『 アタシ と ボク ― (1) ― 』
********* はじめに ********
この物語は 【 島村さんち 】@Eve Green 様宅 の設定を
拝借しております。
双子の姉弟がやっと 赤ちゃん から卒業したころのこと・・・
パタパタパタパタ ・・・・ パタパタパタ ・・・!
がっしゃ〜ん! どっすん・・・! バチャッ ごと・・・ん ごろごろ〜 ― どん!
「 ・・・ あ ああ〜〜ん あ〜ん おか〜さ〜〜ん ・・・! 」
「 なきむし〜〜 なきむし すばる〜〜 」
「 うっく ・・・ だって だってェ〜〜 うっく・・・うぇ〜〜〜〜ん 」
「 あ〜 なきむし なき ・・・ う・・・うっく ・・・ぅえ えええ〜〜ん 」
「 あら あら 二人ともどうしたの? ああ ・・・ !! 」
フランソワーズはリビングに駆け込んで 一瞬棒立ちになり周囲を見回し・・・。
次の瞬間ふか〜〜〜〜い溜息を吐いた。
「 ・・・ また ・・・。 はいはい ・・・・わかりましたよ・・・ はい、お母さんよ〜 」
ぐいっと腕捲くりをすると双子の母は 大騒ぎの巣 の中に踏み込んでいった。
いつだってきちんと整頓されソファの後ろまで掃除が行き届き、窓はぴかぴか、陽射したっぷりのリビング。
カーテンは季節に応じて小まめに変えられ お揃いのクッションがソファに並ぶ。
たまにジョーが雑誌でも放置しても あっと言う間に片付けられ花瓶には庭で育てた花が溢れる。
毎朝洗濯物は朝陽に翻り、博士もジョーもぴし!っとアイロンの効いたハンカチを持たされた。
― ・・・ あのう・・・パンツにはさあ・・・アイロン、かけなくていいんだけど・・・
ジョーは遠慮がちに < おねがい > したけれど、わらって取り合ってもらえなかった・・・
キッチンに行けばシンクは毎晩顔が写るほど磨きあげられ、布巾はまっしろ、お皿も当然ぴかぴか。
週末にはディナー・セットを使って ちょっと豪華な晩餐を楽しむ。
ワインの選び方を博士に教わったり 凝ったデザート作りに没頭したり ―
野菜は無論庭で有機栽培し、取れ取れを食卓に並べた。
ジョーは妻の手料理に感激し涙まで浮かべる日々だ。
「 ああ ・・・ お家のことって本当に楽しいわ。 し あ わ せ ♪ 」
フランソワーズは この岬の突端の家が大好きだった。
家事 ― 料理だけじゃなく、洗濯・掃除・庭いじり ・・・ なにもかも・・・楽しくて仕方なかった。
少し古びた洋館は 気持ちよく手入れが行き届き、ぴかぴかお日様の下で輝いていた。
そう ・・・・ 双子の子供たちが生まれてくるまで ・・・は。
十二月の雪の朝 ― 天使が二人、ジョーとフランソワーズの腕の中に舞い降りてきた。
若い父は 嬉しさと感激のあまりに頬を染め我が子たちを抱き締めた。
島村 すぴか 島村 すばる
星の名をつけた子供たち・・・ ジョーは愛しくて愛しくていつだって自然に涙ぐんでしまう。
そんな夫に 妻は世界一優しい眼差しを送る。
「 ステキ♪ わたし達 もっともっと幸せになれるのね。 」
「 うん! この・・・天使たちがもっともっと沢山の幸せを持ってきてくれるよ・・・ 」
「 ・・・ ジョー ・・・ ありがとう! わたし、世界で一番幸せな女だわ。 」
「 お礼を言うのはぼくだよ、フランソワーズ。
こんなに愛しい天使たちをありがとう・・・ぼくこそ最高に幸せなヤツさ。 」
「 うふふふ・・・ お礼を言うのなら。 わたし達のチビちゃん達にいわなくちゃね♪ 」
「 ん ・・・・そうだね。 ああ ・・・ ああ なんて ・・・! 」
ジョーは言葉が詰まってしまい、まだまだふにゃふにゃと頼りない双子を抱いたまま震えている。
「 ・・・ ジョー ・・・・ 」
フランソワーズはジョーの身体にそっと両腕を回した。
「 フラン ・・・ ああ フラン ・・・・! 」
島村さんちの若いご主人と奥さんは 世界で一番幸福な夫婦だった ・・・
そう ・・・・ たしかに子供たちは幸せを山盛り持ってきてくれた
で も 。
それだけじゃなく。
ベビー・ギャング達の <お土産> は微笑みのモト だけじゃあなかった・・・!
ジョーとフランソワーズは すぐにそのことをイヤというほど味わうことになった。
「 ジョー! 帰りに駅前のドラッグ・ストアに寄って! 紙オムツが安いの! 」
― 手縫いの布オムツは。 一日目でギブ・アップした。
「 あら! ベビー・フードの瓶詰めも安いわ! これとこれと ・・・ あれとこれと・・・ お願いね! 」
― 手作りの離乳食は 三日で放棄した。
「 ・・・ ごめんなさい、ジョー。 すぴかがネンネしないのよ〜〜 ああ すばるもおきてしまったわ!
