飲酒(其の十五)


貧居(ひんきょ) 人工(じんこう)に乏しく
潅木(かんぼく) ()が宅を荒らす。
班班(はんはん)として翔鳥(しょうちょう)有るも
寂寂(せきせき)として行跡(こうせき)無し。
宇宙 (いつ)に何ぞ(はる)かなる
人生(じんせい) 百に至ること少なし。
歳月は相催(あいうなが)(せま)
鬢辺(びんぺん)は早くも(すで)に白し。
()窮達(きゅうたつ)()てずんば
素抱(そほう) 深く()しむ()し。

大意
この貧乏暮らしでは手入れもかなわず、わが家のまわりは潅木がはびこっている。付近には鳥の飛び交うのが見えるだけで、たえて人の足跡はない。
宇宙のなんと悠久であることか。それにひきかえ、人は百まで生きるのさえ稀な事だ。歳月は人を老いへとせきたて、鬢の辺りはもう真っ白になった。
もしも貧乏とか出世とかいった観念を捨てないかぎり、平生の志が無になり、
深く悔やむことになるぞ


飲酒シリーズの作品です。
創作時期について田舎に帰った当初か十年ほど経った五十前後の作品か二説あるそうです。
ある程度経験を積まないと農事のことは判らないのもです。朝早くから夜おそくまで畑でくたくたになるまで働いてもそれほど思った成果がでない。まして家の周りの雑木の手入れなどの余裕もない。せっかく決心した志がくじけそうになる。自分を奮い立たせているように感じます。
さて
潅木」 です
二〜三メートルの低木です。たくさんあります。
庭に植えると小鳥の集まる低木はナンテン、ガマズミ、グミ、ヤツデ、ムシカリ、
ナナカマド、ツバキ、クワ、ウツギ、キイチゴ、ヤマブキ、コデマリ、メギなど
処置に困るのがノイバラとサルトリイバラです。全体にトゲがあるのでうっかり気がつかないと痛い目にあいます。
 登山用語に「藪漕ぎ」という言葉があります。藪(潅木)の中を手でかき分けかき分け進んでゆくことです。ズボンと服があっちこっち破れます。



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