『 はつこい ― (2) ― 』
テキスト ばちるど
船着場には小型の、というよりボートにちょいと毛が生えた程度の漁船が係留されていた。
「 え〜と? ・・・ 第三大福丸・・・ あ これだ これだ・・・ 」
ジョーは船体を覗き込んでいたが舳先に書いてある名前をみつけ大きく頷いた。
「 すばる〜〜 これだよ、 この船だ。 これに乗るよ。 」
「 ・・・ う うん ・・・ 」
すばるはお父さんの後ろにず〜〜〜っとくっついたきりだ。
生まれた時からウチの前には海があり、あんよ出来る前から双子たちは海で遊んでいた。
海は庭の一部、遊び場だ。
だから すばるはもちろん水は怖くないし、ちゃんと泳げる。 そしてやっちゃいけないこと や
危ない場所 も知ってる。
・・・ けど。 海の上をゆくのは初めてなのだ。
「 ・・・ おとうさん ・・・ 」
「 ほら これだよ。 あ〜〜 おはようございま〜〜す・・・! 」
「 おう!? お早うさん。 え〜と シマムラさんかい? 」
「 はい! よろしく 〜〜 」
お父さんは漁船の中にいたオジサンとハナシを始めた。
ちゃっぷん 〜〜 すばるの目の前で海の上にお船が揺れている。
え ・・・ 足のした ・・・ ぜんぶ 海・・・ってか 水 ?
ぼ 僕 ・・・足 とどく ・・・かな・・・
・・・ 僕 ・・・ 25メートルはおよげるけど ・・・
すばるはじじじ・・・っとお父さんの側によると お父さんのパーカーの裾をしっかり握った。
「 ・・・ すぴかァ ・・・ 僕 ・・・ 」
こんな時、 いつだって < 平気だよ!> って先頭に立つ相棒が今日はいないのだ。
「 ・・・ すぴかァ〜〜 ・・・ 」
公園のべんてん池で ボートに乗ったときも < 平気だよ!> ってすぴかが
ぎっちりすばるのシャツを掴んでいてくれた・・・ だからちっとも怖くなんかなかった。
そう ・・・ 今まではいつだって目の前にはすぴかの背中があり、すばるをがっちり守ってくれていた。
すばるは安心してにこにこ・・・・くっついて行けばオッケーだったのだ。
― それが 今日は。 すばるはなんだかお腹も背中もすうすう寒くなってきてしまった。
「 おとうさん ・・・ かえろうよ ・・・ 」
すばるは蚊の鳴くみたいな声で言ってみたけど お父さんには全然聞こえてないみたいで。
「 あ〜 そうです! 島村です、 よろしくお願いします。
ほら すばる、 この船だよ。 さあ 乗ろ な。 」
お父さんはおっきな声ですばるに言って どんどん歩きだした。
「 あ・・・ おとうさん ・・・ !」
「 ん? ほら ・・・ 」
お父さんは振り向くとすばるの手をちゃんと握ってくれた。
繋いだ木の板を踏んだら ぐら・・・っと揺れた。
「 うわっ!?? 」
「 平気だよ、そのまま歩いておいで。 」
「 う・・・ うん ・・・ 」
すばるはお父さんにぴったりくっついてゆらゆらゆれる船の上になんとか降りた。
「 おとうさん ・・・ おとうさん ・・・僕ゥ〜〜 」
すばるはもうすっかり涙眼になってしまった。
「 ほい、どうした坊主 ? 」
船の上で漁師のオジサンが 笑っている。
「 さあ〜〜坊主、 兄ちゃんと一緒でいいなあ。 仲良し兄弟だな〜 よく似てるね。 」
「 ・・・ うっく ・・・ おとうさん おとうさん 僕ゥ〜〜 」
・・・ え?! おとう・・・って 坊主の父ちゃんなのかい?! 」
オジサンはびっくり仰天って顔で、ジョーのことを指差した。
「 ウン。 ・・・ 僕のおとうさん。 」
「 へえええ〜〜〜 兄ちゃん、若いのに偉いねェ〜〜 」
「 あ ははは・・・ よろしくお願いします。 」
「 おうよ。 さあ 出航するぞ〜〜 」
それ ちゃんと掴まってなよ!っと オジサンは一声かけてちっちゃな部屋みたいなトコに入っていった。
「 ・・・ おとうさん? 」
「 うん? ああ ほら。 あそこがさ 船の <運転席> さ。
さあ 〜〜 出航するぞ〜〜 ほら、 すばる、こっち来てごらん。 」
「 う うん ・・・ うわ? 」
ぐら・・・っと足元が、 いや船全体が動き始めた。
「 お おとうさん〜〜 」
「 うん やっぱり船はいいなあ・・・ なんかわくわくするよなあ。
ドルフィン号 発進! ・・・なんちゃってな〜 ・・・ あ? ( ヤバ・・・聞こえたかなあ? ) 」
ノリノリ気分だったジョーは チラ・・・っと息子を振り返ったが 息子はそれどころではなかった。
足元がぐらぐら揺れる、という初体験にがっちがちに固まっている。
「 ・・・ お おとうさん〜〜 」
「 なんだ。 こっちおいで、すばる。 風が来て気持ちいいぞ〜〜 」
父は舳先に立ち息子を呼ぶのだが ― 息子はへたり込み、船端にしがみ付いていた。
「 怖くないよ、すばる。 よ〜し お父さんがしっかり掴んでいるから ほら。 」
「 う うん ・・・ 」
ジョーはすばるのGパンの後ろを握った。
「 ここは船の上だから安心だよ。 気持ちいいだろう〜〜 お父さんは海が大好きなんだ。 」
「 ・・・ ふうん ・・・ 」
「 すばるは海、きらいか? 」
「 ううん 好き・・・だけど ・・・ うごく海は好き・・・じゃないかも・・・ 」
「 動く海? あはは・・そうかもなあ。 大丈夫だよ、もう少し行ったら止まる。
そこで釣りをするんだよ。 」
「 そうなの・・・ 」
「 もうちょっとだと思うからな? どうだ、一番前に立ってみないか? いい風だよ。 」
「 い いい! 僕 ・・・ ここでいい。 」
すばるは座り込み再び船端に張り付いた。
「 そうかい、 それじゃ ・・・ ちょっとお父さん、前に行っててもいいかなあ。 」
「 う ・・・ うん ・・・ いいよ。 」
「 じゃ ちょっとだけな〜〜 」
ジョーはくりくり・・・とすばるの頭をなでると すたすた一番前まで行き、
舳先に片足を掛け前方を見つめている。 セピアの髪を海風が弄ってゆく。
あは ・・・ なんか好きなんだよなあ
船出って わくわくするし ・・・
・・・ 海は ― 本当に いい。
こんな平和な海に息子と来る、 なんて
なんだか夢みたいだなあ・・・
そうだ、 今度フランも誘ってみよう ・・・
潮風に髪を靡かせ ジョーは何時の間にかあの赤い服を着、後ろにながくマフラーを引いている気分になっていた。
そんな父を 息子は後ろからぼ・・・っと眺めていたが ―
「 ・・・ う ・・・ 僕 ・・・・ あのゥ・・・・ 」
脚を組み替えさんざんモジモジした挙句 ついにすばるは決心した。
「 おとうさん ・・・・っ! 僕 ・・・ おしっこ。 」
・・・・・ え?