晩御飯 ・・・ チン してくださる? 」
― ディナー・セットはホコリをかぶり、銀の食器類は磨くヒマなどとてもなく、錆が浮いた。
リビングの中、 いや 家中はひっちゃか・めっちゃかに散らかりカーテンもソファのクッションも
季節とは無頓着にいつも同じものが転がっている。
最近では端っこにちっちゃな歯型がついているし、上に乗っかられたり蹴飛ばされたり・・・
形もなんだかイビツに変形してしまっている。 でも 誰も気にとめてもいない。
島村さんちの美人の奥さんも。 自慢の亜麻色の髪をきゅっと一つに括り、朝から晩までエプロン姿だった。
それでも <天使たち> は やっと・・・ ネンネと泣き声とミルクのみ、の乳児期を卒業しつつあり、
母もほんの少し手が抜けるかな・・・と思い 楽しみにしていた。
5分でもいい・・・! ひとりきりの時間がほしい・・・
子供たちは 姉弟で遊ぶ時間もだんだん増えてきていた。
「 ・・・ ほんとに ・・・ ちょっとはオシャレして。 ジョーとゆっくりしたいのに・・・
もうすぐ二人っきりで過ごせるようになるかしら・・・ 」
だけど。 ちょっと眼を離せば。
「 や! や〜〜!! だめっ! これ すぴかの! 」
「 ・・・ あ ・・・ あ〜〜〜 ボクのくましゃん〜〜 すばるの〜〜 」
「 や! くましゃん アタシの〜〜!! アタシのくましゃんだもん! 」
「 あ〜〜 あ〜〜〜 すぴか だめ だめ〜〜! 」
「 や! や〜〜〜 ッ!!! アタシの! えいッ 」
「 うわ? ( ごちん ) ・・・う ・・・ う・・・わぁ〜〜〜 」
「 いったぁ〜〜い〜〜〜!!! う うううわ〜〜〜ん ・・・ 」
ついさっきまで仲良く遊んでいたのに 5分後には泣き声があがるのだ。
「 はいはい・・・ どうしたの? ほうら・・そんなにないたら可笑しいでしょう?
ほら お顔、ふきましょうね、すばる。 いらっしゃい・・・ あらあら・・・ 」
「 うっく ・・・ おか〜しゃん ・・・ くましゃん・・・ボクのくましゃん〜〜
すぴかがとったぁ〜〜〜 」
「 はいはい・・・くまちゃんは二人で一緒に遊びましょうね? ほ〜ら・・・・
くまちゃんが笑ってますよ〜
すばるく〜ん、お顔、きれいきれいしましょうって。 きれいにして遊びましょって 」
「 おか〜しゃん アタシも アタシも〜〜〜 きれい きれいして〜
おかお、きれいして〜〜 くましゃんもすぴかもきれいにして〜 」
「 はい、すぴかもお顔、くるん・・・しましょうね〜 あらら・・・髪がぐちゃぐちゃねえ。
おリボン 結びましょうか。可愛いわね〜 ほら、ピンクのおりぼん♪ 」
「 や! アタシ、 おりぼん いらない〜〜 」
「 ・・・あら そうなの? でも似会うわよ〜 ひらひらピンクのおりぼん、可愛いな。 」
「 おか〜しゃん ・・ ボク、 ほちい〜〜 おりぼん、ほちい〜〜 」
「 え ・・・ すばる、すばるは男の子でしょう? おりぼんは女の子がするのよ。 」
「 ええ〜〜 ボクぅ〜〜 ボクぅ〜〜 おりぼん おりぼん〜〜 」
「 すばる。 あげる ・・! はい! すばる、でんしゃ かして。 かして〜 」
「 ウン、いいよ〜 わあ〜 おりぼん おりぼん〜〜〜 」
「 きゅい〜〜ん 〜〜 ご〜〜〜♪ しゅっぱつ しんこ〜〜♪ 」
「 ・・・・ あなた達 ・・・・ ウチは姉弟じゃなくて 兄妹 なのねえ・・・ 」
母の溜息をよそに 姉は電車のオモチャにのっかりリビング中をが〜が〜滑りまわり歓声をあげている。
弟はピンクのリボンを首にまいたり髪にむすぼうと熱中している。
引っ張りっこして騒いでいた < くましゃん > はとっくにソファの隅に放り出されていた。
「 おか〜しゃん おりぼん・・・ きゅ・・・っとして。 」
「 え? あら髪に結んでほしいの? ・・・ これでいい? 」
「 うん! わ〜〜 ひらひら〜〜 ひらひら〜〜 」
「 ・・・ あら。 似会うわねえ・・・ すばる、あなた女の子みたい・・・
まあ いいわ。 二人ともちょっとは大人しくしていてちょうだい。
ざっとここをお掃除してしまうから。 ・・・ あ〜あ・・・ ジュース、こぼして・・・ シミになっちゃうのに。 」
以前の彼女なら 大急ぎで絨毯を拭いシミ抜きをし ああもうクリーニングにださなくちゃ・・・と騒ぐところなのだが。
今はぬれた雑巾でちょちょい・・・とふき取りだけ、になってしまった。
・・・ しょうがないわ。 いちいちやっていたらキリがないもの・・・
ふうう〜〜〜 ・・・ もう何十回目かの溜息が漏れてしまった。
フランソワーズはタオルと雑巾をもってくると絨毯とソファと・・・ついでに双子達のお手々もきれいに拭った。
「 ほうら・・・ キレイになったでしょ。 あ・・・そろそろ晩御飯の用意しなくちゃ。
ジョーってば 今日は遅くならない・・・って言ってたけど。 何時頃なのかしら〜
う〜〜ん・・・ もういいわ、冷凍庫にハンバーグがあるからチンすれば・・・ 」
ハンバーグは絶対に手作り。 ひき肉を吟味し、タマネギも念入りにミジン切りにし。
ちょっとニンジンもいれて丹念に手で捏ねて。 ソースも二日かけて野菜類を煮込んで作った。
島村さんち のハンバーグは絶品だった ― そう、天使たち がやってくるまでは。
今では冷凍庫には山盛りの冷凍食品がつまっている。
もうこの山盛り がないと晩御飯は成立しなくなってしまった。
「 え・・・っと? ・・・ う〜ん・・・ このメーカーのハンバーグ、イマイチな味なのね。
そうだわ! デミグラス・ソースの缶詰があったからあれを暖めてかけちゃえばわからないわよね。 」
島村氏の夕食は あっと言う間に出来上がることになった。
「 ・・・ それじゃ ・・・ チビ達のところでちょっとだけお昼寝しようかしら。
あら? なんだか大人しいわねえ・・・ まあまあ・・・二人ともオネムだったのね。 」
床に大の字で転がっていたすぴかとクマの縫い包みに抱きついていたすばるを抱き上げソファに寝かせた。
「 ふふふ・・・ いっぱい遊んだわね。 いいこ いいこ ・・・ ふぁ〜〜〜 ・・・・ 」
ぽんぽん・・・と子供達の背を軽く叩いていた手は次第に動きが鈍くなり ― かっくん ・・・!
