ナイトメア・・・悪夢








神の都
















ローディスの首都、ガリウス。
その街並みは古い。

この地に賢者ローディスが修道院を建てたのが始まりだと言われている。

自己への過信と他者への盲信を戒め、自らの存在を正しく認識するというその教義を実践するために厳しい修行を課したローディスが興したこの地はローディス教の聖地であり、それゆえ神都と呼ばれる。

太陽神フィラーハに少しでも近づくために僧たちは尖塔を建てる。フィラーハにこの世の富をささげるために権力を志向する。手に入れた権力を維持するために武力を持つ。

幾度も歴代の王と教皇は権力の座を争い、現在では教皇サルディアンがその権力の頂点に立ち、神の名のもとに16の騎士団を従えていた。

サルディアンが徐々にその頭角をあらわしてきたとはいえ、一介の僧に過ぎなかった時に名付け親になったのが、名門グラシャス家に生まれた双子だった。








姉をオズマ、弟をオズと名づけられたその双子は性の差こそあれ、まるで合わせ鏡のようにそっくりだった。

一日中いつも二人でいた。あまりに二人だけの世界にいるのを心配した家の者が同じ年頃の子供を遊び相手に選んであてがっても、まるでその子の存在すら無視して二人だけで遊んでいたのだった。

特に弟の姉に対する執着はかなりのものだった。姉が少しでも自分から離れようとすると癇癪を起こして暴れた。泣きわめく弟を男勝りの姉もこのときばかりは優しく宥める。小さな手に持ったハンカチで弟の涙でぐしょぐしょになった顔をふいてやった。

「泣くなオズ。男の子だろう?」

姉にそう言われたらオズはぴたりと泣きやんだのだった。




ガリウス魔道院を支えるグラシャス家の者は皆魔力に優れている。
オズマとオズの姉弟もその例にもれなかった。

十をいくつか過ぎる頃姉はグラシャス一族が皆そうであるようにガリウス魔道院に進んだが、弟のオズマはサルディアンの意向もあり、ザナム士官学校に入学した。

サルディアンの野望――権力の座に登りつめこの国を支配する――ためには優秀な騎士が数多く必要だったのだ。

姉と進む道が違うということがわかり、オズは頑なにザナムへの入学を拒否しつづけた。だが、サルディアン自らがグラシャス家に足を運びオズを説得して、やっと彼は納得したようだった。

姉が弟にサルディアンから何と言われたのかと聞いても、彼は決して答えようとはしなかった。ただ、燃えるような目で姉を見つめるだけだった。

弟の属性は炎だ。紅い髪と激しい気性、そしてその眼差しが炎の属性を端的に現していた。

あまりに自分に依存する弟をオズマはこの頃もてあまし気味だった。
自分といることで弟は真っ当に成長出来ないのかもという恐れがあったので、オズマは二人の進路が分かれたことに安堵した。

弟の進むべき道に祝福があるようにとフィラーハに祈る。

その姿を後ろからオズが暗い焔を宿した目で見つめていた・・・・・・。