『 ウチの家族 ― (1) ― 』
ガサ ゴソ ゴソ ・・・ コトン。
「 ただいま~~~ おか~さん おみやげ~ 」
すぴかは 色とりどりのカワイイ小さな包みをリビングのテーブルに置いた。
「 お帰りなさい。 ? すぴかさん それ ・・・ 買ってきたの? 」
フランソワーズは怪訝な顔で娘を見た。
「 ちがうよ~ 」
「 でも なんかキレイな包みばかりよ? あら いい匂い・・・ チョコ? 」
「 ぜ~んぶ チョコだよ。 」
「 ? すぴかさん、チョコ 好きじゃないでしょう? 」
「 ん。 お母さんとすばるで食べて~ 」
「 でも わざわざ買ってきてくれた ・・・ あ! 今日ってバレンタイン ? 」
「 そ。 もらった、アタシ。 」
「 ・・・ ああ そうなの ・・・ え?? < もらった > ??
す すぴかさんが ??? 」
「 そ。 ゲタ箱とか部室のロッカーとかに入ってた~ 」
「 誰か男子とのマチガイ じゃなくて? 」
「 すぴか様 って書いてあるも~ん。
ね それよかさ~ 今日ってば おと~さん また袋いっぱいもらってくるんだろ~ね~ 」
「 多分 ね。 すばるも ね 」
母は微妙な笑いを浮かべ 溜息をつく。
しょ~がねじゃん・・・といった顔で 娘も肩を竦めた。
「 ふ~ん アタシ 負けてるね~ 」
「 すぴかさんは 渡す方でしょう?? 」
「 アタシはべつに~ 渡したいヒトって タクヤお兄さんだけだも~ん
ね!ちゃんと渡してくれた おか~さん! 」
「 はいはい ちゃんと渡しましたよ。 タクヤったらびっくり・・・
目がまん丸だったわよ 」
「 え~~~ だってさあ~ タクヤお兄さんってばモッテモテでしょ~~
お父さんといい勝負なんじゃない? 」
「 お父さんよりスゴイわよ。 タクヤはもう慣れっこみたい 」
「 へえ・・・ じゃ アタシのなんか目立たないよね~ 」
「 ううん タクヤってばものすご~く喜んでたわ。
うひゃあ~ すぴかちゃんからだあ~~って 」
「 そ? あ お母さんもあげた? タクヤお兄さんに さ。 」
「 お父さんにはナイショよ? ・・・ 渡しました。 」
「 うひゃひゃ~ いいなああ~~ タクヤお兄さん、かっこいいもんね~ 」
「 ― お父さんだってカッコいいわよ! 世界で一番かっこいいわ!
すぴかさん お父さんにチョコ、渡すでしょ? 」
「 あ は~いはい シツレイいたしました~~~ はいはい、 チョコね~
おと~さんの 枕もとに置いとくよ。
じゃ さ~ コレ お母さんとすばるで食べてね~~ アタシはおせんべ~~っと 」
すぴかは キッチンのパントリーにお煎餅のカンを取りに行ってしまった。
「 すぴかさんってば ・・・・ あ~あ・・・ どうしましょ 」
フランソワーズは フクザツなため息をついた。
あ~あ ・・・ 今年もチョコだらけの日 か ・・・
その夜 ・・・ もうかなり遅い時間。
ふう ・・・ あ~あ・・・
いつもは足取りも軽く気持ちも最高に軽くくぐる門を ゆっくりと開ける。
玄関まで のろのろと歩く。
「 ただいま ・・・ 」
ジョーは 少々重い気分で 玄関のチャイムを押した。
ガサ ゴソ。 ゴソ ・・・・
片手に下げた紙袋はやたら嵩張りジャマ臭く
かつ 甘ったる~い匂いを撒き散らしている。
「 あ~あ
… 」
ガチャリ。 すぐにドアが開き彼の愛妻が笑顔をみせた。
「 お帰りなさい 」
「 ただいま … 頼む。 」
彼は彼の細君に深々とアタマをさげると 件の紙袋を差し出した。
「 はい
了解。 」
軽いため息と一緒に
彼女は受け取ってくれた。
「 うん ・・・ 」
