『 ― また ね ― (2) ― 』
企画 : めぼうき ・ ばちるど
イラスト : めぼうき
テキスト : ばちるど
― ガタン。 いよいよオーブンの扉が 開いた。
「 うわ〜〜〜 ♪♪ いいにおい〜〜〜 」
さすがのすばるも お菓子の焼き上がりの香りに勝てないらしい。
「 ほんと! いいにおいね〜〜〜 」
くんくんくん ・・・ 母と息子はそろってハナを鳴らした。
「 うふふ ・・・・ いいわねえ〜〜 この香り ・・・ ふう〜〜ん ・・・
ねえ すばる、知ってる? これはね、幸せの香り なのよ。 」
「 ぶっぶ〜〜 ちがいます〜〜 コレはね バターとおさとうとたまごとばにらえっせんす の
においで〜す 」
にこにこ顔で、でも すばるは生真面目に答える。
「 そりゃそうだけど ・・・ 美味しくなあ〜れ!って思って作ったからなの。
これはねえ〜〜 ヒミツだけど。 キッチンの魔法 なのよ。 」
「 え〜〜〜 まほう? ・・・ じゃ 僕、 まほうつかい?? 」
「 うふふ そうかも〜〜 ねえねえ 見て? この花型、すご〜く上手く焼けてると思わない? 」
「 どれ〜 お母さん。 あ! ほんとだ〜〜〜 」
「 もう〜〜 すばるったら なんて上手なの〜〜 すごい すごい〜〜〜♪ 」
「 おかあさん、 じょうずにやけたね〜〜 」
「 ねえ・・・ ちょこっとだけ ・・・ お味見 してみない? 」
「 だめ。 さめてからだよ、おかあさん。 」
「 う〜〜〜ん ・・・ 待ちきれないわあ〜〜 」
「 がまんしましょう。 」
「 はいはい シマムラ・パティシエ 」
2人は天板の上の熱々・焼きたてクッキーをながめつつ ― キスを貰ったりおでこ・こつんしたり
・・・ いちゃいちゃしていた。
カタン ― キッチンのドアが開き・・・
「 ただいま〜〜〜 やあ いいにおいだなあ〜〜 」
ジョーがひょっこり顔を出した。
「 あら!? ジョー、すごく早いわねえ? ごめんなさい、気がつかなくて・・・ 」
「 わ〜〜〜 おとうさん! おかえりなさ〜〜い! 」
すばるは珍しくも母親よりも早く父親に飛びついた。
「 お〜〜 すばる〜〜 ただいま〜 取材が早く終わってさ、直帰オッケーがでたんで・・・
すご〜〜くいい匂いがするから ふらふら・・・キッチンまで来ちゃったよ〜 」
「 おとうさん! ぼくね〜〜〜 くっき〜 やいたんだよ! おれいのくっき〜♪ 」
「 おれいのくっき〜 ? ・・・ ああ! 14日のヤツかい? 」
「 ぴんぽ〜〜ん♪ ねえねえ いいにおいでしょ? 」
「 ほう〜〜 すごいなあ すばる! この匂いならクッキーは大成功、だね? 」
「 うん! ね〜〜〜 お母さん? 」
「 そうなのよ〜〜〜 もうね、 すばるったら ほとんど全部一人でつくったの。
わたしが手をだしたのは オーブンの火加減だけよ? みて みて〜 この上手な花型!
ジョー〜〜〜 あなたの息子は天才・パティシエかも〜〜〜 」
「 すごいぞ〜〜 すばる! うわ〜 ううう ・・・ この匂〜〜〜〜 腹のムシがあ〜〜〜 」
「 あらら ・・・ じゃあ お握りでも作るわね。 」
「 ・・・ 味見は だめかなあ〜〜 すばる・パティシエ? 」
「 だめです。 ちゃんとさめるまで まちましょう。 」
「 くう〜〜〜〜 厳しいお言葉〜〜〜 」
「 がまんしましょう。 」
「 はい! もう〜〜〜 コイツめ〜〜〜 」
ジョーはすばるを抱っこしたまま、 こしょこしょこしょ〜〜・・・・とくすぐり作戦にでた。
「 きゃ〜〜〜 きゃ〜〜〜 きゃ〜〜〜 」
「 じゃ オヤツにしましょうか。 ジョーはお握りね。 あら・・・?
! ジョー ・・・ 外、大雨なの? 」
「 え? 」
ジョーはアタマからぽたぽた雫を落としているのだ。
「 あ ・・・・ あの ・・・ 顔 洗ってきたから ・・・ 」
「 ― 顔洗って アタマがびしょびしょになるの? 」
「 アタマ 冷してきた ・・・ 」
「 え お父さん〜〜 おねつ?? 」
「 い いや ・・・・ ちょいと心身に喝!!! と思って さ ・・・ 」
「 ― かつ ?? なあに、それ。 」
「 とんかつのこと? 」
「 あ ・・・ い いや ・・・ そのう ・・・ 弛んだ気持ちを引き締めたのさ。
う うん ・・・ もう大丈夫! 」
ジョーはすばるを降ろすと 愛妻を引き寄せた。 そして ―
「 遅くなりましたが ― ただいま フランソワーズ ・・・・ 」
「 うふん ・・・ お帰りなさい、 ジョー 〜〜〜♪ 」
2人はう〜〜んとあつ〜〜〜〜く < お帰りなさいのキス > を交わした。
うん! ぼくには最愛の妻がいるんだ!
ぼくは! この女性を世界で一番愛している! そうだとも!
・・・ しかし あのちっちゃな女の子 ・・・ 可愛い 〜〜〜
モロ タイプだもんなあ〜〜〜
いや! ぼくは断固! ロリじゃないから!
それに世界で一番愛している・女の子 は すぴか だ!
