『 夏への とびら ― (1) ―  』

 

 

 

 

 

 

「 ただいま〜〜〜  雨 上がったよぉ 」

玄関からきこえる声が こころなしか弾んでいる。

「 お帰りなさ〜〜い ジョー。  あら 本当・・・

 空がすこし明るくなってきたわね 」

フランソワーズは 彼の声につられて窓の外を眺めた。

「 嬉しいわ  梅雨あけかしらね〜〜 」

「 どうかなあ ・・・ まだ ちょっと無理かもなあ 

玄関に出てきた彼女の笑顔に ジョーも笑顔で応えた。

「 あ 買い物、してきたよ。  桃! 桃があったんだ〜〜  ほら 

ジョーは 袋の一番上からそう・・っと取りだした。

「 もも?  ・・・ わあ〜〜〜 キレイねえ ・・・

 うふふ ・・・ これ 産毛みたいね 」

フランソワーズは 果実を目の高さに持ち上げにこにこ 眺めていている。

「 ほわほわしてるね?  冷やしといて今晩たべようよ 」

「 そうね そうね    ・・・ あら? 」

 

      に ・・・・ ぃ ・・・

 

ジョーの足元で 小さな声がした。

「 猫 ・・・? 

「 え?? 」

「 ジョ― 猫さん 連れてきたの?  」

「 ねこ?  ・・・ あ さっきさ、商店街の外れで

 白い猫がいたんだ。 でっかい猫でさ〜 悠然と昼寝してたから

 えへへ・・・ お昼のお握り、鮭のとこあげたんだ。 」

「 まあ ・・・ 野良ネコさんかしら 

「 う〜〜ん  どうかなあ けっこうふくふくしてたから

 あの辺でエサもらってるのかもな〜 」

「 ふうん ・・・ でも 今さっき 仔猫さんの声がしたわ? 

「 そう???  ・・・ いない よ? 

「 そう  よねえ ・・・ 」

彼女は 玄関をぐるりと見回した。

すみっこまで スニーカーの陰までみたけれど 勿論 仔猫はいなかった。

「 空耳かしら ・・・? 

「 ・・・ さあ ・・・  あ  今度さ〜〜

 あのでっかい猫、 見にゆこうか 」

「 そうね そうね。  ・・・ ウチに猫さん いてもいいわねえ 」

「 あは ・・・ 」

ジョーは すこし微妙な笑顔をみせたが、別に否定はしなかった。

 

       ・・・ あ  また この笑顔 ・・・

 

フランソワーズは フクザツな思いで彼を見つめていた。

 

  ―  そう ・・・ ジョーは いつも微笑を浮かべている。

 

それはとても淡い笑みで でも 彼が決して不機嫌ではない、と周囲に

教えるのには 十分だった。

 

   ふうん ・・・ 穏やかで柔和な性格なの ね?

 

最初 彼女はそんな印象を持っていた。

柔和ではあるが 優柔不断 とかではない。

ひとたび ミッションとなれば 彼は きっちり、自分の役割を果たす。

きゅっと口を引き結び きっちり、しっかり最後の最後まで

彼は自分自身の < 仕事 > を果たすのだ。

 いつしか ジョーに殿 ( しんがり ) を任せれば大丈夫 ・・・

とメンバーの誰もがそう思うようになっている。

 

 しかし。  

 

作戦中などのミーティングの時、 ジョーは発言しない。

「 〜〜となる。 それじゃ 意見を聞く 」

「 おう  オレは〜 」

「 それはヘンだわ! データをよく見て! 」

「 そうだね〜 僕は〜 」

個性豊かなメンバー達は 口々に主張する。

上手く 交通整理 しないと 何も進まないほどだ。

 そんな喧騒に近い中で 彼は 口を噤んでいる。

 

「 う〜〜ん どうしたら ・・・ あ ジョー。 

 君はどう考える? 君の意見は? 

隣のピュンマにつつかれ 彼はやっと口を開く。

「 あ ・・・ 皆の意見に賛成だよ ぼくは。 」

「 !  皆 って誰だよ〜 」

「 全員の意見に賛成 ってことか? 」

「 ・・・ えっと そのう ・・・

 皆できめたことに 賛成 ってこと かな ・・・ 」

 

 聞いていない のではない。 しっかりミーティングに参加し

仲間たちの話に きちんと耳を傾けている。 理解力も抜群だ。

 

  だけど。  島村ジョー は 009は。

自分の主張をしない。  というか 自身の意見を言わない。 

 

 

    なんなの?? 自己主張しないって信じられないんだけど。 

    ・・・ええ  嫌いじゃないわ いいヒトよね?