「 ご飯 熱々よ? ほらほら・・・寒かったでしょう? 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
いつもは嬉しい彼女の笑顔が ― 今日は彼の心に突き刺さるのだ。
「 ? なんだ ・・・? 」
彼女の後からリビングに入ると ― テ―ブルの上が賑やかだ。
「 え? ああ ・・・ それ、すぴかが貰ってきたのよ、今日。
」
「 ? はへ? な な なんだって? 」
「 だ~から。 すぴか が、 ジョーの娘が 貰ってきた バレンタインのチョコ です。 」
フランソワ―ズは ごく普通に答える。
「 す す すばる じゃなく? 」
「 ああ すばる
の分は こっち。 」
彼女が指す方を見れば ― テーブルの脇に 包みの山が放置してあった。
う …
ま 負けた かも? あんのチビに~~
ジョーは一瞬マジで ちくしょ~~ と思った。
「 え なあに? 」
「 い
いや その … なんでもナイ・・・ 」
「 あ~~ 来月は すばるの分もお返し かんがえなくちゃ はあ … 」
「 す
すまん ・・・ 」
ジョーは
本気で 妻にアタマを下げた。
「 毎年のことですから … 」
「 ごめん 」
「 ジョーが悪いのじゃないでしょ? 」
「 そう だ
けどもなあ ・・・ すばるのヤツ~~ いつの間に~~ 」
「 はい?
」
「 ― いや 別に。 」
トントン ・・・ ガチャ。
「 おと~さん? お帰り~ ~ 」
リビングの入り口から
当家の長女が ひょっこり顔をだした。
スウェットのパジャマに トレーナーを引っ掛けている。
「 あ
あ~ タダイマ すぴか … あの~
チョコ … ? 」
「 は~い
これ おと~さんに☆ 」
ジョーの娘は ピンク色の包みをちょん、と父親の手に押し付けた。
「 あ ありがと~~
すぴか~~ 嬉しいよ~~~ 」
「 あはは どうせ本命はおか~さんでしょ~ アタシはオマケでいいんだから 」
「 そ そんなことないよ! すぴかはお父さんの宝モノだもの! 」
「 あはは そ~ゆ~ことにしときますか 」
「 マジだぞ、お父さんは! すぴかがヨソの男に笑いかけるたびに
お父さん も~~~ ヤキモチぼ~ぼ~なんだから! 」
「 えへ?? なにそれ~~ あはは おっかし~~~~
」
中二の娘はお腹を抱えて大笑い・・・
ジョーもつられてなんとなく楽しくなってきた。
「 あはは・・・ 安心してよ、おと~さん 」
「 うん? 」
「 アタシがチョコをあげるのはねえ おと~さん と おじいちゃま と
タクヤお兄さん
だけだよ ~ん。 」
「 ― え? 」
「 あ すばるにもいちお~。 」
「 そ そうかい? で 今日 すぴかももらったんだろ? チョコ・・ 」
「 あ ~ な~んか部活の後輩とかあ~ あ 先輩も くれた。
一年のコなんかさあ~ 好きデス なんて真っ赤になってた~~ 」
「 ・・・ そ そりゃよかった ・・・ 」
「 おか~さん お煎餅ある? あ ・・・ それでいいや。 」
すぴかは 草加せんべいを咥えるとご機嫌ちゃんで部屋に戻っていった。
「 ・・・ 男子 っぽいな~ カッコいい ・・・ 」
ジョーはぼけ・・・っと自分の娘を見送った。
「 ジョー。 じょ~だんじゃないわよ?? すぴかは オンナノコなのよ? 」
フランソワーズが渋面している。
「 あ あ~ 確かに ・・・ けどさ~ なんというか りりしい っていうか 」
「 まあね・・・ 走るの速いし 」
「 だろ~~ ふっふっふ~~~ さっすがぼくの娘~~~♪ 」
妙~にご機嫌ちゃんなジョーを眺め フランソワーズはこっそりため息をつく。
島村すぴか。 ジョーとフランソワーズの長女。