・・・ しかし あのコ ・・・
う〜〜〜 あの瞳 あの笑顔 あの髪〜〜〜
いや!!! ちがうぞ〜〜 ぼくは ロリ じゃない〜〜
「 ?? ジョー? わたしの顔になにか付いている? 」
彼女の夫はキスの最中もその後も じ〜〜〜〜〜っと、それこそ穴の開くほど見詰めているのだ。
「 ・・・あ あ いや。 あはは ・・・相変わらず魅惑的だな〜〜〜 なんちっち♪ 」
「 うふん ・・・ ありがと♪ じゃあ お握り、作るわね。
あ ・・・ ねえ すぴかは? お友達が遊びにきていたでしょう? 」
「 え! あ ああ うん ・・・ そ そうみたいだね・・・ 」
「 ??? さっき賑やかな声が聞こえてたから ・・・ 」
「 あ〜 うん ・・・ テラスのとこで けんぱ! やってたから・・・・
また降りそうだったから 中に入ったら って声をかけておいたよ。 」
「 まあ そうなの。 お友達はだあれ? まみちゃん? りりかちゃんかしら。 」
「 さ ・・・ さあ〜〜〜 ぼくはあまり見かけない金髪のコだったけど ・・・ 」
「 金髪? あ〜〜 サアちゃんかしら。 可愛いコだったでしょう? 」
「 ( どき!! ) あ ああ うん ・・・ 」
「 そう、 きっとサアちゃんね。 2人は? 」
「 あ ・・・ 屋根裏部屋で遊ぶんだって。 」
「 そうなの。 それじゃあとでオヤツ、2人分 持ってゆこうかしら。 」
「 あ の ・・・ ぼく が持って行こうか? 」
「 おとうさん! 僕がいく! 」
「 あら すばる〜 お願いできる? まあ〜〜 すばる〜〜 お握りの準備、してくれたの? 」
キッチンのテーブルの上には すばるが 海苔だの明太子だのオカカこんぶだのを並べていた。
「 うん。 お母さん。 僕ね〜〜 おかかこんぶ。 」
「 はいはい ありがとうね〜〜〜 ホントにすごいわあ〜〜〜 すばる♪ 」
お母さん ちゅ♪ と息子のぷっくりしたほっぺにキスを落とす。
「 えへへへ ・・・ お父さ〜〜ん、 お父さんはめんたいこ? 」
「 あ ああ それでたのむ 」
「 ジョー、 シャケもあるわ。 すぐに作りますからね〜〜 」
「 僕も! 僕もおにぎりつくる〜〜〜 ねえ おかさん。 じゃむおにぎり・・・ダメ? 」
「 はいはい おねがいしますね。 え!? ジャムは ・・・ 却下! 」
「 え〜〜〜〜 ねえねえ 僕の分だけ! じゃむぅ〜〜〜〜 」
「 ・・・ すばるのだけ、よ? それでもって二匙分だけですよ? 」
「 ・・・ ん〜〜 いいよ、わかった。 ふんふん〜〜〜 イチゴじゃむおにぎり〜♪ 」
「 あ ・・・ ぼく、着替えてくるな。 」
「 ええ。 ・・・ アタマ、ちゃんと拭いてね? 」
「 あ・・・ う うん ・・・ ごめん ・・・ 」
ジョーは なんだかよろ〜〜っとしつつ 階段を登っていった。
?? なんか すごく疲れてる??
最近 忙し過ぎるのよねえ・・・
よ〜し! 今晩はジョーの好きな肉じゃが ね!
ニンニクた〜っぷり入れて♪
うふふ〜〜ん♪ スタミナアップ〜〜
春の夜は長いんですものね〜〜 きゃ♪
フランソワーズは 夫の後姿をちら・・・っと見て、決心していた。
〜〜〜〜 ロリじゃないぞ〜〜〜
ぼくは 断固! ロリじゃないんだから・・・!
・・・ しかし ・・・ あのコ ・・・
く〜〜〜〜〜〜 ・・・・ タイプ過ぎる・・・
ジョーは繰り返し自分自身に誓っていた ・・・が。
どうも すぴかのお友達 は ジョーの どストライク だったらしい。
「 ふぁ〜〜〜!! もう一度 冷たいシャワーでも浴びてくるかなあ〜
・・・・ うん? ああ アイツら ちゃんとウチの中に入ったんだな よしよし・・・ 」
とととと ・・・・ たたたた ・・・・ 軽い足音が廊下の隅で聞こえ やがて消えた。
「 ま ・・・ あの屋根裏で遊ぶんなら 安心だけど な。 あんなに可愛いコ ・・・
外に出したら大変だよなあ〜 ・・・ うん ・・・抱き締めてみたい ・・・ う!
ううう〜〜〜 やっぱ冷たいしゃわ〜〜!!! 」
ジョーは一人でうめきつつ、バスルームに閉じ篭った。
「 ファンションちゃ〜〜ん ぬれなかったあ?? 」
すぴかは ぼす・・・!っとソファに座ると お友達に聞いた。
「 すぴかちゃん。 ええ だいじょうぶ。 おやねのしたにいたから ・・・
うふふふ・・・・ たのしかったわね。 」
「 うん! やっぱおそとであそぶの、いいよね〜〜 ココもすきだけど。 」
「 そうねえ ― すぴかちゃん。 聞いてもいいかしら。 」
「 うん なに〜〜 」
「 すぴかちゃん ・・・ どうしてオトコノコみたないお洋服なの? 」
「 へ? あ〜 これ? あは〜 アタシさあ すかーとって好きくないんだ〜 」
「 ?! どうして??? ふわふわのスカート、ステキじゃない?
私、 はやくおとなになって ママンみたく裾の長い服をきてみたいな〜って思うわ。 」
「 ママン? ああ お母さんのことかあ 〜〜
えへへ・・・でもさ〜 アタシにはにあわないし〜 この方がいいんだ。 」
「 そんなこと、ないわ。 すぴかちゃん、スカートにあうわよ。 」
「 あ・・・ うん ・・・ でもさ、 アタシ おてんばだし〜 てつぼう とか きのぼり、 すきなんだ。
だからコレがいいんだ〜 」
「 ふうん ・・・ なんか ボーイズ・クラス のおとこのこたちのれっすん着、みたい。 」
「 え・・・ ボーイズ・クラス なんてあるの?? 」
「 ええ。 だってオトコノコたちはいっぱいとんだりするでしょう? 」
「 あ〜 そうかも〜〜 ふうん ・・・ いいなあ アタシももっととんだりするパ、やりたいな〜 」
「 まあ おかしなすぴかちゃん。 」
「 そっかな〜 アタシのお母さんもね、 すそのながいスカートとか着ないし〜
あのね、お母さんのあし、と〜ってもきれいなんだ〜 そんでもってお父さんはね、
お母さんのあしが大すきなんだよ〜〜 ちゅ・・・とかしてる。
あ〜 ファンションちゃんは ふわふわしたスカートがにあうね。 」
「 うふふ・・・ この服はお気に入りなの。 ほら ・・・ このおりぼんもお気に入りよ? 」
ファンションちゃんは ふわ〜っと髪の毛を広げてみせた。
すぴかと同じ色の髪なのだけれど くりん、とカールしていて肩にやさしく垂れている。
白いレースのリボンが とてもよく合っていた。
すいぴかは ちょん ・・・ と自分のロープみたいなお下げをひっぱってみた。
「 うん ・・・ くるんくるんの髪 ・・・ きれいだね〜 」
「 メルシ〜 ・・・ すぴかちゃんの髪も ・・・ ねえ みつあみ、といてみれば?