「 さあ すぴかちゃん。 お待たせ! 」
リハーサルが終わり お母さんとタクヤお兄さんはやっぱり <せんせい> からいっぱいお小言をもらい。
「 ・・・ じゃあ次回を期待しているわ。
お疲れ様。 ああ チビちゃんもお疲れさま。 面白かった? 」
せんせいは 後ろの隅っこで見学していたすぴかにもちゃんと声を掛けてくれた。
「 ・・・ は はい! せんせい。 」
「 お〜〜 いいお返事だ。 じゃあね。 」
先生はすぴかにバイバイ・・・するとさっさとスタジオを出ていった。
「 ・・・だっは まったまた 〜〜〜ボロクソ 〜〜〜 」
「 ごめんね、タクヤ。 わたし ・・・ あんまり上手くなかったわ。 」
「 そんなことねえって。 ・・・ オレもさ。
は! ・・・マジで、もっともっと踊り込まなくちゃな! 」
「 そうね。 反省 反省〜〜 あ、 あのアダージオでのリフトだけど ・・・ また失敗ね〜 」
「 あ フランごめん。 ちょっとだけ待ってくれるか? 」
「 え?? え ええ ・・・ いいけど? なあに。 」
「 ワルイ。 ちょっち先約があってさ。 こっちが先だもんな。
すぴかちゃん。 おいで〜〜 約束だよね。 」
タクヤお兄さんはすぴかを手招きした。
「 ・・・ え いいの。 りはーさる は・・・ 」
すぴかはびっくりして大きなお目々がますますまん丸になってしまった。
「 リハはもうお終い。 これからオレら、自習するんだけど、その前にさ。
約束だから。 教えるよ、トゥール・アン・レール。 」
「 え。 すぴかに??? 」
今度はお母さんの目がまん丸になった。
( いらない注 : トゥール・アン・レール は基本男子のパ )
「 う うん ・・・ 」
「 そうなんだ〜 すぴかちゃんはね いつか王子・・・おっと 二人のナイショだよな〜 」
ばちん・・・とタクヤなウィンクしてくれた。
「 うん♪ タクヤお兄さん♪ 」
「 よし。 じゃ・・・こっちおいで。 お、ちゃんとバレエ・シューズ、履いてるな。 」
「 うん。 お稽古場だもん。 」
「 いいぞ〜 じゃあ まずジャンプからだ。 シャンジマン、できるか? 」
「 できる。 習ったもん。 」
「 よし それじゃ・・・ オレの手拍子で行くぞ〜 」
「 うん ・・・ じゃなくて、はい! 」
タクヤは熱心に教え始めた。
へええ・・・? タクヤってば意外に子供の相手、上手ねえ・・・
でもすぴかってばどうして トゥール・アン・レール、やりたいのかしら
あら。 すぴかったら案外 上手じゃない?
・・・ やだ、すぴかのお願いって男子のパがやりたいってこと?
