『 赤き炎 白い花 』
イラスト : めぼうき
テキスト : ばちるど
それは 初めて二人だけで長い散歩に出掛けた時だった。
― ちょっとそこらへんまで ・・・ 彼はそう言ったのだが ・・・
秋もそろそろ峠を越える頃、 外気はぴん・・・と冷えて引き締まり心地好い。
もう少し、もう少し・・・とぷらぶら歩いてゆくうちに 二人は雑木林を抜け台地に出た。
「 ― わあ 〜 ・・・! 」
「 ? あら ・・・ 」
二人は嘆声を上げ 脚を止めた。
目の前には 紅葉に燃える秋山の光景が広がっていた。
「 ・・・ まあ ・・・ きれい・・・! 」
思いがけなく派手やかな色彩に彼女は目を見張る。
「 うん ・・・ ほんとうだね。 日本の秋はさ、 こんな風に紅葉がきれいなんだ。 」
「 そう ・・・ わたしの故郷も秋にはマロニエがキレイなの。 」
「 ふうん ・・・ たしか ・・・フランス だよね。 きみの故郷・・ 」
「 ええ ・・・ パリ よ ・・・ 」
「 そっかあ〜 ・・・ 来年はパリで見れるといいね! その ・・・まろ? がさ。 」
「 マロニエ。 マロニエはね、秋にはレモン色の染まるのよ・・・
ねえ ・・・ これは なに? 」
彼女は足元から拾い上げた赤い葉を差し出す。
「 これは もみじ。 ・・・で これがイチョウさ。 」
ジョーは自分がひろった逆三角形な黄色い葉をみせた。
「 いちょう? ・・・ あら これは? これも赤くてきれいだけど・・・ギザギザはないのね。 」
「 それはね サクラ さ。 ああ ・・・ ここ、桜並木なんだ〜 」
「 さくら? 」
「 うん。 ほら・・・見てごらん? ここはずっと同じ樹が並んでいるだろう。 」
「 ・・・ あら そうね、両側に同じ樹がずっとあるわ。 」
「 うん・・・ こりゃいいや。 な、 春になったらまた来ようよ。 すごいぜ〜〜 」
「 すごい? 」
「 ああ 桜ってね、春に咲くんだ・・・ こう・・・白くて小さな花がたっくさん・・・
ここに来よう。 それで一緒に 桜を見よう ! 」
「 春 ね ・・・ 楽しみだわ。 」
「 ― へえ? 」
009が 少し驚いた風に振り返った。
「 ? なに。 」
「 あ ううん なんでも。 いや あの ・・・ きみって きみも笑うんだね。 」
「 え・・・ わたしだって ― 笑うわ。 」
「 そうだよね ごめん ・・・ あ でもさ 」
「 まだなにか? 」
「 うん ・・・ あの さ。 そうやって笑っているほうがずっといいよ! 」
「 ― そう? 」
「 ウン。 もうちょっと散歩してゆこう。 この桜並木、抜けて裏道のほうから戻ればいい。 」
「 そう ・・・ね。 この空気 ・・・ やっぱり外は気持ちがいいわ。 」
「 だよね。 ・・・ 早くさ、 こんな風な毎日になるといいね。 」
「 ・・・ そう ね 」
「 もうちょっと ・・・ いいよね? 」
「 ・・・え ええ ・・・ ステキな場所ね 」
「 たまにはさ こう・・・ぽか〜〜ん・・・としていいと思うよ。 ー ね また笑ってよ。 」
「 なにもないのに 可笑しくもないのに 笑うの? 」
「 さっきさ、桜のことで笑ってくれただろ? あんなカンジでいいんだ。
紅葉がキレイで散歩が気持ちいいから ― 笑おうよ。 」
「 ・・・ ジョー ・・・ あなたって ・・・ 」
「 ウン?なに。 」
「 シアワセなヒトねえ。 」
「 え そう? う〜ん ・・・ シアワセで笑顔の方がいいとおもうな〜 」
「 ・・・ そうね ・・・ 」
「 そうさ。 」
二人は少し間をおいて だまって秋の道を歩いていった。
激しい闘いを経てようやくヤツラの手から逃れ ― 東の果ての島国に辿りついた。
そして 彼らはギルモア博士の友人宅に寄宿させてもらっていた。
寄宿、といっても彼ら自身の手で勝手に地下などを改造、住いを広げていたのだが。
和洋折衷の不思議な雰囲気な邸宅だったが敷地は広く 周囲に他の民家はなかったので
目立つこともなくなにかと好都合だった。
「 ほっほ・・・ また広くなったのかな。 いやあ 結構結構・・・
存分に利用してくれたまえ。 なにしろこの辺りは過疎地じゃからして・・・
文句を言うものはだ〜れもおらんからなあ ま、 モグラ諸君にはちと気の毒じゃが 」
邸の当主、ギルモア博士の友人氏 ― コズミ博士 と行った ― は
豊かに蓄えた白髭をゆらし鷹揚に笑うのだった。
・・・ 変わった方 だこと ・・・ でも悪いヒトじゃないわ・・・
ああ そう・・・ か。
他のコト、自分の研究以外には興味も関心もないのね
だから 関係ないコト には寛大でいられるのよ ・・・
フランソワーズは少しナナメに現在の状況を見ていた。
誰だって油断できない。 張り詰めた心の糸はそう簡単に緩めることはできなかった。
彼女は整った顔に固い表情を浮かべ頑な態度で日々を送っていた。
男共は それでもワイワイと楽しそうに過している。
<紅一点> は文字通りぽつん、と浮いていた。
「 買出し? ― それって・・・ 買い物、ということ? 」
「 はいナ。 食料だけやおまへんで。 生活物資やら そうや! 服もいるで。 」
全員でのミーティングの最後に 006が重要案件! と提案した。
買出しに行かな あかん!!
