定年後の生きがいつくりに「市民後見人」になろう

 認知症の人などの財産管理を代行する「成年後見制度」で、一般市民の後見人への登用が伸び悩んでいる。養成や運営に手間がかかり、自治体が及び腰なためだ。介護保険とともに高齢化社会を支える車の両輪として制度が発足して10年。利用者にとっては生活の質低下を食い止めてくれる“もう一人の自分”になり得るだけに、市民後見人の積極養成を求める声が出ている。

 「他人の人生を左右する重大な仕事です」「報酬は期待しないでください」。17日、東京都世田谷区が開いた市民後見人養成研修の説明会。担当者の厳しい言葉に、25人の参加者は顔を見合わせながらも真剣なまなざしで聞き入った。

 大手住宅メーカーを退職したばかりの男性(61)は「老後は地元に貢献したい」と思って、説明会に参加した。ハードルは低くないと感じたが「(高額契約を狙う)悪徳業者から高齢者を守れれば」と力を込める。

 後見人は裁判所から選ばれ、判断能力が不十分な人の日常をサポートする。親族のほか、司法書士や弁護士などが就くことが多いが、専門家に依頼すると報酬が必要になるうえ、高齢者の増加で担い手不足も見込まれるため、市民を後見人に育てる動きが出ている。

 世田谷区は2006年、全国でも先駆的に市民後見人の養成を始めた。区が研修事業を区社会福祉協議会に委託する格好で、これまでに51人が研修を受け、うち19人が後見人として活動中。09年度の関連予算は前年度比13%増の約2千万円。積極姿勢は「将来にわたって地域が支え合えるように担い手を育てる」ためだ。

 ただ、全国的にはこうした前向きな例は限定的。最高裁のまとめでは、毎年後見人に選ばれるのは親族が約7割、司法書士と弁護士が1割前後で、主に一般市民が含まれる「その他」は1〜2%にとどまる。背景にあるのは“ランニングコスト”の重さだ。

 「医師から手術同意書にサインを求められたがどうしたらいいか」「親族間のもめごとに巻き込まれそうだ」。市民後見人が活動する自治体では、現場からのこんなSOSが引きも切らない。

 法律と福祉、医療が複雑に交錯する現場では、実務のプロではない市民は立ち往生しがち。円滑な活動には専門家の支援が不可欠で、それには相応のお金もかかる。

 品川成年後見センターの斉藤修一室長は「市民後見人をバックアップする公的な全国組織が必要だ」と強調。制度に詳しい中山二基子弁護士も「制度として始めた以上、行政は責任を持って市民後見人の育成や支援に取り組むべきだ」と訴えている。

 定年退職をして、生甲斐探しをしているご同輩。市民後見人を目指しませんか?