・・・ ん。 」
「 あのね。 わたし − 本当にいろいろなこと あって 」
「 うん 」
「 だけど ね。 赤い靴を自分から脱ぐ勇気は ―
どうしてもなかったの。 」
「 ん。 ・・・ そっか。 それでずっと 」
「 ふふ ・・・ 諦めが悪い? でもこれがわたしなの。 」
「 うん うん ・・・ うん! そうだよ!
あ 練習時間 邪魔しちゃったね ごめん〜〜 」
「 ジョー すごく美味しいランチ メルシ〜〜〜 」
「 ど〜いたしまして。 じゃ ね 」
ジョーは ランチの後片付けをしにロフトを後にした。
♪♪ 〜〜〜〜 ♪♪♪
彼のすぐ後から 軽やかな音楽が聞こえてきた。
「 うん 頑張ってるんだ フラン ・・・ ほんとうに。
ぼく は。 ぼくの進む道は ― 探すよ! 」
ジョーは独り、うんうん・・・と頷いていた。
こういうこと ・・・
全然考えてなかったもんなあ
もし あのまま だったら。
あのまま ぼ〜〜っとなんとなく生きていたかも。
ぼくは ― どう生きる ・・・?
彼はいつになく真剣に考え込んでいた。
「 ― いってきまあす 」
フランソワーズの明るい声が 玄関に響く。
「 おお 行っておいで。 気をつけてな 」
博士もにこやかに応え ちょん、と彼女の頬に触れた。
「 はい。 あ ジョーは ・・・ 」
「 ふふん 後で叩き起こす。 まあな 最近ずっと・・・
遅くまで机に向かっているらしいのでな 大目にみてやるよ 」
「 ふふふ そうですね ・・・ 」
ひらひら手を振って 大きなバッグを肩に彼女は門を出ていった。
いろいろあったが 毎朝 都心に近い中堅どころのバレエ団に通う。
舞台に立つまでは まだまだ努力しなければならない。
だけど フランソワーズには最高の日々だ。
「 ねえ 信じられる? 毎日 踊れるなんて!
踊ることが 仕事 だなんて ・・・
ああ ああ もう最高!! 夢だわ こんな日々〜〜
ホントなの? って 毎朝目が覚めるたびに思うわ 」
「 そっか〜〜 よかったねえ 」
夜 コーヒーを飲みつつ二人はぼそぼそと話す。
「 うん♪ ね ジョーは ? 」
「 ぼく ― 予備校 通ってるんだ。 受験のためにね 」
「 わあ やるのね! 」
「 ウン。 ピュンマにも相談したんだけどさ
大学、行けよって。 チャンスがあるなら 利用すべきだよ って 」
「 そう そうなんだ よかったわあ〜〜 」
「 まずは受験できる資格をとらないとダメなんだ。
今は 次の模試ですこしでも偏差値をあげること。 」
ジョーは 最近いつも持ち歩いている参考書を持ちあげた。
「 ホント ・・・ やるべきことは山盛り! 」
「 そっか。 ジョー 見つけたのね 目標。 」
「 あは 見つけるための第一歩 かな 」
「 その一歩が 一番大切かも。 プリエが全てだもの、わたし達。
ベビーさんクラスで学ぶことよ 」
「 ・・・ ん。 ぼく やるよ 」
自動翻訳機は 使わない。 数学の問題を解くに補助脳とはリンクしない。
全て自分自身の脳を使って ― ごく普通に 当たり前に 挑む。
彼は 島村ジョー として生きるために挑戦する。
Last updated : 05.03.2022.
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********** 途中ですが
その昔。 ほんのチビの頃 バレエ物のドラマに夢中でした。
サクセス・ストーリー?だったらしいですが覚えていません。
が! その主題歌のラスト は 今でも鮮明に歌えるのです☆
♪ えらんだみちだから〜〜〜 あるいて〜ゆ〜く〜〜♪