赤い日が、暮れようとしている。 からり、と小さな家の玄関戸が開かれた。 「沙羅よ――」 玄関口に立つは、この里の頭目。その彼が、家の中に声をかけた。 「ご足労いただきまして、まことにありがとうございます、御屋形様」 奥から、淑やかな声の女がそれに応えた。 「申し訳ありません。まだ、采は畑仕事に」 「よい。知っている」 女――沙羅の声に、頭目は優しく応え、座敷に上がった。 奇妙な事である。主の参上に、出迎えもせず、ましては家に上げるなど。 しかし、頭目は知っているのだ。彼女がそれらの出来ぬ事情を。 さぁっ、と奥の間に繋がる襖を頭目は開く。 そこに、女が一人、伏せっていた。 半身こそ起こしている物の、その両の瞳は閉じられ、肌は長らく日の光に当たっていないように、雪のように、白かった。 この女が、沙羅、と呼ばれている女である。 「視得た、とは久方振りのことだな」 「はい」 ゆっくりと、優雅な所作で沙羅は頷く。 この里には、《力》を持つ者が多い。それゆえにこそ、この里に身を寄せている者がいるのだが、これは余談。ともかく、そうした者の中でも、沙羅の持つ《力》は特異なものであった。 おぼろげながら、未来を視る《力》。 しかし、その様な《力》を持つ代償として、彼女の目は光を映さず、大地の上を歩く事も出来ない。身の回りの世話は、弟の采が行っている。 「して、何を見たのだ」 「新たな、仲間を」 「何と!」 かすかに微笑んで言う沙羅に、頭目もまた、嬉しげな声をあげた。 「それはめでたい。いつ頃…と言うのは分かったか?」 「はっきりとは。ですが、そう遠くは無い、近い時に」 「ほう…」 「そうですね、一月以内には」 「それは…楽しみだ」 顎に手をやり、鷹揚に頭目は頷く。 「それで、他には? 名か…いや、見目でもいい。何か判る事はなかったのか?」 「御屋形様、嬉しそうですね」 「む」 少々、頭目としては羽目をはずしてしまった事を指摘され、頭目の顔に朱がさす。 「そ、それで」 誤魔化しに、咳払いなどしつつ、先を促す。 「お名前は、御屋形様もご存知です。先代さまのご遺言にあった…」 「…なるほど」 「はい」 沙羅が、その名を紡ぐ。 「此谷どの、と申します」 |