「 食うだけ、やったらワンコロとおんなじでっせ〜 」
「 それもそうだ ・・・ 」
「 あ〜〜 そうだなあ。 ず〜っとこの派手な服・・・ってのもなあ〜 」
「 賛成だな。 今は防護より目立つことを避けた方がいいと思うよ。 」
「 あ〜 オレ、 ブルー・ジーンとTシャツ でいいって。 カンタンだろ! 」
「 我輩はやはりカシミアのプルオーバーにウール100%の 」
「 個々の要望を反映するのは無理だろう。 」
「 あ〜 ぼくが行ってくるよ! 服もテキトーにアウトレット・モールとか行ってくるから。 」
「 さよか! ほんなら服やらはジョーはんにお任せやで。
食料品は ・・・ フランソワーズはん、手ェ貸してェな。 」
「 うむ、左様・・・ ご婦人連れなら自然に見えるだろう。 」
「 そうだよね。 それに女性ならではの視点から買い物もできるだろうしね。 」
全員が彼女を 見た。
「 ― あら。 ・・・ ご要望でしたら。 <かいだし> に行きます。 」
「 よし。 009、運転できるか。 」
「 うん。 バイクと車と ・・・ ま 無免許だけどね。 」
「 う〜ん ・・・ 001、コイツの免許証、 <出して> やれ。 」
≪ ワカッタヨ。 スグニ用意スル。 003? ≫
「 なあに 001。 」
≪ 僕ノみるくト紙おむつモ頼ムネ ≫
「 はい わかったわ。 あ! 009! ベビー服も必要なの、お願いね。 」
「 ベ ベビー服?! ・・・ぼく 子持ちじゃないから・・・ 」
「 まああ。 わたしだって子持ちじゃないわよ! 」
「 まあまあ ・・・ そんな声、だしなさんな。
それじゃいっそ001も連れてゆくか? <正しい家族の図> になる。 」
「 なんですって。 家族!? 」
フランソワーズの眉毛がきりきりとつりあがった。
「 あ ・・・ その あの・・・まあ ナンだ? そそっかしいヤツにはそう見える・・・かも・・・」
「 グレートはん、余計なコト いわんでよろし。
ジョーはんや、7〜8ヶ月相当の乳児用、言いなはれ。 そやったら店員はんが選んでくれる。 」
「 あ ・・・そ そう?? 」
≪ ボク ・・・ ぶるーガイイナ。 ≫
「 ・・・・だ そうだよ? 」
「 は はい・・・! えっと・・・ 皆の服 と ベビー用、と ・・・ 」
ジョーはちまちまとメモを取り始めた。
≪ じょ〜 ・・・ 免許、ダヨ ≫
目の前に ふわん、 と普通自動車免許 が浮いている。
「 わあ〜〜〜 サンキュ、 001〜〜 あは ・・・ この写真のぼく、すげ〜顔だあ〜〜 」
たちまち ミッション・買出し が立ち上がった。
「 ― お嬢さん ・・・? 」
ミーティングを終え 地上の家屋に戻ったとき、 老当主が彼女に声をかけた。
「 はい、なんでしょうか コズミ先生 」
「 ほっほ・・・ そんな固い顔、してちゃマズイですなあ 若いお嬢さんが・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」
「 気を悪くなさらんでくださいの。 ― これ よかったら使ってやってください。 」
「 ― ・・・ これ? 」
ずい、と差し出されたのは ― 婦人物の服が数点、だった。
「 いやあ〜〜 ワシの娘のものなんじゃが・・・洗濯はきちんとしてあります。 」
「 ・・・ はあ ・・・ 」
「 外出 ( そとで ) なさるのじゃったら ・・・ その服では なあ? 」
「 あ ・・・ そ そうですわね・・・ 」
「 それにずっとその服は ・・・ 若いお嬢さんには辛いのではありませんかな。 」
「 ・・・ え ・・・ 」
「 いや なんでも・・・ お気に召したら使ってやってくだされや。 古着で申し訳ないが・・・
なに、娘は数年前に嫁に行ってしまいましてな ・・・ どうぞどうぞエンリョなく。 」
「 ― ありがとうございます 喜んで使わせて頂きますわ。 」
フランソワーズは礼を言って素直に受け取った。
私室に戻りしっかりと鍵をかけてから そっと服を広げてみた。
ボウ・タイ襟の白いブラウス ピンクのニット・ベストとカーディガン そして スカート。
秋向きでベルベットのフレア・スカート だった。
「 ・・・・ スカート ・・・ 」
そのすべすべした、毛皮にも似た生地をそっとなでてみる。
フレアになった裾が波打ち ・・・ 見ているうちに涙が滲んできた・・・
― いったい ・・・ 何年ぶりだろう ・・・!
