『  ― また  ね!   ― (1) ―  』

 

 

 

 

                                        企画 : めぼうき ・ ばちるど

 

                                               テキスト : ばちるど

 

 

 

 

 

         ぴっとん ぴっとん ぴっとん ぴっとん ・・・・・

 

 

さっきからず〜〜〜っと。 ず〜〜〜〜っと同じ調子だ。

リズムもテンポもほとんど変わらない。 

もしかしたら 明日の朝まででも続くんじゃないだろうか。

 

         ぴっとん ぴっとん ぴっとん ぴっとん

 

テラスの手すりに落ちる雨だれを見ていて すぴかはちょっとだけ目が回ってきた。

「  ふ〜〜ん だ。  やァ〜めた ・・・!  」

すぴかは ぶ〜〜〜っと窓ガラスに息を吹きかけると、とん・・・と椅子の上から飛び降りた。

 

「  うわ〜〜〜お〜〜〜〜  つまんないよ〜〜〜〜〜ォ 〜〜〜 」

 

「 ・・・ う〜ん ・・・ そ〜だね〜 」

彼女の足元ですばるが床いっぱいに広げた < 彼の作業 > に熱中しつつこっちを見もしないで 返事をした。

どうせ声だけなのだ。   <姉> の言葉に自動的に相槌を打っているだけなのだ。

殊に今は。  <弟> は目の間の作業にひどく神経を集中させている。

「 ・・・ っと ・・・。  ふわふわふわ〜〜になりますよ〜に とんとんとん ・・・ 」

彼は リビングの板の間の隅っこに座り込み、 大きな紙をひろげてその上で作業をしている。

 

    トントントントントン ・・・

 

規則正しく揺れる銀色の篩 ( ふるい ) からは さわさわさわ ・・・絶え間なく薄力粉が舞い降りてゆく。

「 へえ ・・・ こなゆき みたいだね。 」

すぴかの声に反応もしない。

「 ・・・っと ・・・。  あと ・・・ はんぶん ・・・ がんばれ〜〜 僕ぅ〜〜〜 」

すばるのぷっくりした手は なかなか器用に篩 ( ふるい ) を使っていて

広げた紙の上には ふんわり・・・ 薄力粉が山を作り始めていた。

「 ね〜〜  おわったあ ? 」

「 ん ・・・ まだ。 いっぱいひつようなんだ。 」

「 ふ〜ん ・・・ なんだってアンタがつくるの? お父さんだってつくればいいじゃん。 」

「 ううん。 これはね〜  ありがとう! なの。 僕、ちょこをたくさんもらったから ・・・

 ありがとう、のくっき〜 つくる! 」

「 ふ〜ん ・・・ お父さんだっていっぱいもらったじゃん? アンタも見たでしょ? 

 おっきなふくろいっぱい! 」

「 みた。  お母さんとしんぷさまのとこにきふしてたよ。 」

「 アタシもしってる。 だから〜〜 そんなのお父さんがやればいいじゃん〜〜〜 」

「 ううん。 お父さんはおしごとでいそがしいんだ。

 だから僕がかわりに ありがとう、のくっき〜 つくるんだ。 」

「 ふ〜ん ・・・ 」

すぴかが 横からあれこれ・・・ 嘴をつっこんでいる間も ―

 

   トントントントン ・・・・ トントントン ・・・

 

すばるのちっこい手は休みなく粉をふるい続けている。

 ・・・そう、彼は クッキー作り にものすご〜〜く熱中しているのだ。

 

  ― その年、ホワイト・デー を控えてすばるは宣言をした。

 

「 お父さん お母さん。  僕 くっきー つくる。

 ばれんたいんの日に ちょこ、い〜〜っぱいもらったから ・・・ ありがとう!って おれい! 

 お父さんのかいしゃ のお姉さんたちにも、あげて。 」

「 え ・・・ すばる 作れるの? 」

お母さんは びっくりして碧い目がまん丸になった。

「 え ・・・ すばるが作ってくれるのかい? 」

お父さんは にこにこ〜〜っとしてくしゃ・・・っとすばるの髪を撫でてくれた。

 

   「 うん!!  僕、 くっきー つくる! たくさん! 」

 

「 お〜し。  がんばれ〜〜 簡単な作り方、教えてやるよ。 」

「 お父さん?  このまえ、いっしょにつくったよ?  僕 ひとりでつくれる。 」

「 あ・・・ そ そうなんだ? 」

「 うん。 」

すばるは珍しくはっきりと言い切った。

 

・・・ そんな訳で、 今、 すばるは準備段階その一、ってことで粉を篩にかけているのだ。

お母さんは びっくりしていたけれど、 お料理大好きニンゲンのすばるは

くっき〜 くらいかなり < おちゃのこ > で焼く。

「 お母さん〜〜  あのね あのね。 お〜ぶん のひかげん、おねがい。

 すいっち、高いとこにあるから。  」

「 ええ ええ。  あの ・・・ 他も手伝うわよ? 」

「 いい。 僕、まえにお父さんといっしょにつくったから。 ぜんぶおぼえてる。

 お母さん、 ざいりょう だしても いい? 」

「 あ いいわ いいわ。 材料くらいお母さんが買ってきます。

 え〜と ・・・ 必要なものはなにかしら ・・・ 」

「 おうちにあるものばっかりでだいじょうぶ って この前、お父さんがいった。 」

「 あ あら ・・・ そうなの? 

