『  キス キス キス   ― (2) ―  』

 

 

 

                            

                        企画 : めぼうき  ばちるど

                                                テキスト   ばちるど

 

 

 

「 そんじゃ~  シツレイしまっす~~ 

 

  ガタンッ !!!  

 

一応は世間並?な挨拶を残し ドアが大きな音と一緒に閉まった。

「 あ! こぉら~~~  もっと静かに閉めろよっ  ・・・ ったくぅ~~ 」

「 無理無理 ・・・ も~力があり余ってるんですかね 」

「 挨拶しただけ マシでしょ。 」

「 誰?  ・・・ ああ わたなべだいち か。 彼、妙に固いとこがあるからね~ 」

室内からは しょ~もないよねえ・・・といった失笑と諦めにも似た嘆息が湧き上がった。

 

  わ~~~   うお~~~   ガタガタ~~  どどどど・・・・

 

外からはまことに元気な、というか賑やかな声と<騒音>が聞こえてきている。

 ― ここは とある中学校の職員室。

すでに放課後、センセイ方の半分は部活だの補習だので席を外していた。

「 え~と ・・・ ああ これで文化祭の出し物は出そろったな 」

生徒からファイルを受け取った教師が ぱらぱらとめくって眺めている。

「 へえ ?  ダシモノはなんなんです?  一年は ようかいうおっち だって

 言ってましたけどねえ 」

「 妖怪? ・・・ あ~ まだまだコドモだなあ~ ま 一年だからなあ 」

「 まあねえ ・・・ 中二は 『 眠りの森の美女 』  へえ~~~   

「 へえ~~~~  真面目にやるんですかね? 」

「 ・・・ えっと?  パロじゃないって書いてありますよ? 

 < キス・シーン あり >  < R指定なし >  だそ~です。 」

 

    え。  キス・シーン ・・・?

 

一瞬 職員室の中は 空気が固まった。

センセイ方は全員が ちら・・・っと副校長の席に視線を走らせた。

視線を集めた当のご本人も 動作が止まっている。

「 ・・・ あ ~~ ?  ムナカタ先生 その~ キャストは 」

「 え~と・・・ですね  ―  おーろら姫 ・・・ フロリモンド王子 ・・・

 あ・・・シマムラ姉弟ですよ。 え   姉貴が王子   弟が姫?  えええ~~~??? 」 

 

   ぐ・・・  どぁ~~はははは~~  あはははは ~~~

 

途端に職員室は爆笑の渦となった。

「 こりゃ~~~ ぴったりじゃないですか~~~ 

「 きゃ・・・ 楽しみ~~~ シマムラ君のお姫さま カワイイわよ~~きっと 」

「 あの姉貴、凛々しい王子になるぞ~~ 」

「 ま・・・ 兄弟のキスなら ・・・ 問題ないでしょ 」

副校長は必死で表情を引き締めているが ・・・ 笑いだしたいのはミエミエである。

「 いやあ~~ 愉快な文化祭になりそうですなあ~~~ 」

「 本当に !  楽しみですね 」

 … ってことで  職員室的にも 問題ナシ となった。

 

 

  ドンドン ドン ・・・!  ギシギシギシ ~~~~

 

二年B組の教室は 大工仕事でてんやわんやである。

「 お~~~い だれか~ こっちがわ押さえててくれよ~~ 

「 あ いいよ~~ これでいい? 」

「 お ワタナベ~~ さんきゅ♪ 」

「 おいっ!  王様!  お前~~ 今リハ中! 」

「 あ ・・・ うん ・・・ 

「 アタシが押さえてるから。  ワタナベ君 ほら演技してきなって。 」

「 あ ありがと すぴかちゃん 

ドンドン ガンガンのあいまを縫って お芝居のリハーサルも続いている。

「 も~~~~ 皆きっちりやってくれよ~~ 

 おい? すばる?? お前ら ちゃんと研究してるだろうなあ? 」

「 けんきゅう? 」

「 そ!  キス・シーンの研究! 

「 あ う~ん ・・ まあ ぼちぼち~ 」

「 ちゃんとやっとけよ!   演技力ゼロのお前がさ 主役やるんだから!

 セリフは極力削ったんだ、唯一の見せ場 気張れよっ ! 

