『 アタシ と ボク ― (2) ― 』
「 ぼくが。 ぼくがやる。 子供たちの世話をする。 襦袢も 縫う! 」
ジョーは 意気込んで宣言し。 意気込んでその実行にとりかかった。
まずは病人の世話。 ― これが彼にとっては最優先事項。
「 さ・・・ きみは安心してゆっくり休みなさい。
早く治して ・・・ 七五三には元気になっててくれよな。 」
「 ジョー ・・・・ ありがと・・・・ 」
熱で潤んだ瞳を たちまち涙でいっぱいにしてフランソワーズはこっくん・・・と頷いた。
・・・ あ ・・・ 可愛い・・・
な、なんだか色っぽいなぁ〜 ・・・うう そそられる・・・
なにしろ・・・ 昨夜は オアズケ 喰っちまったからなあ・・・
この・・・襟元から すすす・・・っと♪
えへ・・・フランってさ 着痩せするタチなんだよな〜♪
ぼくだけのヒミツだけど・・・ むふ♪
― と ・・・ ジョー! お前、なにを考えているんだっ?
ダメだ ダメだ〜〜! 彼女は・・・病人なんだぞ・・!
ジョーはきゅ・・・っと自分の太腿を抓ってから妻のベッドの側に寄った。
「 ほら・・・ ちゃんとベッドに入りなさい。 」
「 ・・・ はい ・・・ 」
フランソワーズは素直に被っていた毛布をはずしてベッドに横になった。
手を貸しつつ彼女の額に手をあて ジョーはシブい顔をした。
「 まだ随分熱いなあ・・・ 頭、冷そうな。 ちょっと待ってろよ。 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
「 なにか ほしいもの、あるかい。 あ ・・・ お腹 減ってるよね。 」
「 ウウン ・・・ あ お水 ちょうだい。 」
「 オッケー。 氷水と ・・・ そうだ、氷枕、持ってくる! 待ってろよ! 」
ジョーは張り切って寝室を出た。
よ〜し・・・ 氷は冷凍庫にたっぷりあるからな ・・・
あ ・・・ 冷却剤でもいいだよな。 水は・・・ ペットボトルだと便利でいいな・・・・
ふんふんふ〜ん♪
亭主のありがたみ、わかってくれたかな〜〜
心配は心配だけど年下亭主としては 大きな顔ができてかなり ・・・ 嬉しい。
しぜんとハナウタまで零れてしまうジョーなのだ。
― あ れ・・・?
キッチンへ大股でがしがし廊下を歩いていると ― き ・・・ きこえる・・・!
きこえる〜〜 混声二部合唱の泣き声が・・・!
「 あ〜〜〜ん あ〜〜ん おかあしゃ〜〜ん おかあしゃ〜〜ん・・・
すぴか〜〜 おっきしたのよ〜〜 おかあしゃ〜〜ん・・・ 」
「 ・・・うっく ・・・うっく ・・・ ボクも〜〜 おっきしたよ〜〜 おかあしゃ〜ん 」
「 あ! すぴか! すばる〜〜!! 」
ジョーは夢中で子供部屋に飛び込んだ。
涙とハナミズとヨダレでぐちゃぐちゃになっていた子供たちの顔を手をきれいにぬぐってやり。
引き出しをやったらめったらかきまわし、ともかく二人分の服を取り出し 着替えさせ・・・
「 さあ ・・・ これでいいよな〜 さっぱりしたよね♪ 」
「 おとうしゃ〜ん アタシ、 おなかすいたぁ〜〜〜 」
「 ボクも〜〜 おなか すいた、おとうしゃん。 ・・・ おかあしゃんはあ〜〜? 」
やっとご機嫌がもどった子供たちは父親に纏わりつく。 ピイピイ・・・まさにえさをねだる雛鳥そのものだ。
「 そうだね、朝御飯にしようね〜 お母さんは お風邪なんだ。
コンコン・・・・って。 お熱があってセキがでるからネンネしていますよって。 」
「 おねつ と せき ? 」
「 そうだよ。 二人ともよ〜くウガイしてお手々を洗おうね。
じゃ・・・ゴハンにしよう。 ご〜はんだ ごはん〜〜だ♪ 」
「 わあ〜い♪ ごはん〜〜だ さ〜た〜べ〜よ〜〜 」
子供たちは父親の両腕にぶら下がりつつご機嫌ちゃんでキッチンに降りていった。
― こうして 009の戦闘が始まった !
「「 ご〜ちそ〜さま〜〜 」」
可愛い声が 元気にキッチンに響いた。
「 はい、ゴチソウサマ。 さあ 二人とも・・・ 遊んでおいで。 」
「 は〜い ・・・ アタシ! くましゃん と遊ぶ〜〜 」
「 あ〜 ボク ! ボクも〜〜 」
すぴかはぱっと子供用イスから飛び降りるとリビングへ駆けてゆく。
弟はもぞもぞ・・・やっとイスからズリ降りて姉の後を追う。
「 ・・・・ ああ ・・・・ おわった ・・・ 」
― ごん ・・・!
子供たちが食べ散らかした食卓で ジョーはテーブルに突っ伏した・・・。
ごはん〜〜 と喚くチビ達をなだめつつ・・・ なんとかスクランブル・エッグをつくり
トーストにミルク トマト一切れにキュウリ2〜3枚・・・を食べさせ ― ジョーは力尽きてしまった。
「 ・・・ ひえ〜〜〜・・・ たかが朝御飯を食べさせるだけなのに ・・・ あは・・・
あ・・・ ぼく。 食べるの、忘れてた・・・ 」
グウウウウウ ・・・・ 今更のように腹の虫が鳴いた。 今まで空腹なことすら忘れていた。
「 しっかし・・・ フランってば毎朝・・・こいつらの相手、やってるんだ・・・! すげ〜・・・
それに博士やぼくの朝御飯もつくって・・・そうだよ、弁当だって作ってくれるじゃないか。
・・・ あ!!! ふ、フラン〜〜 水!! 水 持って行くって言ってそのまま! 」
がば!っと立ち上がると ジョーは冷蔵庫からペット・ボトルと冷却剤を掴みだし二階へダッシュした。
水さえ持っていなければ 彼は本気で加速装置を稼働させただろう。
― カタ ・・・・ン ・・・!