「 うん。  お母さんは お〜ぶん のひかげん、おねがい。 」

すばるは 珍しくきっぱりと! そして 重々しくお母さんに言った。

このチビの頑固モノは ほんの時たまだけれど一旦 < 重々しく > 宣言すると

どんなコトがあっても断固! 譲らないで実行するのだ。 

その頑固さには 赤ちゃんの頃からフランソワーズは手を焼いていた。

「 ― わかりました。 」

「 ね〜〜 !!! アタシも!  アタシもくっき〜〜 つくる〜〜〜 」

すぴかが ぐい、と手をあげて割り込んできた。

珍しく黙って弟の <くっきー宣言 > を聞いてのだが ― ついに介入した。

「 え〜〜 ・・・ いいよぉ ・・・ まんいんデス ・・・ 」

「 ううん! アタシも作るぅ〜〜〜!!!  アタシ、くっき〜のかたち、つくる! 」

「 ・・・ かたぬき っていうんだ。 」

「 かたぬき  やる! 

「 ・・・ じゃあ ・・・ そのときによぶから。 」

「 ホントによんでよ? 」

「 わかったってば。  僕は〜〜 まず こなをふるいにかけるんだ。 

 お母さん、 あのね、 フルイ、 お父さんが上のとだなにしまったから とって。 」

「 ?? う  るい ??  なあに、 それ。 」

お母さんは 大きな目をもっと大きくして ぱちくりしている。

  ( いらぬ注 : フランス人は hの発音が苦手 )

 

     ・・・ お母さんの目って    きれ〜〜 ・・・

     ビー玉みたいだあ〜〜・・・

 

     すぴかの目と似てるけど ・・・ でも !

     お母さんのがず〜〜っときれ〜〜だ ・・・ 

 

すぴかはおもわずお母さんをじ〜〜〜〜っと見詰めてしまった。

「 ?  なあに、すぴか。 」

「 !  う ううん!!! な なんでも  な い! 」

「 そう?   あ ねえ すばる。  うるい ってなあに。 」

「 うるい じゃなくて  ふ る い★  きっちんの上のとだな! だから取って。

 ・・・ いっしょに キッチン いこ。 」

「 ええ  教えてね、すばるクン。  」

すばるは お母さんの手をひっぱって キッチンに行ってしまった。

「  ・・・・ あ ・・・・  ふ〜ん だ。 」

すぴかは 珍しくも置いてきぼりを喰らって ちょっとだけびっくりしていた。

だって今までいつだって すぴかがすばるを置いてきぼりにしていたから・・・

「 い  いいもん〜〜 アタシ、 お外であそんでくる〜〜

 そうだ、てつぼうのれんしゅうしなくちゃ!  あしかけまえまわり10回〜〜

 ちゃれんじ!! 」

うん! と大きく頷いて すぴかはたたた・・・!っとお玄関まで駆けていった。

 

  ふんふんふ〜〜ん ・・・!  めざせ〜〜 てつぼう・めいじん〜〜

 

「 よっし。  へへへ・・・ 一人だからすぱっつとかはかなくてもいいよね〜〜 」

すぴかはトレーナーの裾を短パンに中に押し込んだ。 お気にりのスニーカーも履いた。

「 アタシのもくひょう!  あしかけまえまわり〜〜 10かいれんぞ! 」

お玄関で重々しく宣言をし すぴかは勇んでドアを開け ― 足が止まった。

 

   サ −−−−−−−−− ・・・・・・・・・

 

     うっそぉ 〜〜〜〜     雨 ・・・!

 

外はお母さんがお裁縫で使っている糸みたいに白っぽい雨が静かに降っていた。

もしかして鉄棒できるかも〜〜って すぴかはこっそりお庭へ出ていって鉄棒に掴まってみたけど。

「 ・・・ ダメだあ〜〜  ずるずるにすべるぅ ・・・ 」

あとからあとから落ちてくる細かい雨粒で 鉄棒は握ればするする滑ってしまう。

これはあぶない !  鉄棒名人 の 本能がぴ〜ぽ〜 ぴ〜ぽ〜 アラームをならす。

「 ・・・ ちぇ〜〜〜 がっかり〜〜〜 」

お下げアタマを濡らして すぴかはしぶしぶお家の中に戻った。

 

 ―  リビングには誰もいなかった。

 

「 あれえ ・・・・  すばるってば とんとん はもうおわったんだ ? 」

 ぴとん ・・・ 濡れたお下げから雫がひとつ、足元に落ちた。

 

   すぴかさん! ちゃんとタオルでふいていらっしゃい!

 

お母さんの声が聞こえる かな〜と思ったのだけど。  リビングにはすぴか一人だけだ。  

「 あ〜〜〜 アタシ、あたまぬれちゃったァ〜〜〜〜 !!! 」

わざと大きな声で言ってみたけど。  ― お小言は聞こえない。 ちょっとがっかりだ。

「 ふ〜ん ・・・だ!  ( す〜〜 は〜〜〜 す〜〜 は〜〜〜  よし! )

 あ〜〜〜〜 あ〜〜〜〜〜〜〜〜 つまんない 〜〜〜〜  ぃ ・・・・  」

すぴかは 深呼吸してから思いっ切り < 吼えて > みた。

  

  ―  と ・・・・ 案の定 ・・・

 

「 !?  すぴかさん。   もう少し小さな声で話しましょうね。 」

キッチンから よく透る声が飛んできた。

「 ・・・ はァ  い 〜〜〜〜 !!!!  ふ〜〜〜ん ・・・だ ・・・! 」

特大 のお返事をしてから  ぼすん! とソファに飛び込んだ。

雨で湿ったトレーナーがべっとりくっついてきてなんだか気持ち悪い。 

いつもはやっちゃいけない・こと なのだ。 ソファも濡れた・・・かもしれないけど。

 

     ふ〜〜〜ん ・・・だ!  いいもんね〜

     お母さんだって すぴかの言ったこと、な〜〜んにもきいてないじゃないかァ〜〜〜

 

ばさ 〜〜 どた〜〜〜   すぴかはソファの上で転がってみた。

ふん ふん ふん!  ぼこ ぼこ ぼこ・・・!

