妹と仲が良かった男の子はハイムを去って行った。
妹は1日中泣いていた・・・。

セリエ姉さんが
「初恋は実らないときまっているのだからもう泣くな。」
そう慰めたら、
オリビアは火がついたようにますます泣いた・・・。




「オリビア、お誕生日に欲しいものは何?」
「デニムからのお手紙」


それは無理だけど
オリビアが喜ぶものをプレゼントしたい・・・







春の風が優しく恋の始まりを告げる(その3)
 







 フォルカスと別れたシスティーナは今度こそ、オリビアのプレゼントを買って早く家に帰ろうと心を決めていた。
 「よし、決めたわ・・・。」
 オリビアが貰って嬉しい物はデニムからのお手紙
 手紙が来ないのならこっちから出せばいいんだ。
 だからお誕生日のプレゼントは綺麗な色の羽ペン
 オリビアの思いが彼に届くように・・・。



 システィーナは道具屋に入って南の国のあざやかな色彩の鳥の羽で作ったペンを買った。

 随分遅くなった。きっと家ではわたしがいないことがわかっているだろう。
早く帰らなきゃ・・・!とシスティーナは旧市街の東門に向かっていた。
 
 もとのハイム・・・すなわちハイム旧市街は”外”に対して閉鎖的になっている。外との接点は東西南北に作られた小さな門だけだ。新しくドルガリア王が建設した大宮殿であり城塞都市でもある王都ハイムとは東の門でつながっていた。門には警備兵が常駐している。

 石畳の道をオリビアへのプレゼントを大切に抱えてシスティーナは走って行った。その時、突然視界に男の影が入って前が見えなくなった。

「・・・!?」

 システィーナが立ち止まって男を見上げたその瞬間、何者かの唱えたナイトメアの魔法に包まれたのである。崩れ落ちるように倒れようとしたシスティーナの小さな身体を男は抱きかかえた。









 フォルカスはバナヘウム仕官アカデミーへの道を歩いていた。西門を出るまでは駆け足だったが、途中から足どりがゆっくりになっていった。
 
 ハイムから遠ざかるにつれて彼はブリガンテスの魔法使いだったというさっきの老婆が気になってきたのだ。彼女はもう呪文は持っていないと言った。だが・・・、ブリガンテスが統一戦争の末期、禁呪と言われるあまりに強大な呪文を持っていたのは事実だった。ドルガリア王が戦後それらを封印したと言われていたが、もし・・・まだ封印されていないのが残っていたら・・・、老婆が巷でまことしやかに囁かれているロデリック王ゆかりの者であったら・・・? 王の暗殺のチャンスを狙っているのだとしたら・・・?
 ありえない話ではない。実際これまでにも何度かドルガリア王の暗殺計画はあった。いずれも未遂に終わっていたが、ヴァレリア政府の要人たちで命を落とした者もいた。老婆の正体を確かめるのが必要でないのか?彼女は旧市街の北に住んでいるといった。
 
 ならば、せめて老婆の住んでいる場所だけでも確認しておくべきだと判断したのである。
 
 フォルカスは旧市街に引き返した。
 北地区の孤児院は捜せばすぐにわかるだろう・・・。


 北地区はハイムの最も古い時期に作られた街にあたる。石畳の細い道が迷路のようにうねり、見上げる空は細く、長い年月の間風雨にさらされた建物は色あせ、崩れかけていた。フォルカスが知っている旧市街は賑やかな市が立つ大通りだけだったので、彼は表と裏の違いに驚いていた。
 人影もまばらだ。半分石が剥げた石畳は家の下にくぐっていき、迷路は立体的でさえある。
 
 そして・・・フォルカスは初めてここを訪れる者がそうであるように、多分にもれず迷子になったのである。

 とりあえず、大通りにでようにもここがどこだかわからない。太陽の位置で方角を判断しようにも両側に続く建って何百年という数階建ての石造りの家が空を細く切り取って太陽が見えないのである。


 フォルカスが途方にくれていると、向こうから一人の男がやってきた。彼に道を尋ねようとして・・・男に見覚えがあるのに気がついた。評判の良くない貴族でバナヘウムに視察にきた彼は、生徒が生意気な態度をとったと言う理由だけで彼を傷つけて問題を起こした事がある男だった。ほかにもいろいろと問題があるらしかったが。
 