ウエスト部分を持ち 裾を捌いてみる。 ゆるゆるとベルベットは午後の光の中でたゆたう。
「 ・・・ これ ・・・ 着てもいいのよね ・・・ 」
フランソワーズはそそくさと防護服を脱ぐと 借り着をゆっくりと身に付けはじめた。
白いブラウスはたっぷりとした袖を包みボタンでとめる。 ニット・ベストとカーディガンは透かし編。
フレア・スカートは脚にまつわる生地がひんやりと冷たい。
脚が ― 脚が直接外気に触れる・・・!
これ ・・・・ スカート ・・・ よね ・・・・
私室には小さな鏡しかなかったので 窓ガラスに我が姿を映してみた。
「 ― ステキ ・・・! ぴったり、ね ・・・ 」
ふわり。 裾をゆらしてみる。 ぱさり。 袖を振ってみる。
ふわ ・・・ ふわ ふわ ふわり ぱさ ・・・ ぱさ ぱさ ぱさり
脚が腕が 自然に動き始めた。
・・・・ 生きてる・・・! 生きてる のね !
フランソワーズ・アルヌール・・・! あんた、生きているのね ・・・!
くる くる くるり ひら ひら ひらり ・・・ 彼女は回る 白い腕を翻し
閉じ篭った私室の中で 003 はガラスに映った彼女自身を見、踊り続けていた。
生きている ― !! 生きているのよ、 わたし ・・・!
「 ・・・ 003? あ ・・・ ! 」
ジョーは 鍵の壊れていたドアの隙間を前に立ち尽くしていた。
歓喜迸る彼女の <舞> に 彼はただただ圧倒され、声をかけるのも忘れた・・・
「 ・・・ き きれい ・・・ すごい すごい よ ・・・!
花 ・・・ そうだよ、白い花 だ ・・・ うん ・・・ なんて きれいなんだ ・・・! 」
この時 ジョーの心に蒔かれていた恋の種が ぴょこりと芽をだした。
<買出し> は ・・・大騒ぎの末 なんとか完了した。
アウト・レットモールで 大型スーパーで いろいろ買い込む彼らはそれほど注目を浴びなかった。
若い一組の男女、そして世話好きそうな中年男 ― その組み合わせが幸いした。
新生活を始める二人と親戚のおっさん ・・・ そんな風に見えるのかもしれない。
仲間達の衣類と山ほどの食料を車に詰め込み、 彼らは意気揚々と帰宅した。
「 あ ・・・ ねえ ちょっと時間あるかな〜 」
「 ・・・・え? 」
フランソワーズは驚いて振り返った。
<仕事>を終え すこしぼんやりと外を眺めていたら ・・・ 後ろから声がとんできた。
「 ・・・ なに? まだなにか仕事? 」
「 え。 ちがうよ〜 なんかさ、 気持ちいいからそのあたりまで散歩しないか。 」
「 ・・・ そのあたり? 」
「 ウン。 この時期 いいよ〜〜 ね、行こうよ! 」
「 あ・・・ そ そんなに引っ張らないで ・・・ 009ってば! 」
「 ほらほら こっちだよ。 この前にね 散歩にいい道をみつけたのさ。 」
コドモみたいに眼を輝かせ ジョーはフランソワーズを引っ張りどんどん歩いてゆくのだった。
もう ・・・ なんてヒトなの ・・・
むっとした思いで彼女は彼の後を付いてゆく。
笑顔 ・・・ か。 わたし 笑っていたのね
わたし。 また・・・笑えたのね・・・
ひゅるん ・・・ 木枯らしにも似た風が 彼女の亜麻色の髪を逆立てていった。
思えば ― 二人きりでの散歩など この時が初めてだった・・・
「 ジョーォ? ちょっと・・・裏山まで行ってくるわね。 」
「 なに〜〜 ? 」
フランソワーズが庭から大声で呼んでいる。
自室にいたジョーは 慌てて窓を開け下をみた。
「 ・・・ 裏山? なにしに? 」
「 サクラよ さくら。 サクラ並木の世話をしてくるの。 」
「 ん〜〜〜 ちょっと待って! ぼくも行くよ〜〜 」
「 そう? じゃあ 早くしてね! わたし、忙しいの! 」
「 二分! 二分待って! 今 ・・・! 」
ドタドタドタ ・・・・ ! ジョーが窓から引っ込むと 派手な音がきこえ ・・・
「 はァはァ ・・・ さ 行こう! ほら、樹木用の肥料、持ってきた! 」
「 まあ・・・ こんなの、どこにあったの。 」
「 うん この前ね コズミ先生に配合してもらったのさ。 さ 行こ! 」
「 ま まあ 」
今度はジョーが先にたち どんどん進んでゆく。
もう ・・・ 勝手なんだから〜〜
・・・でも 彼も嬉しそう ね
彼も 木やお花とかが好きなのかしら ・・
今は フランソワーズの方が笑みを含んでついてゆくのだった。
「 ふう ・・・ ここでいいのかな〜〜 」
「 そうね。 あ ・・・ お水はねえ 木の周りの地面に撒いて。 幹に掛けなくていいの。 」
「 了解。 ふうん 詳しいんだね〜 」
「 ふふふ〜・・・って自慢したいけど ― 残念、 コズミ先生に伺ったのよ。 」
「 なんだ〜〜 へへ じゃぼくと大して変わらないね。
この肥料だってコズミ先生特製だもの。 」
「 そうね〜 あのね、やっぱ春はとってもステキなんですって。 わたしものすごく楽しみ♪ 」
「 そっか〜・・・ それじゃ春にはここでお花見だ。 」
「 おはなみ? 」
「 うん。 皆で桜の花を見て弁当たべて飲んでさわぐのさ。 」