引っ繰り返ったあとは 空中バタ足をし始めた。

 

     だって だって だってェ 〜〜〜〜

     な〜〜〜んにもやること、ない〜〜〜  

 

     つまんないんだもん ・・・・!!!

 

すぴかのご機嫌は 空模様よりももっともっと真っ暗・・・・ いや大いにナナメだった。

 

 

早い春が ちら・・・っと見えるようになって 島村すぴか は大喜びだった。

もともと 超 がつくお転婆さんの彼女は 毎日お外で飛び回り学校の帰りもあっちこっちから

季節の便りを持ち帰ってきていた。

すばるよりもず〜〜っと行動範囲が広くてオトコノコみたいに活発な彼女なのだが

季節を感じる目と耳と そして感受性は誰よりも敏感だ。

 

    あのさ〜〜〜  さかみちの土手にさ〜〜 たんぽぽ!

 

    海のとこのくぼちにさ〜〜 ちっこい なのはな!

 

    ねえねえ あのさあ〜 コズミのおじいちゃまんち、 白い いいにおいのお花!

 

「 まあ もうたんぽぽ?  早いわねえ いいわねえ 」

「 え 菜の花? あらステキ♪ どこなの、教えてちょうだい、すぴか。 」

「 あらあ〜〜 もう梅が咲いたのね。  あくばい、っていうのよ。 」

 ( はくばい ・・・ お父さんがこそっと訂正した。 )

 

すぴかの報告にお母さんはいちいち感動して応えてくれた。

 

「 ふうん? たんぽぽかあ・・・・ 金貨みたいだろう? 」

「 菜の花ってさ。 おひたしになるんだぞ〜〜 ほろ苦くて美味いよ。 」

「 ああ あの樹、咲いたか。 今年も沢山実が生るかな。 」

 

お父さんもちゃんとすぴかの報告を聞いてくれた。

 

ふんふんふ〜〜〜ん♪♪   だからすぴかはますますはりきって <はるのニュース> を

集めて回っていたのだ。

 

ところが。   このごろ雨の日が多い。  一日中なんとな〜く ・・・ しょぼしょぼ降っている。

もう傘を持つ手が凍えるほどの冷たい雨じゃないのだけれど、でも温かくも ない。

そして 学校でもウチでもお外では遊べないのだ。

鉄棒やら縄跳びやら 木登り・探検ごっこ・ が好きな小学生には お部屋の中にいる なんて

まったく < 信じらんな〜〜い >  わけで・・・

これはお転婆・すぴかとしては ―  か〜〜なりオモシロクない。

今日はお休みな土曜日なんだけど朝っぱらから ど〜もつまらないのだ。

 

      サ ーーーーーーーー・・・・・・・   

 

雨はまだ降っている。 リビングにはだ〜れもいない。  

それでもって ― キッチンからは お母さんとすばるの楽しそう〜〜な声が聞こえてくる。

「 ・・・ ふ〜〜ん  だ ・・・! 」

すぴかはずるずる〜〜っとソファからこぼれ落ちて もごもご床を転がって ― 窓の側まで来た。

窓は曇っていて 外がよく見えない。 トレーナーの袖でちょいとこすってみる。

 

   は〜〜〜〜〜 !   きゅ きゅきゅ ・・・

 

「 あは?  ここ ・・・ おえかき できるかなあ ・・・ 」

< な〜〜んにもすることがない〜〜 > ので 曇った窓ガラスに息をふきかけて 

指でお絵描きすることしかやることがなくなってしまっていた。

 

「 ふ〜ん ・・・ これが わんこ で これが おさかな。 たこさん いかさん ・・・え〜と・・・

 あ  かにさん。  あとは ・・・ チョウチョ に セミ に とんぼ に ・・・ 」

お絵描きは でもすぐにタネが尽きてしまった。

「 ・・・・・ わお〜〜〜〜 わおわおわお〜〜〜〜〜♪ はっせいれんしゅう〜〜 

すぴかは わざとでっかい声で発声練習をした。

「 ― すぴかさん? 」

「 わぁ〜〜〜〜お♪ わおわおわお〜〜〜〜 」

「 すぴかさんったら。 」

ついにお母さんがキッチンから出てきた。

「 わ〜〜〜〜  ♪  わあ〜〜〜 ♪♪ 」

「 こ  ら。    ・・・・ ぽん。 はい、 スイッチ オフ! 」

お母さんは 喚きながら跳びはねている娘を捕まえると ぽふ・・と軽く背中を叩いた。

「 あ?   ・・・ えへへへ ・・・・  スイッチ おふ〜〜 」

「 ねえ  ・・・ どうしたの? 」

「 え〜〜 だってェ〜〜〜 雨だしぃ〜〜 な〜んにもすること、ないしぃ〜〜 

 つまんないんだもん。 」

「 つまらないからって騒いでもいいの? 」

「 ・・・ いくない ・・・ 」

「 でしょ。 お外なら大きな声でお歌を歌ってもいいけど ・・・ お家の中ではだめ。 」

「 ・・・ う〜ん ・・・ でもォ〜〜 な〜んもすることないんだも〜〜ん 」

「 宿題は? 」

「 きのう、やっちゃった。」

「 ・・・ バレエのお稽古は? 」

「 こんしゅうはおやすみ。  先生がごようじ だって。 」

「 ・・・ ( う〜ん ・・・ )  ・・・あ〜 それじゃあね。  お母さんのご用事、やってくれる? 」

「 うん!!! いいよ〜〜〜 」

「 ちょっと待っていてね。   ・・・ あら?? すぴか、 トレーナー、濡れてない? 」

「 う ・・・ うん ・・・ さっき ちょこっとお外いったら ・・・ さ。 」

「 まあ 〜〜 ちゃんと着替えていらっしゃい。 それからよ。 」

「 は〜〜い! 」

  ダダダダダ −−−−−!!!  すぴかはダッシュ! で子供部屋に駆け上がっていった。

 

