『 運命のひと − Femme Fatal −( 2 ) 』
テキスト: ばちるど
「 ・・・ 吸血鬼 ??? 」
「 そ、そうなんだ! 神父さま〜〜 大変だよっ!! 」
「 神父様〜〜 こわい〜〜 十字架とニンニクで追い払って・・・ 」
「 そうだよ〜〜 雪が融けて・・・ ヤツらが蘇るまえに 〜〜 お願い〜〜 」
質素な聖堂に中に 子供達の甲高い声がわんわんと響きわたる。
初老の神父は一瞬眉を顰めたがすぐに笑顔にもどって泣きべその兄妹を抱き寄せた。
「 さあ・・・ ちゃんとお話してごらん? どうしたのですか。 」
「 う ・・・・ あの ・・・ 僕達・・・ 森の中の ・・・ <跡地>へ行ったんだ・・・ 」
兄の方がおずおずと話し始めた。
セ−タ−の袖口をひっぱったり、防寒コ−トの端を握ったり落ち着かない。
上目遣いにチラチラと神父を眺めている。
「 なんですって?! ヨハン、あそこは廃墟で・・・危ないから近寄ってはいけない、といつも言われて
いるでしょう? 崩れかけた建物なんですからね。 」
「 うん・・・ ごめんなさい・・・ ウサギが入って行ったってソフィが言うから・・・ 」
「 神父様! あたし、ちゃんと見たの。 白兎が・・・ぴこぴこ・・・壊れたトコから中へね〜 」
「 まったく・・・! あそこはもう何年も前に爆発があってそれ以来そのままになっているんですよ。
誰も ・・・ なにもいないはずです。 ああ、雪が解けたら今年こそきちんと撤去してもらわなくては。 」
「 でもね! 神父様〜〜 あそこはね、地下に納骨堂があって・・・・ それで・・・ 」
妹は青い瞳を見開き夢中で語っている。
「 ・・・ 納骨堂??? 」
「 うん! 階段を降りていったら・・・ ぼ〜〜っと明るくなってて・・・ 広い部屋がって。
その中に ・・・ 長い箱がいっぱいあって。 うん、半分透明なんだ。 」
「 そうなの。 その中にね・・・ 白いヒトがいたの。 真っ白な顔してぎゅ・・・っとお目々つぶって。
全然うごかないの。 おんなのヒトもおとこのヒトもいたわ。 」
「 息はしてないみたいだった・・・ ねえ! 神父様〜〜 あれって・・・吸血鬼だよ! 」
「 ・・・ ハンス ・・・ ソフィ−・・・ あのね、吸血鬼なんていないのですよ。
いくらここがトランシルヴァニア地方でも。 あれはお話です。 」
「 でも〜〜 おじいちゃんから聞いたし。 アレは絶対に眠っている吸血鬼だよ〜〜 」
「 そうよ、目覚めてヒトの血を吸いに出てくる前に! 神父様〜〜 退治して〜〜 」
「 お願い、神父さま! そうじゃないと・・・僕達、みんな吸血鬼になっちゃう・・・! 」
兄と妹の涙声はだんだんと本格的な泣き声に変わっていった。
「 ・・・ これこれ。 泣かないでも宜しい。 ともかく、町の警察に頼んで <跡地> を
立ち入り禁止にしてもらわなくては・・・ ああ・・・でもこの雪では町まではとても・・・ 」
神父は窓を見上げ 降り積もった雪に溜息をついた。
「 神父様! 吸血鬼には十字架とニンニク、それにお祈りだよ〜〜 」
「 銀の十字架よ、ね? お兄ちゃん! 」
「 ・・・ 困りましたねえ・・・・ 」
兄妹は神父の袖やら上着の裾をぎっちり握って 真剣な眼差しなのだ。
「 ・・・ 失礼。 今 ・・・ 聞こえてしまったのですが。 」
突然、びん・・・!と落ち着いた男性の声が冷えた空気を揺るがし聖堂の入り口から響いてきた。
「 ・・・ はい?? 」
一瞬、ぎょっとして神父は飛び上がりそうになってしまった。
「 は、はい? なんでしょう。 ここは善き人々の集う小さな御聖堂 ( おみどう ) ですが・・・ 」
「 これは失礼いたしました。 やはり・・・ ヤツらはここに居ましたか。 」
「 ・・・ ?? ヤツら ? 」
豪華な毛皮に身を包んだ年配の紳士がカツカツと靴音たかく入ってきた。
すぐ後ろには亜麻色の髪を靡かせた若い女性が続く。
「 こちらの教会の司祭様ですかな。 拙者はヘルシング、と申すもの。 これは娘のカ−ミラです。 」
紳士は慇懃に会釈をし、帽子を取った。 つるり、と見事なスキン・ヘッドが現れた。
「 ・・・ カ−ミラといいます。 」
彼の娘だという若い女性は 碧い瞳を慎ましく伏せ会釈をした。
「 ・・・ は・・・あ ・・・ 」
「 時に神父様。 その ・・・ 吸血鬼らが眠る場所にご案内頂きたいのですが。
拙者はヤツらを退治することを生涯の仕事としておりますのでな。 」
「 そうですわ。 父は名高い吸血鬼狩り師なのです。 」
「 ・・・ は ・・・ あ ・・??? 」
ぽかん・・・・としてる神父様の両脇で 兄と妹が目をきらきらさせ固唾を呑んでいた・・・
「 それで。 どうだった。 」
「 ・・・ ああ。 ざっと見てきたが、間違いない。 博士の仰っていた施設だな。 」
「 はやり地下に・・・? 」
「 実際にそこまでは行かなかった。 神父さんや村人と一緒だったし・・・
しかし外観はたしかにもう廃墟だったな。 あのチビっこ冒険家たちがいなかったらあのまま
雪の下で朽ち果てていったかもしれぬな。 」
「 地下には・・・ 」
フランソワ−ズの声に 全員がはっと振り向いた。
「 地下には、確かに<倉庫>があったわ。 部屋としての保存機能は壊れていたけれど。
・・・ 実験体も多数。 はっきり数えなかったけれど10体以上はあったわ。 」
「 そうか。 それで生体反応は。 」
「 そこまではわかなかったわ。 でも多分 ・・・ あの状態では・・・ 」
「 博士。 あの施設は放棄されてからどのくらい経つのですか? 」
「 ・・・ おそらく10年以上は経っていると思う。 実験は失敗、デ−タは全て廃棄、ということだったが・・・ 」
「 ふん、ヤツらは建物だけを破壊してトンズラしたってことか。 」
「 そのようだな。 あの村では森の廃墟、と呼ばれていて村人は近寄らんらしい。 」
