2004.11.13 六本木 音楽室 報告者 K.T.
出演 野澤享司
今年も残りわずかとなり、来年もうかうかしているとあっという間に終わってしまうであろうことは想像に難くない。残された時間を思うと心せかるるばかりであるが、じたばたしてもどうにもならぬわいと腹をくくって、都心の仙境音楽室に遊ぶことにした。野澤享司の演奏にどっぷりとひたって、俗塵に汚れた耳を洗おうという魂胆である。実はこのところ倦怠感が強く、仕事以外の外出が億劫でならないので、このような自分本位かつ利己的な動機でもなければなかなかライヴ観戦にも走れないのであった。当夜の演奏曲目をまず記しておく。
1.悲しみは Blues で
2.Over The Rainbow
3.大地の鼓動
4.I walk with my brothers & sisters
5.あの日のままで
6.君が気がかり
7.上を向いて歩こう
8.Whiskey River Blues
◆中入り◆
9.明日への航海
10.Come Together 〜 それでも Lucy は空に
11.ほろ酔い気分で
12.君想い唄おう
13.Everyday
14.迷走
15.Fender Bender Locomotion
16.Whistle Blues
★アンコール★
17.目覚めと喧噪
18.君の笑顔は
野澤享司は、5日鳥取、6日倉吉、7日笠岡と転戦した斉藤哲夫との山陰山陽ツアー3連戦を終えたばかりだったせいか、ステージ勘はバッチリだったようだ。店内の環境もよかったのであろう、抜群の集中力を見せてくれた。また、ふだんは収拾がつかなくなることの多いMCも、伏線−展開−オチという練り上げられた構成でしっかりと落として、まっとうに受けていた。これにはおどろいた。
今回特筆すべきこととしては、“白昼夢”所収の曲のリニューアル版が演奏されなかったことがまず挙げられるであろう。新たに付け加えられた過剰な説明やいいわけめいた言葉は聞きたくないと考えている人たちにとっては、よろこばしいことだったのではないか。
“ほろ酔い気分で”は、めったに演奏されない曲である。LP盤ではちょっと苦しそうに聞こえるヴォーカルも、今回のライヴでは巧みに処理していて落ち着いた味を出していた。なお、2年半前の観戦記(当時は“ですます体”だった)にはこのように記されている。ご参考まで。
“ほろ酔い気分で”は、“Kyoji-Travelin'”所収の曲です。ライブではあまり聴けない曲だと思います。音盤のほうでは、TOM
WAITS の“DRUNK ON THE MOON”を思わせるような jazzy な雰囲気(とりわけ鈴木慶一氏のピアノが渋い)に仕上がっていて、自分としてはえらく気に入っていますが、ギター1本の枯れた演奏も、またしみじみとした味わいがあって、いいものだなと思いました。(2002.04.13 高田馬場 GLASS ONION 報告者 K.T.)
後半に入って2曲目の“Come Together 〜 それでも Lucy は空に”、そして5曲目の“Everyday”は、いわゆる超絶技巧がみごとにハマり、キモチよく酔わせてくれた。最後までHALが出ない“Come
Together 〜 それでも Lucy は空に”もいいものだと思う。というか、ここで私見を述べてしまうと、HALなしのほうが好みである。HALにうらみがあるわけではないが、聴覚がおかしくなって音がダブって聞こえていたころは耳の中にHALが常駐していたものだから、もうええわ、といいたいのだ。
ところで、ライヴを観戦していたMS氏は、昼間は眩暈がして危険な状態だったのにライヴで生の演奏を聞いたら回復してしまった、とのことであった。野澤享司の演奏の功徳、まことにありがたいかぎりである。そればかりではない。これは他人事ではなかった。ここしばらく続いていた倦怠感も、気がついてみればどこかに吹っ飛んでいて、実に爽快ではないか。野澤享司の演奏は、眩暈と倦怠に効くのでございます。