『  恋唄  ( こいうた )  』        

      

― あと少しだけ同じ夢を見たいな ―

 

 

 

 

**** 前書き ****

これも <そうだったらいいのにな♪> シリ−ズ?かもしれません。

超難解な 原作・『 海底ピラミッド編 』、 浅学菲才な管理人には

手も足も出ません〜〜〜 ので♪ ほんの初めの部分だけを

ちょっと捏造、らぶ度アップ〜して見ました。

・・・・ 原作後期ですから。 93、ほとんど夫婦の絆です (^.^)

 

 

 

 

 

「 お帰りなさい。 長旅、お疲れ様〜 」

「 ・・・・ ただいま、フランソワ−ズ。 」

 

ギルモア邸の玄関先、オ−トロックが外来者に反応するよりも先にぱっと内側からドアが開かれた。

一瞬、足を止めた黒い肌の青年は すぐに飛びついて出迎えてくれた少女を抱きとめた。

亜麻色の髪が揺れ、懐かしいシャボンの香りが匂いたつ。

青年は少々くたびれた自分の旅行着姿に 気が引けてしまった。

 

 

  ただいま。   お帰りなさい。

 

この国にしかないこの挨拶を彼らはいつしか全員が口にするようになった。

一人を除いてはそれまで縁も所縁もなかったこの極東の島国であるが

今では第二の故郷、になっていた。

そして・・・ やわらかな、曖昧とも言える気候風土や生活習慣にも馴染んでいた。

 

 

   − ただいま。

 

  そう、ここは自分たちの ホ−ム。

 

   − おかえりなさい。

 

  出迎えてくれる少女の穏やかな笑顔に ほっとする。

 

 

やんわりと少女の身体を離すと、青年は自分のジャケットをひっぱり渋面をつくってみせた。

「 ごめん・・・ 僕、埃だらけだよ。 故郷 ( くに ) を出てからこのままだし・・・ 」

「 あら・・・どうぞ気にしないで。 あなたが一番遠いのですもの。

 チケット、取れてよかったわね。 ・・・ 急に呼び寄せて ・・・ ごめんなさいね。 」

「 僕らの<仕事>じゃないか。 君が謝ること、ないだろ。 」

「 ええ・・・ それは そうなんだけど・・・ 」

とりあえず荷物を解いたらリビングにきて、と少女は明るく言った。

「 お茶にしましょ。 大人が張り切っているわ。 

 今日のオヤツは 飲茶よ♪ 」

「 お、いいね。 ・・・全員集合、かい? また、僕がラストかな。 」

「 ううん。 直行便が沢山ある国に住んでて、一番便利なはずの誰かさんがまだなの。

 なんとか今日中にはナリタに着く予定なんだけど。 」

「 ははは ・・・ 相変わらずだね。 自分の<足>で飛んでくる方がはえぇぜ!なんて

 文句いってるよ、きっと。 」

「 ふふふ・・・ そうね。  あ、そうそう、お風呂沸いているのよ。 よかったらどうぞ。 」

「 へえ? ・・・うん、いいねぇ。 久し振りにニホン式バスを楽しもうかな。 」

「 お茶は いつもと同じ時間だから大丈夫。 どうぞごゆっくり。 」

「 ありがとう。 」

 

青年な少女の明るい笑顔をちょっと眩しそうに見つめた。

 

 − 元気そうなのは結構だけど。

 

今回の集合は クリスマスとか誰かの誕生日とか ・・・ 

そんな楽しい目的での集合ではないのに。

成り行きによっては また、あの赤い服に身を包む日々に繋がるかもしれないのに。

 

彼女の微笑みはあまりにも屈託がなく、輝いてすら見えた。

 

  戦争、殺人 ・・・!  もう闘いは沢山よっ

  

  わたしはゴメンだわ! これ以上の能力 ( ちから ) なんてまっぴら!