きっと ステキだわ。 」
「 え〜 ・・・・ そ そっかな〜〜 アタシ、まいあさお母さんにぎっちぎちにあんでもらうんだ。
そうすれば走るときとか じゃまじゃないし〜 ファンションちゃんはみつあみ しないの? 」
「 寝るときとかには ママンにゆるくあんでもらうのよ。 」
「 ふうん ・・・ ファンションちゃんは おしとやか なんだね。 」
「 おしとやか ? ・・・・よくわからないけど ・・・
でもバレリーナはいつだってレディでなくちゃ。 おひめさまをおどるんですもの。 」
「 ふ〜〜ん ・・・ アタシはさ〜〜 オヒメサマよか ・・・ま いっか。
ねえねえ 遊ぼうよ。 なにする〜〜 」
「 なにしましょ? お絵描き? ここなら けんぱ もできそう。 あとは ・・・ あみもの? 」
「 う〜〜〜 ・・・ 」
― ドン ・・・! あけて〜〜〜〜 !!!
ドアの向こうで すばるが怒鳴っている。
「 あ。 すばるだ〜 ファンションちゃん、アタシの弟なんだけど ・・・ いれてもいい? 」
「 まあ すぴかちゃんの弟さん? ええ ええ ぜひ。 しょうかいしてちょうだいな。 」
「 うん。 す〜ばる〜〜 カギなんかかかってないよ〜〜 」
「 ・・・ あかない〜〜〜 僕、 おにもつ いっぱい! 」
「 わ〜かったよ! 」
すぴかはぽん、とソファから飛び降りるとドアまで駆けて行った。
「 ・・・ うん・・・! ほら あいたよ、すばる。 」
「 わあ ありがと〜〜 すぴか。 ねえねえ お友達は?? サアちゃん? 」
「 ううん。 こっちだよ。 」
「 うん。 」
「 すばる ・・・ なに、そのにもつ。 」
すばるは背中にご自慢の < きょうりゅう・りゅっく > を背負い、大きな魔法瓶の水筒を
肩から斜めに掛け 手には紙コップやら紙のトレイを持っていた。
「 ウン・・・ お母さんがね、 みんなでオヤツにしなさい・・・って。 」
「 ・・・ 紙こっぷ と 紙のトレイ 食べるの?? 」
「 ちが〜〜ぅ〜〜!! オヤツは 僕のせなか! 」
すばるは うんうんいいつつ、りゅっくを肩から下ろした。
「 ひゃ〜〜〜〜〜〜 おもかったァ〜 」
「 だから〜〜〜 な〜にが入っているのかな〜〜♪ 」
すぴかは夢中で弟のリュックを開けようとした。
「 ぶっぶ〜〜〜 僕のきょかなくしてあけれません〜〜〜 」
「 こ の〜〜〜!!! 」
「 やだぁ 〜〜〜〜 」
「 あの・・・ すぴかちゃん? 弟さん きた? 」
あわや < 乱闘 > という時に ― 澄んだ可愛らしい声が聞こえてきた。
「 あ! いっけね〜〜 すばる、 それぜんぶもって! はやく!! 」
「 う うん ・・・・ ね〜〜 やっぱりサアちゃん? 」
すばるは もぞもぞ・・・リュックを背負いなおし、水筒を肩から掛けて・・・
「 ほら はやく! う〜〜ん・・・・ それじゃ紙こっぷと紙トレイはアタシが
もってくから。 ほら こっち! はやくってば! 」
「 ま まって ・・・ 」
「 ほら〜〜〜 」
「 すぴかちゃん? なにかおてつだい、しましょうか? 」
古い本箱の陰からひょっこり 金髪の女の子が顔をだした。
「 あ〜 ねえ〜〜 これ、アタシのおとうと! 」
「 ― まあ ・・・! 」
女の子とすばるは 真正面から見つめあった。
「 ?? あれ?? サアちゃん じゃないね? ・・・ だれ? 」
すばるはセピアの瞳をまん丸にして じ〜〜〜っと彼女をみている。
「 ぶっぶ〜〜〜〜! ヒトに向かって指差しをしてはイケマセン。 」
「 あ うん ・・・ごめん。 あの〜〜 僕、 すばる! 」
「 うふ ・・・ 私 ファンションよ。 ぼんじゅ〜る、ムッシュウ・すばる? 」
オンナノコは 紺色の襞がいっぱいあるスカートをちょっと摘まんで お辞儀をした。
「 あ あ ・・・ じゅ〜る?? うわ〜〜〜〜 ・・・・ 」
「 ほら すばる! おやつ オヤツ〜〜〜! ここにならべて。
あ ふぁんしょんちゃん、 オヤツにしよ。 」
「 まあ お茶タイム? 弟さんがもってきてくださったのね? メルシ〜〜♪ 」
「 わ は ・・・ あ〜〜 えへへへ・・・・ 」
すばるはずっと彼女をじ〜〜〜〜っと見ている。 ず〜〜っと ず〜〜っと見詰めている。
「 すばる! ほら てつだってよ! 」
すぴかが つん、と突っついた。
「 あ う うん ・・・ ねえねえ すぴか! このコ ・・・ 」
「 このコ じゃなくて。 ふぁんしょんちゃん! 」
「 あ ・・・ うん ・・・しょんちゃん ・・・ かわいい〜〜〜ね〜〜〜
すご〜〜い お目々ってば 僕のおかあさんみたい。 きれいだね〜〜 きれいだね〜〜 」
「 まあ うふふ めるし〜 ムッシュウ? 」
ファンションちゃんはほっぺを薄紅いろに染めて ちゅ・・・! とすばるのほっぺにキスをしてくれた。
「 うひゃあ〜〜♪ め めるし〜〜 ・・・しょんちゃん 」
すばるはもう〜〜嬉しくてこちらもほっぺが真っ赤っかだ。
「 ねえねえ〜〜 オヤツ! オヤツにしよ! あ・・・ お握りだあ〜〜〜
こっちは ・・・ あ。 さっきのくっきー? 」
すぴかはすばるのリュックから お握りだのクッキーだのを取り出してソファの上に並べた。