「 へ~~い ・・・ 」

「 えっと~~~ じゃ 王子と~~ カラボスの対決 やる! 唯一の戦闘シーンだからな~

 お~~い 王子? 」

「 ここにいるよ 

三つ編み女子が大道具の中から返事をした。

「 お さすが。 ってか出て来いよ~~  カラボス~~~?? 手下どももいるかあ~ 」

演出の男子はきょろきょろしている。

「 あ~~  たまぁ~~? ね~~ 出番だよ~~ 」

すぴかはドアを開けて廊下に声をかけた。

「 ん~~~?  はぁ~~い♪   皆ぁ~ いい? 

ぴょこん! と可愛らしい女子生徒が顔を出す。

「 いぇ~~~い♪ 」

  ―  ガラリ。  引き戸が開き、どやどやと男子生徒たちが入ってきた。

「 カラボスと手下たち?  王子との対決のとこ、いいか~~ 

「 オッケ~~ たまぁ~ ヨロシク! 

「 はぁ~い  こっちもヨロシクぅ~~  音、出してぇ~~ 

「 よ よし ・・・ いくぞ~ 」

教室の中は大騒ぎ ― にはならなかった。

 

王子とカラボスの対決、 その周囲を < カラボスの手下たち > が ぶんぶんと

かっこよく踊りまくる。

 

  ジャ ジャジャ~~~~ン ッ !!!

 

ともかくクラスの、いや 学年のアイドル・美少女が < カラボス > なので

< 手下ども > は もう完全に崇拝者となりノリにノッテいるのだ。

すぴかも 王子 としてりりしく~~ 立ち向かってゆく。

 

「 うわあ~~~ すぴかちゃん カッコいいねえ~~~ 」

熱心に眺めていた男子が ぱちぱちと手を叩いた

「 えへへ~~ アリガト♪  たまぁ~~ 上手くいったね~~ 」

「 サンキュ すっぴ~~♪  手下たち~~ お疲れ~~~ 」

「 うす!! 

カラボス の周囲で踊り狂っていた男子たちが蛮声を張り上げた。

「 も ちょいつきあって?  廊下でさ~ も一回やってみ。 」

「 え~~~ つっかれった~~ 」

「 ね~ お願い♪  ね? 

「 たまの頼みなら ・・・ 」

「 サンキュ。 そんじゃ~~ 行こ。  ~~ キムラく~~ん ちょいリハしてくるね? 」

  ― ぱちん。  可愛いウィンクを残して女子は男子達を引き連れ出ていった。

「 ・・・ なんかさ~~ たまってスゴイね? 」

「 ああ ・・・ あのしょ~もない男子共をちゃ~んと引っ張っててるもんなあ~~ 

「 ウン  ・・・ アイツらをしっかり仕切ってるもんね~ 」

「 ほらほら~~ 感心してないで~~ すっぴ~ も頑張ってくれよ~ 」

「 ウン!  対決シーン どうだった? 」

「 うん 問題ナシ。  あとは ・・・ やっぱキス・シーンだなあ~~ 」

「 ― 責任をもって 姫 に指導しとく。 」

「 頼むよ~~~~  えっとぉ~~~ 王様ぁ~~ ラスト・シーン たのむ~~ 」

「 あ? ちょっと待って~~   ほら持ってるからさあ 

< 王様 > は 大道具の中に潜り込んだままだ。

ドンドン ガンガン ・・・ ギコギコギコ~~~  

「 ― あ  アリガト~~~ ワタナベ~~ 助かったぁ~ 」

「 これでいっか~~? 」

大道具の中から王様の声が聞こえる。

「 おいっ!  王様~~~!!! はやくこっちこいってば! 

「 あ うん ・・・ ちょっちココ~~ 仕上げてから ・・・ 」

「 おい~~ ワタナベっ お前、大道具じゃねんだぞ! 

「 あ うん ・・・でも ・・・ 」

「 わたなべクン、 アタシがやっとくから~~ ほら 演出家がキレそうだよ~~ 」

「 あ そう? じゃ ここなんだ。 こっちとあっち、クギうって さ ・・・

 そんでもって~ 内側からさあ 補強して ・・・ 」

「 う~~~ ともかく外枠作っとくから~~ 

「 わかった ・・・ じゃ あんまし余計なとこ、触るなよ? 」

「 わ~かってるってば! 」

「 ワタナベっ!!  王様って 座ってるだけ じゃね~んだぞ~~~~~ 

「 今行くって ・・・ 」

わたなべクンは とて~~も名残惜しそ~~~にトンカチを置いた。

「 すぴかちゃん。 トンカチ、ここだから。 使っていいよ 

「 はいはい  ほら早く行ったら?  

