ヴァイスは昼寝の場所を探して城を歩いていた。

向こうからレオナールが歩いてくる。ロンウェー公爵の右腕、アルモリカ騎士団々長。ヴァイスは彼があまり好きではなかった。軽く会釈してすれ違おうとしたのだがレオナールが声をかけてきた。

「ご苦労さん、怪我はもういいのか?」
「おかげ様で…」
「デニム君が君に感謝していたよ。君が活躍してくれたから自分は助かったと。」
ヴァイスは鋭い目つきで彼を見上げた。ヴァイスは16歳の少年にしては背は高い方だが、レオナールはさらに長身だった。レオナールの酷薄そうな氷青の目を睨みながら、
「あんた…何が言いたいんだ?」
ヴァイスは低い声で警戒するように聞いた。
「別に何も…」
「んじゃ、これで…」
レオナールに背を向けて歩き出すヴァイスの背後からレオナールは言った。
「何か…わたしでよければ相談にのるよ。」

ヴァイスは振り返りもせずに即答した。
「ねーよ。」





レオナールは肩をすくめるとヴァイスと反対の方に歩いていく。
彼は思い出していた。ゼノビア人の占星術師がヴァイスを見て言った言葉を。

“彼は…、道さえ間違わなければヴァレリアの歴史に残る人物になる資質を持っているのに、惜しいことだ……”

レオナールは思う。彼はまだ自分の存在意味に気がついていない。何故デニムを人は英雄と呼ぶのか、何故彼は呼ばれないのか。

光が影を作る。
光が強ければ強いほど、また影はその闇を濃くするのだ。




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