フランソワーズは 反対側でクール・ダウンしつつちらちら二人を眺めていた。
さすが母親 ・・・というかタクヤとすぴかの <ナイショの約束> が判った・・・らしい。
「 ・・・・っと! 」
すぴかは 空中で一回転するときちんと五番に降りた。
「 よし! いいぞ〜〜 出来たな。 すぴかちゃん、上手だよ。 」
「 え そ そう? 」
「 ああ。 ジャンプ系のワザ、好きかい。 」
「 大好き♪ すぴかねえ、シャンジマン も グラン・ジュッテ も好き♪
そんでもって〜 トゥール・アン・レール、もっと好き!」
「 そうか〜 じゃあさ 今度はな。 ちょっとオレの前にきてくれる? 」
「 うん いいよ。 」
「 そこで五番でルルベ。 アームスはアンオーだ。 」
「 はい。 これでいい? 」
「 ああ。 じゃ そのまま・・・・ ほ〜ら・・・! 」
「 ?? あ うわあ〜〜 ♪ 」
タクヤは後ろからひょい、とすぴかを持ち上げた。
「 ちょっとオシリ、突き出すみたいにして・・・ オレの右肩に座ってごらん。 」
「 え! ・・・ う うん ・・・ うわ・・・ よ よいしょ・・・! 」
「 よし。 アームス アンオーにして。 背筋のばす! ほら肩乗りリフトだぞ 」
「 う わあ〜〜〜 すご〜〜〜い すごい! すぴか〜〜リフトしてもらうの、初めて!! 」
「 こ こら〜〜 むじむじ動かない。 降ろしてやるからちゃんと五番で降りろよ。 」
「 うん! ・・・・ッとぉ〜〜 」
すぴかはお顔まで気取って きっちり五番ポジションで立った。
( いらない注 : 肩乗りリフトは リフトの初歩 )
「 お姫サマ? 初リフトのご感想は? 」
「 すっご〜〜〜い♪♪ お父さんにね、肩車、してもらうことあるけど・・・
なんか今のがもっと高いみたいだった♪ 」
「 そっか〜〜 女の子はいいなあ。 オトコはリフト、してもらえないもんなあ。 」
「 あ ・・・ そ そうだね・・・ 」
「 じゃあな、今度はよく見ててくれるかな。 」
「 うん。 なに? 」
「 オレ達の <宿題>。 さっきのリハでど〜もバランスが悪かったからな。
ちゃんと課題は消化しておかないとな〜〜 」
「 いつでもオッケーよ、 タクヤ。 」
いつのまにか フランソワーズがすぴか達のすぐ後ろに立っていた。
「 お〜 さっすが〜〜フラン♪ あの アダージオでのリフト! 」
「 ええ ごめんなさい、わたし、入りかたが少し遅かったわ。 」
「 いや・・・ まあともかくやってみよう。 」
「 オッケー。 ふふふ・・・ すぴかには負けないわよ。 」
「 さあ〜 どうかな。 じゃあ アダージオだけアタマからやろう。 」
「 はい。 あ 音、出すわね 」
お母さんとタクヤお兄さんは 真剣な顔で練習を始めた。
タクヤお兄さん かっこい〜〜〜
あ。 お母さんもタクヤお兄さんも ・・・ まじめなお顔だ。
すぴか ― タクヤお兄さん、 す 好き かも。
お兄さんは ・・・ だれが好きなのかな。
きっと カノジョ、いるよね ・・・ かっこいいもん。
あ・・・っと お母さんたち、宿題やってるんだよね
すぴかはすぐに気がついて 二人の邪魔にならないように隅っこにひっこんだ。
「 えっと。 もう一度 トゥール・アン・レール やってみようっと。
こんど おけいこの日、皆にじまんしちゃう〜〜
もっとうまくなったら タクヤお兄さん ・・・ ほめてくれる・・・かな♪ 」
すぴかは鏡に向かった。 ― あ ・・・?
鏡の中で タクヤお兄さんとお母さんが リフトの練習をしていた。
・・・ わああ ・・・・ すご・・・・
「 ・・・ダメだ。 もうちょい、早く踏み切れよ。 」
「 え。 だって今の音でしょ。 」
「 それでも。 やってみて、一回。 」
「 ・・・ わかったわ。 」
二人が何回も繰り返しているのは タクヤお兄さんが腕一本でお母さんを高々と持ち上げるところだ。
お母さんは 片手を腰にもう一方でポーズをとる。
すぴかは 動けない。
お母さん ・・・ すご・・・ こわくないのかな・・・
・・・タクヤお兄さん! うでだけ、だよ〜〜〜 すご・・・
「 ・・・っと あ・・・! 」
「 ・・・ きゃ ・・・ 」
― どさ ・・・! リフトは失敗、タクヤお兄さんは床ギリギリでお母さんを抱きとめた。
「 ・・・ ごめ・・・ 大丈夫か。 」
「 ん ・・・平気。 タクヤ、腕は ・・・? 」
「 大丈夫。 ・・・ やっぱタイミング、違うかなあ・・・ 」
「 う〜〜ん ・・・・ じゃあ ね ・・・ 」
二人は何回も何回も 繰り返し挑戦している。
すぴかは またまた目が張り付きっぱなし、ず〜〜〜っとお母さんたちを見つめてしまう。
「 ・・・・! おう やった! 」
「 きゃ♪ いい感じ!! 」
「 うおほっ〜〜い♪ よし、このタイミングだな。 」
タクヤお兄さんはすみっこでじ〜〜っと見つめているすぴかにも笑いかけた。
「 なあ すぴかちゃん 」
「 なに。 」
「 オレたち、かっこいかった? 」
「 うん!!! すご〜〜〜く! きとり と ばじる でしょ、すご〜〜い♪
王子さまとお姫様だあ〜〜 」
「 さんきゅ。 なあ ・・・ すぴかちゃん
そんでもって 王子サマはいつだってお姫サマに恋してるんだよ〜 」
「 ・・・ え・・・ そ そうなの? 」
「 ああ。 女の子はみ〜んなお姫様なんだ。 み〜んな王子サマに会うんだ。
すぴかちゃんだってお姫様なんだぜ? 」
「 あ ・・・ うん ・・・ そ そだね・・・ 」
「 そうさ。 すぴかちゃんの トゥール・アン・レール、上手だったけど。
オレはやっぱ お姫サマ踊るすぴかちゃんの方が見たいな。」
お母さんも にっこり笑ってすぴかのアタマを くしゃ・・っと撫ぜてくれた。
「 ねえ すぴか。 お母さん、どうだった? かっこよかった? 」
「 うん! お母さんもタクヤお兄さんも すご〜〜〜くかっこよかった!! 」
「 よ♪ サンキュ すぴかちゃん。 」
「 ありがとう、すぴか。 すぴかの < 肩乗りリフト > もかっこよかったわよ。 」
「 そ そう? えへへへ ・・・・ 」
「 ちゃんとタクヤの言うとおりにまっすぐに跳んでたし。
男の子もかっこいいし、女の子もかっこいいでしょ。 両方で素敵な踊りになるの。 」
「 ・・・ そ だね・・・ そだね〜〜 お母さん。 」
「 よ〜し そんじゃもう一回 アダージオ、通してみるか? 」
「 いいわね。 すぴか? よ〜〜〜く見ててね。 あ MDプレイヤーのボタン、押せる?
