滞在型市民農園
宿泊しながら野菜作りなどの農作業を楽しめる「滞在型市民農園」。全国に約60か所あり、手軽に田舎暮らしが体験できると人気だ。地方移住を考えている都市住民には、まずは現地での暮らしを試せる場としても注目されている。
兵庫県のほぼ中央に位置する多可たか)町の山あいにある「フロイデン八千代」(60区画)。2年前から利用しているという同県加古川市の山本清さん(63)、百合子さん(62)夫妻は、ひと月の半分近くをここで過ごす。1区画約300平方メートルの敷地には木造2階のコテージが立ち、農園ではキュウリやトマトなどの夏野菜が育っていた。百合子さんは「地元農家やベテラン利用者に肥料のやり方などを教えてもらったので、野菜作りが上手になりました」と笑顔を見せた。
費用は入会金35万円と、農園、コテージなどの年間利用料27万6000円。「旅行することを考えたら、決して高くない。自然の中で暮らしてみたいが、別荘を持つには経済的負担が重すぎる私たちには絶好の場所です」と清さん。農作業以外にも、近くの川で魚を釣ったり、地元の人とグラウンドゴルフを楽しんだり。趣味の木工品づくりに没頭することもある。「今春に定年後の再雇用期間は終わりましたが、生活はますます充実しています」と話した。
滞在型市民農園は、1989年に制定された特定農地貸付法によって、市町村やJAなどが市民農園を開設し、一般に貸すことが可能になったことなどから広まった。フロイデン八千代は93年にオープンした全国初の施設だ。
その後、法改正でNPOなどによる開設が可能になり、民間の農園も登場。都市農山漁村交流活性化機構(東京)によると、滞在型は現在、関東、近畿地方を中心に全国約60か所の計約1100区画に達している。年間利用料は平均約40万円で、利用者の大半は50〜60歳代。募集倍率は平均約3倍で、5年待ちのケースもあるという。
「ゆくゆくは田舎に移住して農業をしたいと思っている人には、農作業の経験を積み、地域になじむことができるメリットがあります」と日本市民農園連合会長の廻谷(めぐりや)義治さん。「滞在型を開設する市町村では、移住希望者に空き農家や町営住宅を紹介していることが多い。定住を考える人は、こうした支援制度を利用するといい」と助言する。