亜麻色の頭が前のめりに倒れるまで数秒とかからなかった。
ス〜 ス〜 ・・・・ むにゃむにゃ くましゃん ・・・
母と子供たちの穏やかな寝息が リビングに満ちていた。
「 ・・・ ただいま ・・・・ フラン・・?? 」
そ〜・・・・っとドアが開いた。
「 あ ・・・ 寝てるのかぁ・・・ フラン、疲れているんだなあ・・・・
あは、 すぴか〜〜かっわいい♪ お母さんそっくりだねえ・・・
やあ すばる? クマちゃんの耳は 美味しいかい? 」
ジョーはにこにこ・・・そ〜〜っとソファに歩み寄ると妻を子供たちの寝顔を見つめている。
「 ・・・う・・・ん ・・・? あ あら! ジョー〜〜〜! 」
気配に気がついてはっと目が覚めれば ― セピアの瞳が穏やかに笑いかけていた。
「 やあ・・・おはよう。 いや ただいま、が先かな。 」
「 ジョー・・・! ご ごめんなさい! 今・・・ 今すぐに! 御飯にするわね・・・
ああ ・・・ ああ ほんのちょっとだけって思って。 チビたちとお昼寝したつもりだったの・・・ 」
「 ああ いいよ、いいよ。 きみ、コイツらの相手でくたくたなんだろう?
ぼくが晩飯、つくってくるよ。 ちゃちゃ・・・っとね、 ははは またレンジでちん!だけどさ。 」
ジョーは相変わらず機嫌がいい。 満面の笑顔で子供たちの寝顔を見つめている。
彼にとって どんなに散らかっていようとも、チン・・・! の晩御飯であろうとも・・・
愛妻と子供たちのいる岬の家は 最高の場所なのだ。
「 そうだわ ・・・ ジョー! あの・・・ね、お願いがあるの。 」
「 うん なんだい。 」
「 あの・・・あの、ね。 わたし、今急いで晩御飯の用意してきます。
だからその間 ・・・ 子供達のこと お願いしてもいい? 」
「 え いいのかい。 」
「 もちろんよ。 ジョー・・・ううん、 おとうさん♪ ほうら・・・チビっ子達が目を覚ましちゃった。 」
「 ・・・ ふわ〜〜ん・・・・ うにゅぅ〜〜・・・ あ! おとうしゃん〜〜!! おかえりなしゃ〜い!」
「 ・・・ くちゅ ・・・ むにゅう・・? あ〜〜〜 おとうしゃ〜〜ん 」
すぴかもすばるも もぞもぞっと動きだした。 くるん・・・と色違いの瞳が動きだし・・・
すぐにジョーにむかってちっちゃな紅葉みたいな手をひらひら伸ばしてきた。
「 うわあい♪ すぴか〜 すばる〜〜 お父さんですよ〜〜 あはは・・・おいで おいで 」
ジョーはもう笑顔全開で 子供達を抱き取った。
「 うふふ・・・二人とも ほら ご機嫌ちゃんだわ〜 よかったわねえ、すぴか、すばる。
じゃ・・・お願いします。 大急ぎで御飯、作るから・・・ 」
「 あ〜 いいよ ゆっくりで。 ぼく チビ達と遊んでいるから。
あ・・・こらこら・・・ ネクタイを引っ張っちゃダメだぞ〜 よし、すぴか〜ほうら・・・
飛行機だぞ〜 ぶう〜〜〜ん・・・! 」
「 きゃ〜〜〜♪ 」
「 ボク・・・ボクも・・・ 」
「 あは、すばるは飛行機ぶ〜ん・・・はイヤなんだろ? それじゃ お父さんの脚ですべり台〜 」
「 うわ〜〜い♪ 」
ジョーはもう子供達とソファの上でだんごになって遊んでいる。
「 ( うわ・・・ジョー〜〜〜スーツが・・・ ) ま・・・ いいわ。 」
この際 見ないふり!とフランソワーズはキッチンに急いだ。
「 そうよ。 今から手作りハンバーグは無理だけど。 お味噌汁! お味噌汁をつくりましょう。
ジョー、大好きだし。 えっ・・・・と・・・ お豆腐とネギ、でしょ。 そうそうシメジもいれて・・・
これならすぐにできるし。 ・・・ ネギって。 目に沁みて・・・・ うわ・・・ 」
フランソワーズは涙をぽろぽろこぼしつつも奮戦した。
「 えっと・・・ チビ達は ・・・ お味噌汁も大丈夫、ハンバーグもすこし潰してやれば・・・ 」
ジョーが帰ってきてくれているだけで、食事の用意もなんだか楽しい。
― ふんふんふん・・・ ♪
いつのまにか フランソワーズはハナウタを歌いつつ・・・キッチンをぱたぱた駆け回っていた。
「 御馳走さま。 ・・・ ああ〜〜 美味かったぁ〜〜 」
「 ふふふ・・・ お気に召しまして? 旦那様♪ 」
「 うん♪ ハンバークもよかったけど。 味噌汁がさ〜〜 うん、最高に美味かったぁ・・・!