「 ・・・ なんかあの走る姿 ・・・ ジョーにそっくり ・・・ 」

母は溜息で娘を見送った。

 

   ダダダダ ・・・!  バン !    ほんの3分くらいですぴかは戻ってきた。

「 おかあさん! おきがえ、してきた! 」

「 濡れたトレーナーは? 」

「 ちゃんと! せんたくカゴにいれた! 」

「 よろしい!  じゃあね、お母さんが戻ってくるまでにリビングを片付けておいて。 」

「 ― え。 ごようじ って ・・・ おそうじ? 」

「 ちがうわよ。 でも 待っている間に整理整頓、お願い。 ほら 見て? 

 ここ ・・・ 散らかしたらの、すぴかでしょう? 」

「 アタシ! 散らかしてなんて〜〜〜 いないよ! 」

「 そう?  それじゃ クッションがみ〜〜んな床に転がっているのは なあぜ?

 テーブルの上に靴下が置いてあるのは なあぜ?  ソファの背もたれのカバーが ・・・

 行方不明なのは なあぜ? 」

「 ・・・ わかったデス。 」

「 じゃあ お願い。 すぐに戻ってくるから。 」

お母さんはキッチンに向かって声をかけた。

「 すばる〜〜? オーブン、まだ触らないでね 〜 」

「 まだ <かたぬき> してないから。  お〜ぶん はまだ。 」

「 ・・・ わかりました。 」

お母さんは なんだか微妙〜〜な顔で返事をして 二階に上がっていった。

 

「 ふ〜〜ん ・・・ 」

「 すぴか〜〜〜 」

ひょっこり すばるがキッチンから顔をだした。

「 なに〜 」

「 かたぬき するよ。 」

「 かたぬき ・・・?     あ! くっき〜〜? 」

「 ウン。  よんで っていってたよね。 」

「 あ〜〜 うん! やるやる〜〜〜  わい♪ 」

すぴかは お母さんの <ごようじ> なんて全部忘れてキッチンに飛んでいった。

 

 

 

「 ・・・・ ふう ・・・・ やれやれ。  もう本当に賑やかなんだから ・・・ 」

フランソワーズは溜息混じりに寝室のドアを開け、 しん・・・とした空間にほっとした。

「 元気なのは大変結構なんだけど ・・・ ちょっとねえ ・・・ ふう ・・・ 」

すぴかは賑やかすぎるし すばるは大人しすぎる。

「 ― 双子って。 そんなモノなのかしら ・・・  え〜と・・・? 」 

 

 −  カチャ ・・・  クローゼットの奥のチェストの引き出しを開けた。

 

「 これと これと ・・・あとは〜〜 そうそう あのコサージュね ・・・ 」

彼女は引き出しの中から幾つかの小箱を取り出した。

皆 何年も使ってきた品々でそろそろ引退の時期にきている。 修理を重ねたものも多い。

  ・・・特に これは ― フランソワーズはそっと箱を開けた。

「 ずっと大事に使ってきたわ。  あの子たちの大切な日に ・・・ ねえ? 」

話しかけるみたいに、 手にしたコサージュをしげしげと眺めた。

それは 布を手染めして作ったコサージュ ・・・ 深紅の花なのだが芯の方が濃い赤から黒へと

変わってゆくグラデーションが素晴しい。  

素材も織り方が違う絹布を何枚も使っているので 光に当たると微妙な光沢の差が

出てそれはそれは見事なのだ。

「 これ ・・・ 大好きだったのよね ・・・ ああ でももう、縁が解れてきてる・・・ 」

子供たちの卒園式、小学入学式 など晴れの日に彼女の胸をかざったもの。

大切なのだけど ― もうそろそろ引退時期だろう。

そんな小物類を彼女はまとめて屋根裏部屋の古い箪笥に保管していた。

「 捨てれば・・・って言うヒトもいるけど。  わたし ・・・ できなくて。

 ジョーは笑うけど・・・ そうそう、 これはジョーと一緒に買ったんだっけ。 」

フランソワーズは 少し端っこが縒れてきたコサージュをなかなか手放せないでいる。

「 ― そうよ ・・・まだ あの子たちがやっと赤ちゃんを卒業したころ  ・・・ね?

 モトマチを歩いていて見つけて ・・・ なぜかとっても心引かれて買ったのよ 」

 

  ・・・・ そう ・・・ やっぱりこんな時期だったわ ・・・

 

フランソワーズは懐かしい日々をほっこり思い浮かべた。

 

 

「 お待たせ・・・・ 」

「 お♪ その服、 いいねえ〜〜 とっても似合ってる〜 」

「 うふふ・・・ありがと♪  ジョーとデートなんて 久し振りね♪ 」

「 え〜〜 だっていつも一緒に買い物とかゆくだろう? 」

「 あら。 あれは〜〜 いつだって チビ達も一緒でしょう? 」

「 まあ そうだけど・・・ 」

「 2人っきり、って。 あの子達が生まれてから ― 初めてかもよ。 」

「 あは  そうかなあ〜〜 」

ジョーは笑いながら それでもちゃんと背中に腕を回してくれた。

「 さあ 今日はどこへでもお供しますよ、 ぼくのお姫様。 

 チビ達は スーパーお手伝いさん が見ていてくれるから心配ないし。 」

「 うふふ そうよね。 ああ うれしい〜〜 ねえねえ 久し振りでモトマチ、歩きたいの。 」

「 いいねえ ・・・ ぼくもヨコハマ港がみたいや。 」

「 じゃ・・・ 行きましょ。  」

「 では どうぞ? 」

ジョーは彼のお姫様をぴかぴかに磨いた愛車までエスコートした。

 