 

    お兄ちゃんと ちょっと見た感じが似てるのね

    ・・・ ついつい目で 追い掛けてしまう 

 

 

    ― ええ そうよ。

    わたし 彼のことが気になるの !

 

    彼は ・・・ どう? わたしのこと、どう思ってる?

 

フランソワーズは ずっと気になっていた。

そして  じっと見つめれば ―

彼は 淡い微笑を浮かべ す・・・っと視線を逸らせてしまう。

嫌われているのかな? と思ったが 話かければごく普通に答えるし

 そして 彼はいつもとても優しいのだ。

 

    あら。 わたしのこと 気に入ってくれてる?

    ねえ わたし もっともっとアナタのこと、知りたい。

 

    もっともっとおしゃべり しましょうよ?

    ねえ  ジョー ・・・?

 

彼はいっつも微笑を浮かべている  だけど それ以上の接近はないのだ。

 

    ・・・ わたしのこと、 キライ?

    やはり同じ国のヒトがいいのかなあ ・・・

 

    ねえ どっちなの??

 

  ― 彼は微笑んでいるばかり。

 

ジョーは 明確な意思表示をしないヒト と仲間たちに思われている。

 そして 日本で、この邸で暮らすようになっても 変わってはいない。

そのコト以外では 彼はとても穏やかで 一つ屋根の下で暮らすには

気持ちのいい同居人で安心できるヒト だった。

 

 

「 ねえ ・・・ やっぱり犬の方が いい? 」

「 え? 」

その夜、 晩ご飯を終えてまった〜〜りしている時

フランソワーズが 何気なく聞いてきた。

「 昼間の話よ。  あの ・・・ 飼うのだったら 

 やっぱりワンちゃんの方が 好きかしら  ジョーは 」

「 そんなこと  ない けど ・・・ 」

「 ここは敷地もひろいし ― 犬でも猫でも飼ってよいよ?

 犬じゃったら 自由に庭で遊べて喜ぶのじゃないか 」

博士は のんびりお茶を飲んでいる。

「 博士、 どちらがお好きですか  」

「 ワシか?  あ〜〜 子供の頃 家にはシェーパードがいたよ。

 結構遊んだなあ ・・・ 祖母の家には猫がいて ・・・

 遊びにゆくと よく触って楽しんでいたぞ。

 どちらか ・・・って  どちらも 好きかな 」

「 まあ そうですか  わたしね〜〜 ず〜〜〜っと

 動物と一緒の生活って憧れていたの。

 パリにいたころは アパルトマン暮らしでペットはいなかったし・・・

 窓辺にくる小鳥さんに エサをあげていたくらい 」

「 ・・・ ぼくも ・・・ 飼えなかったな ・・・

 施設暮らしだったから ・・・ 」

「 ね? それなら ―  どちらか 一緒に暮らしましょうよ? 

 ワンちゃん でも にゃんこさんでも いいわ。 」

「 ああ お前たちで好きな方を選んでよいよ。 」

「 ありがとうございます。 うふふ ・・・ 実はね〜〜

 稽古場の近くにペット・ショップがあって ・・・

 わたし よく 張り付いてみてるの 

「 あ・・・  あのう〜〜 」

「 ? 」

「 飼うのなら ・・・ そのう ・・

 そういう店じゃなくて ・・・ 保護犬 とか 保護猫 が ・・・ 」

「 ほごねこ?  それ なあに。 猫の種類? 」

「 ちがうんだ。  あのさ 日本にはね ・・・ 」

ジョーは この国の ペット事情? をざっと説明した。

「 !  そんな ・・・ 。 」

フランソワーズは きゅっと唇を引き結んだ。

「 あ あの ・・? 」

「 わかりました。 明日 ほけんじょ に行ってきます。 」

「 ふ フラン ・・・  あのう ・・・? 」

「 ああ ワシも一緒に行くよ フランソワーズ。

 ― その方がいろいろ ・・・ よいだろう? 」

「 まあ 博士。 ありがとうございます。

 ジョー  明日 新しい家族をウチに迎えましょう。 」

「 え ・・・ 」

「 帰りに いろいろ・・・買ってこないと ・・・

 ほら ゴハン用の器とか トイレ用品とか。 ベッドもね〜〜

 あ 一番大事なのは ご飯 !  」

「 あ そっちはぼくがそろえるよ。 」

「 ありがとう〜〜  うふふ 楽しみ〜〜〜  」

「 おいおい・・・ 犬か猫か どちらにするつもりなのかな? 」 

博士は少々呆れ顔だ。

「 あ ・・・ やだ〜〜 肝心なこと、決めてなかったわね 

「 ぼくは ・・・ どっちも好きだから どっちでもいいや 

 フラン 決めてよ 」

「 え そうなの?  う〜〜〜〜ん ・・・・? 