フラン〜〜 きみ、料理の腕を上げたね♪ 」
「 あら・・・うふふふ・・・ でもね、ネギを切るのに苦戦しちゃったのよ。 」
「 あは・・・そういえばネギがつながってたね〜 でも美味かった♪ あ〜マンゾク・・・ 」
ジョーはからっぽになった皿や小鉢の前で 満足の溜息を吐いている。
「 よかったわ〜 チビ達の御飯も付き合ってくれてありがとう〜〜
お蔭さまでわたしも久し振りにゆっくり晩御飯、食べられたわ。 」
「 ・・・ そっか。 いっつも一人で・・・やっているだもんね。 大変だよなあ・・・
ごめん、ぼくがもっと早くかえってこれればいいんだけど・・・ 」
「 あ あら、いいのよ。 それにね、博士がいらっしゃる時は応援してくださるし。
子供たちも 大分一人で食べられるようになってきたのよ。 」
「 そっか〜〜 はやく皆でゆっくり御飯 ・・・ってなりたいね。 」
「 そうね・・・ さ ・・・ 片付けてしまうわね。 」
「 あ 手伝うよ。 」
「 それじゃ・・・ジョー、あのコ達、ちゃんとネンネしているか見てきてくださる? 」
「 おっけ〜♪ うわあ〜い・・・もう一回天使の寝顔が見られる〜〜 ♪ 」
ジョーは大喜びで 子供部屋にとんでいってしまった。
あらあら ・・・ 相変わらずほっんとうに子供好きねえ・・・
・・・ なんていうのだっけ?
そうそう たしか ・・・ <子煩悩> ・・・だっけ?
フランソワーズはくすくす笑いつつ食器を洗い始めた。
「 ・・・ あら? 郵便がこんなに? 」
気がつけば テーブルの隅に沢山の郵便物が積んである。
ジョーが 帰宅したときにポストから取ってきたのだろう。 フランソワーズはぱらぱらと封書を見ている。
「 あらあ・・・ 随分DMが多いわねえ。 これも ・・・これも。 ああこっちも。 」
郵便物のほとんどは 写真入りのDMだった。
「 ・・・?? あら これ キモノ・・・? これもね〜・・・ まあ お正月の晴れ着 かしら・・・
まあ 綺麗ねえ・・・ でも子供のものばっかりね? ふうん ・・・ 可愛いなあ・・・ 」
洗いものの手を止めて フランソワーズは色とりどりに晴れ着の写真を広げていた。
「 いやあ〜 寝顔って可愛いねえ〜 もう食べちゃいたい・・・! 」
ジョーがまたちょびっと涙ぐんで戻ってきた。
「 あ ジョー。 どう、ちゃんとネンネしてた? 二人とも・・・ 」
「 うん。 勿論すぴかは蒲団から盛大にはみ出してたよ。 すばるはさ、すぴかの蒲団にもぐってた。
もうさあ・・・可愛いくて可愛いくて・・・ 子供って暖かいねえ・・・ 」
「 うふふふ・・・ジョーって こぼこぼ・・・ねえ。 」
「 ??? こぼこぼ・・? ・・・・・ ああ こぼんのう だろ。 」
「 あ ・・・ そうだっけ? えへへ・・・ともかくすぴかもすばるも素敵なお父さんを持ってるってこと♪ 」
「 うん・・・ ぼくの宝モノだよ、本当に・・・ 」
「 あ お茶 淹れるわね。 そうそう・・・手紙、とってきてくださってありがとう。
なんだかもうお正月の子供用晴れ着の宣伝がいっぱい。 」
フランソワーズはぱらぱらとDMの束を開いてみせた。
「 子供用の? ・・・ ああ、それ、七五三だよ。」
「 い ( し ) ち ご さん ?? 」
「 うん。 日本ではね、子供が三つ と 五つ と 七つ になった年の11月15日にお祝いをするのさ。
晴れ着をきて、神社に御参りにゆくんだ。 そうそう千歳飴とか買ってもらってさ。 」
「 ・・・ ふうん ・・・ ちとせあめ・・・ キャンディなのかしら・・・ 」
「 うん。 こう・・・ 長ッ細いスティック状のアメさ。 それがやっぱり長ッ細い袋に入っているんだ。 」
「 へえ・・・ 面白いキャンディねえ。 」
「 ああ〜 ウチのチビたちも三つになったんだねえ・・・ 早いなあ。 」
ジョーはにこにこしつつ DMを広げてみている。
女の子は可愛い模様の晴れ着、男の子には蝶ネクタイにスーツとかなかなかかっこいい。
「 あら、 ウチの子供たちは12月生まれだから ・・・ まだ三歳じゃないわよ。 」
「 あ いいんだよ〜 こういう行事は <かぞえ> でやるんだ。 」
「 ・・・ かぞえ?? 」
「 う〜ん ・・・まあ 同じ学年ならおっけ〜ってことさ。 」
「 がくねん ・・・? ああ 学校の、ね。 キモノ、可愛いわねえ・・・
すぴかにも買ってやりましょうか。 わ・・・! でも ・・・たか〜〜い・・・ なに、この値段・・・! 」
「 あ・・・ほんとだ・・・ これはちょっと・・・手が出ないなあ・・・
いいさ いいさ。 別にキモノじゃなくても。 お出かけ用の服でお参りに行こうよ。 」
「 ・・・ そう ・・・ねえ・・・ でもせっかくの い ( し ) ち ご さん なのに・・・
― わたし。 縫うわ。 」
「 え?? 」
「 生地を買って・・・ すぴかの晴れ着を縫います。 すばるにはスーツを縫うわ。 」
「 え・・・ だってきみ ・・・ キモノとか縫ったことあるのかい。 」
「 ない ・・・ けど。 でも・・・夏にね、博士の浴衣を直したの。 真っ直ぐに縫うだけだったから・・・
縫い方はネットで検索してみるわ。 」
「 ・・・ すごいな〜〜 フランって ・・・ 」
ジョーは感心して彼の細君をつくづくと見つめてしまった。
「 やだ、ジョーってば。 そんな・・・すごくなんかないわ。 まだやってみてないわよ。
でも ・・・ やるわ! すぴかとすばるの い( し )ち ご さん のお祝いですもの。 」
「 よ〜し・・・ それじゃ。 明日にでも反物、見てくるよ。
呉服屋・・・とかはでは高いだろうから リサイクルショップとか捜してくるね。 」