寝室のドアの前で足音を殺し、できるだけ静かにドアをあけた。
「 ・・・ フラン ・・・? 」
「 ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ 」
そう・・・っと入ったベッド・ルームには ― 彼の愛妻の穏やかな寝息だけが聞こえていた。
「 ・・・ あ ・・・ 寝ちゃった・・・のか。 当たり前だよな・・・
ごめん ・・・ 咽喉、渇いていただろうに・・・ 」
ジョーはそうっと・・・ 彼女の髪を、熱のため汗ばんだ額からかきやった。
持ってきた冷却剤をタオルに包み額に乗せた。
「 ・・・ 汗 拭いたよ。 ほら・・・ ひんやりして気持ちいいだろ・・・ 」
「 ・・・ う ・・・ん ・・・・ ? 」
「 うん ・・・ さっきより少し熱は下がったな。 ・・・ あとはぼくに任せてゆっくり寝てろ。 」
「 ・・・・ ・・・・ ・・・・・ 」
熱の赤味が残る頬にキスをして。 ジョーはそうっとそうっと寝室を出た。
「 ともかく 一安心ってとこだな。 あとは博士が薬をもってかえってくだされば・・・
あ ・・・ ぼくも朝飯、食わなくちゃ。 あ! 社に電話! 今日は・・・午後出だなあ〜 」
ジョーはとりあえず勤め先に連絡しようと 携帯を取り出した ・・・ のがだが。
― ガシャーーーン ・・・・!
「 ・・・うわあ〜〜〜 あ〜〜〜ん あ〜〜ん・・・! 」
「 うっく ・・・ え・・・えええ〜〜ん・・・ 」
「 ?! な、なんだ なんだ〜〜?! 」
廊下に出た途端、またもや階下から子供達の喚き声が響いてきた。
ジョーは携帯をズボンのポケットにねじ込んで再び どたばたとリビングへ駆け下りていった。
こりゃ。 仕事どころじゃないよ・・・!
・・・ そう。 編集部員 の代わり はいても、 父親と夫の <代わり> はいないのだ。
― カチャ ・・・
玄関のドアが開いた。
「 ただいま。 ジョー? 風邪薬を処方してもらってきたぞ。 」
「 あ ・・・ 博士! お帰りなさい〜〜 すいません〜〜 こっちです〜 」
ジョーはリビングから 声を張り上げた。
「 ほいほい・・・ チビさん達はいい子にしとったかの〜
・・・ あ ・・・ こりゃ ・・・ ま あ・・・ 」
ギルモア博士はリビングの入り口で 絶句し足が止まった。
さんさんと秋の陽がさしこみ、明るいリビング ・・・ あちこちにオモチャが散らばっていて、
気をつけないと踏みつけて ずでん・・・! とやる危険もあるのだが。
まあ それも可愛い孫たちのいる証拠、 ご愛嬌・・・ともいえるだろう。
そのリビングの一角のソファにギルモア博士が 息子 とも 娘婿 とも 助手 とも思っている青年、
かずかずの危機をともに切り抜けてきた 戦友 ともいえる青年が 座っていた。
膝の上に縫いかけの布を置きちくちく・・・針を運んでいる。
「 お帰りなさい、博士。 すいません、お迎えできなくて。 なにしろチビ達が・・・
なあ お前たち? おじいちゃまに お帰りなさい、は? 」
「 おかえりなしゃ〜〜い! おじ〜ちゃまあ〜〜 」
孫娘が 早速駆け寄り抱きついてきた。
「 おじ〜ちゃまあ〜〜・・・・ 」
孫息子は 父親の背とソファの間で もごもごやっている。
「 おお ただいま。 おや、父さんに遊んでもってよかったな、すばる。
ほうれ・・・すぴか。 高い たか〜い・! 」
「 きゃあ〜〜♪ たか〜い たかい たか〜〜い♪ おじ〜ちゃまあ〜〜 」
博士にひょい・・・と抱き上げてもらい、すぴかは歓声をあげている。
「 ああ やっとご機嫌になったな・・・
もう 二人一緒にしとくと、すぐにケンカ始めるんですよ。 だからこうやって・・・ 」
ジョーは背中にいるすばるに話かける。
「 なあ すばる? お父さんと押しくらまんじゅう〜〜♪ してるんだよな。 」
「 うん! おしくらまんじゅ〜〜 ぎゅ ぎゅ ぎゅう〜〜〜 」
にっこり笑った彼は 息子を背にはさみ娘を足元で遊ばせ ソファの隅っこで縫い物の続きを始めた。
「 ・・・ あ ああ チビさん達、 ご機嫌じゃな・・・ 」
「 いやあ・・・ もうコイツら けんかばっかりしてるから ちょいと別々にしていたんですよ。
ほら・・・ これで少しは大人しくなったかな。 」
「 なるほどなあ・・・ さすがに父さんだな、ジョー。
しかし ほら・・・ やっぱり双子は一緒がいいのかもしれんぞ? 」
「 え? ・・・ あ あは♪ 」
いつのまにかすぴかが父の側に這い上がってきて、すばるの隣にもぞもぞもぐりこんできた。
「 すばる〜 えへへへ・・・ 」
「 すぴか〜〜 いっしょに ぎゅ きゅ きゅ ・・・しよ? 」
「 うん! いっせ〜のせ♪ おっしくらまんじゅう〜〜♪ 」
姉と弟は一緒になってジョーの背中とソファの間で大はしゃぎだ。
「 あは・・・ 本当ですね。 おいおい ・・ お前たち、二人がかりだとお父さん、負けそうだあ〜 」
「 ぎゅ ぎゅ ぎゅう〜♪ 」
「 きゅ きゅ きゅ〜〜〜〜う♪ 」
「 ははは・・・子供なんてものはな、結局こんな簡単なことが好きなのさ。
時にジョー。 ・・・・お前、そこでさっきからなにやってるんだ? 」
博士はジョーも手元を指さした。
「 え? ・・・ ああ これですか。 晴れ着の、すぴかの晴れ着の襦袢ですよ。
フランソワーズが裁断しておいてくれたので ぼくが縫ってます。 」
ジョーの手元には小さな襦袢が もうおおかた形になっていた。
「 ほう・・・ すごいな、ジョー、縫い物かい。 お前、 なかなか器用じゃないか。 」
「 あ・・・そうでもないんですけど。 ・・・ ほら、 こういうモノは直線に縫うだけだし。
ぼくら 学校で雑巾縫いくらいは習いましたからね。 」
「 ふうん ・・・お前、なかなかヤルなあ ・・・ これで母さんが元気になれば万々歳じゃな。 」
「 そうですよ。 博士、ほんとうにただの風邪、ですよね? 」