「 飲んで? まあ ・・・あきれた! 」
「 あ そ そりゃぼくたちはコーラとかだけど。 でも楽しいよ〜 それにキレイだし。 」
「 ふうん ・・・ 満開の桜ってどんなかんじ? 」
「 どんな って う〜ん ・・・? あ こう・・・白い雲みたいになるんだ。
満開の時もキレイだけど 散り始めもすごいよ〜 花吹雪 っていうし。 」
「 はなふぶき ? 」
「 うん。 白い小さな花びらが こう・・・ね 雪みたいにひらひら はらはら散るんだ。 」
「 まあ ・・・ロマンチックねえ 〜〜 早くみたいわ〜〜 」
「 そうだよね。 あ この肥料も散布しようか。 」
「 そうね〜 そうだわ、余分な枝とかも払ったほうがいいのですって。 」
「 ふうん・・・どんな風剪定したらいいのか調べないとな〜 」
「 そうね そうね。 水遣りとか肥料のことも ・・・ 勉強するわ。」
「 あの さ。 ・・・ ぼくも混ぜてくれない? 」
「 まぜる? なにを? 」
「 そのぅ ・・・ きみの勉強会に さ 桜のこと、 い 一緒に勉強しようよ。 」
「 ジョー 」
ジョーは桜の枝ぶりを眺める風にして 視線を逸らせている。
あら・・・・ ふふふ 真っ赤になってる〜〜
このヒトって ふふふ 面白い・・・
「 そうね。 わたしもお願いしようと思っていたの。 ありがとう ジョー。
一緒に世話して 来年一緒に おなはみ しましょ? 」
「 うん! ・・・ わ〜〜 楽しみだねえ・・・ 」
「 ええ ・・・ 」
二人は肩を並べて黒い木立だけになった並木に笑顔を向けていた。
BGの手先と思われる輩との小競り合いは何回かあったが サイボーグ達は何とか切り抜けた。
秋の終わりから冬にかけてはまあまあ平穏な日々が続いた。
そんな中 ―
ゼロゼロナンバー・サイボーグ達は 相変わらず改造したコズミ邸で暮していたが
次第に変化がでてきた。
「 それで 君は故郷に帰る、というのか。」
「 ああ。 でもよ! ナンかあったらマッハで飛んでくるからよ! 安心してくれや 」
「 そうか。 それもいいだろう。 」
「 お そんじゃ オッケ〜? 」
「 オッケーもなにも・・・ 君が君の故郷に帰るといのうだ、とめる必要などないだろう? 」
「 そりゃ・・・ ま そうだけどよ。 」
「 ワシも 帰る。 博士、いいか? 」
「 おお ジェロニモ 君もか。 うむ うむ ・・・ 元気でやりたまえ。 」
「 ありがとう 博士。 」
「 僕も ― 帰ろうと思うんだ。 母国のことが心配なんだ。 なにせあんな状態だからね・・・ 」
「 俺は まあ・・・ 様子見だが。 」
「 さよか。 そらええわなあ。 」
「 大人。 君はどうするのだね? 」
「 博士〜〜 ワテはここに残りまっせ。 準備期間やさかい、忙しゅうてな〜 」
「 準備期間? 」
「 ハイな。 ワテはな、このお国で店、開きますねん。 」
「 店?? 」
「 そや。 中華飯店やで。 ワテの味でごっつう繁盛させたる! 」
「 ほうほう それは凄いなあ。 頑張っておくれ。 」
「 博士、おおきに。 ほんでな、コズミ先生にちょいと口利きお願いしたいんやけど・・・ 」
「 ふぉふぉふぉ・・・・ワシでよければお役に立ちましょうぞ。 」
大人は早速 <作戦開始> の様子だ。
「 グレートは? どうするんだい。 」
「 うん? 我輩か? まあ しばらくはこの地で大人の協同経営者だな。
勿論 演劇界と縁を切る気はないぜ? 」
色艶のよい禿頭をつるり、と撫でグレートも満更でもない様子だ。
「 で? おぬしはどうする、ボーイ。 マドモアゼルは? 」
「 ぼく? ぼくは ・・・ どこにも行くところがないんだ。
だから・・・ 博士が置いて下されば ・・・ ここに残りたいなあ。 」
「 ジョー。 それはワシが頼みたいところじゃ。 ジョー、君はイワンとワシの協同研究者じゃ。 」
「 うわあ・・・ ぼくは用心棒とパシリでいいですよ〜〜 」
「 わたし は ― 」
全員が フランソワーズを見つめた。 誰も口を開かない。
やっとこさシジョーが搾り出すみたいに 言った。
「 きみ ・・・ は ? 」
「 ・・・ わたし。 わたしも 故郷にかえります。 」
「 そっか。 そうだよね ・・・ うん それがいいよ! お兄さんのこともきっと ・・・ 」
「 それは多分無理。 わからないけど ・・・ 博士 ごめんなさい。 」
「 なにを謝っとるのか。 フランソワーズ、 お前はお前の幸せを第一に考えておくれ。 」
「 よし、俺が途中まで送ってゆこう。 」
「 あ〜 そうだよね、ユーロ組は一緒に行けばいいよね。 」
「 ― ユーロ か。 ふん・・・ 妙なモンだ ・・・ 」
「 うむ。 君らの容姿なら一旦入国してしまえば問題なかろう。 」
≪ 皆ノぱすぽーとハ 僕ニ任セテクレタマエ。 ≫
「 お〜〜 さ〜〜すがスーパーベビー☆ 頼むぜェ〜 」
相談はたちまちまとまり、皆 準備に忙しくなった。
短期間の滞在でも身の回りの整理は必要だったし、 この国に住み着く博士とイワン、
そしてジョーのために、仲間たちはこころを砕いてくれた。