音楽の係り、すぴかにお願いしてもいいかしら。 」
「 ― うん! 」
すぴかは 鏡の前のすみっこに駆けてゆきプレイヤーの前に陣取った。
「 は〜〜い いいですかあ〜〜 」
「「 オッケー 」」
キトリとバジルが 笑って合図をくれた。
「 はい。 じゃ おと〜〜〜 でます〜 」
すぴかの指がうん、と ▼ を押すと ― 音と一緒にキトリとバジルが踊りだした♪
・・・ うわ〜〜〜 ・・・・!!!
おひめさま も かっこいいや〜〜〜 !!
すぴかの目は きらきら ・・・ どんなお星様よりもキレイに輝いていた。
「 ・・・ すぴかさん。 眠いならお母さんに寄りかかっていいのよ。 」
「 う うん ・・・・ 」
帰りの電車の中でフランソワーズはうつらうつらしている娘を引き寄せた。
祝日の午後、まだ電車は混んではいない。
稽古場帰りの母子は 隅っこに並んで座れた。
「 ・・・ おかあさん 」
「 なあに、すぴか。 ・・・ ねえ やっぱり男の子のパが好き? 男の子になりたかった? 」
「 ・・・ う う〜〜ん・・・?? ねえ おかあさん。 」
「 なあに。 」
「 おかあさん さ。 女の子でよかった? 」
「 え・・・ おかあさんが? 」
「 そう。 」
「 ええ 勿論。 女の子だから ・・・ タクヤと踊れたわ。
なによりも お父さんのお嫁さんになれて すぴかとすばるのお母さんになれたもの。 」
「 そ そだよ ね。 おかあさんの王子さまは ― おとうさん? 」
「 そうよ。 だ か ら♪ お母さんは 女の子でよかったな〜〜って思うわ。 」
「 ・・・ す すぴか も。 おかあさん。 」
「 ・・・・・・・・・ 」
フランソワーズは腕を伸ばしこの跳ねッ返り娘をきゅ・・・・っと抱いた。
すぴかも きゅ・・・っとお母さんの身体にほっぺたを擦りつけた。
えへへへ ・・・・ おかあさん 〜〜 いいにおい・・・
すぴか ・・・ おかあさん、だいすき 〜〜〜
すぴか 可愛いすぴか ・・・
あなたの王子サマは どこに居るのかしらね。
・・・ お母さんは ・・・ 会えるかな・・・
― ガタタン ・・・ ガタン ・・・! ローカル電車は陽気に午後の街を抜けていった。
さて こちらは海の上 ―
「 え ・・・ あ〜そうか、しまったなあ・・・ 船に乗る前にトイレ、行っておくべきだったな。 」
ジョーはすばるを抱き上げた。
「 ちょっと 我慢してろよ〜 」
「 う うん ・・・ 」
ジョーはそのまま操舵室にゆき、漁師のオジサンに声をかけた。
「 あの〜〜〜 すみません〜〜 」
「 お。 なんかな〜 」
オジサンは ひょい、と顔を突き出した。
「 なんだあ〜? ・・・・・・・ といれ? あっはっは・・・ 目の前さね。 」
「 え ・・・ 目の前?? 」
ジョーはすばるを抱いたままきょろきょろしている。
「 ほ〜ら お父ちゃんの目の前に広がっているだろ。
坊主なら問題、ないよな。 遠慮なく ヤってくれ。 魚らのちょうどいいコヤシになるさ。 」
「 ・・・? ?? ! あ。 海 〜〜 」
「 そ。 どこでも好きなトコでやっていいぞ〜 」
がっはっは・・・と大笑いして オジサンは引っ込んでしまった。
「 ・・・ あ そうですか。 どうも〜〜 」
「 ・・・ おとうさん? 」
「 よし。 すばる、こっちこい。 」
「 ・・・ トイレ、どこ〜〜 」
「 ここだ。 」
「 ここ? ・・・だって海だよ? 」
「 そうさ。 さあ ここに立って。 おとうさんが立ちションを教えてやる・・・! 」
「 ・・・・・?!?!?!? 」
・・・・ え ??
「 ・・・ すばる。 わかったな。 」
「 うん! わかった〜〜 」
「 次から一人でも できるか。 」
「 ・・・で できる! 」
「 よし、それでこそお父さんのコだ!
だけどな、すばる。 ・・・ これはお母さんには内緒だぞ。 いいな。 」
「 え ・・・ すぴかにも? 」
「 ああ。 すぴかにも、だ。 ・・・ お父さんとすばるのオトコ同士のヒミツだ。 」
「 ・・・ わかった。 おとうさん。 」
いつになくマジメ〜〜〜な顔のお父さんに、すばるも大真面目でこっくり・・・頷いた。
「 おお〜〜い そろそろ船、止めるよ。 そこにイケスの脇に釣りの道具あっから。
すんませんが、準備してくれるかな。 」
オジサンがまたアタマだけ突き出して 合図をしている。
「 あ はい〜〜 えっと ・・・ これかな〜〜 」
ジョーは 後ろ甲板をあちこち捜している。
「 おとうさん、 僕も手伝う〜〜 」
すばるは 船の揺れによろよろしつつもジョーの後を付いてくる。
もう 座り込んで船端にしがみついたりはしない。
へええ・・・・ ちょっと変わったか?