「 ああ 本当に・ただの風邪 じゃよ。 ほれ・・・ コズミ君の研究室でごく普通の感冒薬を
処方してもらってきたよ。 このコ達の母さんには それが一番効くじゃろ。 」
「 ありがとうございます! それじゃ早速 飲ませてきますよ。
さ・・・ お前たち、ちょっと大人しくていろよ? 」
「 ? おと〜しゃん? どこ いくの〜 」
「 おとうしゃん ・・・ おとうしゃ〜ん ・・・いっちゃやだ〜 」
子供達はジョーの背中や腕にへばりついている。
「 ほら ・・・放してくれ〜。 お母さんのところに行くんだから。 」
「 おかあしゃん? アタシもいく〜〜〜ぅ おかあしゃ〜ん♪ 」
「 ボクもボクも〜〜〜 おかあしゃん おかあしゃん・・・うっく ・・・ 」
「 こ ・・・ こらこら・・・ 泣くんじゃないぞ すばる・・・ いて! すぴか〜 髪をひっぱるな〜
それじゃ ・・・一緒にゆくかい? でも し −−−−− だよ? お母さんはお風邪なんだから。 」
「 こんこん・・・おせきとおねつ、ね。 」
「 おかあしゃん ・・・ おかぜ〜 」
「 そうだよ。 それじゃ・・・お母さんにお薬とゴハンをもっていってあげよう。 な? 」
「 アタシ! おてつだい する! 」
「 ボクも〜〜 ボクも〜〜 」
「 あ・・・博士・・・ チビ達に移ったりはしませんよね・・・ 風邪。 」
「 ああ。 しかしあんまり病人の周りで騒がせるなよ? 安静が一番なんだからな。
ほい、薬はこれ と これを2錠づつ飲ませてやれ。 」
「 はい。 それじゃ・・・ すぴか、 お水のペット・ボトルを持っていけるかな。
すばるは ・・・うん、キレイなタオルを頼むな。 」
「「 は〜〜〜い!! 」」
子供達は大喜び、 すぴかはキッチンに飛んでいって冷蔵庫からペット・ボトルを引っ張り出している。
すばるはバス・ルームの棚からバスタオルを引き摺ってきた。
・・・ ふうん・・・ まだまだ赤ん坊だと思っていたけど。
けっこういろいろ・・・出来るんだなあ・・
ジョーはちょっとばかり我が子達の成長に感激していた。
「 さあ〜 それじゃ。 お母さんのお見舞いだ。 ・・・し〜〜〜・・・だからね? 」
「 うん! し〜〜〜・・・ね♪ 」
「 ・・・ し〜〜〜♪ 」
双子たちは 神妙な顔をして両親のベッド・ルームまでついてきた。
「 ・・・ フラン? ・・・ 起きているかい。 食事と薬をもってきたよ。 」
「 ・・・ ジョー ・・・ ありがと・・・ お水、くださる?
お食事は ・・・ あとで頂くわね・・・ 」
ベッドの中から 少しだるそうな声がかえってきた。
ジョーは子供達を中にいれ、ベッドの側に歩み寄った。
「 だめだめ・・・ ちゃんと食べなくちゃ。 水は ・・・ ほら、すぴか。 お母さんにお水、あげなさい。 」
「 ・・・ おかあしゃん。 はい・・・ おみず。 」
「 まあ すぴか。 ありがとう・・・! 」
フランソワーズはジョーの手を借りてゆっくり起き上がった。
「 すばる? そのタオルをお母さんのお肩にかけてあげて・・・ 」
「 たおる ・・・ おかあしゃん。 」
「 あら〜〜 すばる・・・ ありがとう・・・ああ お水 美味しいわ・・・・タオルもあったかい・・・ 」
「 さ・・・それじゃ 二人とも。 お母さんはこれから御飯だから・・・ お前たちは下で遊んでいなさい。
おじいちゃまがいらっしゃるから ね。 」
「 ・・・ や〜〜 ・・・ 」
「 ・・・ おかあしゃんとこにいる〜〜 」
子供たちは母のそばに纏わりついていて なかなか離れそうもない。
無理矢理ひきはがせば大泣き・・・は確実だ。
「 すぴか すばる ・・・ お母さんのお願い、聞いてくれる? 」
「「 うん! 」」
「 ね。 お庭に・・・ 花壇のお花にね 二人でお水をあげてきて? できるかしら。 」
「「 は〜〜〜い!!! 」」
フランソワーズが上手に助け舟を出してくれた。
「 ・・・ ジョー。 二人をお庭に・・・ あ、もしかしてこれからお出掛け? 」
「 え? ううん。 ぼくは今日はウチにいるよ。 」
「 チビ達よ。 ・・・だってよそ行きを着ているでしょう? 」
「 ・・・ よそ行き?? あ・・・・服のことかい。 」
「 ええ。 」
「 おか〜しゃん。 これ〜 おとうしゃんがきせてくれた〜 」
「 おでかけ〜〜 ♪ 」
「 おとうしゃん、 アタシたち おきがえ たたんでまくらもと においてねるの。 」
「 ボクも。 きち〜〜んとたたまなくちゃ いけないんだよ。 」
「 ・・・ あ ・・・! ま 枕元・・・・ 」
「 さ。 それじゃね、お部屋にもどって いつものお洋服、着てちょうだい。
お着換え、一人でできるかな? それで お花にお水・・・ お願いね。 」
「「 は〜〜〜〜い おかあしゃん♪ 」」
双子たちは どたばたと寝室から駆け出していった。
「 ・・・ ありがとう ・・・フラン。 あの ・・・ ごめん・・服のこと、全然気がつかなくて・・ 」
「 ふふふ ・・・ あとでお洗濯すればいいのよ。 あ ジョー。 お願いがあるの。 」
「 うん? なんだい。 」
「 お買い物。 晩御飯の材料 ・・・ 買ってきてくださる? 夕方までには・・・起きられるわ、わたし。 」
「 だ ・・・だめだよっ! ほら・・・ まだ 熱いじゃないか。 」
ジョーは彼女の額に手をあて、本気になって怒っている。
「 きみは! ちゃんとやすんでろ。 ・・・ぼくがやる。 ぼくが晩飯、つくるよ。 」
「 ジョー ・・・ 大丈夫よ、わたし・・・ はっくしょん・・・! 」
「 ほらほらほら・・・ ちゃんとガウン羽織ってなってば。 薬、飲んで・・・ほら・・・ 」
「 ん ・・・ ありがとう ・・・ ジョー・・・ 」
「 よし、それじゃ・・・また寝てろよな。 晩飯も任せろ! うん、 チン!じゃなくてきちんと作る!