「 ん ・・・ よっこらせ~~~ 」

彼は作りかけの大道具の中からの~~んびり抜け出した。

「 ~~~ 早くしろよ~~~~ 始めるぞ! 」

演出の男子はもうイライラの極致 ・・・ らしい。

「 ウン ・・・ あ すぴかちゃん、そっちの下にクギが置いてあるから~~ 気をつけて 」

「 わ~~かったよ ほらほら はやく~~ 」

「 ん ・・・ 

トンカチを手にした三つ編み女子も少しイライラしている。

「 クギ、打つときにさ ・・・ 指 挟まないよ~にさ 

「 わかったって~~~~ 」

「 ん ・・・ 」

「 わ た な べっ  !!! 」

「 あ ~~ 今 行くってば ・・・ 」

ワタナベ君はのんびり教室の前の方に歩いてゆく。

「 わたなべ~~ お前さあ~  すぴかのこと、好きなんだろ~~ 」

横で背景と思しき絵を描いていた男子がチャチャを入れた。

「 !!  そ  そんなこと  ・・・ な  ない よ ・・・ 」

「 そうよ! アタシ達って 兄弟みたいなモンなの~~~ 」

間髪をいれずに 大道具の中から怒声が上がった。

「 へ~~~~ 否定もいっしょかよ~~~ 

「 おいっ!  外野~~静かにしてろって! これからリハなんだから~~~ 」

演出家はもうほとんど泣きっつらだ。

「 ・・・ へ 」

背景描きは肩を竦めて 絵に向きなおった。

 ―  ほんのわずかな時間だったけど。

 

         え  アタシ < そんなことない > の?  

 

 

         え  僕  きょうだい  なの?

 

 

教室の前と後ろで 王子様 と 王様 の胸はきゅ・・・!と鳴っていた・・・

 

 

 

 「 ― だから ~~~ なんなんですっ ! 

フランソワーズはついに金切声を上げた。

「 べ~~つ~~~にぃ ~~~~~ 」

ソファにひっくり返っていたすぴかは お決まりの答えを返してきた。

「 べつに べつにっていつもいうけど! すぴかさん あなた、さっきから~~

 お母さんにつっかかってばっかりじゃないの!? 」

「 つっかかってなんかいないも~~ん 」

「 つっかかってますよ!  宿題は?  文化祭の準備はいいの? 

 そこで寝っころがっているのならお使いにいってきて?   ― お母さんが聞いたことに

 ぜ~~~んぶ  < べつにぃ~ > って言ったじゃない!? 」

「 ~~~ だけどぉ~~~  なんかさぁ~~~~~ かったる~い~だけだけどぉ~ 」

「 それなら やたらと不機嫌になるの、やめてちょうだい。

 お母さんだってね 忙しいし疲れているのよ?? 」

「 ・・・ わ~かってるって ・・・ だけどさ~~~ 」

「 だけど? 」

「 ・・・ そんなことない  だったのかなあ ・・・アタシってば 」

「 はあ??? 

「 なんでも ない。  ね! おかあさ~~ん、 キスシーンって教えて! 」

「 はあああ??? 」

「 だから~~ キス・シーン!  お母さんだってさあ キス・シーンするでしょ? 

 舞台でさ~~ 

「 舞台で? 」

「 そう! 『 眠り~  』 でさ。 ほら~~~ 二幕の最後の方でさあ~~ 

おか~さん、 タクヤお兄さんと ど~やってキスするの~  」

「 ! お母さんは!  お父さんとしかキスしません!  」

「 え~~ うそ~~ だって舞台でさあ~ 

「 あれは! 顔を近づけているだけ!  踊りの最中にそんなことしている余裕ないわ。

 すぴかさん、アナタだってわかるでしょう? 」

すぴかは中学に上がるまではずっとバレエ教室に通っていたのだ。

「 アタシ~~ パ・ド・ドゥ なんて踊ったことないも~ん 」

「 とにかく! お母さんはね、お父さんとしかキスはしないの。 」

「 アタシ達とは~? 」

「 ― 家族は別でしょ。 お母さんだって子供のころには家族でキスしてました。 」

「 あ~~ ふらんす人だもんねえ~~  ・・・ アタシもすばるも日本人だから~

 ちう~~ にはなれてませんしぃ?  」

「 さあ! ぶつくさ言ってるだけなら!  晩御飯の支度、手伝ってちょうだい。 」

「 ふ~~~ん ・・・ あ~~~ 

母の小言なんかどこ吹く風~~ ですぴかは相変わらずソファの上で伸びたり縮んだりしている。

「 ! も~~~! 」

完全にキレた母は ぷんすかしたままキッチンに引っ込んでしまった。

「 あ~~~  ・・・ キス・シーン かああ~~~ 

 