 男はフォルカスに気付かず、石畳を右に曲がっていった。

 フォルカスは彼に気付かれないように後をつけていった・・・。

 男は坂を下って行き、石造りの3階建ての家に入って行った。家の前に数名が話し込んでいたが、男は彼らに一言、二言声を掛けて何かを手渡した。
 フォルカスは少し離れたところから彼らを観察をした。男の数は4人、武器を持っている奴もいてどれも胡散臭そうな奴らばっかりだと思った









 家の中の簡素なベッドにシスティーナが寝かされていた。
ナイトメアの魔法がまだ効いていた。スヤスヤと寝息をたてている。睫毛が微かに震えた。
男はシスティーナの鼻先にゾリアの花を漬け込んだ酒が入った小瓶を近づけた。

「・・・・ん・・・」

 システィーナが身じろぎする。

 男はシスティーナの小さな口にアウェイキングを一滴たらした。ピンクの舌がちろっと動き滴を舐めた。

 「・・・・・・」
 ぱっちっとシスティーナが大きな目を開けた。が、自分の置かれている状況が理解できないのかじーっと天井を眺めていた。

 男が声を掛けた。
「気がついたかな?」
 その声に弾かれたようにシスティーナは身体を起こし、声の主を見る。逆光でよく顔が見えない。


「・・・貴方は誰?」
「君のお父上の友人だよ、システィーナ」
「わたしを知っているの?」
「君の家で会ったことがあるからね。その時からずっと可愛いと思っていた。」
「・・・どうしてわたしはここにいるの?」
「悪い人にナイトメアの魔法をかけられたんだよ。」
「おじさんが助けてくれたの?」
「そうだよ。もう心配はない。家まで送っていってあげよう。」
「・・・はい。」
 システィーナはその時オリビアのために買った綺麗な羽飾りのペンがないことに気がついた。きょろきょろと周りを見渡す。それを見て男が尋ねた。
「捜しているのはこれかい?」
 男が後ろからそれを出した。システィーナはこくんと頷いた。
「捜しているのもあったことだし・・・、だから・・・もう少しここにいようね?」
 システィーナは首を横にふった。
「家の人が心配しているからもう帰る。」
 そう言ってベッドから降りようとした。

 男はシスティーナをおしとどめようと彼女の肩に手をかけた。
「駄目だよ、まだ・・・・・・。」
そして、肩にかけた手をゆっくり首から顎に移動させ、親指で彼女の唇をなぞった。息がふれあうくらいに顔と顔が近づいた。

 システィーナは男を突き飛ばしベッドから飛び降りようとしたが男はそれよりも早く彼女の身体にのしかかってきた。システィーナが叫ばないように彼女の口に手をあてて首筋に顔を埋めた。

 男の唇が生き物のように蠢きシスティーナは怖くなった。

 いや、いや、いや、いや・・・・・・・
 


「嫌――――っ!!」

 恐怖が引き金になってシスティーナは魔力を発動させた!
それは形にならない風のエネルギー。

 システィーナは呪文をまだ持っていなかった。ずっと昔、オリビアと2人で勝手に呪文の本を開いて唱え、大惨事を引き起こしたことがある・・・。両親は2人が大きくなるまで呪文を持つことを禁止した。覚えた呪文も記憶から抜かれた。

 一瞬のエネルギーは渦巻き弾け、窓ガラスを吹き飛ばした。システィーナの上に乗った男が呆然とした。直撃を受けていたら命を落としたかもしれなかった。が、未熟な少女はエネルギーをコントロールする事は出来なかったのである。

 目にいっぱいの涙を浮かべ震えるシスティーナの顔が男の嗜虐心をそそる。
何を思いついたのか男はシスティーナの上から退き、彼女を自由にした。
「自分でここから逃げてごらんシスティーナ・・・、鬼ごっこだよ。ああ、かくれんぼでもいいかな?」
 男は楽しそうに笑う。
 時間はたくさんある。・・・男はそう思っていた。