いや、海に慣れたのかな・・・・
「 ありがとう、 こっちだよ。 そのえさ箱を持って気をつけておいで。 」
「 うん。 」
お父さんは手を出してくれるけど。 ちゃんとすばるの近くに居るけど。
< 危ないわ すばる > って抱きよせては ・・・・ くれない。
< アタシがやったげる! > って代わりにやっては ・・・ くれない。
僕。 ― できる! 一人で できる。
すばるはぐっと足を踏みしめ、 両手にえさ箱を抱えお父さんの側に行った。
「 お おとうさん。 はい、これ! 」
「 おう、サンキュ。 よし、よくやった。 さあ〜〜〜釣るぞぉ〜〜〜 」
「 つるぞお・・・ 僕・・・?? 」
「 よしよし 坊主。 おっちゃんが教えてやるよ。
お父ちゃんは 思いっきり魚と勝負しな。 健闘を祈る! 」
いつのまにか漁師のオジサンが船端まで出てきてくれていた。
「 え ・・・ いいんですか。 船は・・・ 」
「 ああ ここの辺りで停泊だから。 さあ 坊主、これが釣り棹だぞ。 持ってみな。」
「 はい! 」
凪いだ海の上 ― ちっぽけな釣り船で オトコ達の勝負 が始まった。
「 いやあ お世話になりました! ありがとうございました〜〜 」
「 アリガトウございましたッ! 」
「 おう〜 いいってことよ。 おっちゃんも楽しかったぜ。 」
船着場で ジョーとすばるは漁師のオジサンに最敬礼してから おっきくぶんぶん手を振った。
「 僕も〜〜〜 たのしかったで〜す〜 」
「 坊主〜〜 またおいで。 お父ちゃんとまたおいで、 」
「 うん! あ ・・・ すばる! 僕 す ば る! 」
「 ああ? 」
「 僕、 ぼうず じゃなくて。 すばる! 」
「 え あ そ〜か。 じゃあな〜〜 バイバイだ、 すばる! 」
「 うん♪ オジサン ばいば〜〜い♪ 」
ジョーはもう一回、 ぺこり、とお辞儀をするとすばるに言った。
「 さ。 帰ろうか。 」
「 うん。 おとうさん、 僕、そっち、もつよ。 」
「 お? 持てるか? ・・・ じゃ 頼むな 」
「 うん! 」
すばるはお父さんからフタつきバケツを受け取った。 小型だけど 軽くはない。
― ちゃぷ・・・ 中で水音がする。
「 おとうさん また いこうね〜 こんどはいっぱいつれるよね〜 」
「 あ ああ ・・・ しっかしなあ ・・・ くくくく ・・・・ 」
ジョーはクーラー・ボックスを持ったまま天を仰いだ。
「 おさかなさんさ、 おるすだったんだよ。 おでかけ、してたんだ、きっと。 」
「 ・・・ ああ そうだなあ・・・ お母さんがまた笑うなあ・・・ 」
「 そうなの? 」
「 ああ。 釣りはさ、お父さんの大好きな趣味なんだけど ・・・ 」
「 ふうん ・・・ あ これ、すぴかもびっくり、かも♪ 」
すばるはにこにこしてバケツを振った。
「 そうだな〜 また 飼う! って言うかもなあ・・・ 」
「 え。 たこさん、飼えるの??? 」
「 い いや! 飼えない、飼っちゃだめだ〜〜 」
そ そんなこと言ったら ・・・ フランに大目玉喰うだろ〜〜
それでなくても フラン、 <釣り> には理解がないのに・・・
ジョーはなぜか釣りが好きだった。
子供の頃は海岸で投げ釣りをする人を 羨ましく眺めていた。
この身体になってからも、 ヒマがあると湖に 海に 釣り糸を垂れに出掛けた。
「 あら。 また釣り? ・・・ 晩御飯のオカズ、買ってくるわね。 」
「 どうぞ ごゆっくり。 レトルト・パック、持ってきたから。
キャンプの前に晩御飯は用意しておきます。 」
― その度にジョーの恋人は ツレナイ反応しか示さない。
「 だって。 一度だって釣れたこと、あって? 」
・・・ま、 仕方ないか。
ジョーは よいしょ・・・っとクーラーボックスを持ち直す。
今日も結局 < お魚さん達はお留守 > だった。 いや、ジョーの釣り棹だけシカトされた。
チビの息子でさえ 蛸 を釣り上げたのに。
反対側で糸を垂れっぱなしにしていたオッサンは ひっきりなしに糸が張っていたのに。
そう、いつだってそうなのだ。
キャンピング・カーまで持ち出して湖畔に繰り出したときも 大人は大漁。
わが愛しのヒトが拉致されているのにも気付かずにいた時も 魚たちは大人に殺到。
子供や動物、特に犬族にはめちゃくちゃ好かれる体質のジョー・スマイルも魚類には効果がないらしい。
「 ・・・ あ〜あ ・・・ 」
今日の <お持ち帰り>分はすべて漁船のあのオジサンが釣った分なのだ。
「 ふう・・・ でもすぐにバレるな。 ま ・・・ しょうがない、か。 」
ジョーはまたまた溜息・吐息。 息子の手前、カッコイイ姿を見せたかったのだが。
愛妻にも オトコの趣味だ! と威張りたかったのに ・・・
「 おとうさ〜〜ん! とらんく、あけるのぉ? 」
すばるはとっとと駐車場に入り、ジョーの車の側に立っている。
「 お〜う! 今 ゆくぞ。 ・・・へえ アイツ、なんかてきぱきしてるなあ。
いつだってすぴかの後をにこにこ・のんびり付いてゆくのに。 」
ジョーはちょっぴり息子が頼もしく見えた。
ちゃっぽ ちゃっぽ・・・・
すばるが抱えているバケツの中で 海水がゆれる。
ジョーはできるだけ滑らかに車走らせてゆく。
午後の海岸通りは空いていて 行き交う車もあまりない。
「 すばる〜〜 眠かったらシート倒してもいいぞ。 」
ジョーは助手席で神妙な顔で前方を睨んでいる息子に声をかけた。
「 ううん。 僕 ねむくない。 つり のやりかた、ふくしゅうしてたの。 」
「 ふう〜〜ん♪ すごいぞ〜
すばる、またお父さん二人で釣りに行こうな〜 」
「 うん! おとうさん。 あ ・・・ でもすぴかも来たいっていうかも〜〜 」
「 そうだなあ・・・ ま、すぴかは特別をもって許可しよう。
ホントはオンナはだめ、なんだけどな。 」
「 ふうん・・・? どうしてオンナはダメなの。 おかあさんもだめ? 」
「 うん だめだな〜 それにお母さんは釣りは好きじゃないってさ。 」
「 ふうん・・・? 」
「 ― なあ すばる。 ナイショで教えてくれるかい。 」
「 え なにを? 」
「 うん ・・・ すばる、好きなコ、いるかい。 」
「 すきなコ? うん いる。 」
「 ほお〜〜〜〜 そうか〜〜 そうなんだ? 」
「 うん♪ すきなコって すきなおんなのこ、のことでしょ?