「 う〜〜〜ん ・・・ 助手席でのドライブも久し振りだわ。 」

モトマチのパーキングで車を降りると フランソワーズはもうにこにこしていた。

「 あ〜 そうだねえ。  ずっとチビ達のチャイルド・シートと一緒に後ろだったものね。

 ふふ ・・・ ぼくもきみが隣にいてくれて楽しかった。 」

「 うふふ・・・ 2人っきりってやっぱり す て き♪ 」

「 さあどこへ行きますか、奥さん?  」

「 う〜〜ん ・・・ ひとまず、ショッピング街をぷらぷらしたいわ。

 そうだわ〜 ジョー、あなたの春向きのジャケット、みましょうよ。 」

「 あ 一緒に選んでくれる? きみの目的も春服かな。 」

「 そうねえ ・・・ まあ 歩いてみましょ。 」

「 オッケー   ・・・ほら? 

「 ―  ん ・・・ 」

ジョーは自然に腕を貸し、フランソワーズも甘く寄り添った。

 

  ―  どうみても若い恋人同士 ・・・・ 双生児の父母とは誰も思いもしないだろう。

 

「 ―  あ ・・? 」

「 うん ・・・ なに。 」

雑貨店を覗いたときに、 フランソワーズは小声と一緒にぴたっと立ち止まった。

「 これ ・・・ すごく綺麗・・・ 」

「 え?  ・・・ 造花? これは薔薇かなあ。 すごくキレイな・・・不思議な色だね。 」

妻が手にとってコサージュをジョーも感心して眺めている。

「 あの ね ・・・ これ ・・・ 」

「 うん、とってもよく似合うよ。 買ってゆこうよ。  やあ 本当にぴったり だ。 」

「 ありがとう ・・・ あの ね。 わたし ・・・ これにとてもよく似たコサージュを持っていたのよ

 ちっちゃい頃に・・・ 多分 ママンのお下がりかなにかだったと思うのだけど・・・

 かなり使い古してあったけど、とてもお気に入りだったの。 

 わたしのタカラモノ・・・って すごく大切にしていたわ。 」

「 へえ〜〜 じゃあ やっぱり縁があるじゃないかい。 」

「 ・・・ そうね。  あの花は ・・・ いつのまにかどこかへ紛れてしまったけれど ・・・

 さっきコレをみて急に思い出したのね。  本当にそっくり ・・・  」

「 じゃあ また出逢ったってことだよ。  うん、いいねえ・・・ 落ち着いた雰囲気で ・・・

 そうだ、 これからさ、 チビ達の幼稚園とか小学校の入学式の時に付けたらいいよ。 」

「 ふふふ ・・・ そんな日 まだまだでしょ。 」

「 い〜や そんなコトないよ。 」

「 だと いいけど・・・  」

笑いあってその日、薔薇のコサージュを買った。

 

 ― そして それは フランソワーズのお気に入り、として <大活躍> をして ・・・

ついには花びらの端が解れ 光沢もかなり薄れてきていた。

「 ・・・ ほんとうにね ・・・ チビ達はあっという間に大きくなったわ・・・

 ねえ コサージュさん? ・・・ しばらくお休みしていてね。

 ・・・ いつか ・・・ ここを ・・・ 去るときまで ・・・ 」

ハナの奥が ツン ・・・としてきてしまった。

 

     ・・・ いっけない ・・・ 

     でも < その時 > には   

     ・・・ 一緒に持ってゆきたいな ・・・

 

 

「 おか〜〜〜さ〜〜〜〜ん !!!  おかたづけ できたァ〜〜〜〜〜 !!! 」

階下からすばらしい声が 響いてきた。

「  ―  あ ・・・  いっけない。  ・・・ すごい声だわね・・・ まったく ・・・ 」

フランソワーズは 取り出した小箱類を持つと慌てて寝室をでた。

 

 