「 やっぱりさ セキュリティは万全の上にも万全にしておかないとね! 」
「 そうだな。 自動防御のバリヤーを設置しよう。 」
「 うむ。 出来る限りの防御設備、必要だ。 」
「 皆 〜〜 大丈夫だよ、 ぼくだっているし。 」
「 ジョー。 だから心配なんだ! 」
「 え。 」
「 と〜にかく ! 一番手のオレ様がぶっ飛んでくるまでのガードがいるじゃん? 」
「 ・・・ ぼくだって ・・・ 」
「 わかってるさ、ボーイ。 しかしオヌシ独りじゃ大変だろう? 」
「 ・・・ あ。 」
「 ともかく仲間に任せておけ。 お前、射撃の腕でも上げておけ。 」
「 ・・・ わかったよ 」
そっか ・・・ 皆 行っちゃうのか ・・・
なんか 羨ましいな
・・・ フラン ・・・ そうだよね、 帰りたいよ ・・・ うん
そっか ・・・ 行っちゃう んだよね ・・・
ジョーはそんな仲間達を手持ち無沙汰に眺めている。
もやもやする気持ちを 自分自身の想いを持て余していた。
「 ジョー ォ ・・・! サクラの世話、手伝って〜〜 」
「 フラン? 」
自室の窓から首をだせば 階下のテラスでフランソワーズが彼を見上げていた。
ジーンズにエプロン、ゴム手袋までしてしっかり <園芸スタイル> だ。
「 今! いま行くよ! 待ってて! 」
― ダダダダダ ・・・・! ジョーは廊下を駆け抜け階段を二段とびで降りてきた。
「 ! は ! 来たよ〜 ! 」
「 ・・・ ジョーってば また〜〜 もう、いつもいつも ・・・ そんなに急がなくても 」
「 え だって ・・・・ その、きみ 忙しいんだろ? 帰国の準備とか 」
「 でも サクラの世話はちゃんとしなくちゃ。 」
「 ・・・ ありがとう! 」
「 なんでお礼をいうのよ? 可笑しなジョーね。 さ このバケツ お願い。 」
「 うん! あ その肥料も持つよ! 」
「 まあ ありがとう。 じゃ 出発〜〜 」
「 わあ・・・ 今日は温かいね〜〜 風がさ なんかこう・・・昨日までと全然ちがうし。 」
ジョーは空中に向かってくんくん・・・ハナを鳴らしている。
「 まあ〜 なあに、ジョー? それってわんちゃんみたいよ?
あ ・・・ でも ほんとう・・・ 春の匂いがちょっとだけ・・・? 」
「 だろ? これって多分土のにおいだと思うけどね。 ・・・ よいせ・・・っと。 ここでいい? 」
二人は裏山の桜並木まで来ていた。
「 ええ ありがとう。 ? あら・・・ ねえ ジョー。 この前とちょっと・・・変わってない? 」
「 え なにが。 」
「 枝よ。 ほら ・・・ みて? つんつん ごちごち・・・小さな棘がいっぱい・・
ちっちゃな葉っぱかしら。 」
「 ・・・ え ・・・ ああ これ 花芽だよ、蕾さ。 」
「 え!? 葉っぱより先に蕾が出てくるの?? 」
フランソワーズはびっくり顔で 黒いごつごつとした枝ばかりの木々を見回した。
彼女はまず、葉が出てきてそれから蕾が ・・・と思っていたのだろう。
「 じゃ ・・・サクラは先に花だけが咲くの? 」
「 うん。 花が咲いて散って・・・それから若葉がでるんだ。 」
「 まあ そうなの! ・・・ ふうん ・・・ 」
「 このカンジだと ・・・う〜ん ・・・ 満開はまだ先だなあ あと半月かな 」
ジョーも背伸びをして まだ固い花芽を見ている。
「 ・・・あ ジョー ・・・ ごめんなさい。 」
「 え なに?? 」
「 あの ・・・ ごめんなさい。 わたし ・・・ 」
「 ??? 」
「 < お花見 > ・・・一緒にできないわ。 ごめんなさい・・・ 」
フランソワーズが顔を曇らせ 俯いている。
「 や やだなあ〜〜 そんな 謝らないでくれよ〜
花見なんかいつだってできるよ。 そうだなあ〜 来年とか遊びに来いよ。 」
「 ・・・そ そう ? 」
「 うん それがいい! 来年の春にさ 花見においでよ。 ね! 」
「 え ええ ・・・ そう そうね。 その頃には ― わたしも見えているかもしれないわ。 」
「 ?? 見える? なにが。 」
「 うふ ・・・ わたしの進む方向っていうのかしら。
わたし ね。 今 ・・・ これからどうしていいのかさっぱりわからないの。
どっちに進むのかなにをしたらいいのか・・・ 全然。 」
「 フランソワーズ ・・・ 」
「 とりあえず故郷に帰って ― 考えてみるわ。
だから ・・・ 来年の春が楽しみ。 変わったわたしを楽しみにしていてね。 」
「 ・・・ う うん ・・・ あ こういうのは枯れ枝なんだって 」
「 どれ? ああ そうね、わたしも習ったわ。 じゃ 剪定しましょう。 」
「 うん。 そのあとで肥料と水だね。 」
「 ええ え〜と・・・まずは? 」
二人はまだ黒い枝ばかりな木々の間を行きつ戻りつして 作業に没頭した。
そっか ・・・ 花見は来年か うん・・・
でも いいさ。 楽しみができたもんな〜
ぼくだって! 来年までには なんとか・・・
来年 ・・・ 来年までジョーに会えない ・・・
ううん、ちがうわよね。 来年にはまた会えるのよ ね!