タクヤお兄さんに聞いたもん。 僕 しってるよ〜 」
「 そうだよ。 そっか〜〜 居るんだ? 学校のトモダチかい? 」
「 ひみつ。 」
「 ・・ え〜〜〜 ?? おとうさんにならいいだろ、教えてくれよ。」
「 ヒミツ。 おとうさんにも言いません。 これはオトコとオトコの約束なんだ。 」
「 う ・・・ そっかあ〜 う〜ん 残念★ ・・・なあ 絶対にナイショにするから・・・教えろよ。 」
「 だけどダメ。 タクヤお兄さんと約束したんだ〜 。 」
「 ふうん ・・・・ 」
ち。 なんだってアイツの名前が出てくるんだよ?
・・・ ま まあな。
コドモはコドモ同士ってことだよな〜
ふ ふん・・・! ガキんちょ同士で丁度いいんだろ うん!
ジョーは息子の口から タクヤの名前がでてきて、なんとな〜〜〜く面白くない。
「 アイツがヒミツにしろって言ったのか? 」
「 う〜んとねえ・・・ タクヤお兄さんねえ、 おひめさま がすきで。
むぎ茶、 のもう〜〜って言っても だめなんだって。 いつかいっしょにケーキ、食べたいんだって。 」
「 ??? それですばるが好きな女の子のことはナイショなんだ? 」
「 うん。 二人でげんまん したから。 」
「 ふ〜〜〜ん ・・・・ あ 次 曲がるぞ。 揺れるからな。 」
「 あ うん。 ・・・おっと〜〜 」
ちゃぽん ・・・ バケツの中の <海> が車と一緒に跳ね返る。
「 ねえねえ おとうさん〜〜 たこさん どうするの? 僕 ・・・ 飼ってもいい? 」
「 だめ。 それだけはダメ。 」
「 え〜〜〜 ・・・・ せっかくトモダチになったのに〜〜 」
あは。 いつかのすぴかと同じこと、言うなあ・・・
さすが双子・・・といいうか ・・・
あの時はナマコで今度は蛸か・・・
いや! 感心している場合じゃないぞ!
フランに聞こえたら ・・・
ダメです〜〜〜ッ ! って金切り声、あげるぞ〜
ジョーはクス・・・っと笑いそうになったがすばるの真剣な視線を感じ、慌てて顔を引き締めた。
「 すばる。 あの時、 なまこのマコちゃん はどうしたっけ? 」
「 え?! ・・・・ ん〜〜〜っと ・・・ あ。 おウチに帰してあげた ・・・ すぴかが・・・ 」
「 だろ? たこさんもおんなじさ。 」
「 ・・・ う〜〜ん ・・・ じゃ おかあさんとすぴかに見せてから!
それから ・・・ おウチにかえす。 」
「 よ〜〜し。 じゃ ウチまで加速装 ・・・じゃなくてダッシュ!!