「 わかった。 007、003。 ありがとう。 」
「 ジョ−。 ・・・ ともかく行こう。 その・・・実験体をちゃんと調べないとね。 」
「 うん。 そして ・・・ 完全に破壊する。 」
「 ・・・ まさに、<吸血鬼狩り>だな。 悪の城を破壊する、か。 」
「 あんなモノが。 ・・・ この世の中に現れてはいけないのよ。 彼らは・・・眠らせてあげて・・・ 」
「 ああ。 ・・・ それが一番だ。 」
「 ・・・・・・・ 」
フランソワ−ズとアルベルトの言葉に 誰もがただ黙って頷くのだった。
東欧はまだまだ雪深い季節だ。 夜を待ってサイボ−グ達は活動を開始した。
NBGが放棄していった施設は森の奥にあり、人目につく可能性はほとんどなかったが
やはり念には念をいれたのだった。
キシキシ・・・・ キシ ・・・
ブ−ツの下で 積もった雪が微かに音をたてる。
「 このまま真っ直ぐ。 ・・・入り口は破壊されているけれど脇に裂け目があるの。 そこからは入れるわ。 」
「 オーライ。 003、君・・・ ドルフィンに戻っていたらどうだい。 なあ、009? 」
「 うん。 003、ここまででいいよ。 」
「 ありがとう、008、009。 でもわたし、一緒に行くわ。 そしてこの目で確かめます。
実験体たちの完全廃棄の結果を。 」
「 ・・・ フランソワ−ズ・・! 」
「 008、009。 気遣いは無用だ。 これがオレたちの<仕事>だからな。
冷凍睡眠にされたまま放棄された実験体の始末をできるのは 俺たちだけだ。 」
「 ・・・ 004! 」
「 そうよ。 彼らを・・・ 解放してあげなくては。 魂も身体も ・・・ 神の御許へ・・・ 」
「 そうだな。 迷える魂があってはならんのさ。 」
グレ−トはばん!と声を張り、手を振上げた。
「 それでは。 いざ、吸血鬼狩りを・・・! 」
星明りのもと、赤い服の集団は 音もなく廃墟の中に吸い込まれていった。
「 ・・・ まさに 納骨堂だ。 」
足を踏み入れた地下室には 棺にも似た細長いケ-スが累々と並んでいた。
半ば白く凍りついたケ−スの中に ぼんやりと人体がみえる。
「 動力源は完全に破壊されているね。 ただ・・・このケ−スはすべて個々に冷凍装置がついていて
それが中途半端に作動しているらしいな。 」
ピュンマはケ−スの間をすばやく歩き それぞれの制御装置を調べている。
「 ・・・ 生体反応は ・・・ ナシ。 」
「 全部で13体。 女性3体、男性10体。 サイボ−グ体だわ・・・ 」
「 わかった。 サ−チ終了してくれ。 そして003、退去しろ。 あとはぼくたちが・・・やる。 」
「 完全サイボ−グ体、5体。 あとは生体半分のものもあれば ・・・ まだほとんど生身のものもあり。
若者から推定50歳代まで年齢はさまざま。 人種はコ−カソイド、モンゴロイド、ネグロイド。 そして・・・ 」
「 もういい、003。 もう ・・・ 見なくていい! 」
「 全員 死亡。 解凍処理しても蘇生する可能性は ほぼゼロ。 ここにあるのは単なる失敗作よ。 」
「 やめろ、やめるんだ、003! 」
ジョ−はフランソワ−ズの前に立ちはだかるとその胸に彼女を抱きしめた。
「 ・・・ 見るな。 もう・・・見なくていい。 見ないでくれ・・・! 」
「 009。 これなら制御装置の残りを利用して 連鎖的に破壊できるよ。 」
「 よし。 それではこの地下室の破壊と同時に施設全体も壊滅させる。 二度と・・・ 」
「 ああ。 二度とこんな実験が行われないように。 実験体の存在が漏れないように、な。
オレに口火を切らせてくれ。 」
「 ・・・ アルベルト・・・! 」
「 そして。 わたしが見届けるわ。 皆の目と耳であるわたしの使命ですもの。 」
「 ・・・ わかった。 それでは時間を合わせよう。 008、きみは残りのシステムを連鎖させてくれ。
007とぼくで地上の施設を破壊する。 〇〇:××に、004。 点火だ。
そして 003。 作戦の完遂の報告をせよ。 」
「 了解。 」
ひと言、返答するとメンバ−達は静かに持ち場についた。
ズガガガ −−−−−− ン ・・・・・!!!
予定時刻ぴったりに 山奥のそのまた森林の奥、半ば雪に埋もれていた建物は完全に廃墟となった。
地下の施設は そのまま埋没し跡形もなく姿を消した。
「 諸君・・・・ ご苦労だったな。 ありがとう・・・! 」
「 博士。 作戦、完了しました。 」
「 そうか・・・ ありがとう ・・・ ありがとう・・・ 」
「 博士・・・ お疲れでしょう? どうぞお休みになってください。 」
「 あとはもう、帰還するだけですから。 あ・・・ 欧州組とピュンマは途中で失礼しますけど。 」
「 ・・・・ うむ。 諸君。 ありがとう。 二度と再び・・・ 」
「 オレたちが最後になればいい。 」
「 そうですわ。 ・・・ それが一番です。 」
「 ・・・・・ 」
博士はだまってアルベルトと握手をし、フランソワ−ズの肩と抱いた。
「 それじゃ 発進します。 」
「 おう。 ・・・ ああ、ジョ−? 家路につく前にな、もう一回だけ、あの上を飛んでくれるか。
なるべく低空でたのむ。 」
「 いいけど・・・? 」
「 うん ・・・ ちょいと供えモノをしておこうと思ってさ。 <ヘルシング教授>として・・・な。 」
「 あ・・・ わたしも。 お願いね、ジョ−。 」
フランソワ−ズも静かに微笑んでいる。
「 ・・・ ??・・・・ 」
やがて ドルフィン号が低く廃墟の上を旋回したとき。
銀の十字架 と 白い花が 粉雪とともに舞い降りていった・・・
「 おお、おお・・・ 君はたしか。 島村の奥方のパ−トナ−君じゃったのう? 」
磨きこまれた式台に正座した白髭を蓄えた老人が にこやかに迎えてくれた。
この人が屋敷の主、コズミ博士なのだろう。
タクヤは荷物を足元におくと、ピシっと背筋を伸ばした。
!? 島村の奥方・・・? そ、そりゃそ〜だろうけど!
