「心当たりか。ない事もない」 双羅山、山中。 「さよかぁ? わいはまぁったく気付かへんかったなぁ」 正反対に見えて、意外と仲のよい壬生と們天丸の所に龍行は来ていた。…どこに寝泊りしているか疑問な二人でもある。 「なら話してくれないか」 「昨晩の事、で間違いないんだな?」 「ああ」 空を仰ぎ、思い返すかのように壬生は話し始める。 「月がかなり落ちていたから、夜半は過ぎていたと思う。その時俺は見張り櫓の上にいた」 「当番だったのか」 「ああ。…その時に、何かが空を切る音を聞いた。…そうだな、あまり大きいものではなかったと思う」 そう言って壬生は頷く。 「ただ、それだけだった。周囲の気配も探ってみたが、不審な点は…なかったと思う」 「せやなぁ」 うんうんと、大仰に頷きながら、們天丸。 「そない妖が解き放たれた、っちゅうなら、わいも気配に気付くわ。――せやから、龍行はん」 突然表情を引き締めて、們天丸は羽団扇をびしっ! と龍行に向けた。 「なんだ?」 「それはきっと今ほとんどの力を失のうとる。せやから、気配がまったくないんや」 すっ、と龍行の表情も引き締まる。 「気ぃつけや。もし邪悪なのやったら、ただでは済まん…。力を取り戻そうと手っ取り早い手段に出るはずや」 「なるほどな」 龍行は一つ頷くと、 「あまりのんびりもしてられんか」 「相変わらずだな」 軽く茶化す壬生に、龍行も笑みを返す。 「そん時にはわいも呼んでや? いつでも駆けつけたるさかいに」 「ならば頼りにさせてもらうぞ」 們天丸の申し出に、龍行が頷く。…と。 「っちゅー訳で、龍行はん」 「ん?」 「えぇ情報あげたんと、救援の礼の先払いってぇ訳で、その仮面……ッ!」 言い終わらないうちに、にやついた顔のまま張り倒される。 「礼は言っておく」 「あぁ。また何かあったら来るといい」 壬生の返事を聞き、ざくざくと枯葉を踏みしめて龍行が去っていくのを見届けると、壬生は倒れたままの們天丸に向かって言った。 「まだあきらめんのか…」 「た、龍行はんの素顔を拝むまでは…ッ」 「あいつは男だろう?」 「壬生っち!」 がば、と們天丸が跳ね起きる。 「目の保養になる別嬪さんの顔に、男女の別はないんや!」 「いや、あるだろ。…その前に、龍行が美形かも分からんだろうが」 壬生の台詞に、們天丸はぐぅっと手を握り締めて反論した。 「絶対別嬪や! あの口元とあごの輪郭、あれがわいにそう教えてくれとるッ!」 「力説する事か、それは…。まぁ、いつか龍行に殺されんようにな」 |