「 ― すぴかさん。 すいっち 〜〜〜〜 」

「 おふ でしょ。  は〜〜い  でもさ〜〜 お母さんってば〜〜 いないんだもん。 」

リビングに降りてゆくと、すぴかがまた膨れッツラをしていた。

「 ちょっと待ってて・・・って言ったでしょう? 」

「 ちゃんとまってた!  それで くっき〜のかたち作りもやったも〜〜ん♪ 」

「 あら そうなの?  それじゃ オーブンに入れなくちゃね〜  すばる〜〜 ? 」

「 お母さん。 アタシがさき〜〜〜  ごようじ、なあに。 」

キッチンに行こうとした母のスカートを すぴかはぎっちり掴んでいた。

スカートは捲れあがり、 お母さんのキレイな脚が丸見えになった。

「 あ ・・・ん ・・・ やだわ、すぴかさん。  もう〜〜〜 」

「 おとうさん、いないからいいじゃん。  ねえ ねえ〜〜 ご用事ってなに。 」

「 ・・・・ そうね、 アナタの方が先ね。  」

フランソワーズは持ってきた小箱類を娘にみせた。

「 あのね、 これ・・・ 屋根裏のタンス、あるでしょ アソコに仕舞ってきて欲しいの。 」

「 ・・・やねうらのたんす ? 」

「 ほら ・・・ 屋根裏部屋の奥に大きなタンスがあるでしょ。 引き出しがいっぱいあるヤツ。

 あそこの引き出しに しまってきてください。 きちんと、きれいに。 すぴかさんなら出来るわ。 」

「 これ なあに。  」

軽い箱を受け取り、すぴかはちょっと首を傾げた。

「 コサージュよ。  ほら ・・・ 覚えてない? 」

フランソワーズは蓋を払って 薔薇の花を見せた。

「 ・・・ あ 〜〜 これ! うん おぼえてる〜〜〜 お母さん、と〜ってもキレイだったもん。 」

「 あらあら ありがとう。  で ね、 これ、 仕舞ってきて頂戴。 」

「 もう 使わないの 」

「 使いたいけど ・・・ ほら 端っこが解れてきてるでしょう?  長い間働いてくれたから・・・

 だから このヒトはすこしオヤスミさせてあげるといいの。 」

「 ふうん ・・・ 」

「 じゃあ これ。 おねがいね。 」

「 は〜い ・・・  」

 

    「 おか〜〜〜さ〜〜〜〜〜ん !!!!  お〜ぶん! 」

 

今度はキッチンから 珍しくも息子の声が飛んできた。  ・・・ かな〜りご機嫌悪い声だ。

「 いっけない。  はあい〜〜 今ゆきますよ ・・・

 じゃ ね すぴかさん。  この箱 ・・・ ちゃんと仕舞っておいてね 」

「 ワカリマシタ。 」

すぴかは お母さんに渡された箱をそう〜〜〜っと抱えると うんうん ・・・と頷いた。

「 しまってきます。 」 

「 はい、 お願いします。 」

「 ・・・・・・ 」

だまってこっくりして、すぴかは階段を登っていった。

「 おか〜〜さん〜〜〜 !!! 」

「 はい!   いま 行くわ! 」

 

       はあ ・・・ やれやれ ・・・

       あっちもこっちも 忙しいこと 

 

フランソワーズはそっと溜息をつき、キッチンに戻った。

 

 

「 ―  おーぶん。  つけて。 」

「 ああ はいはい ・・・ ごめんなさいね。 」

「 おんど は 〜 」

彼女の小さな息子は 淡々と説明を始めた。

「 ・・・ まあ そうなの?  ふうん ・・・ はい  はい ・・・・ 」

相槌をうちつつ、彼女は零れる笑みを隠し切れない。

 

     うふふふ ・・・・ 一人前な顔、しちゃって ・・・

     か〜〜わいい〜〜〜〜♪

     いやん、 この表情ってばジョーそっくり〜〜

 

フランソワーズの 耳 は完全にお留守になりひたすらぼ〜っと息子に見惚れていた。

 

 

 

ジョーは未だに ― 2人の子の父となっても ―  モテる。

毎年 ヴァレンタイン・デーには本当に袋いっぱい・・・チョコを持って帰ってくる。

「 ―   まあ ・・・ すごいわね。 」

「 フラン ・・・ ごめん ・・・ 」

「 ・・・ ジョーが謝ること、ないでしょ。 」

「 ウン ・・・ そうなんだけど ・・・ その ・・・あ〜 きみがユカイじゃないってわかりけど・・・

 無下に断るのもさあ ・・・ その ・・・ナンだろ? 」

「 気にしないで。  これって ・・・ この国の <お遊び> なんでしょ?

 ありがたく頂いて ・・・ ねえ これ、教会にでも寄付しない? 」

「 あ  それ いいね。 ぼく、もってゆくよ。  

 あの ・・・ カードとか・・・ メッセージの類はきみが取り除けてくれるかな。 」

「  あら いいの? 」

「 いいさ。 だってぼくは  ・・・  双子のオヤジなんだぜ。 」

「 はいはい   ・・・ あ ねえ? これ・・・ < お返し > が必要なんでしょ? 」

「 あ ・・・ うん ・・・・ホワイト・デー ・・・ 来月の14日なんだけど 」

「 わかったわ。  わたし、用意しておきます。 」

「 え。 きみが ・・・? 」

「 はい。 妻としてお礼しなくちゃ。  ちっちゃなマドレーヌでも焼くわ。 」

「 ―  ありがとうございます 〜〜 」

「 ・・・じゃ  このチョコの処理、お願いします。 」

「 ハイ。 」

そんな遣り取りを毎年してきた。

 それが 今年は ―

 

      僕!  くっき〜 つくる!  おれいのくっき〜〜!

 

彼女の小さな息子が そんな宣言をしたのだ。

 

   あら。 すばるが作ってくれるの?   ・・・ いいかも。

   毎年 毎年 ホワイト・デーの <お返し>って 結構大変なのよねえ・・・

 

   それにすばるの手作り!って書いておけば・・・ ふふふ いくらなんでも

   子持ちオトコに色目を使うコはいなくなるわよねえ

 

「 うわあ〜〜 すばる〜〜 すごいなあ。 ありがとう! 」

「 本当。 すばる、ありがとう〜 」

夫のニコニコ顔に合わせたわけでもないが 彼女もかなり嬉しかったのだ。

  

   あ〜あ ・・・・ また例の日が巡ってくるのねえ ・・・

 

この国に住むことになり この国の茶髪の青年と一緒になってから春先はどうもあまり穏やかじゃ・・・ ない。  

 

    フクザツな気分で迎える ヴァレンタイン・デー と ホワイト・デー。

 