サクラを笑って見られるように ・・・ 頑張らなくちゃ
そろって見上げる桜の枝は まだほんのぽっちり・・・ピンクが見え隠れするほどだ。
ヴィ −−−−− ヴィ −−−−−−!!!
アラームが鳴り続けている。 コズミ邸はにわかに慌しくなってきた。
2−3日の内にはメンバーズが帰国を始める、という夜 ― 急襲だった。
ヤツラは夜陰に乗じて 空から仕掛けてきた。
レーダーを回避するためにごく低空をステルス機体で攻撃してきた。
「 な なんだ!? 」
「 〜〜〜 ったく〜〜!! 」
「 0013の後釜か?! 」
「 わからん。 ともかくこの邸を目標にしているんだ! ― 俺たちがターゲットだ 」
「 だな。 そうじゃなきゃ・・・ここを襲う必要はないよね。」
ドドド ・・・ だだだ ・・・・
サイボーグ達は 地下へと移動、 必要なものも持ち込む。
「 急げ! コズミ博士とギルモア博士 そしてイワンを! 」
「 大丈夫! 退避完了よ! 」
「 よし。 バリヤーだ! 008! 下から 」
「 004。 008はもうとっくにドルフィン号に飛んでいったよ。 」
≪ 皆! ドルフィン号 スタンバイ オッケーさ! ≫
008からの通信に全員がほっとした。
ともかく 逆転のチャンスはまだ十分に残っているのだ。
「 そうか! 俺たちは応戦しつつ ドルフィンへ! 」
「 了解! しかしまあ お主達皆がいるときでよかった ・・・ 」
「 グレートはん! のんびりせんと移動せな! 」
「 わかってるって。 ん?? おい? ボーイはどうした?? 」
「 ・・・ ジョー? あら? イワンをドルフィン号につれて行ったけど・・・ 」
「 無事到着、と008から連絡がきているぞ。 その後、009は引き返す、と言ったそうだ。 」
「 ・・・え でも ・・・帰って きていないわ? 」
「 うむ。 ワシ、邸の地下をもう一度見回ってくる。 」
「 ジェロニモ・・・ お願いね。 わたしはコズミ先生のお家の方を見てきます。 」
「 フランソワーズはん! 気ィつけてな! 」
「 ふふ ・・・ わたしだって003ですから。 最終確認 任せてください。 」
「 よし 頼む 003。 」
「 004、 了解。 」
長いマフラーを翻し 彼女はコズミ邸の方向へ駆け出していった。
数ヶ月であったが住み慣れた邸は まだ無事だった。
「 ・・・ ジョー?? ここに ・・・ いる?? あ! 火が!! 」
キッチンの窓から激しい炎が見えた。
フランソワーズは 消火器を手に裏庭に飛び込んだ。
裏の物置に火が入り、危うく母屋に類焼しそうになっている。
「 ・・・ こんなことで このお家を燃やすわけには 行かないわ! く・・・! 」
― なんとか 消し止めることができた。
「 ふう ・・・ よかった・・・ せめてこのお家だけでも残したいもの。
でも ・・・ わたし達がここにいることがバレたってことね。 速く移動しなければ。 」
もう一回 屋内をチェックしよう、と思った時 ―
ぱあ −−−−− ・・・・・・
裏手、塀よりも外の道が俄かに明るくなった。
「 ?? な なに?? 不発弾が今ごろ・・? 」
彼女はあわてて裏門から外にでて築地を回った。 そこは私道で並木道になっているはずだ。
「 枯れ草にもでも火が移ったのかしら ・・・ 」
訝しげに思いつつ 角を曲がった ―
? あ ・・・・ !!!
