飲酒(酒を飲む)其の四

栖栖(せいせい)たり 群れを失える鳥
日暮れて()お独り飛ぶ。
徘徊(はいかい)して定止(ていし)する無く
夜夜(よよ) 声は(うた)た悲し。
視ソ(れいきょう) 清遠(せいえん)を思い
去来(きょらい) (なん)依依(いい)たる。
孤生(こせい)の松に()えるに()
翮(つばさ)を(おさ)めて(はる)かに来たり帰る。
勁風(けいふう)栄木(えいぼく)無く
()(かげ) 独り衰えず。
身を(たく)するに(すで)に所を得たり
千載(せんざい) 相違(あいたが)わざらん。


大意

群れにはぐれた鳥が日が暮れてもただ一羽、まだ不安げに飛んでいる。
さまよって落ち着く所もなく、鳴き声は毎晩ひとしお悲しげであった。
しきりに鳴くその声は清園の地に思いをはせているのか。
行き戻りつして去りがてにしていたが、幸い一本松を見つけ、ようやく
羽をすぼめて飛び帰って来た。
冬の寒風にさらされて、木々はみな葉を落としてしまったが、この松の木陰
のみは常緑を保っている。安住の地を得たからには、もはやいつまでも
ここを離れはしないだろう。


飲酒(酒を飲む)のシリーズは結構有名です。
酒を飲み気ままに書いたとも酒に自分の気持ちを託したとも言われます。
お酒は大変好きだったようです。いずれにしても今の焼酎でしょう。
面白いもので日本酒を飲んでいるような錯覚に陥ります。
さて、木です。
孤生の松」です。
「何々の松」この表現はよく出てきます。中国の山水画に切り立った岩山の上に描かれた松があります。岩の間に根を伸ばして幹は風に吹かれて大きく曲がっている。けれども孤独を守り懸命に生きている。
そんなイメージを真っ先に思い浮かべますが、それほど大それた松じゃないように感じます。小鳥が見えているのですから本人に近くの光景でしょう。
庭の隅にあるごく普通の松のような気がします。
それとも「小鳥」は自分の分身なのでしょうか。そう捉えると孤高の松を安住の地にしたいと願うのではないでしょうか。
わたしは、普通の松が淵明さんには似合うと思います。



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