 少し離れたところから家の前の男たちの様子を伺っていたフォルカスはシスティーナが爆発させた風で窓が吹っ飛んだのを見て男たちの前に飛び出した。
 やはり驚いて中に入ろうとしていた男たちは突然目の前に飛び込んできた少年に身構えた。
「何の用だ!?」
「ここに入った男に用がある!」
 ・・・・・・本当に用はあった。表に出る道を聞きたかった。もっとも別にこの男たちでも良かったのだが・・・。
 フォルカスの答えに男たちは顔を見合わせ肯くと
「ガキが!」と叫びながら襲い掛かってきた。手にした短剣を抜いた者もいた。

 もともとフォルカスは相手を平気でだまし討ちにする類の人間に対してでも、正々堂々と真正面から勝負を挑む傾向がある。それは単に馬鹿なのでなく、自分の力に自信があるからだ。敬愛するドルガリア王のために王の騎士となってこのヴァレリアのために命を捧げる・・・。これが彼がバナヘウムに入学した動機だった。そしてそのために彼は日々を過ごしてきたのである。

 フォルカスは先ほど男たちを観察してだいたいの力量を測っていた。腰に下げている短剣や長剣。何も手にしてない者は魔法が使えるのか?と考えていた。
 
 その男の口が呪文を唱えようと動いたのを彼は見逃さなかった。フォルカスはとっさに崩れかけている石畳の破片を拾い男に投げつけた。男の鼻に命中して男はもんどりをうつ。
 それを見て他の男たちは一瞬怯んだ。その隙に長剣を抜こうとした男に炎の魔法を浴びせる。フォルカスの属性は炎、彼はファイアストームが使えたのだ。
「ぎゃっ!」と男が叫んで数秒間炎に包まれた。魔力が強いとはいえない彼にはこれが精一杯だったが、十分だった。男が剣から手を離し、フォルカスは男が落とした長剣を拾って抜き、男たちに対峙する。
 予想外の少年の実力に男たちは怯んだが、魔法を使う男が鼻をおさえながら怒りに身を震わせて立ち上がり、武器を奪われた男もブスブスと服を焦げ付かせながらも短剣を手にしてフォルカスに襲い掛かるチャンスを狙う。
 少年が強いとはいえ、多勢に無勢。男たちは一斉に叫びながら襲い掛かった。





 建物の中では奇妙な鬼ごっこが続いていた。
 出口は一つ・・・ここさえ注意しておけば逃げられるはずはない。よしんば逃げ出しても外には仲間がいる。少し騒がしかったがどうせ酒でも飲んで言い争いでもしているのだろう。いつもの事だ。彼らは男の遊び仲間であり、男に金を貰っては彼のために動いていたゴロツキだった。
 
 貴族の男は幼女趣味を持っていた。ハイムの貧しい家の女の子を買っては好きにしているという噂があったが、それは公然の秘密だった。他の貴族達は身分の高い彼の不興を買って宮廷から追放されてはたまらなかったし、取り締まる警備兵や騎士たちも彼の権威には手を出せなかった。

 システィーナの父は彼の良からぬ噂を聞いていた。フォリナー家でシスティーナを見初めた彼が正式に婚約の話をモルーバに申し出た時、モルーバは衆人の前で
「無能者には娘はやれぬ。」と即答したのである。
 
 満座の中で大恥をかかされたその男はモルーバを恨み、システィーナを奪う機会を狙っていたのだ。

「どこにいるのかな?」
 男はおどけて、楽しそうに言った。必死になって逃げまどうシスティーナはまだ子供だ。男が本気を出せばすぐに捕まってしまう。猫がねずみをいたぶるように、男はシスティーナを追い詰めていった。

「システィーナ?」
「どこにいる?出ておいで」


 カタンと2階から音がした。男はほくそえむと階段を駆け上がっていった。
隠れたつもりなのだろう。だがテーブルの陰からスカートの端が見えていた。
「可愛いシスティーナ、どこかな?」
 男は気がつかないふりをしながら足音をしのばせて彼女に近づく。

「つーかまえた!」

 だが、そこにあったのはシスティーナの洋服だけだった。

 だだだっと階段を駆け下りる音がする。同時にドアが開き誰かが入って来る音がした。男は騙されたことに気付くと真っ赤になってシスティーナの洋服を振り回しながら下の仲間に叫んだ。
「娘を逃がすな!」


