日経プラス1何でもランキングの書けなかった漢字は?

画数多いと細部が…

 公私を問わず、手書きの機会はめっきり減りがち。果たして漢字の書き取り能力はどうなっているのだろうか。パソコンなどのヘビーユーザーを対象に漢字テストを実施し、「書けない漢字」を探ってみた。

 参加したのは20代―60代以上の男女67人。まずは使用頻度の高い漢字(調査の方法を参照)と文部科学省の学習指導要領にある「学年別漢字配当表」を突き合わせ、「小学校で習う漢字」からの出題。そのワースト1は「衛」。

 「読める漢字でも、画数が多いと細部まで正確に把握していない場合が多い」と指摘するのは、日本エディタースクールの講師で「校正技能検定」の出題・採点もする校正者の境田稔信さん。3位の「費」や6位の「優」、8位の「裏」も細部の誤りが目立った。

 文字自体が浮かばなかった人が多かったのが、2位の「折」。4位の「奏」も比較的空欄があった。4位の「策」は「索」、6位の「遺」は「遣」というように、似た字との混同が目立った。一方、8位の「夢」は「無」、10位の「覚」は「確」での不正解が見られた。10位の「笑」は、たけかんむりがくさかんむりになったり、「夭」が「犬」になったりする例も。

 今回は便宜的に「教科書体」という手書きに近い活字で印字したものを1つの参考にした。だが、同じ漢字も活字や書道の書体により形が変わる場合もあり、漢字の世界は奥深い。

 さらに「手書きだとはねたつもりでも、そうは見えない筆跡もある」と採点経験の多い境田さん。そこで、はね・とめなどはこだわらない形で、校正経験者をまじえて採点した。

 学習指導要領では高校で「主な常用漢字が書けるように」としているが、小学校で習う漢字を一部含めつつ出題を常用漢字に広げたところ、回答欄に空白がぐんと増えた。

 正解は表の上から順に(1)虐、(2)癒、(2)擁、(4)薦、(5)衷、(5)覇、(5)膨、(8)戯、(9)賄、(10)喚。

IT化「書けない」の原因?

 「日ごろは変換キーに助けられていると実感」(30代男性)、「漢字が書けなくなっていることにがくぜんとした」(40代女性)。参加者アンケートでは、こんな感想が寄せられた。

 参加者の4割は手書きの機会が「ほとんどない」。そのせいか、パソコンなどの利用で書き取り能力が「減退」「やや減退」したと思う人は、8割を超えた。だが、国立国語研究所の情報資料部門主任研究員、新野直哉さんは「IT化と漢字を書けないことの因果関係は客観的に証明されているとは言えない」と話す。

 漢字に詳しい京都大学大学院教授の阿辻哲次さんも「パソコンなどを使うと『顰蹙(ひんしゅく)』なども簡単に出せる。見慣れた漢字は手書きもできると思いがちだが、このように、もともと読めても書けない漢字はある」と指摘。「(むしろIT化で)多くの人が気軽に文章を書いて発信できるようになったことで、より豊かな言語文化の創造に期待したい」と話す。

 一方、脳研究者の東京大学准教授、池谷裕二さんは「仮にパソコンの利用で漢字を書けなくなったとしても嘆くべきことではない」と説く。なぜなら、それは「現代の文化に即した正しい脳の適応だから」。時代のニーズに合わせるなら、書く能力もさることながら「同音異義語を正しく変換できる能力」などに、より注目すべきだとみる。

 「『書く』というと手書きを想像しがちだが、パソコンなどによる漢字変換も文章などを書く点は同じ。候補に出る漢字から選択する必要もあり、IT化は必ずしも漢字文化の衰退と直結しない。視覚からの情報が増えるIT社会では、見て覚えることで読める漢字も増えているのでは」。IT化の社会・文化への影響に詳しい東大大学院教授の西垣通さんもこう語る。

 ただし、漢字の書き取り能力を高めたいなら「スポーツと同じで見ているだけではだめ。手からも覚えないとスラスラ出てきません」と境田さんは話す。


  <小学校で習う>
人工□(えい)星  53.7
支払いは□(せっ)半で  71.6
交通□(ひ)  73.1
楽器演□(そう)  76.1
□(さく)略  76.1
□(ゆう)位に立つ  77.6
□(い)伝子  77.6
□(む)中になる  79.1
□(うら)表  79.1
10 いい□(え)顔  80.6
10 □(かく)悟する  80.6
  <常用漢字では>
児童□(ぎゃく)待  3.0
心を□(い)やす  10.4
人権□(よう)護  10.4
推□(せん)入学  11.9
和洋折□(ちゅう)  19.4
□(は)権争い  19.4
□(ぼう)大な財政赤字  19.4
遊□(ぎ)施設  20.9
贈収□(わい)  23.9
10 注意□(かん)起  25.4