オレは! 絶対に そんな言い方〜〜 使わないってか〜〜認めないぜ。
「 はい、〇〇バレエ・カンパニ−の 山内タクヤといいます。
フランソワ−ズ・・・さんのパ−トナ−を務めさせてもらってます。 」
双子の姉弟に両方からひっぱられ・・・お邪魔した立派な屋敷の玄関で タクヤは深く頭を下げた。
「 うんうん・・・ 君たちのステ−ジは何回か拝見しましたぞ。
なかなか息のあった踊りで感心しておったです。 ははは・・・なに、ワシは全然門外漢ですがな。 」
「 ありがとうございます。 若輩ものですが日々精進しています。 」
先ほどまでの妄想ぶりはどこへやら・・・ 彼は完全に <りりしい王子サマ> になりきっていた。
「 おお・・・ なんと今時礼儀ただしい若者よのお。 ささ・・・上がってくれたまえ。
双子くん達を訪ねてくれたそうじゃな。 いや〜〜 ありがとう。 チビさん達?ご挨拶はしたかの? 」
「「 タクヤお兄さん、いらっしゃいませ 」」
可愛い声が一緒に コズミ家の玄関に響く。
「 は。 お邪魔いたします。 」
タクヤは <王子サマ> の礼をしてコズミ邸の客人となった。
「 おやおや・・・ こんなに土産を頂戴して。 すまんですな。 チビさん達? ヨウコさんにこれを
渡してきなさい。 それで、そうじゃな〜 お茶よりもコ−ヒ−にして欲しいと、な。 」
「 は〜い、コズミのおじいちゃま。 あ! これってしんはつばいのぽっき−だあ♪ アタシ、大好き♪ 」
「 うわ〜〜い チョコだあ〜 僕、だ〜〜い好き♪ 」
「 これこれ・・・ まず、最初にヨウコさんに渡してそれから今日の分を貰いなさい。 いいかな。 」
「 は〜い。 すばる、 あんた そっちの袋もって。 アタシ、ばなな、持ってくから。 」
「 うん。 あ・・・ すぴか〜〜 バナナを下にいれちゃダメだよお 〜 」
ぱたぱたぱた・・・・
双子達は勢いよく廊下を駆けていった。
「 ・・・ ヨウコさん? 」
「 おお、臨時で来てくれている家政婦さんでの。 いや〜 本当はもうその業界のベテランさんでな、
とてもとてもこんな仕事を頼める相手ではないのじゃが・・・ 」
「 家政婦さんですか。 あ・・・ 食事の用意とか?? 」
「 そうなんじゃ。 普段はな〜ワシ一人じゃからなんとでもなるのじゃが・・・
チビさん達が一緒だと そうも行かんし。 それで事情を話したら 」
「 ワタクシの方でお願いしたのです。 是非、島村さまの坊ちゃまと嬢ちゃまのお世話をさせてください、と。」
「 おお、ヨウコさん。 すまんのう・・・ 」
「 いえ、先生。 ご希望のものをお持ちいたしました。 」
コ−ヒ−のいい香りとともに 銀盆を捧げた中年の女性が入ってきた。
なみなみと湛えたカップ、 一滴もこぼすことなくタクヤと博士の前に置くと、
側にくっついている双子達に微笑みつつ声をかけた。
「 さあさ。 すぴかさんとすばる君? オヤツを頂きましょうね。 お客様のお土産ですが・・・ 」
「 うわ〜〜い♪ あ、ヨウコさん、 お客様じゃなくて〜 タクヤお兄さんよ。 」
「 ウン♪ お母さんの おうじさま なんだよ〜 タクヤお兄さんは。
とぅ〜る・ざんれ〜る、すごく上手なんだ〜 ! 」
「 まあまあ・・・ 奥様の??? それはそれは。
ああ、失礼いたしました。 ワタクシ、家政婦協会 神奈川支部副会長の ヤマダヨウコ と申します。
島村様には大変にお世話になりまして・・・ この度是非!とこちらのコズミ先生にお願いしました。 」
黒髪をぴっちりと結い、白いエプロンをきりり・・・と着けたその女性は静かに微笑み会釈をした。
・・・ な〜んか。 女校長とかやり手の女企業家とか・・・
うん、 女史! ってカンジだな〜〜 すげ ・・・ だけどちょっと苦手だ〜 オレ・・・
タクヤは畏まりつつも ちら・・・っと彼女に目をやった。
「 ・・・ は、はあ・・・ 」
「 本当にお可愛いお子様方で。 ご両親ともお出掛けでも聞き分けよくお留守番なさって・・・ 」
すん・・・と ヨウコ女史は鼻を啜った・・・
「 本当に健気で・・・ さすがに島村様ご夫妻のお子様方だと、ワタクシ、感動しております、はい。 」
「 ・・・ は、はあ・・・ 」
「 アタシ達〜 平気だよ? お父さんとお母さん、二つ目の日曜日には帰ってくるって約束したもの。
ね〜 すばる? 」
「 うん! 大事なご用なんだって。 だから僕たち、ちゃ〜んとお留守番するんだ〜 ね〜すぴか。 」
「 ううう ・・・・ なんて賢い・・・ 嬢さま、坊ちゃま〜〜〜 」
「 いやあ〜 ヨウコさんはス−パ−家政婦の異名を取った御人でなあ。 人気モノなんじゃよ。
通常はなかなかお願いできんのじゃ。 本当に助かってます。 ときに ・・・
ヨウコさん? あんた、もう自分だけのヒトの世話をしたらどうじゃね? じつはワシに心当たりが・・・ 」
「 いえ。 とんでもございません。 」
「 いやいや・・・ 島村君や奥方も君のこと、ベタ褒めじゃったぞ? 才色兼備は賢婦人じゃ、となあ。 」
「 え〜〜 そったらことォ〜〜ねぇっす〜〜 やんだあ、照れちまうだよォ〜〜〜 」
・・・・ は ・・・・???
一瞬部屋の空気が固まった・・・ 双子達でさえ、オヤツを食べる手を止めてしまった。
「 ・・・ あ! いっけねえっす〜〜 じゃなくて、 も、申し訳ありませんでした! 」
「 いや・・・別に構わんが。 」
「 は・・・ ははは・・・ やっぱァ 島村サンの名前サでると〜つい 地が出ちまってェ〜
あは。 アタス、そのムカシ、駆け出しの頃にさ〜んざん島村様とこでお世話になったっすよ。 」
「 ・・・ は、あ・・・? 」
「 あはは・・・ も〜な〜んもできねえで。 ご迷惑ばっかかけちまってぇ〜
あ・・・ もう〜〜 ダメだァ、ムカシのアタスに戻ってしまったス。 」
「 ほっほ・・・ よいよい。 ああ、その笑顔がいいのう・・・ なあ、タクヤ君? 」
「 は・・・はい。 親しみやすくていいです。 ヨウコさん。 」
ああ、こんなあったかいカンジのヒトになら。
すばるもすぴかも 安心して預けられるな、うん。
タクヤはいっぱし保護者気分で うんうん・・・と頷いている。
「 その通りじゃの。 タクヤ君、 どうぞゆっくりして行ってくれたまえ。
おおそうじゃ。 君さえよければ晩飯を一緒にどうかね? ヨウコさん、いいじゃろうか。 」
「 はい〜〜 コズミ先生。 アタス、腕にヨリ掛けてうんめ〜御飯、作るッス ! 」
「 ・・・ あ・・・で、でも。 ご迷惑じゃ・・・ ? 」
「 うわ〜〜♪ タクヤお兄さん〜〜 御飯、食べてゆくの〜〜 うわ〜〜嬉しいなあ〜〜 」
「 タクヤお兄さん! リスの巣、見せたげる〜〜 すぴかが見つけたのよ〜〜 」
双子達は歓声をあげ、てんでにタクヤの腕を引っ張った。
「 ほっほ・・・ よかったのう、二人とも。 せっかくの日曜日、どこにもお出掛けできんで
すまんな〜と思っておったんじゃが・・・ 」
コズミ博士は 芯からほっとした様子だった。
・・・ タクヤは。 ― 腹を括った。
・・・よ、よし。 ここは! オレが親代わりになってやる。
そんで フランのコドモたちの相手をしてやる・・・! ああ、そうさ、彼女のためなら
オレはなだってする。 そうさ、なんだって!