 

  いやよ! わたしは行かないわっ

 

青年の脳裏に悲鳴に近い彼女の抗議と激しい嫌悪の表情がいくつも浮かんだ。

仲間内の誰よりも激しく・深く 闘いを嫌っていた彼女が、こんな時に

どうしてこんな ・・・ 素直な笑を浮かべることができるのだろうか。

 

「 ・・・ あの・・・ ? 」

「 なあに。 」

自室への階段を昇り始めてから、青年はリビングに向かう少女の背に

思わず声をかけてしいまった。

 

「 ・・・ 君は今、 ・・・ しあわせ? フランソワ−ズ。 」

「 ええ、もちろんよ、 ピュンマ 」

 

満面の笑みに彩られた答えが 何のためらいもなくすぐに返って来た。

 

・・・そう・・・ そうか。 君が幸せなら 僕はそれで十分さ。

 

青年は黙って頷き返すと、軽い足取りで階段を登っていった。

 

 

 

・・・ もう、何年になるだろう。

初めて出会った時から暗い瞳をした笑わない娘だった。

もっともあの状況で 普通のあの年頃の娘達と同じに振舞っていたとしたら

むしろ、そのほうがはるかに不自然だ。

 

青い瞳はきつく射るように向けられ、口元から零れるのは無機質なデ−タだけだった。

彼女のコ−ド・ナンバ−が示す通り、この集団に属したのはかなり以前であったようだ。

射撃の腕前、訓練での身のこなし、合同演習での身の処し方 ・・・ 

彼女のすべてに 青年は舌を巻いた。

彼自身、似たような活動の経験は豊富だったから彼女がいかに訓練されているのか、

も容易に察しられた。

 

それゆえに、密かにこころを痛めていた。

 

  − ・・・ 可哀想に ・・・・

 

勿論決して口には出さなかったし、その素振りもみせなかったが、

青年にはおよそ喜怒哀楽の一片も見せずに淡々と硝煙漂う日々を送っている彼女が

痛々しくてならなかった。

 

自分も、仲間たちも、・・・ 彼女も。

望んでこの立場に身を投じたのではないのだから、当たり前ではあるけれど。

あの絶海の孤島での日々は ヒトとしての暮らしではなかった。

逃亡は完全に封じられ、人間としての人格などとうに無視され

・・・ ただ その日、その日を生き延びるだけ。

生き延びたところで そこに喜びなどはなく、次第に絶望すらも感じなくなっていった。

 

青年の郷里での状況は ヘタをするともっと劣悪だったがそこには希望があった。

程遠いかもしれないが、目標が、夢があった。

 

しかし。 あの日々には ・・・ なにも なかった。

 

無味乾燥な日々が過ぎてゆく中で、何かの折に彼女には兄がいることを知った。

被験体同士でお互いの環境・経歴を話す機会などほとんどなかったから、

それは単なるウワサ話程度であったけれど。

 

  − 妹、なのか。

 

チリリ・・・と青年の心の奥の奥が痛んだ。

同時に自分と同じ大地色の瞳をした少女の笑顔が自然に眼の裏に浮かぶ。

 

もしも。

自分だったら。 もし、いま、ここに自分の替わりに妹がいるのなら。

 

  - ・・・ 僕は 気が狂ってしまうかもしれない・・・

 

青年は、彼女の兄が<この状況>を知らないことを神に感謝し、

また、サイボ−グ008 が他ならぬ自分自身であることにほっと安堵したのだった。

 

  − 妹だけは。 こんな境遇に堕としたくはない。

 

そんな思いがあの過酷な日々、彼を支えていたのかもしれなかった。

 

 

 

 

「 ねえ、ピュンマ? 」

「 ・・・え ・・・ あ、ゴメン。 あの・・・? 」

いきなり青い瞳にのぞきこまれ、青年はまさに飛び上がらんばかりに驚いてしまった。

 