バケツ しっかり押さえてろよ。 」
「 うん♪ おとうさん かっこい〜〜 」
「 ははは ・・・ なあ すばる、それですきなコはさあ ? 」
「 ひみつ♪ 」
「 くぅ〜〜〜〜〜〜 !! 」
ジョーとすばるを乗せた車は 岬の突端へと急な坂をダッシュして行った。
「 おかあさん、アタシ、 カート、押せる。 」
「 まあ ありがとう、すぴかさん。 それじゃ・・・ お願いね。 」
「 うん♪ 」
「 じゃあね、お野菜売り場から回りましょ。 」
「 りょう〜〜かい! 」
すぴかはおかあさんの後ろを買い物カートを押してついて行った。
お昼すぎ、お母さんとすぴかは地元の駅まで帰ってきた。
「 さあ 晩御飯のお買い物、してゆきましょう。 」
お母さんは駅前のスーパーに入った。
「 おかあさん ・・・ しょうてんがい じゃないの? 」
すぴかは慌ててお母さんの後を追いかける。
普段、お母さんは海岸通りに沿って広がる地元の商店街へゆくことが多い。
すぴかとすばるはうんとチビの頃からくっついて行った。
「 今日はねえ ほら・・・お魚 が来るでしょ。
だからお野菜と明日の朝のパンとミルクだけだから ここで済ませましょ。 」
「 おさかな ・・・・? 」
「 お父さんとすばるは釣りに行ってるでしょ。 」
「 あ そか! ・・・ つれる? 」
「 さあ〜〜〜・・・・ でもどうにかしてお魚は持って帰ってくるはずよ。 」
「 ふうん ・・・ 」
「 すぴかさん、何が好き? ムニエル? フライ? 煮魚・・・はお父さんね。 」
「 アタシお魚はなんでも好き♪ お母さんは? 」
「 そうねえ・・・冬ならブイヤベースが好きなんだけど ・・・
まあお魚を見てから決めましょう。 え〜と・・・あとはミルクね〜
あっと・・・ すぴかさんの好きなプチ・トマト♪ 」
お母さんは赤いのと黄色のと両方カートに入れてくれた。
「 うわぃ♪ それじゃ のみもの・こーなーへ出発しま〜す 」
「 了解! 」
今度はすぴかが先に立ってカートを押していった。
― ふんふんふん♪
なんだか嬉しくてすぴかはハナウタを歌いだした。
王子サマは お姫サマが好き〜〜♪
すばるがよく歌っている自作のでたらめ・ソングなのだが・・・
いつの間にかすぴかも覚えてしまったらしい。
「 ふんふんふん〜〜〜 ♪ お〜うじさまは おひめさまが〜♪ 」
「 あらら・・・すぴかったらご機嫌ね。
ふふふ・・・今日のリフト、とっても上手だったわよ。 」
「 え えへへへ・・ そっかな〜〜 アタシ、じょうずだった? 」
「 ええ、とっても。 タクヤはリフトが上手だから、楽しかったでしょ? 」
「 うん♪ お母さんたちもかっこよかったよ〜〜」
「 ふふふ ありがと♪ タクヤは王子サマ役、上手なのよ。 」
「 そうなんだ〜 お母さんとタクヤお兄さん、おひめさまとおうじさまだね〜 」
「 うふふふ ・・・ キトリとバジルは <普通のひと> だけどね。 」
「 あ そっか。 おかあさ〜〜ん がんばってね〜〜 」
「 ありがとう、すぴか。 すぴかもお稽古、がんばるのよ。 えっと・・・はい、ミルク。 」
「 らじゃ。 」
ふんふんふん〜〜 おうじさまはおひめさまが〜〜♪ ・・・すぴかのハナウタは続く。
― あ ・・・れ? ってことは。
タクヤお兄さんが 好き なのは おかあさん??
・・・・・ え ?!
その日の晩御飯は ―
ジョーとすばるが 持って帰ってきたお魚のフライと ( ジョーが料理した )
博士が心配して買っておいてくれた ロースト・ビーフ と。
裏庭の温室に生ったイチゴを飾ったシフォン・ケーキで
おとうさん♪ はっぴ〜〜ば〜すで〜〜 ♪♪
・・・になった。
皆 お腹いっぱい美味しいものを食べ いっぱいお話し いっぱい笑った。
すばるは明日、すぴかと一緒に たこさん をおウチに帰す約束をした。
お母さんとおじいちゃまは お魚は多分お父さんが釣ったのじゃないだろな・・・と判っていたらしいけど
なにも言わなかった。 ( すばるが つりのやりかた を説明したから )
すぴかはお父さんにせがんで<肩乗りリフト>をしてもらったがやっぱり タクヤお兄さんとは違ってたけど
なにも言わなかった。 ( すぴかはお父さんの 高いたか〜い♪ が大好きだったから )
みんな にこにこ・・・ いい気持ちでお休みなさい、を言った。
もぞもぞ・・・・
すぴかはベッドに入ってから珍しくすぐには眠れなかった。
すばるはいつものようにベッドに本を持ち込んでいた。
毎晩 すぴかはすぐにことん・・・と寝てしまうので あんまりすばるとおしゃべりはしない。
でも 今晩は ―
「 ― すばる。 アンタ、すきな女の子、いる? 」
「 うん いる。 」
「 だれ。 」
「 ・・・ すぴか。 ヒミツなんだけど。 すぴかだけだよ? だれにもいわないで。 」
「 わかってるってば。 だれ。 」
「 うん♪ 僕がすきなおんなのこはあ〜〜 おかあさん♪ 」
「 ・・・へ? 」
「 そんでねえ タクヤお兄さんはいっしょにおどるおひめさま が好きなんだって。
いっしょにむぎ茶 のみたいんだって。 」
「 ??? ― あ ・・・ タクヤお兄さんの好きなコって・・・ 」
・・・ やっぱり おかあさん??
でも でも ・・・ おかあさんにはおとうさんがいるよ?
でも でも ・・・ アタシ タクヤお兄さんもおあかさんもおとうさんも 好き なんだけど・・・
アタシはタクヤお兄さんがすき で タクヤお兄さんはお母さんがすき で お母さんはお父さんがすき。
―で お父さんはお母さんがすき。
「 う〜〜〜??? あ。 そんでもってすばるはお母さんがすき? 」
すぴかは何がなんだかよくわからなくなってきた。
「 う〜〜ん・・・ ねえ すばるぅ・・・ アンタどう思う? 」
すぴかは隣のベッドに話かけた。
「 ・・・え〜〜 なに〜 」
「 だからね、 アンタはおかあさんが好きで おかあさんはおとうさんがすきで・・・
タクヤお兄さんはおかあさんが ・・・ 」
「 うん♪ み〜〜んな皆がすきってことだよね♪ 」
「 え? ・・・ う〜〜ん・・・? そう? そういうコト?? 」
「 そうさ。 ね〜 すぴかア・・・ あした 海にいこうね。 たこさんつれて。 」
「 あ ・・・ うん ・・・ 」
ふぁ ・・・・ おっきな欠伸がでてきてしまった。
「 そっかあ ・・・ みんな みんなが好きってことかあ・・・・ 」
それなら ― それが一番 いいや。 すぴかはやっとアタマの中がすっきりした。
「 おやすみ〜〜〜 すばる。 本、しまってねなよ 」
「 うん おやすみ〜すぴか 」
子供部屋の電気は ほどなくして消えた。
大人たちも食後にブランディなんぞを軽く楽しんでから寝室に引き取った。
「 いや〜〜〜 もう疲れたよ〜〜 釣りなんて久々だもんな・・・ 」
ジョーはお風呂上りでばふばふウチワを使っている。
フランソワーズはドレッサーの前で念入りに化粧水をつけていた。
「 うふふふ ・・・ なんだかとっても楽しかったみたいね?