  ―  カタン。  ただいま~~~~      

 

玄関のドアがゆっくり開いてゆっくり閉まり ― のんびりした声が聞こえてきた。

「 あ! すばる。  ねえねえ すばる~~~  」

すぴかはがばっとソファから跳ね起きると リビングのドアを開けた。

「 ? おわ・・??  なに すぴか。 」

廊下には すばるが目をぱちくり~~して立っていた。

「 ね!  キス・シーン ! やろ! 」

「 はい??  すぴかとキスするの?? 」

「 ちが~~~う・・・けど ちがわくない ・・・ え でもちが~~う!

 アタシ とじゃなくて。  フロリモンド王子 と! 」

「 あ~~ なんだ、劇の話かあ~ 」

「 劇の話かあ~ じゃないでしょっ!  キス・シーン なクライマックスなんだから~~

 皆 期待してるのよぉ~~ 」

「 あは そうだよなあ~ 僕たちってば 思春期真っ只中~~ だもんなあ~ 」

「 だから! アタシたちはみんなの期待に応えるなくちゃならないわけ!

 リアルに、かつ 爽やかに かつ 優雅に 情熱的に ちょっぴし色っぽい キス! 」

「 なんだ そりゃ~~ 」

 

  クス・・・ !   キッチンからは吹きだす声が聞こえた。

 

「 あ! 盗み聞きなんかしてなせんよっ!  すぴかさんの声が大きすぎるだけです 

「 は~いはいはい オンナノコはもっと優しくおハナシします~~~ 

飛んできた母の <言い訳> を すぴかは即行で封じた。

「 すげ~~な~~ すぴか~~  」

「 ふん、だってさ~~ 放っておくとあれこれうるさいじゃん? 

 なんだってあんなにきんきん言うのかなあ~ 」

「 さ~あ?? アレがウチのオカアサンってことじゃね? オレらのおか~さん さ 」

「 ま~ね ・・・ 」

「 あ 俺らってば。  大地がさ~~ なんか元気なくてさ 」

「 え ・・・ わたなべクンが? 」

「 ん~~~ なんかさ~  ぼんやりしててさ。  そっか~ きょうだいかあ~ 

 とかぶつぶつ言ってるんだ。 

「 兄弟って。 わたなべクンってば兄弟 いないよね? 」

「 ウン、大地は一人っ子だよ。 なんかさ~ 劇のハナシとかしても乗ってこないんだ~

 なんかぼ~~っとしてる。 珍しく元気ないってかんじ。 」

「 ふうん? どうしたんだろうね~~ 」

すぴかは さっきまでさんざん母親に八つ当たりでゴネていた・不機嫌な自分 を

すっかり忘れていた。

「 ケンカしたのか~ って聞いても そんなんじゃない ってばっかでさ~

 なんかぼ~~~っとしてるんだ。 」

「 !?  そんなんじゃない  ッて?? 」

「 あ~~ あいつの口癖。  よく言ってるよ~~ 

「 口癖 なんだ?  意味あり?  < そんなんじゃない> って ・・・ 」

「 ないだろ?  本人無意識で言ってるよ~なモンだもん。 

「 あっは♪ そっか~~~  そうだよねえ~~ うん♪ 」

 

  ぽ~~ん ・・・!  すぴかはクッションを真上に放り投げた。

 

「 ちょ・・・ なんだよ~~ すぴかぁ~~ 」

「 え べつにぃ~~~ えへへ そだよねえ~~ うん♪ 」

「 ??? ヘンなヤツ~~  女子ってわかんな~い・・・

 あ そだ!  すぴか!  すぴかこそ大地にナンか言った?? 」

すばるは突然大真面目になり 姉を真正面から睨んだ。

「 な~んも言ってないよ~~ こわ~~ なに怒ってんのさ へ~~ アンタでも怒るの?