「 いやぁだぁ〜 ジョ−みたい。 聞いてなかったの? 」

「 ・・・ごめん。 なんだかぼんやりしてて ・・・ その ・・・? 」

「 まあまあ・・・ 座り詰めの長旅じゃもの、しかたあるまいて。 」

紅茶の湯気の向こうから 博士が援け舟をだしてくれた。

青年は頭を掻き、少女に素直にあやまった。

「 ごめん。 時差ボケとかじゃないんだけど。 ここに、このリビングに座って

 お茶のいい匂いがながれてきたら・・・ ぼ〜っとしちゃった。 」

「 このお茶、いい香りでしょう? グレ−トのお土産なのよ。

 あとね、このジャム。 この前、あなたが美味しいっていってくれた

 マ−マレ−ドよ。 庭の、ほら、あの夏蜜柑で作ったの。 」

「 ふうん? ・・・ あ、 あの味だね。 うん、ほろ苦くて美味しいなあ。 」

青年は 皿に並んだスコ−ンに山盛りマ−マレ−ドを乗せ、大口をあけぱくついた。

そんな彼を白髪の老人と少女はにこにこと見守っている。

 

「 ・・・ みんなはどうしたの? ジェット以外はもう到着しているんだろ。 

 ああ、大人にはキッチンで会ったけどさ。 」

「 もうそろそろ皆帰ってくるとおもうわ。 お茶タイムは時間厳守、ですもの♪ 」

「 そうなんだ・・・ それで ・・・ 」

 

「 ヤアヤア! 飲茶をそろそろ運んできてもいいアルか? 」

「 大人。 ええ、 遅刻組はほうっておきましょう。 」

「 ほっほ。 ほんなら、蒸篭を火にかけて来ますよって・・・ 」

「 楽しみにしているよ、大人。 」

 

それで、彼もでかけているのかい、と口先まで昇った言葉は大人の賑やかな声音に

飲み込まれてしまった。

 

まるで時間を見計らったかのように、幾皿もの飲茶がギルモア邸のリビングに並ぶ頃

仲間たちは次々に帰宅した。

「 おう。 遠いところをご苦労さん。 」

「 ・・・ 家族に会えるのは嬉しいことだ。 元気そうだな。 」

「 おお ・・・ 友あり、遠方より来る。 また楽しからずや。 うむ、ご機嫌はいかがかな。 」

 

賑やかな挨拶もそこそこに皆は満面の笑みでお茶の席に着いた。

 

「 ・・・ こんな形で諸君に集まってもらいたくはなかったのじゃが。 」

 

皿・小鉢の音がひとしきり落ち着いた時分に ギルモア博士がぽつんと呟いた。

 

「 知ってしまった以上、当然でしょう。 早晩、我々が影響を被るのは確実だし。 」

「 左様、左様。 義をみてせざるは勇無きなり、とな。

 あの親子を守るためにも、我々の出番は間近ですな。 」

落ち着いた口調でアルベルトが淡々と、それこそごく当たり前に答え、

グレ−トも大きく頷いて同調した。

「 理屈はヌキってこった。 やる時は徹底的にやろうぜ。 」

お茶タイムにも遅刻してきたジェットは、関心はまだ飲茶の方に傾けていたが

彼なりにヤル気を示した。

「 博士、気使いはいらない。 皆、仲間。 」

「 そうアル。 さ〜 みんな、たんと食べて欲しいアル。

 腹が減っては戦はできぬ、は古来よりの真実ネ 」

 

「 ・・・ ありがとう。 ピュンマ、今までも経緯はアルベルトに訊いておくれ。

 そして改めて君の意見を聞きたいでの。 時間はそんなに無いが・・・

 焦る必要もないだろうよ。 」

「 はい、博士。 」

「 では諸君、頼んだぞ。 」

博士はアルベルトを見返るとナプキンを置き食卓を立った。

 

「 了解。 ・・・ それじゃ、1時間後にミ−ティングだ。 」

「 おう。 」

アルベルトの言葉に全員が応じた。

そしてまだ、食卓に張り付いている赤毛を残し、てんでにリビングを引き上げていった。

 

 

「 ・・・ ねえ、フランソワ−ズ・・・? 」

「 あら、なあに、ピュンマ。 お水なら、冷蔵庫にペットボトルが ・・・ 」

「 うん・・・あの、さ。 」

 

アルベルトとの打ち合わせを終え、ピュンマはそのままキッチンに顔を出した。

布巾を手に取ると、彼は洗い物をしている彼女の横に並んだ。

 

そこには いつも。 決まった人影が立っている <指定席> なのだが。

 

