ガルガスタンの兵士たちは街道を中心に広範囲でデニムたちの捜索をしていた。













月明かりに2つの影が浮かんで、夜の森に消えた。

針葉樹の黒々とした森が続く。一度迷い込んだら最後飢え死にか、獣の餌食になるかだ。昼でも迷い込むおそれがあるのに、夜ならなおさらである。

が、ガルガスタンの追っ手から逃れるためにデニムとヴァイスはあえて夜の森に潜むことを選んだ。
突き刺すような冷気も極度に緊張した身体には感じられない。研ぎ澄まされた感覚が夜の森を不思議と恐れの対象にしなかった。わずかな月の光が闇に慣れた彼らを導く。

デニムが前方の微かな明かりに気付いた。
『ヴァイス・・・!』
ヴァイスが無言で肯く。2人は足音を忍ばせてその森小屋へ近づいた。

窓からそっと中をうかがう。男が一人。森の番人だろう。火をくべた囲炉裏横で弓矢の手入れをしていた。ガルガスタン人か?

ヴァイスはデニムに目配せると、次の行動に移った。
それこそあっという間に小屋の中に入っていき、男に斬りかかったのである。
男が悲鳴をあげる間もなく絶命した。

「ヴァイス!」
デニムには男を殺すつもりは全くなかった。一晩小屋に置いてもらいたかっただけだ。男が拒否したら彼を縛るつもりではあったが、それでもヴァイスの行動は虚をつかれた。止める暇もなかった。

ヴァイスが男に突き刺したショートソードを抜き、男を蹴飛ばして息をしていないのを確認する。

「ヴァイス! 何も殺さなくても…」
「こいつに運がなかっただけさ。」
平然とヴァイスは言ってのけた。

デニムは男の亡骸を部屋の隅に運び彼のために祈った。それをヴァイスが冷たい目で見る。デニムはヴァイスに言った。
「明朝、彼をちゃんと葬るからな。」
「好きにしろ。」
そう言いながら彼は小屋の中を見回した。壁の板の隙間から外が見える粗末なつくりの小屋だ。藁のベッドが一つ、樽や麻袋が無造作に置いてある。囲炉裏にくべてある鍋は空っぽだった。
「・・・ちぃ!」
食い物はない…か。
昨日から何も口に入れてない。腹が減っていることを思い出してしまったヴァイスだ。

剣を抱えてどかっと床に腰を据えた。デニムもヴァイスのとなりに座る。

「姉さんたちは無事に逃げおおせただろうか…」
「多分大丈夫だろう。レオナールたちが一緒だ。」
「…そうだね……」
デニムはレオナールやカノープスが姉をきっと守ってくれているだろうと信じる事にした。
姉はクレリックだ。きっと大丈夫だろう…。

「こいつは血糊でもう使えないな…」
自分のショードソードを調べヴァイスが呟き、くそったれ…!と言い捨てて剣を投げた。

カーンと金属音がして2人はあわててあたりをうかがう。
森をわたる風の音が聞こえるだけだった。

ざわざわと。






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