「 ・・・ あ うん。 まだあんまし冷めてないけど。 くっきー、焼けたから。 」
「 まあ これ ・・・ なあに? 」
「 え ・・・ お握りだよ? 」
「 お にぎり ・・・? まんまるなのね? 」
「 うん。 僕がつくったの。 このくっき〜も。 」
「 まあ〜〜〜〜 すごいわ〜〜〜 すばるちゃんってすごい〜〜〜 」
「 え えへへへ〜〜〜〜 ♪ 」
「 こんなにかわいくて おりょうりもじょうずで ・・・ しょうらい、すてきなだんなさまになれるわ。」
「 え えへへへ そっかな〜〜〜♪ 」
「 ぜったい! ああ〜〜〜 私もすばるちゃんみたいなヒトとけっこんしたい! 」
「 ぼ 僕も 〜〜 ・・・ しょんちゃんみたいなヒト、およめさんにしたい〜〜 」
「 ねえねえ〜〜〜 たべようよ〜〜 ほら ファンションちゃん、おにぎり、食べてみて〜〜 」
見詰め合って盛り上がっている <2人> に すぴかが割り込んだ。
「 あ そうだったわね。 私、 すばるクンの お にぎ り ・・・ いただきます。 」
「 うん! あ これ これ〜〜〜 僕の じゃむおにぎり! どうぞ! 」
「 まあ ・・・ ジャム? おいしそうね。 」
ファンションちゃんは にこにこ・・・・すばるが差し出したお握りのラップを剥いている。
「 ・・・ あ〜〜〜 アンタ、また じゃむ握り つくったの?? げ〜・・・しんじらんない〜〜
お母さん、だめって言わなかった?? 」
「 自分でたべるのだけならいいわ っていったもん。 」
「 ふ〜〜ん ・・・ アタシはおことわりだからね! え〜と? めんたいこは どれ? 」
「 ・・・ これ。 」
「 さんきゅ〜〜 ・・・ むぐむぐ ・・・ おいし〜〜♪ 」
「 ・・・ きゃ〜〜〜 これ、おいしいわあ〜〜 ライス・プディングね、これ。
いちごジャムがとってもおいしい〜〜 」
「 あ あのね ・・・しょんちゃん。 このじゃむ・・・ウチのおんしつのいちごでつくったんだ〜
僕のお母さんがね、 つくったじゃむ。 」
「 まあ そうなの? すばるちゃんのママン、ステキねえ〜〜
私もね、しょうらいけっこんしたら ジャムとかぴくるすとかつくってびんづめにするの! 」
「 うん! 僕んちのお母さん、いっぱいつくってるよ! 」
「 ・・・( むぐむぐ ) あ〜〜 おいしかった。 ねえ すばる〜〜 くっき〜たべよ! 」
「 ・・・ あ う うん ・・・ はい これ! 」
「 まあ 〜〜 いい香り・・・ あの ・・・すぴかちゃん、ごめんなさい・・・ お水、あるかしら・・・ 」
「 あ ごめん〜〜 僕 お茶 もってきたんだった〜〜 」
すばるは慌てて水筒を取り上げた。
「 なかみ、なに? 」
「 え〜と ・・・ たぶん みるく・てぃ。 お母さん、そう言ってたし 〜 」
「 ・・・ もしかして 甘ァ〜〜い?? 」
「 ううん、おさとう、はいってないよ。 おさとうは ・・・ これ! 」
よいしょ・・・と彼はポケットからスティックシュガーを取り出した。
「 あ 〜〜 そんならよかった〜〜 アタシ、わけるね? カップは〜〜っと・・・ 」
「 これでしょ? 」
ファンションちゃんが 上手に紙コップを並べてくれた。
「 ありがと〜〜 あ! ふぁんしょんちゃん、 ミルク・ティー、 おさとう、いれる? 」
「 僕ね う〜〜〜〜〜〜んとあまいのがすき♪ 」
「 わ〜かってるってば。 ねえ ねえ ふぁんしょんちゃんは? 」
「 うふ・・・ 私もね 甘ァ〜〜いのが好きなの♪ 」
「 わ〜〜〜〜 いっしょだね〜〜〜 いっしょだね♪ 」
「 ふ〜ん ・・・だ。 アタシはな〜んにもいれないもん! 」
「 まあ すぴかちゃん、すごいわ〜〜 オトナのヒトみたい・・・
わたしのお兄ちゃんね、わたしがお砂糖いっぱいいれるといつでも笑うの。
ファンってばいっつまでもコドモだなあ〜〜って。 」
「 え へ? そ そう? えへへへ ・・・ 」
「 ねえねえ ・・・しょんちゃん? 僕のつくったくっき〜 たべてみて〜 」
「 アタシもてつだいました。 」
「 まあ〜〜 すごいのね〜〜 すぴかちゃんもすばるちゃんも ・・・
私、まだクッキー、焼いたことないの。 ジェリーとかブラマンジェなら ママンのお手伝い、
したことあるんだけど。 」
ファンションちゃんは すごいわ〜〜・・・って双子の顔を代わる代わる見詰めている。
「「 え・・・ えへへへへ ・・・・ 」」
すぴかもすばるも ― なんだかお腹の底から とて〜〜〜〜〜もいい気分になってきて・・・
2人でにまにま笑ってしまった。
「 ― じゃ いただきます。 」
ファンションちゃんは ちゃんとソファに座るとお行儀よくクッキーをひとつ、手にとって
その端っこをちょこっと齧った。
「 ねえねえ どうどう? おいしいよね〜〜 」
「 ・・・ あ あの ・・・? おいしい・・・? 」
「 ・・・・・・・・ 」
彼女はとて〜〜も真剣な顔で クッキーを味わっている。
え ・・・ お おいしくない のかな ・・・
え〜〜〜 どうしよう〜〜 僕ぅ ・・・
あんましあまくないから好きじゃないのかなあ・・・
でもさ すばるやお母さんはこのクッキーに