ごく自然に洗いあがった食器を受け取って拭きつつ、ピュンマは珍しく口篭っていた。

「 その・・・ 今度の ・・・ 」

「 ああ、アルベルトから聞いたでしょう。 

 そうだわ、今回の事件の発端となった サヤエンドウ をみつけた場所を案内するわね。

 時間があれば 潜ってみる? 現場の状況について専門家の意見も必要だわ。 」

「 ・・・ ああ、僕でよかったら。 」

「 そう? じゃ ・・・ ここはざっと済ませて、行って見ましょう。 」

「 あ、ああ。 」

 

 − なあ。 アイツは どうしたんだい。 

 

ピュンマはどうしてもこの言葉を口にすることが出来なかった。

一見、穏やかで長閑なティ−・タイム。

皆、口々に再会の悦びを述べていたが その雰囲気はあまりに明る過ぎた。

咽喉にひっかかった棘に 皆が悩みつつも、誰もが陽気に振舞っていた。

 

 ・・・アイツの不在を誰もが 気付かない振りをしている。

 

大人の心尽くしを堪能しつつも。 彼女のお手製のスコ−ンを楽しみつつも。

ピュンマはリビングに流れる緊張した空気を見逃しはしなかった。

 

いや。

この事について全員がぴりぴりと神経を尖らせていることを 悟らせまい、

と努力しているのだ。

そう、 一番心を痛めているであろう彼女に気を使い、

戦闘時以上に 神経を張詰めているのだ。

 

よほど ヤバい状況なのだろうか。

 

自室に戻ってからも堂々巡りの憶測にどうしようもなく、気分を変えようと

彼はス−ツケ−スからあの特殊な服を取り出した。

 

 ・・・ 久し振り、だね。

 

シワなどになるはずもないのだが、きっちりとハンガ−にかけると

彼は丁寧にブラシをかけ、長いマフラ−をぱん、と伸ばした。

 

君とまた、一緒だ。 よろしく! 

 

今は第二の皮膚ともなった赤い服に、ピュンマはかるく手を当てエ−ルを送った。

こいつと一緒に生死の境を切り抜けてきた。

そもそもはあの悪魔どもの製作であり、当初は嫌悪の象徴でもあったのだが・・・

長い年月を経、幾多の<嵐>を潜り抜けてきた今、この特殊な服はこよなき戦友となった。

 

僕の全てを、いや、僕の本心を知っているのは君だけだろうね。

 

できれば ・・・ 生涯一緒がいいな。

・・・そうだね、妹に見せたらなんて言うかな。

よく似合うって褒めてくれる ・・・ よね?

・・・ なあ、また彼女と会う・・・その日まで君と一緒かもしれないね。

いや ・・・ その日 も僕は君を纏っていたいな。

 

 

「 ピュンマ〜〜〜 よかったら。 行ってみない? 」

「 今、行くよ! 」

 

階下から少女の高声が呼ぶ。

青年はぼんやりと防護服を眺めていたが、すぐに朗らかに答えるとドアから飛び出していった。

 

 

 

「 ほら。 ここなのよ。 ここから ・・・ 飛び込んでずっと潜っていってね。

 それで あの奇妙なサヤエンドウ型の潜水艇を見つけてきたの。 」

「 ・・・ ふうん ・・・ ココからだと かなりの高さだね。 」

「 ふふ・・・ わたしが大丈夫?って声かけたらね。

 平気平気〜って言って。 飛び込んだ後もわざとなかなか上がって来なかったのよ。」

「 そりゃ・・・ いくら ・・・ 彼でも。 危険だよ。 」

青年は少女と並んで断崖の上に立ち、煌く海面を見下ろしていた。

 

 − 勿論、僕ならどうってことはないけど。 

 

岩場は海中にまで続いていたから、さすがにちょっと心配になった。

・・・ まさか ・・・?

