ネットの119番、浸透まだまだ 携帯利用、障害者向け導入進む
 
 病気や聴覚障害などで会話が困難な人向けに、携帯電話のインターネット機能を使って119番通報をする仕組みが各地で導入されている。緊急時に数回ボタンを押すだけで救急車や消防車を呼ぶことができる。ただ知名度不足から登録数が伸び悩み、関係者は「自治体はもっとPRを」と訴える。

 数年前の秋、呼吸器に疾患がある松山市の20代女性が、自宅で突然呼吸困難になった。救急車を呼ぼうにも声が出ない。そこで携帯電話で市の専用サイトにアクセス。数分後、到着した救急隊によって病院に搬送され、一命を取り留めた。

 女性を救ったのが「Web(ウェブ)119」と呼ばれる仕組み。利用者は、自治体などに申し込んだ際、メールで送られた専用サイトのURLを保存。緊急事態が起きたらサイトに接続して異常を知らせると、一般の119番のように通報が司令所に届く。あらかじめ登録した自宅のほか、外出先でも全地球測位システム(GPS)がついた携帯電話なら自動で位置を伝えられる。

 2003年に松山市で初めて導入された。総務省消防庁によると、正確な統計データはないが、「年々増えており、少なくとも10以上の自治体が導入している」という。

 昨年3月に導入した京都市は、難聴などの観光客向けに登録を呼びかけている。「不慣れな街ではいざという時に周囲に助けを求めるのが大変。少しでも安心して旅を楽しんでもらうために登録してほしい」と消防局の担当者。市の観光案内のホームページ(HP)などに案内文を掲載している。

 ただサービスを利用するためには、あらかじめ住所やかかりつけ医などの情報を登録しておかなければならない。システムの導入が進む一方、肝心の周知徹底が不十分で、市民権を得るには至っていないようだ。

 03年に導入した横浜市は聴覚に障害がある市民が約8千人いるが、現在の登録者数は約70人にとどまる。富山市では04年の導入後1件も申し込みがなく、市消防局の担当者は「必要とされていないのか、我々のPRが弱いのか……」と首をかしげる。

 4月10日からサービスを開始する千葉県の柏、我孫子両市も、4〜6月にかけて市民向けの説明会を行うなど知名度アップに懸命だ。

 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会の佐野昇事務局長は「障害者が1人で助けを求めることは難しく、自力で通報できる手段を知っていることは本人にとって大きな安心になる」と取り組みを評価。しかし佐野さん自身も存在を知らなかったといい、「もっと積極的に広報しなければ、せっかくのサービスも形だけに終わってしまう」と危惧している。