見た目は母親に似た < 美少女 > っぽいのだが。 中身は全然違う。
きりっと細身で足が速く さばさばしてて、チビの頃から < 正義の味方>、弱いモノの味方だ。
そんなすぴかは人気があるのだ。 特にオンナノコに ・・・
中学生になり バスケ部に入り中二の秋にキャプテンになった。
今 下級生からは 憧れのマト といったところなのかもしれない。
同学年の男子部員とも ほぼ互角にプレイできるらしい。
「 よお すぴか。 な~んかスタープレイヤーなんだって? 」
ジョーはつん・・・と金茶色のお下げをひっぱった。
「 あは~ そんなことないけど。 走るのは負けないからさ アタシ。 」
「 うん うん そうだよなあ 」
そろそろ父親との会話が減ってゆく年頃なのだが 部活の話などは結構二人で
盛り上がったり している。
「 すぴか 男子と張りあえるんだって? 」
「 え~~? なにそれ~ そりゃ試合したら男子には敵わないよ~~
けどさ シュートとかは~ ちょっと自信あるんだ ~ 」
好物の堅焼き煎餅を ばりばり齧りつつ、豪快に笑う。
「 へえ~~ シュート、上手いのかい? 」
「 そ。 フリースローとか~ まかせてよ~ 」
Vサインなんかしつつ笑う娘に もうジョーは目じりが下がりっぱなしだ。
「 すごいなあ~ お父さん、バスケはどうも・・・ シュートとかダメだった
走るのはまあまあ だったけど。 」
「 あはは ・・・ アタシのシュートはお母さん譲りだかんね~~ 」
「 え お母さんってば バスケやってのかな?? 」
「 さあ? けど 教えてくれた通りにやってるから アタシ。 」
「 そっか~ うん そうだよなあ お母さんはシュートとか抜群だろうな。」
「 へえ? お父さんってばお母さんがバスケしてたの、見たことあるんだ? 」
「 いや ないけどさ。 ・・・ お母さんはそういう一点を狙うってことが
旨いのさ。 」
「 ふうん ・・・ 」
すぴかは あんよし始めたころから走るのが速かった。
009の娘にはどうも 天性の加速装置 が搭載されているらしい。
高いシュート率は ― 母の指南だ。
射撃抜群の腕前の003に すぴかは < マトに中てる > コツを直接伝授されていた。
「 アタシがさ 庭でフリースローの練習してたら おか~さんってば
洗濯モノ取り込みながら教えてくれたんだ
」
「 へえ~ すごいなあ ・・・ なんて? 」
「 ウン。 すぴかの投げ方を覚えなさいって。 それでシュートが決まる位置を
探してごらんってさ。 だから~ コーチなんかはさ 島村のシュートは不思議だって
いうよ~。 教則本とかのやり方とは全然違うのに~って。
」
「 あ ・・・ そうか うん うん ・・・そうなんだよなあ 」
ジョーは ふか~~くうなずいた。
「 あ お父さんもさ~ なんか教わったの? お母さんから 」
「 うん? ああ 教わったよ! ものすご~~く大切なことを ね。 」
「 ふうん ・・・ お母さんってスゴイよね~ 」
「 そうさ。 すぴかはそのお母さんの娘なんだよ? だから ― 」
「 お~~~っす! 次の試合~~~ 頑張りまっス! 」
ぴこん、と挙手の礼をすると すぴかはどたばた部屋に行ってしまった。
「 あ あ~~~ そ~いうコトじゃなかったんだけど ・・・ ま いっか。 」
ふう~ ばりん。 溜息をつき ジョーは娘が置いていった草加せんべいを齧った。
いい? 自分自身のクセをよ~く知るのよ。
ジョーには懐かしい言葉だ。
仲間達と出会ったばかりの頃 銃の扱いもままならない < 新人 > の009に、
003は厳しく指導した。
パシ パシ パシ ---っ !