「 うわ♪ ありがとう〜〜 ジョー♪ お願いね。 」
「 うん・・・ えへへへ 」
抱きついてきた細君のしなやかな肢体を ジョーはきゅ・・・っと抱き締めた。
う〜ん ・・・ いいなあ・・・ この抱き心地・・・最高♪
ぼくの奥さんは 最高だよ・・・
あ ・・・ やべ〜 こりゃたまんないなあ〜
ゆっくり美味しい晩御飯を食べて 子供たちの可愛い寝顔も拝み・・・
ジョーは 夜のお楽しみタイム へのエネルギーを目一杯 チャージしたのだった。
フランソワーズは 早速PCで検索し 『 初めてでも縫える〜 』 本をみつけた。
「 あ これがいいわ。 これなら・・・見ながら縫えるし・・・辞書ひけばちゃんと読めそう。
あら・・・ ここで注文できるのね。 ・・・ 便利になったわねえ・・・ 」
クリックして注文した本は 翌日彼女の手元にとどいた。
そして ― 彼女の スーパーお裁縫タイム が始まった。
「 ・・・ そうか。 そうなのね。 ふんふん ・・・ まずは生地を裁断して、と・・・ 」
フランソワーズは本と首っ引きで反物をひねくり回している。
さんさんと秋の陽射しがあふれるリビングに 華やかな生地がそこここに散らばった。
子供達がおとなしくしてる僅かな時間 ― お昼寝たいむ が彼女の作業時間だ。
今までは一緒にうとうとしたりしていたが。 今日からは貴重な時間となった。
「 わかったわ! こことここを合わせて ・・・ そうね、全部直線縫いね。 」
ソファに座り込み、 待ち針を打ち熱心に針を動かす。
・・・ そうね ママンがいつもこんな風にしてたわ・・・
お兄ちゃんやわたしの服を縫ってくれたっけ・・・
今みたいにすぐに買ってはこられなかったけど。
いつ縫いあがるかな〜・・・ってものすごく楽しみだったわ・・・
ねえ ママン? わたしも ・・・ 子供たちの晴れ着を縫っているの。
ふふふ・・・ あの不器用な・ちっちゃな・ファンが ね・・・
懐かしい母の面影に語りかけたりして 自然に笑みがわきあがってきた。
反物はジョーが捜してきてくれた。
地元では見つからず、都心の店をいろいろと探し回ったらしい。
「 こんなので ・・・ いいかなあ・・・ 」
「 え どれどれ〜〜 見せて 見せて ・・・・ うわあ〜〜〜 キレイ!! 」
開いた包みの中から 鴇色の反物が顔を覗かせる。
「 ぼくとしてはさ。 こう〜〜もっと派手なのが欲しかったんだけど・・・
やっぱり新品のは高いんだ。 それで・・・これ 見つけたんだけど。 」
「 え〜〜 だってこれ、すごく可愛いわ!
ピンクの地に いろんな色のお花がいっぱい♪ このお花はなにかしら、桜草? 」
「 いや ・・・ 菊とかじゃないかな。 ほら・・・秋だから。 」
「 ああ そういう約束事があるのね。 日本のキモノは面白いわねえ。 」
「 それじゃ・・・ これで縫えるかい。 その・・・すぴかの晴れ着・・・
出来れば新品のを買ってやりたい・・・・けど やっぱ高くて・・・手がでない。
この反物もね アウトレットでみつけたのさ。 」
「 すご〜〜くキレイだわ♪ 嬉しい・・・! ウチの子供達はシアワセモノよ。
ええ 任せてといて! ・・・っていいたいけど。 本が頼りなの。 」
「 きみこそ・・・・すごいよ! あ、そうだ〜 すばるのスーツも縫うだろ?
そっちの生地も探してくるから、必要な長さを教えてくれ。 」
「 了解! あ ・・・ ねえ、この本だけど。 ・・・ 漢字にフリガナ・・・頼める? 」
「 お〜 了解。 どれどれ・・・ 」
ジョーは早速ペンを取った。
「 きゃ〜〜 しゅっぱつしんこ〜〜〜 きゃ〜〜〜♪ 」
すぴかは 今、電車のオモチャの上に足をのっけてスケボーみたいに走り回るのがお気に入りだ。
ガーガー ・・・・ リビング中を <漕ぎ> まわっている。
「 すぴか〜〜 テーブルにぶつかっちゃダメよ〜
・・・ あ〜あ・・・ 床が傷だらけ・・・ ああ ああ ・・・ 絨毯が滅茶苦茶 ・・・ 」
フランソワーズは もう 溜息をつくだけ。
これ以上、何を言っても無駄なのだ。 大人しく遊んでいるだけで よし、としなければならない。
娘の晴れ着を縫いつつ フランソワーズは諦め気分だ。
「 ・・・ まあ いいわ・・・ご機嫌なら・・・ あら? すばる・・・なあに? 」
「 おかあしゃん これ ・・・ なあに。 きれい〜〜 」
いつの間にか すばるが母の膝元によってきて晴れ着の布に手を出した。
「 あらら・・・さわっちゃだめよ。 待ち針が付いているの、お手々がイタイ イタイ・・・になるわ。 」
母はあわてて小さな手から裁縫中の布地を取り上げた。
「 ・・・・ あ 〜 ・・・ やだ〜 やだ〜 ボク、きれい きれい すき〜♪ 」
「 あらまあ ・・・ それじゃ こっち。 これならいいわ。 ほうら・・・きれいねえ・・・ 」
フランソワーズが見せた断ち端を すばるはぎっちり掴んで嬉しそうだ。
「 ・・・ きれい〜 きら きら? きれい ね おかあしゃん ♪ 」
「 あらら ・・・ そうねえ、きれいね。 すばる、よく似会うわよ〜 」
すばるは端切れを髪に乗せたり 襟に挟んだりしてご機嫌ちゃんだ。
「 えへへ・・・ きれい〜 僕 きれい〜 ね? 」
やだ・・・ 本当に 似合っちゃうのねえ・・・
セピアの髪によく映るわあ・・・ いいわねえ 可愛い・・・
は! この子は男の子なのに・・・
「 ガ〜〜〜 ガ〜〜〜 いくぞ〜〜〜 ガ〜〜〜 」
「 ふんふんふ〜ん・・・♪ キレイ きれいでしょう〜〜♪ 」
娘は リビング中をオモチャに乗って走りまわり 息子は 鏡の前でにこにこ・・・ポーズしてる。
あああ ・・・ もう〜〜〜
ウチの子供たちは 〜〜
・・・ いいわ ともかく!