はちみつ とか付けるんだよね〜〜
すぴかとすばるは じ〜〜・・・っと息を止めて ファンションちゃんと見ている。
「 ・・・ このクッキー ・・・ 私のママンがつくるのと 同じ味・・・・! 」
「「 ― え ??? 」」
すぴかとすばるは同時に声を上げ え〜〜〜??って見詰めあってしまった。
「 このくっき〜 ・・・ 僕のお母さんのつくりかたをね、 お父さんからおそわったの。 」
「 すばる〜 それじゃいみふめい。 」
すばるの発言はいつも簡潔なのだが 説明不足なのだ。
「 お母さんはね、 お母さんのお母さんからおそわったんだって。 」
「 そうなの?? すごいわ〜〜 私たち、やっぱり うんめいのいと でむすばれているのよ。
お友達になれる・・・って うまれる前からきまっていたのだわ〜〜 」
「「 ・・・ う〜〜〜ん ・・・・ 」」
双子にはちょっとまだよくわからなかった。 けど なんだかとって〜も嬉しい。
「 アタシたち! しんゆうどうし だよね〜〜 」
「 ね〜〜〜 僕、 オトコノコのしんゆう は わたなべ君で オンナノコのしんゆう は
・・・しょんちゃんだあ〜♪ 」
「 そうね そうね♪ きゃ〜〜 」
三人はきゃわきゃわ・・・団子になって跳びはねた。
こうして 屋根裏部屋のオヤツタイム は大盛況のうちに終った。
「 ― あ いっけない〜〜 だめよ だめよ すぴかちゃん すばるちゃん〜〜
お家の中で飛び上がったり騒いだら叱られるわ。 」
「「 ・・・ は〜い ・・・ 」」
「 ちゃんとお片付け、しなくちゃ。 コップとお皿は重ねて・・・ この紙も ・・・ 」
ファンションちゃんは お握りを包んであったラップまで丁寧に畳んでいる。
「 あ ・・・ それ 〜 すてちゃっていいよ? 」
「 あら だめよ。 大切にしなくちゃ。 ね〜 すばるちゃん。 」
「 う うん! 僕もおてつだいする〜 」
すばるは クッキーを入れてきた袋のシワをのばしている。
「 へえ〜〜?? すばる、アンタ いつもだしっぱなのに〜〜 」
「 ち ちがうもん! ・・・しょんちゃん みたくするんだ〜〜 」
「 ふん! 」
ともかく三人は オヤツたいむの後片付けをした。
「 ね。 ティー・タイム 終ったし。 あそびましょ。 何しましょ? 」
「 そだね! ・・・ う〜〜ん ・・・? あ! おあいとり・ごっこ しよ! 」
「「 あおいとり ごっこ ?? 」」
「 そ♪♪ 」
すぴかは 颯爽とお友達 と 弟の前に立った。
「 あのね! あ ファンションちゃん、しってるよね?
『 ぶるーばーど 』 の ぐらん・ぱ・ど・どぅ。 」
「 ええ 知ってるわ。 『 ら・べる 』 の三幕でしょ。 」
( いらぬ注 : La Belle 眠りの森の美女 のフランス語題名 )
「 ら べる ?? 」
「 これでしょ〜〜 ふんふんふん ♪〜〜〜♪♪ 」
ファンションちゃんは 『 ブルー・バード 』 の女性ヴァリエーションの一節を歌った。
「 そ! ふぁんしょんちゃん、ふろりな王女。 アタシ、ぶる〜ば〜ど 〜〜
そんでもって < とらわれの・ふろりな王女 > をきゅうしゅつにゆくんだ〜 」
「 まあ〜〜〜 おもしろそう〜〜 」
「 ・・・ 僕はあ〜〜〜??? 」
「 あ ・・ う〜〜ん ・・・ すばる、アンタは ・・・ うま! 」
「 ・・・ うまァ?? 」
「 そ! せいぎのみかた! のアタシがのってゆく うま! 」
「 ふろりなおうじょ・・・ってなに〜 」
「 あのね すばるちゃん。 バレエのおはなしでね、 高い塔にとじこめられた
フロリナ王女を助ける! って 青い鳥ががんばる〜〜っていうのがあるのよ。 」
「 ・・・ ふうん ・・・ うま は? 」
「 あ ・・・ う〜ん・・・え〜とねえ・・・ 」
「 すばる! アンタはアタシのお供をして とう のある場所までアタシをのっけてゆくの
ゆけ〜〜〜 あいばよ〜〜〜 」
「 ・・・・・・・・ 」
「 すばる! なんとか言ってよ! うまはへんじ、しなきゃ! 」
「 ・・・ ウマって。 なんてなくの? わんわん・・・じゃないよね・・・ ?
僕〜〜〜 ウマってホンモノ、みたことない〜〜 」
「 ・・・ アタシだって ・・・ ない、けど。 ウマって・・・ う〜ん・・・ ?? 」
「 お馬さんはね ひひ〜〜ん! って鳴くのよ、すばるちゃん。 」
「 あ そ そうなんだ? ありがと〜〜 ・・・ しょんちゃん♪ 」
「 うふふ・・・ すばるちゃんのお馬さんなら きっと茶色のたてがみで と〜っても
キレイなお馬さんね。 私も乗ってみたいわあ〜 」
「 あは・・・ ど どうぞ? おひめさまをのっけて すすめェ〜〜♪ 」
「 すばる〜〜!! 」
― どん! すぴかが2人の間に割り込んだ。
「 いった〜〜〜! すぴか〜〜 どん!ってしないで。 」
「 アタシが! ひーろーの ぶるー・ばーど なの!
アタシが おひめサマをたすけにゆくんだから〜〜 ウマはだまってアタシといっしょに
くればいいの。 さあ〜〜 ゆくぞ! 」
「 じゃあ〜 かえりはおひめさまをのっけるからね!! 」
「 いいよ〜〜だ。 ふぁんしょんちゃん、あそこのイスの上にいて?