チビのころから いっつも相棒の後をにこにこ・・・ついて歩いていた弟なのだが ・・・

「 だって! 大地ってば すご~く落ち込んでんだもん。

 直前にさ~ すぴかとしゃべってただろ~ ナンか言っただろ? 」

「 へ~~~ アンタってば友達のことだと怒るんだ? 」

「 だって! 大地はしんゆうなんだ! な~~~ なんか言ったんだろ?? アイツにさ~ 」

「 え~~~ なんも言ってないよう~~ 

 劇のリハーサルの途中で わたなべクンってばいつまで~~も大道具手伝ってるからさあ~

 アタシが代わるよって 言っただけだもん。 

「 え~~~  ホントかなあ~~  」

「 すばる! アタシはウソつかないよッ 」

「 ・・・だけど < 言わない > こと あるじゃん。 」

「 だけど アタシはわたなべクンにはな~~んも言ってないってば。 」

「 ふ~~~ん ???  兄弟 かあ ~~・・・ ってぶつぶつ言っててさ・・・

 なんかしょぼ~~んとしてるんだ。 どうした? って聞いてもさ~  ウウン  しか

 言わないんだ! 」

「 だってアタシはな~~んも言ってない ・・・ え?  兄弟? 」

「 そ! 兄弟。 」

「 ・・・  あ   そっか ・・・ 」

すぴかは口を噤むと 空中にじ~~っと視線を飛ばした。

 

    あ。 アタシ ・・・ < 兄弟みたいなもん > って言った ・・・よね?

    わたなべクンって もしかして ・・・ 気にしてる??

 

    ― ってことはぁ~~ アタシと 兄弟 じゃイヤってこと?

    ってことはぁ~~~ ・・・ うにゃ♪?

 

「 すぴかっ! な~~に固まってるんだよぉ~~ 」

すばるがぐいぐい腕をひっぱった。

「 いった~~~い~~~!! ちょっとぉ~~~ 暴力きんし~~~  」

「 暴力じゃないって!   あ  うん ・・・ アタシ 明日わたなべクンに謝る。 」

「 へ??  そんじゃやっぱ すぴかってばあ~~  暴言吐いたんだ??? 」

「 暴言じゃないよ。  ・・・ ねえ すばる。 アンタにとってさ~~

 わたなべクンって ・・・ なに。 」

「 しんゆう って言ってるだろ! 」

「 しんゆうって 兄弟 みたいなもん? 」

「 兄弟よか ・・・ 大事 かも ・・・ 」

「 あっ  そ!  あんた アタシよかわたなべクンの方が大事なわけ? 

「 そ~いう意味じゃね~って!  すぴか ヘン!  なんでいちいち絡むわけ? 」

「 ・・・ 絡んでなんかいないもん。  わ~かったってば、 も~この話、おしまい。 」

「 おしまいって~~~ 言いだしたの、すぴかだろ?? 

「 だから おしまい~~  はい。 すばる、アンタお姫様 がんばんな~~ 」

「 ? なんなんだよ~~~ も~~~ 

すぴかは 仏頂面のすばるを置いてきぼりにして ご機嫌ちゃんで自分の部屋に行ってしまった。

 

   ぶふふふふふ ~~~~   

 

003 はキッチンで笑いをかみ殺すのに死にそうになっていた・・・

わいわいリビングがあまり賑やかなので ついつい・・・耳を欹ててしまったのだが。

「 ( くくく ・・・・ )  すぴかもお年頃 なのねえ~~ ふふふ ・・・

 ふ~~~ん?  わたなべクン ねえ~~ うふふふ  いいわあ~~~~ 」

ジャガイモの皮を剥きつつ、フランソワーズはクスクス笑い続けていた。

 

 

 

「 ・・・ ふうん ・・・  そうなんだ~~  

「 そうなの♪ ふふふ ・・・ すぴかもね~ ちゃんとオンナノコなのよねえ ~~ 」

「 すぴかは。 ずっといつだって女の子だよ。」

「 あは ・・・ そうだけど~~ いつだって 強い・正義の味方のすぴかさん だったじゃない? 