あ それからね、 襦袢も縫ってるからな〜〜 安心しろよ。 」
「 まあ ・・・ 」
またまた碧い瞳に 涙がもりあがってきた。
「 泣くなよ〜 こんなことで・・・ ほら、寝てろ。 な? 」
ジョーは 彼女の涙を吸い取ってやり額にキスすると ( かなりの自制が必要だった・・! )
に・・・っとわらって意気揚々と寝室から出ていった。
「 ・・・あらあらまあまあ・・・ あの笑い方・・・すばるとそっくり・・・ 」
くす・・・っと笑って。 島村さんちの奥さんは幸福の溜息をもらし頭を枕に沈めた。
「 おっでかっけ おっでかっけ うれちいな〜〜 ♪ 」
「 かっけ ・・・かっけ うれち〜〜〜な♪ 」
すぴかとすばるは ちょこまかちょこまか・・・ ジョーの周りを駆け回っている。
「 こらこら・・・ ちゃんとお父さんと一緒に歩かなくちゃダメだぞ〜
ここはいいけど・・・下の大きな道にでたら車がくるからね。 」
「「 はあ〜い おとうしゃん。 」」
秋の日はからり・・・と晴れ上がり。 お昼頃には絶好の < お買い物日和 > になっていた。
午前中に、いつもよりかなり遅れてしまったけれど、洗濯機にフル稼働してもらい、
なんとか ・・・ なんとか洗濯は終えた。
チビ達に纏わりつかれつつ、乾しあげることもできた。
「 ・・・ ふうう〜〜〜〜 さあて。 あとは買い物と晩飯作り、だな。
うん、縫い物は夜だ! やるぞ! がんがん縫えば ・・・ なんとかなる。 いや なんとかする! 」
ジョーはぐぐぐ・・・っと腕まくりをしなおした。
よし。 やるぞ。 やってやる・・・!
フラン ・・・ きみってひとは本当にすごいよ・・・!
毎日な〜〜んでもない顔して 全部 ・・・全部やってくれてたんだもんな・・・・
「 おと〜〜しゃん ! おかいもの〜〜〜 おかいもの! いこ〜〜!」
「 わ〜〜い おとうしゃ〜〜ん 」
子供たちは空になった洗濯モノカゴや洗濯バサミ入れを抱えて 父を呼んでいる。
あ ・・・は 元気だなあ〜〜
それにさ、 まだまだ赤ん坊だ・・・と思っていたけど。
けっこういろいろ役に立つしさ。
へへへ・・・さっすが ぼくとフランの子供たちだよなあ〜
朝からの大騒ぎでくたくたのはずなのだが。 ジョーはなんだか心の底から元気が湧いてきた。
子供たちの笑顔は 何よりも強力なエネルギーの源となった。
だけど ・・・ だけど。
・・・ ぼくは なんにも気がつかなくて・・・
フランソワーズと結婚して。 双子の子供達にめぐまれ ・・・最上のシアワセを手にした、と浮かれいた。
だけど そのシアワセは彼の細君が一生懸命フォローしてくれていたからこそ、なのだ。
勿論 ジョーも家族を養うべく、懸命に働いているわけだけれど・・・
ごめん・・・ごめん フラン!!
ぼく・・・ いい気になってた・・・!
きみの <仕事> が 全然見えてなかった・・・
ぼくだって きみの仕事ができなくちゃな。
よ〜〜し・・・! ゆ く ぞ !!
そう・・・これが本当に あとは勇気だけだ・・・! な状況なのかもしれない。
うん・・・・! と空に向かって伸びをして。 ジョーは胸いっぱいに澄んだ大気を吸い込んだ。
― そして。
009の戦闘第二ラウンド開始! のゴングが鳴った!
「 さあ〜〜 すぴか すばる? 一緒に買い物にゆくぞ〜〜 」
「「 うわ〜〜い♪ は〜〜〜い! おとうしゃん ! 」」
可愛いアップリケのついたズボンに色違いのトレーナーの普段着になり、双子は大喜びだ。
「 よしよし ・・・ 二人で父さんを助けて買い物をしておいで。 」
博士が 子供たちの小さなリュックを持ってきてくれた。
「 おじ〜ちゃま〜〜 うん! アタシ、おてつだい、できる〜〜 」
「 ボクも! ボクも〜〜 」
「 二人ともかしこいのう〜〜 さあ それじゃ・・・これを背負って行っておいで。
留守番はワシが引き受けたよ。 」
「「 はあ〜い♪♪ 」」
色違いのリュックを背負わせてもらい、姉弟は大はしゃぎだ。
「 それじゃ・・・行って来ます、博士。 あの フランのこと・・・ 」
「 ああ ちゃんと看ておるから安心していっておいで。
うむ ・・・さっき覗いてみたが 顔色も大分よくなっていたよ。 」
「 わあ〜 よかった♪ ありがとうございます。
さあ お前たち〜〜 出発〜〜 」
「「 わあ〜〜〜い おかいもの〜〜 おかいもの♪ 」」
ジョーは子供たちを連れて 邸の前の急な坂を下りていった。
「 おとうしゃん・・・ ばんごはん なあに。 」
「 え・・・ う〜〜ん・・・・ すぴかは何がいいかな〜 」
「 すぴか? アタシは〜 ・・・・ たまねぎ! 」
「 ??? た たまねぎ 好きかい? 」
「 うん! だいすき〜〜♪ にんじんもすき♪ すばるってばね〜
にんじん、 おのこし するの〜 」
「 あ! ぼ・・・ボクも! にんじん す ・・・ き ・・・・ かな? 」
「 あはは・・・いいさ いいさ。 今に好きになればいいんだよ。
う〜ん ・・・ それじゃ・・・やっぱり ・・・ 今晩は カレー だあ〜〜♪ 」
「「 うわ〜〜〜い♪♪ 」」
双子は父の周りを ひらひらかたかた・・・・ はしゃぎまわっている。
よ ・・・ よし・・・!
やるぞ・・! まずは ― 買い物だッ!