「 コズミ先生。 それではお言葉に甘えまして。 ヨウコさん、御馳走になります。
すばる〜〜 すぴか〜〜 さあ、一緒に遊ぼう ! 」
「「 うわ〜〜〜い♪♪ 」 」
ず〜〜っと神妙な顔で大人しくしていた双子達は ぱ・・・・っと笑顔が弾け、普通の、どこにでもいる
小学生に戻った。
ゴソゴソゴソ・・・・・
タクヤは慣れない浴衣で しきりに寝返りを打っていた。
普段のベッドとはちがい、どっしりとした蒲団の中でなかなか寝付けなかったのだ。
・・・ ふうう ・・・ あ。天井って。 こんなに高いっけなあ。
和室に蒲団で寝るなんて・・・ チビの頃、じいちゃんちに行った時以来か・・・
ゴソゴソ ・・・ 浴衣がどうしてもはだけてしまう。 タクヤは襟元をぐい、とかきあわせた。
結局。
その夜、 タクヤはコズミ邸に泊まってゆくことになった。
にぎやかな晩御飯のあと、一緒に風呂に入ればもう双子達はこっくり・こっくりし始め・・・
<お休みなさい> にまで付き合ってしまった。
明日もレッスンがあるし、着替えもないし・・・と彼はさかんに辞退したのだが。
「 おお、洗濯か。 任せておきたまえ。 ウチにはワシが発明したス−パ−洗濯機があるでの。
君の明日の分はたちまち・・・ ふんわり仕上げ、じゃ。 」
「 ・・・ は・・・ああ?? 」
「 うん。 ちょいとワシの浴衣でも着て、コタツで待っていてください。 」
「 え?? あ〜〜 ・・・ 」
コズミ博士は タクヤの身包みを剥ぎ取り、レッスンバッグを持つととことこ風呂場の方に消えていった・・・
そして ― タクヤの服と稽古着一式は本当にあっと言う間にぱりっと洗いあがり 戻ってきた。
コドモ達が寝た後には、コタツに潜りつつ、コズミ博士とちびちびグラスを重ね。
彼もいい気分で客間に ヨウコさんが敷いていってくれた蒲団にもぐりこんだのである。
・・・・ が。
「 ふは 〜〜〜 ・・・・ 」
酔いはとっくに醒め、深々と夜が更けてゆくのだが、タクヤは一向に眠れなかった。
普段は気楽な独り暮らし、 倒れこむみたいにベッドに転がれば即、寝入ってしまうのだが。
あ〜あ ・・・ 枕が替わると眠れないって本当なんだな〜〜
オレって。 結構デリケ−トなんだ・・・
ふうう ・・・ 溜息が正目板の天井へと登ってゆく。
しっかし。 あの茶髪ダンナ〜〜 あんな可愛い子供達置いてなにやってんだ?
病気見舞いって・・・そんなにかかるのかよ?
ふん! ・・・ 闇の中に二人の姿が浮かびあがる・・・
「 ・・・フラン・・・ ここは僕が付き添うから・・・ 君は休め。 」
「 ジョ−・・・ いいのよ、私、元気ですもの。 あなたこそずっと・・・
ねえ、お仕事だってそうそうお休みできないでしょう? あなた、帰国なさったら? 」
「 君こそ・・・ 公演があるって・・・ いい役を貰ったって言ってたじゃないか。
明日にでも帰国したほうが・・・ 」
「 ジョ− ・・・・ そんなこと、できないわ。 あなたの大切な大伯母様でしょう?
たった一人のお身内じゃないの。 わたしが心をこめて看病するわ。 」
「 フラン・・・! ああ、君っていうヒトは〜〜 僕は素晴しい妻を持って幸せだ・・・ 」
「 私も・・ あなたの妻で幸せよ・・・ ジョ− ・・・ ! 」
「 な〜〜んて病人の横でいちゃいちゃしているに決まってんだ・・! けしからん!
ダンナが残ればいいじゃんかよ〜〜 いや、そんなこと、あの彼女が承知しいないもんなあ・・・ 」
縁戚関係については 彼の頭の中ではめちゃくちゃになっていた・・・
「 看病でくたくたになって・・・ レッスンもしないで・・・ ああ〜〜 フラン、可哀想に・・・!
彼女はな! 踊るために生まれてきたヒトなんだ。 旦那の世話やら赤ん坊のオムツの世話をする
ためだけの存在じゃないぞ! ・・・ くそ〜〜 」
闇にむかってしきりと怒りを飛ばしてみたけれど。 それは行き場もなく散ってしまう。
「 ふん・・・! あああ〜〜 オレって。 なんであと10年くらい早く生まれなかったのかなあ・・・
オヤジィ〜〜もっと早くお袋とめぐり会ってくれよ〜〜 そうすれば、オレにもチャンスはあったじゃん! 」
もはや彼の妄想は願望と創造が入り混じり支離滅裂になってきた・・・
「 そしたら。 オレが。 このオレ様が、だな。 あの場面で・・・ 」
「 そこを通してください。 」
「 だ〜からよ〜 ちょいと お茶しねえかって誘ってんじゃん、 キレイちゃん〜 」
「 何度も言いますけど。 私、 キレイちゃん なんて名前じゃないですから。 」
「 じゃ〜さ〜 名前 教えてよ。 ちゃんと名前で呼ぶからよ〜 よ〜〜? 」
「 ・・・! やめて・・・! 放して 〜〜 ! 」
「 いいじゃん、手、くらい繋いでもよ〜 なあ、キレイちゃん♪ 」
「 その手を放せ。 」
「 ・・・? なんだァ〜〜 キサマァ〜 」
「 その手を放せ。 嫌がっているじゃないか。 」
「 ・・・ タクヤ君!? 」
「 さあ、こっちにおいで。 キミ? 女性に嫌がらせをするものじゃない。 」
「 なんだとォ〜〜 このヤロウ〜〜! ひょろひょろしやがって ・・・ 喰らえ! 」
「 きゃ〜〜 ・・・! 」
「 ・・・ ふん。 キミはどこを見ているのか。 鉄拳ってのはこういう風に使うものだ! 」
「 ・・・ う・・・! 」
「 次はスレスレじゃ済ませないからな。 二度と彼女に付き纏うんじゃない! 」
「 ・・・ な〜んてなあ・・・ オレが彼女のヒ−ロ−になれたかもしんないじゃん。
でも、あの旦那。 なんか静かな迫力があるんだよな。 ちょっと底知れないトコがあるし・・・・
逆襲されそうな気もするけど。 」
ふうう・・・・ もう溜息で広いはずの和室は満杯にちかくなっていた。
「 だけど! アイツってばモテるよな〜、絶対。 女の方で放っておかない、ってタイプだぜ。
赤ん坊が生まれても アイツはモテモテで・・・ 外泊したり常に女の影が付き纏ってよ!
ああ・・・フラン! 彼女はじっと・・・耐えてるんだ、そんな浮気モノの旦那にさ! けしからん!
そんな時、オレとばったり会ったりして。 」
「 ・・・ パパは今夜も帰ってこないのかしら。 ああ・・・よしよし、坊や。 泣かないで・・・ 」
「 フランソワ−ズ? フランソワ−ズだね? 」
「 ?? まあ、タクヤ・・・! 」
「 やあ、久し振りだね。 元気・・・あれ? なんか顔色が冴えないけど? 」
「 ぇ・・・? そ、そんなこと、ないわ。 きっと空の青が映っているだけよ ・・・ 」
「 ・・・ ふうん? あ〜 可愛い赤ちゃんだねえ。 女の子かい。 」
「 あ・・・ ううん、オトコノコなの。 ジョ−によく似ているのよ。 ねえ? パパ似でちゅよね? 」
「 ふうん? なあ。 泣いてたんじゃないのか、フラン。 頬に涙の痕がある・・・ 」
「 ・・・ え! そ、そんなこと・・・・ないわ ・・・ 」
「 フラン? 僕にだけはウソつかないでくれ。 キミは今、シアワセかい? 」
「 ・・・ タクヤ ・・・! ・・・・ 私 ・・・ 私 〜〜〜 」
「 ・・・ フラン。 泣くのなら 僕のこの胸で泣けよ。 」
「 く〜〜〜♪ ・・・・な〜〜んてなあ〜〜〜 ひし!と抱き締めて・・・ 慰めて。 うん、そうしてさ、
オレがこの赤ん坊の父親になってやるよ! って切り出すんだ。
・・・ あ。 でも そのコは ・・・ すばる ・・・ なんだよなあ ・・・ 」
― 僕? え〜とね。 一番好きな女の子は〜 お母さん!
