2005.02.15 合羽橋 なってるハウス 報告者 K.T.
出演 渡辺勝(vo.g.pf.) 川下直広(Ts.har.)
鶯谷駅からトコトコ歩いてなってるハウスの前に来てみれば、本日有馬忍休演という掲示が出ていた。今日は有馬忍の苦しげなハスキイ・ヴォイスを聞くのだ聞くのだ聞くのだと電車の中で何度も繰り返しつぶやいて心の準備ができていたのに休演だったとは。キモチの整理がつかないまま店内に入る。たとえ急用で休演ということであっても1週間ぐらい前に告示してしてくれないと心の準備ができない。1週間も前から判明している急用なんてあるものか、などという批判は当たらない。お話にならない。そんな理屈の成り立つ世界の住人は、なってるハウスとは縁のないまま生涯を終えるのである。それでいいのだ、それでいいのだ、と、ひとり納得して、正体不明の揚菓子らしきものを一気食いする。
当夜の演奏曲名は、以下のとおりである。曲名のあとには例のごとく渡辺勝の担当楽器を記しておいた。pf.はグランドピアノ、g.はガットギターである。川下直広は、“さくらんぼの実る頃”を除くすべての曲でTs.を吹いた。また、“冬の朝”の冒頭では
harmonica を吹いていたが、すぐにTs.に移行し、その後 harmonica を吹くことはなかった。
1.冬の朝 pf.
2.夢 pf.
3.あなたの船 pf.
4.チャーリーのバー g.
5.アムステルダム g.
6.東京 pf.
7.さくらんぼの実る頃 pf.
8.道草 pf.
9.砂とシャベルの日々 pf.
10.窓の外は pf.
11.鉄橋 g.
12.君をウーと呼ぶ g.
13.僕の倖せ pf.
14.白粉 pf.
15.八月 pf.
16.夏のスケッチブック pf.
17.クレソンの里 pf.
18.truth pf.
19.逢えてよかった pf.
20.夜は静か通り静か pf.
寒い季節に“あなたの船”を聞くと、なんだかトクをしたような気分になる。昨年12月には、さまざまな“あなたの船”を聞いて今月は“あなたの船”月間だったのかと感じ入ったものだが、その件についてはすでに記したので繰り返さない。
“チャーリーのバー”と“アムステルダム”の港町二連発では、サックスの渋いフレーズにヨヨと泣いた。かっこよすぎである。ジャカジャカと力強くストロークするガットギターと禁欲的なサックスの醸し出す怪しい雰囲気に陶酔する。
“窓の外は”はセルフ・リサイクル曲で、2月上旬の函館におけるライヴで久しぶりに演奏された、とのことである。古い音源は“渡辺 勝 ライブ '77 ぼくの手のひらの水たまり”(Seals Records SEAL−002/1998年)におさめられている。2005年ヴァージョン(野澤享司的表現ですいません)は、一語一語の意味を丁寧に確認するかのように、ゆっくりとうたわれた。何人をも鼓舞しない高級な曲であった。
“鉄橋”は新作である。終演後に“今日作った”との発言があった。しからば本邦初演であろう。4分の3拍子短調でテンポはやや速め、長さは短め、というても聞いていない人に伝わるものか。百見は一聴にしかず。一聴をおすすめする。
“逢えてよかった”は古い曲で、このところしばしば演奏されている。三上寛の“BANG!”(URCレコード URG−4022/1974年)におさめられているということは、2002年11月25日付の周縁事態に記したので繰り返さない。この曲は同性間の友情モノのようで、“泣けてくるよ 飲み明かそう 朝がくるまで”なんていうフレーズを聞くと、斉藤哲夫にカバーされるのではないかといささか心配になる。まあそれは余計な心配であろうが。しかし、ひょっとしたらもうすでにカバーされているのかもしれない。斉藤哲夫は、他人の曲をカバーするにあたって、原曲のメロディーを著しく改変して自分流のフシでうたってしまうので、原曲に対する敬意が感ぜられず、聞いていて不快である。
さて、ライヴが終わってから客席を見回すと、今回は女性が一人もいなくて、男ばかりであった。出演者はもちろん男性だし、なってるハウス側は男性のリマ店長ただ一人、ということは、全員男ライヴ、だったのだ。こういうすばらしい環境で“逢えてよかった”を聴いたのだと思うと、またしみじみとこの名曲が味わい深く感じられるのであった。
女性と未就学児の入場はお断り、なんていうライヴがあったら、なってるハウスは満員札止めになるのではないか。世のマサル党の男性がたは、たとえチャージが2倍の4,000円であっても、大挙して馳せ参ずるであろう。戦略的見地から差別化を図ってなにが悪いと居直って、今回はおしまいにする。