009は 次の戦闘に備え油断なく身構え ― 子供たちの後を追いかけていった。
ギルモア邸のある海岸通りの街は 旧い街道沿いに発展し、現代でもまあまあな程度の人口がある。
無論、 ジョー達はその街の外れのはじっこにひっそりと住み ・・・ 家の前の急な坂を下り、
国道を渡らなければ他の民家は見あたらない。
左手に穏やかな海をみつつ ジョーは子供達と一緒に町に向かった。
「 おい ほら・・・手を繋いで。 道をわたるぞ 」
「 「 はあい おとうしゃん 」」
双子は母と通りなれた道、元気いっぱいで むしろ父の手を引っ張っている。
「 おいおい・・・ そんなに引っ張るな〜〜 」
バスで駅の近くまでゆけば大型のショッピング・モールがあるのだけれど、
フランソワーズはずっと地元の商店街を利用していた。
地理的に近い、というだけでなく ― 彼女は海岸通り商店街 がお気に入りなのだ。
「 だってね。 とっても・・・便利なのよ。 」
「 べんり? スーパーやコンビニの方が便利だろう? 一箇所で買い物が済むよ。 」
「 それは ・・・ そうだけど。
でもあの商店街を歩けば 買い物はたいていオッケーなのよ。
それに ・・・ わたし、 好きなの。 」
「 ・・・ 好き? 」
「 ええ 。 あの街が好きなの。 お店のひとやお買い物にきた地元のヒト達がね、
いろいろ教えてくれるのよ。 」
「 教えてくれる・・・ってなにを 」
「 そうねえ・・・ お魚の料理方法とかお野菜の食べ方・・・それからね、市役所からの
お知らせ・・・とかも説明してもらったもの。 」
「 へえ・・・・? そんなヒトがいるんだ? 町内会の会長さんかい。 」
「 ううん、一人のヒトじゃないのよ。 皆がね・・・ いろいろ助けてくれるの。
皆 皆・・・とっても親切よ。
・・・ 昔ね ・・・ よく買い物にいった市場でも ・・・ あんな感じだった・・・わ 」
フランソワーズは 楽しそうに子供たちと買い物にでかけていた。
「 え〜と・・・ まずは 」
「 たまねぎ! おとうしゃん たまねぎ〜〜 」
「 よ〜し・・・ お。 それじゃ すぴか。 たまねぎを買うにはどこへゆきますか。 」
「 え〜・・・ う〜〜ん ・・・と やおやさん! 」
「 ぴんぽ〜〜ん♪ それじゃ八百屋さんへ Go! ついでに人参と椎茸を買うぞ。 」
「 にんじん〜〜 しいたけ♪ 」
「 じんじん ・・・ し〜たけ〜〜 」
ジョーは子供たちの手を引き 大きな八百屋めざして歩きはじめた。
「 ― え?! 兄ちゃん、アンタ ・・・ このチビさん達の・・・父さんなのかい?! 」
子供たちとは顔馴染みなのだろう、八百屋のオヤジは双子を見て満面の笑顔になり
・・・次にびっくり仰天・・・だった。
「 あのね! すぴかのおとうしゃん! 」
「 すばるのおとうしゃん だよ〜 」
子供たちはてんでに おとうしゃん を八百屋のオジサンに教えた。
「 へえ・・・・ ずいぶん若いおとっつぁんだな〜〜 え! それじゃ・・・
あの美人のおっかさんは ・・・ 兄ちゃんのおかみさんか〜〜〜 」
「 あは・・・え ええ まあ そんなトコです〜 えへへへ・・・・」
「 ・・・ はあ ・・・ そうか〜〜
兄ちゃん、アンタ・・・夜に海岸通りをよく走ってるよな〜 どっかの学生サンかと思ってたよ・・・
そうか〜〜 あの美人サンのダンナかい・・・ 」
「 あのねえ〜〜 オジシャン すぴかのおかあしゃんね〜 おかぜなの。
おせき こんこん・・・で おねつ あるの 〜 」
「 おねつ おねつ〜 おかあしゃん、おかぜなの・・・ 」
子供たちはてんでに 一生懸命八百屋のオヤジに説明をしている。
「 え・・・ そ、そうなのかい?! そりゃ〜〜てェへんだ!
それでおとっつぁんが・・・ そうか! それじゃ! これ! このニンニク! もってきな。
これと一緒にそのタマネギをよ〜〜く煮込んで熱々のスープつくってやんな。
これ 飲めば風邪なんかたちまちすっ飛んでいっちまうよ! な! 」
「 あ ・・・ ど どうも ・・・ 」
ジョーは腕いっぱいにニンニクを押し付けられ どぎまぎしている。
「 さ・・・ それじゃ 早く帰ってやんなよ! 」
「 わ〜〜 おじしゃん〜〜 ありがと〜 」
「 うん うん ・・・ またさ、あんた達の器量よしなおっかさんと一緒においで。 」
「 は〜〜い♪ ばいば〜い♪ 」
「 ・・・ あ ・・・ ど ども・・・ 」
予定の人参とタマネギ、椎茸 そして 山盛りのニンニクを抱えジョーは八百屋の店先を離れた。
「 おと〜しゃん !つぎ〜 どこ? 」
「 次はね ・・・ え〜と・・・ お肉屋さんかな〜 」
「 おにくやさ〜〜ん♪ すばる、おにくやさん だって〜 」
「 お にく や さ〜ん♪ おにく おにく 〜〜♪ 」
「 そうだよ、お肉屋さんさ。 豚肉とベーコン、かな〜 あれ? 肉屋はどこだっけ・・・ 」
「 おとうしゃん〜 おにくやさん あっち。 」
「 お ありがとう すばる。 こんにちわ〜 」
「 コンニチハ おにくやさ〜ん ! すぴかよ〜 」
ジョーは子供たちに案内されて 角の肉屋に寄った。
そして この店でも チビ達は人気ものでジョーはなんだか嬉しくなってしまった。
「 ・・・ ほい、毎度。 これでな うま〜〜いカレー作ってチビさんたちのお袋さんに
食べさせてやってくれよ〜 」
「 はい、ありがとうございます! 」
「 なあに、ウチの肉をたっぷり食べれば風邪なんざたちまち逃げてゆくぜ。
チビさん達だって元気百倍だぜ〜 そうそう・・・ 塩・コショウをしっかりして な。
下味つけの手を抜いてはダメだぞ、若い親父さん。 」
「 ありがとうございます! そっか・・・ まず、塩・コショウ・・・か 」
ジョーは手帖をだして くちゃくちゃ書き付けている。
「 おとうしゃん つぎは〜 ? 」
「 つぎは〜〜〜 」
「 ちょっとまって・・・ うん 塩 ・ コショウ ・・・ 下味つけをしっかり・・・ 」
「 ふうん ・・・? やっぱ夫婦ってのは似るのかね?