木が 並木道が 燃えていた。 黒い枝ばかりにみえる木が 燃える・・・
「 ・・・これ サクラ!! サクラの木が 〜〜 」
バキバキ ・・・・ ! 燃え盛る枝が落ちてくる。
「 ? きゃ −− あ? 」
「 ! 危ないッ !! 」
さ・・・っと赤い影が飛び出して来て彼女を抱いて 跳んだ。
「 ジョ ジョー ・・・・! 」
「 大丈夫か!? 気をつけろ! 」
「 ご ごめんなさい ・・・ ねえ ジョー 燃えてるの、サクラ よね?! 」
「 ― ああ。 ヤツラ、可燃性の液体を撒き散らしていったんだ。
だから ・・・ 生木は普通なら簡単には燃えたりしないんだけど ・・・ 」
「 ・・・ 燃えてる ・・・ 燃えちゃうのね ・・・ 」
「 ウン ・・・ 」
「 ひどい・・・ ひどいわ! 木は サクラはなんにもしていないのに・・・! 」
「 ぼく達の責任だ ・・・ 」
「 え? な なぜ ・・・ 」
「 ぼく達が ・・・ ここに居たから さ。 この桜たちは巻き添えを食ったんだ。 」
「 ・・・ そ そう ね ・・・ ごめん ごめんなさい ごめんなさい・・・! 」
フランソワーズは膝を着き 両手で顔を覆い泣き出した。
「 ・・・ フランソワーズ ・・・ ん? あ ・・・ ? なんだ これ・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
「 あ! これは ・・・・ おい、フランソワーズ! 見て! 見てごらんよ! 」
ジョーがぽんぽん、と彼女の肩を叩いた。
「 ・・・ え ・・・ 」
「 ほら ほらほら ・・・ これ はなびらだ! 桜の花びらだよ! 」
「 え!? なんですって? 」
フランソワーズは顔をあげ 彼と並び宙を見据えた。
そこには いくらか下火にはなったがまだ紅蓮の炎が闇を染めて ― その中に
ひら ひらり ひら ひら ひらり ひら ひら ・・・ ひら
小さな 白い はかない 欠片が 舞う 舞い踊る。
赤くあかく燃え上がる炎の中 桜はその花びらを散らしている ・・・
「 あ ・・・ この 白いの? これが サクラなの・・? 」
「 うん。 ここの木は多分満開に近くなっていたんだ。 それを・・・この火の熱でイッキに
・・・ これも 花吹雪 なのかなあ ・・・ 」
「 ― こ こんなの、 ちっともキレイじゃない・・・!
わたし わたし こんな こんな はなふぶき がみたかったんじゃないわ!
こんな おはなみ したかったんじゃない ・・・! 」
「 ・・・・ フランソワーズ ・・・ 」
「 ごめんなさい ごめんなさい、さくらさん達 ・・・! わたし達がここに居たばっかりに・・・
許して ・・・ ごめんなさい ・・・ 」
彼女は 炎をバックに散り頻る花びら達に 声を上げて詫びていた。
「 フラン ・・・ 行こう。 ここはもうダメだ。 コズミ邸への類焼を防ぐので精一杯だ。
・・・ 行こう。 ドルフィン号で皆が待っているよ。 」
「 ・・・ わたし ・・・ コズミ先生にもお詫びしなくては ・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」
ジョーは黙って震えている肩を抱き寄せた。
「 ・・・・・・ 」
炎の色の服を纏った二人は 黙って立ち去った。
ガヤガヤガヤ −−−
国際線の出発ロビーに最終搭乗案内が流れる。 足早に人々が移動してゆく。
「 何とか ― なったね。 」
「 ああ。 全く全員無事でよかった。 」
「 うん。 それにさ、皆がいてくれてよかったよ〜 ホントに・・・ 」
「 ああ ・・・ お前 しっかりしろよ? 」
「 ウン。 ・・・ じゃあ ・・・ 元気で ・・・ 」
「 おう。 お前もな。 」
「 ・・・ ウン ・・・ 」
ガイジンのカップルを送る少年は ちょっと淋しそうな顔だ。
空港のどこにでもあるありふれた光景だ。
その一行に 眼を留めるヒトはほとんどいなかった。
片手をちょいと上げて銀髪の青年は先にゲートを潜っていった。
カツン ・・・ 女性のヒールの音が止まった。
最後のゲートの前 二人は距離をおいてはいるが見つめ合っている。
亜麻色の髪の乙女は ほのかな笑みを頬に浮かべた。
セピアの瞳に青年は く・・っと拳を握り締めた。
「 ・・・ さようなら ジョー 」
「 あ 愛してるよ フランソワーズ ! 」
ひゅるん ひらり ・・・
こんな場所では吹くはずのない風が 散るはずのない花びらが二人には見えた。
― カチン。
カン カンカンカンカン ・・・ ヒールの音が響き 彼女は駆け出す ― 彼の元へ。
カツ カツカツ ・・・ カツ ! 靴音は高くなり 彼は両腕を広げる ― 彼女のために。
「 ジョー !!! 」
「 フランソワーズ! 」
「 あ? お おい〜〜 フラン!? 」
「 ― アルベルト。 わたし ・・・ 残るわ! 」