とう の中のとらわれのひめぎみ 〜〜 」
「 ええ わかったわ。 」
ファンションちゃんは 古いイスの上に登った。
「 う〜ん ・・・ ちょっとまってて〜 」
「 なあに? 」
すぴかは 大きな箪笥の引き出しを開けて、なんだかごそごそやっている。
「 すぴか〜〜〜 なにしてるの〜〜 」
「 ・・・ っと! あった あった〜〜〜 ほらこれ! 」
バサ。 すぴかは引っ張り出してきた布を広げた。
「 わあ〜〜 きれい ・・・ これ レース? 」
「 れえす? わかんないな〜 これってさあ、古いカーテンなんだ〜 もうつかわないの。 」
「 あ〜 それえ すぴかと僕がおばけごっこしてしかられたかーてん? 」
「 ぴんぽん♪ ね! ふぁんしょんちゃん〜 これ〜〜 オヒメサマのドレスのつもり! 」
「 ほんと? ステキ〜〜 ・・・ じゃあね こうやって ・・・ 」
ファンションちゃんは上手に古カーテンを腰に巻き付け蝶結びでリボンをつくった。
「 わ〜〜〜 すごいね〜〜〜 ・・・しょんちゃん♪ ホンモノのお姫さまだあ〜〜 」
「 うふふ ・・・ メルシ〜〜 むっしゅう・すぱる〜 」
ちょん♪ またまたちっちゃなキスがすばるのほっぺにやってきた。
「 うわ〜〜〜ん♪ えへへへ ・・・・ 」
「 すばる〜〜〜! ほら これ! 」
いいムードをすぴかがぶち壊す。
「 ― これ? ・・・ ほうき じゃん? 」
「 そ。 アタシがのっかっておっちゃったヤツ。 」
「 だよね〜〜 おかあさん、おこったよね〜〜 」
「 ・・・うん。 これさ〜 ウマ。 アンタ、ウマの前はんぶん、やったら。 」
「 まえはんぶん?? 後ろは?? 」
「 うしろは これ。 ここにアタシとか〜 とらわれのヒメ君とかのっけるの。 」
「 まあ〜〜 ステキ♪ あら? すぴかちゃん、 その ・・・ 布はなあに? 」
すぴかはくるくるした模様があるでっかい布を 首から巻いていた。
― 要するに マントみたくうしろにひらひら〜〜〜 させていた。
「 これ ふろしき なんだ〜 でも! ひーろーの まんと! 」
ばさ 〜〜 すぴかは < 唐草模様 > の風呂敷を背負って ふん! と胸をはった。
「 さあ! おひめさまをたすけにゆくぞ! ウマ! 」
「 ひひ〜〜ん ・・・ ウマで〜す♪ 」
すばるがほうきに跨ってやってきた。
「 おう ごくろう。 では たかい塔 のあるしろへ〜〜 しゅっぱつ〜♪ 」
屋根裏部屋は ― たちまち 冒険島 に早替わりとなった。
イラスト : めぼうき
ふんふんふ〜ん♪ キッチンにはご機嫌チャンはハナウタが流れっなしだ。
「 え〜と♪ 今晩は〜 肉じゃが でしょう? それから ・・・
・・・ あら、 ジョーってば 遅いわよねえ ・・・ どうかしたのかしら。 」
ふっと二階の様子が気にかかったのだが ― 脚をとめた。
「 いいの、 その必要はないわ。 夫の行動をいちいちチェックするなんて賢い妻の
することじゃないわ。 ええ わたしはジョーを信頼しているもの。 」
晩御飯つくりに熱中しはじめ、彼女がジャガイモを全部剥き終わったころ、
や〜っとジョーはキッチンに降りてきた。
「 ・・・ フワ〜〜い ・・・ 」
「 ?? ジョー!? 」
「 う〜〜 ・・・ 春だってのに まだ水は冷たいのな〜 ぶぇっくしゅ! 」
「 寒いの?? あら ・・・ やだ ・・・ 」
ジョーは ・・・ 髪はまだしめっぽく ・・・ がちがち震えていた。
「 ど うしたの!?? 」
「 ・・・ うん ・・・ 冷水シャワーで アタマ冷してきた ・・・ 」
「 れ れいすいシャワー ですって?? 」
「 ん。 もう大丈夫。 ぼくの心は鉄壁だ! 」
「 ?? 何 言ってるのか全然 意味ふめい なんですけど〜〜
まあ いいわ。 ほら このバスタオル 使って 」
「 う うん ・・・ ありがとう・・・! ― なあ ・・・ フラン? 」
ごしごし髪を拭きつつ ジョーは彼の愛妻の前に立つ。
「 はい? 」
碧い瞳が まっすぐに彼をみつめた。
う ・・・ わ ・・・ !
・・・この目 この視線 に ぼく ヨワいんだ〜〜
それは 厳しく激しいものでは決してなかった。
静かに そして 穏やかに ― それでも心の奥にまでゆっくりと染み透る・・・目線。
彼女の眼差しは どこまでも温かくゆったりとジョーを包み込んでゆく。
ああ ・・・! そうだよ そうだったんだ。
ぼくは この瞳に援けられ 愛されて
ぼくは ― 生まれ変わったんだ
この女性に巡り会い、彼女を愛しそして愛され ・・・
うろうろと自分自身の居場所を求めて彷徨っていた彼は ― やっとその脚を止めた。
一人ぼっちの、愛に餓えた少年は 愛することを知る男性に成長できたのだ。
この女性 ( ひと ) を命に代えても護りたい! と思ったとき、 ジョーは真に強くなった。
うん ・・・ なんだか信じられない力が出るんだ。
フランのことになると。 勿論チビ達も、だけど。
009としてのメカニカルなパワーの限界なんか軽くオーバーするよ
ジョーは こうして自分でも意識せずに <最強のサイボーグ> になっていった。
「 フラン ・・・ ああ フランソワーズ〜〜 愛してるよ! 」
ジョーは がば!っと彼女を抱き上げた。
「 きゃ! ・・・ ちょっと〜〜〜 どうしたの? ・・・ねえ 大丈夫? 」
「 あはは あはは ・・・・ いや〜〜 大丈夫じゃあないなあ〜
ぼく さ、 きみにめろめろなんだ〜〜 愛してる 愛してるよ〜〜〜〜♪♪ 」
彼は彼女を抱き上げたまま くるくると回った。
「 まあ ・・・ もう〜〜〜 ホントにどうしたのよ? うふふ うふふ ・・・
おかしなジョーねえ ・・・・ 」
「 あっはっは ・・・ あ〜〜〜 もう きみに惚れ直した♪ そして お腹もぺこぺこです〜〜 」
「 はいはい ・・・ ですからお握りもちゃんとできてます。
すばる・パティシエ の許可も頂きましたので、 <おれいのくっき〜 > は
ちょこっとだけなら食べてもいいよ だそうですよ? 」
「 うわお♪ それじゃ 奥さん? ご一緒にお茶たいむにしませんか?
