最期まで住み慣れた地域や自宅で

 東京大学が、国内の民間企業35社と進めているジェロントロジー(老年学)産学協同プロジェクトで、中間報告がまとまった。高齢化率が3割をこえる2030年を視野に、暮らしの安心を確保する為に必要な制度改革や環境整備を提案している。

 そのプロジェクトい一番期待したいのが、在宅医療の充実だ。厚生労働省が2009年3月に実施した「終末医療に関する調査」では、国民の約8割が終末期医療に関心を寄せ、63%が終末期の療養の場として自宅を希望している。

 しかし、家族介護の限界や家庭での医療ケアの難しさから、亡くなる人の8割以上が病院で最期を迎えているという現実がある。「最期まで住み慣れた地域や自宅で」という多くの人々の願いを叶えるにはどうしたらよいのか。

 プロジェクトもそこに集中しているという。心身が虚弱化した時、同居家族の有無にかかわらず、住み慣れた場所で生活を続けるには「切れ目のない在宅医療・介護システム」が欠かせない。高齢者の生活と健康を見守り、支えるヘルパーや訪問看護師、時間外診療や往診に応じる医師など、情報を共有すしつつ地域で協働する複数の専門家が必要だ。

 地域ごとにこの介護資源の充実が早急に望まれる。しかし、全国には約1万1500の在宅医療支援診療所、約500の訪問看護ステーションがあるものの、それらが相互に地域内で連携する仕組みに乏しいため、24時間365日の切れ目ない医療・介護支援が機能していないのが実情だ。

 このほかにも、管轄官庁の連携が進まない縦割り行政の壁や、在宅医療を担う家庭医の位置づけを巡る専門家の食い違い等があり、「最期まで自宅で」という公民の願いを実現する見通しが立っていない。

 東大プロジェクトの中間報告には、医療・看護・介護の連携システムの構築や、家庭内のチーム編成による24時間対応などが盛り込まれた。
しかし、老後を如何に健やかに安らかに過ごせるようにするか、というテーマは、国が最優先で取り組むべき問題だ。

 民主党政権は、診療報酬改定で入院医療のテコ入れを図ったが、在宅生活を可能にする為の地域医療体制の整備も、早急に進めて欲しい。