大人しくしていてくれれば・・・!
相変わらず ハチの巣をつついた気分なリビングで 母は必死で ― 縫った。
最低限の家事だけをやって あとはひたすら ・・・ 縫った。 縫いまくっていた。
「 ・・・・・ んん ・・・? 」
ふっと目が覚めた。 ジョーは 何気なく隣に手を伸ばしたが ・・・
「 ・・・ あれ。 フラン・・・・? 」
ひんやりしたリネンの感触に ジョーはいっぺんで目が覚めてしまった。
「 ・・・ トイレ? いや・・・ ぜんぜん毛布が乱れてない・・・
そうだ、昨夜は・・・ ぼくの方が先にベッドに入ったんだ。 それで彼女を待ってて・・・ 」
「 あ〜〜 あったまったぁ〜〜 いい湯だったよ〜〜・・・ 」
ほかほかでジョーはハナウタまじりにリビングにもどってきた。
「 あらよかったわ〜 ふふふ・・・ 日本のお風呂っていいわよねえ。
わたし、もう日本式のお風呂ナシの生活って考えられないわ。 」
「 あは・・・ 結局 み〜んなウチのお風呂のファンになったもんなあ。 」
ジョーはがしがし髪をバスタオルで拭っている。
「 ・・・ふぁ〜・・・ ああ いい気分・・・ 」
特大の欠伸が連発してしまった。
「 ね・・・先に休んでいてくださる? ・・・ もうちょっとだけ縫ったら行くわ・・・」
「 そうかい ? あんまり根をつめるなよ。 」
「 ・・・ ええ。 あ ジョー? 毛布をだしておいたから・・・使ってね。
今晩は少し冷えそうよ・・・ 」
「 ああ ありがとう。 それじゃ・・・ おい、なるべく早く来いよ〜 な♪ 待ってる ・・・」
ふわ・・・っと髪を分け 耳の後ろにキスするのは ― 夜へのお誘い♪
「 はいはい・・・ ほらほら・・・早くお休みなさいな。 すぐに行きます♪ 」
恋人に ちゅ・・・っと軽くキスを返してもらって ― オッケー♪ のしるし
ジョーは寝室に引き上げたのだった。
「 そうだよ、それで先にベッドに入って・・・ うん? いま何時かなあ。 」
振り返った枕元の時計は まだまだ深夜を示していた。
「 ・・・ もしかして。 フラン ・・・ まだ縫い物をしているのか・・? 」
ジョーはガウンをひっかけると スリッパを鳴らして寝室を出ていった。
「 うう・・・ もう随分ひえるんだなあ。 お、そうだ。 チビ達をみておくか。 」
階下に下りる前に 子供部屋をのぞいた。
「 ・・・ すぴか〜 ・・・・ すばる。 ちゃんとネンネしてますか〜 ・・・ 」
こそ・・・っと呟き 父は抜き足・差し足でベッドに近づいた。
「 ・・・ やあ ・・・・ 」
「 ・・・ くう ・・・ くちゅ ・・・・ くう くう ・・・ 」
「 ・・・ くちゅ くちゅ ・・・ く〜〜・・・・ 」
ジョーとフランソワーズの天使たちは 今は完全に <天使> に戻っていた。
色違いの頭を寄せて眠る姿は もしかしたらホンモノの天使よりも可愛い・・・かもしれない。
「 あは・・・ よ〜くネンネしてますね〜 ぼくの天使たち・・・
いいねえ お前たち。 お母さんがお前たちの晴れ着を縫ってくれてるんだよ。 」
「 くちゅ ・・・! 」
「 ・・・ むにゅう・・・ 」
「 ほら・・・ お手々が出てるぞ・・・ こら 毛布を喰うのはやめろ・・・ ?
ジョーはすぴかの小さな手を毛布の下にいれ、すばるのお口から毛布を取り出した。
「 ふうん ・・・ なんだかすぴかはいつだって勇ましくて すばるは大人しいカンジだな。
ま ・・・ なにしろ君たちのお母さんは最強の戦士だからなあ・・・ 」
ジョーは苦笑しつつ、子供たちの毛布をぽんぽん・・・と叩き調えてやる。
「 七五三 かあ・・・ 三歳とか五歳の頃・・・はあまり覚えてないけど。
七歳の時は着飾って御参りにゆく親子が羨ましいかったなあ・・・ 」
以前は子供時代の記憶なんか思い出すのも不快だったけれど 今はなぜか懐かしさすら感じる。
すみっこから いつも人の後ろからじっと見ていた ― 自分には手の届かない世界
今。 あの時 切望していたモノは すべて・・・得ることができた・・・!