・・・ウルサイのが遊んでいる間に さ。 」
「 うふふ・・・ はい♪ えっと・・・ お握りだからほうじ茶とかがいいのでしょう? 」
「 お手数でなければ・・・ 」
「 いえいえ ・・・ わたしも飲みたいな〜と思ってましたから。 熱々を淹れますね〜 」
「 ・・・ うん ・・・・ 」
ジョーはキッチンのスツールに腰掛け テーブルに肘をついて眺めている。
いい匂いが漂う空間を ぐつぐつ音をたててる鍋を そして エプロンをきりりと締めて
くるくる動いている ・ 最愛のヒトの ・・・ オシリを。
― ふは ・・・・ 彼の口から満足の吐息が漏れた
「 まあ どうしたの? 溜息なんかついて ・・・ お疲れ? 」
「 ・・・え? いいえちがいます、奥さん。 これはね、 ぼくの ・・・ 」
「 ジョーの ・・・ なあに? 」
「 うふふふ ・・・・ ナイショ♪ アイシテル〜〜〜 ぼくのフラン〜〜〜 」
ジョーはがば・・・っと彼の細君を抱き締めた。
「 あ ・・・ こらあ〜〜〜 そんなにひっついたら お茶が淹れられませ〜〜ん 」
「 は〜〜い♪ ・・・ じゃ 続きは 」
ジョーはこそ・・・っと彼女の耳元で囁く。
「 ・・・・・ 」
フランソワーズは ぽっと頬を染めて頷く。
― 春の宵は 恋人たちの約束で 満員御礼 ・・・らしい。
と ぽぽぽぽ ・・・・ 香り高いお茶が急須から注がれている。
「 ふう ・・・ やっぱいいなあ〜〜 」
「 わたしも大好きよ。 この国にきて < 香ばしい > って言葉を知ったわ。
ええ もちろん味も。 ・・・ ああ 美味しい・・・ 」
「 さて。 すばる・パティシエ作 の くっき〜 を頂くといたします〜〜 」
「 はいはい ・・・ どうぞ。 本当に美味しいの! 」
「 イタダキマス ・・・ むぐむぐ ・・・ 」
ジョーはかしこまってお辞儀をしてすばる・クッキーを一枚、 端っこからちまちま食べだした。
「 う ま〜〜〜い ・・・♪ アイツ、すごいぜ・・・ 」
「 うふふ さすがジョーの息子よねえ。 」
「 あは ・・・ あ〜 なんだかこれ・・・ 皆に配るのが惜しくなってきたなあ 」
「 あら 本人は <おれいのくっきー> って張り切っているんですもの、
皆さんに上げてちょうだい。 」
「 うん ・・・ あ そうだ < すばる からです > って書いておくよ。 うん ・・・
アイツも友達と食べているだろう? 」
ジョーは天井を見上げた。
「 ええ お握りと一緒に持たせたから。 お友達も喜んでいると思うわ。
ねえ ジョー。 わたしね、子供の頃・・・空想上のお友達がいたのよ。
何時の間にか忘れてしまったけれど・・・ とっても仲良しだったわ。 」
「 空想上の? あ〜 うん ・・・ わかるな〜 ぼくもさ、居たなあ ・・・
ほら自分だけのモノ って ごく少ない環境だっただろ? だから 空想上の友達 は
とっても大事な宝物だったんだ。 」
「 まあ ジョーも? うふふ ・・・ 雨の日とか・・・ 一人でお留守番しているときとか・・・
いろいろ空想して楽しんだの。 好きなお菓子を一緒に食べたつもりになって遊んだり・・・ 」
「 あ〜 わかる わかる ・・・ ちゃんと会話もしてたしね。 」
「 ねえ ・・・ あのコはどこへ行ってしまったのかしら ・・・ 」
「 ・・・ いるよ。 」
「 え どこに? 」
「 ・・・ ここ に。 きみやぼくのこころの中に さ。
どんなに環境が変わっても ― ぼくらのこころは 誰も変えることはできない。 」
ジョーは静かに細君を抱き寄せた。
「 そうね ・・・ ええ そうね。 そうね ・・・ 思い出と一緒よね ・・・ 」
「 ああ そうだよ。 」
「 ジョーと ・・・ あの子達との日々は忘れないわ ・・・
そして すぴかとすばるを育てた日々も ・・・ ずっと ずっと 」
「 うん。 一生 ・・・ 」
それ以上言葉はいらなかった。 2人はお互いの想いを十分に知っていたから・・・
そうなのだ。 どんなことがあっても こころはずっと一緒。
ジョーとフランソワーズはじっと見つめ合い 静かに口付けを交わした。
さて その頃屋根裏部屋では ・・・
― ドン ・・・!
「 すすめ〜〜〜 ウマ! たかいとうから ふろりな王女をたすけるのだ〜〜 」
「 いった〜〜! すぴか けった〜〜 」
「 アンタ ウマでしょう? おはなし、しない! 」
「 けったりぶったり はんそく〜〜!! 」
「 アタシはヒーローなんだから いいの! 」
「 いくない! 」
「 ・・・ ねえ けんか やめて? さあ 青い鳥さん? ウマさんも一緒に・・・
この塔から脱出しましょう〜 」
またまたあわや乱闘・・・となりそうだった 青い鳥 と ウマ を ふろりな王女 がうまく仲裁してくれた。
「 え あ ・・・ うん そうだね〜
では おひめさま? このウマにのってください。 あおい鳥がおまもりします。 」
すぴかは ばさ・・・っとマントを振ってお辞儀をした。
「 さあ どうぞ! 」
ウマもお辞儀をして ふろりな王女の前にホウキに跨ってやってきた。
「 いいえ! わたくしもたたかいますわ! 」
「 え!? おひめさまなのに? 」
「 ええ。 わたくしだって正義の味方ですわ! あしでまといにはなりません! 」
「 すご〜〜〜い!! ・・・しょんちゃん、かっこい〜〜〜 」
ウマはますますほっぺを赤くして ぼ〜〜〜っと姫君をみつめている。
「 ふぁんしょんちゃん ・・・ ホント、かっこいい・・・・ふぁんしょんちゃんの方が
ひーろー みたいだね! 」
すぴかまで 感心してじ〜〜っと彼女をみつめている。
「 うふふ ・・・ そう? 私ってね、 本当はすっご〜〜〜く・・・ お転婆さんなの♪ 」
「 なぁ〜〜んだあ〜〜〜 アタシといっしょだあ〜〜 」
「 うふふ うふふ ・・・ 私、 すぴかちゃんとすばるちゃん、大好き♪ 」
「「 アタシ・僕 も ふぁんしょんちゃん、大好き〜〜♪ 」」
よく似た三人の子供たちはきゃわきゃわ大賑わいだ。
「 ああ 楽しかった〜〜 あ ・・・ 私、 そろそろママンが帰ってくるかも ・・・ 」
「 え ・・・ おかあさん、おでかけなの? 」
「 ええ。 お仕事。 」
「 わ〜〜 僕のお母さんも! お仕事ゆくよ〜〜 <おしえ> なんだって。 」
「 ふうん ・・・ おんなじねえ。 」
「 また遊ぼうね! ふぁんしょんちゃん。 」
「 ええ! あ ・・・ あのね ・・・ もうすぐお引越しなの。 パリのアパルトマンなのよ。
だから ・・・ 屋根裏のお部屋ともお別れなの。 」
「 え〜〜〜 そうなんだ?? あぱるとまん には屋根裏部屋は ないの? 」
「 ないとおもうわ。 」
「 あ ・・・ でも でも アタシ、いつもここにくるから。 ここでまってるから! 」
「 まあ うれしいわ。 すぴかちゃんやすばるちゃんに会いたいな〜〜って思ったら
きっと会えるわよね。 」
「 うん! あ! そうだ〜〜ちょっと待ってて! 」
すぴかは ぽん! とソファから飛び降りるとだだだだ・・・・っと屋根裏部屋から駆け出した。
― バン ッ !!!!