― おと〜うさんは おうじさま おか〜あさんの おうじさま♪♪
天真爛漫なすばるの笑顔が タクヤの目の前に浮かぶ。
あの笑顔・・・ あの少年の屈託のない笑顔だけは 絶対に奪ってはならないのだ。
タクヤは 何の先入観もナシで知りあったすばるがお気に入りだった。
「 ・・・ すばるを悲しませちゃいかん! そうさ、すぴかだって。 あと10年もすりゃフランそっくりの
美女だぜえ〜〜 あの二人には涙は似会わねえって! 」
彼はかなりなイケメン青年で それなりに遊んでいた。
しかし。 フランソワ−ズは彼にとって聖なる存在 ― いわゆる憧れのマドンナ ― なので
下卑た願望は微塵も沸いてこないのだ。
う〜〜〜ん・・・! ・・・妄想はこじれにこじれ、タクヤは夜が白むまで蒲団の中で悶々としていた・・・
「 ・・・ お兄さん! タ〜クヤお兄さんってば〜〜 !! 」
「 ・・・ う ・・・ な、なんだ・・・ 弟のヤツ、来てたっけか・・? 」
「 タクヤお兄さん〜! もう起きないと〜〜 お稽古、チコクするよ〜〜! 」
「 う・・・ オレに妹は居ないぜ・・・ う・・・ん ・・・ 」
「 すぴか〜〜 タクヤお兄さんって。 お父さんみたいだね〜 お寝坊だあ♪ 」
「 そうだね〜 じゃ、お父さんみたくに起こそうか? いっせ〜のせ! で二人で乗っかる? 」
「 わ〜〜い♪ やろうやろう〜〜 アレ、やるとお父さんってば いっつも飛び起きるもんね〜
< ・・・ いくらぼくでも〜〜 > って。 アレって。さいぼ〜ぐだってことかなあ。 」
「 う〜〜ん??? わかんないけど。 でもお目々が醒めるってコトよ。 じゃ、せ〜の・・・! 」
「 うん♪ せ〜の ・・・! 」
「 お〜っとっと・・・! すとっぷ・すとっぷじゃ〜〜 二人とも。
お前達二人で飛び乗ったらこのお兄さんはぺちゃんこになっちまうぞ? 」
コズミ博士が慌てて障子を開け、とびこんできた。
「 え〜〜 お父さんは平気だよ〜 」
「 お父さんはな、特別に頑丈なんじゃよ。 それよりも、すぴかちゃん? お兄さんの耳元でな。
・・・・・ って言ってごらん? そうさな、お母さんの真似をするといい。 」
「 ??? そう? そうすれば お兄さん、お目々が醒める? 」
「 ああ。 きっとな。 」
ふぉふぉふぉ・・・とコズミ博士は鷹揚に笑い、気持ちよく寝息を立てている青年の寝顔を眺めている。
「 ふうん・・・ それじゃ。 えっと ・・・ お母さんのマネっこして〜〜
ジョ−ォ?( あ! ちがった!) やり直し! え〜と・・・ ( えっへん ・・・? )
タクヤ? 起きて♪ アイシテルわ〜〜 ・・・ これでいい? ・・・ わ?! 」
「 ?! な!? ふ、フランソワ-ズ??? ! 」
たった今までぐうぐう寝こけていた青年は がば!っと跳ね起きたのだった。
「 わ〜〜い! 本当だ! すご〜〜い、コズミのオジイチャマ〜〜 」
「 うん! お兄さん、いっぺんで起きたね〜〜 タクヤお兄さん、お早う〜〜 」
「 お早う、お兄さん! もう起きないとチコクするよ〜〜 」
「 ・・・え!!??? こ、ここは・・? 今 耳元でフランの声が・・・?? あれ・・?
・・・ ああ、すばる ・・・ すぴか ・・・ 」
タクヤは蒲団の上で しばし呆然と双子達のにこにこ顔を見つめていた。
「 お早う。 それじゃ ・・・ 始めますよ。 ああ、その前に、今日のリハは2スタと3スタね。
12時からよ。 ・・・あら? タクヤは ? 」
「 ・・・ いませ〜ん。 」
「 やあねえ、また遅刻なの。 最近少しは真面目になったと 」
「 お、おはよ〜ございますッ !!! 」
ダダダダ・・・・ ! と音をたてて青年がスタジオに飛び込んできた。
「 ・・・ おそよう。 それでは 二番から。 」
「 ( はあはあ・・・・ ひ〜〜 なんとか間に合ったぜ〜〜 ) 」
プリエの間、 ピアノの音の合間に荒い息が仲間達の耳に届いていた ・・・
「 じゃあさ、ジゼルが二度目に通り過ぎるとこから・・・ リフトまで通そう。 」
「 わかったわ。 私が音を出すから。 」
「 ありがとう。 ・・・よし、頼む。 」
「 はい。 」
静かな曲が流れはじめ ・・・ す・・・っと女性がタクヤの後ろを足早に抜けてゆく・・・
・・・ ああ ・・・ ! フラン ・・・ 君に会いたい・・・!
カツン・・・と靴音を響かせ女性が走りこんでくる。 よし・・・!
「 ・・・ あ・・・ ごめんなさい・・・ 」
「 ・・・っと。 ちょっと遅いな。 もう一拍はやくジャンプしないと。 」
「 ごめんなさい。 もう一度、いい? 」
「 ああ。 じゃあ 音ナシで。 カウントでゆくぜ。 」
「 はい。 」
「 ・・・ 1 ・・・ 2 ・・・ 3 ・・・ ほら そこで! ああ・・・! 今度は早すぎる。 」
「 ・・・ でも。 私、音どおりに踏み切ったつもりよ? 」
「 だからさ。 ほら、もう一度。 2・・・3、の時にはもう跳んでいるんだ。 」
「 やってみます。 」
「 うん。 いくぞ? 1 ・・・ 2 ・・・3 ・・・ ああ、そうじゃなくて。
そこは、な〜 フラン、 この前 ・・・ 」
「 ・・・ 私 、めぐみよ? 」
「 ! ・・・ ごめん。 」
「 ・・・ いえ。 」
「 ・・・ 君のタイミングで跳んでくれ。 オレ、合わせるから。 悪い、今日、上がってもいいかな。 」
「 ? タクヤ君 ?? 」
「 ごめん。 明日、埋め合わせ、するから。 じゃ。 お疲れ様 」
「 ・・・ あ タクヤ君 ・・・? 」
タクヤはぺこり、と頭を下げるとぷい、とスタジオから出て行ってしまった。
その日から一週間、タクヤは海辺の街からレッスンに通った。
朝のクラスと予定のリハ-サルが終わると 彼はまっすぐに帰ってしまう。
「 ?? なんだあ〜 タクヤのヤツ。 リハしか出ねえでよ? 」
「 う〜ん・・? バイトとか・・・ 」
「 なんかね〜 めぐみとあんまり上手く行かないらしいよ? めぐみに合わせるって言ってるらしいけど。 」
「 へえ?? アイツがねえ。 珍しいじゃん。 」
「 ほら、相手がさ・・・ 」
「 ・・・ ああ。 彼女じゃないから、か。 」
「 多分。 」
無責任なウワサが広がっていったがタクヤは一向に気にする様子もなかった。
彼は淡々とレッスンに出、リハ−サルをし。 スタジオを飛び出してゆく日々が続いた。
そして 日曜日 ―
「 へえ? 今日はヨウコ女史、休みなのか。 」
「 ウン。 どうしても来れないんだって。 ゴミんゴミん〜〜ってすごく何回も謝ってたんだ。 」
「 そうだよね〜〜 坊ちゃま〜ゴミん〜〜って。 」
「 ふうん・・・ 彼女、人気モノだっていうから、予約とかいっぱいなんだろうな。 」
「 う〜ん、よくわかんないけど。 それでね〜〜 コズミのオジイチャマが今日は でまえ とろうって。
タクヤお兄さん、 でまえ ってなに。 」
「 でまえ? ・・・ ああ、出前のことか。 店屋物・・・ってもっとわかんないか。
寿司とか蕎麦とか。 お店に配達して貰うのさ。 ・・・ あ、そうだ! 」
タクヤは ポン! と手を打った。
「 なに、タクヤお兄さん? 」
「 うん。 あのな、それじゃ今晩は オレが作る! 」
「「 え〜〜〜〜〜 ???!! 」」
「 ああ! オレが。 さっいこうに激美味な カレ− を作ったるぜ! 」
「 ・・・ お兄さん・・・ 出来るの? 」
「 お? 疑ってるな〜 オレ、日頃はちゃんと自炊 ・・・ ああ、自分で御飯、つくってんだぜ?