いや。 そんなワケはない。 なにしろアイツは<オ−ル・マイティ> な存在のはずだから。

青年は首を捻りつつも、慌てて妙な考えを打ち消した。

そんな彼に少女はまたも、爽やかな笑い声を上げる。

 

「 それがね〜 ワザとなの。 心配させようって思ったらしくて。

 わざとず〜っと潜っていたのよ。 でもね〜 わたしには<聞こえる>でしょ。 」

「 あ・・・ そうだね。 」

「 それで ・・・ あのサヤエンドウを見つけてきたのよ。 ほら、さっき写真でみたでしょう? 」

「 ああ。 あの日本人のダイバ−が乗ってたってヤツ。 」

「 ええ。 」

「 ねえ、フランソワ−ズ? 」

青年は意を決し、彼女と正面から向き合った。

「 なあに。 」

 

「 ジョ−は。 彼はどうしたのかい。 どこへ 行っているの。 」

 

「 ・・・ わからないのよ。 」

 

・・・ え ・・・ ?

 

予期していなかった答えが あまりにも早く、そしてすらり、と彼女の口から返って来た。

彼はまじまじと彼女の顔をみつめたが、その微笑は微塵も陰ることはなかった。

駅前まで 買い物に行っているわ ・・・ そんな口ぶりと大して変りはないのだ。

 

「 ・・・ わからない、って ・・・ どういうことなんだい。 」

「 だから。 わからないの。 あのダイバ−さんのご家族を助けた話は聞いたでしょ。

 その時、真っ黒なモンスタ−が海中から現れて・・・ ソレはジョ−が破壊したのだけれど。 」

「 ああ、アルベルトから聞いたよ。 残骸がどこにも見当たらないんだってね。 」

「 そうなの。 ジョ−と大人とわたしとで、確かにス−パ−ガンを撃ったわ。

 手ごたえもあったの。 でも急に ・・・ エネルギ−を吸い取られるみたいになって・・・ 」

「 何か特殊な装置があったのかい。 」

「 わからない。 ともかく ・・・ 精気を盗られるってああいうコトなのかもしれないわ。 」

フランソワ−ズの声は少しだけ語尾が震えていた。

明るい真昼の太陽の下、広々とした海原を眼にとても現実とは思えない話だった。

 

「 それで。 ジョ−は。 」

「 ・・・ええ・・・ あのサヤエンドウに乗って ・・・ 博士がすこし改造したのよ。

 <捕らわれた>風を装ってあの機械の自動操縦に<乗って>行ったの。 」

「 そんな ・・・!! 」

「 脳波通信の可能な範囲を超えたのか、妨害されているのか ・・・

 連絡は一切取れないのよ。 」

「 だって、フランソワ−ズ! みんなは ソレを知っているのかい。

 承知の上で ・・・ ただ、待っているだけなのか? 彼を助けに・・・いや捜しにゆかなくちゃ! 」

ピュンマはつい、声を荒げてしまった。

 

そんな ・・・ イチかバチかみたいな行動をとるなんて ・・・!

それを 黙認しているなんて。 どうかしてるよ!

・・・ 僕が行く。 今から、彼の後を追ってみる。 僕なら追いつけるかもしれない。

 

 

「 ピュンマ。 」

 

今にも崖から飛び込みそうな勢いの青年にフランソワ−ズは穏やかに声をかけた。

「 ジョ−は。 ・・・ 彼なりに勝算があるのだと思うの。

 それで ああいう行動を取ったのよ。 」

「 ・・・ 無茶だよ! ワケも判らない相手に単独行動なんて。 」

「 ううん。 単独じゃないわ。 ジョ−は出掛けに あなた達を、みんなを呼ぶように、って 」

「 ・・・・・・ 」

「 全員でフォロ−してくれるって信じているから、ジョ−は出かけたのよ。

 戻ってくる。 きっと ・・・ コンタクトしてくるわ。 」

「 君は ・・・ 心配じゃないのかい、フランソワ−ズ! 」

 

 

海風が 二人の間を吹きぬけた。

岩場に砕ける波音だけが 淡々と真昼の太陽のしたに響く。

 

・・・ ごめん。

 

ちいさな沈黙ののち、青年はぽつり、と呟いた。

 

ううん。 ・・・ 心配してくれて ありがとう。

 

亜麻色の髪が 優しく揺れた。

聞いてくれる? と彼女は青年を促して松の根方に腰をおろした。

 