すばるがあんなに沢山おしゃべりするの、珍しいもの。 」
「 そうだなあ。 うん、アイツ、なかなか・・・勇敢だったぜ。 すっかり釣りが気に入ったみたいだよ。 」
「 まあ〜 そうなの? やっぱりかえるのコはおたまじゃくし なのねえ。 」
「 ??? ・・・ フラン〜〜 それを言うなら かえるのコはカエル だよ。 」
「 あら・・・ そう? カエルのコはオタマジャクシじゃないの? 」
「 そうだけど、そうじゃないんだ。 」
「 ??? でも・・・ タコはちゃんと明日 逃がしてやってね!
わたし・・・お魚屋サンのタコは食べるけど・・・アレをお料理する勇気はないわ。 」
「 ははは ・・・ 了解。 なあ すぴかは? あいつ、レッスンを見学したんだろ? 」
「 ええ。 なんかね、男子のワザをタクヤから習っていたけど・・・
結局 お姫様を目指す・・・ってことに落ち着いたみたね〜 ・・・ちょっと無理っぽいけど 」
「 ふうん? ・・・それでその。 すぴかはヤツのこと ・・・す 好きなのかな? 」
「 ええ?? まさかア・・・ ただちょっと憧れているだけよ、男子のステップとか派手だから。 」
「 ・・・ ふうん ・・・ すぴかの初恋相手には!断じてアイツは許さないから! 」
ジョーは ばさ・・・!っとウチワで空を切った。
「 ・・・ あ〜〜 いい気持ち。 ねえ 窓、全部開けましょうよ? 」
「 うん? いいけど ・・・ すぴかの初恋の相手はどこのウマの骨なんだろ! 」
「 いやァだ ジョーってば。 娘の はつこい はお父さんに決まっているのよ? 」
「 え ・・・・ ってことは き きみも? 」
「 ええ そうよ。 わたし・・・でもねえ? パパのことはすぐに諦めたの。 ママンがいるでしょ。
つぎにお兄ちゃん!って思ったけど。 ジャンは パイロットになる、の一点張りで・・・
すぐに失恋よ。 ・・・ あ〜〜 ジョー、笑わなくてもいいでしょう!? 」
「 あ ・・・ ご ごめん・・・ いや〜 あんまりきみが可愛いらしくて・・・
そっか〜〜 ちっちゃなフランはすぐに失恋かあ〜 うふふふふ・・・ 」
ジョーはウチワを置いて くしゃ・・・っと細君の髪を撫でた。
「 あ やあねえ もう・・・ ジョーってば。
それにね タクヤは好きなヒトがいるみたいよ? 」
「 え! そうなのかい?
」
「 ええ すばるがチラっと言ってたけど ・・・
タクヤお兄さんは 好きなコをお茶に誘いたいのに〜 って悩んでいるのですって。
好きで好きでしょうがないんだけど、 またね、って先に帰ってしまうそうよ。 」
「 ・・・ へ? そ それって・・・ 」
「 誰かしらね、どこか他のバレエ団のコかしら。
もったいないわね〜〜 タクヤを振るなんて。 あのコ、とってもいいコなのに・・・ 」
「 ふ フラン〜〜 ほ 本気でそう思ってる? 」
「 ? 当たり前でしょ? ずっとパートナー、組んでいるのよ?
そうねえ・・・すばるの次、くらいに可愛いなあ・・・と思うわ。 」
「 ・・・すばるの ・・・つぎ、 かあ・・・ 」
「 ええ。 あら・・・ ジョーってば。 なにが可笑しいの? 」
ふ ふふふ・・・ははは ・・・あはははは ・・・・
ジョーは大笑いすると すた・・・っと彼の細君を抱き上げた。
「 あははは ・・・ フラン、きみってヒトは本当に〜〜 なんて可愛いんだ!
もう〜〜〜 めっちゃくちゃに愛してるよ〜〜〜 」
「 え・・・あ きゃ・・・やだ・・・・ 」
ジョーはネグリジェ姿の恋人を捧げ くるくると回るとそのままベッドに傾れ込んだ。
「 あはは ・・ 愛してる、愛してるよ ぼくのフランソワーズ・・・! 」
「 ・・・ ジョー ・・・・ 」
・・・ あ。 ジョーの初恋相手って ・・・ 聞いたこと、ない・・わ?
熱い愛撫の波に飲み込まれつつ フランソワーズはちら・・・っとそんなことを思った。
**** ちょっとだけ オマケ
「 ・・・ ちっくしょ〜〜 だけどもオレは! フランソワーズが好きなんだなあ ・・・・ 」
その頃。 イケメンでカッコイイ、バレエ・ダンサー、 山内タクヤは 一人で吼えていた・・・
***************************** Fin. *********************************
Last updated : 05,24,2011. index / back
*************** ひと言 **************
<なまこのマコちゃん> については 潮干狩りの話をご参照ください。
やっぱりなんてことない・のほほ〜〜ん シマムラさんち・・・なのでした。
すばるクンはちょこっと大人になったかな?
すぴかちゃんの本当の初恋の相手は 蝉取り仲間のあのカレシです♪