積み上げた瓦礫のマトは 全然ヒットしない。
「 う~~~~ なんで中らないんだよ~~~~ 」
茶髪の少年は 手にした銃を恨めし気にみつめ、ボヤいている。
「 ・・・ ぼくの身体には自動なんとか装置 がついてるって言ってたぞ~~
それなのに~~~ なんでだよぉ~~ 壊れてるのかよ!? 」
彼はかなりの時間 熱心に練習をしているのだが ― 文字通り 的外れ なのだ。
「 ― 壊れてなんかいないわ。 」
「 ?? あ ・・・ 003 ・・・ 」
後ろから爽やかな声がして 紅一点のメンバーがふらり、とやってきた。
「 最新式の自動照準装置もね、 使いこなせなかったら意味なし よ。 」
「 ! けど < 自動 > なんだろ? 勝手に動くんじゃね? 」
「 わたし達 ・・ ロボットじゃないわ。 自分の意志で < 使う > の。 」
「 ・・・ 銃なんて 初めてだし。 どうやって使ったらいいか知らないし。
基本とか知らないから ― 全然中らない ・・・! 」
「 ― 009。 いい? まずは自分自身のクセを知るのよ。 」
「 ?? クセ ・・・? 」
「 どうしても少し下にさがるのなら マトの少し上に照準を合わせればいいの。
左右にぶれる時も同じよ。 」
「 あ ・・ な~る・・・ 」
「 基本っていうかお手本に自分を当てはめる必要はないわ。
要するに ― 命中することが目的でしょ 」
「 う うん 」
「 やみくもに練習するより まずは自分自身をよ~く知ること 」
「 ・・・ あ ありがとう ・・・! 」
ジョー、いや 009は 突然の運命の激変に緊張しっぱなしだったので
この時心底ほっとした気分だったのだ。
「 親切に教えてくれて ・・・ありがとうございました。 」
ジョーはぺこん、とアタマをさげた。
ジャパニーズ・ウェイ に慣れていないフランス乙女はちょっとばかり驚いていた。
「 誤解しないでよ? 一人でもミスがでればわたし達は ― やられるの!
」
「 う うん ・・・ 」
「 遊び じゃないわ。 命がかかってるのよ? 」
「 ― うん ・・・ 」
・・・! そ そういうコト か ・・
すう・・・っと淡く微笑み、彼女はさらり、と言ってのけたが ジョーの胸に
その笑みは深く深く刻みつけられたのだった。
「 はあ ・・・ すぴか が ねえ・・・ 百発百中 かあ ・・・
そんでもって女子からチョコ もらう のか ・・・・ 」
う~~ ふ く ざ つ ★ ・・・!
どこかのウマの骨に熱を上げて~~ ってのよりも
なんかなあ~~~ ・・・
フクザツ~な ショックだあ ・・・
文字通り ジョーは悶々としアタマを抱える。
ごく普通に? 憧れの男子にどきどきチョコを渡した・・・っていう方が
父親としてはよほど精神的に楽なのかもしれない。
「 はい これ。 」
ぽん。 ― 小さな包みがジョーの掌に乗っていた。
「 はへ? 」
「 これ・・・わたしから。 あ 古女房からなんて 嬉しくない? 」
碧い瞳が ジョーを覗きこみ微笑んでいる。
「 ! じょ じょ~だんじゃないよ~~ 世界一 さ~~~
ああ
ああ ありがとう~~ ぼくは シアワセ だあ~~~♪ 」
渋い金色の小さな包みを ジョーは本気で抱きしめた。
「 うふふ・・・ すぴかと一緒に作ったの。 手作りだから・・・
他の方たちみたいに有名なお店の高級チョコじゃなくてごめんなさいね。
」
「 そんなこと! だってこれ 世界に一つだけ なんだよ~~
うわ~~~ 嬉しい~~ フラン~~~ アイシテルぅ~~~ 」
ジョーはチョコと一緒に彼の愛妻を抱きしめた。
「 うふふ・・・ はいはい よ~~くわかりました♪
愛してるわ ジョー 」