他の女性が振り向きもしない男 ・・・ってものナンだな〜と思うけど ・・・

小学生の娘と息子がいる夫が袋いっぱいのチョコを貰ってくるのも・・・ 妻としてはちょっと。

フランソワーズは ―  いや多分 モテモテの男性を夫にした多くの女性は な〜んとも微妙な

気分でこの日を迎えていることだろう。

 

「 ・・・ま  いいわ。  ジョーが貰ってくるチョコ、すご〜く美味しいし。

 今年は < お返し > に悩まなくていいものね。 」

フランソワーズは夫によく似たひょん・・・!と跳ねる息子のクセッ毛をぼ〜っと眺めていた。

 

  つんつんつん ・・・・  エプロンの裾を ぷっくりした手が引っ張っている。

「 もしも〜し?  聞こえてますか〜〜〜 」

「 ・・・え? 」

「 おかあさん。  < え > じゃないでしょ〜〜 僕、せつめいしたよ? お〜ぶんの温度。 」

「 え ・・・あ  そ そうだった? 」

「 そう です。  だから ちょうせつ、おねがい。 クッキーはもうはいってるから。 」

「 あら〜〜〜 そうなの?  ねえ ちょっとだけ見てもいい? 」

「 え〜〜〜 すぐに焼きたいんだ 僕 ・・・ 」

「 いいじゃないの ちょっとだけ ・・・ ね ね?? 」

「 ― じゃあ ほんとうにちょっとだけ、だよ? 」

「 は〜〜〜い ♪  いっただっきマス♪ 」

「 たべちゃだめ〜〜〜 お母さんってば!!! 」

「 うふふ 食べない 食べない。  ちょっとからかってみただけよ。 え〜と・・・どれどれ・・・

 ・・・ うわ〜〜〜 すごい ・・・ お花型なんてウチにあったかしら。 」

「 にんじんようの、つかったの。 あとはコップで 〇。 」

フランソワーズはオーブンの窓から覗き込み 親の贔屓目じゃなく、すごい! と思った。

「 すばるったら 〜〜〜 ヤルわねえ   はい それじゃ オーブンのスイッチ〜〜 オン! 」

  ― カッチン    

母が勿体ぶって スイッチを入れ温度調節をする姿を 息子はものすごく満足気〜〜に見ていた。

「 ・・・・っと。  これでいいですか すばるクン。 」

「 いいです。  おかあさん、 ありがとう〜〜 」

すばるは にこ・・・っと笑った。

 

    きゃ〜〜〜〜〜 この笑顔 〜〜〜〜♪♪

    ジョーにそっくり〜〜〜 天使の微笑みねえ〜〜

 

    うふふ うふふふ〜〜〜 天使君? 

    ワタシがあなたのママンよ〜〜ん

 

フランソワーズは 完全に息子の笑顔にノックアウト状態だった。

 

 

 

  ギ ・・・・   そのドアはちょっとばかりいやな音がしてゆ〜っくりと開いた。

 

「 うわ ・・・ ♪ また 来ちゃった ・・・・♪ 」

戸口で すぴかはしばらくじ〜〜〜っと部屋の中を眺めていた。

 

 

島村家の納戸代わりの屋根裏部屋。  二階の隅の急な階段を登ってゆく部屋なのだ。

そこには古くなった家具とか季節モノの家具やらが埃を被っている。

古い寝具やらソファ、箪笥も置いてあり その中にいろいろ・・・ガラクタに近いものが詰め込んである。

「 ・・・ 捨てなくちゃな〜・・・っては思うのね〜 」

「 あは ・・・ ぼくも さ。 でもなんとなく ・・・ 」

「 うふふ ・・・ わたし達って < 能率的な家庭経営 > なんて出来ないわね。 」

「 えへへ ・・・ まあ いいよ。 家族の思い出の品って ・・・ ぼくは捨てられないんだ。 」

「 あ わたしもよ。  ジョーとあの子たちとの思い出を ・・・捨てるなんてできない ・・・ 」

「 きみも?   うん ・・・ そうだよねえ・・・ 」

ジョーは自分自身の家庭を持って 初めて <家族> の味を知ったのだから 尚更だろう。

「 いいじゃない?  ウチはウチで・・・ ガラクタも思い出もたっくさんあるの♪ 」

「 そうだね〜〜  ウチはそんなウチなのさ。 」

 

  ・・・ そんな訳で 屋根部屋は雑然としていた。

そして最近では すぴかのひみつきち として ジョーがこっそりその存在を教えてやっていた。

 

 

 ― くんくん ・・・  すぴかは屋根裏部屋の空気を嗅いでみる。

「 ・・・ 変わんない ・・・よね〜〜   アタシの ヒミツきち だもん。

 アタシだけのタカラモノ とか 大事にしまっておいたし〜〜〜 」

こそ ・・・・っと今年の第一歩を踏み入れた。

「 あのノートも ・・・。  あのコに会ったこと ・・・ 夢っぽい気もする けど・・・

 でもいいや。 アタシのだいじ〜〜なヒミツだもんね〜〜 」

すぴかはこの前 この部屋で不思議なお友達と出会ったのだ。

ちょっとおしゃべりしただけの、とっても可愛い女の子で 難しい名前だった。

 

    夢 ・・・ じゃないよね ・・・?

    また あいたいなあ・・・

 

すぴかはしばらくぐる〜〜っと屋根裏部屋を眺めていた。

ソファで日記を書こうかな、と思ったけれど 両手に抱えている荷物が邪魔だ。

「 あ・・・・・ 先にこれ・・・ 仕舞ってこよ。  え〜と・・・ お母さんのタンス は・・・と 」

そもそもここに来た < ご用事 > を思い出して、きょろきょろしている。

「 えっと ・・・ あ! あっちだ〜〜  これとこれとこれ しまっちゃお〜〜 」

すぴかは ちょうどカーテンの陰になっている大きなタンスを見つけた。

背伸びして引き出しを開け お母さんから預かってきた <荷物> を こそ・・・っと入れた。

「 ・・・ んん〜〜〜 っと。これで ヨシ♪   さあ〜〜〜 たんけん! 