 すばるを率いて ね 」

「 … ふ~~ん ・・・ 」

ジョーは 箸を置くとゆっくりとお茶を飲んでいる。

本日も遅い帰宅後 夕食の間にジョーは細君から < 双子のトーク > を聞いていた。

「 わたし おかしくて カワイイくて。 ああすぴかも女の子なんだなあ~って 

 すぴかにも気になる男の子がいるのねえ・・・ うふふ うふふ~~ 」

「 ・・・ わたなべクン  か 

「 うふふ~~~ いい子よね~~ ホント、兄弟みたいにちっちゃい頃から遊んでるし・・・

 わたし 大賛成よ。 」

「 ! そんなこと、まだ早いよ。 まだ子供じゃないか。 

「 あ~~ら もう中学生なのよ? うふふ~~~  

「 すぴかは まだまだそんな話、早いよ。  ごちそうさま。 」

「 あら もういいの?   デザート、いかが。 ジョーの好きなミルク・ジュレよ? 

「 うん ・・・ もらおうかな 」

「 ? あら  もうお腹いっぱい? 」

「 いや ・・・ 」

「 そう? それなら 今もってくるわね。 」

「 ああ 頼む。  ・・・ すぴかの彼氏・・・ かあ 」

ジョーは なととなくふか~~~いため息を吐き やたらとお茶を飲んだ。

「 はい どうぞ。  ・・・ ねえ なにかあった?  あ すぴかのこと、気にしてる? 」

「 してる さ。  ぼくの可愛い娘に 」

         

     「  あ ・・・!  」

 

フランソワーズが 突然短く叫ぶと宙をみつめ固まっている。

「 な なんだ? どうした?? 」

「 ― 大変!!  港で ・・・! 事故! 」

「 !  ・・・ わかった。 行ってくる。 」

「 防護服、クローゼットのいつものところよ。 」

「 了解。 着替えてくる間にできるだけ詳細な情報を。 」

「 了解。 」

ジョーは 急ぎ足でしかしごく静かに寝室に向かった。

 

009の姿が宙に消えてから 003は居間の窓際に立ち、状況をつぶさに中継し始めた。

もっとも加速中には脳波通信はつかえない。 

要所 要所で 彼が減速するたびに一気にデータを送った。

≪ ~~~~~。 現在のところは以上 ≫

≪ 了解。 サンキュ~~ 加速に入る ≫

≪ 了解。 ・・・ Bonne Voyage ! ≫

≪ めるし~~~ 

ほんの短い通信でも さすがに夫婦、全てが伝わっている。

003が発見したミッションは ―

港で老朽化した橋桁の交換工事での事故だった。

まだ完全に固定する前に道路からの振動で一部が歪み滑落し、作業員が閉じ込められてしまった。

≪ 到着した。 作業員さんは? ≫

≪ ・・・ 怪我してるけど元気よ! ただ歩けないわ。 ≫

≪ オッケー。  端から潜りこんでみる。 ≫

≪ !  急いで!!! また少しづつ動き始めた ! ≫

≪ 了解 ≫

付近の道路からの振動のため救出作業は難航・・・ついに大動脈にあたる道路は完全封鎖となった。

009にとって 滑落した鋼材を動かすのは容易いことだが 人目がある。

密かに かつ迅速に行動しなければならないのだ。

≪ 今のうちよ ! 

≪ もう侵入したよ。  あ 大丈夫、 作業員さんは無事だ  ≫

≪ さ~すが~~ 009 ≫

009は 怪我人の救出への < 道 > を開け ― 消えた。

 

 

 

「 だめだあ~~~ 」

すぴかはついにネを上げた。

「 アンタの寝顔、みてたら   おきろ! 遅刻だよっ!  って言いたくなっちゃう~~ 」

「 ふ~~~~ ・・・ 僕 ホントに眠っちゃうよ~~ 」

すばるもぶつぶつ文句を言う。 

問題の? キス・シーン ・・・ 姉弟はリハーサルに余念がないのだが。 

イマイチ・・・ いや イマサン くらいなのだ。

「 もう~ さ! お父さんとお母さんの ちう~~~ マネしよっか! 」

「 あ~~ 年中 ちう~~ってやってるもんね。 」

「 そ~だよね~~ 今晩もきっとイチャイチャしてるよ~~ 晩御飯食べてさ~ 」

「 だな~~ ・・・ あれ? なんかさ~ ゴトゴト音がするよ? 