「 ・・・ いいのかな。 こんなに幸せで・・・
うん ・・・ この幸せをぼくにくれたのは さ。 君達のお母さんなんだよね。 」
ジョーはもう一度 くるん・・・と色違いの小さな頭を撫でた。
「 君達の晴れ着はさ、 お母さんが縫ってくれてるんだ。
いいなあ・・・ お父さんはかなり君達が羨ましいんだからな。 」
つるん・・・とぴかぴかのほっぺをそう・・っと撫で、ジョーは忍び足で子供部屋を出た。
「 ・・・ うわ ・・・ この時間になると さすが・・・冷えるな。
! そうだよ・・・! フランはどうしているんだ? 風呂・・・じゃないよなあ・・・ 」
しんしんと冷え込む中 ジョーは階下へ降りていった。
かったん ― リビングへのドアを開ければ。
「 ・・・ やっぱり。 おい・・・ こんなとこで居眠りしたら風邪ひくぞ・・・ 」
天井の灯りを落とした中 スタンドの小さな光がぼ〜っと浮かびあがる。
すみっこのソファで手元を照らしつつ・・・
彼の細君が色とりどりの布着れを抱えたまま・・・くうくう寝息をたてていた。
「 ・・・ もしかして。 あれからずっと・・・縫っていたのかい?
まったく ― きみってひとは・・・! 本当に・・・ 」
ジョーは そっと彼女の頬をなで額に乱れかかる髪をかきやった。
「 きみは さ。 ほっんとうに最高な・・・ぼくの こ い び と さ・・・! 」
薄紅色の唇にキスを落としたけれど、 彼女は目覚める様子もなかった。
「 さ・・・ もうとっくにお休みタイムですよ〜 お母さん ・・・ おっと・・・! 」
ソファから彼女を抱き上げた拍子に、晴れやかな布が彼女の膝からすべりおちた。
「 ・・・ いけね・・・ 大事な晴れ着だもんな・・・うわ〜〜もうほとんど形になってる!
本をみてここまで縫うって・・・すごいよなあ・・・ 」
ジョーは彼女を抱いたまま、しゃがみこんで <晴れ着> を拾い上げた。
「 ちゃんとしまっておくから・・・さ。 安心しろよな。
あ・・・ ちっこいスーツがある・・・! やあ これはすばるのか! うわ〜〜・・・
きみって ・・・きみって人は ・・・! 」
彼はそのまま すとん・・・とソファに座り込んだ ― 膝の上に最愛の人を抱いたまま・・・
「 ・・・ 何百回言っても足りないけど。 でも ・・・ 言わせてくれよ。
フラン ・・・ ありがとう・・・! そして あ い し て る ・・・! 」
もう一度、彼女をだきしめキスをし。 ジョーは静かに立ち上がり寝室へむかった。
関東地方の11月は からり、と晴れた日が多い。
翌日も朝から気持ちのよい青空が 岬の突端の上にもひろがった。
「 うう〜〜ん・・・・! いい気持ち! さ〜て お洗濯 お洗濯〜〜っと 」
フランソワーズは 深呼吸してからそう・・・っと窓辺を離れた。
ベッドでは ジョーがとて〜〜も気持ちよさそうにく〜く〜眠っている。
「 ・・・ジョー・・・? もしかして・・・ 昨夜、ベッドまで運んでくれたの・・・よね。
あ り が と♪ ごめんなさいね・・・ 独り寝させてしまって・・・ 」
彼女は身をかがめ ちょん・・・と彼女の夫のハナの頭にキスをした。
「 ・・・ う ・・・ん ・・・・? 」
「 あらら・・・ まだ早いから・・・ ゆっくり寝ていてね♪ 」
「 ・・・ ・・・ ス ・・・ 〜〜〜 」
ジョーはくるり、と寝返りをうつと、またく〜く〜寝息を立て始めた。
「 まあ♪ あら・・・ふふふ・・・ この寝顔〜〜 すばるにそっくり♪
あら? この角度でみるとすぴかにも似てるわね・・・ ね、お父さん♪
あ い し て る 〜〜♪ 」
今度は唇に キス♪ ・・・ 残念ながらご本人は夢の国・・・らしい。
「 ふふ・・・じゃ ね♪ さ〜〜て・・・! チビ達がおきだす前に!
洗濯機をセットして。 ・・・ 縫うわ! 」
東の空に上ったばかりのお日様に投げキスをして。 フランソワーズは寝室を出ていった。
「 ちぇ〜〜ッ 惜しいコト した〜〜〜 朝のらぶ・タイムのチャンスだったのに〜 」
あとから ジョーが悔しがったのは ・・・ 言うまでもない・・・・
「 が〜〜ご〜〜〜 しゅっぱつしんこ〜〜 ♪ が〜〜♪ 」
「 くましゃん・・・ おはよ〜 くましゃん♪ 」
リビングの日溜りで すぴかとすばるはご機嫌で遊んでいる。
朝御飯の片付けも、掃除も終わり、フランソワーズはほっと一息・・・リビングに戻ってきた。
「 あら・・・ いい子で遊んでいるのね。 よかった・・・
さあ〜て。 お母さんは縫い物の仕上げです♪
すばるのスーツはあとちょっとで完成よ。 ネクタイ・・・ は 蝶ネクタイ がいいわね♪ 」
フランソワーズは針箱を開け 縫い物を広げた。
「 おか〜しゃん なあに? わあ 〜〜 きれい きれいね〜〜 」
さっそくすばるが寄って来て 完成間近の晴れ着をひっぱっている。
「 そうね〜 きれいね〜 すばるのもちゃんとありますよ。
ほら! お父さんとお揃いなのよ、 着てみる? ・・・ ほら。
わあ〜〜 かっこいいなあ〜 ね? 」
「 ・・・・・・・・・・・ 」
母に着せかけてもらった スーツ を すばるは黙ってひっぱっている。
― どうも ・・・あまりご機嫌ちゃんではない。
「 蝶ネクタイしたら素敵なプチ・ムッシュウよ、すばる。 」
「 ・・・ ボク ・・・・ きれい きれいのがいい・・・ 」
「 え? ほら、 このスーツ、素敵でしょう? あ すぴか〜 すぴかもいらっしゃい? 」
「 が〜〜が〜〜っこ〜ん・・・! きゅうていしゃ〜〜 きゅきゅきゅぅ〜〜〜!! 」