 そうねえ ・・・・ 猫さんにしても いい? 」

「 いいよ  どんな猫でもいいよ、皆かわいいもん  」

「 へえ〜  ジョーって猫好きなの? 」

「 ・・・ ぼくは ・・・ 皆 好きなんだ。 猫も 犬も ね 」

「 ふうん 」

「 ・・・ 」

ジョーは それきり口を噤んでしまった。 

不機嫌な様子ではなかったので フランソワーズも気にとめなかった。

 

     ああ  また いつもの ジョー なのねえ

     犬にも猫にも あまり関心はないよってことなのかも

 

     いいわ 博士と一緒に決めちゃおうっと。

     うふふ〜〜〜 茶色のわんちゃん も いいし

     しましまの猫さんも いいなあ〜

 

     そうよ チビちゃんじゃなくてもいいわ。

     オトナのわんさんや 猫さん も 魅力的だもの

 

フランソワーズは ウキウキしていた。

だから ジョーの微妙〜〜に淋しそうな陰には 気が回らなかった。

はっきり好みを主張しないのは いつものことだ。

 

     そうよ 犬でも 猫でも どっちでも〜 なのよね  

     ジョーって はっきりした好みってないヒトよ

 

明日 巡りあえるかもしれない新しい家族について あれこれ想いをめぐらし

フランソワーズはすっかりご機嫌ちゃんだった。

 

 

 

 「 ・・・ ふわふわ で  温か だったよなあ  」

 

     ぼくのチビ。 ・・・ 鼻シロの茶色の仔犬・・・

 

その夜 ジョーはベッドの中で 少しだけ記憶の糸を手繰った。

< そのこと > については今まで極力、思い出すのを避けていたのだけれど。

 

     ああ そうだよ ・・・ あの頃 ・・・

     くんくん〜〜って 濡れた鼻づらを押し付けてきて

     短い茶色の毛が 艶々してたよなあ 

 

     きゅ〜〜ん ・・・・ って鳴くんだよ

     ゴハン 食べながらね

 

こっそり物置で飼っていた仔犬。 町はずれからついてきた仔犬。

多分 捨てられたのだろう。

 

 でも ― 神父様にみつかって・・・

「 ・・・ ごめんなさい 神父様 」

「 ここで こっそり飼うのは 可哀想ですよ 」

「 え? 」

「 ちゃんと散歩したり 遊んだりしてあげなくてはね 」

「 ・・・ ぼく達 散歩してあげれます  」

「 エサはどうしますか? 

「 ・・・・ 」

「 このワンさんのためにも ちゃんとした飼い主が必要でしょう? 」

「 ・・・ 」

「 教会に来る信者さんに声をかけて 里親になっていただきましょう 

「 ・・・ 」

「 それが このワンさんのシアワセなんですよ。 わかるね、ジョー 」

「 ・・・ 」

ジョーは だまってまっすぐ前を見つめていた。

 だって ― なにか言ったら 下を向いたら  涙がぼたぼた落ちてしまうから。

 

 

 

「 ・・・ さよなら ・・・ シアワセになれよ 」

薄茶色の仔犬は 振り返り振り返りしつつ引き取られていった。

「 ジョー 大丈夫ですよ。 スズキさんは動物好きな方です。

 うんと可愛がってもらえます。 あのワンさんにはお家ができたのです。 」

「 ・・・・・ 」

神父さまは そっとジョーの肩に手を置いてくれたけど

ジョーは 身体を固くして仔犬が連れられていった後を見つめていた。

 

     ・・・ わんこ には お家 ができたんだ・・・

     迎えにきてくれる人が  いたんだ ・・・

 

     ―  ぼく  は ・・・?