彼女は振り向いて叫ぶと セピアの瞳の少年の元へ 彼の胸に飛び込んだ。
「 ジョー ! わたしも! わたしも愛してるわ!! 」
「 フラン!! 帰るな。 ここにいろよ! 」
「 ・・・ ジョー ! 」
「 ここで ・・ 二人でやり直そう! 家、つくって桜の苗、植えてさ。
その・・・ぼ ぼくたちの生活を始めるんだ! 」
「 ・・・ ジョー ジョー ああ ジョー ・・・ わたし・・・ 」
「 あのう〜〜 お取り込み中 申し訳ありませんが 時間が迫っておりまして ・・・ 」
二人の周りをうろうろしていたグランド・アテンダントの女性がやっとのことで口を挟んだ。
「 あ・・・ 」
「 ふん。 お〜い ! 女性の方はキャンセルだ。 」
ゲートの向こうから声が飛んできた。 先ほどの銀髪の青年が怒鳴っている。
「 ― アルベルト 〜〜 」
「 ジョー! てめ〜 しっかり捕まえてろよ! フラン! しっかり・・・見張ってろ! 」
「「 もう〜〜 アルベルトってば! 」」
真っ赤になっている二人を尻目に ドイツ人は振り返りもせずに搭乗口に消えた。
「 ・・・ 帰ろう か。 」
「 ・・・ ええ。 」
すい、と差し出された手。 その手に細い手が重ねられた。
こうして二人の <新しい日々> が始まった。
この顛末を聞いた仲間たちは ちぇ・・・ と肩を竦め 笑いつつ帰国したという。
― それから またいろいろなことがあった。
「 そ それでもって ・・・ あ け け・・・っこん 」
「 え なあに? 」
「 ! ・・・ くぅ あの! けっこんしてくださいッ !! 」
「 ? だれと? 」
「 え!? あ あの! ― ぼ ぼくと!! 」
肝心のプロポーズも 実はミッションのどさくさついで・・・だった気もしないでもない。
でも ・・・ と 彼女は ― 島村夫人はにっこりと微笑む。
「 ともかく。 彼は約束を護ってくれたもの。 ずっと一緒にいるよ って。 」
二人は一からやり直した。 生活だけではない。
焼けた地を整地して 花を育て苗木を植え ― 桜は二人を見守ってゆく。
「 うわあ〜〜〜 うわあ〜〜 きれ〜〜〜 これ なあに〜〜 」
「 きれ〜〜 ・・・・ きらきら〜〜 きらきら〜〜 」
二人の幼子が 舞い落ちる桜の花びらを追っている。
「 ふふふ・・・ そんなに駆けるとまた転んじゃうわよ〜 二人とも・・・ 」
「 へ〜きだも〜〜ん ねえ ねえ おかあさ〜ん これ なあに〜 ゆき? 」
「 ゆき? おかあさん〜〜 」
小さな息子が とん、と彼女の胸に飛び込んできた。
「 あらあら ・・・ すばるったら。 これはねえ 桜よ。 桜の花びらなの。 」
「 しゃくら? おはななんだ〜 」
「 そうよ。 ほら 上を見てごらんなさい? いっぱ咲いているでしょう? 」
「 ? うわあ〜〜 すごい〜〜 あ! おとうさ〜〜ん! 」
娘は母譲りの髪を 陽に煌かせ駆けてゆく。
「 お〜〜 すぴか。 ほうら ・・・高いたか〜〜い♪ 」
「 きゃあ〜〜〜♪ おとうさ〜〜ん ♪ 」
頭の上までも持ち上げてもらい、すぴかはもう最高にご機嫌だ。
「 ジョー。 お帰りなさい。 早かったのね。 」
「 ただいま フラン。 ・・・ うん ・・・ きみやチビ達と花見がしたくて さ。 」
「 そうね。 皆で見たいわよね。 」
「 だろ? 」
「 ― ねえ ジョー。 」
「 ・・・ うん? 」
「 これが おはなみ なんだわ。 わたしが見たかった お花見 よ。 」
「 ああ ― そうだな。 うん ・・・ これが な・・・ 」
ジョーは娘を肩車し、 フランソワーズは息子を抱いて ゆっくりと歩む。
ふふふ・・・ ぼくにとっての最高の花見はさ
あの時 ― ひとりで踊っていた きみの姿 ・・・ さ
・・・もちろん 彼はそんなこと、一言も言わなかった。
― そしてまた さらにいろいろな いろいろなことがあり ・・・
「 ・・・ ほんとうに ・・・ 綺麗 ・・・ 」
「 うん。 これで 見納め か ・・・ 」
「 ええ ・・・ 」
「 ・・・ うん 」
ジョーとフランソワーズは花吹雪の中 花のトンネルを辿ってゆく。
・・・ 子供達も一人前になった。 自分達の脚でしっかりと歩んでいる。
― もう 大丈夫。
さよなら ・・・ 桜 さくら ・・・ さんさんさくら
あの日 燃えたさくらと一緒に ・・・ さくら 桜 ・・・
さよなら ・・・ さよなら ・・・・ もう 会わない
二人は ゆっくりと 花の道を 歩み去って いった
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Fin. **************************
Last updated : 03,20,2012. index
******* 後書きに代えて
一応 【 島村さんち 】 です、その成り立ち?というか・・・
<いろいろなこと> は シリーズ内のお話で どうぞ♪