 が、家の中に息せき切って入ってきたのはフォルカスだった。階段から転がり落ちるような勢いで降りてきているシスティーナと目が合う。
「・・・システィーナ! どうしてここに!?」
 そう叫んだフォルカスの胸にシスティーナは階段の途中から飛び込んできた。受け止めた衝撃でフォルカスは後ろに倒れ後頭部をしこたま打った・・・。
「いてて・・・。」

「誰だ、おまえは?」
 
 フォルカスがシスティーナを抱きかかえたそのままの態勢で階段を見上げると30前の男がゆっくりと降りてくる。手にはシスティーナの服を持っていた。やたら着飾った貴族だった。
「外にいる奴らはどうした?」
「みんな倒れています。」
 フォルカスは頭をさすりながら立ち上がりそう答えた。システィーナを自分の後ろに隠す。
「ちっ・・・役に立たない奴らだ。」
男はフォルカスが血に汚れているのに気がついた。
「・・・ひょっとしておまえがやったのか?」
 まさかと思いながらも男が尋ねると、フォルカスが肯いた。男は叫んだ。
「バナヘウムのガキが!退学になりたくなかったら、おとなしくその子供をこちらに渡せ!」

「嫌よ!」
 システィーナがフォルカスの後ろから叫ぶ。フォルカスの服の裾を握っている手が震えているのがわかった。ここで何が行われていたかもだいたい想像がつく。フォルカスは男の卑劣さに舌打ちした。
「嫌がっているのにあなたに渡すわけにはいかない。」

「何だと?わたしに逆らうのか? 退学どころかおまえの命を奪う事だってできるんだぞ!」
男が逆上して叫んだ。

「少年!いいから懲らしめておやり。」

 3人が声の方をふりむくとあの老婆が立っていた。システィーナは老婆の方に縋りついた。

「よしよし・・・怖かっただろうね。もう大丈夫だよ。」
 優しくシスティーナの頭をなでる。
「うわあああん・・・。」
緊張が解けたシスティーナは老婆にすがって泣き出した・・・。



 フォルカスは男を見上げ、きっぱりと言った。
「貴方をこれからハイムの警備兵に引き渡す!」
「馬鹿だね、少年。そいつはドルガリア王の親戚だという地位にあぐらをかいてやりたい放題のろくでもない奴だよ。警備兵に突き出しても無駄さ。」
 老婆が言い捨てた。男は薄ら笑いを浮かべて言った。
「そういうわけだ。わかったらその娘をこっちによこせ。」
「ではあなたをこれからドルガリア王に突き出す。王ならば貴方を絶対に許すまい。貴方のような親戚がいることを恥じられると思います!」

 男は顔を赤くしたり青くしたりして叫んだ。
「クソガキが〜!!」
 叫びながら身に付けていた短剣を抜いてフォルカスに向かっていった男だったが、フォルカスはあっさりかわすと後ろにまわり男を手刀一発で倒したのだった。


 婆さんは倒れた男を足で仰向けに反すと悪さが出来ぬようにどこぞを踏み潰した。
「うわっ・・・!」
 ぴくぴくと痙攣する男から思わず顔をそむけたフォルカスだった・・・。


「先生、外でのびている男たちはどうしますか?」
 
 さっき、システィーナを使って悪巧みを働こうとした2人組が老婆に声をかける。
「身ぐるみはいで縛ってな。ついでにそこの奴も素っ裸にしておやり。そしてハイムの大通りに捨てといで。こいつらにはハイムの住民が大勢迷惑していた。みんなの前で大恥じかいたら、暫らくは表を歩けないじゃろう・・・。」

 自業自得とはいえ哀れな事だとフォルカスは思った。









 夕暮れ、フォルカスとシスティーナ、それからシスティーナを家まで送っていくよう老婆に言われた2人組の4人は旧市街の古い石畳を迷う事もなく抜けていった。

 あれからシスティーナとフォルカスは老婆が院長を務める孤児院の食堂で少し休ませてもらった。そこで食べた薄いスープと固いパンは不味かった・・・。
 老婆は言った。
「まだ食べるものがあるだけでもましだよ・・・。」
 はじかれたように、2人が顔をあげて老婆を見る。
 孤児院の子供たちが珍しそうに2人を見ていた。どの子もオリビアと同じかそれより小さかった。システィーナくらいの年の子から上は皆働いていると老婆が言った。全員みすぼらしいぼろ服を着ていた。
 システィーナは自分の綺麗な服が彼らに対してとても申し訳ないような気がした・・・。
これこそがシスティーナの本質だった。もしこれがセリエなら子供たちの服がどんなのか気にも止めなかっただろうし、シェリーは貧乏な家に生まれなくて良かったと思うだけだったろう。小さなオリビアは・・・、きっと神様へのお祈りが足りないせいだと思うのかもしれない。
 