 あ その前に 日記、かこう〜〜〜っと♪ 」

 

   ―  トン ・・・!     すぴかは軽〜くジャンプしてから 彼女のお気に入りのソファの

 ところまですきっぷ すきっぷ〜〜〜♪

 

 

                   「 ―  だれ。 」

 

 

突然 ― ソファの方から声が飛んできた。

「 ・・・うっそ ・・・  だってこのお部屋 ・・・ だれも いない ・・・・ よ? 」

すぴかは ぎく!っとして 古い本箱の陰に隠れじ〜〜〜っと耳を澄ませた。

「 ・・・あ あの ・・・?  だ れ ・・・か 居ます ・・・?  」

 ― 女の子の声 だ。

 

    ・・・・!! あ!  も・・・しかして ・・・ あのコ ??

 

すぴかは えいや! と勇気をだして ソファの前に飛び出した。

ソファには ―  あのコが。  くるんくるんカールした亜麻色の髪の女の子が いた。

「 あ あの! アタシ。  す  すぴか!! 」

「 ― まあ  すぴかちゃん !? 」

「 わあ〜〜〜 やっぱりファンションちゃん〜〜」

「「  きゃあ〜〜〜 ♪♪ 」」

2人の女の子は 抱き合ってちょんちょん跳びはねてしまった。

「 ふぁんしょんちゃん! 元気だったあ〜〜? 」

「 ええ とっても。  すぴかちゃんは?  ・・・ あら 寒くないの、そのお洋服・・・ 」

「  え〜〜 ?? ぜんぜん。  あ ・・・ ファンションちゃん、かわいい〜〜 」

「 うふ? メルシ〜〜 」

すぴかと同じ色の髪をゆらして その女の子は優雅にレヴェランス ( お辞儀 ) をした。

 

    ・・・ うわあ ・・・ くるくるのかみに白いおりぼんがきれい ・・・

    

「 ファンションちゃん、 バレエ ならってる? 」

「 ええ。 わたしね、大きくなったらプリマ・バレリーナになるのよ。   

 すぴかちゃんは? すぴかちゃんもバレエのレッスン しているの? 」

「 アタシ ・・・ うん、習ってる けど・・・ あんましじょうずじゃない ・・・ 」

「 あら。 そんなこと ないわ。 いっしょうけんめいレッスンすれば きっとじょうずになれるわ。 」

「 そ そっかな〜〜〜 」

「 そうよ。 私のお兄ちゃんもそう言うわ。 」

「 あ ・・・ お兄さん いるんだ? いいなあ〜〜〜 」

「 うふふ ・・・ ステキなの〜〜  すぴかちゃんは? 」

「 アタシはねえ ・・・ 弟がひとり。  ・・・ ステキ ・・・ じゃあないなあ・・・ 」

「 そうなの? すぴかちゃんの弟ならかわいいでしょう? 」

「 ・・・ う  ん   まあ ね ・・・ それより〜〜 ねえねえファンションちゃん、あそぼうよ! 」

「 え ・・・ でもお部屋の中でさわいだらしかられるわ。 」

「 う〜〜ん ・・・あ それならお庭、でない? 雨 ・・・ やんでるかも ・・・ 」

「 お庭? まあすてき。  おじゃましてもいいのかしら。 」

「 いいよ〜〜〜お  すぴかのおともだちだもん♪ さ  こっち! 」

「 ええ。  きゃあ・・・・ ぼうけん だわ〜〜 」

同じ色の髪をした女の子達は 手を繋いでにこ・・・っと笑いあった。

 

     あ ・・・ ファンションちゃんの目って  

     ・・・ アタシのお母さん、そっくり〜〜

     きれい ・・・・

 

 

 

 

   ―  キ  ・・・・  ジョーは車を降りると 門を開けた。

 

「 ・・・ん?  ああ どうやら止んだみたいだなあ・・・ 」

空はまだ泣き出しそうな雰囲気だったけれど、ずっと降り続いていた雨はなんとか上がっていた。

「 菜種梅雨  だっけか ・・・ よく降るよなあ・・・ 」

車をガレージに入れて戻ってくると にぎやかな声が聞こえてきた。

「 うん・・・? すぴかの友達かな ・・・ 」

玄関に近づくと ― テラスで女の子が2人、 けんけんぱ! をしていた。

すぴかと ・・・ 紺色の可愛いスカートの同年輩の子だった。

「 ふうん? 新しい友達かな。  あれ ・・・ ガイジンなのかなあ? 

「 あ! おとうさ〜〜〜ん!!! おかえりなさ〜〜〜い!! 」

目敏いすぴかのきんきん声が響いてきた。

「 すぴか ただいま〜〜  お友達かい? 」

「 うん そうなの〜〜〜   あのね、 アタシのお父さん。 」

「 まあ ・・・ ぼんじゅ〜る むっしゅう ? 」

その女の子は とてもとても優雅にスカートをつまんでお辞儀をした。

「 あ は  こ こんにちは・・・・? 」

 

      ―  どき〜〜〜〜ん ・・・・!   

 

そのオンナの子の顔を見た途端 ・・・  ジョーの心臓は跳ね上がった!!

 

 

 

Last update : 03,19,2013.                 index        /       next

 

 

 

*******  途中ですが

続きます!  すぴかは以前に屋根裏部屋で彼女の逢っているのです。