 

「 わたし。 ・・・わたし達、ね。 決めていることがあるの。

 わたし はどんな状況でもジョ−を信じてる。

 ジョ−も。 わたしを信じているのよ。

 

 だから。 きっと。 ・・・ ううん、絶対に。

 彼は帰ってくるわ。 わたしの元に帰ってくるの。 」

 

・・・うん。

 

青年は咽喉の奥で答え、ただ風に眼を細め頷く。

 

 

「 そして。

 ジョ−とわたしは。 二人で同じ方向を見定めて同じ夢を見て

 同じ目的を達成するために 進んでゆくのよ。

 

 闘いは嫌い。 戦争・殺人 ・・・ 人殺しは真っ平よ!

 でも、ね。

 またミッションに出かけるのは 嬉しいわ。

 いつだって同じ方向を見つめていられるんですもの。 

 

 ・・・ どんな結果に終ろうとも、一緒なら怖くない。 」

 

そうだね・・・。

 

ちょっとだけ声に出して、青年は真っ青な空を仰ぐ。

 

 

「 だから。

 今 ・・・ わたしは 幸せなの。 

 

 ジョ−と同じ夢をみているんだもの。 

 そうね ・・・ 離れてても一緒に歌っているみたいに。 」

 

 

さあ、だからわたし達は 準備をしておかなくちゃ。

いつでも、彼の GOサインに応じられるようにね。

 

 

ぱん、とワンピ−スの裾を払うと、フランソワ−ズは勢い良く立ち上がった。

風にあおられた髪が きらきらと彼女の顔を縁取る。

 

 

 − 女神 ・・・ 勝利の女神は ・・・ きみなんだ。

    そうだね。  

    だから ・・・ 彼はきっと 戻ってくる。

 

 

「 じゃ・・・ 僕は僕のミッションを果たしくる。

 ジョ−と同じ経由で ちょっと海中探索をしてくるよ。 」

 

白い歯を見せると、青年はそのまま・・・ 軽々と宙に身を躍らせ

一直線に 大海原をめがけて飛んでいった。

 

 

   − ピュンマったら ・・・・ !

 

彼女の呆れた声を はるか背後に聞き流し 青年は黒い矢となり

奔流となって 波間に吸い込まれてゆく。

 

 

 

ねえ、フランソワ−ズ。

 

僕は ・・・ 君の側にいると <兄> でいられることに気がついた。

妹は。 ・・・ 僕の妹は もう思い出の中でしか生きてはいない。

 

でも。

 

君を眺め、君と話をし、・・・ 時の悩みなんかを聞いているとき、

僕は まだ お兄ちゃん でいられる。

 

それは 一時の夢。 お前の都合のいい白昼夢。

そんな意地悪な声が 聞こえては来るけれど・・・

 

僕も。 ねえ、フランソワ−ズ。

 

僕も あと少しだけ。  ・・・そう、少しだけでいいんだ。

僕も その唄を一緒に歌っていたい。

 

きみも。 彼も。 ・・・ そして 僕も。 

これはもしかしたら ・・・ 恋の唄、かな。

ふふふ ・・・ ジョ−? 心配しなくても大丈夫だよ。

僕が恋しているのは 妹 な彼女。

僕が望んでいるのは 兄としての夢。

 

 

 あの頃と あの人と  同じ夢をみていたい ・・・ ってね。

 

 

海はその賛美者を微笑んで迎え 彼の恋唄をたゆとう波間にちりばめていった。

 

 

 

 《 ・・・ フランソワ−ズ ・・・?? みんな? 聴こえるかい? 》

 

 その日の夜半すぎ、全員にジョ−からの脳波通信が入った。

 

 − 彼らのミッションが 始まった。

 

 

 

******  Fin.   ******

 

Last updated: 08,22,2006.                              index

 

 

***   ひと言   ***

93らぶ・・・・なのですが、肝心のジョ−君、ご不在で最後の一言だけの出演であります。

海が舞台ですし〜 お誕生日月ですので♪ 8サンに 出張っていただきました。

8様〜〜〜 2日遅れですがお誕生日おめでとうございます♪♪♪