「 むふふふふ~~~ んんん ~~~~ 」
中学生の子供がいる二人は 相変わらずあつ~~~い口づけを交わした。
「 ・・・ うふぅ~~~ ジョー ・・・ ステキ♪ 」
「 きみこそ・・・ あ これ。 愛してるよ~~ オクサン~~ 」
彼はゴソゴソ・・・ ポケットからなにかを取りだすと細君の首にかけた。
「 まあ ・・・ 金のチェーンね♪ 」
「 シンプルだけど何本あってもいいだろ? きみの肌にはゴールドが似合う 」
「 ありがとう! ジョー~~~ 」
「 えへ ・・・ フランスではヴァレンタインにはプレゼントし合うって
きみ、 言ってたろ? 」
「 ええ 女子からチョコ・・・っていうのはこの国だけよ 」
「 そうだってね。 でも ぼくは! ヴァレンタインだから じゃないよ
きみが好きだから さ。 アイシテルぅ~~~ オクサン 」
「 わたしも ジョー ~~ 」
ジョーとフランソワーズは 微笑み合いあつ~~い抱擁を交わすのだった。
そ~して月日は夢のよ~に過ぎ ― またまた問題の日 を迎える。
「 これ。 」
ずし。 やはり嵩張って
適度に重く そして甘ったるい香りを撒き散らす紙袋が 差し出された。
「 すまん。 」
ジョーは一月前と同じく
深々とアタマを垂れて ソレを細君から受け取った。
「 ちゃんと数は合っていると思うわ。 あなたも確認してね 」
「 ありがとう … すまん。 」
「 ・・・ ジョーが謝ることないでしょ? 」
「 そうだけど ・・・ けど なあ ・・・ 」
彼と彼女は一月前とほぼ同じような会話を交わす。
そう ・・・ 明日は 三月の十四日 - ホワイト・デー なぞと言われる日なのだ。
毎年 フランソワーズは < お返し > を用意してくれる。
一月前に集まった? チョコの送り主たちに簡単なクッキーの包みを渡すのだ。
「 あ~あ・・・ なんかさ~ 無駄だよなあ ・・・ 」
「 ・・・・ 」
「 チョコだって このクッキーだってさ。 本当に必要としてるところがあると思う 」
「 そうね。 チョコの代わりに寄付を ・・・って活動もあるみたいね。」
「 うん ・・・ 来年からは 」
「 とりあえず、これ・・・ お礼、渡してね。 」
「 ありがとう。 」
「 ・・・・ 」
チビの頃 子供たちが 画用紙にクレヨンで ありがとうメッセージを書いてくれたものだが …
おと~さん
自分で 書けば? ― 最近
彼らは冷たいのだ。
「 ふう~~ ・・・ やれやれ・・・ あ すばるは?
」
「 すばる? なんだか楽しそう~~に昨日一日カタカタ
キッチンで作業していたわよ?」
「 む! アイツ~~~ 手作りで勝負か! 」
「 そうみたいね~ すばるは作るの楽しんでるし。 」
「 ・・・ くそ~~~ マメなヤツめ~~ 」
「 あのコの料理好きはず~っと小さな頃からでしょ 」
「 そうだけどさ ・・・ 」
「 それよりも すぴかよ 問題は。 」
「 すぴかが? あ ・・・ アイツ~~ ヴァレンタインにもらってたな~ 」
「 そうなのよ、 それでね、ホワイト・デーはどうするの? って聞いたら・・・ 」
部活から帰宅して オヤツに熱中している娘に、母はそれとな~く話を向けてみた。
そうしたら ― フランソワーズの娘は母譲りの碧い眼をでっかく見開いた。
「 ほわいと・で~? なんで? アタシ 女子だよ~ん いちお~
明日は貰うほうっしょ? 」
すぴかはビーフ・ジャーキーを齧りつつ 返事をした。
隣では すばるが熱心にカリントウを食べている。
「 それはわかってます! でも ほらせっかくチョコ・・・くださったのだから
お礼くらいしたら ? ホワイト・デーでしょ?