     ・・・ 誰も  ・・・ いない ・・・

     

     ぼくを必要としてくれる人は  いないんだ 

 

それ以来 ジョーはペットとは距離を置くようになっていた。

飼うことは勿論 できなかったし、近所にいる犬やら猫にも

関心を示さなかった。

 

     ・・・ どうせ 皆 どこかに行ってしまうんだろう ・・・?

 

自分自身で 塀 をつくり 彼は固く閉じこもった。

いつも浮かべている淡い微笑 は その塀を護るためでもあったのだ。

 やがて ― 

とんでもない運命に巻き込まれた後も 彼はいつも一人だった。

特殊な運命で結ばれた貴重な仲間たちとも 心底から親しくはしない。

拒絶するわけではないが 一歩踏み込んだ付き合いは しないのだ。

 

 

     そして ―  あの鼻黒の仔犬と出会ってしまった。

 

     

        ・・・ !  

        ああ 今でもはっきりおぼえてる

   

        お前の 手触り お前の 声 

        お前の 冷たい鼻先 お前の 匂い

 

          く  び  く  ろ 

 

運命の出会い をして  そして 哀し過ぎる永訣を体験してしまったのだ。

 

「 ・・・ 犬 でも 猫 でも 好きさ。

 動物は いいよなあ〜〜  皆まっすぐにぼくを見るもの。

 

 でも ・・・ 

 

 ぼくのトモダチは ・・・ アイツだけ だ 」

彼は 夜空をみあげ深いため息をついた。

 

 

 

 ― 翌日の午後 それも遅い時間。

 

「 ただいまあ〜〜  買い物 してきたよぉ 

ジョーは 玄関に入ると どさり、と重い荷物を置いた。

「 ・・・?  あ 二人とも出掛けてるのかな ・・・ 」

スニーカー を脱ぐと嵩張る袋を持ち直した。

「 え・・・っと ・・・?  猫君用のグッズはどこに置けば

 いいのかなあ 」

 

    トトトト ・・・・  微かな ごく 微かな音がして

 

「  にゃああ〜〜〜〜〜〜ん  」

 

真っ白な毛皮のカタマリが 飛び出してきた。

「 ?!  お ・・・?? 」

「 ・・・・ 」

白毛のカタマリは 空色の瞳でジョーを見上げると に・・・っと笑った。

「 やあ ・・・ ぼく ジョー。 」

「 にゃん 」

仔猫は ちょっとだけ首を傾げていたが  ―  ぴょん。

「 おわ?? 」

ジョーに向かってかる〜〜くジャンプしてきた。

「 にゃん? 」

「 あは ・・・ ふわふわだねえ〜〜 

仔猫は 難なくジョーの腕の中に収まったのだ。

 

「 チビ〜〜〜〜  そっちへ出ちゃ だめよ〜〜う 」

フランソワーズが リビングへのドアから飛び出してきた。

「 ジョー 〜〜〜〜  チビは?? 外にださないで〜〜 」

「 ちび? 」

「 猫さんよ〜〜  もう元気すぎて走り回ってばかり・・・

 チビ? どこにいったの?? 」

「 にゃあ〜〜ん 

「 どこ? 」

「 ここにいるよ 」

「 え?   ・・・ あらあ〜〜〜  もう仲良しなの? 

「 いきなり ここに着地さ 

「 うふふふ〜〜〜 相性がいいのね?  

 あ ジョー。  今日からウチの家族です。  ちびちゃん 」

「 そっか〜〜 よろしく〜〜 チビ君。 」

「 あら どうしてわかったの?  むっしゅう だって 」

「 うん?  なんとなく・・・ このイタズラ坊主みたいな目で ね 」

「 そうなの〜〜  それでねえ  ちびちゃん です。 

 もうねえ 運命的な出会いだったの〜〜 」

「 保健所から引き取ったんだろ?  」

「 うう〜〜ん  全然その前。 」

「 ?? 

「 博士とね 下のバス停で待ってたら ・・・ 」

 

いらっしゃい と彼女は仔猫に手を差し出したが

< 彼 > は そのままジョーの腕の中で く〜く〜 ・・・

眠り始めた。

 

「 あら かわいい〜〜  」

「 このコ どこで ? 