キッチンのドアが 破けそうな勢いで開いた。
「 おかあさんッ !!! 」
「 ・・・ すぴかさん。 ドアは静かに。 それと ― 」
「 は〜〜い!! すいっち・おふ でしょ。
ねえねえ あのね!!! すぴか〜〜〜 お願いがあるの!! 」
「 ― すぴかさん。 」
「 ・・・ ごめんなさい。 あの。 おかあさん、お願いがあるの。 」
「 はい なんでしょう? 」
「 あのね! ・・・ あのね ・・・ やねうらべやにしまった こさーじゅ ね 」
「 ええ あの赤い薔薇のコサージュね。 」
「 うん。 あれ ・・・ すぴかにくれる? 」
「 え ・・・ すぴかはお花とかつけるの好きじゃないのでしょ。 」
「 う〜ん ・・・ でもね、 あのお花はすきなの。 だから −アタシにくれる? 」
「 いいけど ― 大事にしてくれますか? 」
「 うん!!!! ・・・ あ うん ・・・ はい。 だいじにします。 」
「 じゃあ すぴかにあげます。 すぴかにもよく似会うわよ。 」
「 えへ・・・ そ そう??? 」
「 ええ。 だってお母さんとすぴかの髪は同じ色でしょう? 」
「 あ!! そだね〜〜〜 うふふ よくにあうよね〜〜 ありがとう!!!!! おかあさん!!! 」
すぴかは おかあさにぽん、と抱きついた。
「 あらら ・・・ふふふ ・・・ すぴかさんもそろそろオシャレさんになってきたのかしら? 」
お母さんは ちゅ・・・っとほっぺにキスをしてくれた。
「 えへへ・・・ ありがとう〜〜 あ めるし〜〜〜 お母さん♪ 」
「 まあ〜〜 Merci, ma petite 」
「 うふふふ めるし〜〜 ままん〜〜〜 」
すぴかはぱっと離れると ぶんぶん手を振ってまた階段を駆け登っていった。
「 ・・・あらら ・・・・ ふう ・・・ でも ま ・・・ ちょっとはレディになる気になった・・・かな? 」
母はお転婆娘の盛大な足音を耳に こっそり溜息を漏らした。
― バンッ !! 今度は屋根裏部屋のドアが大きく鳴った。
「 ふぁんしょんちゃん! いる〜〜???! 」
「 ここにいるわ すぴかちゃん 」
「 すぴか〜〜〜 ・・・ ばん!ってやっちゃい〜けないんだ〜〜〜 」
「 ・・・ ちょっとだまってて すばる。 」
すぴかは屋根裏部屋に飛び込むと 大きな箪笥の前に飛んでいった。
「 え・・・・っと ・・・ さっき入れたばっかだもん ・・・ あ これ ・・・・! 」
「 どうしたの、 すぴかちゃん。 」
「 これ! あげる。 ふぁんしょんちゃんに あげる! 」
「 え ・・・? 」
すぴかは ずい!っと赤い薔薇のコサージュを差し出した。
「 これ! アタシがお母さんからもらったの。 ふぁんしょんちゃんにきっとにあうよ!
だって ふぁんしょんちゃんってアタシのお母さんとと〜ってもよくにてるもん。 」
「 まあ きれい〜〜 でも いいの? 頂いても・・・ 」
「 いい。 これ アタシ、大事にするっておかあさんとやくそくしたの。
だから ・・・ 大事なおともだちのふぁんしょんちゃんに あげる! 」
「 すぴかちゃん ・・・・ 」
彼女はそっとコサージュを手に取ると両手で包んだ。
「 ありがとう!! 私のタカラモノにするわ。 」
「 め めるし〜〜 ふぁんしょんちゃん ・・・ 」
「 うふふ ・・・ Merci すぴかちゃん。 あ。 ママンが呼んでる ・・・
じゃあ ・・・ すぴかちゃん、 すばるちゃん。 また ね。 」
「「 あ ・・・ う うん ・・・ また ね 」」
すぴかとすばるは 思わず一緒に言ってしまった。
― バイバイ ・・・ 手を振って金髪の女の子は大きな箪笥の向こう側に行ってしまった。
「 ・・・ 帰っちゃった のかな ・・・ 」
「 うん ・・・ ・・・しょんちゃんちのやねうらべやは あっちにドアがあるんだって。 」
「 ふうん ・・・ 」
「 また あえる かな ・・・ 」
「 また ね って言ったよ? 僕達 ・・・ 」
「 うん ・・・ そだね 〜 すばる。 」
「 うん。 そ〜だよ〜 すぴか。 」
すぴかとすばるは なとな〜くハナの奥が つ〜〜ん ・・・としてしまった。
「 すばる ・・・ くっき〜 おいしいかった〜〜 」
「 えへへ ・・・ あ! お父さんのかんそう、きかなくちゃ! 」
「 あ〜〜 そだね〜〜 行こ! 」
「 うん!! 」
双子は手を繋ぐと 屋根裏部屋を出ていった。
また ね。 いつか自然にお別れした < わたしだけのお友達 >
また ね。 あのコたちは どこへ帰っていったのだろう
あのコは こころの奥に ちゃんと住んでいる ・・・ よね?
また ね。 うん、 また ね。
ねえ ・・・ また ね
**************************** Fin. ***************************
Last updated : 03.26.2013. back
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************** ひと言 ************
例によって なにごとも起きません。
それが 島村さんち なのかも ・・・・