「あ、お帰りなさい、龍斗に蓬莱寺さん」 「ただいま〜」 龍閃寺に戻った二人を、美里 藍が出迎える。 「あら、それは?」 京梧の手にある壊れた人形を見て藍が眉をひそめる。 「え、えーと…成り行き」 「?」 首をかしげる藍に、京梧は、 「中で説明する。茶ぁ淹れてくれ」 そう言うとずかずかと寺の中へと入っていった。 「そう…? わかったわ」 そういう藍に続いて、龍斗も寺に入る。 「――っと。雄慶や小鈴もまだ帰っとらへんの?」 定期的に行っている街の見回りに出ている仲間の事を龍斗は訊ねた。 「ええ。もう少ししたら帰ってくると思うわ」 畳の間に机を用意し、藍がお茶の用意を始める。 「それで?」 三人分のお茶を注ぎ終えた藍が促す。 「ああ、これな」 と京梧が説明しようとした時、一人の女の声が割って入った。 「これは妙なモノを拾ってきたものだね…」 龍閃組の長、時諏佐 百合である。 「あー、先生もお茶どない?」 「遠慮しとくよ。藍の手間をこれ以上増やす訳にも行かないしね」 ふふ、と笑いながらそう告げる。 「さ、説明しておくれ、京梧」 「ああ、これは――」 と、浅草で知り合いの面打ち師に突然襲い掛かってきたものを龍斗が撃退した、と説明する。 「ふぅん。さすがは龍斗くんだ」 時諏佐にそう告げられて、にゃはは、と龍斗が笑う。 「けど、出来たら顔は壊さないで欲しかったね」 続けて言われ、龍斗がずーんと落ち込んだ。 「どうしてですか?」 龍斗のやや大げさな挙動は珍しくもないため、平然とした様子で藍は問い掛ける。 「人形の造りのなかでも、顔、ってのは重要なところでね。何かあった場合はそこを見るといいんだよ」 が、三人は一様に首をかしげる。 「さすがにあんまり知られてなかったみたいだね。まぁ、体験すれば分かるけど」 まるで子供に読み書きを教える教えるような表情で。 「人形って言うのは元々人の“ケガレ”を“はらう”ために生み出されたものだからね。そういうものに敏感なんだよ。そして、人間が顔に出るように、人形も顔に出るのさ。…それがちゃんと昇華されれば問題はないけど、積もり続けたのなら動き出す。…そうだねぇ、ここまで来ると付喪神、って言われるようになるから知ってるだろ?」 「あ、それなら何とか」 龍斗の返事に、くすりと時諏佐は笑う。 「妙なことには詳しいね、あんたは」 「先生、褒めてへんわぁ」 「さて」 照れて手を振る龍斗を特に気にする風でなく、時諏佐は表情を変えた。 「次に考えるべきは、襲われた人間と、その関連だね。その面打ち師っていうのは、どんな奴なんだい?」 「えーと…」 龍斗と京梧が同時に首をかしげた。 「…こーゆー事には関係なさそうな人」 「だよな。“世の中のことなんか関係ない”って顔してるしな、いつも」 「…あ」 思い出した、と龍斗は言う。 「その人形、あにさんやのぉて、その前に並べてあった面狙とるように見えたわ」 |