「 ああ あのね 下のバス停でね 」

「 うん ・・・ 」

 

ジョーは 腕の中の温かいカタマリをそうっと そうっと撫で撫でしつつ

フランソワーズの話に 耳を傾けて始めた。

 

 

「 おや 次のバスまで15分も あるぞ? 」

バスの時刻表を覗きこみ 博士は嘆息した。

「 あらら  のんびり待ちましょうよ 急ぐ用事でもないし 」

「 そうじゃな ・・・うん ? 」

「 はい?   ・・・ あら 

 

       み ・・・・ みぃ〜〜〜〜

 

二人のすぐ後ろからか細い声が聞こえてきた。

「 え?  ・・・ なんか声が ・・・ 」

「 こりゃ 仔猫 か? 」

「 え〜〜〜 どこ? 」

フランソワーズは 咄嗟に < 眼 > を使っていた。

「 ・・・ あ  仔猫! その薮の中に 〜〜  

「 どこじゃ?  おお見つけたぞ 」

博士は ひょい、と薮の前に屈みこみ 手を突っ込みかけ

「 ! 博士〜〜 危ないです、引っ掛かれますよ 」

「 ああ? 

「 わたしが捕まえます!   ・・・ ぱーかーで腕を包めば・・・ 

 猫さ〜〜ん  おいで〜〜〜 」

 

   がさ ごそ。  うにゃあ〜〜?

 

「 ん〜〜〜   ほら おいで〜〜  きゃ・・・

 こらあ〜〜 ひっかかないでよぉ〜〜〜 」

「 お お ・・・ いやあ 白い仔猫だな 」

「 暴れない〜〜  あらら ・・・ アナタは白さん なの?

 ネズミ色なのかと思ったわ 

「 洗ってやろうなあ。  なあ このコ を 」

「 はい!  さあ お前のおウチに帰るのよ〜〜 

「 フランソワーズ バッグはワシがもってゆくから ・・・

 そのコをしっかりつかんでいってくれ。 」

「 はい。 こらあ〜〜 噛みつかない〜〜

 本気で噛んだら キミの歯が欠けてしまうわよ? 」

「 ははは ・・・ 帰ったら 即 風呂 だな。 」

「 ええ ええ。  あら?  このチビさん たら

 案外大人しい?  」

「  うん?  ああ  ほっとしたのかもしれんなあ 

「 そう ですねえ 」

拾ったばかりの子猫は パーカーに包まれじ〜〜っと二人を見つめていた。

「 洗ってあげて ゴハンとミルクと 」

「 ああ その前にペット・クリニックじゃな。

 一応 健康診断、そしてワクチン接種じゃ 」

「 まあ そうなんですか  お詳しいんですねえ 

「 子供のころ、 犬も猫も飼っておったからな ・・・

 ああ 君は初めてかい 」

「 ええ そうなです。 うふふ  ふわふわ〜〜 」

「 ジョーが戻ったら 相談して名前をきめておやり。

 ふふふ ・・・ 可愛いのう 」

「 ね?  チビシロさん♪ 」 

 

   みゃあ〜〜ん   仔猫は可愛い声を上げた。

 

 

「 ・・・ という訳なの。

 きっとね〜〜 このコは わたし達を待っていたのよ。 」

「 そっか ・・・ 

「 あの茂みでず〜っと待ってたのね 」

「 ・・・ 捨てられたのかなあ 迷いネコかなあ 」

「 あの辺りに お家はないし ・・・ 首輪をしていた形跡も

 ないわよ 」

「 でもね 完全な野良ネコ なんていないよ?

 ・・・ ウチのコになるかい。 」

「 ね〜〜 うふふ なんて名前にする? 」

「 別に ・・・ フラン、きみが好きな名前にしていいよ 」

「 あら 一緒に考えましょ?  ウチの家族になるんですもの 」

「 ・・・ うん ・・・ そうなんだけど  」

「 そうそう ペット・クリニックにも行ってきたの。

 ウィルス・チェック は オッケーですって。

 ちゃんとワクチン注射もしてきたのよ 」

「 そっか ・・・ よかったな お前 ・・・ 

「 だから 〜〜 名前〜 」

「 さっき チビ って呼んでたろ? それでいいんじゃないか 」

「 え ・・・ 

「 なあ チビ? 

ジョーは そっと腕の中の毛皮のカタマリに話かけていた。

 

     ジョー ・・・?

     猫さんに関心があるのかなあ ・・・

 

     それとも ・・・ 好きじゃないのかしら。

     やっぱり 仔犬さんの方がよかった・・・?