アンタの嫁さんも いちいち書き付けているよ。 この辺りじゃ有名だぜ。
研究熱心でしっかりもののおっかさん・・・ってな。 」
「 へ〜〜 そうなですか。 ありがとうございました! これでばっちり。 」
「 ・・・ おなか すいた! おとうしゃん ・・・ 」
「 おなか すいた〜〜 」
子供達が 鼻を鳴らしはじめた。
「 あ・・・ そうだよなあ・・・ 昼飯、まだだった・・・! お? なつかしいモノがあるナ〜 」
ジョーは店のドアから回れ右! して戻ってきた。
「 あれ・・・忘れ物かい。 」
「 あ ・・・はい、大事な忘れもの! あの揚げたてコロッケ! 2個ください! 」
熱々のほっくほく・・・ にちょちょい・・・とウスター・ソースを掛けてもらい ( これはサービス )
ジョーは半分紙でつつんだコロッケを 子供たちに渡した。
「 はい、お昼ごはんだよ〜 ・・・ これは すばるに、ほら・・・ ちゃんと持て。 」
「 う? ・・・・ わ〜〜〜 おとうしゃん〜〜 いいにおい〜〜 」
「 ・・・ くんくんくん ・・・ わ〜〜わ〜〜〜い 」
すぴかもすばるも 両手でぎっちりコロッケを持って歓声をあげている。
「 え〜と・・・ あ あそこにベンチがあるからさ。 あそこで食べようね〜 」
「「 うん! 」」
う〜ん・・・・懐かしい匂いだなあ・・・
どうせチビたちは2〜3口しか食わないだろ
・・・あとはしっかりぼくが食べてやるさ。
ああ〜 あのソースが沁みたカンジがますますウマイんだよなあ・・・
ジョーは一人、ちょっとばかり思い出に浸っていたのであるが。
「「 ごちそ〜〜さま〜! 」」
「 ・・・・ え? あ あれれ・・・ お前たち・・・コロッケは? 」
「 たべた〜〜 ♪ おいし〜〜〜 アタシ だいすき♪ 」
「 ボクも ボクも〜〜 ♪ 」
双子たちはべとべとのお顔とお手々で に〜んまり・・・父を見上げてた。
「 ・・・ あ ・・・そ。 た たべちゃった・・・のか・・・
ああ ・・・ 口の周りが・・ ほら 」
ジョーはハンカチをだしてべたべたの二人を拭いてやった。
― ぐううう〜〜 ・・・・ ジョーの腹の虫が鳴く ・・・
ぼく。 サ、 サイボーグで よかった・・・ ホント・・・よかった・・・
「 おう、 またチビさん達と寄ってくれ・・・って美人の嫁さんに伝えといてくれ〜 」
通りの向こうで 肉屋のオヤジがぶんぶん手を振っている。
「 は ははは・・・ ど〜も・・・ 」
ことフランソワーズに関してはやたらとヤキモチヤキのジョーは 少々複雑な気分で一礼を返した。
「 おとしゃん つぎ どこ〜? 」
「 おうち かえる〜 かえる〜 」
すばるがとうとうぐずり始めた。 ちいさな子の足にはやはり遠い道のりなのだろう。
「 あ〜〜 なっきむし すばる〜〜 」
「 ごめんな、すばる。 もうちょっと・・・・頑張ってくれ。
あと・・・フルーツと・・・ あ、そうだ。 オヤツ! お前たちのオヤツを買おうな。 」
「 わ〜〜〜 オヤツ〜〜 オヤツ〜〜 アタシ おせんべいがいい! 」
「 オヤツ? ボク ちょこがいい♪ 」
子供たちはたちまち元気になり 父親の周りを飛び跳ねている。
「 ははは ・・・ じゃ・・・ お煎餅にチョコ、だな。 え〜と・・・ ? 」
「 おとうしゃん〜〜 こっち。 こっち・・・オカシやさん〜 」
「 はいはい ・・・ ふう〜〜 もう チビ達の元気には負けるなあ・・・ 」
ジョーは両手にエコ・バッグを下げ すぴかとすばるの後を追っていった。
― 結局 帰りは大荷物になってしまった。
米屋の前で 米 が切れていること思い出し。 ティッシュの特売をみつけ有頂天になり。
ついでにトイレット・ペーパーも買い。 オレンジにバナナを買ったので荷物はますますかさばり。
チビ達の オヤツ〜〜〜!! は とうとう二人のちっちゃなリュックに詰め込んでもらった。
「 大丈夫かな・・・ お前たち・・・背負ってゆけるか? 重くないかなあ・・・ 」
「 アタシ! へっちゃら〜〜 ね〜 すばる! 」
「 うん! ちょこ ちょこ ちょこ ちょこれ〜とぉ〜♪ 」
さっきまでぐずぐず言っていたすばるも ご機嫌ちゃんになった。
「 よおし・・・ それじゃ 帰ろうね。 お母さんが待ってるぞ。 」
「「 は〜〜い ♪ 」」
膨れたリュックを背負った子供たちを左右に従え ジョーは商店街を抜けていった。
「 ―え? 街灯 ? 」
「 ・・・ ん? ああ そうなんですよ、ほら ・・・ そこの、国道への角にあるヤツ。 」
「 ああ ・・・ アレですね。 ぼくいつも帰りとか目印にしてますよ。 」
「 そう、ここいらのヒトは皆そうなんだけど・・・ 」
微妙な位置に立っているので 何回衝突されたかわからないのだ ・・・と店の主人が苦笑している。
商店街の出口付近の酒屋で 調理用のワインと醤油、そしてウーロン茶を買った・・・!
「 毎度・・・ ああ 岬の家のチビちゃんたちだね。
お兄さんがいたのかい? ・・・え!? おとうさん・・・?!? はあ・・・ 」
これまた双子とはお馴染みらしい店の主人は びっくり仰天していた。
「 ・・・ 若いのに頑張っているね〜〜 お父さん! ほい・・・ あ ちょいと重いかな、持てますか。 」
「 ・・・ え〜・・・ 大丈夫ですよ。 」
ジョーはペット・ボトル類を彼自身が背負ってきたリュックに詰め込んだ。
「 ふ〜ん ・・・若いってのはいいですナ。 あ〜 あの街灯にももっと頑張ってもらわにゃ・・・ 」
主人は角にある街灯を見上げている。
「 あの・・・ 博士が あ、 いや その〜・・・ 女房のオヤジさんが・・・ 修理とか得意なんですけど。 」
「 へ? 嫁さんのおとっつぁん? ・・・ああ! あの白髭のご老人かい? 」
「 そ〜よ〜 すぴかのおじいちゃま〜〜 」
「 おじ〜ちゃま♪ おじ〜ちゃま〜 」
「 ええ そうなんです、もし・・・ご迷惑じゃなかったら。 頼んでみますが。 」
「 え! いいんですかい? ・・・ そりゃ・・助かる! なにせ町内会も予算がねェ・・・ 」
「 修理とか・・・ 機械いじりが趣味なんですよ。 頼んでおきます! 」
「 や〜〜 ヨロシク頼みます! あ・・・ 奥さん〜〜お大事に! 」
「 ありがとうございます! さ ・・・ それじゃお前たち〜〜おうちへ帰るぞ。 」
「 わ〜い わ〜い おうち おうち〜〜♪ 」
「 オウチ〜〜♪ 」
子供たちはジュースと麦茶の一番小さなペット・ボトルを買ってもらった。
あは・・・ これで買い物はなんとか・・・なったぞ!
あとは。 ウチに帰って〜〜 カレー作戦だ!
ジョーは両手のエコ・バッグを持ち直し。 ぐ・・・っと坂道の上をながめた。
「 さあ〜 おうちに帰って オヤツにしような。 」
「 ・・・ ウン ・・・ 」
「 ・・・・ ・・・・ 」
坂道の下まできて 子供たちの足が止まってしまった。
「 ほら。 歩いて。 おうちに帰ったらおせんべい と チョコだぞ〜 」
「 ・・・ あるけな〜い ・・・ アタシ〜〜 」
「 うっく ・・・ うう ・・・あ〜ん あ〜ん・・・ 」
「 オヤツだよ、お母さんも待ってるよ〜 」
「 ・・・ ・・・・ うっく ・・・・ 」
「 え〜ん え〜ん ・・・ 」
「 あのなあ・・・ すぴか〜 すばる・・・ ほら 泣き止んでくれ〜 歩いてくれよ〜 頼む! 」
なだめてもすかしても。 ちっちゃなあんよはぴた・・・っと止まったままだ。
う〜〜〜〜 どうすりゃいいんだ?