カレ−なんてチョロいもんさ、 うん。 」
「 わ〜〜い♪ 僕、お手伝いする〜〜〜 僕ね、じゃがいもとか剥けるんだよ〜〜 」
「 アタシ。 ニンジンなら切れるよ! お花のカタチに切るの、お母さんに教わったんだ〜 」
「 おおお? 二人とも〜頼もしいじゃん。 それじゃ〜〜 カレ−作戦〜〜 開始! 」
「「 らじゃ〜♪♪ 」」
タクヤは双子を従えて意気揚々とコズミ家の台所に入っていった。
大騒ぎの果てに。 いつもの晩御飯タイムより大幅に遅れて。
なんとか 激ウマ( いはずの )カレ− はできあがった。
「 ほうほう・・・ これは美味そうじゃなあ。 チビさん達もお手伝いしたのかな。 」
「 はい。 じゃがいもは全部すばる担当、花形にんじんはすぴかの作品です。 」
「 ほほ〜〜たいしたもんじゃのう。 それでは頂くとするか。 」
「 二人とも ・・・ 手、洗ってきたか。 」
「 ・・・ あ、 うん。 」
「 うん ・・・ さっき、洗った ・・・ 」
「 ? なんだ 眠くなったのか? 遅くなってごめん! さあ〜〜皆で食べようぜ〜 」
「 うん ・・・ 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
なんだ? あんなにはしゃいでいたのに。 元気、なくなってきたなあ。
疲れちまったのかな・・・?
タクヤは気にはなっていたが、ともかく急いで皿に <作品> を盛った。
「 いただきます。 」
コズミ博士とタクヤと双子達と、晩御飯の席につき4人で手を合わせてからスプ−ンを取り上げた。
「 どうだ? 美味いか。 」
「 ・・・ うん。 」
「 すばるは? どうかな〜 辛すぎたかなあ。 」
「 ・・・ うん。 」
「 え? 食えないほどか。 困ったな〜〜 そうだ! ハチミツ、いれてみるか? 」
「 ・・・ うん。 」
「 え。 マジか・・・ え〜とハチミツ、ハチミツ〜〜と?? 」
「 台所にないかい? それなら、ちょっとお待ち。 たしか頂きモノが納戸にあったはずじゃ。 」
コズミ博士は気楽に立って納戸へハチミツを出しに行った。
「 あ〜〜 すんません〜〜 お前たちも アリガトウって・・・ あれ・・? 」
ぽと ・・・ ぽと・・・ぽとぽと・・・・。
・・・うっく ・・・ くしゅ ・・・ うっく ・・・
双子達のスプ−ンは宙に浮き、テ−ブルの上に水玉模様が点々を現れはじめた。
「 どうした? そ、そんなに辛いかな〜〜 すぴか。 なあ、 すばる? 」
タクヤは二人の涙にびっくりし、彼らしくもなくオロオロしてしまった。
え・・・ どうしたらいいんだ?? そんなに不味いか〜〜 コレ??
お〜〜い 泣かないでくれよ〜〜
「 あ・・・ あのな。 そんならカップ・ラ−メン、作ろうか。 焼きソバでもいいぜ? ・・・ お〜い・・・ 」
すぴかもすばるも。 じ・・・っと一点を見つめたきり、タクヤのご機嫌取りなど全然聞こえていないらしい。
「 え〜と? あ〜 それじゃ。 何なら食べてくれるかなあ。 ・・・ お〜い。 もしも〜し? 」
「 ・・・ うう ・・・お父さん ・・・ 2つ目の日曜日ってげんまんしたのに・・・ 」
「 ・・・ うっく・・・お母さん ・・・ うっく ・・・ 日曜日 ・・・ もう終るのに ・・・ 」
「 ・・・・ え? なんだって? 」
「 ・・・ う ・・・ お父さん〜〜 お母さん〜〜 う・・・帰って こない ・・・ んだもん 〜〜 」
「 うっく ・・・ うううう うぇ〜〜ん 〜〜 帰って ・・・ こな・・・い〜〜 」
「「 うぇ〜〜〜ん うぇ〜〜ん ・・・ お父さ〜ん お母さ〜〜ん・・・! 」」
「 ・・・ あ。 そっか。 今日が<二つめ>の日曜、か。
!! な〜にやってんだよ! こんな・・・ こんな可愛いコドモたちを泣かせてよ!!
オレ〜〜〜 お前らの親、叱ってやる! ああ、山ほど言いたいコトはあるんだ!
特に〜〜 あの旦那! くそ〜〜 !!
ああ、泣くな、泣くなよ・・・・ この兄ちゃんが びし!っと! 」
タクヤはぎゅう〜〜っと拳を握ると しゅ・・・っと宙に向けて殴りつけた。
「 ほっほ・・・あったぞ、ハチミツ。 おや。 どうしたね、二人とも。 」
「 コズミ先生。 実は ・・・ 」
「 ・・・ こんばんは!! 失礼します〜〜 島村です! 」
玄関の戸がすごい勢いで開くと 息せききった声が飛び込んできた。
「 ・・・あ!!! お母さん〜〜〜 !! 」
「 お母さ〜〜ん!! おかあさ〜〜〜ん ・・・! 」
ぐしゅぐしゅ泣いてた双子達は ぱっと立ち上がると玄関に飛び出していった。
あ・・・! あの声は〜〜 フラン〜〜〜!
やっと帰ってきたのか! ・・・うん? 茶髪旦那の声もするな。 お〜し・・・
コドモたちに代わってこのオレが。 しっかり言うべきコトは言ってやる・・・ よし!
タクヤは意気込んで しゅた・・・!っと割烹着の袖を捲り上げた。
「 ・・・ うぉっほん。 今、お帰りですか。 」
「 あ・・・ああ・・・コズミ博士?? さっき帰還しましたの。 それですぐに ・・・ あ・・?あら?? 」
「 遅くなりました。 コドモたちがご迷惑を・・・ あ? ・・・あれ・・・君は。 」
「 こんばんは。 山内です。 コチラに御宅のお子さん達とお邪魔してます。 」
「 まあ〜〜! タクヤ! ・・・ そうなの?? 」
「 山内くん。 島村です。 ・・・ ありがとう! 本当にすまなかったね。 」
「 タクヤ。 ごめんなさい。 ごめんなさい・・・! 」
わあわあ泣いている子供たちに左右から取り縋られつつ 茶髪と亜麻色の髪の夫妻はびっくり顔だった。
そしてタクヤを認めると ひたすら一心に頭を下げた。
ふ、ふん・・・! 今更謝っても! こんなに可愛いコドモ達、 置いて!
