「困りましたなぁ。雑魚うようよでまともに攻撃届きまへんで」 「口より先に手を動かせ」 「はいはいっと。わいは口も動かさんとあきまへんのや」 何はともあれ邪霊を倒してゆく壬生と們天丸。 もくもくと敵の数を減らす龍行と弥勒。それらを比良坂が補助する。 やがて、彼らが焦れる頃、龍行が口を開いた。 「大技を使う」 「…ほぅ」 その言葉に、振り返らず壬生が目を細めた。 「その間の防衛を頼む」 「分かった」 「まかしとき」 弥勒と比良坂もそれに頷く。 壬生がさらに一歩を踏み出し、そこに出来た隙間を埋めるように弥勒も前に出る。 龍行は目を閉じ、その体内で《氣》を練り始めた。 『…?』 “名無し”は首を傾げた。 武道着の男の体内で巡る《氣》に、そこから放たれている気配に、覚えがある気がする。 畏れていたような、憧れていたような… 自分より上の存在に対する…何か。 (――ああ…) ざわり、と心が揺らいだ。 (――…が血より生まれる方) 体の奥から、声が響いた。 (辛い定めを負った方…) 『これは…この、体の中に…あるもの…』 声に身を委ねるように、“名無し”は“まつり”の中からの声に耳を傾けた。 『…。そうか…あの男が…』 《龍脈》の主たる… それならば、いまあの男がそうであるならば。 自分を滅ぼす事が出来るだろう。力の弱ったところを封印されるのではなく。 憎み恨みながら、解き放たれる時をただ待つのではなく、大地に還ることが出来る。 “名無し”は、ずるり、と一歩足を踏み出した。 「…気付かれたか?」 弥勒が呟く。それに応えたのは…龍行。答え、ではなかったのだが。 「少し前を空けてくれ」 壬生が無言で従う。 そして龍行は少し前に踏み出すと、右手を突き上げた。 龍行自身…そして、大地からも《氣》が立ち昇り、その右手に集中する。それは黄金色の輝きすら伴っていた。 「秘拳黄龍!」 掛け声とともに右手を開き、“名無し”へと突き出す。 放たれた黄金色の《氣》は、一度は拡がったものの、一点――“名無し”へと見事なまでに収束していった。 |