こりゃ なに言っても無駄か・・・・
ジョーはしばらく ぐしゅぐしゅ拗ねている子供たちを眺めていたが ―
「 ・・・ え〜〜い! それ 行くぞ!! 」
でっかいエコ・バッグを左手にまとめ 右手でひょい、とすぴかを抱きあげた。
「 ・・・ こっち・・・ ここに座って。あんよはこっち、 いいか しっかりお父さんの頭を掴んでろよ? 」
「 ・・・ うん!! うわ〜〜〜い♪ たか〜〜い〜〜〜 きゃあ〜〜♪ 」
「 すばる? そのままじっとしろよ。 ・・・よっせ! 」
「 ・・・う? ・・・うわ〜い♪ 楽チンだあ〜〜♪ 」
「 んん ・・・ よし! それじゃ・・・出発進行〜〜 !!! 」
ジョーは。 左手に満杯のエコ・バッグを二つ。 背中にぱんぱんのリュック。
そして 右腕で息子を抱え込み。 さらに 娘を肩車して。
― ゆうゆうと 急坂を登っていった。
「 ・・・ ひえ〜〜〜 ・・・・ うん、若いってのは・・・いいねェ・・・
あの分だと。 あと2〜3人はチビっこが増える・・・かもなァ ・・・ 」
酒屋のオヤジは 感心して父子の後ろ姿を見送っていた。
「 ・・・ ジョー? ジョーォ ・・・? 」
フランソワーズはそっとリビングのドアを開けた。
もう深夜に近く、電気は落ちて ・・・ 隅っこのちいさなスタンドだけが灯っている。
そのぼんやりした灯りが照らすソファの端に ― いつも彼女がよなべ仕事をする場所で
ジョーが ・・・ 沈没していた。
膝の上に 後生大事に小さな襦袢をかかえこみ手にした針は まだ糸を引いている。
「 ・・・ あらら・・・ 今度はジョーが居眠りなの? ふふふ・・・ 」
彼女はそうっと ジョーの手から <縫い物> を取り上げた。
「 ・・・ まあ・・・上手ねえ・・・ ほとんど縫いあがっているじゃない? すごい ・・! 」
娘の小さな襦袢には 多少よろよろしているけれどきっちりと縫い目が走っている。
「 ありがと♪ ふふふ・・・わたしの娘は最高〜〜なお父さんを持っているのね。
それじゃ・・・もうちょっとだから・・・ 」
フランソワーズはそうっとジョーの手から襦袢を抜き取ると 彼の隣にぽすん・・・と座った。
ガウンを着たフランソワーズにもやんわりと暖かさが伝わってくる。
「 ・・・ 慣れない家事や子供たちのお守りで疲れきっちゃったのね・・・
ごめんなさい、ジョー。 ・・・ ありがとう ・・・ 」
ぐっすり寝込んでいる彼の頬に キスをひとつ。
そして彼女は縫い物を取り上げた。
「 さ、 あとはわたしが仕上げるわね。 ねえ、お父さん? すぴかもすばるも・・・
ご機嫌で ぐっすり寝ていたわ。 わたしも もう大丈夫・・・
ニンニクごろごろ・・・のカレー、美味しかったわ。 ぽくぽくジャガイモみたいだったし。
子供たちも びっくりするほど食べてくれたわね・・・ 」
・・・ きゅ。 糸を引いて 生地をしごいて。 襦袢はもうすぐ出来上がる。
「 すばるのスーツもほとんど出来上がったわ。 うふふ・・・ い ( し )ち ご さん が楽しみ♪ 」
ぴったりと夫の脇に身を寄せれば 夜の寒さなんか全く気にならない。
「 風邪なんてこれですっかり治ってしまうわ・・・ ねえ ジョー? 」
・・・ くすくす・・・ 小さく笑いつつフランソワーズは熱心に針を進めていった。
「 ・・・ あれえ??? ぼく ・・・ここまで縫ったっけか・・・ ? 」
「 ジョー? どうしたの。 」
翌朝 ジョーはリビングで首をひねっている。
昨夜 たしか ・・・ ここで縫い物をしていた、そして転寝してしまったらしい。
目覚めたのは ソファの上・・・ でもちゃんと毛布が掛けてあった・・・。
そして。 夜なべしていた娘の襦袢はきれいに仕上がっていた。
「 あ ・・・ ごめん、昨夜 ・・・ 毛布かけてくれたんだろ? 」
「 え ええ・・・ お水を飲みに降りてきたら・・・ ジョー、ソファで寝てたから。
わたしの力じゃ あなたをベッドまで運べないもの。 」
「 うん ・・・ でも ほら・・・ なんか・・・仕上がってる? 」
「 まあ! すごいわ〜〜 ジョーったら襦袢を仕上げてくださったのね!
すご〜〜い・・・! 尊敬しちゃう♪ 」
「 え ・・・えへへへ・・・ そ そうかな〜 ・・・ 」
ジョーは半信半疑ながらも細君から褒め上げられ かな〜り舞い上がっている。
「 そうよ、さすがお父さんネ。 さあ〜〜 皆で朝御飯にしましょう! 」
「 あ・・・ きみ、風邪は? もう大丈夫かい。 」
「 ええ 一晩ぐっすり眠って・・・すっかり復活よ♪ ジョー? チビ達を起こしてきてくださる?