 ちょっと見にいってみようぜ 」

「 ウン。 」

二人は素足になってこそ・・・っと階段を降りていった。

「 ・・・ 覗いちゃう? 」

「 うん! ・・・  あれ ・・・?  お母さんだけ だよ? 」

「 え~~ だって随分前にお父さん 帰ってきたよ? 」

「 知ってるって。 でも ・・・ お母さんしかいないよ ~ 」

「 すぴか ちょっとどいて。 ・・・ あれ?? ホントだ 」

双子は押しあいへし合いしてリビングのドアの隙間から覗いている。

「 ・・・ な~んだって窓なんか開けてるのかなあ~ 寒いじゃん? 」

「 アタシにも見せて。  ・・・ お母さん なんか・・・怖い顔・・・? 」

「 すご・・・ 真剣な顔してる・・・ お父さんは? 」

 

  シュ ・・・ ・・!

 

突然 旋風がリビングに飛び込んできた。

「 うわ ・・・?? 」

「 なに??? 突風?? 」

「 え~~~ 今晩ってそういう天気なわけ?? 」

「 あれ!?!?  お父さん !? 」

「 え~~~ ちょい どいてよ~~ すばる。  あ ・・・ ホント、お父さんだ! 」

「 へえ ・・・ 赤いコートなんかもってたんだ? 」

「 ― なんか ・・・ お父さん … 全然いつものお父さん じゃないよ。 」

「 ちょっと見せて。  ・・・ ウチのお父さんじゃない ・・・

 ウチのいつも優しくてちょっとドジな お父さん じゃない … 」

「 ! お母さんの顔 見て。 すばる~~ 」

「 え?  うわあ~~~ かっわい~~~ 」

「 あちゃ ・・・・ ちう~~ するよ? 」

「 ・・・ ごく。」

 

戻ってきた009に003は優しく腕を差し伸べ抱き付き ― 熱く唇を合わせた。

 

「 ・・・ どひゃ ・・・ なんか ・・・ 熱々~~ 」

「 うん ・・・ なんか いつもと違う な~ 」

「 ウン ・・・ あんなキス ・・・ あんた できる すばる? 」

「 む~~り~~~ 」

「 だよねえ・・・ 」

「「  ・・・  アタシ・僕 ら  ・・・ パロディ で いっか ~ 」」

 

 

 

              *********************

 

 

 

大気は澄み渡り 黒々としたビロードの夜空が広がっている。

足元遠くに波の音を聞き 目路はるかには漁火が瞬く。

 

「 ほら もうちょっと上 ・・・ 」

「 あ~~ こんなトコまで来たの、久しぶりだわ~ 」

ジョーが差し伸べてくれた手に フランソワーズはしっかりと捕まった。

「 ふふふ ・・・ 夜の散歩もいいもんだろ? 」

「 そうねえ~~ うふふ・・・ジョーと手を繋いで歩くのも久しぶり~~♪ 」

「 あは ・・・普段はびみょ~~なお年頃の おじょ~さん・ぼっちゃん がいるかなら~ 」

「 うふふ ホント。 」

二人は寄り添って家の裏の崖を登ってゆく。

秋も深まり 夜気はつぅ~~~ん ・・・と冷えてきていた。

「 ―  ほら ここさ。 特等席~~ 」

「 まあ 本当・・・ 草がクッションみたいねえ 」

ジョーとフランソワーズは 枯れかけた草の上に腰を下ろした。

「 あ ・・・ 見て。 」

「 うん?  おお ・・・ 」

目の前に 大きな大きな月がゆっくりと昇ってきた。 

 

  ― 今宵は  満月 フルムーン  ・・・

 

「 きれいなお月さまね   」

「 ・・・ ああ ・・・  フラン ・・・? 」

「 ジョー ・・・ 」

夫婦はどちらからともなく腕を絡めあい 白い白い月の光の中で熱く熱く唇を重ねた。

「 ・・・ いい月だな 」

「 本当に ・・・ 」

「 ・・・ ぼく達は やっぱり フロリモンド王子とオーロラ姫 さ♪ 

「 うふふ ・・・  あの子たちのキス・シーン・・・ 」

「 あはは ・・・ ありゃ まったくのコメディだったよなあ 

「 そうね  あれでよかったのかも ・・・ 」

「 ああ そうだな 」

「 そうよね ・・・ 」

 

ゆっくりと大きな月が中天にかかる。

 

 

            キレイな お月さま ・・・

 

 

このキスは人生最高に素敵だわ ― フランソワーズはジョーの腕の中で呟いた。







*******************      Fin.     ****************



Last updated : 03,24,2015.           back    /   index