あくまでフィクションだし、
「IL DIVO」のミュージック・ビデオみたく彼らがその中で役を演じている、あれと同じ感じで・・・。
ウルス死んでいます(否、死んでないけど・・・)
嫌な方はご遠慮下さい。(これの経緯はここに)






無題・1






その町の中心から少し外れた小高い丘に墓地はあった。
そこに続く静かな道をセバスチャンはゆっくりと歩いていく。
遠目からでも洗練された物腰と漂う品の良さ、甘いハンサムな顔の造りがわかる男だ。

少しずつ、戦争の足音がこの国にも聞こえ始めていたが、ここだけは昔とちっとも変わらない空気が流れているようだった。

兄と二人でそれぞれの母が眠る墓まで競争をしてこの道を走っていった昔。
結局兄に一度も勝てなかった。
兄の背を追い越し、今度こそと勝負を挑んだら、兄はもう子供じゃないんだからいつまでもアホなことが出来るかと冷たく言ったものだった。
勝ち逃げはずるいと叫んだら、負けるかもしれない勝負はしないのが俺の主義だと言った。

それなのに・・・、

あの馬鹿は負けるとわかった勝負に挑んで死んだ。

側にいたのに、
一番近くにいたのに兄を止めることが出来なかった。

血の海に沈む兄をこの目で見た時、セバスチャンの時間もそこで止まった。
季節は色を失い、音楽に喜びを感じることが出来ず、それでも月日はゆっくりと彼の凍った時間を溶かしていく。

長い間忘れていた陽の暖かさをセバスチャンは歩きながら思い出していた。



「やあ、ウルス。そっちの様子はどうだ?」

墓の前に立ち、セバスチャンは兄に語りかけた。

「デイヴィッドはウィーンに旅立ったよ。音楽の都だ。そこで彼の才能は花開くだろう・・・、きっと。親父は相変わらず女の尻を追いかけている。元気だ。」
―――おまえは? セバスチャン・・・

ウルスの声が聞こえたような気がした。
冷たい美貌の兄だったが、その声は穏やかであたたかかった。

ウルスの本質はそこだ。
相反する二つの資質が彼の中で様々な表情を作り出す。冷酷な殺し屋の顔と、誠実で真面目な実務家の顔と、よくしゃべる陽気な青年の顔と、教会で厳かな雰囲気をまとい賛美歌を歌う顔と、父の自慢の息子で自分達にとっては・・・。それらが何の違和感もなく渾然と存在していた。

どれが本当の顔だと兄に尋ねたことがあった。するとウルスはこう言ったのだ。

 おまえの前にいる俺が本当の俺だ、セバスチャン・・・・・・
おまえには本当の俺を見せる
おまえは俺を裏切るな

裏切ってはいない。ただ、兄が破滅に向かって突っ走っていくのを止めたかっただけだ。
時間を止めてやり直せるなら迷わずあの瞬間を選ぶだろう。

ウルスに銃口が向けられる前に僕があいつらを殺す・・・!

やり直せるのなら・・・・・・・・・

何度神に祈っただろう。
どうかウルスを返して下さい。

いつだったか、クリスマスの教会のコンサートで4人でステージに立ったことがあった。
ウルスがいつも賛美歌を歌っていた地区の教会だ。
鉄道事故で来られなくなったコーラス隊の代わりに、マフィア一家がクリスマスソングを歌うという滑稽なことになったのだ。
歌好きな父のおかげで息子3人も歌が大好きだった。
父を筆頭に他の3人の圧倒的な歌声は神の声と人々を魅了したのに対して、セバスチャンの声は一人だけ庶民の声だ。それが嫌で彼は人前では歌うことはなかった。だけど、ウルスは言った。


俺はおまえの声が好きだよ
もっと自信を持て・・・

おまえが女の耳元でその声で愛を囁いてみろ
下は赤ん坊から、上は婆さんまで
落ちない女はいないね

にやりと笑うウルスに悪戯心を起こして彼の耳元に息を吹きかけながら名前を囁いたら、次の瞬間殴られた。
兄は真っ赤になりながら俺で確かめるなと叫んだんだ・・・。



生まれた時からウルスが横にいたのに、今は彼は冷たい土の中だ。
そしてセバスチャンの人生はこれからも続いていく。



墓地に植えられた木々の葉が風に飛ばされてウルスの墓の上にも散る。
セバスチャンは屈んで墓の上の葉を掃った。

「あんたが家の掃除係だったよな、ウルス。いっつも家中ピッカピカにしていたっけ。今はデイヴィッドもいなくなってごちゃごちゃだ・・・。」

「・・・・・・父さんも俺も掃除は苦手だから・・・・・・・・・。」

熱いものがこみ上げてきた。

「あんたがいなくて・・・・・・、困る。」

だから、だから・・・・・・。

叶わぬ願いだとわかっていてもセバスチャンはそう願わずにはいられないのだ。

ウルスが困った時にいつもしていた仕種、
でかい目をさらに大きくして眉毛を下げて、大げさに肩をすくめてみせるウルスがセバスチャンの心の中に浮かんで、セバスチャンの顔は泣き笑いになった。







・・・下ネタ4コマ描くより恥ずかしいっていうか、
いや、ホント恥ずかしいからどうしよう状態でした。
カルロス父さんの子育てエピソードとかはまたの機会にでも。
こっそり書き直しているかもしれません。
(2006.5.11)
少し話を加えたら、やっぱりセバスチャンの時間は止まったままになりました・・・。
かなりウルスドリーム入っています。
突っ込み満載、けどそっとしておいて…。(5.13)




戻る