 4人が路地裏の道を歩いていると向こうのほうで人々の声がした。
「おーい、あっちで裸の男たちがぐるぐる巻きにされて転がっているってさ」
「見に行ってみようぜ」

 4人は大声で笑った。

 システィーナは横を歩くフォルカスの顔を見あげたが、フォルカスはそんな少女の視線に全く気付かないようだった。

 人影の少なくなった旧市街に出たら別れの時だ。フォルカスは西へ、システィーナたちは東の門へ。間際、彼女はフォルカスに名前を聞いた。

「フォルカス・リダ・レンデ」
 
 手をふって彼女たちに別れるを告げるとフォルカスは走りだした。バナヘウムにもどって今日1日のことを説明しなくてはいけないかと思うと考えるだけで疲れた。
 晩御飯を食べ損なうのだけは御免だったのでフォルカスは息が切れるまで走った・・・。





 システィーナたちはフォルカスの後ろ姿が消えるまで見送って東門へと歩き出した。
セリエ姉さんが彼の事を何か知っているといいなあと彼女は思っていた。





 システィーナの横で2人組はと言うと、うきうきしていた。
 結局、彼らは計画通りフォリナー家の娘を家まで送っていく事が出来たのだ。しかも堂々と胸を張って!婆さんからは礼は絶対もらうなと釘をさされていたが少しくらいならいいだろう。その金で何を買おうかと考えるのは楽しかった。

 そうこうしてるうちに東門が見えてきた。辺りはもう夜の色だ。
門の両脇に松明が灯されている。


 その前で警備兵と誰かが数人話していた。
 システィーナが走り出した。

 向こうも彼女に気がついたようだった。システィーナの方に走ってくる。
「システィーナ様!」
「どこに行っておいでだったのです!?」
「もう・・・心配したのですよ。」

 システィーナが生まれた時から世話をしている乳母がシスティーナに抱きついてワンワン泣き出す。
「ごめんなさい・・・。」
 叱られたと思ったスシスティーナも涙ぐんだ。
「ああ、無事だったからいいのですよ・・・。泣かないで・・・、 怒っていませんから」
まわりの者も口々に無事で良かったと言った。


「・・・?」
 フォリナー家の者はシスティーナにくっついている2人の若者に気付くと、怪訝そうな顔をした。
「この者たちは・・・?」
 彼らの方を見てシスティーナが説明しようと口を開きかけると、ハイムの警備兵が前に進み出て
「ご心配なく、われわれが責任をもって取り調べますから!」
と言った。
 それを聞いた2人組はあせって叫ぶ。
「えー!?」
「そんなー!?」

 2人はシスティーナを縋るような目つきで見た。目が助けてくれと訴えている。
システィーナは警備兵の前に進んで説明した。
「悪い人たちじゃないわ、わたしを助けてくれたのよ」
コクコクコクと2人は頷いたが、警備兵は聞かない。
「きちんと調べないと、われわれがお父上から叱られます。」


 乳母はフォリナー家に仕える若者に、急いで家に帰ってシスティーナが見つかった事を知らせるように言った。若者が駆け出す。乳母は
「さっ、システィーナ様、皆様が家で心配して待っておられます。後の事は兵たちに任せて帰りましょう・・・」
 そう言ってシスティーナの手をひいて歩き出した。
 
 システィーナは男たちをふりかえりながら大きな声で言った
「何かあったらわたしを呼んで・・・、絶対行くから。それとお婆さんによろしくね。」
「システィーナちゃん!待って」

「さあ、行くぞ。」
 警備兵に引っ張られて2人はトホホな気分で旧市街の駐屯所に連れて行かれたのだった。



 
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