( オレと踊ってくれないし〜〜 )
すばるとすぴかを。 そうさ、フランを泣かせるヤツは、許せね〜〜!
( だって。 オレと組まないっていうし〜 )
・・・ く〜〜〜! 仲良くいちゃいちゃして! 離れろよ、こら〜〜!
( ・・・ オレはフランと踊れないっていうのに〜〜 )
まさにタクヤの妄想からくる <やり場のない怒り>は! 噴火寸前だった。
タクヤは す・・・っと一息吸い込むと真正面から夫妻を見つめ徐に口を開いた。
「 いえ。 あの、失礼を承知でいいます、オレ! あのですね!! 」
「「 ・・・・ はい。 」」
・・・・ え ??!!
そして タクヤは。 口を開いたまま。 ― 口先まで出てきた言葉は完全に凍り付いた!
な、なんだ??? なんなんだ?? フランと ・・・ あの旦那、だよな??
顔が いや 表情が全然ちがう・・・! なんだってこんなにキツい陰が? どうして・・・?
ごく普通のコ−トを着てコズミ邸の玄関に 一組の若夫婦が立っている。
左右には泣きべそのコドモが しっかりと父母の手に取り縋っているのだが・・・
彼らの纏う雰囲気は 日常のもの ではなかった。
当たり前の世界からは完全に切り離された まったくの非日常の空気。
そこに、甘さやら 暖かさは 微塵も含まれてはいない ― 無味乾燥な ・・・ 無機質な空気。
それは タクヤが初めて感じたもので一瞬、 彼の背筋には冷たいものが走った。
・・・ なんだ・・・? この・・・凄まじい気迫 ・・・ 殺気 ???
この夫婦 ・・・ 空気の鎧を着けてるみたいだ・・・!
「 ・・・ あ ・・・・・ あの。 ・・・ すばるもすぴかも。 いいコで・・・留守番、してたから。
うんと褒めてやってくれ・・・ 」
「 まあそうなの? ありがとう〜〜〜タクヤ、このコ達の相手、してくれたのね。 」
「 あ・・・ いや・・・相手ってほどじゃ・・・ 」
「 遠い所、申し訳なかったね、山内くん。 ありがとう! ・・・ その割烹着・・・ 似会うなあ。 」
「 ・・・へ?? ・・・ あ ・・・ いけね・・・ 」
「 おお、おお〜〜 よう帰った、よう帰った〜〜 さ、早くお入り。 ささ・・・ 」
「 コズミ博士!! 遅くなりました。 あの・・・<無事に戻りました> ありがとうございました! 」
奥から悠然と現れたこの屋敷の主に 島村夫妻は深々と頭をさげた。
「 うんうん・・・ <元気>でなにより、じゃ。 ギルモア君は・・・・? 」
「 ええ ・・・ < 父 >も一緒ですわ。 今、車で待ってもらってます。 」
「 ほう、それはよかった。 ささ・・・ギルモア君も呼んでおいで。 今晩はみ〜〜んなでウチに泊まるといい。
タクヤ君? 勿論、君もじゃ。 君の料理で皆で晩餐会じゃ。 」
「 うわ〜〜〜い♪♪ みんな一緒だあ〜〜 嬉しい〜〜〜 」
タクヤはごにょごにょなにか言っていたが 双子達の歓声にかき消されてしまった。
「 タクヤ。 ・・・ リハ。 がんばってる。 」
「 え? あ ・・・ う〜ん・・・。 オレさ。 やっぱ・・・ フランとじゃないと。 イマイチ・・・・ 」
「 イマイチって なに。 そんなの、そんなこと。 許さないわ。 」
「 ・・・ 許さないって なんだよ。 」
「 約束したでしょ。 タクヤは 必ず踊るって。 」
「 ・・・ でもそれは。 フランとってことだから。 」
「 タクヤ。 」
コズミ邸の廊下の隅で、フランソワ−ズとタクヤは真正面から向き合っていた。
碧い瞳が まっすぐに青年を見つめている。
「 ・・・ フラン? ・・・ あ。 」
細君を捜しにきたジョ−は 思わず足を止め、襖の陰に身を寄せた。
・・・わ。 マズいとこに来たかな。 こりゃフランのやつ、一発・・?!
「 ・・・ わかった ・・・ 」
「 タクヤ。 あなたらしく。 あなたの踊りを踊って。 ・・・ 精一杯 生きて・・・! 」
「 ・・・ ん。 」
ふ・・・・ とフランソワ−ズの頬に 淡い哀しみの陰が過ぎった。
しかし すぐに彼女はぱあ〜〜〜っと晴れやかに微笑んだ。
「 ちゃんと見ているわ。 見届けるから。 それがわたしの使命・・・いえ、役割なの。 」
「 ・・・ ん。 」
「 ・・・ ね? あらら?? 子供達が騒いでる・・・ は〜〜い、今、行きますよ! ・・・ 握手!」
にっこりと白い手が差し伸べられる。
タクヤは おそるおそるその手を握った。
「 ・・・ ん・・・! オレ ・・・ ベスト以上を狙うよ! 」
― 襖の陰で特大の溜息が飲み込まれたのを ・・・タクヤは勿論知る由もなかった。
「 お疲れさま! 良かったわ〜〜 皆、本当に ・・・ 」
「 お疲れさまでした。 ありがとうございました〜〜 」
「 ありがとうございました。 お疲れ〜〜 」
拍手と興奮と熱気と。 きらきらした空気を連れたままダンサ−達は楽屋に戻ってきた。
公演は大盛況のうちに千秋楽を打ち上げた。
「 ・・・ タクヤ! 」
「 あ! フラン 〜〜 ちゃんと客席から見てくれた? 」
「 ええ。 約束ですもの。 ・・・ よかったわ〜〜 ああ、本当によかったわよ! 」
「 へへへ・・・ まあ〜な。 あんなモンさ。 」
「 まあ〜 相変わらずの言い草ねえ。 」
「 だって。 アレがオレの実力だものな〜 」
あ。 いつものフランだ。 この笑顔 ・・・ この声 ・・・ この雰囲気・・・
いつもの ・・・ オレの憧れの姫君・・・・
「 なあに? そんなにジロジロみて。 わたしの顔、ヘン? 」
「 う・・・い、いや〜〜。 ・・・あ! 皆元気? すばるもすぴかも ・・・ ダンナも、さ。 」
「 ええ、ええ。 今日、一緒に見てたの。 すばるなんかね〜 タクヤお兄さん〜〜かっこいい〜〜って
大騒ぎだったのよ。 すぴかは ・・・ なんだか涙ぐんでたわ。 あのお転婆がね。 」
「 へえ・・・ふうん ・・・ ダンナは。 」
「 ジョ−? ・・・ 珍しくちゃんと起きてたけど。 」
「 そっか。 あ、ちょっと待っててくれるかな。 すぐ・・・来るから。 」
「 ええ・・・いいけど。 」
「 ありがと・・・・! 」
タクヤは汗塗れのまま ぱっと自分の楽屋に走っていった。
あの笑顔 ・・・ フランの笑顔を支えているのが彼女の家族なんだ・・・!
あの ・・・ 茶髪ダンナなんだ・・・・よなあ・・・ くそゥ〜〜〜!