あ・・・ お洋服は枕元にありますからね。 」
「 オッケ〜〜♪ 」
ジョーは愛妻に軽くキスし ― ハナウタを歌いつつ子供部屋に飛んでいった。
ふふふふ ・・・・ なんて素敵なわたしの こ い び と♪
「 ほらほら ・・・ じっとしておいで。 」
「 博士、 すみません・・・ ほら すぴか? 前を向いて? 」
「 ・・・・ ・・・・ 」
「 すばる〜 こっち おいで。 お父さんの隣に来なさい。 」
「 ・・・・ ・・・・ 」
「 おや〜 お前たち・・・ なんて顔しているのかな? ほら 笑って〜〜 」
「 ごめんなさい、博士。 ほら〜〜 あなたたち、 いいお顔して? 」
七五三のお祝いの日 ・・・ 島村さんの一家はおめかしをして門の前に並んだ。
博士が 超高性能カメラを設置してくれたのだが ―
「 ・・・ アタシ〜〜 おとうしゃんといっしょのが いい! 」
「 ボク〜〜〜 ひらひら〜〜って おきもの きたい。 おきもの〜〜〜!」
すぴかは鴇色の振袖を着て ― 膨れっ面。
父とお揃いのスーツに赤い蝶ネクタイのすばるは ― 半ベソ。
「「 はい、 チーズ !!! 」」
大余所行きのスーツ と 江戸褄の両親だけが晴れやかな笑顔の記念写真が出来上がった。
こうして ― 島村さんちの双子は めでたく七五三のお祝いをした。
******** おまけ ずっとずっと 後のこと ********
「 それでさ、 すぴか。 納戸に見当たらないんだ〜 」
すばるは ぱんぱん・・・とトレーナーからホコリを払っている。
「 ぱぱ〜〜 」
「 あ だめだめ・・・ パパは今 ホコリだらけだからね、ちょっと待って。 」
駆け寄ってきた愛娘を すばるは押し留めた。
「 ぱぱぁ〜〜 」
「 あ ほらほら こっち、おいで、ま〜ちゃん。 パパはお手々洗ってくるってさ。 」
すぴかはすばるの代わりに 幼い姪っ子を抱き上げた。
「 おばしゃま〜〜 しゅぴかおばしゃま〜〜 」
「 な〜に。 あ 〜 ・・・ あれかあ。 う〜ん・・・あれは多分納戸じゃなくて。 屋根裏かもね。 」
「 あ! そうかあ〜。 オレ、いっくら捜しても見つからなくてさ・・・お袋たちが 」
うん・・・と すばるはわざわざ言葉を切って すぴかに頷いて見せた。
すぴかも すぐにピンと来た。
「 いや・・・ このウチにあると思うな。 ちょっと屋根裏、見てくるね。 」
「 あ 悪いね〜 」
「 いいって いいって。 ま〜ちゃんのためじゃん♪ 伯母チャンはがんばっちゃう♪
ちょっとママとまっていてね〜 」
「 お義姉さん・・・すみません。 普通は私の実家とかが準備するのでしょう?
その・・・七五三の晴れ着とか・・・ 私 ・・・ 」
「 な〜に言ってるの〜 歌帆ちゃんの実家 ( うち ) は ココ でしょ。 」
「 ・・・ お義姉さん ・・・ 」
「 さ。 ちょっくら宝探ししてくるか。 大丈夫 絶対にあるよ、アタシらが三歳の時の晴れ着がさ。
・・・ ふんふんふん ・・・ あの屋根裏か・・・ 懐かしいなあ〜♪ 」
すぴかはハナウタを歌いつつ 階段を登っていった。
「 あったよ〜〜 ほ〜ら・・・・ 」
しばらくして ― 七五三の主役はオネムになってしまった頃 すぴかがどたどたと降りてきた。
「 お、 ありがと、すぴか〜〜 」
「 まあまあ ・・・ ありがとうございます、 お義姉さん ・・・ まあ ・・・ きれい・・・! 」
きっちり包んだ畳紙 ( たとうし ) を こそ・・・っと開けば。
鴇色の小さな晴れ着が 華やかな姿を現した。
「 お〜〜 これこれ・・・ これだよ〜 まあ よくちゃんと残ってたな。 」
「 お母さんのことだもの、しっかり仕舞ってあったよ。 」
「 ・・・ 素敵・・・! これ・・・お義母さまの手縫いなんですか・・・! 」
「 そうなのよ〜 和裁なんかやったこともなかったのにね、お母さん、夜なべで縫ったって。 」
「 まああ ・・・・お義母さまに見て頂きたかったわ・・・あのコの晴れ着姿・・・ 」
「 歌帆ちゃん。 お母さんはさ・・・ちゃんと見てるよ。 見ててくれるわさ。
歌帆ちゃんのご両親や ウチのお父さんと一緒に ね。 」
「 お義姉さま ・・・ 」
「 すぴか。 そうだよな ・・・ うん。 」
すばるも 懐かしい晴れ着を前にしんみりしてしまった。
「 えっへっへ・・・ それにね〜〜 この晴れ着と一緒に イイモノ みつけちゃったんだ〜 」
すぴかは 得意顔でなにやら古ぼけた台紙らしきものをとりだした。
「 ほ〜ら・・・ これ! な ・ つ ・ か ・ し の写真♪ すばるく〜〜ん♪ 」
「 うん・・・? ・・・・・ あっ !!!! 」
「 ??? 写真? あら〜〜 お義姉さまの? まあ〜〜見せてくださいな。 」
「 い いいよ! 古写真なんか見ても面白くないよ! な なっ ! 」
なにやらすばるが一人で焦りまくっている。
「 ? なにを騒いでいるの、あなた。 ね お義姉さん みせてくださいな。 」
「 おっけ〜〜 ほ〜〜ら・・・・ 」
「 ・・・ あちゃ・・・・ 」
ぱさり ・・・と台紙が開かれ ― 晴れ着の家族写真が顔をだした。
「 ・・・まあ・・・・ わあ〜〜〜 可愛い! お義姉さま〜〜すごく可愛い!
ピンクのリボンして・・・なんて可愛いの! あら ・・・ あなたもカッコイイわね。
これ・・・お義父さまとお揃いのスーツ? 」
「 ・・・ う ・・・ うん ・・・まあ な・・・ 」
「 可愛いわあ〜〜 お義姉さま・・・本当にお人形さんみたい・・・ 」
歌帆は セピアの髪をリボンで結び鴇色の晴れ着に満面の笑顔 ・・・ のチビっこをうっとり眺めている。
「 あ〜〜〜はっはっは・・・・ あっはっは・・・・ !! 」
すぴかの大爆笑がリビングに響き渡る。
「 ・・・?? お お義姉さん・・?? 」
「 あは ははは・・・ 歌帆ちゃん ・・・ そのコ ・・・それ 貴女の旦那さんだよ〜お♪ 」
「 ・・・え ッ ・・・・・ 」
「 あはは・・・あのね、アタシら・・・チビの頃は髪の色が今と逆だったのよ〜
だ か ら♪ このお着物美人はね〜〜 」
「 ・・・ ほ んと・・・よく似合ってる・・・・ 」
歌帆は絶句しつつ・・・しげしげと < いいお顔 >のコを見つめている。
「 アタシら ど〜してもアッチがいい〜!って 駄々捏ねて。 結局 とりかえっこ したワケ。
コレがその 記念なのサ。 」
「 母さ〜〜ん・・・! なんで こんなモン・・・置いてゆくんだよ〜〜〜お・・・! 」
こうして ― 島村さんち に再び七五三が巡ってきたのだった・・・
********************** Fin.
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Last
updated : 12,07,2010.
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********** ひと言 *********
普通 三歳は女のコのお祝い・・・だそうですが @ 七五三
なにせ双子ですから すばる君も一緒くたです。
すばる君と歌帆ちゃんのお話 は <五周年記念> へ どうぞ♪
あ ・・・フランちゃんの江戸褄は コズミ先生から拝借しました。