 

フランソワーズは少しばかり複雑な気持ちで ジョーと仔猫を

眺めていた。

 

 

翌日から ギルモア邸はこのチビの新参者に振り回されっぱなしとなる。 

 

   に〜〜 に〜〜〜  にゃあん〜〜〜

 

「 ?  チビ〜〜〜〜 ? どこ? 」

「 ん? リビングにおらんのかい  」

「 ええ ・・・ 朝ご飯 食べてたはずなのですけど

 チビ〜〜 ?? 」

 

    にゃあ〜〜ん ・・・・

 

「 お返事は聞こえるけど〜〜  ちび〜〜〜 」

フランソワーズは キッチンを探し、リビングをもう一回見回した。

「 あれえ ・・・ ちび どこぉ? 」

 

    にゃあん。    ・・・ ここだよ。

 

「 え??  ・・・ああ ジョーね。 びっくりしたあ〜

 チビがしゃべったのかと 思ったわ・・・ ジョー どこ? 」

「 ここだよ。 テラス。 

「 え? 

 

 カラリ と 網戸を繰れば テラスに置いてあるデッキ・チェアに

ジョーが座っていて  膝の上には。

 

「 あらあ〜〜 チビったら〜〜 いつの間に外にでたの? 」

「 わかんないよ〜 ぼくが庭掃除してたらじゃれついてきたんだ。 」

「 え ・・・ 網戸、自分で開けたのかしら 」

「 さあ ?  脱走されちゃ困るから 抱き上げたら ―

 そのまま さ。 」

「 あ〜らら   チビちゃん、お家にはいりましょ?

 ブラッシングしてあげるからね〜〜〜 」

「 ああ たのむね。  ほら  

 

   にゃ にゃあ。  仔猫はジョーにしがみつく。

 

「 ほら〜〜 ウチの中に入るだけだよ? 」

「 おいで チビちゃん 

 

   にゃ。  仔猫は断固! ジョーの側を離れない。

 

「 ・・・ しようがないわねえ〜〜

 ジョー しばらく遊んでやってくれる? 」

「 ああ いいよ。 庭の外には出さないから 」

「 ええ お願い。 」

 

   にゃ にゃ にゃあ〜〜 ん  仔猫はご機嫌ちゃんだ。

 

仔猫は いつもジョーの側にひっついてたがった。

ご飯をくれるのは フランソワーズ  ブラッシングしてくれるのは 博士、

と 役割は決まっているのだが・・・

それ以外の時 ジョーがいれば必ず彼の側でチビは遊んだり眠っていたり

するのだ。

夜も 自分のベッドで丸くなるよりも ジョーのベッドに潜りこむ。

 

「 う〜〜ん  ねえ チビちゃん? たまにはわたしと一緒に

 寝ない? 」

 

   にゃあ ??  にゃ。  仔猫はす・・っとジョーの足元に座る。

 

「 あ〜あ ・・・ 振られちゃったあ 〜〜 」

「 あは ・・・ ぼく きっと同類だと思われてるんだよ 」

「 ええ?   う〜〜ん きっとね、男同士、気が合うのでしょ。

 ま いいわ。 昼間はわたしと一緒だもんね〜〜 」

「 ワシの膝でも よく昼寝してゆくぞ 」

 

仔猫を囲んで 笑い合いおしゃべりしあい ・・・ 少しづつ

< 家族 > の雰囲気が出来上がっていった。

 

 

   そんな頃 ・・・

 

 ― 突発的に ミッションへ赴くことになった。

 

博士を含め この邸を空けなければならない。

他のメンバー達とは現地で合流するので 出発の時間が迫っていた。

 

「 チビ ・・・ どうする? 」

「 コズミ先生のとこに お願いしてくるわ ! 」

「 そうだね ここには置いておけない。 」

「 ええ もちろんよ。

 ・・・えっと キャリー・ケース は ・・・ 」

「 ぼく ご飯とトイレ砂、用意するね! 」

「 お願い!  ああ 玄関の納戸にしまったんだったわ 」

緊迫した空気の中 二人は仔猫のために奔走し始めた ・・・ のだが。

 

   ちび〜〜〜  ちび??   どこにいるのぉ〜〜〜

 

   ちび?  お〜〜い 出ておいで〜〜〜

 

 

       白い仔猫の姿は 消えていた。

 

 

Last updated : 07,16,2019.               index     /    next

 

 

**********   途中ですが

この二人は 平ゼロ か 原作 ですね〜〜

実は 只今 酷いペット・ロス でして ・・・

こんなお話になりました ・・・・ (:_;)

タイトル〜〜 例の某有名SFから拝借です☆