「 な~んでよ~ 向こうが勝手にくれたんだよ~ 」
「 でも きっと期待してると思うけど? 」
「 え~~ ・・・ あ すばる~
アンタのクッキー はじっことかくれない? 」
「 はへ? 」
すばるはやっとカリントウから目を離した。
「 クッキー? 」
「 そ。 あんた 作ってたでしょ~ ホワイト・デー用にさ 」
「 あ~ ・・・ 失敗作なら余ってるな~ 形悪いよ?
味はいいけど。」
「 いい いい もらっていい? 」
「 ど~ぞ ~~ 」
「 サンキュ ♪ おか~さん キッチン・ペーパー 使っていい? 」
「 並べてみるの? 」
「 う~うん キッチン・ペーパーに包んで~ マスキング・テープで巻いて~
< ホワイト ・ で~~~ > ♪ 」
「 ・・・ せめてレース・ペーパーにしたら? ほら ・・・ 」
母はため息つきつつ キッチンからレース・ペーパーをもってきた。
「 あ それ もらっていい? 」
「 ど~ぞ。 」
「 メルシ。 ~~~~ っと いっちょあがり~っと。 」
くるくる手早く包んで すぴかはに~んまりしている。
「 いちお~ 手作りだし? いいよね~~ 10コあればいっかな~ 」
「 ・・・ モテモテねえ ・・・ すぴかさん。 」
「 あは~~ おと~さんには敵いませんって~~ 」
「 そう ね。 あ そうそう ・・・ すぴかさん ほら
これ。
タクヤ君から
ありがとう~って 」
母は バッグの中から金とブルーの小さな包みを取りだした。
「 え!?? うっきゃわ~~♪ きゃわ
きゃわ~ うっれし~~~~
タクヤお兄さん~~~ ちゃんと覚えててくれたんだ~~~~ 」
「 忘れるわけ ないでしょ。 一日早くてごめんね
って 」
「 い~え い~え~ きゃあ~~~ ウレシイなあ~~~
なんだろ? クッキーかな~~ 」
「 さあ? でもね すぴかが辛党なの知ってるから甘いモノじゃないと思うけど? 」
「 ふ~ん ・・・ 開けてもいいかなあ 」
「 どうぞ どうぞ。 お母さんにも見せてよ 」
「 ウン ・・・ ね ね あいしてま~す
って伝えてねっ 」
「 はいはい 」
タクヤからの ホワイト・デー は 金色のエスの字のキーホルダーだった。
「 ~~~~~~ !!! アタシの宝モノだああ~~~~ 」
「 あら ステキね~~ すぴかの 手作りチョコ の御礼には随分上等だわ。 」
「 あ~ あのチョコさ~ 抜群にオイシイもん。 」
「 まあ 随分自信あるのねえ 」
「 だって作ったの、すばる。 きっちり包んだのがアタシ。 メッセージもアタシ。 」
「 あ ・・そ。 」
「 うひゃひゃ~~ これ、めっちゃキレイだもんね~~ 首から下げてとこ。
アタシのお護りだああ~~~ 」
すぴかは キーホルダーをすりすりしている。
「 よかったわね~ ・・・ タクヤってば流石ね~~ モテ歴 ハンパじゃないわ 」
「 なに お母さん? 」
「 いえ なんでも。 あ これはお父さんからよ。 」
「 ほへ? わ~~~ なんだろ? 」
大き目な包みを貰い、すぴかはガサガサ ・・・ 開きはじめた。
「 ~~ あ~~~ おせんべだあ~~~ わい♪ さんきゅ おと~さん 」
父からは < 名物・堅焼き煎餅 > だった・・・
ふう ・・・
母はこっそりため息をつく。
ジョー・・・? タクヤの方がず~っとモテ男・上級だわ・・・
アナタの 負け ね
「 おか~さん バニラ・エッセンス、 新しいの ない? 」
すばるが 聞いてきた。
Last updated :
03,22,2016. index / next