すぴかは 今朝も電車のオモチャで <スケボー> をやっている。
「 な〜に〜 おかあしゃん〜〜 えきで〜す 〜〜! 」
― キキキ キィ 〜〜〜
床が擦れるイヤな音がした。
うわ・・・! またリビングの床が傷だらけ・・・
フランソワーズは眉間に縦ジワを寄せたが すぐに笑顔になり娘を手招きした。
「 ほら いらっしゃい。 きれいなおきもの、よ〜〜 ほら。 」
「 ・・・ お きもの・・? 」
「 そうよ。 すぴかとすばるの い ( し ) ち ご さん 用なのよ〜
ここに立って? ・・・ ほうら・・・。 」
ふわり・・・と ほとんど縫いあがった着物がちいさな娘の肩の掛けられた。
「 ・・・ これ・・・? 」
「 うわ〜〜〜 可愛い〜〜♪ よく似合うわ〜〜 うわ〜〜 」
「 ・・・ アタシィ〜〜〜 」
すぴかも黙って晴れ着の端っこを引っ張っている。
「 うん、いいわ いいわ〜〜 これで二人とも い ( し ) ち ご さん の用意はばっちりね♪
うふふふ〜〜〜 楽しみね、皆で海岸通りの神社に御参りにゆきましょうね〜 」
「 ・・・・・・・・ 」
「 ・・・・・・・・ 」
晴れ着を肩にかけて ― 姉も弟も ・・・ むす・・・っとしている。
「 あらあら・・・・ どうしたの、二人とも? ・・・ あ 博士お帰りかしら。 」
彼女が顔を上げたとたんに 玄関のチャイムが鳴った。
― ♪♪ 〜〜〜 ♪♪
「 ただいま。 今 もどったぞ ― 」
「 お邪魔いたしますぞ、島村君 奥方・・・ 」
玄関で元気な声が二つ ・・・ ギルモア博士がコズミ博士と一緒に学会から戻ってきた。
「 お帰りなさい! お迎えに行けなくて・・・ごめんなさい。 」
「 いやいや なんの。 お前はチビさん達がおるものなあ。 」
「 おじ〜〜ちゃま〜〜〜〜 おかえりなしゃ〜〜い!!! 」
「 おかえりなしゃい・・・ おじ〜ちゃま あ コズミのおじいちゃまも〜〜 」
双子たちも駆け出してきて 老人たちに纏わりついた。
「 おお おお ただいま〜〜 」
「 ほい、こんにちわ、すばる君 すぴかちゃん ・・・ ほう〜〜?? キレイな晴れ着ですな。
ほんにもうすぐ七五三ですなあ・・・ 」
コズミ博士は ピンと来たらしく、晴れ着をひっかけたすぴかをにこにこ・・・眺めている。
「 まあ 〜〜 嬉しい♪♪ 七五三用の晴れ着・・・ってわかってくださいました?
まだ ・・・ 全部縫いあがってないのですけど・・・ 」
― それで 結局。
彼女が考えていなかったモノ ― 帯と帯揚げ・・・ そして 草履と髪飾り ― は
ふたりのおじいちゃま が用立ててくれることになった。
「 なんのなんの・・・ ちょいと古いですがな、ウチの娘の・・・子供用の帯、あれを使ってください。 」
「 ま、 爺の祝いだとおもって・・・ 草履と飾り ・・・おお、あとすばるのネクタイも任せてなさい。
お前は・・・ソレの仕上げがあるんだろう? 」
「 ・・・ はい!! ありがとうございます ・・・! 」
大感激したフランソワーズは ・・・ またまた徹夜で縫い物を続け ― そして。
「 ・・・ 風邪じゃよ。 それ以外のなにものでもないぞ。
ま・・・ しばらく大人しく寝て・・・休養をとることじゃ。 」
「 ・・・ 博士・・・ ありがとうございます! 」
「 ふん・・・ ジョー? 奥方にあんまり無理をさせるなよ? ああ あとで薬を取りにおいで。 」
「 はい・・・! 」
翌朝。 島村さんち の奥さんは疲労と風邪でダウンしたのだ。
「 あ〜 でも風邪でよかった・・・・ あれ? フラン、なにやってんだ? 」
「 ・・・ だってまだ・・縫わなくちゃ・・・ 」
ジョーがベッド・ルームに戻ると 彼の細君は毛布を頭から被り 縫い物をしていた!
「 ちょっと・・・! 冗談じゃないよ!? 39度オーバーの熱だしといて・・・!
だめだ だめだ・・・! さ 横になれってば。 」
「 ・・・だめ だめよ。 まだ ・・・ 縫わなくちゃ・・・ 」
「 え? だって晴れ着は仕上がったんだろう? 」
「 でも ・・・まだ じ ゆ ば ん を縫ってないもの。 」
「 ・・・ じゆばん ・・・? 」
「 そう ・・・よ、 キモノ用の下着・・・ ジョー、知らないの? 」
「 ・・・ ああ! 襦袢 かあ。 」
「 ・・・ je − vent ( 私 ー 風 ) ?? 」
「 じゅばん。 」
「 じゅ ・・・ ばん? そ ・・・それ、 縫わなくちゃ・・・ それにチビ達の御飯も・・・ 」
「 こら、だめだよ、寝てろってば。 」
― あ ・・・? こ こんなに熱っぽいんだ・・・!
ジョーが思わず触れた彼女の身体は − 尋常ではない体温で 汗ばんでさえいたのだ。
「 でも ・・・でも ・・・あの子達の御飯・・・ 」
「 よ ・・・ よし。 ぼくがやる。 」
「 ・・・え? 」
「 ぼくに任せろ。 ぼくがチビ達の世話して ・・・ 襦袢も 縫う! 」
ジョーは ― 意気込んで宣言した・・・!
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updated : 11,30,2010.
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途中ですが。
少々時期が遅くなってしまいました。
・・・ それで また続きます。
フランちゃんは 密林 で本を取り寄せました・・・
ジョー君は案外器用に縫い物とかしそうですよね(^.^)