「 フラン! お待たせ。 これ・・・! 」
「 ええ?? わたしに??? まあ・・・・ 」
ばさり・・・!
フランソワ−ズの腕にマ−ガレットの花束が舞い降りてきた。
「 オレから。 フラン、この花、好きだろ。 ・・・ 百合はちょっとな〜 」
タクヤはアルブレヒトの衣裳のまま すた!っと跪くとフランソワ−ズの手を取った。
そして
「 感謝と尊敬と。 愛をこめて! 」
ゆっくりと頭をたれると 優雅にその白い手に口付けをした。
・・・ キミが人妻でも 母親でも。 キミはオレの運命の女性 ( ひと ) だ・・・!
フランソワ−ズ・アルヌ−ル ・・・・!!!
「 ・・・ タクヤ ・・・ 」
この舞台での踊りが高く評価され やがて山内タクヤは海外のカンパニ−へ渡ることとなる。
「 ああ〜〜 いい舞台だったわね。 久し振りに感動したわ。 ねえ? 」
「 ・・・ うん。 」
「 タクヤが あんなに深みのある踊りをするなんて・・・ ああ、もう〜〜涙が出たわ。 」
「 ・・・ うん。 」
「 ねえ、ジョ−? あなたもそう思ったでしょう? 」
「 ・・・ うん。 」
公演の帰り、 後ろの席ではコドモ達がとっくにすうすう寝息をたてている。
「 ・・・ なあに、その返事。 なにが気に喰わないの。 」
「 ・・・ べつに。 ぼくはそんな・・・ 」
「 ジョ−ォ ・・・? 」
碧い瞳が ミラ−越しだがまっすぐにジョ−を見つめている。
「 う・・・ うん ・・・ だってさ。 アイツ ・・・ フランのこと。 ず〜〜っと見つめてたじゃないか! 」
「 ええええ?? だって・・・ 彼、踊ってたのよ? 」
「 い、いや・・・ ぼくにだってわかるさ。 アイツ ・・・ きみと踊ってた。
アイツ 全身で きみと踊りたいって言ってた・・・ 」
「 ・・・ まあ ・・・・ 」
「 それにさ。 ほら・・・ 帰還した日。 コズミ博士のとこで・・・・
きみ、アイツのこと、ひっぱたっく・・・!って思ったよ。 」
「 あら・・・ あの時のこと? いやぁねえ・・・ ふふふ・・・わたしが今まで平手打ちをした男性はね。
・・・ ジョ−、あなただけ、よ。 」
「 ・・・ え ・・・ 」
「 ああ、喧嘩とかは別だけど。 ふふふ・・・ 愛のムチ〜〜♪ってネ。 」
「 ふ、ふん・・・! だけど。 きみの夫は ぼく だから! いいな! 」
ジョ−は左手で ぎゅ・・・・っと彼の妻の手を握った。
「 ちょ・・・ 危ないわよ! でも。 ふふふ・・・ ヤキモチ焼きさんのジョ−・・
そんなアナタが世界で一番アイシテルわ♪ 」
「 ・・・ フラン〜〜♪ きみは! ぼくの、ぼくだけの 運命の女性 ( ひと ) なんだ! んんん〜〜 」
「 ・・・ あ! ちょっと・・・!! ダメよ、いくらジョ−でも! 運転中よ、後ろには子供達がいるのよ! 」
「 う〜〜〜〜〜 それじゃ。 早くウチに帰ろう〜〜〜 」
「 ・・・え? わあ・・・ちょっと〜〜 気をつけて・・・! 」
「 ふん。 ハリケ−ン・ジョウ を甘くみるなよ〜〜 」
「 ・・・うわ ! きゃあ〜〜〜♪ 」
かさり ・・・ フランソワ−ズの腕の中で。 マ-ガレットの花束がちょこっと・・・揺れていた。
カツカツカツ・・・・
軽い足音が近づいてきた。 タクヤはゆっくりと墓碑の前から立ち上がる。
きらり、と彼の鬢には白いものが 早春の光に煌いた。
「 ・・・ やっぱり! タクヤお兄さ〜〜ん! 」
「 ?? ・・・ ああ ・・・! すぴかちゃん。 」
「 そうよ! す ぴ か。 ・・・ふふふ・・・お久し振り〜〜 もうじきすばるも来るはずよ。 」
「 元気そうだね。 ・・・ごめん、一瞬 ・・・ そのう ・・・ 君のお母さんかと思った。 」
「 あらあ〜〜 アタシ、もうと〜〜っくにお母さんのトシを追い越していてよ? 」
「 あはは・・・ オレもさ、<タクヤお兄さん>って呼ばれるのは もう何年ぶりかな。 」
「 百合の花束があったから。 絶対にタクヤお兄さんだと思ったの。 」
「 ははは・・・バレバレだなあ。 」
「 そうよ〜〜 ・・・ アルブレヒトになってきた? 」
「 ・・・ ああ。 一世一代、アイツになり切ってきた。 ・・・ もう、あのソロは踊れないけどね。 」
「 お母さんさ。 きっと ・・・ 見てるよ。 」
「 ああ。 見届けてくれている。 オレには判るんだ。 」
「 ・・・ そうよね。 ふふふ・・・それでさ、隣でね、お父さんがまたヤキモチ焼いてるよ? 」
「 おう、 それじゃもっと 熱〜〜く告白したほうがよかったかなあ。 」
「 あははは・・・そうかも・・・ 」
「 すぴかちゃん。 ありがとう・・・ 」
「 え? なにが〜〜? 」
「 うん・・・ こうやってさ、彼女のこと、話せる相手がいて。 オレは幸せモノだ。 」
「 ふふふ・・・アタシもよ。 お父さん達のこと、覚えていてくれるヒトがいて。 」
「 ・・・ 忘れることなんかできないよ。 」
「 うん。 ・・・ そうだね。 そうだよね・・・ 」
「 ああ。 オレの ・・・ 運命の女性 ( ひと ) だもの。 」
「 ほらほらほら・・・ お父さんが睨んでるよ〜〜 」
「 ははは・・・ 」
タクヤは ぽん・・・っとすぴかの頭に手を置く。
「 ・・・ いいさ。 そのうち、オレもあっちに行くもの。 そしたら・・・! 」
「 うん。 思いっきり踊って。 お母さんをさ、思いっきり踊らせてあげてよ。 」
「 勿論 そのつもりさ。 ・・・ ああ・・・ いい空だ・・・そろそろ桜が咲くな。 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
お父さん お母さん ・・・!
アタシも すばるも。 そう、タクヤお兄さんも・・・ 皆 元気だよ!
見ていてね・・・!! ずっと、ね!
すぴかは 春まだ浅い空にむかって大きく手を振った。
*********************** Fin.
**************************
Last updated : 03,24,2009. back / index
************* 後書きにかえて ****************
・・・やっと終わりました。 ふうう・・・・ 書きたいコトが山盛りで・・・・
話が散漫になってしまったかもしれません、すみません〜〜 <(_
_)>
要するに! <島村さんち> は今日も皆、仲良く暮らしているのです♪
そうそう・・・タクヤくんにつきましたては 【 島村さんち 】 の
準レギュラ−・キャラですので、 お暇な時にでも ↑ をご訪問くださいませ。
二人であ〜でもない・こ〜でもない・・・と考えました♪ ( 楽しかったですよん♪ )
二週にわたりお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
イラスト〜〜〜 届きました♪♪ これこれ〜〜このほんわかタッチ〜〜〜
これが 【 島村さんち 】 なのです♪♪ ( 3/26 追記