万葉集(巻第九) 青空文庫 ―鹿持雅澄『萬葉集古義』による
参考図書 解説万葉集―佐野 保田朗 藤井書店 木の名の由来―深津 正・小林義雄著 日本林業技術協会 万葉集―日本古典文学全集 小学館 |
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巻第九(1664〜1811) | |
1674 | 我が背子が使来むかと出立(いでたち)のこの松原を今日か過ぎなむ |
1676 | 勢(せ)の山に黄葉(もみち)散り敷く神岳の山の黄葉は今日か散るらむ |
1687 | 白鳥の鷺坂山の松影に宿りてゆかな夜も更けゆくを |
1700 | 秋風の山吹の瀬の響むなべ天雲翔り雁渡るかも |
1703 | 雲隠り雁鳴く時に秋山の黄葉(もみち)片待つ時は過ぐれど |
1705 | 冬こもり春へを恋ひて植ゑし木の実になる時を片待つ吾(あれ)ぞ |
1716 | 白波の浜松の木の手向ぐさ幾代までにか年は経ぬらむ |
1723 | かはづ鳴く六田(むつた)の川の川柳(かはやぎ)のねもころ見れど飽かぬ君かも |
1736 | 山高み白木綿花(しらゆふはな)に落ちたぎつ夏身の川門(かはど)見れど飽かぬかも |
1738 | 尻長鳥(しながとり) 安房(あは)に継ぎたる 梓弓 周淮の珠名は 胸別(むなわけ)の 広けき我妹 腰細の すがる娘子の その顔の きらきらしきに 花のごと 笑みて立てれば 玉ほこの 道ゆく人は おのが行く 道は行かずて 呼ばなくに 門に至りぬ さし並ぶ 隣の君は たちまちに 己妻離(か)れて 乞はなくに 鍵さへ奉(まつ)る 人の皆 かく惑へれば うちしなひ 寄りてぞ妹は たはれてありける |
1742 | しな照(で)る 片足羽川(かたあすはがは)の さ丹(に)塗りの 大橋の上(へ)よ 紅の 赤裳裾引き 山藍(やまゐ)もち 摺(す)れる衣(きぬ)着て ただ独り い渡らす子は 若草の 夫(つま)かあるらむ 橿(かし)の実の 独りか寝(ぬ)らむ 問はまくの 欲しき我妹が 家の知らなく |
1745 | 三栗(みつくり)の那賀に回(めぐ)れる曝井の絶えず通はむそこに妻もが |
1747 | 白雲の 龍田の山の 滝(たぎ)の上(へ)の 小椋(をくら)の嶺に 咲きををる 桜の花は 山高(だか)み 風しやまねば 春雨の 継ぎて降れれば 上枝(ほつえ)は 散り過ぎにけり 下枝(しづえ)に 残れる花は しまらくは 散りな乱りそ 草枕 旅ゆく君が 帰り来むまで |
1749 | 白雲の 龍田の山を 夕暮に うち越えゆけば 滝(たぎ)の上(へ)の 桜の花は 咲きたるは 散り過ぎにけり 含(ふふ)めるは 咲き継ぎぬべし こちごちの 花の盛りに 見せずとも かにかくに 君のみ行きは 今にしあるべし |
1751 | 島山を い行き廻(もとほ)る 川沿ひの 岡辺の道よ 昨日こそ 吾(あ)が越え来しか 一夜のみ 寝たりしからに 峯(を)の上の 桜の花は 滝の瀬よ たぎちて流る 君が見む その日までには あらしの 風な吹きそと 打ち越えて 名に負へる杜に 風祭(かざまつり)せな |
1752 | い行き逢ひの坂の麓に咲きををる桜の花を見せむ子もがも |
1753 | 衣手 常陸の国 二並ぶ 筑波の山を 見まく欲り 君来ませりと 暑けくに 汗かき嘆き 木(こ)の根取り 嘯(うそむ)き登り 峯(を)の上を 君に見すれば 男神(をのかみ)も 許したまひ 女神(めのかみ)も ちはひたまひて 時となく 雲居雨降る 筑波嶺(つくはね)を さやに照らして いふかりし 国のまほらを つばらかに 示したまへば 嬉しみと 紐の緒解きて 家のごと 解けてそ遊ぶ 打ち靡く 春見ましよは 夏草の 茂くはあれど 今日の楽しさ |
1755 | 鴬の 卵(かひこ)の中に 霍公鳥 独り生れて 己(し)が父に 似ては鳴かず 己が母に 似ては鳴かず 卯の花の 咲きたる野辺よ 飛び翔り 来鳴き響(とよ)もし 橘の 花を居散らし ひねもすに 鳴けど聞きよし 幣(まひ)はせむ 遠くな行きそ 我が屋戸の 花橘に 住みわたり鳴け |
1758 | 筑波嶺の裾廻の田居に秋田刈る妹がり遣らむ黄葉(もみち)手折らな |
1761 | 三諸(みもろ)の 神奈備山に たち向ふ 御垣の山に 秋萩の 妻をまかむと 朝月夜 明けまく惜しみ あしひきの 山彦響め 呼び立て鳴くも |
1772 | 後れ居て吾(あれ)はや恋ひむ印南野(いなみぬ)の秋萩見つつ去(い)なむ子故に |
1773 | 神奈備の神依せ板にする杉の思ひも過ぎず恋の繁きに |
1776 | 絶等寸(たゆらき)の山の峰(を)の上(へ)の桜花咲かむ春へは君し偲はむ |
1777 | 君なくはなぞ身装はむ櫛笥(くしげ)なる黄楊(つげ)の小櫛(をくし)も取らむとも思(も)はず |
1783 | 松返りしひてあれやも三栗(みつぐり)の中すぎて来ず待つといへや子 松返りしひてあれやは三栗(みつぐり)の中上り来ぬ麻呂といふ奴・・・・・・古典文学全集より 三栗→クリノキ→ひとつのイガの中に実が三つあるもの。 余談・・・ひとつ「栗」、7,8個あるものを「箱栗」 |
1790 | 秋萩を 妻問ふ鹿(か)こそ 独り子を 持たりと言へ 鹿子(かこ)じもの 吾(あ)が独り子の 草枕 旅にし行けば 竹玉(たかたま)を 繁(しじ)に貫き垂り 斎瓮(いはひへ)に 木綿(ゆふ)取り垂(し)でて 斎(いは)ひつつ 吾(あ)が思(も)ふ吾子(あご) ま幸くありこそ |
1795 | 妹がりと今木の嶺に茂(し)み立てる嬬(つま)松の木は吉き人見けむ |
1796 | もみち葉の過ぎにし子らと携はり遊びし磯を見れば悲しも |
1811 | 墓の上の木枝(このえ)靡けり聞きしごと茅渟壮士にし寄りにけらしも |
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