<双星伝>番外編 曲唄・剣戟の間 弐



「困りましたなぁ。雑魚うようよでまともに攻撃届きまへんで」
「口より先に手を動かせ」
「はいはいっと。わいは口も動かさんとあきまへんのや」
 何はともあれ邪霊を倒してゆく壬生と們天丸。
 もくもくと敵の数を減らす龍行と弥勒。それらを比良坂が補助する。

 やがて、彼らが焦れる頃、龍行が口を開いた。
「大技を使う」
「…ほぅ」
 その言葉に、振り返らず壬生が目を細めた。
「その間の防衛を頼む」
「分かった」
「まかしとき」
 弥勒と比良坂もそれに頷く。
 壬生がさらに一歩を踏み出し、そこに出来た隙間を埋めるように弥勒も前に出る。
 龍行は目を閉じ、その体内で《氣》を練り始めた。

『…?』
 “名無し”は首を傾げた。
 武道着の男の体内で巡る《氣》に、そこから放たれている気配に、覚えがある気がする。
 畏れていたような、憧れていたような…
 自分より上の存在に対する…何か。
(――ああ…)
 ざわり、と心が揺らいだ。
(――…が血より生まれる方)
 体の奥から、声が響いた。
(辛い定めを負った方…)
『これは…この、体の中に…あるもの…』
 声に身を委ねるように、“名無し”は“まつり”の中からの声に耳を傾けた。
『…。そうか…あの男が…』
 《龍脈》の主たる…
 それならば、いまあの男がそうであるならば。
 自分を滅ぼす事が出来るだろう。力の弱ったところを封印されるのではなく。
 憎み恨みながら、解き放たれる時をただ待つのではなく、大地に還ることが出来る。
 “名無し”は、ずるり、と一歩足を踏み出した。

「…気付かれたか?」
 弥勒が呟く。それに応えたのは…龍行。答え、ではなかったのだが。
「少し前を空けてくれ」
 壬生が無言で従う。
 そして龍行は少し前に踏み出すと、右手を突き上げた。
 龍行自身…そして、大地からも《氣》が立ち昇り、その右手に集中する。それは黄金色の輝きすら伴っていた。
「秘拳黄龍!」
 掛け声とともに右手を開き、“名無し”へと突き出す。
 放たれた黄金色の《氣》は、一度は拡がったものの、一点――“名無し”へと見事なまでに収束していった。



一ヶ月ぶりです。すみません。あきらめてさらりとゆくことにしました。
残りは全て週に一回の割合でいけます。
…ちなみに、「剣掌奥義・鬼氣群雲」とか比良坂の唄が届くんじゃないかと言うツッコミは受け付けませんのであしからず。
(2002,6,11)


七章